少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 ブリーフィング回です。


102話 東条異変 転

 6月後旬 16:00 第127鎮守府 会議室

 

 

 鎮守府の戦闘要員は会議室に集められ、『組合』やアースガイドといったその他協力者も通信を繋いでいる状態が整った上で話が始まった。

 

 「皆さん揃いましたね。では、まずは亜贄社長。状況の説明をお願いします」

 『やあ127に協力者の諸君。前置きは置いておこう。現在の東条怪異、以降は母多と呼称するけど、その依り代である東条賢三氏の息子であり次の依り代予定対象である東条麗華氏の父親である裕也氏から連絡が入った。麗華氏の誕生日、7月2日に依り代を移す儀式をすることが決定した、とね。その際のやりとりを録音してもらっていたからそれを流そう』

 

 ーー父さん、今年は俺も麗華の誕生日に同席してもいいか?亡き妻の使っていたヴァイオリンを麗華が使いたがっていただろう。あれはもう壊れてしまったけど同じ型、同じ製造年の物が手に入ったんだ。これを直接渡したい。

 ーーならぬ。

 ーーどうしてだよ父さん!俺は東条のために外との流通をしっかりやれているはずだ。これは東条の人達のため、って父さんの信条に沿ったものだけどそれ以上に麗華の未来のためにやっているんだ。だけどもう何年も麗華に会えていない。そろそろ会わせてくれよ……限界だよ!

 ーー麗華の誕生日に主様の拠り所を俺から麗華に移す儀式を執り行う。その際に外に染まっているお前を同席させては主様が機嫌を損ねかねない。安心しろ。1日で終わる。その後は戻ってきて構わない。いや、麗華の成長した姿を見てやれ。……長い間待たせて悪かったな。

 ーー分かった。誕生日に立ち会えないのは残念だけど、その後に帰る。……本気にさせてもらうからな、父さん。

 ーーああ。

 

 『……以上が裕也氏が聞いた賢三氏及び母多の計画だよ。私が裕也氏に接触したことは東条側も気付いているだろうけど、私のYMTコーポレーションは幅広く社会貢献と提携拡大のためにあちこちに働きかけている。疑われてはいないだろうというのが裕也氏の見解だ』

 「福山です。亜贄社長、東条裕也氏は信用に値する人物ですか?」

 『私の目に狂いがなければ、そうだね。娘が母多の依り代になることを嫌がっているし、正気だ。賢三氏の対怪異耐性が低いだからこそ依り代にされた訳だからね。そしてその母多への敵対意識は東条の街を出てからより一層強くなっている。それが逆に母多にとって付け入る隙になったようだけどね』

 「どういう意味よ」

 『単純な話だよ火継君。本来の東条の一族は母多を封印してきた、その素質のある一族だ。裕也氏も例外ではなく、賢三氏が例外的にその能力が低かった。その中で麗華氏が生まれて裕也氏が街を出て、東条の街に直接母多を害せる存在がいなくなった。才能があっても幼い子供ではどうしようもないからね。

 だからこそ母多はこの十数年で影響力を大きく強め、さらなる進化のために裕也氏以上の素質を持った器であり従順な麗華氏を依り代にしようとした、という訳だ』

 「それがあの街がおかしくなった理由」

 『その通りだよ江風君。『組合』の見解に相違はないかな?』

 『こちら『組合』を代表して濁流。亜贄社長の見解とこちらの見解に相違はないよ。強いて言うなら、裕也氏が東条を離れた当時、同時期に深海棲艦の脅威が世界を震撼させたタイミングでもある。アレで敵性怪異が色めき立ってね。海では絶望的な敵、深海棲艦と陸では呼応するかのように暴れ出す馬鹿共をしばき倒すと大忙しだった。おそらく、母多もその勢いに乗ってこんな大掛かりなことを始めたんだろうね。

 ……今言っても仕方のないことだけど、被害を最小限に留めるならあの時期に強制介入して母多を始末するべきだったんだ。今となっては後の祭りだけどね……』

 

