今回はオリキャラが沢山。
楽しんでいただけると嬉しいです。
甲高いアラーム音が部屋に響く。
「んぐ……」
頭の奥まで揺らすようなけたたましい音に、僕は目覚めた。
夢の世界から引っ張りあげるにはてきめんなそれを、手で探って止める。
ゆっくりとうつ伏せになっていた顔を上げ、瞼を上げた。
瞬間、カーテン越しの陽光に目を焼かれる。
「ふぁ……」
もう朝か……
ホーム画面を緩慢に見下ろすと、表示されている時刻は7時を過ぎた頃だった。
「……なんでこんな姿勢?」
いつも仰向けで寝るのに。
ええと、昨晩は確か……勇気を振り絞って、明石に連絡をして。
「あー、途中で寝落ちしたのか」
確かめるためにスマホのロックを解除すると、トーク画面が表示された。
「ぷっ、変なとこで止まってるわ」
昨晩の僕は何を打とうとしたのか、よくわからない文字の羅列が並んでる。
送られたなかったそのメッセージの代わりに、最後は明石の「おやすみ」の言葉があった。
「彩音ー? 起きたなら準備しなさーい」
「うーい」
さて、本格的に起きるか。
一念発起して布団から這い出る。
洗面所に行って顔を洗い、寝癖を整えて、部屋に戻り美月高校の制服に袖を通す。
「今日は……これかな」
クローゼットの中からパーカーを選定し、学校指定のシャツの上から羽織った。
その上にブレザーを着て完了。手ぶらで一階に降りていく。
「はよー」
「おはよう。すぐできるからお皿出しちゃってー」
「ほいほい」
「はいは一回」
「だからほいって答えたのに……」
「同じよ」
「へーい」
もう、と文句のように嘆息する母の背後に立ち、棚から食器を揃える。
「父さんは?」
「もう会社行ったわ」
「兄貴は」
「眠気覚ましに走ってくるって。おにぎり自分で握ってったみたいよ」
「相変わらずだね」
精力的な家族に感心しつつ、テキパキと朝飯の準備を整える。
ほどなくしてザ・日本食といったメニューがお盆の上に揃った。
「はいはい、テーブルに行った行った」
「はい二回言ってるじゃん」
「お母さんはいーの」
なんだそりゃ。まあ見た目若いからそんなに違和感ないけど。
しぶしぶ、ってほどでもない気分で食卓につき、いざ朝の栄養摂取。
「んー、やっぱ朝は米だなー」
「それ毎朝言ってるわね」
「腹持ちが違うんだよ、腹持ちが」
「居眠りしないようにしなさいよ」
「へい」
僕は朝からちゃんと食うタイプだ。
熱心に勉強に打ち込んでるわけじゃないけど、しっかり食わんと普通に集中力が切れる。
そこらへん、明石はどうなんだろ?
「んー……今度聞いてみよ」
「何が?」
「なんでもない」
独り言はシャケと一緒に飲み込んどこう。
15分くらいで食べ終わると、食器を片付けて自室に戻る。
歯磨きを済ませ、今日の授業の教科書やノートがバッグに入ってることを確認。
それからちょっと音楽を聴いて時間を潰し、ヘッドホンを首にかけて再び部屋を出た。
「んじゃ、いってきまーす」
「いってらっしゃーい。気をつけるのよー」
扉越しにリビングから帰ってきた返事とテレビの音にはいはい、と小さく返事を呟く。
玄関でローファーを履き、いざ登校というところで外から扉が開けられた。
「ん、彩音。もう学校行くのか?」
「ああ。兄貴は……朝から暑苦しいな」
「ひどいな弟よ」
や、そんな汗だくで言われても。
顔はイケメンなんだけどなぁ……なんか、雰囲気ってか顔ってか、もう存在が暑苦しい。
そのくせ鈍いとこあるし。松山さん相変わらず苦労してそう。
「んじゃ、ちゃんとシャワー浴びなよ」
「おう、いってらっしゃい」
「んー」
兄貴とすれ違うように家を出る。
外は快晴だった。
気持ち良い青空に白雲が点在し、風もそこそこ気持ちいい。
ちょっと気分が良くなりつつ、スマホに繋げたヘッドホンを耳につけて歩き出した。
「〜♪」
流れるメロディーに合わせて鼻歌を口ずさむのは、もはや完全に癖になっている。
それ以外はぼんやりとした気持ちで、住宅街の景色とかすれ違う人とかを適当に眺める。
あ、野良猫が生垣から出てきた。あのおっさんは焦ってる。あっちは集団登校の小学生か?
