D4DJ〜Uniquee Mix!!〜   作:熊0803

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お久しぶりにこちらも更新。

アニメ見ながら書いたので時間かかりましたとさ。

楽しんでいただけると嬉しいです。


Sixth Unique

 

 趣味ってのは、種類によってはお金がかかる。

 

 

 

 例えばスポーツの類なら、専用の道具や衣服などに多額のお金がかかる。

 

 ゲームの類でも購入にお金がかかるし、追加コンテンツなんてものにもお金がかかるだろう。

 

 それらと同様、僕もそれなりに金のかかる趣味がある。

 

 

 

 

 アルバムはそれなりの値段がするし、動画配信サイトの月額払いもあれば、輝達と遊びにもいく。

 

 すると必然的に稼ぐ必要があるわけだが、学生なら主に親からのお小遣いか、バイトをするかだろう。

 

 そして僕は、後者の人間である。

 

「はよーございまーす」

 

 ヘッドホンを外しながら、その店の扉を開ける。

 

 ドアに取り付けられたベルがからんと小気味良い音を立て、カウンターの中にいた人物が振り向いた。

 

「おや彩音くん、おはよう。今日も元気そうだね」

「うす。柳人(りゅうじん)さんも普段通りっぽいっすね」

「はは、おかげさまでね」

 

 柔和な笑みを浮かべる、温和そうな雰囲気の男性。

 

 小舟(こふね) 柳人(りゅうじん)。この喫茶店「バイナル」のマスターであり、僕の雇用主。

 

 最初に面接に来た時から変わらない、人好きのする雰囲気に、年上にも関わらず僕も自然と会話できる。

 

愛莉(あいり)さんは?」

「今は休憩中だよ。更衣室は空いてるから、着替えてきてね」

「わかりました」

 

 カウンターの中に入ると、奥の扉から更衣室に向かう。

 

 

 

 個人営業であるこの店の更衣室は、それなりの私物に溢れている。

 

 店長のコレクションであるレコード盤のアルバムの一部や、貴重らしいコーヒー豆入りの瓶。

 

 はたまた、僕の他にもう一人いる従業員(彼女は正式に雇用されてる人)の私物だったり。

 

 そんな温かみのある部屋の一角、映画グッズのマグネット式シールがいくつか貼られたロッカーが僕のものだ。

 

「うぇ、さむっ」

 

 服を脱いだ途端、肌を撫でる部屋の温度に体を震わせる。

 

 そろそろ六月末になろうかという時期だけど、まだ服が鬱陶しくなるほど暑いわけでもない。

 

 

 

 

 手早くマスターとよく似た格好に着替えると、ロッカーに入れてあるワックスで髪型を整える。

 

 長い前髪を上げ、ワックスと一緒に荷物をロッカーに押し込んで更衣室を出た。

 

 カウンターに出ると、店内に流れるレトロな旋律がするりと耳に入り込んできた。

 

「来たね。出勤のチェックは済ませたかい?」

「はい。それで、今どうなってます?」

「一番テーブルと四番テーブルからご注文がきてるよ。早速だが手を洗ってから調理をしてくれ」

「了解です」

 

 情報をもらって早々、意識を仕事に切り替えて動き出す。

 

 よく手を清潔にすると袖をまくり、注文票を確認するとフライパンを手に取った。

 

「オムライス二つと……こっちはハンバーグセットね。よし」

 

 卵料理は店のメニューでも得意な方だ。頑張ろうじゃないか。

 

 気合一発、普段よりもやる気を十分に卵を割った。

 

 

 

 自慢じゃないけど、僕はバイト先のメニューにある料理ならそれなりの腕前だと思う。

 

 他人に出すものなのだから一定以上の出来じゃないといけないのだけど、結構頑張った。

 

 バイナルで働き出してから一年と数ヶ月、今では普通に調理を任せてもらえるようにもなっている。

 

「…………」

 

 慎重に目を凝らし、フライパンの上にかき混ぜた卵を広げていく。

 

 肉が焼けるのとは違う音。それをよく聞きつつ、焦げないように注意しながら手首を動かす。

 

 全体の厚みを均一に。かつフライパンに面している側が固まらないように。

 

 程よく全体が固形化してきたところで、火の上からフライパンを退けた。

 

 あらかじめ皿の上にセットしておいたライスの上に、布団を被せるように乗せる。

 

 破れたり、穴が開いたりしないよう細心の注意を払って、端までゆっくり被せた。

 

 安堵しつつも手を動かし、ケチャップをかけて野菜を盛りつければ完成。

 

 同じ工程をもう一度繰り返す。

 

「よし。次はこっちだ」

「あ、タネは作っておいたよ。いつもの所」

「ありがとうございます」

 

 冷蔵庫からいくつかストックしているタネを取り出し、そちらも調理する。

 

 フライパンの上で音を立てながら肉汁を寝させる肉塊は、人気メニューだけあって非常に美味しそうだ。

 

 

 

 

 数分ほどでハンバーグも完成。

 

 オムライスが冷める前に素早くハンバーグセットを作り上げ、トレイに乗せる。

 