 濁流さんが自嘲気味に呟く。どうしてそれが出来なかったんだ、と思う一方でそんな余裕があるわけがなかったんだよなという理性が脳内でせめぎ合う。

 

 『響だよ。先程の話を踏まえて、母多も7月2日に合わせて依り代を交代して力を強められるように母多の本体も動くことが想定されるよ。それを加味して、依り代移行阻止作戦を7月1日の早朝から行うことを提案するよ』

 『127鎮守府、そしてマザー・クラスタ、マザーだ。内容を引き継ごう。かの母多は肥大化が激しい状態であることがこれまでの調査で確認されている。根幹を切り替えるのに数日を要するだろう。ならばこそ、その全身を出すタイミングで討伐することが後顧の憂いなく解決できる一番のタイミングであると演算した。だが当日は依り代移行を強行される危険がある。故に前日を指定させてもらった。早朝なのは怪異の力が強まる黄昏時、つまり夕方と対極の時間帯であるからだ』

 『こちら濁流、異存無し』

 『こちらアースガイド代表、八坂炎雅。同じくだ。それで、どう展開する?』

 『部隊は大きく分けて母多本体を叩く第一部隊、依り代である東条賢三を無力化しつつ東条麗華を保護する第二部隊、母多の影響の薄いものを保護し拠点防衛を行う保護部隊、母多の眷属が隣町へ移動しないように堅守する防衛部隊、東条の街の各所で影響の薄い人間を救出し現れた怪異を叩く遊撃部隊に分けたい』

 『こちら濁流。防衛部隊は海沿いの東西に伸びた主要道路を塞ぐ形になるかね。それなら東は『組合』構成員に任せてもらおう。支部が東隣の街にあるんだ』

 『こちら八坂炎雅。西は同じ理由でアースガイドが請け負わせてもらう』

 『響だよ。それらはお願いするよ。次に保護部隊だけど、東条の地図をそれぞれに送ったけど見えているかな』

 『『見えている』』

 

 東条の地形、主要の建物が映し出されたマップが表示される。

 

 『保護部隊は3つに分けたい。1つは狂咲の祀られた神社の影響下にある総合病院。対母多として祀られた狂咲の影響で保護対象になる街人も周辺に多くいるだろう。もう1つは中学校。病院とは街の反対側にあり近隣住民の避難指定先でもある。丁度いいと言えるだろう。もう1つはどちらからも離れているこの丘になっている公園。ここは地形的に霊力が溜まりやすい場所だから敵に抑えられる前にこちらで制圧し、その力を使いたい』

 

 病院は私が祖父を看取った場所で、中学は私が通っていた街一番の規模の中学だ。公園は気味が悪くて近寄らなかった記憶があるが、それは霊力の影響だったようだ。

 

 『こちら濁流。公園は私の部隊が担当しよう。そういう霊地の扱いと防衛戦には一家言あるんだ』

 『こちらマザー・クラスタ、フル=ジャニース=ラスヴィッツ。中学校の防衛は私とクゥに任せて。私の得意分野は足止めだから』

 『同じくマザー・クラスタのオークゥ・ミラー。あたしとフルがいれば何も通さないわよ』

 『同じくマザー・クラスタのアラトロン・トルストイ。わしもここに加わろうかのう』

 「127の天龍だ。残った病院は俺達127鎮守府防衛部と憲兵隊の一部が担当させてもらうぜ。激戦区の防衛は慣れてるからな」

 『響だよ。保護部隊はこれで決定だ。次に母多本体を攻撃する第一部隊。これは127から梓と通常艦隊を軸に展開するよ。先のダークファルス【若人(アプレンティス)】同様、母多本体の力が尽きるまで叩き潰し続けてもらう形になるよ。同時に眷属、今表示したものだけど。こういったものの撃滅も並行して行ってもらうよ』