そういや明石ってもう起きて──
「なーにぼうっとしちゃってんのさ」
「うおっふ」
背中にダイレクトアタック。変な声が漏れた。
ヘッドホンを外しながら、隣に並んできた下手人の顔を見る。
「おはよ、彩音」
「おはよう通り魔」
「言い方酷くね?」
「じゃあど突き魔?」
「嫌な通り魔だな」
「最終形態、張り手魔」
「おい、一気にショボくなった気がするぞ。てかよくスラスラ出てくるな」
「ノリだよ、ノリ」
なんなら脊髄反射で答えてる。
そんな、普通の男子高校生っぽい馬鹿なやりとりをしたのは僕のクラスメートで学友。
高身長、高スペック、高顔面偏差値と3K(?)揃った、どこぞの主人公みたいな男だ。
幼少から天才ピアニスト少年として世界的に有名、かつ性格もいい。当然学校の人気者である。
「で、なんだか今日は機嫌良さそうじゃん? いいことあった?」
「そういうとこよ、お前」
「何が」
「なんでもない。機嫌良さそうに見える?」
「うん。モアイ像からシーサーくらいには見違えた」
「凄まじい例え方だな」
そんなに僕の顔は無か。無なのか。
「んー、まあちょっとね」
「そっかー。ここ数日そんな感じだし……はっ、まさか彩音にも春が!」
「いつでも満開のやつが何を言うか」
嫌味かこのやろう、と肘で脇腹を抉る。
痛い痛い、と笑う顔さえも爽やかだった。やっぱり人間調整ミスってると思う。
「ほら、俺はあの方に心を捧げてるから。深窓の女神の敬虔な信者だから」
「朝から目がキラッキラだな。自分の名前に合わせてるのか?」
金色に近い茶髪でその目だと、輝きすぎてちょっと鬱陶しい。
何でも輝のやつは、小さい頃に参加したコンクールで見た女の子のピアニストに心酔してるらしい。
完璧なんだけど、唯一この一点だけが残念極まりないんだよなぁ……
「で、結局どうなんだよ」
「んー、気が向いたらな」
「それじゃあ気が向くのを待ってるよ」
でも、そうか。
少し明石と連絡したくらいで、輝に言われるほど浮き足立ってるのか。
やっぱり、「特別」なんだろうな。
輝と与太話をしているうちに、学校に着く。
美月学校高等部。
大学までのエスカレーターも存在する、私立学校。偏差値は割と普通くらい。
創造性を育むってのがポリシーで、服装に関しての校則がわりかし緩め。
僕や輝が、こんな格好で学校に通えてる理由でもある。
「うおっ」
「どした。って、聞くまでもないか」
「ああ、そのようだ」
下駄箱から輝が取り出したるは、上履きでなく一通の便箋。
可愛らしくハートのシールで封をされたそれは、どっからどう見てもラブ的なレター。
「リア充め」
「いてっ、今日はエルボーが冴えてるな」
「で、どうすんの」
「まあ、行くだけ行くよ。でも俺は」
「はいはい、女神様の敬虔な信徒ね」
「ちょーい、流すなよ」
そりゃ毎朝のように聞いてるからね。
さっさと靴を履き替えて歩き出すと、「待て待て」と輝が追いかけてくる。
かかとを踏みつぶした上履きで駆けてきた輝が再び隣に並んだ。
「にしても、絶えないな。今月で何通目?」
「二通目。入学して数ヶ月しか経ってないのにな」
「それだけ女子から魅力的に見えるってことだろ」
「っ、まさか彩音がそんなこと言ってくれるなんて……っ!」
「まあ変態度でプラマイゼロだけど」
「上げて落とすんかーい!」
ベシッ、と胸に突っ込み一発。
「いい力加減だ」
「ええ〜、褒めてくれるのそこなの?」
「まあね」
がっくりと肩を落とす輝にちょっと笑いながら、到着した教室のドアを開けた。
「はよーっす」
「おはよう」
「あ、水瀬くんと新星くんだ」
「おはよー」
「水瀬、あの曲聞いたぞー」
「おー、良かったでしょ?」
「おう、マジでマジで」
「新星、今日も輝いてるな」
「はは、そうかな」
クラスメイトと雑談しつつ、席に荷物を置く。
ふう、と息をひとつ。ここまで来てようやく登校終了って感じだ。
「あの、水瀬くん」
後ろからの声に振り替える。
