DRAGON QUEST ダイの大冒険-変異伝-   作:宮枝嘉助

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第4話 太陽と月の姫君達

 

 

 

 

 魔王の影を倒した俺達は、どうにかソアラ王女の妹君を救う事が出来た。

 

 いや、本っっっ当〜〜〜に危なかった。

 状況を見るに、俺達が介入しなかったら本当にヤバかったように思う。

 というか俺が3人を巻き込まずに1人で修行して俺だけで介入してたらいきなり詰んでたんじゃなかろうか?

 ちょっと1人では勝てた気がしない。

 

 逆に言えばそのぐらい強力な死亡フラグを折る事に成功したんだ、これでバラン受け入れフラグが立ってくれる事を祈る。

 

 それで今、俺は何をしているかというと──

 

 

「ああ、城内で噂になってたのは貴方達の事だったんですね! この度は本当にありがとうございました」

回復呪文(ホイミ)──……いえいえ、私達なんてまだまだですし、この国の人間ならこの国の為に戦うのは当然の事です」

 

「おい貴様、姫様が話しておられるのだぞ、話を聴く姿勢にならんか!」

回復呪文(ホイミ)──……申し訳ありません。自分は未熟者故、相対しないと治療が出来なくて。どうかお赦し願えませんか?」

 

 

 その、ソアラ王女の妹君から直接お礼を言われている所である。

 しかも、兵士達に回復呪文(ホイミ)を掛ける事に集中して、彼女の話にはチラッと目を合わせるだけの態度で。

 

 文官だと思われるお爺さんに怒られてしまうが、俺はまだ他事をしながら治療するような芸当は出来ないのでどうしようもない。

 人命優先で治療に集中してるんだから、きっと赦してくれる……よね?

 それとも一瞬手を止めた方がいいかしら?

 

 

「いえ、私は構いません。むしろ兵達の治療までして下さり感謝しています」

「……すまぬ少年。今は非常時であった。……姫様、兵達の最低限の治療が終わり次第、報告の為に1度城に戻るべきだと思います」

 

「そうね、他のモンスターが襲ってこないとも限りません。今は早く皆を集めてこの場を撤退しましょう」

回復呪文(ホイミ)──……無礼をお赦し頂き、感謝致します。申し訳ありません、私の魔法力では治療はここまでです。まだ急ぎの治療が必要な人が居るなら妹をこちらに呼びますが……」

 

 

 俺の言葉を聞いて文官の爺さんが確認を取るが、どうやら緊急性の高い怪我人は居ないみたいだ。

 それでは俺達はこれで、とその場を立ち去ろうとしたのだが、姫様に呼び止められた。

 

 

「待って下さい。えっと、貴方の名前を聞かせてもらえませんか?」

 

 

 さっき姫様は「城内で噂になってる」と言っていたが、ほぼ毎日のように門番の兵士さん達に絡んで暇な時に訓練してる変わり者の少年少女達が居る、と言った程度の噂なんだろう。

 後は、使ってる魔法とかから、かなり沢山の魔法を契約していった子達が居る、ぐらいの噂にはなっていたのかもしれない。

 だけどまあ、流石に名前までは噂になってなかったみたいだ。

 

 

「……アルバートです。皆からはアルと呼ばれています。あちらで治療をしているのが妹のアリスで、向こうでドラゴンの解体を手伝っているのがモーゼスとシーザーです」

「アルバート、さん……ええ、覚えました。本当にありがとうございました。このお礼は後日城で改めてさせて頂きます」

「畏まりました、……え〜と……」

 

 

 俺はここで返事に窮してしまった。相手をどう呼ぶべきか、だ。

 単に“姫様”呼びでもいいと思うんだが、少なくとも一緒に強敵と戦った仲としては名前で“●●様”呼びぐらいした方がいい気がしたんだ、けれども……。

 

 俺、実はこの娘の名前を知らないんだ。

 宿屋でもソアラ王女の話題ばかりでこの娘の話題が出てた記憶が全く無い……ヤバイ、どうしよう……。

 

 

「あ……私としたことがすみません、申し遅れましたわ。私はアルキード王国第2王女、シンシア。ですが私はソアラお姉様のおまけのようなもの。どうか気軽にシンシアとお呼び下さいな」

 

 

