DRAGON QUEST ダイの大冒険-変異伝-   作:宮枝嘉助

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 3話にして早くもエタり始めてますが、何とか生きてます(生存報告)


第3話 初陣

 

 

 

 

 勇者アバンの活躍によって仮初の平和が訪れてから1年ちょっとが過ぎた。

 原作通りならそろそろ2人が復活して、またモンスター達が凶暴化し始めるハズだ。

 

 そうなったら1年足らずで地底魔城での決戦が始まってしまう。

 何とかそれまでにはパプニカ王国に行けるようになっておきたい所だ。

 

 俺達は王都の門番さん達に付き合ってもらって修業を続けていた。

 

 そうすると時々城から馬車が出る時がある。

 どうしたのかと訊くと、何でも魔王が封印されたから魔王が暴れていた間に荒れてしまった町や村の復興が必要な為、視察に出掛けるんだそうだ。

 

 そこで「いや別にまだ魔王居なくなってないけど?」等と言う訳には行かない。

 どうも今現在の平和が、勇者アバンがその命と引き換えに魔王ハドラーを封印した美談みたいになっているからだ。

 

 ──“凍れる時間(とき)の秘法”。

 

 原作ではサラッと力量(レベル)が足りないから1年ちょっとで解けてしまった、みたいな事しか説明されていなかったように思うが、あの説明自体がそもそも最終決戦の時の話だ。

 だからあの説明自体が現在(いま)から見た未来の視点で説明をしてる事になる。

 

 ……何だか分かりにくい言い方だが、要するにあの説明は最終決戦の時点での視点だから出来る説明であって、凍れる時間(とき)の秘法が()()()()()()()()事を含めて説明していたんだ。

 

 つまり、今の時点ではいつ秘法が解けるのか、それとも次の皆既日食まで解けないのかさえも分からなかったんだろう。

 それを俺はたまたま原作知識で1年ちょっとで解けると知っていただけであって、……そうか、だからあんな宣言が出されたのか。

 

 モンスター達が大人しくなってしばらくして、勇者アバンが魔王ハドラーを封印したという話がこちらにも伝え聞こえて来た辺りで、ソアラ王女様の声明で“共栄共存の宣言”ってのが出されたんだ。

 

 ざっくりと言えばモンスター達もこの世界の生態系の一部だから必要以上の殺生はせずに仲良く暮らして行きましょうね、という宣言だ。

 

 その宣言自体を悪く言うつもりは無い。

 というかドラクエが好きで原作なりアニメなりでデルムリン島の様子を見た事があれば誰だってああいう環境を楽園だとか理想郷という言葉で表現したくなるだろう。

 だからある意味それを目指すようなソアラ王女様の宣言はとても応援したくなるぐらい喜ばしい訳だが……。

 

 正直時期が悪いとしか言いようが無い。

 もうそれほど日を置かずにまたモンスター達が凶暴化してしまって宣言は台無しになるだろう。

 

 それに、そんな宣言を魔王ハドラーが聞いたらどう思うだろうか?

 侵略されてる側の癖に仲良くしましょうなんていきなり言われていい気分になるだろうか?

 一介の武人になる前の魔王ハドラーなら激怒してそんな宣言を出した奴に意趣返しをしてもおかしくないんじゃないのか?

 

 というか何だかそんな宣言が出されていた事自体に凄く違和感がある。

 そもそも、バランを魔王軍の生き残り扱いするような国が、モンスターとの融和政策みたいな事を打ち出している時点でおかしいんじゃないか?

 

 ……まさか、原作では語られていない、この宣言が覆るような致命的な事件が起こるってのか?

 だがその場合、どんな手段が考えられる?

 ダイが生まれるのはハドラーを倒した3年後ぐらいだから、原作のこの時点でソアラ王女が死ぬハズは無い。

 

 ただ死なないだけで、ソアラ王女が死ぬ寸前までヤバい状況に陥って、どうにか助かったけどやっぱりモンスターは、魔王軍は危険だってなるのか……?

 それとも他に事件が起こる……?

