8:00 東条市街地 大公園 濁流視点
「濁流様!東から敵の増援が!」
「濁流様!南の救援対象に敵が!応援を!」
「濁流!保護した奴に眷属化した奴が出始めてパニックが起き始めている!」
「あーもー全部分かってるから自分の持ち場戻りなさい!それと様付けするなって言ってるのにもう。覚の姐さん、南と内部の応援お願い。私は東から北西とぐるっと回ってくる」
「はいよぉ」
想定通り、眷属化する住民が多く場は混沌としていた。最悪住民の6割が眷属化する想定だったこともあり備えは十分ではあるが、今回掻き集められた戦力にはここまでの惨状は未経験の面子も多いため中々忙しいことになっていた。
「『水槍衾』『水槍衾』『水槍衾』っと!公園に池があるから残弾には困らないし敵も脆いから回しきれるが、ね!」
私の術は空気中、あるいは液体としてある水をなんでもいいので操り槍衾として展開するものである。これは術の媒体として優秀な血を使ったモノより威力などは劣るが使い勝手の良さはその分以上に優れている。私の火力でも戦闘不能に出来る程度に眷属化した住民の耐久も低いことも幸いした。
この術を使っていて一番辛かった局面は、深海棲艦には艦娘に全く関係ない属性のため軽い波しぶきが当たった程度のダメージしか与えられないことである。そのため深海棲艦が現れた当初は特に火力を担当できず敵の気を逸らしたりすることしか出来なかったのだ。この戦場はそういうものに比べれば凄惨だが手が通るだけかなりマシだ。
「さて、少年達に啖呵切った手前バスバス殺すわけにはいかないから非殺傷にしてるけど、何割生き残るかね」
本来眷属化する程汚染が進んでいない人は母多が消滅すれば生存の目はあるのだが、果たして汚染が元々その程度の住民はどれだけいるのだろうか。
「でもやらなくちゃだし、他の地域への嫌で有力なサンプルになるし。戦後にしっかり参戦者のメンタルケアもしなくちゃだねぇ」
「ごばぁー」
「ぐげぎゃぎゃ」
「煩い」
「「!?」」
「対集団の持久戦は得意中の得意なんだ。『主人公』を引退した身とはいえ、舐めるんじゃあないよ”スラング”共め」
向き合わなければならない問題だが、非常に頭が痛い話である。深海棲艦出現のゴタゴタによる怪異躍進がなければもっと多くの人を救えたのかもしれないが、そんなたらればを言っても仕方がない。
「こちら濁流、公園の防衛の状況は想定通り。他の調子はどうだいどうぞー!」
東条市街地 中学校 オークゥ視点
「こちらオークゥ、中学校防衛も100%計算通りよ!」
無事であろう若年層を多く抱え込む想定である中学校全体を覆うようにフルの結界を張っていて、あたしやアラトロンの対処は保護済みの人間の中から眷属化する相手に絞っていた。
「子供を教え導く立場にいる教師や大人がまず眷属化して子どもに襲いかかろうとするとはのう。いやはやなんとも情けない話よ」
「汚染されてきた時間で変化のしやすさが変わるから計算通りよ。あたしの計算に不備はないわ」
「結界も問題なし。校内が落ち着けば維持は簡単そう。私達が一番楽かも」
「計算通りの計画ならこそよね」
校内の混乱についてもマザーや響から受けた最悪の想定で計算していたので問題はない。
「とはいえ、これが終わったら立ち直れるのかしらねこの街」
「わしらマザー・クラスタも手を貸してやる必要があるようじゃのう」
「排他的な地域性の関係上難航しそう」
普通、壊滅的な災害を受けて援助を貰うことを渋る人は圧倒的少数のはずだがそれなりの規模になりかねないのがこの東条という街だった。
「まあ、あの東条裕也って男が音頭を取るでしょうしそこからは80%ハギトの役割よね」
ハギトの手は既に東条裕也率いる東条グループに浸透しているため悲観はしていなかった。
「一番大変なのは病院の方かのう」
「そもそも患者もいるからてんてこ舞いそう」
「それこそ鎮守府の連中を信用してあげましょ」
東条市街地 大病院
「爆雷投射!ああもう、防衛ラインを定めにくいわね!」
「空から来るのは片っ端から撃ち落とすゼエエエエイヤァァアアアッホウ!」
「混戦状態だからルちゃんの大砲の使い所が難しいね」