そこでは男にしてはやや髪が長めのやつが曖昧に笑っていた。
「ミナ、おはよ」
「おはよう。今日もいい天気だね」
「だな。今日はメガネを猫に破壊されなかったか?」
「いや、いつもされてないから……」
だよな、と答えるとミナも苦笑いする。
普段は物静かなやつだけど、見かけによらず運動が得意だったりする学友だ。
ちなみに眼鏡を取るとすごいらしい。何がかは知らないけど。
「おはよっすミナ。今日も眼鏡してるね!」
「いや新星くん、眼鏡してるって何よ」
「それはほら、今日も眼鏡が凄みを放ってるね、的な?」
「僕の眼鏡はスパイ仕様か何かなのかな?」
あと、結構いいツッコミをする。
「それより聞いてくれよミナ、なんか彩音がいいことあったんだってさ」
「え、そうなの? それは良かったね」
「なのに教えてくれないんだぞ? 薄情じゃないか?」
「うーん、人に話すのは恥ずかしいことってあるしね」
「それってやっぱり、恋愛系?」
「揃ってこっちを見ないで」
輝は鬱陶しいからそのキラキラを納めてくれ。ミナも眼鏡を光らせてるんじゃない。
「えっ、水瀬くんが恋愛!?」
「あの『一年B組のモアイ像』こと水瀬が恋愛?」
「何それ、気になるんですけどー」
「ちょっと待てクラスメート一同、そのあだ名はなんだ」
そんなに僕をモアイ像にしたいのか? 表情筋が神秘の石像レベルなのか?
あはは、と軽く笑うクラスメート達を恨めしげに見ていると、輝が自分の顔を指差した。
「ちなみに命名したの、俺な」
「ようし輝、そこを動くな。ちょっと教科書をテープでまとめて補強するから」
「鈍器にするつもりか!?」
一発KOしてやるこのエセ王子め。
いざバックの中身を取り出そうというその瞬間、ガラリと扉を開ける音がした。
普通に開けるよりも大きいその音に、僕も他の教室内の面々もそちらを見る。
そこにいたのは、一言で言うとイケメン。
片膝を若干立て、扉に伸ばした右腕をかけながら、なぜか絵画のように体を横向きにしている。
そして、閉じていた目を見開くと、無駄にいい横顔で一言。
「ふっ……私が登校した」
甘いマスクから放たれたそのセリフに、僕達は──
「あ、残念な人が来た」
「残念イケメン代表が来た」
「よっ、千条! 今日も残念さが引き立ってるな!」
「酷くないかな!?」
一瞬でイケメンはどこかへと消えた。
全身でオーバーリアクションをするも、皆おかしそうに笑っている。
その生暖かい反応にがっくりと肩も頭も落とし、彼は僕達のところへとやってきた。
「何故だ……何故いつもこのような反応をされるのだ。私は完璧だというのに」
「そういう残念なところだと思うよ」
「いじられキャラの宿命を背負ってるからじゃね?」
「あ、あはは……」
「君達までもっ!」
オーマイガー! などと頭を振り上げる。相変わらず面白いやつだ。
中性的に整った顔立ちと、身長の割にすらりとしたシルエットだけを見れば優良物件。
その実、自信過剰と芸人のごときオーバーリアクションを兼ね備えたギャグキャラのような男だ。
ナルシスト残念芸人イケメンとか、僕の友達の中でも群を抜いてキャラが濃い。
「まあ、元気出せって。お前は十分魅力的だ」
「ほ、本当かい輝?」
「ああ、僕もそう思う」
「そう、だね。クラスのみんな、千条くんのこと好いてると思うよ」
「ふっ! やはり私は完璧で素晴らしい──」
「「「ネタキャラとして」」」
「上げて落とすな貴様らァっ!」
そういう煽りやすいとこが一番の原因だと思う。
とまあ、学友達は普通な僕に比べて、なんとも個性派なわけだ。
「なあ、あの顔何考えてると思う?」
「自分は普通だな、とかじゃない? いつも通り」
「ふっ、自覚がないとは甚だ悲しいやつだな」
普段からこの四人でつるんでいるけど、僕だけ没個性だよなぁ。
なんて、そんなわりと失礼なことを学友達に思いながらもHR開始まで雑談する。
さて。今日も一日頑張ろう。
次回はこの四人組から始まります。
読んでいただき、ありがとうございます。