D4DJ〜Uniquee Mix!!〜   作:熊0803

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Eighth Uniqe

 

 

 

 

 

 

「それで弟が、どうしてもカレーがいい! って意地になっちゃってさ」

「あー、わかる。唐突に食べたくなるんだよな」

 

 放課後。

 

 いつもみたいに、明石とたわいもない話をしていた。

 

 窓の外から蝉の声だけが響く教室の中は、ジリジリとした熱気に包まれている。

 

 普段は鬱陶しいそれが、不思議と今は気にならない。

 

「それにしても、明石は料理も得意なんだな」

「下の子が多いと、自然とね」

 

 なるほど、だから面倒見がいいのか。

 

 普段の様子を見ていても、世話焼き癖があることは分かっていたけど。

 

 長女は責任感が強くなるというのは、明石も該当しているらしい。

 

「そう言う水瀬は?」

「僕はそこそこ。洗濯とか掃除はできるけど……」

「料理は苦手?」

「というより、あんまりしないかな。時々、兄貴と一緒に作るけど」

 

 母さんが家にいない時は、兄さんとドカ盛りチャーハンを拵えたりする。

 

 腹は膨れるけれど、お世辞にもあれを料理とは言えまい。

 

「あれは男飯だろうね。料理系の映画とか観てると、ちょっと気になるけど」

「ふぅん……料理本貸そうか?」

「気が向いたら頼む」

「オッケー」

 

 明石が答えたところで、ガラリと戸を開く音がした。

 

 彼女と同時に、反射的にそちらを振り向く。

 

 こんな時間に、一体誰だろうか。

 

 忘れ物をしたクラスメイトか、はたまた見回りの警備員さん……

 

「おっ、いたいた」

「新星」

 

 現れたのはイケメンだった。

 

 最近友達になった同級生が、僕の姿を視線の内に捉えて笑う。

 

 人懐こいその笑顔は、端的に新星の性格を表していた。

 

「よっ、水瀬。待たせたな」

「別にいいよ。ピアノの練習はもういいの?」

「ああ。今日も好調……っと」

 

 会話を続けようとした新星は、そこで言葉を止める。

 

 

 

 

 

 はて、何事だろうかと首を傾げた。

 

 そして新星の視線を追うと……ちょっと気まずそうにしている明石がいた。

 

「ごめん明石、置いてけぼりで話し始めて」

「ううん、それはいいけど……待ってた友達って、新星君?」

 

 名前は知っていたらしい。まあ、有名人だしね。

 

「うん。一応紹介するよ。新星輝、最近仲良くなったんだ」

 

 な? とアイコンタクトを送る。

 

 空気を察して押し黙っていた新星は、すぐに気付いて気さくに笑った。

 

「よっす。近頃、水瀬と友達になった新星だ」

「あ、うん。よろしく。私は明石真秀」

「明石さんね。よろしく」

 

 一通り自己紹介をし合い、それから新星はこちらに目を向けた。

 

 言わんとするところを察した。傍らに置いていたリュックサックを手に取り、立ち上がる。

 

「じゃあ、僕はこれで。明石は帰る?」

「うん、もう少ししたら。またね、水瀬」

「また明日」

 

 別れの挨拶を済ませて、僕は新星の方へ行った。

 

 彼も明石へにこやかに手を振り、そうして二人で教室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 廊下に出た途端、一層蒸し暑さが増して辟易とした。

 

 さっきまで全然意識してなかったのに、いきなりムワッときたなぁ。

 

「水瀬、よかったのか?」

「何が?」

「明石さんだよ。俺との寄り道なんて、今度でよかったのに」

「最近コンクールに向けての練習で、根を詰めてるから気晴らししたいって自分で言ったじゃないか」

 

 だから今日も、こんな時間まで学校で練習をしていたんだし。

 

 それに、前に普段から人に囲まれていて少し大変だと言っていた。

 

 そりゃ明石のと話すのは楽しいけど、大事な約束をすっぽかしはしない。

 

「まぁ、気分転換に付き合うくらいさせてよ」

「……なんていうか、お前って凄いな」

「何が?」

「誰にでも分け隔てないっていうかさ」

「普通のことでしょ」

 