 ──と思っていたら、姫様はハッとしたような表情を見せた後、思わず見惚れてしまうような笑顔で優雅なカーテシーを披露しながら名乗ってくれた。

 

 

「……畏まりました、シンシア様。また後日お会いするのを楽しみにしていますね」

 

「私の事はシンシアとお呼び下さい」

「え? いや、私はただの宿屋の息子で──」

 

「私の事はシンシアと」

「いやいや、平民が王族を呼び捨てにする訳には──」

 

「シンシアと」

「いやいやいや、そんな訳には──」

 

 

 何だかシンシア姫様の圧が凄い。

 いやまあ確かに本家ドラクエやダイの原作でもそう滅茶苦茶堅い敬語では喋ってなかったような気がするけども。

 

 でもさっき文官のお爺さんに礼儀作法的な意味で怒られたし、呼び捨てはマズイでしょうよ、ねえ?

 と思って文官のお爺さんに視線を向けてみたものの、横で姫様が「呼んで頂けないなら今後貴方の事をずっとアルバート様と呼びます」とか何とか言い出した所為か、文官のお爺さんも何だか諦めたようにうなだれながら首を横に振ってしまった。

 

 う〜ん……いいんだな?

 後日城に呼ばれた時にどうなっても知らんぞ?

 

 

「──分かったよ、シンシア。今度は城で会おう」

「……はいっ!」

 

 

 あら可愛い満開の笑顔だこと。

 ……って、しまったああああっ!

 シンシア王女を呼び捨てにしたら同時に口調もタメ口になっちまったああああっ!!

 本人は全く気にしてなさそうだけど流石にタメ口はマズイ、逃げねば!

 

 

 

 とまあ、そんな風に俺達はその場を後にするのであった。

 

 だ、大丈夫だよね?

 曲がりなりにもやんごとなき身分の方をお救いした訳だし、不敬罪ぐらいはどうにかご容赦頂けますかねえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで後日。

 俺達はアルキード城の謁見の間で跪いていた。

 

 

「此度は我が娘、シンシアを魔王の影の魔の手から救ってくれた事、本当に感謝している。真に大義であった」

「いえ、我々はこの国の民として当然の事をしたまで。それを王様が御自ら礼を述べて下さるなど、恐悦至極にございます」

「うむ。……そなた、アルバート、と言ったか。差し当たってお前達に褒美を取らせたいと思うのだが、何か望みがあれば聞こう」

 

 

 うおおおお王様から直に礼を言われるとかやべええええ!

 何かそれっぽく適当に知ってる敬語を並べ立てたけど正しいのかどうか全く自信が無ええええ!

 

 しかもどうしよう。

 城に呼び出される時に使者の人から「褒美が出る予定なので考えておきなさい」って言われてたのにまだ決められてない。

 

 アリスは「お兄ちゃんが欲しい物でいいよ」って言ってくれちゃうし、シーザーは「アル兄に任せるっス」とか言うし、モーゼスなんて何も言わねえし、いや俺が言い出しっぺだから俺がリーダー的立場で決めていいって意味なのは解るんだけども!

 

 

「はい。……それなんですが、実は……」

「どうした?」

「いえ、その……私の望みは大きく3つ程あるのですが、まだ1つに決められてなくてですね……」

 

 

 ああ恥ずかしい。

 ほら、大臣っぽい人達は何かヒソヒソ話し始めたし、シンシア姫様はびっくりしたような顔してるし、その横にいらっしゃるソアラ王女は何故か興味津々な表情でこっち見てるし。

 

 早よ決めなきゃ、と必死に考えていたら、

 

 

「ならば、その望みを3つ共申してみよ。そなたの望みを聞き、こちらで決めようではないか」

 

 

 だなんて王様に言わせてしまったではありませんか。

 ああでも、どのぐらいの褒美だと釣り合いが取れるのかさっぱり分からんし、全部言ってみるというのも案外理に適ってるのかもしれん。

 

 ならいっそ、本当に3つ共言ってみるか。

 

 

「畏まりました。……え〜……まず1つ目は、私達の装備が欲しいのです。私達は着の身着のまま、武器だけ小遣いを貯めて買っただけという状態です。私達の目標は魔王を倒すとまでは言わないまでも、この国を、家族を守れるぐらいの力を付ける事。その為に、どうか」

 

