少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 長かった戦いも、ついに決着の回です。


106話 東条異変 結

 11:00 狂咲神社

 

 

 「うん……っ、私は……!」

 『やっと起きたか。きひひっ』

 『ずっと寝ていたのよ』

 「狂咲……私の中にいる……うぅ、頭痛はマシになったけど体いてぇし腹減ったし……でも、すっきりした」

 

 麗華の力になりたい、という想いは残っているがこの街のために、という想いはかなり霧散していた。

 

 「この感情も、麗華の為にってよりは友達の為、って感じだね」

 

 同時に湧き上がってきている電達の期待に応えたい、てーとくにまた褒めてもらいたいという感情も感じながら独りごちる。

 

 「今は授業中か。……合流できるのは放課後かな」

 

 携帯端末を取り出し麗華に会って話がしたいとメールを送信する。それと同時に「この世界」における違和感に気付く。

 

 「鎌倉と坂東をこの世界で見ていない。この時期を再現するなら確実に居なくちゃいけないのにも関わらず、だ。私が家令にやられた時、一緒に麗華とあいつらも倒れてた記憶がある。……つまり」

 

 あの二人は「この世界」におけるギミックか何かに囚われていると考えていいだろう。

 

 「前の帰郷からこっち、麗華とメールでやりとりしてたけど……それで聞いた感じだとあいつらは麗華を依り代にしようだなんて思っていない。……そう、思いたいな」

 

 それを確かめるためにも行く必要がある。東条家に。

 

 「最低条件として麗華を私側に居させて何かされないようにする必要がある。その上であいつらを確保してこの空間を作り出してるであろう斎藤の奴をぶっ倒す。……その前に」

 

 腹が大きな音を立てる。朝飯も食べていないのだ。

 

 「まずは帰って腹ごしらえだね」

 

 

 11:30 立花家

 

 

 「ただいま」

 「蒼!どこに行ってたの!?」

 「ごめん母さん。やー、早く起きちゃってランニングしてたら空腹で目が回ってそこの神社で気絶しちゃってさ」

 「何やってるのよもう……」

 「もうこんなヘマしないよ。約束する。……何か食べるものない?」

 「これからお昼を作るわ。何がいい?」

 「……オムライス。食べたら行かなきゃいけない用事が出来たんだ。きっちりやってくるために、元気が欲しい」

 「何をやるのか分からないけど。腕によりをかけて作るから、頑張ってらっしゃい」

 「うん!」

 

 こんな街でも両親が愛してくれて本当に良かったな、と思いながら昼食を摂った。

 

 

 17:00 立花家

 

 

 「それじゃあ、行ってくるね。オムライス最高だったよ」

 「あら、行くの?今度はちゃんと帰ってきなさいね」

 「うん。……行ってきます」

 

 ちゃんと「元の世界」の両親の元に帰ると誓い、家を出た。麗華からの返信は放課後に合流しよう、とのことなのでこの時間まで待っていた。

 

 「さて、決着をつけよう」

 

 

 17:30 中学校正門

 

 

 「麗華、こっちこっち」

 「……蒼さん」

 「浮かない顔するなよ、事情は察してる。家令にでも言われたんだろ、私を殺せって」

 「っ!……どうして……」

 「記憶、取り戻したから」

 「ではなんで逃げてくれないの……!」

 「立ち向かうって決めたから。麗華、家令の言う通り母多の依り代になりたい?それとも、抵抗してひっくり返したい?」

 「私は、でも……」

 「他の理由は後回し。麗華はどうしたい?」

 「……抗いたい。だけど、貴方を殺さないと、鎌倉さんと坂東さんが……!」

 「二人が?」

 「私を導くための贄にするって、じいやが捕らえていて……」

 「それじゃ助け出そう。単純な話さ」

 「え……」

 「あの二人を助け出して、家令の奴にお前の思い通りにはならないって突きつけて。それでいいじゃない?その為の力、いくらでも貸すからさ」

 

 ニヤッと笑ってみせる。本当は怖いけれど、身体も震えているけれど、この想いに嘘はない。

 

 「強がって……!どうやって助けるというのですか!?」

 「人質が取られた時の単純な解決策は速攻で犯人を一方的に無力化することだよ。まあ何かされた時は……助けでも呼ぶさ」

 「助け?」

 「呼べば来る、って約束してくれたからな。精々アテにするさ。……だから、行こう。早くあいつらを解放してやらないとだろ?」

 「……信じて、いいのですか?」

 「信じて」

 「……はい!」

 

 

 江風が自宅で待機している頃 東条家 電視点

 