 先約してたのに、それを破るのは最低だろう。

 

 人より優しいつもりはないけれど、かといって特別なことだとは思わない。

 

 せっかく仲良くしてくれようとしているんだから、僕も相応の態度を取らなくては。

 

「そんなこと聞くってことは、昔何かあったのか?」

「あー、うん……ちょっとな」

「そっか。とりあえず、今日は楽しもう」

「……おう!」

 

 なんだか少し呆気に取られたような顔をしていた新星は、快活に笑った。

 

 うむ、イケメンの屈託ない笑顔ほど眩しいものはない。目が潰れそう。

 

 

 

 

 

 益体もないことを考えながら歩いていると、不意に新星がニヤリとした。

 

「それはそうと、水瀬も隅に置けないな」

「何のことだよ」

「決まってるだろ、明石さんだよ。あんなに可愛い子を彼女にするなんてやるじゃないか」

 

 ほれほれ、と肘で軽く脇腹を突いてくる。

 

 こいつ、なにやらとても素晴らしい勘違いをしているようだ。

 

「違うよ。ただの友達。僕みたいな普通のやつ、明石と釣り合うわけないだろ」

「そうかあ? 俺にはお似合いに見えたけどなぁ」

「何かの贔屓目入ってない?」

「いやいや、正直な気持ちだよ。ていうか、結構噂になってるぞ?」

「は?」

 

 噂? 誰が誰に? え、僕? 

 

 あまりに信じ難い話に唖然としていると、新星は楽しそうに微笑んだ。

 

 それから新星は、あることを僕に教えてくる。

 

「水瀬は知らないみたいだけどさ、明石って結構人気あるんだ。可愛いし、文武両道だし、何より男女分け隔てなく優しいからね」

「……言われてみれば」

 

 確かに、あんなに色々と優れている明石が好かれていない訳がない。

 

 僕みたいな普通のやつにも、あんな風に接してくれるんだ。そりゃ人気だよな。

 

「……最近、クラスメイトの目が若干尖ってる理由がやっとわかったよ」

「ははっ、頑張れよ」

 

 軽く肩を叩かれて、僕は自分の顔がやや苦笑気味になるのを実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 …………なんだろう。少し、胸がもやっとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 今日も今日とて、バイトに勤しむ。

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は七時半過ぎ。あと一時間もすれば今日のシフトは終わりだ。

 

 金曜日ということもあり、今日は中々忙しかった。

 

 既にピークは過ぎて、ようやく一息つけたところだ。

 

「ふぅ……」

「お疲れ様、彩音君。今週も盛況だったわね」

「っすね。愛莉さんもお疲れ様です」

「ありがと♪」

 

 今日が終われば週末、もうひと頑張りだ。

 

 そう思った矢先、ドアのベルが鳴る音が新たな来客を告げる。

 

 反射的に振り向いて、入ってきた人物の顔を見た途端に僕は脱力した。

 

「よっ、彩音。お疲れさん」

「輝。久しぶり、そっちこそお疲れ様」

 

 相変わらずの笑顔で挨拶をした親友は、そのままカウンター席までやってくる。

 

 僕の眼前の席に腰を落ち着けると、ふぅと珍しく深いため息をついた。

 

 ピアノ関係の公欠で数日ぶりに顔を見たけれど、お疲れのようだ。

 

「コンクールの結果は?」

「一位だったよ。あ、コーヒーを一杯」

「はいよ」

 

 何でもないように凄い結果を口にした彼に、返事を一つ。

 

 手早くコーヒーを作る準備を整え、豆に熱湯を垂らしてていく。

 

 のを描くように、タイミングと速度に気をつけて……よし。

 

 慎重に作り上げたそれを、今度はカップ一杯に満たして、いよいよ完成だ。

 

「はい、出来立て。シロップとミルクは一つずつでよかったよね」

「サンキュー」

 

 ……さて。緊張の瞬間である。

 

 輝がカップを手に取り、口に運ぶまで一時も見逃さないかのように注視する。

 

 ドキドキと少し早まる鼓動の音を聞きながら、その光景を見つめて──

 

「……ん、美味い。前より上手になってるな」

「……そっか」

 

