DRAGON QUEST ダイの大冒険-変異伝- 作:宮枝嘉助
あの後1年ぐらいした辺りで、突然周囲のモンスター達が大人しくなったという話を聞いた。
それを聞いた俺は最初、もう魔王ハドラーが勇者アバンに倒されてしまい、地底魔城の決戦への介入は無理だったのかと思ったんたが、ふと俺は気付いた。
前世の記憶を刷り込まれる前、魔王ハドラーが現れてモンスター達が凶暴化したという話は
ならば答えは1つ。
今は勇者アバンが凍れる
という事は、原作でいう本編開始までこの時点で後17年。
つまり、俺の最初の目標である地底魔城の決戦への介入まで後2年だ。
それまでにやらなきゃならない事をまとめてみる。
1.地底魔城に入れる強さを身に付ける。
2.パプニカ王国に入国出来るようにする。
3.アルキード王国から旅立てるようにする。
達成しないといけないのはこの3つだろうか。
順位が逆のように見えるかもしれないが、これは優先順位だ。
まずは地底魔城に入っても戦い抜けるであろう強さを身に付けない事には話にならない。
2と3は、ただ単にきちんと筋を通すのならって話で、最悪の場合は勝手に出入りするつもりだから達成出来なくても構わないんだけど。
それで1の進捗状況についてだが……。
修業する事に決めてからすぐ皆でアルキード城に行って呪文の契約をさせてもらった。
戦時中で少しでも戦力が欲しかったのか、思ってた以上にあっさりと契約させてくれた。
その契約の時に実感したんだが、ゴメ様が言ってた事はあながちデタラメじゃなかったのか、俺は本当に全ての呪文が契約出来た。
ちなみにアリスはメラ系とギラ系とイオ系と補助系と回復系はほぼ全部出来てたし、シーザーはヒャド系とバギ系は全部で他は極一部で、モーゼスは……不思議過ぎる。
ダメ元だったのもあるけど全員取り敢えず全部試したから偶然判ったんだけど、モーゼスはギガデインも含めて全部最上位呪文しか契約出来なかった。
いや最上位だけってどういう事よ、物語終盤で加入する即戦力キャラなの? 訳が分からないよ。
というか普通にライデインやギガデインの契約陣があったんだけど、どういう事なの? アレって伝説の呪文なのとちゃうの?
と思わず管理してる神官さんに訊いちゃったけど、逆にライデインやギガデインまで契約出来た事に驚かれただけだった。
……って、あ、そうか。そういえばダイはデルムリン島でブラス爺ちゃんに沢山の呪文を契約させられたって言ってたっけか。
その時も普通にライデインやギガデインまで契約出来たって事なんだろうな。
……あ〜……もしかしたらそれでブラス爺ちゃんはダイが凄い魔法使いになれると思って余計に期待しちゃったのかな?
にしても、人間である俺やモーゼスにデイン系の契約が出来た事自体が謎だ。
アレって
大体ブラス爺ちゃんもデイン系の契約陣知ってたって事になるけど、
……いや、逆に考えなきゃダメか。
だから将来自分と同類が再臨した時にデイン系が使えなきゃ困るから契約陣を世界中に残した。
そう考えた方が辻褄が合いそうだ。
それかそもそもの前提が間違ってるのか?
原作の印象だと
まあ、考えても答えが出る訳じゃないんだけどね、これもゴメ様が言う“変異”の影響なのかもしれんし。
本家ドラクエの勇者達の影響で、この世界でもただの人間がデイン系を契約出来るようになったっていう。
ん? 待てよ?
……って事は、もしかして──
「バギ! おお、これは……うう、く、くそっ、うわあっ! ダメか、いやでもこの感じは……」
もしかしたら魔法剣も出来るんじゃないかと思って試してみたけど、ダメだった。
ただ、何となく手応えを感じた。頑張って練習したら出来そうな気がする。
これもどうなんだろうな?
作中では
勇者アバンは両方使ってたけど同時には使ってなかった。
でもマァムの閃華裂光拳は打撃と同時にホイミを使うから、攻撃と魔法の同時利用は絶対に不可能って訳じゃないようにも思える。
第一、ダイが魔法剣を初めて使った時はまだ
ならば練習さえすれば使えそうな気がする。
後は今挑戦してみて感じた事だが、ただ単に剣にバギを当てると剣に対してバギの真空の刃が暴れ回ってしまい、持ち手に凄まじい衝撃が来てとてもじゃないが持っていられなかった。
……だから、普通の闘気でもいいから剣に闘気を通して保護した状態で魔法を纏わせる。
つまり闘気と魔法の同時利用さえ出来れば魔法剣は使えるんじゃないか?