 

 

「ねえおじさん、さっきの馬車に兵隊さんがいっぱい乗ってたけど、町や村を見に行くだけじゃないの?」

 

 

 俺達とは別に馬車を見ていた少年が門番さんに質問をしていた。それを聞いた俺は、何故今まで思いつかなかったのかと思う程に動揺した。

 

 

「──────っ!?」

「ああ、あの馬車には王族の方が乗っててな。ソアラ王女様の妹君の……って、どうしたアル坊、顔が真っ青だぞ!?」

 

「悪い、ちょっと森で特訓してくる! アリス、シーザー、モーゼス、付き合ってくれ!」

「う、うん、待ってよお兄ちゃん!」

「何スかアル兄、急に慌てて……」

「そうじゃぞアルよ、一体どうしたというんじゃ」

 

「悪いが上手く説明出来ないんだ! とにかく俺との走り込みに付き合ってくれ!」

 

 

 ──くそっ、何だか物凄く嫌な予感がする!

 

 大体なんで今まで気付かなかったんだ!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 作劇上必要が無くて描写されなかっただけなのかもしれない。

 

 でもさっきの妄想が頭から離れない。

 まさか、凍れる時間(とき)の秘法が解けた時に、魔王ハドラーの報復でソアラ王女の妹さんが殺されてしまって、それであんなに魔王軍の残党が居たりしないかを過剰に警戒してたんじゃないか……って──

 

 

「ああくそっ、こんな事なら落ちたら怖いからって後回しにせずに先にトベルーラの練習しとけば良かった!」

「お兄ちゃん! なんでそんなに慌ててるのか分からないけど、ピオラ使おうか?」

 

「ああそうかそれすら思い付かないとかヤバいな俺!? アリス、頼む!」

「うん! 速度倍加呪文(ピオラ)──!」

 

「──っ! アリス、ありがとう! みんな悪い、俺は先に行く! そのまま街道を馬車に追い付くまで進んでくれ!」

 

 

 頼む、俺のただの痛い妄想で済んでくれ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあどうした? アルキード王国の近衛騎士とやらは私にキズを付ける事も出来んのか?」

「くそっ、斬ってもすり抜ける……!」

「おのれ、奴から攻撃してくる時は実体化しているのは判っているというのに……!」

 

 

 魔王の影にエリックとピーターが斬り掛かるが、魔王の影はただの影の状態と実体化を使い分けられるようで攻撃がすり抜けてしまい全く当たらない。

 

 魔王の影の方から攻撃してくる時であれば当然実体化している。

 その事にはエリック達も気がついている。

 つまり、魔王の影が攻撃してくる瞬間。

 その攻撃の手は実体化しているのだからそこを斬ればいい。

 

 それはエリックとピーターの2人掛かりであれば決して不可能ではないのだが──

 

 

「どうした? 諦めたら大切な者が死ぬぞ? 絶命呪文(ザキ)──おっと!」

「させるかあっ! 絶対に姫様をお護りするのだ!」

 

 

 そんな弱点の事は百も承知である魔王の影がそんな単純な行動を採るハズも無く。

 絶対に攻撃を受けない自信がある時しか物理攻撃はせず、攻撃の瞬間を狙われている時はザキで直接ソアラ王女の妹君を攻撃。

 

 だがそこはエリックかピーターが魔王の影に攻撃を仕掛ける事によって呪文攻撃を中断させる事で対処し、何とか誰もやられる事無く戦えている。

 

 

「ゴメンなさい! 私に戦う力さえあれば、こんな事には……!」

「何を仰いますか! 貴女の守備力増加呪文(スクルト)が無ければ今頃我々は力尽きております!」

「ふん、攻撃呪文の1つでも覚えていれば私に攻撃を当てられたかもしれんのになぁっ!」

 

 

 アルキード王国周辺には魔王の影のように物理攻撃が極端に効き辛いモンスターは居ない。

 その為、補助系魔法に適性のあった者は兵士達の戦力底上げの為に優先的にそちらの訓練に集中し、攻撃呪文の練習は後回しになってしまっていた。

 攻撃呪文にしか適性の無かった者については、魔法力が尽きたら役に立たないお荷物としてあまり重宝されていないのがアルキード王国での実情である。

 

 しかしそうして補助系魔法に注力している事は一定の結果を出しており、アルキード王国の兵士達は練度という意味ではカール王国やオーザム王国には及ばないにも関わらず死亡率が世界各国の中でも最も低い為、アルキード王国は補助系魔法大国と呼ばれる事もあったりするとかしないとか。

