少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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105話 悪夢の中に立ち返って

 ーーきひひっ!

 

 

 5:00 立花家 蒼の部屋

 

 

 「うぅ……うぅん?なんかすごい壮大な夢を見ていた気がするけど……もう思い出せなくなってるな。最後になんか笑い声が聞こえたような?」

 

 目が覚める。かなり頭の中がぐるぐると不調だが。落ち着くためにベッドから出て周囲をぐるっと見回す。

 

 「ええい、私は立場蒼!中学3年生!ここは私の自宅、私の部屋、私の牙城!……っつか今何時だよ。って5時!?学校あるけどそれでも7時に起きればいいのに2時間も早いの!?……でももう眠気飛んじまったしなー……でも、うん……なんかいつものだろって気もしてきたけど夢のせいだな?」

 

 どこかの地方のように朝課外があるわけでもなく、朝練が必要な体育部に所属しているわけでもないので早起きなど意味がないはずなのだが。部活に関してはどこも門前払いされていたので帰宅部である。

 

 「んーまー……ジョギングでもしてくるか?」

 

 そうぼやきながら寝間着からジャージに着替える。

 

 「7時までに帰ればいいよね。行こう」

 

 家を出てすぐ。近くの神社の前に差し掛かってあることに気づいた。

 

 「神社が崩落のため立入禁止?誰も整備しないからもう。立入禁止看板立てられただけまだマシかな?」

 

 別に用事もないので関心はすぐに薄れ、ジョギングを再開した。

 

 「思った以上に走れるな。私こんなに体出来てたっけ?」

 

 いつもより「上手く走れている」という感覚がある。まるで「上手い走り方を体が覚えている」かのような。

 

 「……あれ、ここ東条の屋敷じゃねーか。それと門に人……ってアレは……」

 

 気付いたらこの街一番のお屋敷が視界に入ってきていた。この街、東条を実効支配している東条家の屋敷だ。そしてその入口に見知った顔がいた。

 

 「よう、麗華」

 「あ、蒼さん?どうしてここに?」

 「目が覚めちゃって暇つぶしにジョギングしてたトコ。そっちは?」

 「私もそういったところです」

 「ふぅん……あれ?」

 「どうかしました?」

 「……いや、前にもあったっけ、こういうこと」

 「?」

 「なんでもない、忘れてくれ」

 

 普段ジョギングして回る習慣もないはずだし、こうして早朝から麗華と顔を合わせる機会なんてなかったはずだ。まだ夢の影響が残っているのか。

 

 「それはそれとして物憂げな表情だったけど、夢見でも悪かった?」

 「……いえ……」

 「何かあったら言ってくれよ。力になるから。私は、『お前に命を捧げてもいいと思っている』んだから」

 「…………はい」

 

 そういえば、麗華と下の名前でいつから呼び合うようになったのだったか。

 

 

 ーー

 

 

 東条市街地 電視点

 

 

 「なんですか……、これは!」

 

 海風が叫ぶ通り、家令の斎藤が怪異の姿になった直後、江風と東条麗華やその取り巻きがまとめて気を失って倒れたと思ったら謎の光景が映し出されていた。

 

 「江風が見ている……夢?」

 「精神汚染の母多の筆頭眷属として何か特殊能力はあるだろうな、と分析結果は出ていましたけどこんなことまで……」

 「麗華様が!立花蒼を過去の時点で殺していれば!このように長引く事もなかったのだ!」

 「あの空間で東条麗華が立花蒼を殺せばそう現実が変わると?」

 「その通りだ小娘よ!これこそが起きて然るべき事象!私がそれを成す!ハハハ、ハハハハ!」

 「無駄なことを、なのです」

 「……何?」

 

 随分ととんでもないことが出来るようになっていたらしいが、それだけで過去の重要な出来事をサックリ変えられるなら司令官は何度も何度も心を削って闇に落ちて狂いながらマトイさんを救おうと奔走する必要などなかったわけで。

 

 「程度が知れたのです。やらかすことばかり大げさで成果が伴わない虚勢。それがアナタで母多の本質といったところなのですねぇ」

 「貴様……!」

 「図星と言ったところなのですかぁ?」

 (私がヘイト集めるので皆は暴力教師達からぶちのめしてくださいなのです)

 (そう、分かったわ)

 (急にメスガキムーブ始めて何かと思った……)

 