「一番と四番上がりました。あとコーヒーお願いします」

「はい。よし、これで完成。大丈夫だからそのまま持って行ってくれ」

「うす」

 

 チェックを済ませてもらうと、それぞれの料理を注文主の元へと運んだ。

 

「それでさー」

「えーホントぉ?」

「お待たせしました。オムライスがお二つでございます」

 

 なにやら話し込んでいる女性客二人へ、大きすぎず小さすぎずの声を意識し声を掛ける。

 

 ほぼ同時に反応した二人は、僕のことを見上げて何故か少しぽかんとした。

 

「お料理、失礼します」

「あ、はい」

「ありがとう、ございます」

「ごゆっくりどうぞ」

 

 なにやらポケーッとしているお客に軽く頭を下げ、もう一つのテーブルにも料理を運ぶ。

 

 それが終わると店内を見渡し、片付ける場所や会計待ちのお客がいないか確認してからカウンターに戻った。

 

「ふぅ。今日は比較的空いてるな」

「お疲れ様。入ってすぐに調理だったけど、相変わらず手際がいいね」

「マスターや愛莉さんほどじゃないっすよ」

 

 まだ美味しいコーヒーは作れないしね。

 

 まだまだ勉強中です、なんて話しつつ、ふと出入り口のドアの向こうを見る。

 

「雨、強いねえ」

「っすね」

 

 帰り際に降ってきたけど、この調子だとまだまだ止まなそうだ。

 

 天気予報もバカにならない。今日は少し厚手のパーカーにして正解だった。

 

「帰りは平気なのかい? 傘は持ってなかったけど」

「折り畳み傘持ってきてるんで」

「あら。流石に用意がいいわね」

 

 む、この声は。

 

 振り返ると、そこには暗めの赤色に髪を染めた美人さんが。

 

 

 

 

 天野(あまの) 愛莉(あいり)さん。気さくで頼りがいのある素敵な先輩。

 

 マスターと同じくらいに色々と教えてくれたその人は、僕に向かってにこりと笑う。

 

「こんにちは彩音くん。今日も絶好調みたいね」

「まだ三品作っただけですよ」

 

 こっから学校や会社帰りの客が増えてきて、緩やかに忙しくなっていくのだ。

 

 まあ、今日に限っては雨だから客入りも少ないだろうけど。

 

 そんなことを考えていた矢先、新たに来店を告げるベルの音に三人で振り返る。

 

「お、学生さんのようだね」

「私が厨房を見ておくから、彩音くんお願い」

「うっす」

 

 念の為タオルを持ちつつ、カウンターを出る。

 

 その小柄な客に近付くと、陽葉の制服を着ていることがわかった。

 

 ああ、あの子か。

 

 小さく喉を鳴らして声を整え、僕はツインテールで吊り目なその客に話しかける。

 

「いらっしゃいませ、お客様。お洋服がお濡れでしたら、こちらのタオルをどうぞ」

 

 傘立てに傘を置いていたその子は、少し驚いたのか肩を跳ねさせる。

 

 それからちょっと警戒心強めの目で見てきて、僕の顔を見ると寄った眉根を緩めた。

 

「平気よ。ありがと」

「そうですか。では、お好きなテーブルへどうぞ。後ほどお飲み物をお持ちします」

 

 小さく頷き、彼女は逃げるようにして近くの席へ行ってしまう。

 

 タオルをたたみ直しつつ、マスター達のところへ戻った。

 

「タオル要らなかったみたいっす」

「あらそう。……最近来る子ね、彼女」

「ですね。あっちも僕の顔少し見慣れたみたいっす」

 

 最初の頃より警戒されてないっぽい。まあ、別に親しいわけでもないけれども。

 

 ただ、明石と同じ学校という点で少し気にかかる彼女に、僕はいつものように手拭いと水を運んだ。

 

 

 

 

 それから一時間ほど、まばらに出ては入る客の為に黙々と料理を作る。

 

 時にはミックス系のジュースを作ったり、僕でも出来る簡単なコーヒーを淹れてみたり。

 

 マスターの選んだレコードが静かに流れ、それが良い具合に集中できて耳に心地良い。

 

「結構上手くなってきたんじゃない、コーヒー淹れるの?」

「そうですかね? マスターとかに比べるとまだまだな気がするんですけど」

「ふふ、若者にはまだまだ負けないよ」

 

 得意げな顔をするマスターに、愛莉さんと二人でくすりと笑う。

 

 そんな時、また来店の音がした。今日は丁度良いくらいのペースで客が来るな。

 

 

 

「あちゃー、急に降ってきたね」

「本当だねー」

 

 

 

 ……ん? あれ? 