 

 ──それはともかく。

 今回の戦いに於いては国の方針が完全に裏目に出てしまっている形だ。

 勿論、ドラゴンと戦っている兵士達は未だ犠牲者ゼロなので無意味ではないが、魔王の影との戦いではその国家方針が完全に裏目に出てしまっている。

 

 そして遂に、限界の時は訪れる──

 

 

「うわああああああ!!」

「くっ……ダメ、もう魔法力が……!」

 

 

 ──この場の兵士達の防御力を底上げしていたソアラ王女の妹君の魔法力が尽きようとしていた。

 防御力が落ちてしまった事により、ドラゴンの攻撃を捌き切れなくなってしまった兵士達は次第に力尽きて行く。

 

 更に──

 

 

「ふんっ!」

「「ぐああああああ!!」」

「エリック! ピーター!」

 

 

 防御力が落ちた瞬間を狙われてしまい、近衛騎士の2人も魔王の影の攻撃を捌き切れずに吹き飛ばされてしまう。

 悠然と近付いて来る魔王の影とソアラ王女の妹君はこの時初めて、騎士を間に挟まずに対峙する。

 そこでソアラ王女の妹君は護身用に持っていたナイフを抜いて構える。

 

 

「何!? 貴様、それは……!」

「神官様の祝福を受けたこれなら! やあああああ!」

「小娘の技量では私にはかすりもせんわ!」

「きゃあっ!? あ、ぐ……!」

 

 

 ソアラ王女の妹君が持っていたのは聖なるナイフ。

 確かにそれなら魔王の影に当てる事が出来ればダメージを与えられたかもしれない。

 だが、残念ながら使い手の技量が足りなかった。

 

 魔王の影は左手で聖なるナイフを森の奥まで弾き飛ばし、更に右手でソアラ王女の妹君を殴り飛ばす。

 彼女は砲弾のように吹き飛び、森の木の幹に叩きつけられる。

 

 

「終わりだ、姫君よ。恨むなら我々と仲良く暮らしましょう等とふざけた事を抜かした貴様の姉を恨むのだな」

 

「…………ない」

「……何?」

 

「姉様はふざけてなんかいない! 勇者様が魔王を封印し、モンスター達が昔のように大人しくなったと思ったからこそ出した宣言だったのに、それを貴方達が……!」

 

「……フ、ハハハハハハハッ! これは滑稽だ! 我々がここに居る時点で気付かんのか! その封印とやらはとっくに解けているぞ! つまり、貴様等の勇者は無駄死にだったという事だ!」

 

「あ、ああ、そんな……!?」

 

 

 ソアラ王女の妹君の言葉を聞いて哄笑する魔王の影。

 そして聞かされた衝撃的な言葉に青褪める彼女の表情を見て、魔王の影の厭らしい笑みが更に深まる。

 

 絶望に染まった少女にトドメを刺さんと魔王の影がその腕を伸ばしながら振り上げ──そして。

 

 

「フハハハハハハッ! いいぞ、その顔が見たかったのだ! その絶望のままに……死ねえいっ!」

「────っ!?」

 

 

 

 

「──適当な事を抜かすな、三下」

 

 

 

 

「────ッ! くっ、誰だ!?」

 

 

 致命の一撃が振り下ろされようかというその瞬間。

 先程森の奥まで弾き飛ばされた聖なるナイフが寸分違わず魔王の影の眉間目掛けて飛来し、魔王の影は飛び退かざるを得ず、少女の前から大きく遠ざかった。

 

 そしてそこに、速度倍加呪文(ピオラ)による赤い光の軌跡を残しながら1人の少年が魔王の影と少女の間に割って入った。

 

 その少年は僅かに青みがかった黒髪に、青い瞳が印象的な小柄な少年だった。

 いや、まだ成長途上の身体であろうから小柄という表現は彼に失礼だろうが。

 

 その出で立ちはアルキード王国の一般的な国民の服装と何ら変わりの無い普通の服装をしていたが、背中に剣を背負っているという点だけが一般的な国民と比べて明らかに異質だった。

 

 その少年は静かに背中の剣を抜き放ち、そのまま正眼に構える。

 

 