「我が国の兵達以上の働きをしてくれたそなた達がごく普通の普段着というのもおかしな話だな。良かろう、前向きに検討する事を約束しよう」

 

「ありがとうございます。2つ目は、今以上に強くなる為に他の国にも赴き、様々な技術や知識を学びたいと考えています。なので、その旅をする為の援助をお願いしたいのです」

 

「ふむ、成程。既にそなた達は我が国の精鋭と同等に近い強さだと聞くが、それ以上を目指すのであれば世界を旅して力を付けるのは道理であろうな。……して、最後は?」

 

「はい、強いて言えば実は3つ目が1番の望みなのですが……シンシア王女様とソアラ王女様を鍛えて頂きたいのです」

 

 

 俺の3つ目の望みを聞いて、城内が騒然となる。

 

 そりゃそうだろう。

 皆さんが何を訳の分からん事を言っとるんだという顔をしていらっしゃる。

 ……いや、シンシア王女は不満そうな顔をしているし、ソアラ王女は何故かわくわくしてそうな表情をしているな。

 

 それにしても、あれから宿のお客さんや門番のおっちゃん達に王女様達の為人(ひととなり)を訊いてみたりしたけど、見事なまでに『似た者姉妹』って感じだったのに何で反応が違うんだ……?

 

 あ、ひょっとして……いや、んなアホな、まさかこんな公式の場でもシンシア王女を呼び捨てしろと?

 

 確かに自分の今の年齢(13歳)を考えたら敬語を話さなくてももしかしたら許されるかもしれんけど、はっきりとは覚えてないが生前の俺は社会人だった気がするのでおいそれと敬語を止めるのは恐れ多いんだよなあ……。

 

 それはともかくとして、理由を話さなくては。

 

 

「……今回のような件が1度きりとは限りません。遅かれ早かれ私達は世界を旅する為にこの国を離れます。その時に自らの身をご自身で守れるようになって頂きたいのです。これは結果論ですが、まだ魔王の脅威が完全に無くなった訳でもないのにソアラ王女様が出してしまった“例の宣言”は、侵略している魔物達からすればナメられているように感じるかもしれません。ですので、王女様達には自衛の力を付けて頂きたい」

 

「……ふっ、はっはっはっはっはっはっ! 何を言い出すかと思えば、まさか最大の望みが我が娘達の今後の心配とはな……分かった。そなたの望み、その全てを最大限善処する事を約束しよう」

 

「……ありがとう、ございます……!」

 

 

 あああああ良かったあああああ!

 ダメ元でも言ってみて本当に良かったあああ〜!

 王族に向かって「あんたら弱いから修行しろよ」とか何様だこいつって思われたらどうしようかと思ったけどいい方に受け止めてくれて本当に良かったあああ〜!

 

 ……実は王様に言った事は嘘という訳ではないが、本意でもない。

 

 勿論、今回のような事がまた起きた時にもし俺達が居なかったら今度こそシンシア王女が死んでしまう。

 そうすると結局魔族憎しの感情が増幅されてしまい、バランを排斥する動きが起きやすくなってしまう。

 だからシンシア王女にはある程度強くなって欲しい……というのもあるが、真の狙いはソアラ王女にある。

 

 ソアラ王女がもし強ければ。彼女がある程度自衛出来る実力を持っていれば色々と流れが変わるんじゃないだろうか。

 例えば駆け落ちした際に捕まらなくなるかもしれないし、もしかしたらバランを処刑しようとする時の火炎呪文(多分メラミ)(まさかいくらなんでも火炎呪文(メラゾーマ)じゃないだろう)を代わりに受け止めても死なずに耐えられるようになるかもしれない。

 

 例えばもし全く同じイベントが起きたとしても、ソアラ王女が死なずに耐えてくれればバランも流石に国を滅ぼす程キレたりはしないだろうし。

 

 勿論俺達が当日その場にいれば乱入してでも処刑イベントそのものを食い止めるつもりだが、別に準備し過ぎても損は無いだろう。

 

 そもそも現実的な問題として、あの処刑イベントが起きる日付が分からないのだ。

 最悪の場合、何らかの事情で俺達が居合わせる事が出来ない時に事件が起きて、突然国ごと吹っ飛ばされるかもしれんのである。

 

 となれば、自分が居合わせる事が出来ない場合でもイベントを防げるように手を尽くさなければならない訳で、「あんたら弱いから修行しろよ」が俺が思い付く限りの最善手になるのだった。