 アプリ「トラ♪トラ♪」で気付かれないように味方に指示を出しながら敵を煽る。感情や敵意などを感知できる私は、こういったヘイト管理に向いているのだ。普段は前衛の江風がスキル「ウォークライ」を使いつつ担当してくれているので矢面に立つことは少ないが出来る出来ないで言えば出来るのだ。

 

 「思考汚染も重ねて江風ちゃんには自己犠牲を、麗華さんにも使命感でも持たせて実行させようとでも思っているのでしょうけど、ヒトの心がそれだけで思い通りになると?ばぁ〜っかじゃねぇの、なのです」

 「自己犠牲を植え付ける?江風ってそんなのが通用するキャラしてた?」

 「割としてるのですよココちゃん」

 「軽々しくヒトの人生に責任取るとかポンポン言ってはいるけどさ」

 「躊躇いなく誰かに自分の人生差し出せる辺りでそういう素質十分なのです。それこそ「江風ちゃんはそういうこと言う」って思ってましたけどこの街の攻略になんか無意識的に消極的な江風ちゃんを『組合』が徹底調査したらまあ色々と出てきたのです。

 ……端的に言えば、江風ちゃんは、『立花蒼は東条という街における生贄だった』ことが判明したのです。当然そんな彼女を貪り尽くしてきた東条のヒト達は分かっていることでしょうけどね」

 

 『組合』曰く、因習村のようなものの概念の一つにあらゆる悪いことを全て特定の個人のせいだと押し付けて集団の安定と安寧を狙うものがある。東条の街における立花蒼とはまさしくそういうものであり、それ故になんでもかんでも彼女のせいにして怒りの捌け口にしていいという住民性が形成されていた。この闘いの前の調査では、そんな彼女が街を出てから捌け口の喪失による均衡が崩れて一部住民の精神が乱れていることなども確認されていた。その筆頭が今対峙している家令の斎藤や暴力教師達である。

 ではそのようなことが何故起こったか。主な原因は母多にある。本来人々の負の感情や思念といったケガレ概念が漏れ出たものを吸収する存在である母多がこの十年程度で大きく主導権を得ようとした。本来ヒトの集団はケガレ概念をやりすごすなり追いやるなりして成り立つもので、母多が主導権を得るということはその逆を行き、成り立たなくなるということである。

 その矛盾、皺寄せを依り代であり街を成り立たせている指導者でもある東条一族にやらせるわけにもいかない。結果、その他個人であった立花蒼にそういう適性があったこともあり、押し付けたという流れだ。エーテル適性があったから押し付けられたのか、押し付けられたから生存本能としてエーテル適性が覚醒したのかは不明とのことである。私の読心能力と似たようなものだ。

 ヒトは正気では耐えられない理不尽に襲われて逃げられない時、自分の認識を歪めて順応しようとする。これはおかしくない、普通だ、自分は大丈夫だと。人生こういうものなのだと。そしてその認識を改めるには万全なケアと理解者が整った上で少しずつ、場合によっては投薬治療も込みで必要になっていく。一般的な被虐待児童の回復にもそういった流れが必要なのだから、超常存在に長年歪まされてきた立花蒼という少女がすっと受け入れいて立ち直れるわけもない。結果的に自己犠牲を躊躇わない、自分の救いに代わりに誰かを救うために自らを危険に投入し続けるヒトになったのだ。

 そしてこれら一連の流れを作り主導したのは母多であり、その精神性や特性を受け継ぎ凶事を働く斎藤のような人物らには母多経由でそういう情報も入っている。ここまでが『組合』の分析だ。

 

 「そういうわけで江風ちゃんを歪ませてきた貴方達を全て滅ぼしにきたのです。ああ、勿論貴方達自身の調査も抜かりなく行っているのですよ?江風ちゃんに関係なく人格破綻者で無法者。ヒトとして唾棄すべき面々」

 「クソガキが……があっ!」

 「電ちゃんこいつ再生力が高い!残ってる部位があったら再生しちゃう!」

 「特殊能力持ちですか。なら、半身が消し飛んだ今!『スフィアイレイザー』!」

 

 斎藤が連れてきた一人を完全に消滅させるため、極太レーザーを大砲(ランチャー)から吐き出し続けて殲滅するPA(フォトンアーツ)を浴びせる。これなら欠片も残るまい。

 