「誰かと思えばただのガキじゃないか! ガキに三下呼ばわりされる筋合は無いわ!」

「勇者が死んだ等と適当な事を抜かすお前なんか、三下で十分だ」

「貴方のその剣、まさか──」

 

 

 魔王の影と少年が言い合っている中、少女は少年の剣の正体に気付く。

 十字架をモチーフにして製作されたその剣は──

 

 

「貴様、何故アバンの生存を知っている……!?」

「それに答える義理は無い。喰らえ──!」

 

「──ッ!? ぎゃああああ! け、剣から魔法だと!? 何だその剣は!?」

 

「それに答える義理も無い。せやあっ!」

「ちぃっ、小賢しい! だが当たらんわ!」

 

 

 少年の剣先から突如黄金色の光線が放たれ、完全に不意を突かれた魔王の影の右肩を灼く。

 驚愕する魔王の影だったが、少年からの追撃の斬撃はしっかりと回避してみせる。

 

 

「どうして貴方が破邪の剣を……?」

「今まで使わずに貯めてた小遣いを全部使って買った」

 

「え? あ、いえ、そうではなく──」

 

 

 ──破邪の剣。

 本家のドラゴンクエストシリーズでは、道具として使う事で閃熱呪文(ギラ)を何発でも放つ事が出来る剣だ。

 そんな便利な剣にも関わらず、アルキード王国の兵士達には配備されていない。

 

 アルキード王国で標準装備されているのは鋼鉄の剣であり、重要な立場である王族の近衛騎士であるエリック達ですら破邪の剣が配備されていないのには理由がいくつかある。

 

 まず1つ目が、製造コストが鋼鉄の剣の倍以上掛かってしまう上に製造可能な本数に限りがある点。

 閃熱呪文(ギラ)を封入する宝玉を造るコストが非常に高い上に製造に時間が掛かってしまい、配備に時間が掛かってしまう。

 

 続いて2つ目の理由が、鞘が無く常に抜き身の状態になってしまう点。

 破邪の剣は十字架を模した独特の形状をしており、それに合わせられる鞘が存在しない。

 その為、帯剣しているとひょんな事から護衛対象を傷付けてしまう可能性があるが故に配備が見送られているのが現状だ。

 

 そして最後に、再使用可能時間(リキャストタイム)が長い点だ。

 何もせずとも時間を掛ければ再使用可能なのは非常に画期的ではあるのだが、何と1日1回しか撃つ事が出来ない。

 

 これら3つの理由から考慮された結果として、破邪の剣はただコストの高いハズレ武器として見放されてしまっている、というのがアルキード王国での現状だった。

 にも関わらず、アルバートが破邪の剣を選んだ理由。

 

 それは──

 

 

「何で破邪の剣を選んだかって事なら、俺とこの剣は相性が良いんですよ。だってこうすれば──閃熱呪文(ギラ)!」

「えっ? 閃熱呪文(ギラ)が破邪の剣の宝玉に吸い込まれて……!」

 

「これでまた破邪の剣から閃熱呪文(ギラ)が撃てるようになるんです。まあ、自分の魔法力を消費して補充してるので意味無いと思われるかもしれませんが、いざという時に咄嗟に撃てるので意外と便利なんですよ」

 

 

 アルバートが破邪の剣の再使用可能時間(リキャストタイム)の問題に1つの答えを出せたのは、ひとえに原作知識で魔弾銃(まだんガン)を知っていたからというのが大きい。

 

 実の所最初はただ勢いで買っただけだったのだが。

 買ってから1日1回しか使えない事を知り、そもそもの仕組みとして宝玉に閃熱呪文(ギラ)が封じられているのを発見する。

 それを見て、魔弾銃(まだんガン)の弾に呪文を込めるのと同じように破邪の剣の宝玉にも閃熱呪文(ギラ)を込め直す事が出来ないか試してみたら出来た、というのが経緯だったりする。

 

 それともう1つ。

 アルバートは少女の質問を意図的に逸らしている。

 少女から問われた何故破邪の剣を持っているのかという問い。

 それはどうやって手に入れたかではなく、少女とほとんど歳の変わらないような少年が何故剣を持っているのかという意味で言われているという事にはアルバートも気付いている。

 

