少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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101話 少年の恋心

 6月中旬 10:00 第127鎮守府

 

 

 私が戦線復帰して数日過ぎた頃。私は鎮守府で今日も特訓を行っているコハルとライルに話しかけた。かれこれここに来て2か月近く経過している。

 

 「なあ、お前らって事情いつになったら話せるの?」

 「なんのことかしら」

 「すっとぼけても無駄だっての。てーとくに友好的なだけだったらソキウスさん達だってこっちでも訓練に混じりそうなものなのに未だにお前達だけ。かといって何か介入するわけでもなし。まあ、マザーやあそーとのオッサンとの決戦とかについては詳細聞いてきたけどさ」

 「本当はそこに参加してお姉様のお役に立ちたかったのに……!」

 「僕達は徹頭徹尾周辺対処に回されたからね……」

 「で、どうなのさ」

 「シャオさんの許可が出るまで、というのは変わりないんだけど、その指示がこれに載っているんだ」

 「マターボード!……いや、ストーリーボードか?」

 「梓お姉様の活躍が基礎になったストーリーボードですわ。まあ、守護輝士(ガーディアン)のモノの簡易コピーですけれど」

 

 ストーリーボード。これからのより良い未来を目指すための指標を指し示すアイテムだ。

 

 「オラクル文字はまだ読み切れないンだけど……情報開示して……?」

 「情報開示をして一回戻る、って書いてあるよ」

 「なら話してくれてもいいじゃンかさ」

 「この下。前提任務に『東条怪異の解決』って書いてあるんだ。つまり、君の地元をなんとかするのが先だって指示だよ」

 「こちらとしても早く済ませたいんですの。いつ決行するのかしら?」

 「援軍諸々の準備が整ってからだからもう少しかかるって聞いてるけど、それなら引き下がっておくよ。それと、こう書いてるってことは東条での戦いには加勢してくれるンだな?」

 「うん。そのつもりだよ」

 「私(わたくし)達の真の力を見せて差し上げますわ!ほぉ~っほ!」

 「少しでも数が欲しい。マジで頼むぜ……!?」

 

 そう言っていると警報が鳴った。これは幻創種の出現警報だ。未だに幻創種は現れ続けていて、発生の中心が鎮守府に近いエスカタワーなこともあって私達も度々駆り出されている。特に、規模の大きい時は。

 ちなみに完全に無くなるかは不明だが少なくとも落ち着くまではもう数ヶ月かかるとのことである。

 

 『響だよ。局所的なエーテル反応の増大を確認。大規模に幻創種が出ると思われるよ。遊撃隊各員は出撃ドックへ頼むよ。繰り返すーー』

 「オラクルからも指示が出たよ」

 「久々に共闘といきましょう」

 「あぁ、行くぜ!」

 

 

 11:00 東京市街地・隔離領域

 

 

 「こちら卯月!遊撃隊は分散してアークスの援護に回れ!」

 「「了解!」」

 「こちら江風、ここの援護に……ってソキウスさん!それにライルとコハルも」

 「江風さん!心強い!」

 「私の力、とくとみるといいですわほぉ~っほ!」

 「敵反応多数、今日は一段と多いね……」

 

 私達の目の前に現れたのはナイフをジャグリングしているピエロやアメリカンなウサギの看板が持った拳銃を実際に発砲するやつやらと普段見ないものだった。

 

 「江風、こいつらラスベガスで見られたタイプだ!」

 「なんで日本に湧いてンだよ!」

 「そぉ〜れっ!」

 「コハルに負けるな、俺達も続くぞ!」

 「他の皆はこのタイプに戦い慣れてるみたいだし、援護に回ろうかーー」

 「……!生命反応!?」

 「ライル?」

 「救助対象かもしれない、行ってきます!」

 「ちょっと、おい!1人で先行するな!まったく……!」

 

 何かに気づいたライルが戦線離脱してどこかに向かう。この空間は一般人が入れないように隔離されているが、最初から入り込んでいた人や何かの適性で迷い込んでしまう人もいる。ライルの反応からするとそういった人がいるらしい。彼の感知能力は高い。