 「なっ……貴様ぁ!」

 「理不尽をさんざん押し付けて自分は大丈夫だなんて思わないでください!主砲発射!」

 「ここまで醜悪だと聞いてて体調が悪くなるよね。艦載機いっけー!蜂の巣にしちゃって!」

 「電!他の撃破済みの眷属にも再生の兆しが!」

 「赤城ちゃんには艦爆でその連中のリスキルをお願いするのです!」

 「えぇ!」

 「さて。ここまで戦闘に加わらない東条賢三。貴方、『戦わない』のではなく『戦えない』のですね?観察していて確信を持てたのです」

 「……!」

 

 本来、相反する怪異と退魔の力。そしてこの街でもトップクラスの合理性、倫理観を持ちこの街を発展させる、プラスにするという非常に強い信念を持った人物。言ってしまえば『立ち位置的に依り代にするのが最適解』であると同時に『母多の依り代として最も向いていない精神性をした人物』でもあると言える。

 結果として、母多の復活、躍進を大前提としながらそれにそって暴虐の限りを尽くす人々に否定的で、母多も思うように動かせなかったようだ。結果としてその権力を代わりに振りかざせる家令を増長させ特殊能力を得るほど加護を与えていたという形になったのだろう。これも事前分析の中で出てきた話の一つである。

 

 「その矛盾を抱えたまま頑張らなければならなかったその辛苦、お察しします。……だからこそそれを麗華さんに引き継がせないというのがこちらの立場。しっかりと見届けるがいいのです!」

 「黙れ小娘!旦那様に知ったような口をォ!」

 「一番近くで何もわかってないお前が言うな、なのです」

 

 これが母多の影響10割なら母多は凄まじい、となるがこの男の人間性は昔から、つまり母多の影響を受ける前からこうだった。

 

 「タチバナアオイを殺せェ!」

 「敵の増援!?しかも戦線無視で江風を狙うつもり!?」

 「ーー『滅び果てよ』」

 「「!?」」

 

 今の江風は気を失って無防備だ。それを狙って敵の増援の怪異ーーおそらく元人間だろうーーが飛び出してきたがその江風によって薙ぎ払われた。いや、あれは江風ではなくーー

 

 「あそーとさん?」

 「然り。気を失った憑依先の危機とあれば傍観しているわけにもいくまい。この身体の自衛は任せられよ」

 「江風ちゃんの意識にアクセスはできませんか?」

 「我には出来ぬ。だが、立花蒼の意識がかの空間に囚われる際に艦娘江風の魂が同行していた。後は彼の者がどうにかするだろう」

 「分かりました。私達があの空間に突入することは可能ですか?」

 「我の支援の下、数分ならばな」

 「やるならここぞって時ですね。なら、やることは!『ディバインランチャー!』」

 「ぐおあっ!だが私は死なぬ!主様の加護がある!!」

 「しぶといのですけど、母多の大元は司令官さんが殴ってくれていますし大きな霊地は濁流さんが占拠してますし、残った力を削っていけばいい。光明は見えているのです」

 

 そう告げながら異空間の方を見やると江風は何も気づかないまま2日目を終えるところだった。色々と知った上で見抜いているぞ、と煽ったがこの作戦の要は江風であり、彼女があの空間を突破出来ないと全てが瓦解する危機的状況である。

 東条麗華側も母多を受け入れる行動をしたくないのか何も覚えていない状態であの世界に投入されているのか江風を攻撃するそぶりが見えないのが幸いだが、家令が支配する世界である。何が起きるかわからない。

 

 (出来る限りこっちのクソ家令を削っておくに越したことはないのですが……どれだけ母多から力を与えられているのですか!?体力が無尽蔵と言うか、こっち側に核がないとでもいうのですか!?)

 

 

 三日目 5:00 蒼の部屋

 

 

 「すぅ……うぅん……」

 (きひひっ、いつまで寝ぼけてるンだよ!)

 「声が……はっきりと……?」

 

 それはどこかで聞き慣れていた声。

 

 (総員起こーし!!!)

 「うわっ!?」

 

 そんな声の大音量で目が覚めた。この数日変な夢ばかり見る。

 

 「……夢じゃ、ない?違う、どこかでずっと聞いていた……」

 (おーい、やっと届いたかー?)

 「……やっぱり!」

 (私は江風、白露型駆逐艦9番艦の江風だ。名前、間違えンなよ?)

 「かわ……かぜ……ぐっ!?」

 

 江風。そのワードを呟いた途端一気に情報が押し寄せてくる。私は立花蒼、『127鎮守府所属の軍歴2年目の艦娘江風である』、と。その中で何と出会ってきたか。今、どうしてここにいるのか。

 

 「頭、いだ……っ!」

 (おいおい、頭痛くて動きたくありませんとかナシだぜ?)