 「こちら福山梓。要はダークファルス及び眷属の殲滅戦ですね。了解しました」

 『続いて東条賢三氏の無力化及び東条麗華氏の保護、これは127から江風に行ってもらうよ。東条麗華氏と交友関係のある君が一番適任だからね』

 「こちら127の江風。元よりそこに志願するつもりでした。そして予想ですけど、東条家の関係者やら何やらが妨害してくると思います」

 

 特に斎藤やらといった使用人などはそうだろう。

 

 『そうだね。というわけで江風に随伴するメンバーを集めておきたいのだけど……』

 「電、やります!」

 「加賀、行きます」

 「海風、勿論!」

 「羽黒、やらせてください!」

 「瑞鳳もいきまーす!」

 「赤城、参ります」

 「ココよ!私も入れなさいよ!」

 『……その編成でいいかな』

 「皆……ありがとう」

 

 私の部隊は同期組とココでまとまった。

 

 『響だよ。残りの遊撃隊だけど、ある程度はこちらから指定させてもらうよ。まず卯月、夕立、雷、陽炎、黒潮の127遊撃隊』

 「こちら127の卯月!任せろっぴょん!」

 「こちら127の陽炎!組みやすい面子で組むってことね!」

 『その通りだよ。もう一部隊は八坂火継、鷲宮氷莉、アースガイドから八坂炎雅、127から矢矧。マザー・クラスタ及びアースガイド騒動の立役者チームで組んでもらいたい』

 「こちら八坂火継、任せて!」

 「こちら1……27の矢矧。了解したわ。ああ、まだ慣れないわね」

 『そして独立した個人として127から睦月』

 『空を征く睦月に付いてこられる子はいないからしかたないにゃしい。てぃひひっ』

 『こちらアークスからシエラ。守護輝士(ガーディアン)さんとマトイさんを派遣します!』

 『助かるね、でもペアで動いてもらうよ。精神汚染の激しい領域での戦いだ。こちらで管理できる睦月以外が個人で動くのは危険だからね』

 『同じくアークスのテオドールです。僕とゼノさんを小隊長にして2部隊遊撃隊に回ります』

 『こちらアークスのゼノ!ライルにコハル、お前さん達は俺と来い。いいな』

 「こちらアークスのライル、了解です!」

 「こちらアークスのコハル。梓お姉様の部隊に同行したいのですけどよろしいかしら?」

 『響だよ。そういう個人の配属変更は構わないけど、理由はあるのかい?』

 「そろそろ梓お姉様と轡を揃えて戦う舞台が欲しかったこと、母多という汚染源には思うところがあるから、その2点ですわね」

 『了解したよ。他はどうだい?希望はあるかな?』

 『ユーザーアークスの茅野コウタ!俺達も遊撃隊に……』

 『お勧めはしないよ。そうだね、敵対する相手について確認しておこうか』

 

 画面に母多が生み出した眷属、鎖鎌の成れの果て、きさらぎ駅で戦った怪異といった面々が映し出された。

 

 『まずは母多の眷属。生命体未満の肉塊が母多の大まかな意思のもとに襲いかかるもの。サイズは小型犬サイズから1m程度が確認されているね。多くの戦場においてこの群れを対処することになる。母多、その名の通り数の暴力でなんとかする傾向があるようだ。ちなみにこれらの死体は腐食を引き起こすから戦う時は下手に囲まれないようにね』

 

 鎖鎌と交戦した時も数が凄まじかった。てーとくは3桁を超えた時点で討伐数を数えるのをやめた、と言っていた。

 

 『次に有象無象の怪異。騒ぎに乗じて盛り上がった間抜け共。これは濁流、君に解説してもらうほうがいいかな』

 『こちら濁流、引き継ぐよ。こういう時になだれ込んでくる馬鹿は基本的に力のない雑魚だ。力のある存在はこと本件に関しては静観している。母多の暴れ方が有効だと知ったら各々動き出すだろうね。それを防ぐためにも本件は止めなくちゃいけない。ま、母多の眷属共と実力は五十歩百歩な上に死体も邪魔にならない雑魚だよ』

 

 酷い言われようである。きさらぎ駅で掃討した怪異も確かに弱かったが。

 