いや、むしろ闘気と魔法を同時利用する技術そのものこそが魔法剣なんじゃないだろうか。
勇者アバンについては、彼の性格を考えるとアバンストラッシュと無刀陣が完成した瞬間に一刻も早く平和を取り戻す為にハドラーを倒しに行って、その後は平和になってしまってそれ以上の力を求めなかったとかでただ思い付かなかっただけなのかもしれない。
それに勇者アバンは確か、結局ダイが魔法剣を使う所を1度も見た事が無かった気がするし。
だから案外、勇者アバンなら練習さえすれば使えたかもとも思う。
それと、もしかしたら魔法剣を修得出来たかもしれないキャラと言えば北の勇者ノヴァ。
彼にも可能性はあったように思う。
もしも、ハドラー親衛騎団にノヴァがリベンジを挑む機会があったとしたら、オリハルコンを一瞬でも凍らせられるかもしれないマヒャドを魔法剣にしたノーザングランブレードを編み出してオリハルコン兵を粉々に砕いてみせる……みたいな活躍があったりしたかも。
って言っても親衛騎団以外の相手だと効果を実感するのが難しいけどね。
それ以外のオリハルコンの敵と言えばマキシマムだけど、あいつ程度だと普通のノーザングランブレードでも倒せそうだし。
──とまあ色々考えてみたけど、これもただ単に“変異”の影響かもしれんしな。
本家ドラクエで魔法剣が出たのはダイの大冒険の後だし、ゴメ様が技や呪文が再現されるのも枝葉が近付いて“変異”する原因になるとか言ってたしな。
話が脱線しまくったが、この1年で俺達は契約出来た下級呪文は一通り使えるようになったし、近接戦闘については城の門番達に付き合ってもらって割といい勝負が出来るようになっていた。
というか8歳のアリスと9歳のシーザーも門番の皆様といい勝負するんだけど強過ぎじゃありません?
……ああ、いや、もっと年下でギガデインやイオナズン使ってたやべー子達が本家ドラクエに居たなそういえば。
気を取り直して後2年。
出来れば中級呪文ぐらいまで使えるようになっていたいし、これからも頑張って鍛えるぞい。
アルバートが転生を自覚したあの日から2年余りの歳月が経過した。
その時間軸は、本来の歴史で言うならば勇者アバンの冒険の第2部が始まるタイミング。
つまり、凍れる
その時、
ここは、アルキード王国から南西部の海岸に向かって敷かれている街道。
その街道はアルキード王国にとって海鮮物を仕入れる為の非常に重要な街道であり、馬車が5台横並びになっても走れる程幅広くしっかりと整備されている。
そんな道を走る5台の馬車があった。
ただし、その走り方はサイコロの5の目の並びのようであり、その上中央の馬車は他の4台よりも頑丈そうな造りをしていた。
それが意味する所は想像に難くない。
その馬車に乗っている者はつまり──
「──今回の視察は次に向かう漁村が最後です」
「ええ、分かりました。どの村も以前まで凶暴化していたモンスター達の所為で荒れていましたね……」
「そうですね、モンスター共が大人しくなってからもう1年が経ちますが、派手に壊されてしまった家等はまだ復旧の目処が立っていません」
1番頑丈な馬車の中で、文官らしき白髪の初老の男と秘書官らしき妙齢の女性が、向かい側に座る男女の内の女性の方に報告をしている。
女性の方は緑がかった黒髪のショートボブの髪型に、目鼻立ちも理想的と言ってもいい程に整っている美少女。
年の頃は10代前半ぐらいだろうか、思春期真っ只中で未だ発展途上であろうが、既に身体の各所に女性らしい丸みを感じさせる。
加えて身に纏っているローブには上質な絹が使われているのが傍目でも分かり、高貴な身分の者である事を窺わせる。
一方の男性の方は緑色の髪した20代半ばぐらいに見える偉丈夫で、隣の美少女を守護する騎士といった出で立ちだ。
「貴女にこう言ってはいけないとは思うのですが、去年平和になった時にソアラ様から発せられた“共栄共存の宣言”は間──」
「──止しなさい、エリック。私の近衛騎士の貴方と言えど、それ以上を口にしたなら罰しなければならなくなります」
「はっ」
美少女がぴしゃりと言い放つ。それだけでエリックは黙り込んでしまった。
「……これは独り言だけれど」
「はっ」
「いや返事をしてはダメでしょう独り言なのですから」
「はっ」
「はあ……まあいいわ。ソアラ姉様は、誰に対しても平等に優しく手を差し伸べられる、この国の陽だまり。その平等な精神はモンスターに対しても適用されていて、必要以上の殺生をして欲しくないと考えているの。だからね、私はこう考えているの。ソアラ姉様の言葉を実現する為に
「姫様、それは……!」
アルキード王国のソアラ王女を“姉様”と呼び、また文官の者からは“姫様”と呼ばれる身分の少女。