 「無茶言う、な、割れるように痛い……」

 

 まるで、『思い出してはいけないこと』を思い出してしまったかのような感覚。

 

 (さっさとこの状況生み出してる斎藤って奴をぶっ倒そうぜ?)

 「……」

 (何躊躇っているンだよ)

 「いいのかな……『そんなこと』をして、この街のためになるのかな」

 

 私はこの街に『尽くさなければならないのに』。

 

 (いいかァよく聞けよ。オメーのソレは精神汚染だ。思ってもねェことを思うように仕込まれてンだよ)

 「これは、昨日今日の話じゃない!ずっと、ずっと前から……ずっと、ずっと抱えていたことなんだ!」

 (それが昔っから汚染喰らってたって言ってるンだよ)

 「そんなの、認められるわけーー」

 (じゃあ試してみようぜ?)

 「試、す?」

 (汚染取っ払っても同じコト考えられるかをさ。方法は至ってシンプルだ。狂咲に会いに行くのさ)

 「狂咲……ぐうっ!?」

 

 より頭痛が強くなる。肩で息をする。

 

 (そもそもこの街で戦闘する前に狂咲を憑依させたのにここにいねェのはおかしいだろ?都合が悪いから隔離されてるのさ)

 「……はあ、ふぅ……神社、か」

 (そういうこと。よーやく頭が回ってきたか?きひひっ!)

 「出かける前に……頭痛薬飲ませて……」

 

 そうして足取り重く出かけるのだった。

 

 

 6:00 狂咲神社

 

 

 「はあっ、はあっ……やっと……ついた……頭痛薬飲んだのに頭痛が酷くなって来て……!」

 (本能的に触れちゃいけないトコに触れてるみたいだかンなー?)

 「だったらちょっとは容赦、しろよ……!」

 (ンなコト言ってる余裕なさそうだからね)

 「にしてもやりようがあるだろこの人でなし……!」

 (だって江風ヒトじゃねーモン)

 「この野郎……」

 

 そうやりとりをしながら本堂に入る。本堂の奥には狂咲が封印されていた石が鎮座していて、封印の注連縄は三本しっかり巻き付いていた。

 

 (きひひっ、厳重に警戒されてるじゃンかさ。都合が悪いって白状してるようなモンだね!)

 「封印を解いてはいけない、って本能が訴えてくる……」

 (いいからやれよ。オメーがうだうだやってる間にオメーのダチがどんどん危険な目に遭う可能性があるしあっちじゃ電達仲間が必死に戦っているンだぜ?迷う時間はない)

 「手が震える……クソッ、やれ、やるんだ私……具現武装!」

 

 冷や汗で背中がびっしょりになりながらなんとかツインダガーを生成して注連縄の一本を切り落とす。刹那。

 

 「あ、ぁあ、あぁああああ”あ”あ”あ”!?!?」

 (拒絶反応かァ。徹底的に対策されてンのな)

 「はあ、ぁあ、ふぅ……!」

 (後二本だぜ)

 「後で、覚えて、うぅ……うあああっ!」

 

 もう一本を切り落とす。自分が立っている土台が、根本的な足場が崩れていくような感覚と恐怖と憎しみと、様々な負の感情が押し寄せてくる。

 

 「怖い、恐いコワイコワイコワイコワイコワイコワイ……」

 (オメーさァ)

 「コワイ……?」

 (散々殴り合ってきたバミューダの怪異とかあそーとのオッサンとかとどっちのが怖いんだよ)

 「それは……でも、こんな感覚は違う、違う……」

 (なら行けるよな。それとも体乗っ取って無理矢理やってやろうか?)

 「…………自分で、やる……ーーッ!!」

 

 声にならない悲鳴を溢しながら最後の一本を切り落とす。感情が決壊した。私は私が受けてきた理不尽を直視した。ソレが私には耐えられない、抱えきれないモノであったと自覚した。

 

 「あぁぁぁあああああああ!!!いや、嫌、嫌ぁああああああ!!!」

 (おい、石に手を触れろって、おい!)