 

 「こちら江風、ライルのサポートに回る!響の姐さん、探知急いで!」

 『響だよ。了解したよ』

 「俺達もここを片付けたら援護に行く!江風さん、任せたよ!」

 「こちらは任せなさ……なんですの?あれ」

 「……任せていいンだよな?」

 「見目に惑わされませんわ!ほ、ほぉ~っほ!」

 「頼むぜマジでよ」

 

 新たに現れたデカいトレーラーのような幻創種を尻目に私はライルを追いかけた。

 

 

 11:15 隔離領域

 

 

 1人の女性がこの異空間に迷い込んでいた。彼女が連れていた人々は見当たらない。

 

 「ここは……っ!」

 

 そんな彼女の前にピエロ型の幻創種が現れる。

 

 「ハハハハ……」

 「い、いやっ、来ないで!」

 

 彼女の懇願を無視して近寄った幻創種が刃を振りかざそうとした瞬間。

 

 「はああああああっ!!」

 「!?」

 「えっ……」

 

 間一髪で駆けつけた少年の蹴りが幻創種に炸裂した。

 

 「『ヴィントジーカー』……派生!」

 「!?!?」

 

 そのまま必殺の蹴りに繋げた少年によって幻創種は爆散した。そして周囲を素早く確認した少年は女性に手を差し伸べる。

 

 「もう大丈夫です。お怪我はありません……か……」

 「……」

 

 女性は年下で健気なタイプの少年をこよなく好んでいた。対して少年は見目麗しく牽引してくれる年上の女性を好んでいた。断じよう。2人はお互いに好みど真ん中だったのである。一目惚れである。

 

 「あっ、えっと、た、立てますか?」

 「あ、ええと、腰が抜けてしまって……」

 「で、でしたら抱えて安全な場所に……いいですかっ?」

 「は、はいっ!」

 「で、では……っ!?」

 

 流れを妨げるように幻創種が再び群れを成して現れる。それも三方向から。そしてこの地点は三又道路の中心であり、逃げ道はない。

 

 「不味い、囲まれたか……!」

 「怖い……」

 「僕が、守ります!」

 

 少年が宣言し、女性を姫抱きにしながらどう立ち回ろうかと思った直後。

 

 「使わせてもらうぜあそーとのオッサン!具現武装を幻創の剣に切り替え!『滅び果てよ』!」

 「次の戦場(舞台)はここね!って貴方っ!?ええい、先に幻創種を片付けるっぽい!」

 「天叢雲!」

 「グラム!」

 「「はああああああっ!」」

 「「!?!?」」

 「江風に夕立さんに……火継と氷莉!」

 

 少年が来た道からは江風が創造神の力を再現した剣で衝撃波を放ち、別方向からは夕立が駆けつけながらウォンドを振りかざし、残りの一方向からは世界を救った少女2人が息の合った連携で切り払った。

 

 「よお八坂に鷲宮!助かるよ!っつかライルとも知り合いだったのか!」

 「蒼、それあそーとさんのヤツよね?よくやるわ!……あたし達はこういう手伝いでよく共闘していたからね!」

 「うわぁ、再現できちゃうんだぁ……」

 「マジ顔で引くなよ傷付くぞ鷲宮!」

 「吉永さん!?吉永光葉!なんで貴方がそこにいるっぽい!」

 「えっ」

 「なんで私の名前を……艦娘夕立……もしかして天王寺先輩?」

 「そうよ!ここ片付いたら事情聴取とメディカルチェック受けてもらうからね!」

 「姉貴の後輩なンだ。世界狭いな、っと!やられねェよ、『開闢の蔦よ』!ライル!よくわかんねェけどその人に傷一つつけさせンなよ!」

 「勿論!」

 「……(じっと見つめる)」

 「あ、えと……降ろしたほうがいいですか?」

 「このままで……」

 「はっ、はいっ」

 