 ただそれは言葉で説得するには今の自分の外見では無理だと判断し、これから行動で示すつもりなので話を逸らそうとしているのであった。

 

 

「生意気なクソガキが! 死ねえっ! 絶命呪文(ザキ)──!」

「させるか! 撃ち抜け──!」

 

「同じ手は喰わんぞ! ふんっ!」

「うおっ!? ……あっぶな、何とか防げたけど今の俺じゃまだ斬れないか」

 

 

 魔王の影が呪文を唱えようとした所をアルバートが再度閃熱呪文(ギラ)で撃ち抜こうとするが、それは魔王の影の誘いだった。

 

 破邪の剣から放たれた閃熱呪文(ギラ)を魔王の影はヒラリとかわしながら両手をムチのようにしならせて襲い掛かる。

 襲い来るそれをアルバートは咄嗟に破邪の剣で受け止める事に成功するが、実体化した影を剣で受けても斬れなかった事に落胆するのだった。

 

 

「ふん、ガキの分際で魔法が使える事には驚かされたが、その程度の力量(レベル)ではこの私を倒す事は出来ん!」

 

「………………」

「そして貴様が私を倒せなければアルキード王国の兵士達はドラゴンに皆殺しにされる! そうなれば後は貴様だけだ!」

 

「………………」

「どうだ、絶望のあまり逃げ出したくなってきただろう? そうだ! 今からでも姫を見捨てて逃げるというなら見逃してやってもいいぞ?」

 

「そうです! 王族だからといって見ず知らずの私なんかの為に命を捨てないで下さい! その歳でそれだけの才能を持っている貴方なら、きっとこれからもっと強くなれます! ですから今は生きて、そしていつかハドラーを倒して下さい……!」

「……フハハハハハハハ! これは傑作だ! ほらガキめ、姫様もこう仰っているんだ、今からでも泣いて命乞いをすれば見逃してやってもいいぞ!?」

 

 

 思わぬ加勢があったが、形勢逆転とまでは行かなかった事を察してか、少女からも今は逃げるように言われてしまうアルバート。

 

 それを聞いた魔王の影は嗤い、見逃してやろうとアルバートを嘲笑する。

 ずっと黙り込んでいたアルバートの答えは──

 

 

「どうした? 恐怖と焦りのあまり言葉も出んか?」

「……いやな、逆に訊きたいんだが………………いつから俺が1人で来たと錯覚していた?」

「何……? うおおおおっ!?」

 

 

 怪訝な様子を見せる魔王の影に向かって、森の奥からバランスボールぐらいの大きさの火球が飛んで来る。

 その奇襲に驚いた魔王の影はその場から飛び退くが、そこへアルバートが狙いすましたように魔法を放つ。

 

 

「そこだ! 閃熱呪文(ギラ)──!」

「ぐああああっ! このっ、ガキがああああっ!」

「させないっ! 守備力増加呪文(スカラ)──!」

「サンキューアリス! はああああっ!」

 

 

 アルバートの掌から放たれた熱線で撃ち抜かれながらも、魔王の影はその影を伸ばしてムチのように振り回して反撃してくる。

 

 しかしそこへ、合流したアリスがアルバートの守備力を底上げし、アルバートはムチのように伸びた影で打たれても吹き飛ばなくなる。

 そうなったアルバートは避けきれなかった攻撃を堪えながらもそのまま魔王の影に接近し、破邪の剣で袈裟懸けに斬り裂いた。

 

 

「ぎゃあああああっ! ぐっ、おのれ、こうなったら兵士共を先に皆殺しにしてくれるっ!」

「チッ、あいつの方が速い! アリス、練習してたアレをやるぞ!」

「分かった! お兄ちゃん、ちょっと待ってて!」

「ああ。その間に俺は閃熱呪文(ギラ)を補充して、と」

 

 咄嗟に避けたのか、破邪の剣の攻撃は浅く、魔王の影の致命傷には到らなかった。

 火炎呪文(メラミ)からの閃熱呪文(ギラ)守備力増加呪文(スカラ)からの攻撃と、2人の連携を厄介だと感じた魔王の影はドラゴンとの合流を試みる。

 

 しかしそこには──

 

 

氷結呪文(ヒャダルコ)っスよ──っと!」

「せああああ……ドラゴン斬り!」

「ギィャァァァアアアア──!」

 