 笑顔での感想に、ほっとする。

 

 こういう時の輝は割と遠慮なく言ってくれるから、その分真実性が高い。

 

 まあ、常連で親友だからと毎度味見をしてもらっているのも何だけれど。

 

「やけに気合入ってるじゃん。なんかあったか?」

「別に。お客様に不味いものを出すわけにもいかないだろ」

「本当にそれだけか〜?」

 

 ええい、ニヤニヤしやがって。

 

 まるで先日のことを見透かされているかのようなニヤケ面に、僕は目を逸らす。

 

 それがより一層何かを感じさせたようで、輝の楽しげな顔は変わらない。

 

 むう、失敗したか。

 

「んんっ。それよりも、今回は見つかったのか? 例の女神様」

 

 我ながら若干わざとらしいが、話題を逸らしてみる。

 

「いや、今回もいなかった。女子の部にも総合にも出てなかったな」

「結構規模が大きいコンクールって言ってたよね。それも出ないとなると、引退したのかな?」

「しばらく噂も聞かないし、休養しているのかもなぁ」

 

 珍しく表情を曇らせて、輝は不安げに声を落とす。

 

 こいつも一途だなぁ。

 

 普段は冗談で言っているように見せかけてるけれど、並大抵の熱意じゃない。

 

 かといって、何かしたいのかと訊けば、そういうわけじゃないらしいのだが。

 

「あの人の演奏を聞けなくて、テンション下がったぜ」

「それでも総合一位なんだから、ライバル達は涙目だろうね」

「まっ、男としちゃトップは目指さなきゃな」

「はいはい、かっこいいかっこいい」

 

 本当、鎬を削ったはずの参加者達には同情する。

 

 それでも憎めないのは、さっぱりとした性格が影響しているのだろう。

 

「で。彩音くんは誰かさんの一番になれそうなのかな?」

 

 だが、間髪入れず差し込まれた揶揄いの言葉に動きを止めてしまった。

 

「…………何の話?」

「おいおい、人に聞いておいてそれはフェアじゃないぜ?」

「大人しく誤魔化されてればいいものを……」

 

 ただでは転ばない男め。

 

 

 

 

 

 どう答えようかと逡巡していた時、ベルの音が鳴った。

 

 どうやら来客のようだ。

 

 これ幸いとそちらに意識を向けて──僕は硬直した。

 

「あら、いらっしゃい」

「こ、こんばんは〜……」

 

 にこやかに声をかけた愛莉さんに向けて、彼女は少しよそよそしく返事をする。

 

 ………………なんで、こんな時間に明石がバイナルに。

 

「噂をすれば、お姫様の登場か」

「……輝、うるさい」

「おっと、失礼」

 

 若干腹立たしいが、今は気にしないことにする。

 

 それよりも明石に意識を向けていると、勘付いたのかこっちを見た。

 

 一瞬動きを止めたが、その後に少しぎこちない笑顔で手を振ってくる。

 

「……っ」

「うわ、分かりやすい顔」

「何がだよ」

 

 別に、と言いながらコーヒーを啜る輝。

 

 

 

(こいつ、ちょっとニヤついてるの自覚してないのな)

 

 

 

 何のことだかと思っているうちに、明石がカウンターの方に来た。

 

 少しして輝に気がつき、驚いた顔をする。

 

 それで足を止めかけたけれど、結局場所を変えることはなく、一つ席を開けて座った。

 

「やっほ、水瀬」

「明石。こんな時間にどうしたの? まだ制服だけど」

「実は今日もパフォーマンスやってさ。反省会した後に次のセトリ考えてたら、こんな時間になっちゃって」

「ああ、そういうことね」

 

 家に帰るよりも、バイナル(ここ)で済ませた方が早いって考えたのね。

 

 そのうちまたとは言っていたけど……こんなに早いとは。

 

「それに……」

「それに?」

「コーヒー。奢ってくれるんでしょ?」

 

 ちょっと悪戯げに笑った明石に、僕はちょっと心臓が跳ねて。

 

 けれど、覚えていてくれたことが少し嬉しかった。

 