「……雷、最大限で力使ってくれ!」
「今使っていいのね?」
「あぁ!」
「じゃあ早速!皆〜!」
「ぁ……」
「ぎゃ……ぁ……」
病院に詰めかける避難者と眷属化した人間、院内での混乱や入院中の人間などの眷属化。まとめて対処するのに雷をこちらの部隊に借りていた。このプランは良くも悪くも雷次第なところがあるため、無駄に消耗させるわけにもいかず札の切り時が求められた。
「天龍ちゃん、眷属化した人達にも効果がある!」
「よし、病院のスタッフにも通達しろ、無事な人とそうでない人を隔離していくぞ!俺は院外の避難民の確認に出る!神風はついてこい、他は防衛維持任せた!雷、無理しすぎるなよ!」
「「了解!」」
病院の周辺に辿り着いた人々も雷の影響を受けている。念の為眷属化した人を行動不能にしながら周囲を捜索する。そして雷の効果範囲のギリギリのところで。
「た、助けて……!」
「おう、こっちに来ーー」
「助け……だづげ……ごあぁ……」
「……ッチ、あと少しだったってのに」
目の前で眷属化して襲いかかってきた人を斬り伏せながら舌打ちする。
「天龍、大丈夫?」
「あぁ、問題ねぇよ神風」
「……いたたまれないわね」
「……あぁ」
もうそういう状況なのだという情報はあったが、こういった光景をまざまざと見せつけられるとやはりクるものがある。
「江風は強がって平気そうだったけど、大丈夫かしら?」
「あいつだけなら分からないが、あいつは一人じゃない。……信じようぜ」
「……そうね」
東条市街地 旧鎖鎌邸 卯月視点
「だっしゃオラァ!」
「素敵なパーティーしましょう!」
「陽炎達も忘れないでね!」
「ぐあっ!」
「何故ここががあっ!?」
「なんちゅう数おるんや」
アタシ達は旧鎖鎌邸やその他人気が少なく怪異が潜んでいると分析されていたエリアを急襲する役割を任されていた。中でも大きな邸宅で周囲の家屋もまばらな旧鎖鎌邸には母多の活性化のおこぼれをもらおうとしていたらしい有象無象の怪異がひしめいていた。
「自分で力つけんで他所の怪異が力をつける時に一緒に、ってせこい根性しとるでほんまに」
「だからこそ雑魚よね」
「だが騒動の後に面倒になるのは確定だ。その前に消すっぴょん!」
「予防抑止は大事な仕事よね」
母多の騒動がどう転んでも彼らは恩恵を受けるだろう。それを許せば戦後の復興時に人を襲いだす可能性も十分ある。そうなる前のこの段階で出来る限り駆除をしておくというのがアタシ達の任務だ。
「ぐあ……あぁ……」
「ねえ卯月、コイツって」
「元人間、だな。この騒動以前に眷属化してたみたいだが……大っぴらに出来ないからここに怪異共々まとめて隠されていたのか?」
「元人間で言えば鎖鎌だけど、アレのデータに比べたら弱いっぽい」
「自称母多に選ばれた者っちゅーのはフカシちゃうってことなんやろか」
「なんにしても眷属化しきった奴って街を出て母多の影響下から出ただけで溶けて死んじゃうような連中でしょ?やっとく?」
「そうしておこう、っと!」
「!!」
「こんな連中が他にもいるとしたら……」
「東条家の敷地っぽい」
「クソ、江風に精神的負荷が余計にかかるじゃねぇか」
「雷を第二部隊に回したほうがよかったんちゃう?」
「それだとパニックが想定される病院防衛が崩壊する。頑張ってもらうしかねぇっぴょん」
警察などでは事件被害者の身内の警察官などを担当にさせないなどの手回しがされていると聞くが、江風に対してそれが出来ないのが127の人材事情の厳しいところだ。
「少しでも江風達の負担を減らすために、こっちの仕事はきっちりやるぞ!」
「「了解!」」
東条市街地 コウタ視点
「次はあっちだイツキ!」
「ああ、まだまだやれる!」
「茅野君、今は人数が減っているから油断しちゃ駄目よ!」
「分かってますよ和泉先輩!八重さんもまだ行けますか!?」
「ぽぽ、まだまだ………!」
俺達は響さんから次々に出される指示の元救助対象を助けて回っていた。先程ラスト侍達にまとまった数になった救助者を拠点への護送を任せたところだ。現在は俺とイツキ、和泉先輩、アイカちゃんと八重さんだけの少人数になっている。