 状況を各々把握しきれないながらも各個撃破で防衛戦が展開されていった。少年と女性の間の空気が微妙なそのままで。

 

 

 11:30 隔離領域

 

 

 あそーとのオッサンが私と矢矧相手に振るった幻創の剣。その威力や内容は魂に刻み込まれるレベルで印象に残っていた。そして思ったのだ。対多数の手札に欠ける私も使ってみたいと。

 療養中、本人(神)の了承と指導を受けた上でイメージトレーニングを行い、それらを復帰直後に使えるようにしていたのだ。それこそ世界を造り変える創造神の権能や非創造物である人達を本来の場所に戻すようなインチキは出来ないが、武装や戦術を再現するだけなら容易だろうという彼の言葉もあった。

 そういった経緯で対多数、足を止めて防御時には具現武装をあそーとのオッサンの大剣こと幻創の剣にして行い、敵に張り付いたり機動戦を行う際は従来通りのツインダガーで行うようになった。今回は剣でのいい実戦経験の場と言えた。

 

 「『終末の茨よ』!……へっ、生徒会に戻って腕がなまってると思ってたが動けるじゃないか、なあ生徒会さんよォ!」

 「蒼こそリハビリ明けなのにそんなに動いて大丈夫な、の!」

 「あそーとさんの攻撃をやるとか目茶苦茶だよぉ……ずっばーん!」

 「余裕ね貴方達!こっちもこれで終わりよ!」

 

 各々撃破し終えて周囲を警戒する。同時に響の姐さんから連絡が入る。

 

 『響だよ。隔離領域内の敵性反応の消滅及びエーテル濃度の低下を確認。任務完了だよ。民間への被害もライルが保護した人を除いて無し。その人も無事そうだね』

 「ふう、なンとかなったか」

 「お疲れ様」

 「火継ちゃーん、褒めて褒めて〜!」

 「あたしも同じ位頑張ったんだけど。まあいいか。よくやったよくやったー、っと」

 「撫で方雑すぎ!」

 「相変わらず距離感バグってンな。……それよりも」

 「変身解除。いつまで抱きかかえられているつもりですの?よ・し・な・が・さん?」

 「あっ、ごめんなさい今降ろしますね!」

 「あっ……」

 「えっ……」

 

 駆け付けた時も思ったがライルと夕立の姉貴の後輩さんの雰囲気がおかしい。

 

 「ラブコメの気配?」

 「黙ってなさい氷莉」

 

 鷲宮の言う通り、そういう甘酸っぱい気配でありーー

 

 「とっとと離れなさいその子私の上官が預かっている子なの!ライルさん?貴方も……」

 「ライルさん」

 「は、はい!」

 

 変身を解除した夕立の姉貴が引き剥がそうとする中で。

 

 「結婚を前提にお付き合いいただけませんか!?」

 「はいっ!……えっ?」

 「黙りなさいこの年下趣味ー!!」

 

 姫抱きのまま爆弾発言が飛び出した。

 

 

 15:00 第127鎮守府 応接室

 

 

 「吉永光葉さんでしたね。メディカルチェックの結果、貴方の身体に異常はありませんでした。今回隔離領域を大規模に展開した結果綻びが生じ、そこに迷い込んでしまった。というのが実情のようですね。それで……」

 

 てーとくがなんとも言えないといった表情で先を言うか悩んでいる。ちなみに襲って来たのは幻創種という話やライルやてーとくが宇宙人、という話は既にしている。

 

 「ライルは年上好みですの。初恋がカトリ様だったように、ぐいぐい引っ張るけれども可憐な女性が好みですわね」

 「吉永光葉も度の強い年下趣味でね。健気に努力する男性が好みっぽい」

 「……見事にマッチングしましたわね」

 「……やっぱりっぽい……?」

 

 見た目だけでなく中身もドンピシャでお互いに好みだったらしい。

 

 「えぇ、今回のことを忘れたいのであれば記憶処理を行えますが……」

 「私の想いは変わりません!ライルさん、私と結婚を前提にお付き合いを……駄目ですか……?」

 「えっと、うぅ……」

 