 

「あの子達少し濡れてるみたい。ちょっと行ってくるわ」

「あ、はい」

 

 タオルを手に去る愛莉さんに、感じた疑問を飲み込みつつコーヒーを淹れる。

 

 ただ、意識の一部は今しがたやってきた客へと向けられていた。

 

「いらっしゃい。大変だったわね、タオル使う?」

「あ、いえ、大丈夫です」

「滑り込みセーフでしたから!」

「ふふ、そう」

 

 どうやら今度の客は二人組らしい。

 

 入り口から距離があるけど、そのうちの一人の声にとても聞き覚えがあるような気がした。

 

 さっきよりも意識の傾きが大きくなりつつも、手元が狂わないよう目だけは離さない。

 

「じゃ、お好きな席にどうぞ」

「わあ……いい雰囲気のお店だね!」

「うん。これまで前を通っただけで入らなかったんだけどね」

 

 よし、淹れられた。これはちょっといい出来かもしれない。

 

 マスターに確かめてもらい、オーケーをもらうとソーサーに乗せ、スプーンを付けて運ぶ。

 

「お待たせしました、ブレンドコーヒーです」

「ありがとう」

 

 スーツ姿の中年男性に軽く会釈し、また戻る。

 

 その道すがら、なんとなしに先程の二人組が座った入り口近くの席を見て──

 

 

 

 明るい髪色の女の子と一緒にいる明石を見つけたぁっ!? 

 

 

 

「っだ!?」

 

 い、いってぇ……! よそ見してたら机の角に太ももぶつかった……! 

 

 割と大きな音が立って、けれど太ももを抉るように突き刺さった痛みに僕はその場で悶える。

 

 周囲から目線が集まってくるのが分かった。

 

 これはまずいとぶつけた部分を緩く握った拳で叩き、背筋を正すと無理矢理笑う。

 

「し、失礼しました〜」

 

 愛想笑いをしつつ、僕はまたその席を見てみる。

 

 明石とガッツリ目があった。めっちゃ驚いた顔で僕のことを凝視してた。

 

 いやはっず。よりによって今の見られてたとか、はっっっず!! 

 

 

 

 

 やべえ、軽く死にたい気分になった。

 

 とはいえ見られてしまった以上、もう仕方がないので足早に近づいていく。

 

 何故か隣の席で頭を隠してるツインテールの横を通り過ぎ、明石達の前に立った。

 

「……よっす」

「み、水瀬!? ここでバイトしてるの!?」

「まあな」

 

 妙なむず痒さが背中を這い回る。

 

 知り合いにバイト中の姿を見られるって、なんだか恥ずかしい。

 

「そっかー。そういえば前に喫茶店で働こうか迷ってる、みたいな話してたよね」

「喫茶店ってのは、店内用のBGMに良い音楽が揃ってるからね。ここのマスターはセンス良くてさ」

「なるほどね。水瀬らしいや。結構印象違うね?」

「まあ、流石にバイト中はね」

 

 接客業である以上はモアイ像じゃいられない。営業用の態度も身につくというものだ。

 

 なにそれ、柔らかく笑う明石。実際に顔を合わせたのは久しぶりだけど、相変わらず良い笑顔だ。

 

「真秀ちゃん、真秀ちゃん」

「ん?」

 

 そこでもう一人の方が声を上げる。

 

 そちらを見ると、明石に負けず劣らずのどえらい美少女がいた。

 

 鮮やかな金髪に赤い瞳、透き通るような白い肌。二次元的な可愛さだ。

 

 そんな彼女は、親しげに話す僕と明石を交互に見て首を傾げる。

 

「この人、誰? 真秀ちゃんのお友達?」

「うん、そう。中学の時のクラスメイトでね、水瀬っていうの。あ、水瀬、こっちは愛本りんく。ほら、前に話したDJの……」

「ああ、押しの強い転校生」

「えーっ、そんな紹介してたの?」

「ごめんごめん、あの時はりんくの勢いに気圧されてたからさ」

「もー……でもそうだよね、まずは自己紹介から!」

 

 椅子の上でこちらに体ごと向き直り、その子は溌剌とした表情でこちらを見上げる。

 

「愛本りんくです! 真秀ちゃんと一緒にDJをやり始めました! よろしくね、水瀬くん!」

「僕は水瀬彩音。美月高校に通ってて、ここの従業員。マスターのコーヒーはかなり美味しいから、今後ともよろしく」

「うん! あっ、じゃあじゃあ早速注文いいですか!」

「喜んで」

 

 明るい子だな。いかにも元気一直線って感じで、面倒見の良い明石は放っておけなさそう。

 

 そんなことを考えながら二人から飲み物の注文を取り、僕は今度こそカウンターに戻る。

 

「ミックスジュースとオレンジジュース一つずつです」

「了解。あの子達と知り合いだったのかい?」

「随分親しげだったわね」

「ていうか、片っぽですね。ほらあの、後ろ髪メッシュの子」

 

 明石を目線で示せば、ほうほうと頷く柳人さんと愛莉さん。

 

 それから二人は、何故かニヤリと僕に向けて笑ってきた。

 

「なるほどねー。前に話してた、中学時代仲良かった子っていうのはあの子か」

「え……あー、そういや昔言いましたっけ」

「ああ、中々可愛らしい子じゃないか」

「まあ、そうっすね」

 

 なんなら学年一可愛かったまである、なんてことは心の中でだけ言っておく。

 

 

 

 

 

 しかし、僕の内心を見透かしたように微笑ましく笑う二人に、なんともむず痒くなった。

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

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