「よしこっちに……反応消失?」
『響だよ。変更で、次に示す方にーー』
「がああっ!」
「エネミー!?」
救助目標付近で急な目標変更に襲ってくる怪異。これは今回だけではない。だから流石に気づけてしまう。
「この人は、助からなかったのか……!」
「くっ、やるしかないのか……!」
「……イツキ。和泉先輩とアイカちゃんを連れて次の目標地点に急行してくれ。この人は俺が止める」
「コウタ!?」
「いいから早く行け!助けを待っている人がいるんだぞ!」
「……ああ、コウタも気をつけろよ!」
「先に行っているわね!」
「エネミーの反応が複数こちらに向かってきている。油断するな茅野コウタ」
「おうよ!」
「貴方も、行かなくて良かったの?」
「……」
この作戦において、127の人や濁流さんは人が怪異になることを「怪異化」とは言わずに「眷属化」と言い換えていた。おそらくそれは俺みたいな殺し合いに慣れていない人への配慮なのだろう。眷属化なら殺さなければ生き残る目があると言っていたが、逆を言えばここで殺さなくてもこの騒動が終われば死んでしまう可能性があるということだろう。それこそ八重さんが『怪異化して事件が終わっても怪異のままの元人間』だ。ともすれば、この人達も。
この作戦に参加すると言い出してイツキ達PSO2の仲間を巻き込んだのは俺の選択だ。イツキ達にそういうことを自覚させないように、直接手を下させないようにするとしても俺までそれに乗っかって逃げるのは違うと思った。正直怖いし手も震えているけれど。
「それでも、こういう人達を見捨てて他の人に危害を加えさせるのを黙って見過ごすわけにはいかない!……ふぅ。……さあ、悪しき力に堕ちた者達よ!我が正義の刃を受けるがいい!我が名は†KOA†!お前達を止める者だ!!」
「ぽ……かっこいいなぁ……」
軍属とはいえ俺より年下の江風ちゃんたちだって頑張っているのだ。俺だって出来る限り頑張ってみせる。それが俺が俺に課した役割(ロール)だ。
8:30 東条市街地 東条家前 江風視点
「見えたぜ、あの屋敷だ!」
「ゆっくり歩いて30分弱の距離なのに1時間半もかかったのですけどぉ!?」
「正直頭に来ています」
「怪異もモブ眷属も元人間っぽい眷属もたくさんいたよね……」
「早く進もう、後方に敵影確認したよぉ!もうやだー!」
「それだけ敵が江風ちゃんを危険視しているってことかな?」
「そうでしょうね。というよりそうでなければやっていられません」
「いい加減ヌルヌルしてて殴り心地悪いのよ!」
「とんだ中継になってしまったねぇ……」
「っ、麗華!父さん!」
かなりの数の敵によって少なくない消耗をしながらようやく東条家に辿り着いた。
邸宅の門から建物までは距離があり、そこに麗華や東条賢三、他使用人であろう人々がいた。麗華の近くで鎌倉と坂東が青ざめた表情でいるのも確認した。
「来たか……」
「麗華、大丈夫か!?父さん、母多の言いなりになるのはもうやめてくれ!」
「お父様……蒼さん……」
「……止めるわけにはいかぬ。東条の地の発展には俺から麗華に主様の依り代を移すことが必要だとお前も分かっているはずだ」
「それは母多が植え付けた妄想だ!こんな怪異に侵された街と付き合う外部なんていないしここの人々が母多に狂わされて皆人として生きていけなくなる!そんなことは許されてはいけないし東条の発展とは真逆だ!」
「何故、分からぬ……!」
「どこかおかしいって自分でも分かっているンじゃないのか、麗華の祖父さんよ」
「立花蒼……」
「麗華は賢い。同世代の東条の人間じゃあ間違いなく一番賢いよ。そしてアンタ以外で一番東条の街を想っているのも確実に麗華だ。そんな麗華が拒否しているってことが何よりの証明だ。それが分からないワケねェよなァ?」
「麗華の聡明さは正しい。……だが主様は間違っても……おらぬ。主様の加護こそが未来に必要なのだ」
「……そうかよ」
この人は「母多が絡まなければ」正気で理性的で客観的な判断ができる人なのだろう。それでもなお、狂信が同居する。これが精神汚染の末期症状ということか。