 

 この場では「褒美は後日用意する故、本日はこれにて謁見を終了する」と言われ、俺達は城を後にした。

 

 

 

 

 アルバート達が謁見の間を退出した後。

 

 

「──ソアラ、シンシアよ、彼等をどう思う?」

「そうね……とても良い子達だと思うわ。ただ、引っ掛かる点が全く無いという訳でもないけれど」

 

「言葉遣い……ですよね、お姉様?」

「ええ。聞けば彼は宿屋の息子らしいけど、それにしても畏まり過ぎている気がするわ」

 

「私は、実際に彼に助けられる事になった私だけではなくお姉様も鍛えるべきだと言っていた事にも違和感を感じました。確かに言っていた事は何も間違っていなかったのですが、まるでお姉様も危ない目に遭う事を確信しているかのようにも聞こえて……」

 

 

 アルキード王は、2人の愛娘に問い掛けていた。

 彼女達は昔から直感的に人の本質を見抜く事に長けており、以前から度々官僚達の不正や欺瞞を見抜いていた。

 故に、今回ももし何かしら怪しい気配を感じたら対応を考えねばならないと思っていたのだが。

 

 

「……そういえば、彼等が2年前に突然鍛え始めたのって、夢でお告げを聞いたから、だったかしら」

「お姉様……もしかしたら、そのお告げで何か聞いているのかもしれない、と?」

 

「まあ、もしかしたら、だけどね? 例えば、今回の事件で貴女は死ぬハズで、それが原因の1つになって遠からず私も死ぬ。だから2人共鍛えて、死なないように自衛の力を付けて欲しい……とか」

「そんな、まさか──!」

 

 

 2人の話をバカバカしい、とも言い切れない。

 現に今回の事件において、彼等の助力が無かったらシンシアの命も、同行していた兵士達の命も落としていた可能性が非常に高いのだ。

 

 その事についてはシンシアからだけではなく近衛兵(エリック)達からも同様の報告を受けており、だからこそアルキード王は本当に感謝していた。

 

 ──王は、決断する。

 

 

「──お前達の話は分かった。ソアラ、シンシアよ、お前達は彼等と共にカール王国に向かうのだ。今回の一件で魔王ハドラーの脅威は去っていない事が判った以上、戦う力は必要である」

 

「分かったわ、お父様」

「アルバートさん達と修行……! 分かりました、お父様」

 

 

 アルキード王は、ソアラとシンシア。

 2人の王女をカール王国に留学させる事を決意した。

 

 そこにアルバート達を王女達の護衛という形で雇って同行させる。

 護衛として装備品を支給し、アルバート達を最強と謳われるカール王国騎士団の訓練に参加させ、そこにソアラとシンシアも加えて鍛えるのだ。

 

 

 

 

 全員が謁見の間を退出した後、アルキード王は1人ごちる。

 

 

「……後は、今回のような魔物への対策として、補助呪文だけではなく()()()()()()()にも力を入れねばならん。その為には、パプニカにも使いを出さねば」

 

 

 ──シンシア王女が襲撃された事件。

 

 ()()()()()()()彼女の死をきっかけにアルキード王国は攻撃呪文の修得に躍起になる。

 その結果、これまでは剣で行っていた罪人の始末を数人掛かりによる攻撃呪文で行うようになるのである。

 

 それは、シンシア王女が助かったとしてもアルキード王国にとっては大きな反省点となり、攻撃呪文、特にシンシア王女を襲った魔王の影の弱点である()()()()()()()に関しては特に力を入れていく事になる。

 

 果たしてシンシア王女を救った事でアルキード王国の滅亡を防ぐ事に繋がるのか……その結果が出るのは未だ3年程先の話である……。




 今回、オリキャラのシンシア姫に自分から名乗ってもらう流れを考えるのに苦労しました。姫様である事を知ってて助けたのに名前知らないとか有り得なくない? みたいな違和感がどうしても消えず。
 最初から名前を知ってる流れでも良かったかなとも思ったんですが、特別感を出したかったので名前を出すまでをちょっと引っ張りたくて(汗)

 それから更に、ソアラ様。ほんの少ししか登場させていないにも関わらずどうも口調に違和感を感じてしまって言い回しを色々考え直してしまいました。
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