 『問題が最後の眷属化した元人間。この画像は5年前に小動物の連続殺害を起こした鎖鎌という犯罪者が母多の影響を強く受けて人の姿を捨てたものだ』

 

 鎖鎌の人間時代の画像も表示された。

 

 『ここまで人を捨てた場合、母多の影響下から出ると文字通り形が崩れて死ぬんだけれど。本作戦ではこの領域にまで至っていない人間も強制的に同様の姿になる可能性が懸念されているよ』

 『そ、それって……』

 『そういった人々の撃破は人を殺す。そういう行動になる可能性があるということだよ。茅野コウタ、君にはその覚悟はあるかい?』

 『俺……は……』

 『濁流さんから助け舟だ。『攻撃に非殺傷属性を付与する』という術式が『組合』にはある。母多の眷属は生命じゃないから関係なく倒せるしそれ以外は気絶する程度にボコって終了に出来るシロモノだ。ま、本来の火力から1割削れちゃうのがデメリットだけど1割まで大人しくできた技術の進歩に感謝しな!あっはっは!』

 『母多の影響を受けてもう助からないかどうかは一旦脇において倒して、母多の討伐をもって判断できるということかな』

 『そういうこと。殺す覚悟より、そういう連中がそうでない人々を手にかけさせないように止める勇気が欲しいかなぁーってね』

 『それなら……やってみます!』

 『良い返事だ。最近の若者は頼もしくて良いねぇ』

 『コウタ、俺も!橘イツキ、同行します!』

 『了解したよ。それなら八重を含めた憲兵隊部隊を同行させよう。救助対象を抱えて逃げるなら八重の膂力と速度は頼りになるからね』

 「ぽっ!?……こちら八重、頑張り、ます」

 「八重さんが加わるなら百人力だ!」

 「こちら127の江風。……濁流さん、今の話で1つ質問いいですか?」

 『なにかな?』

 「眷属化した奴って私みたいなハグレモノはともかく、非怪異状態の同じ東条の人でも攻撃対象になるンですか?」

 『怪異になった奴は基本そういうものだと思っていい。だから二次被害が出る前に早急に黙らせる必要があるのさ。特に関係性のある相手に攻撃という形を取るケースも多いからね。怪異化した母親が自分の子供を優先的に狙って喰い殺した、なんて話もある』

 「……!」

 『だから怪異化した人を戻す方法を探さずにさっさと殺そうとする勢力も少なくないのさ。ねえ、アースガイド諸君?それに今回は加齢に伴って母多の影響が濃くなると推察されてる。生まれは純粋でも段々土地に汚染されていく、って話だね。親の子殺しなんてさせたくなければ、遊撃隊は頑張ってね』

 

 その後も詳細を詰めていき、遊撃隊多めの編成になっていった。遠征部も遊撃隊に参加した。皆悲劇の生産は嫌なのだ。

 

 『こちら濁流。編成は終わったけど問題点はまだある。情報統制はどうする?結界で外部と遮断できる規模じゃないが、好き放題発信されると他所の怪異が勢いづくだろう。この誰もが発信者になれる時代、そこが一番のネックだ。私達やアースガイドが攻めあぐねていた原因でもある』

 『マザー・クラスタ、亜贄萩斗だ。そこは私に任せてもらおう。作戦開始数日前から現場入りして周囲一帯のジャミングを行おう。これで発信どころか通信は不可能になるし、エスカアプリなら記録も出来ないようにしておこう。その上でこちらが優勢な情報だけが流れるように手配したい。その演出については……』

 『マザー・クラスタのベトール・ゼラズニイだ。演出については俺に任せな。テリブルなシーンをエキサイティングなシーンにしてみせるZE!127にはそれを代わりに流してもらう。アンダスタン?』

 『響だよ。というわけで情報戦については心配しなくていい……と言いたいけれどキー局に入り込んだ母多の手先が直接駆けつけて生放送する場合はジャミングしきれるか分からない。その動きも随時確認するから注意してほしい』

 『こちら濁流。それならお任せしよう。さ、他にも詰めて行くよ!』

 

