MonsterHunter-forkroar- 星天の系譜 作:鉢鳥
「お久しぶりです、マスター」
「そんなかしこまらなくても。こちらこそ久々だな、ミスター・ブラック」
――リーテンジュ地方・ギルド本部――
小高い丘の上にそびえる古城を改装した古臭い……いやロマンチックな建造物。城自体が半壊しているが、それでもハンターズギルドとしての威厳を放っている。ちょうど今、雲間から差した夕陽で赤に染まり、荘大な雰囲気を醸し出していた。
そんなギルド本部の入口で、ミスター・ブラックと呼ばれた青年は「その呼び方はやめてくれ」とでも言いたいような苦笑いを浮かべつつ、眼前の男性と挨拶を交わす。青年の方はハンターらしく軽鎧を着込んでいるが、男性はそれと比べてもかなりごつい。背丈も頭一つほど差がある。
ちなみに「マスター」呼びからも察せるように、この方が当ギルドのギルドマスターだ。
「はは、すいません。ちょっと東の街道の方で騒ぎがありまして」
「いやいや、日暮れまでに間に合って良かった」
長旅ご苦労、荷物持とうか? そんな言葉を交わしながら青年を建物へ案内する。
実はその体格とは正反対で頭脳派。そして繊細な心を持つギルドマスターとして、近しい人からは親しまれている。のだが残念ながらそれ以外の人からの評判は良くない。
「人は外見だけじゃない」「何が外見金獅子だ」などとたまに愚痴をこぼしていたりするのはここだけの話だ。なんせギルドマスター、このあたりでは一番の権力者。一般人には彼と直接会話を交わす機会などそうそうないので仕方ないといえばそうだ。
ギルド本部は三階建てとなっており、最上階はまだお城だった頃のバルコニーが改装され、フリースペースのデッキとなっている。机と椅子、それと売店が設営された展望台というイメージ。ギルド本部自体の標高が少し高いため、眺めもいい。
先の二人も階段を上がり、そんなデッキの端の方で腰掛ける。
「そういえば、ネオ君は一緒じゃないのかい?」
「ああ、彼には先に宿に行ってもらってます。旅の疲れが出てるみたいで」
「なるほど。また色々話を聞かせて欲しいとこだな。……でだ、クロギヌ君」
ここからが本題だ、と言う感じで話を切り出すギルドマスター。対する青年——クロギヌが長旅帰り早々にギルドに寄ったのにはわけがある。
「――少し依頼したいことがあるとか言ってた件のことですよね」
「依頼と言うよりかは私的なお願いも含まれているのだがな。それと明日から少し忙しくなる影響だ、申し訳ない」
「いえいえ構いませんよ、ガーヴさん」
要するに、忘れないうちに話しておきたいことがあるのでちょっと寄ってくれないか、ということだ。若干申し訳ない顔をするギルドマスター――ガーヴ。騒ぎさえなければ午前のうちに到着していただろうものだが、仕方ない。
「話したいことは三つ、うち二つは依頼だな。
まずはギルドの研究所からの正式依頼。とりあえずコレを渡しておく」
ガーヴが差し出したのは綴じられたいくつかの紙束。一番上の表紙には、「モンスターの生態の異常について」とタイトルが付いていた。クロギヌにとっては見慣れた、一般人にとっては滅多に目にすることのない、研究者用のレポートである。
「近年——厳密には四年近く前の〈カラシナ村壊滅事故〉が最初か。リーダ(リーテンジュ地方の略称)で正体不明のモンスターの大群の観測、それらによる襲撃の被害報告が上がるようになったのは知っているか?」
「ええ、まぁ噂程度ですが……正直あまり想像したくない内容でしたね」
「それ以来、地方各地でも似たような襲撃が相次いでいてな。またそれに伴い、他のモンスターどもの様子も穏やかではない」
ガーヴが話す内容としては、「例の正体不明モンスターが、近年頻発するようになった騒動と関わっているのではないか」という内容。ちょうど今日騒動で到着が遅れたばかりのクロギヌにとってはかなり身近なものである。
——して、依頼と言うのはつまりそういうことか。
「まぁ、その調査を君にも手伝って欲しいということだ。今までも腕利きで信頼をおけるハンター何人かに協力を依頼しているが、それでも依然情報は少ないまま。こんな状況ではあるが協力してくれると助かる」
「わかりました」
「まぁ、何もわからないまま、これをやれだあれをやれだとも言えないので、とりあえず頭の片隅に置いておいて欲しい」
一通り話しおわると、内容が内容だったので緊張していた空気が一気に緩んでいく。
「二つ目。これも依頼……というよりかはオレの私情なのだが――とあるビギナーハンターの面倒を見てやってくれないか? 昔の古い友からの頼みでな」
「……」
「済まない、頼めるのが君ぐらいしかいないんだ。長年
あまりにも予想外な頼みに「なん……だと……?」と内心驚愕するクロギヌ。直接的な人付き合いの経験が少ない彼にとっては、見知らぬ相手の面倒を見るなど「無茶苦茶に無理」である。今ばかりは目の前のギルドマスターが金獅子のように見えてたまらない。
しかしこう頼まれると断れるわけがなく。ハンターのクロギヌに対してハンターズギルドのマスター・ガーヴ。こういうところはずるい立ち位置だと思う。
「……わかりました。で、どうすれば?」
「そうだな。明日の昼過ぎに本部に来てくれ。そこで話す。今日はもう遅いし、な」
断る選択肢はないものの、色々聞かずに承諾してしまったことを多少後悔するクロギヌ。とりあえず今は旅の疲れを癒す方が先決だと判断し、考えるのを諦めることとした。
「ところで三つ目というのは一体……」
「コレ」
ガーヴは彼にしては珍しくニヤリと笑うと、先ほど渡した紙束の上半分をずらした。そして周囲に人が居ないことを確認して、小声でその正体を明かす。もう薄暗くてよく見えないが、それは……
「今月のギルド刊行の
カタログは狩人問わず大好評で、それらの総まとめともいえるギルド刊行は滅多に手に入らない。見ることはできたとしても相当後になるだろう。そしてもう一つは……
「新兵器……って機密資料じゃないですか……!?」
新兵器開発資料。対超大型モンスター用の戦力として用意される兵器の開発資料。モンスターに対抗する人間たちの技術の結晶であり、それの持つ殺傷性と「まだ開発段階、すなわち安全の保障はされていない」ことより極秘事項とされている。それがなぜここにあるのか。ギルドマスター権限とは計り知れない。
「今日の礼として受け取ってくれ。くれぐれも他言無用でな。ではオレはこのあたりで。君もゆっくり休んでくれ」
「……お、お疲れ様です。えっと、これ……は」
椅子から立ち上がりそそくさとその場を後にするギルドマスター。「受け取れ。返却はさせないぞ」と言わんばかり。
流石に度肝を抜かれ、機密文書も含まれた書類の束をどうしようか、全力で思考を巡らせるクロギヌ。しかし彼の
(ギルドの新兵器……最近ここの砦にも滅龍砲が導入されたとは聞くが……まだ他のものもあるというのか?)
彼は要するに、武器マニアだ。ハンター用の十四種に飽き足らず、砦常設の固定型兵器にも手を出そうとしている。
「あ、そうだクロギヌ君。街の工房兄妹にも会いに行ってやってくれ」
「——そういえばそうですね。ではまた明日」
空にもそろそろ星が瞬き始めていた。