つまりそういう内容です。よろしくお願いします。
車の座席に揺られながら先ほどの状況を思い出す。不安な船出、というような感覚だ。
2027年3月末 08:00 横須賀艦娘訓練校
「江風達と離れ離れなのやっぱ嫌です!なんで私だけ別なんですか!」
「ンなモン募集枠の問題かお前自体にオファーかかったかのどっちかだろいい加減諦めろ」
「海風ちゃんまだやってるのです?」
「近くの鎮守府同士なんだからまた会えるでしょう。管轄的にお隣もいいとこですし」
「電ちゃんも加賀ちゃんも酷い!」
今日は横須賀にある艦娘訓練校の最終日。先日割り振られた鎮守府に卒業生が旅立つ日である。私、江風とよくつるんでいる海風、電、加賀も例外ではない。
私と電、加賀。それと別グループの瑞鳳、羽黒が東京にある127鎮守府。海風だけが同じく東京にある128鎮守府に配属されることが決まってから今日までこの調子である。
成績不良扱いされていた瑞鳳、羽黒はともかくとして「それ以前の問題」を抱える私達4人はまとめてどこかに押し付けられるか、落第になるとみられていたのだけれど、海風だけが別に配属される流れになっていた。
「海風まだゴネてるの?鎮守府間の連絡なんて緩いって話なんだからSNSでもなんでもやってなさいな」
「霞ママ!」
「ママ言うな」
騒ぎを聞いて同期の霞が歩いてくる。彼女の面倒見の良さにはだいぶ助けられたし、陰で「ママ」呼びしている同期が他にもいることを私は知っている。
「アンタたち近いから12時発でしょ?のんびり構えてなさいよ」
「霞ちゃんは達はもう出発なのです?」
「程よく遠いからね。そろそろ迎えが来るらしいからそれで出発するわ。電達も迎えが来るんだっけ?海風は来ないって話だから遅れるんじゃないわよ」
「電車の遅れ含めて予定立ててるから大丈夫です!でもやっぱり寂しい」
「……私も寂しいわよ」
「霞ママ!」
「だーもう!離れなさい!」
そういうとこだぞ愛され体質の霞。
「霞!迎えが来たぞ!」
「あら」
「重巡の足柄さんと軽巡の大淀さんだって!ほらもう来てるよ!」
パタパタとやってくる朝霜と清霜。霞と合わせて3人で配属になるそうだ。
「礼号組ってことかしらね」
「そういう相性とか結構連携に関わってきますし、妥当なのです」
加賀と電の話す通り、艦娘の元となったと思われる史実の艦の関わり。第何艦隊とかどこどこの作戦に参加した面子だとか。そういうものに沿っていると連携しやすいように、普通の艦娘の本能はできているらしい。そういう意味では「礼号組」で固めるのは妥当な判断だろう。
「ま、私らにはあんま関係ない話だよな」
「『異常適正(イレギュラー)』組はその辺駄目みたいですからね」
「だから私だけ128なのが納得できないんですけど!」
「疑問ではあるのよね」
「そこは申し訳ないです。私の落ち度です」
「「えっ」」
しれっと混ざる謝罪に驚く。足柄さんと大淀さんと一緒に来ていた艦娘だった。
「第127鎮守府基地司令兼艦娘の不知火です。少し早いですが挨拶に参りました」
陽炎型駆逐艦不知火。目つきが鋭く戦艦の様だ、というたとえ話はよく聞いていたけども。講師としてきた戦艦の人たちよりも圧がすごく、目つきが殺気立っているように見えた。怒ってないか……?