「アンタのいう主様が正しいなら、ぽっと出の外圧になんて負けないはずだ。だから力で示してみせろ。私達はアンタの言う主様の未来を拒絶している。どっちが正しいかを勝敗でもって麗華に示せばいい」
「望むところーー」
「立花蒼め!この忌まわしく薄汚い汚物め!主様を否定するなど許されない!旦那様!お嬢様!このような下賎な者の戯言など聞く必要はありません!」
「黙っていろ、斎藤。出しゃばるなと釘を刺したことを忘れたか……!」
割り込む様に狂った叫び声を上げる東条賢三と同年代の男。アレが家令の斎藤らしい。そして、何故だか彼の言葉を否定できない私がいた。懐かしさすら覚える。
「貴様さえいなければ、お嬢様は完璧でいられたのだ!この蛆虫めーー」
「一斉射!ってぇー!!」
「「!?」」
電達の攻撃が家令
「黙って聞いていれば人格否定をべらべらべらべらと!それでよく良家の使用人なんてやってられるのです!」
「今殺さなかっただけ恩情があると思って」
「何が完璧ですか!自分の思い通りって正しく言い直したらどうですか!」
「友永さんから話は聞いてたけどさぁ、ここまでとは思わないでしょ。仕える主ごと私物化して自分が正しいと昔っから喚いているクソ野郎、その通り過ぎるじゃない!」
「そんな人に頭ごなしに否定されるほど私達の友達で仲間は愚かでも悪くもないです!」
「江風が大人しく話を聞いているのをいい事に口汚い……いい大人が恥を知らないのですか?」
「お前達……」
「なんで言い返せないみたいな顔してたのよ江風!あんなクソ怪異に頭の隅々までどっぷり汚染されてそうな奴の言葉に正義なんてあるわけないじゃないのよ!」
「……」
……そういえばなんで私は私に対する罵詈雑言を享受していたのだったか。
「理由が知りたいですか江風ちゃん。母多による精神汚染は江風ちゃんにも大きく影響を及ぼしているから、なのですよ」
「!」
「何もかも否定するような連中に囲まれて自尊心を粉々にされて学習性無気力になって、その上で抗うことを考えないような精神汚染。これで悍ましい精神性のサンドバッグの完成。これが母多の醜悪な所。そう、『組合』から分析されていたのです。マザーもこの分析は正しいと判断したのです」
「江風、皆が皆して貴方を心配していたのは自分の地元に自分で手をかけるからだけではなくてこの精神汚染で余計に傷付かないかという懸念によるものよ」
「そういう話を作戦までに江風に何回言っても生返事だったよね」
「そう……だったっけ……」
「虐待されてる児童の精神の保ち方そのものだよね」
「こんなのおかしい、と考えたら心が保たないから。それを怪異は、その影響下で好き勝手にする人達はつけ込んだ……」
「だから私達が共に来ているんです。それを横で否定するために」
「江風がそんな扱い受けなきゃいけないヒトなんかじゃない、それは私達が一番良く知ってるのよ!江風、アンタ以上に!」
「いいのかな、ふざけるなって声を出して。苦しい、って声を出して」
「「当然!!」」
声が、震える。心にヒビが入るような感覚。いつかのアウトローが灰色の景色を鮮やかに吹き飛ばした時のような。
「斎藤、お前はもう黙れ……!」
「おやおや、裕也さんもお怒りのようだね」
「子供の頃からおかしいとは思っていた。父さんが言ってもいないことを父さんが言ったかのように吹聴して、勝手なことばかりして。まるで自分が権力者になったかのような傲慢さだった。外に出て気付いたよ。お前が、お前こそが東条家に、いや、東条の街における害獣だ!」
「子供の頃からお世話していたというのに!裕也様は気が狂われた!」
「『力よ!』……麗華、よく見なさい。これが東条家が代々受け継いできた力だ。母多を否定する、力だ!」
裕也氏を基点にこの街特有の粘ついた空気が吹き飛ばされていく。
「裕也様!やってはならなーー」
「黙れと言ったはずだ斎藤、いや、母多にとってもっとも都合の良い狂信者よ!母多はこの力を恐れた。かつて自分を討ち滅ぼし封印してきたこの力を!だから力をあまり持って生まれなかった父さんを利用して俺をこの街から追い出し俺以上に素質のある幼かった麗華を利用しようとした!