「そうだね。約束だから、僕にできるとびきりのを作るよ」

「お願いね」

「ブラックで平気?」

「あ、ちょっと甘めでお願い」

「了解」

 

 さっきの残りは他の席のオーダーに持って行ったみたいだし、作り直すとしよう。

 

「少し待ってて」

「うん」

 

 一言断って、僕は豆を取りに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ……気合入れよ。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 水瀬が奥に行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 遠ざかるその背中を、じっと見つめる。

 

 バイトをしている時の水瀬は、私の知るどの彼とも違っていた。

 

 キリッとしていて、それなのに普段はちょっと気だるげな雰囲気も柔らかい。

 

 準備室でパソコンと睨めっこしていた時、ふとあの姿が脳裏に浮かんで……

 

「もしかして、あいつに見惚れてる?」

「っ!? あっ、いや、違くて!」

「ははっ、冗談だよ」

 

 慌てて否定すると、小さな笑い声が返ってきた。

 

 隣を見れば、顔見知りの男の子が悪戯げな顔をしている。

 

「新星君……だよね?」

「ああ。久しぶり、明石さん」

 

 やっぱり、新星君だ。

 

 中学の時、水瀬と一番仲が良かったように見えた男の子。

 

 かなり女子に人気があって、前から名前は知っていた。

 

 けど、話すようになったのは水瀬と知り合ってからだった。

 

「この店にいるってことは、今も水瀬とは仲良いんだ?」

「俺も月高だしな。あいつとは変わらずだ。そう言う明石さんこそ、ドラマみたいな再会したって聞いたよ?」

「ど、ドラマみたいって……そこまでじゃないよ」

 

 確かに、劇的な再会って言えばそれっぽかったけどさ。

 

「でも、話したんだ。あの時のこと。水瀬って結構恥ずかしがり屋なのに」

「詳しいことは、多少誘導尋問してな。いきなり様子が変わったから、気が付いたのはすぐだったけど」

「へえ……」

 

 ……水瀬、私と再会してそんなに普段と違う感じだったんだ。

 

 ふーん、へー、ほぉん。

 

 まあ、だからと言って、別に何もないけど? 

 

「……ふふっ」

 

 

 

(あいつと似たような顔してやんの。あーあ、まだシロップ入れてないのにコーヒーが甘い)

 

 

 

 って、いけない。

 

 特に変わったことはないはずなのに、ちょっと緩んだ口元を直す。

 

「で、どうよ。彩音と交流を再会して。上手くやれてる?」

「多分、大丈夫だと思う。水瀬も、昔みたいに接してくれてるし……」

「昔みたいにねぇ」

 

 そう。まるで中学時代、毎日笑顔を交わしたあの時と同じように。

 

 

 

 

 

 

 学校が違うから、滅多に会うことはできない。

 

 けれど、電話越しに声を聞いたり、こうして時折顔を合わせると、そう思える。

 

「まあ、ああやってコーヒー準備してるのを見ると、問題ないってのは分かるよ」

「水瀬、昔よりも色々できるようになってるんだね」

「ああ」

 

 頷いた新星くんは、そこで何かを思いついたような顔をする。

 

 手招きされて体を傾けると、小声であることを教えてくれた。

 

「実はここだけの話、さっき俺がコーヒー美味いって言ったらホッとしたんだよ。多分、明石さんと約束したから練習したんじゃないかと思ってる」

「っ!? そ、そんなこと……ある、かな?」

「さあな。だけど、きっと今本気でやってるぜ」

 

 そう言われて、また水瀬のことを見てしまった。

 

 確かに、準備をしている彼の横顔は真剣で。

 

 どこか、グッと引き寄せられるものに胸の辺りが──

 

「明石さん?」

「っ、えっ、な、何? どうかした?」

「……いや、なんでも」

 

 一瞬、何かを考えるような顔をした新星君はすぐに目を伏せさせた。

 

 そして、またコーヒーを一口啜ってから、私に視線を戻す。

 

「明石さん。君も知っていると思うけど、水瀬はいいやつだ」

「っ……」

 

 

 

 ──その時の彼の顔は、これまでになく真剣なものだった。

 

 

 

「でも、不器用なところがあって、表に出せなくて誤解されることもある」

 