「貴方提督だったの?にしてももうちょっと空気柔らかくしなさいよ。ルーキーたちが怖がってるじゃない」
「すみません、これが地でして。申し訳ありませんが、慣れていただくしか」
足柄さんが嗜めるが地だという不知火提督。私の人生で1、2を争うような圧を地で出しているのか。
「本来、海風さんも我が第127鎮守府にと思っていたのですが、第128鎮守府の司令の要望で海風さんだけそちらにとなりました。一人だけ別にしてしまい申し訳ないです」
「えっと、あの、こちらこそ騒いじゃってすみません……」
「いえ、事情込みで尤もですから」
「その威圧でその謙虚さは噛み合ってないわねぇ」
「とにかく、私たちは時間よ、足柄。霞さん、朝霜さん、清霜さんも出発の準備をお願いします」
圧はそのままに、本当に申し訳なさそうな不知火提督と勢いが削がれた海風を余所に霞達が出発するようだ。
「私もメールとか送るから。元気にやりなさいよアンタたち。演習とかで再会したときに腑抜けてたら承知しないったら!」
「霞ちゃんもお元気で」
「朝霜達も程々にするように」
「加賀には言われたくないな」
「加賀ちゃん我が道を行くタイプだもんね」
「皆、元気でー!」
「あー、まァ、世話になった。またな」
霞たちが出発していく。
「第127鎮守府組は12:00に車を出します。それまでご歓談を。私は残りの瑞鳳さんと羽黒さんに挨拶を、そしてまあ他にもやることがありますので。では」
「あっはい」
不知火提督も踵を返していく。皆略す「第」○○鎮守府、までしっかり言う辺り生真面目というか硬いというか。提督というモノはそういう人種なんだろうか。
その後時間まで海風と4人であれこれ話をして、海風も出発していった。
12:00 訓練校玄関口
「アレ、これが……これが送迎車?嘘でしょ?」
「装甲車じゃない」
「なのです抜けてんぞ。いや物々しいのはそうだけどさァ」
「余所の車、もっと可愛いというかマシなのだったよね?」
「私達、これからどうなるんでしょうか?」
やけに厳つい車、というか装甲車が待っていた。合流した瑞鳳、羽黒も困惑している。
「悪いな色物で。ま、何があっても無事に鎮守府まで届けるから、そこは安心してくれ。これでも乗り心地は保証するからな!」
運転手らしき憲兵服をきた青年が笑う。20代ぐらいか。
「お待たせしました。では、皆さん乗り込んでください。坂田さん、帰りもよろしくお願いします」
「梓ちゃんはもうちょっと柔らかくな。いつも言ってるけど」
「努力、します……まだ硬いですか……?」
「カチカチだぞ」
「うぅ」
不知火提督が合流して出発になる。というか、今、普通に。
「改めて。第127鎮守府基地司令の艦娘不知火こと福山梓です。福山でも不知火でも役職でもお好きに呼んでください」
「俺達古株は梓呼びが多いし、そっちに倣ってくれてもいいんだぜ。で、俺は坂田だ。俺みたいな憲兵隊という名の男性職員も結構いるからそっちもよろしくな」
「えっ、あれ、本名って明かしていいのですか!?」
「訓練校じゃなるべく鎮守府内でもあまり出さないように、って言われてましたけど」
「覚え間違いじゃないよね?」
電や瑞鳳達が言う通り、私達艦娘の『素体(ベース)』となった名前を含めた素性は同僚にも、特に外部には晒すべきではないという方針がとられているはずだった。身内を犯罪利用する者が現れないように、とのことだったはずだ。
「ええ。皆さんはそのまま艦の名前でよろしくお願いします。私は立場上、というか目的上の方が正しいでしょうか。その為に福山梓という名前を隠す気はない、という特殊例ですね」
「艦娘だと思うとなんか基地司令相手なのに舐めてる連中居るからなぁ。そういう対策もあるんだよ」
やたら硬く圧の強い提督に、フランクな憲兵。本当に変な鎮守府に配属されてしまった気がする。
「どうなるんだろうな、コレ」
「……今度こそは、誰も、ええ、大丈夫」
「えっ?」
「いえ、何も」
不知火……福山提督がボソッと何か言っていたがなんだろうか。そんな落ち着かない空気の中、鎮守府に向けて車は走っていくのだった。乗り心地は確かに快適だった。