……俺はもう許さない。お前も、母多も。そして、麗華を犠牲にさせるつもりはないし父さんをこれ以上利用もさせない」
「止めろと言ってーー」
「斎藤。お前に発言の機会を与えた覚えはないがよく口の回るモノだな」
「旦那様、ですがこれが為を思うがからこそーー」
「それが余計だと、無駄だと、逆効果だと、学生の時分からずっと言ってきたが都合よく全部聞き流していたか?ああ、主様が重用しろと仰らなければお前を家令に、東条家に迎え入れることすらしたくなかった……!」
「そんな!?」
「依り代になって母多の言葉の言いなりになってる人からも嫌悪感を持たれているとか恥ずかしくないのですか?あぁ、そんな羞恥心なんて持ってたらこんなところにいるわけがないですよねぇ?」
「小娘風情が……!」
「そうやって人を見下すことしかしないから母多に、人の負の感情や出来事を糧にする存在に都合がいいと思われた。お前がのさばればのさばる程にそういうものでこの街が沈んでいくから」
「電、お前……」
「覚悟は決めてきたのです」
電はあの家令を殺すつもりだ。怪異化していないことも厭わずに。
「許せん……許せんぞ、外部の者共め!者共、かかれ!」
東条賢三にすら黙れと言われたのに懲りずに口を開き、号令をかける家令。そして現れたのは数人の大人だった。
「人?」
「またお前か立花ァ!」
「やはりお前は最低の人間だ!」
「江風、誰アレ」
「加賀、えっと……小学校の担任と中学校の体育教師。他は知らない」
「どんな人?」
「担任は私が出来ても出来なくても理由をつけてキレて私を殴ってくるのが日常だった。小学校6年間ずっと。体育教師もだね。一例を挙げればバスケでボールをルールに従って奪えばキレて罵倒して殴って来たりとかさ」
「教育委員会は……この街では期待もできないということね」
幼い頃からの恐怖そのもの。そして私がやさぐれムーブをするようになった原因。同級生もそんな教師に倣って私をどう扱ってもいいものだとしてきたし、両親が学校や教育委員会、警察等にかけあっても無駄だった。
「よくそれで不登校にならなかったね?」
「海、休んだらお前の家に押しかけてお前の親ごと危害を加えてやる、火をつけてやるなんて言われたら、さ……」
「酷い……!」
「それでも、中学からは麗華が割って入って止めてくれたからだいぶ楽にはなったんだよ。だから、なんとかやってこれた」
「……他の面々は東条グループのこの街の重役ですね」
「へえ、東条に出向した人々を家族ごとボロボロにしてきたという、あの?」
「そうですよ亜贄社長。……この連中全員、お前の手のかかった人間ということか、斎藤……!」
「この面々は主様がお認めになった人々!即ち選ばれし者!ああ、この最上位にいた鎖鎌をお嬢様の婿に入れるはずが立花蒼、貴様が阻んだせいで……!」
「鎖鎌ってあの猟奇犯だよね」
「そんな年の離れた人が婿!?考えただけでゾワッとする……」
「東条賢三さん。貴方もそれを認めていたと?」
「認めていない。俺は認めていないと言ったはずだが、勝手に話を進めてくれていたな……!」
「ほんっとうに醜悪なのです。それで連れてきた面子も屑揃い。最早生かすことが害悪。人殺しと言うなら言えばいいのです。……127鎮守府所属電!母多の狂信者斎藤をこの手で排除するのです!」
「許されるとーー」
「許しを請うのはお前なのです。死ね。全弾発射」
電の具現武装が明確な殺意とともに家令一行に飛ぶ。そして爆発し、煙が晴れた時ーー
「ダヂバナ”ア”ア”ア”!!」
「ゴアアアア!!」
「なっ……ンだよ、それ……!」
そこにいたのは人の姿など欠片も残っていない眷属化した人々だった。
「江風ちゃん」
「電……?」
「事前調査どおりなのです。江風ちゃんが知ったら変に気をやりそうなので黙ってましたけどこいつら全員当の昔にヒトを辞めて母多の眷属に、怪物になっていたのです。だからここで全て殺します。特に筆頭眷属になっている家令の斎藤の排除はマストなのです。
……裕也さん、退魔の力を出し続けてください。その圧力の下で戦えると有利なのです。ハギト社長、裕也さんの護衛をお願いします」
「ああ、分かった!」
「勿論」
「江風ちゃんは麗華さんとそのお友達の確保と保護に集中してください。いいですね?」
「……」
「いいから動くのです!」
「電の言う通りよ。あの怪物共は私達で殺すからゆっくりしていなさい」
「江風、お姉ちゃんに任せて!」
「加賀、海……」
見知った人間が既に人間を辞めていた事実と光景に私は非常に動揺していた。電達はどこまで折り込み済みだったのだろうか。
「いいから走る!『友達を助けるため』に来たんでしょ!ブルって動けないなら「迷い猫(ストレイ・キャット)」改め「迷子の子猫ちゃん(ストレイ・キティ)」って呼んじゃうからね!」
「背中は私達が守りますから!行って!」
「あの男の魔の手が麗華さん達に行く前に、早く!」
そうだ、私は麗華を助けるために来たのだ。躊躇っている余裕なんてない。
「分かった、って、あれーー」
そう思ったところで意識が暗転した。