 

 「江風ちゃんが持ち直したのです!」

 「思った以上に根が深かったわね」

 「帰ったらたっくさん甘えてもらうんだから!」

 「ふふふ……ハハハハハ……!」

 「何がおかしいの!?」

 「立花蒼が何をしようとその身体が死ねば問題ない!そして間に合った!」

 「何がーー」

 「こちら赤城、彩雲が高速で飛来するエネミーを捉えました!彩雲が追いつかない……!?」

 「なっーー」

 

 それからまもなく、ソレは現れた。

 

 「ーーーァァァァアアアア!!」

 「何、ドラゴン?」

 「ワイバーン的なやつ……ってきゃあ!?」

 『ぬう!』

 

 蛇の胴体に小さいオマケのような手と逞しい翼を生やした翼竜とでも言うべき存在。サイズは全長が人より少し大きい程度。それが空気を切り裂きながら飛んできて、口からレーザーのようなモノを吐き散らかして攻撃してきた。ターゲットは江風の身体だ。あそーとさんが操っていたから江風の身体は無事で済んだといったところだ。

 

 「なんだ!?俺の退魔の力が通用していない!」

 『こちら濁流!ソイツお尋ね者の怪異よ!ヒトに敵対的で見ての通りクソ強いって理由でね!援軍に行くからなんとか持ちこたえて!』

 「こちら亜贄萩人!随分と無茶を言うねえ!エーテルの障壁もさして保たないじゃないか!」

 「……駄目ね、速すぎて射に捉えられない……!」

 「うわっ、ダメ人間達も復活してきてる!こっちも手を抜けないよ!」

 「なんてものを味方につけやがったのです……!」

 「抑えられれば私が殴り倒してやるのに!」

 『ならソイツは睦月に任せるにゃしい。援軍は不要にゃしい!』

 「「!?」」

 

 通信が入った直後、翼竜のいる空間をビームが引き裂く。翼竜は鋭角に切り返して回避していた。

 

 「にゃにゃっ?反応速度もいいのね。倒し甲斐があるにゃぁっととと?」

 「ガアアアア!」

 

 目茶苦茶な軌道を高速で描きながらレーザーを何発も睦月さんに当てる翼竜。いくらなんでも速すぎる。

 

 「このままじゃ一方的に嬲り殺しだにゃあ。睦月ちゃんピンチだにゃあ。……とでも言うと思ったかにゃあ?」

 「!?」

 

 睦月さんのエーテル反応が膨れ上がる。それを察した翼竜も一度距離を取る。

 

 「こういう時に切る切り札こそエキサイティングにゃしい!オーバーロードモード!」

 

 そう叫んだ直後、睦月さんが翼竜と同等以上の速度で機動し始めた。私達も知らない能力だ。

 

 「速度と火力はいいけど耐久力と逃走力はどうかにゃあ〜?」

 「!?」

 

 肩から発射されたミサイルが絡みつくような挙動で翼竜の動きを制限し、主砲による異常な連撃が逃げ場を失った翼竜を穿つ。

 

 「足を止めたら……にゃあ!」

 

 睦月さんの主砲と逆の手に持ったビーム刃を纏ったアンカーが伸び、翼竜を切り裂きながら引っかかる。

 

 「手繰り寄せて、ほらっ!ほらほらほらっ!」

 

 近辺まで寄せたらアンカーをヌンチャクの様に振り回し、斬撃を浴びせていく。

 

 「トドメに魚雷でフィニッシュにゃしい!」

 

 宣言通り空を真っ直ぐ魚雷らしきものが突っ切り翼竜に全弾当たって爆発した。

 

 「ギャアアア……アアアアア!!」

 「およ?」

 「は?反応増大?睦月さん気を付けて!」

 「およよ……ふふふふふ」

 「睦月さん?」

 

 笑い始める睦月さんの前で翼竜が変化する。身体は巨大化し首が7本に増える。

 

 「よいぞよいぞ……もっとエキサイティングに!ホットに!センセーショナルに!じゃないといい映像(え)にならないにゃあ〜!!」

 「ベトール監督の影響モロに受けてないかしら」

 「ですね……?」

 『こちら濁流!なんかもう今更だけど、その形態の怪竜がおそらくこの戦場の最強戦力よ!心してかかって!』

 「睦月型の本当の力!見せてやる〜にゃしい!」

 

 卯月さんがいたら確実にお前のような睦月型がいるかとツッコミを入れていただろう。

 

 「ほら、地上部隊の皆は目の前に集中するにゃし!」

 「は、はい!」

 「お、おのれ、なんだアレは!」

 「今回ばかりはそちらに同情するのです」

 