 それは……確かにそうかもしれない。

 

 中学の時、二人きりの時だけではなく、普段も話すようになってからの頃を思い出す。

 

 男女問わず、クラスメイトからは少し嫌な勘ぐりもされていたんだ。

 

 

 

 

 

 暗いやつだとか、変なことはされていないのかとか。

 

 水瀬は結構鉄面皮だし、誰もが親しく接するのは少し難しい……それは分かってても少し悲しかった。

 

 だけど……そんな元同級生達に何か言う資格は、()()()()()()()

 

「だから、明石さんもちょっと嫌なふうに思う事があるかもしれない」

「そっ、そんなことないよ! さっきも言ったけど、前みたいに仲良いし!」

「──本当に?」

 

 間髪入れず聞き返してきた新星君に、何故か言葉が詰まった。

 

 彼の目には、少し複雑で、冷たい色がある。

 

 親友として水瀬のことを心配しているのか、はたまた私の心配をしてくれているのか。

 

 どちらかは分からないし、もしかしたら全然検討外れかもしれないけど……誤魔化しの効く雰囲気じゃなくて。

 

「…………大丈夫だよ、新星君」

 

 だから私は、自然とそう答えていた。

 

 深呼吸を一つ。

 

 それで引き腰になる心を落ち着けて、私は新星君を見る。

 

「水瀬がどういうやつかは、私もよく知ってるし。それに、もう二度と()()()()は繰り返したくない」

「……関わることで、また別の嫌なことが起こるかもしれないよ?」

「だとしても……私は水瀬との繋がりを、切ったりしない」

 

 我ながら、何の確証もない言葉。

 

 だけど、心からの自分への約束であるとそう言い切れる自信がある。

 

 その思いを込めて、試すような新星君の目を見返した。

 

「……そっか! ならいいんだけどさ」

 

 意外にもあっさりと、新星君はそう言ってパッと笑顔を浮かべた。

 

 それは拍子抜けしてしまうほどで、私は呆気にとられる。

 

「いや、ごめんごめん。思わず余計な口出ししちゃったよ」

「は、はぁ……」

「試すような真似をして悪かった。お詫びに夕飯代、俺が出すから好きなの頼みなよ」

「そ、そんな。別に怒ってるわけじゃないし」

「まあまあ、俺からの謝罪の気持ちってことで」

 

 な? と片目を瞑る新星君に、確かにこれはモテるなぁ、なんて思ってしまった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日だけお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「オッケー」

「二人して、何話してるんだ?」

 

 タイミングを見計らったように、水瀬が戻ってきていた。

 

 私は慌てて首を横に振り、不思議そうな顔をした彼は新星君を見る。

 

「再開を祝して、今日は俺が明石さんに晩飯奢るって話をな」

「いいのか?」

「モチ。その代わり、とびきり美味しいのを作ってあげろよ?」

「善処するよ……明石。お待たせ」

 

 目の前にそっとコーヒーが置かれる。

 

 そこでふと、新星君と話していたのがたったの数分であったことを自覚した。

 

 ミルク付きのそれは良い香りがしていて、まるでプロの人が作ったみたい。

 

「味は、美味しいとは保証しきれないけど。とりあえず、頑張ってみた」

「ありがとう、水瀬。じゃあ……いただきます」

 

 カップに手を伸ばして、少し緊張しながら持ち上げる。

 

 ブラックはあんまり得意じゃないけれど、なんとなく一口目はそのままで。

 

 妙に水瀬の存在が気になりながら、口元に持っていき……

 

「……あ、美味しい」

「……! そ、そっか。なら、良かった」

「うん。本当に美味しいよ、これ」

 

 前に他の喫茶店で飲んだコーヒーと比べても、全然劣っていない。

 

 水瀬が、本当に沢山練習したんだなと分かる……ような味だ。

 

「ありがとね、水瀬。あの時わざわざ誘ってくれて」

「いや。まあ、な」

 

 ちょっと照れくさそうに視線を逸らす水瀬は、表情とは裏腹にわかりやすかった。

 

 ……やっぱり、心地がいいなぁ。

 

 

 

 

 

 今度こそ。水瀬と、もっと仲良くなりたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
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