 「うわああああああああ!!!」

 

 その場でうずくまり、泣き叫ぶ。もう嫌だ、耐えられない。なんで、何で私がこんな目に遭わなければいけないのか。

 

 「誰か助けて……助けて……!」

 『やっと言えましたね江風ちゃん!』

 「っ!?」

 

 頭痛や恐怖を吹き飛ばすように頭に直接声が降ってきた。

 

 『悪趣味なクソ家令のお陰でそっちの状況は把握しているのです!それ以前に色々調べて、江風ちゃんが認めたら心が持たないぐらい酷い目にあってきたことも全部、全部私達は皆知っているのです!江風ちゃんには今まですごい頑張ってもらいましたし、たくさん救ってもらいました!だから今度は私達が貴方を救います!手を伸ばせ、立花蒼!』

 「いな、づま……」

 『それに恐怖に押しつぶされそうになったら甘えていいんです!泣きついていいんです!拒否するような奴は127にはいないのです!全部棚上げして癒やして欲しければ雷お姉ちゃんが包みこんでくれます!それに、どんなに怖いトラウマだって、理不尽だって、司令官さんが受け止めてくれます!ぶっ潰してくれます!私達の、127の司令官はそういう人だって分かっているでしょう!?』

 「てーとく……」

 『だから、大丈夫なのです!今まで傷ついてきた心を癒すのにどれだけ時間がかかるとしても、私達がついているのです!だから今は、為すべきことを!』

 「私が、為すべきこと……」

 『このっ、クソ家令め抵抗しやがってなのです……!助けが欲しかったらまた叫んでください!一旦通信切れます!』

 

 その言葉を最後に電の声は途切れた。……私の為すべきことは麗華のために。この街のために。だけど、それは理不尽を享受することだろうか?違う。違う!

 

 「……私の意識をハッキリさせてくれ、狂咲!」

 

 石に叩きつけるように両手を当てた。

 

 

 江風が異空間に閉じ込められる少し前 東条市街地 火継視点

 

 

 「あらかた眷属は倒したし助けられる人は一通り助けたけど……!」

 「眷属化しちゃった人達、すごい数……」

 「幻創種天使型になったアースガイドの奴らと同じってことかよ!」

 「まだ助けられる見込みがあるだけマシね……!」

 

 あたしたちは街の一角で戦い続けていた。作戦計画の時に聞かされた母多の生命未満の眷属は早々に蹴散らせたものの、眷属化した人達が避難所である病院へ向けて殺到してきている。

 

 「火継ちゃん、聞こえてる?この人達の声……」

 「うん。アースガイドの人達は苦しいって言ってた。だけどこの人達は、喜んでる。他の人を犠牲にして自分達の神様に役立てることに喜んでる……!」

 「チッ、精神汚染が完了しているってことかよ!」

 「凄まじい悪意ね……!」 

 「……兄さん、矢矧さん、この人達はもう助けられないよ」

 「火継!?」

 「中には助けられる人がいるかもしれない。それを諦めたら何も知らない余所の人達から鎮守府の人達が悪く言われるのも許せないし、だからって頑張ってる人達が、蒼が苦しめられるのはもっと許せない!だから……制圧しよう!こんなことは無駄だ、って示す為に!こんなのは人の可能性でも進化でもないって否定してやるんだ!」

 「……ハッ、バカ妹に発破かけられるなんて俺もヤキが回ったもんだぜ」

 「やろう、火継ちゃん!」

 「そうね、心痛めてる場合じゃない!けど、数がまた増えてきてるわ!この戦線持たないわよ!?」

 「こちらで道を開ける」

 「うん!クラリッサ!」

 「「!?!?」」

 

 一瞬で敵の塊が吹き飛ばされる。そこにいたのはーー

 

 「守護輝士(あなた)!マトイ!」

 「悪い、助かる!」

 「火継、江風の元へ向かえ」

 「えっ?」

 「私達がその道を開けるから!」

 「ストーリーボードが道を示した」

 「ストーリーボード……目指す未来への道を示すアイテム……!」

 

 それがあたしに江風の元へ向かえというのなら、江風は助けが必要だということだ。

 

 「守護輝士、マトイ。兄さん達とこの戦線の防衛をお願い。眷属化したした人達を病院に向かわせるわけにはいかない」

 「任せろ」

 「うん!」

 「蒼……今行くから!」

 

 あたしはがむしゃらに駆け出した。

 

 

 江風に電が発破をかけた頃 ???視点

 

 

 「蒼さん……!」

 「まだです。貴方が辿り着くべきタイミングは今ではありません」

 「……歯痒いわね」

 「大丈夫です。彼女という人の可能性は、この程度では終わりません」

 

 女性は連れに向かって確証を持って断言する。

 

 「さあ、こんな進化とも言えないモノに向かって貴方の可能性をどうぞ示してください」

 

 戦いは終幕へ向けて動き出す。

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