 

 シーザーが氷結呪文(ヒャダルコ)を放ってドラゴンの動きを止めた所を、モーゼスが剣を裂帛の気合を込めて振り下ろした。

 完全に足を止めて使っている様子から、まだ動かない相手にしか使えないようだが、それはまさしく闘気の輝きを放っていた。

 

 その威力は凄まじく、使っているのは兵士達と同じ鋼鉄の剣にも関わらずドラゴンの鱗を容易く斬り裂き深手を負わせてみせる。

 

 

「バカなッ!? こんなガキ共が氷結呪文(ヒャダルコ)だけでなく闘気まで使っただと!?」

 

 

 表情こそほとんど読めないものの、明らかに狼狽した声色になる魔王の影。

 少年の仲間が増えた事で明らかに形勢が不利になった事を悟ったのか、今からでも撤退する算段を整えようとする。

 

 その時、魔王の影はようやく周囲の変化に気付く。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その事に気付いた魔王の影は、暗くなった原因を察してか空を見上げる。

 

 そこには暗雲が立ち込めていた。

 

 

「何だ、あの黒い雲は……ま、まさか──ッ!?」

「喰らえ三下! 電撃呪文(ライデイン)──!!」

「ウッ、ウオオオオオオッ!?」

 

 

 耳を劈くような轟音と直視出来ないような眩い閃光と共に稲妻が魔王の影とドラゴンを灼き尽くさんとする。

 

 モーゼスの一撃で深手を負っていたドラゴンは、受けた雷撃が傷口からも侵入して体内も感電して灼かれ、絶命する。

 

 一方の魔王の影はというと、雷撃に灼かれはしたものの咄嗟にドラゴンの影に潜る事でダメージを半減させて生き残っていた。

 

 

「はあっ、はあっ、……まさかドラゴンがやられるとは……くそっ、こうなったら撤退するしかない!」

 

「何を言っとるんじゃ、逃がす訳が無かろう。はっ!」

「そうっスよ、逃がさないっス──氷結呪文(ヒャダルコ)!」

 

「おっと、ダメージこそ負ったが回避に専念すれば貴様等の攻撃なんぞ当たらんわ!」

 

 

 撤退しようとする魔王の影を、すぐ側に居たモーゼスの斬撃とシーザーの呪文が追撃する。

 だが、モーゼスの攻撃は躱され、シーザーの氷結呪文(ヒャダルコ)はそもそも効果が薄いのか効いていない様子。

 

 そのまま森の奥へ逃げ込まれるかと思われた瞬間。

 紺色の光が魔王の影を包み込んだ。

 

 

「逃がさないんだから! 速度鈍化呪文(ボミエ)──!」

「ぐっ!? こ、こんなもの〜!!」

 

 

 魔王の影を包み込んだのは、アリスが放った速度鈍化呪文(ボミエ)の光だった。

 ところが魔王の影はその呪文に対する耐性を持っていたのか、呪文が掛かり切る前に力尽くで光を振り払おうとする。

 

 しかしそこへ──

 

 

速度鈍化呪文(ボミエ)!!」

「おっ、……お〜の〜れ〜……!」

 

「これが私に残った全魔力です! 誰かトドメを!」

「姫様、お任せ下さい。……はあああっ!」

 

 

 更に王女様の速度鈍化呪文(ボミエ)が上乗せされ、ほとんど動けなくなる魔王の影。

 

 その前に破邪の剣を正眼に構えるアルバート。

 アルバートは1つ深呼吸をすると、気合を発する。

 すると、先程のモーゼスと同じ闘気の輝きが剣を包み込んだ。

 アルバートはそのまま剣を真っ直ぐ振り上げ、垂直に振り下ろす。

 更にその瞬間、アルバートは破邪の剣に封じられた閃熱呪文(ギラ)を解き放つ──!

 

 

「トドメだ! “閃光斬り”──!!」

「ア、アア……ハド……ラー……様……!」

 

 

 アルバートが放った魔法剣もどきの一撃がトドメとなり、アルキード王国を襲ったモンスター達の襲撃は終息するのであった……。




 実はライデインを使う為にアリスがラナリオンを使ってるんですが、テンポがあれだったので省略しています。(汗)
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