 そうして作戦の詳細が決まっていくのだった。

 

 

 会議後 第127鎮守府

 

 

 私は八坂とライルと会話をしていた。

 

 

 「改めてさ、お前ら友人関係だったんだな」

 「僕は地球に滞在しているから地球の対幻創種での出撃がメインだったからね」

 「アースガイドが壊滅している以上あたしも手伝わなきゃ―って思ってたらまあよく顔合わせて話すようになったのよね」

 「教えてくれてもいいじゃンかさ」

 「「話そうにも鎮守府に居なかったでしょ」」

 「それはそう」

 

 リハビリ中は『組合』の方で滞在していることも多く、ちょくちょく訪れていたらしい八坂と出会うことも滅多になかったのだ。

 

 「あたしは兄さん、ライルはお姉さんとお互い有名な兄弟持っている身としてシンパシーを感じてね」

 「アーデムの消滅に伴って炎雅さんの負担は爆増してますます有名になったからね」

 「そういや炎雅さん過労とか大丈夫なの?勉強はさぼり気味だって聞いてはいるけど」

 「宿題未提出とかでオークゥやフルとやいのやいのしててなんだかんだでリフレッシュしてるんじゃない?」

 「何か不満そうだね?」

 「ふ、不満じゃないし!兄さんとオークゥがなんかくっつきそうだなぁ、恋人かあいいなあとか思ってないし!!」

 「思ってるンじゃねーか!」

 

 八坂炎雅に構ってもらえないことを長年拗らせていたことを自覚したからか、八坂火継という少女には独占欲が見られるようになっていた。おそらくは本人も自覚しているが恥ずかしい、ぐらいの塩梅なのでこうやってやいのやいのと弄るぐらいが丁度いい発散なのだと思う。……変に拗らせた独占欲をアル少年に向けないといいなぁ、とは思っている。

 

 「しかしまあ、八坂争奪のために殺し合ったオークゥさんと炎雅さんが、ねェ」

 「表の学生、裏のアースガイドっていうどちらの面も知っている相手ってことで精神的にも寄りかかれる相手なんじゃないかな」

 「それは恋人が出来た実感から?」

 「火継!?」

 「私達がドンパチしてる横でロマンス始めたの正直笑ったからな。くふっ、思い出しただけで笑えて来た」

 「江風も!……仕方ないだろう、僕だって思春期の男子なんだから好みど真ん中の女性に出会ったらクラっとしちゃうって……」

 「顔真っ赤」

 「そういう八坂は好みの面の男とかいるの?それとも鷲宮のがいい?」

 「なんで氷莉?」

 「「え?」」

 「えっ?」

 

 あれだけ恋人もかくやという距離感でベタベタしていたのに自覚がなかったらしい。

 

 「お前そのうち鷲宮に刺されるぞ」

 「もう刺されたわよ」

 「もう一度刺されなおしてきた方がいいんじゃない?」

 「ライルまで何よ!……顔ねえ。顔だけで言えば変態社長よね。なんであんなに顔がいいのに性格が残念なんだか」

 「ハギトさん、お前と初対面の時は気持ち悪い演技してたけど実際性格まともだぞ。マザー・クラスタとして活動するんじゃなきゃあんな大げさな芝居じみた喋りも滑りもしないし」

 「さっきの会議の時も仕事の出来る人だなぁ、って思っていたけれど」

 「そ、そうね……さっきはちょっと見直したかも」

 「鷲宮はどっちを刺すと思う?」

 「まとめて撫で切りにするんじゃないかな」

 「なんでそうなるのよ!?蒼は!?蒼はどうなの?」

 「いねーンだなこれが」

 「それこそ色んな人と接してきたと思うんだけど」

 「そうよね。鎮守府でもあちこち連れまわされてるみたいじゃない」

 「私は友達を友達として認識するところからこの1年でスタートしてたぐらいだからさァ……」

 「「あぁ……」」

 