ソアラ王女の妹君だと思われる美少女から発せられた不穏な言葉に、文官の初老の男が思わず声を洩らしてしまう。
しかしそう思われる事は承知の上だったのか、文官の反応を意に介さずに彼女の独り言は続く。
「ソアラ姉様の思想はとても立派で素晴らしい事だと思うわ。けれど理想論が過ぎるのも確か。なら、
「はっ。……は? 私が戦うのですか!? 私1人ではあばれザルを1対1で倒すのがやっとですよ!?」
「……エリック、頑張って♡」
「いやその仕草は大変可愛らしいですが、どんだけ可愛く言われても私1人では無理ですよ!?」
姫様の近衛騎士エリック、魂の
瞳を潤ませて小首を傾げながら上目遣いであざとくお
エリック本人が言っていたが、姫の護衛に付く程の手練の兵士でようやくあばれザルと1対1なのだ。
最強と謳われるカール王国の騎士達ならともかく、アルキード王国の兵士の練度ではあばれザルを1体倒すのに2人、無傷で倒すなら3人は必要だ。
その上、この世界におけるあばれザルは少なくとも5体以上の群れを成す事が多く、それらを討伐する場合は20〜30人の兵士が動員される。
勿論、彼女もそれを理解していない訳ではなく、姉のソアラ王女が宣言した無茶に対する自分の毒舌を誤魔化す為の冗談である。
「姫様、お戯れはそれぐらいに──うっ!」
「──きゃあっ!」
「姫様──!」
その時、突然馬車が急停止した。
少女を諌めようとした秘書官の女性は強かに馬車の壁に後頭部を打ち付け、悶絶する。
一方で馬車が急停止した事による慣性で前のめりになって倒れそうになった姫君をエリックが咄嗟に受け止める。
一体何事か、そう文官の男が叫ぶよりも早く、馬車の扉が勢いよく開け放たれた。
「大変です! ドラゴンが襲って来ました!」
「ドラゴンだと!? バカな、ありえん! 彼等は縄張りを侵さない限り襲って来ないハズだぞ!?」
「そんな、どうして──!?」
少女達の乗る馬車の御者を務めていた兵士からもたらされた急報に驚愕する一同。
様子を確認する為に馬車を飛び出した一同の目に飛び込んで来たのは、唸り声をあげながら狂ったように暴れ回るドラゴンの姿と、暴れ回るドラゴンの攻撃を必死に受け流す兵士達の姿だった。
護衛用の馬車に乗っていた兵士は御者を含めて5人。
それが4台の為、合計20名。
その20名の兵士達が全員でドラゴンと戦っていた。
だが、勝てる見込みはほぼ皆無と言っても過言ではない。
何故ならドラゴンの鱗を貫きダメージを与えられる程の強者がアルキード王国には
「エリック、ピーター、彼等を助けて!」
「「いえ、それは──!」」
少女の近衛騎士として研鑽を積んできた精鋭であるエリックと、今回は馬車の御者を務めていたピーター。
彼等こそ、アルキード王国においてドラゴンにダメージを与えられる数少ない人物。
彼等の強さについて、あばれザルを1対1でなら倒せるという言葉。
その例えに含まれる語弊を修正しておこう。
彼等は、あばれザルを1対1でなら
彼等アルキード王国の王家直属の近衛騎士達はカール王国の騎士達との合同訓練でも互角に渡り合う事が出来る貴重な人材だ。
彼等を動かせば確かにドラゴンを倒すまでは行かずとも撃退する事は可能だろう。
しかし──
「何故です? 彼等を見捨てるというのですか!?」
「この状況だからこそです! 貴女をお護りする。それこそが我等近衛騎士の使命なのです!」
「彼等とて防御に徹すれば簡単にはやられません! その間に我々はこの場を離脱すべきです!」
王族を守護する事こそが近衛騎士の本懐であると言わんばかりに少女の願いを聞き入れないエリックとピーター。
それは、人として間違っているのかもしれないが、彼女を生き残らせる事だけを考えれば最善の判断と言ってもいいのかもしれない。
しかし、彼女は
「──だったら、私もドラゴンと戦うわ! そうすれば貴方達も
「な──っ!」
「貴女という人は……本当によく似ておいでですよソアラ様に……!」
──周りの者を守る為に自らの身を差し出す。
彼等も心を決めたのか、2人が剣の柄に手を掛けた、その時。
「さあ、行きましょう!」
「──いや、その必要は無い」
「「「「────ッ!?」」」」
場の空気が底冷えするような悍ましい声がその場を支配する。
突然の出来事に身を寄せ合う5人。
その様子を嘲笑うかのように、馬車の影から赤黒い影が現れた。
「何故ならお前達はここで死ぬからだ……ハドラー様をナメているとしか思えない宣言を出したアルキード王国の諸君よ……!」
凍れる
──魔王の影。
その禍々しさはドラゴンをも凶暴化させ、未だ魔王復活を知らぬソアラ王女の妹君達を亡き者にしようとしていた……。
今回も妄想考察や捏造設定、歴史捏造と盛り沢山でしたね。特に凍れる
……全部“変異”の所為という事でっ。(脱兎)