 潤んだ上目遣いでライルに迫る吉永さん。完全にライルも堕ちている。

 

 「吉永さん?貴方も由緒ある家の出。結婚相手は相応の格が必要なのではないっぽい?」

 「夕立の姉貴が通ってたのって名家が通うお嬢様校だったンだっけ」

 

 そうであれば宇宙人の平民(多分)とは釣り合わないはずだが。

 

 「いえ、家の方針で今の当家の勢力を拡大するのは悪手だと見解が一致しましたの。ですから一般の方を婿に、と言われています!」

 「確かにライルは一般家庭の出ですわね」

 「コハルさん。コハルさん……!」

 

 どんどんと、もうくっついてしまえと言わんばかりに情報を流すコハルに言い表せない感情を持って声ですがりつくてーとく。こんなてーとくは初めて見た。

 

 「時に、光葉様。貴方は頑張りを言葉で、態度でしっかりと褒められますの?」

 「えぇ、それは当然だと思っています」

 「ライルは同じ分野でそれはそれは優秀な姉を持っていましてね。誰もがそんな彼女を頼るものだからその背を支える存在になりたいと同じ道を歩んだのですけれど、他の同業者に『あの姉に比べたら大したことはない』という評価を受けてきましたの。その者たちよりもよほどライルの方が優秀ですのにね。ほぉ~っほ!」

 「ライル、貴方私と同類だったの?早く言ってくれればよかったのに」

 「加賀お前どっから出てきた」

 「分かるわ、その気持ち」

 「八坂も帰ったンじゃねェのかよ」

 

 定員オーバーになるので鎮守府からはてーとくと私、夕立の姉貴だけだったはずなのだが。八坂に至っては現地解散した覚えがある。

 

 「コホン。そういった経緯で自信を喪失していたから自信とさらなる実力を手に入れるためにこちらに私共々派遣されましたの。ライルの初恋の方もそんな姉と比べずに素直に褒められる方でしたの。……貴方様はそれらに並び立ち、いえ、それ以上にライルの心の支えになれると宣言できまして?」

 「出来ます」

 「即答ですのね。光葉様に詳しい夕立様。貴方様の人物評は如何でして?」

 「ああうん、そこについては保証できるっぽい。そういう子を褒め倒したい欲望滾らせている人間だもの」

 「結構ですわ。ライルの詳しい事情はまだ話せないのですがライルに貴方が相応しいことは判りましたわ」

 「コハルさん……!」

 

 なんだかもう涙目になっているてーとく。

 

 「梓お姉様が渋い顔をするのは事情を知っていますから分かりますわ。ですが、雛鳥はいずれ旅立つもの、違いまして?」

 「そう、ですね。私のこの感情についてもいずれお話してくださいね……」

 

 夕立の姉貴の婚約者の一件でも思ったが、場を取り仕切ったコハルは強いなと思う。

 

 「さて、これ以上話を進められませんのでこの話はここまでですわ。梓お姉様。話を進める為の東条について何か進展は?」

 「……丁度、亜贄社長から連絡の申し出が来ています。吉永さん、今日は一度帰っていただいて構いませんか?こちらは機密を含めた会議をしなければなりません」

 「分かりました。ライルさん、また」

 「はい……!」

 

 しっかりと手を握って別れを告げて吉永さんは去っていった。

 

 「吉永さんが鎮守府を出次第鎮守府全域通信に。八坂さんはこのまま同席していただけますか?」

 「うん、あたしも協力する気でいたから」

 「っつかマジでなんでいるンだよお前」

 「気になったからつい覗き見を……」

 「鎮守府の中にまで出歯亀しに来るンじゃねェよ!!」「だって友達の恋バナよ!?気になるに決まってるじゃない!」

 「お前いい性格になったよ、ホントにさァ」

 

 皆恋愛とういう名の話題に飢えていたというところだろうか。そうしている間に放送の準備が整った。

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