 友達ともっとベタベタワイワイしていい、というのは鎮守府に来てから学んだことでもあったし、地元に「親しい後輩」ではない「友人」が居たと認識できたのも先の帰郷で初めて認識できたことでもあったのだ。

 

 「つまり人間1年生ってことね」

 「これからの成長に期待ってことかな」

 「お前ら……まあ、だからさ。ああ、私にとってこいつは友達だったんだなって思った麗華の奴は絶対に助けたいんだ」

 「あたしに発破かけたのはあんたでしょ。絶対に奪い返して見せなさいよ」

 「全力で手伝うからね」

 「……そこだけどさ、この戦い、ほぼ確実に人を殺すことになるぜ。濁流さんは不殺の方法があるってコウタさんを宥めてくれたけど、強く汚染されてる奴は東条の街を出ただけで死ぬぐらいなんだ。母多が本気を出して片っ端から眷属にした場合、八坂の天叢雲の力でも生きて返せるか正直わからない」

 

 濁流の詭弁は外部には救える限り救おうとしていることのアピール、そして殺してしまった実働隊へのケアを兼ねている言葉だった。濁流が救えると言ってやらせたのだから、殺した責任は濁流にあると。あの人はそういう自己犠牲の仕方をよくやることを『組合』に出入りして交流する間に知ったし彼女の仲間達に頭を抱えられていることも知った。

 

 「覚悟できている、って言えば嘘になるけど。それでもそれこそ濁流さんの言っていたように眷属化した人に無事な人が殺される可能性を考えたら行かなきゃ、って思うわよ」

 「僕も人を殺した経験はないけど……『この程度』の戦場に怯えていたら姉さんの背中には一生追いつけないから。行かせて」

 「……分かった上で、か。私はさ、人殺しの経験をサクッとやっちゃって、馴染んじゃったから人のことをどうこう言えないし言う権利もない。だけど、人を殺すってことは怖いことだって理屈は知ってる。友達に、仲間にそれを背負わせたくもない。……ワガママなのは分かっているけどね」

 

 第二技研で私は反射的に殺人の実績を解除してしまった。そして「人も深海棲艦も殺す感触は変わらない」と思ってしまった。怪異やダーカーを殺した後も同じような感覚だった。だから私は殺すことに他のヒトより圧倒的に躊躇いがない。だけどそれが異常だということぐらいは理解している。

 

 「蒼だって。名前も知らないような人を殺すのと自分の知り合いかもしれない人を殺すのは話が違うでしょ」

 「今回の戦いは君の地元なんだからね」

 「……覚悟はしてる。これ、さっきも出ていた地図だけどさ。ここが私の実家でこっちがじいちゃんの住んでた、今は残りの親族が暮らしてる家」

 「……蒼の家は狂咲神社に守られてて、親戚の家は母多の影響をとても受けていそうな立地ね」

 「濁流さんに確認したら霊脈っての?そういうの的にも直撃コースだって。外来人とはいえ私に敵対意識を最期まで持たなかったじいちゃんが耐性の強い人物だった、って評価してた」

 「つまり残りの親戚は……」

 「眷属化する。確実にね」

 「江風はその人たちを殺せるの?」

 「分からない。そもそも私の進路を妨害しに来るかもわからないし、他のところで暴れて他の人が討伐したとしてどう感情が動くかもわからない。なんかもう、嫌いとか苦手とか通り越して、無なんだ。気持ちのやり場が、存在しないンだ」

 「不安定なのは蒼の方じゃない。……しょうがないわね」

 「八坂?」

 「二人とも手を出して」

 「うん」

 「八坂?ライル?」

 「いいから蒼も手を伸ばす!」

 

 言われるがままに3人で円を組む形で中心に手を伸ばす。

 

 「絶対生きて帰るわよ!それ以外のことは後から考える!えい、えい、おー!」

 「光葉さんにどう思われるとかも全て後だ!えい、えい、おー!」

 「……分かったよ、生きて勝って凱旋してやる。えい、えい、おー!」

 「「えい、えい、おー!!」」

 

 生き残る。そして、勝利を。

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