 虎の子を引っ張り出したらそれとタイマンできる意味不明の単騎戦力が呼応して出てこられたのだ。叫びたくもなるだろう。

 

 「はあ、はあ……っ!絵梨花!蒼は大丈夫!?」

 「火継ちゃん!?」

 「援軍が必要そうだから来たんだけど、状況は?まだ夢の中?」

 「夢の中で決戦に挑もうとしているところなのです」

 「間に合ったみたいね……」

 

 

 18:00 夢の中の東条家 江風視点

 

 

 「鎌倉さん!坂東さん!」

 「着いたと思ったらお前の出迎えか、斎藤」

 「貴様……またしても麗華様を誑してくれたな!」

 

 私達の目の前に現れたのは家令とその奥で肉塊に縛り上げられている鎌倉と坂東だった。

 

 「麗華様、逃げて……」

 「うあぁ……」

 「大丈夫ですか!?気をしっかり!」

 「麗華様、貴方様が主様の力を受け容れれば彼女らも貴方の力となりましょう。でなければ彼女らを糧にして受け入れて頂く!」

 「クソッタレ、どっちにしても同じじゃねぇか!ふざけるんじゃねぇ!麗華!二択に見せかけた一択しか出してきてねぇし、私達はそんな選択を選ぶつもりはない……いいな!?」

 「えぇ……私は、母多を拒絶します!2人を解放してください!」

 「具現武装!斬り拓く!狂咲!」

 『力を載せるわ』

 

 裕也氏のように麗華が力を発動する。それに合わせて狂咲の対怪異能力を載せた刃で肉塊を切り刻む。……だが。

 

 「肉塊はダミー……いや、二重の結界って訳かよ!」

 

 二人を縛っている肉塊を斬り落とした結果、彼女らの体を縛るオーラのようなものが出てきた。その根元は家令だ。

 

 「無駄だ……そして貴様には!」

 「フフフ、フフフフフフ……!」

 「鎖鎌……!」

 

 家令の足元から眷属化した鎖鎌が生えてきた。

 

 「立花蒼を殺せ!そしてその間に……」

 『やら……せるかあああああ!!!』

 「「!?」」

 

 家令が力を行使しようとした瞬間、空から叫び声が聞こえた。そして空を割って一人の少女が降ってきた。

 

 「八坂!」

 「助太刀参上よ!天……叢雲!!」

 

 八坂が天叢雲を振る。周囲の怪異の気配が焼き浄められた。

 

 「なっ……」

 「はあああああっ!!」

 

 八坂は続けて一閃。鎌倉と坂東を縛っていたオーラを斬り払う。

 

 「麗華さん!この二人のことをお願い!」

 「は、はい!」

 「枷は壊した!やれるでしょ、蒼!」

 「すごい助かったよ八坂!やってやるさ!変身!改めて具現武装!」

 

 江風改二の姿になりながら麗華達を庇うように八坂と武器を構えて並び立つ。

 

 「貴様は、貴様はなんなのだ!この私の計画を!?」

 「天星学院高等部生徒会長、そして立花蒼の友人、八坂火継!蒼の大切な人達をやらせはしない!」

 「部外者が……!」

 「部外者が介入しなくちゃいけない事態を引き起こしておいてよく言うじゃない!蒼の心も目茶苦茶にしてくれて……もう我慢の限界よ!」

 「八坂……」

 「あたしが辛かった時に蒼は声をかけてくれて、皆で帰る未来を切り拓いてくれた。だから今度はあたしの番!」

 「……ああ、頼む!」

 「それと絵梨花から伝言!現実世界の敵は大体なんとかしたけどあの男が倒せない、核が見つけられないって!おそらくはこっちの方!」

 「分かった!」

 「フフフフフフ……させないよ」

 「するのよ!あの再生怪人はあたしがやるから、蒼はそっち!」

 「任せた!……ふぅ……」

 

 この機会は無駄にしない。ゾーンに入る。

 

 『貴方もそういう戦いが出来るのね』

 「貴方もって、狂咲お前も?」

 『そうでなくては戦い抜けなかったもの……でも負担が重そうね』

 「習得して日が浅いからね……!」

 『なら少し肩代わりしてあげる。全力でやりなさい』

 「ッ!?」

 

 あそーとのオッサンでも出来なかったことが想定外の所で可能になった。ならばこそ、活かしきる。

 

 「一気に行く!らあっ!」

 「なっ、ぐおあっ!」

 『核を狙いなさい』

 『きひひっ、電探に感あり。おんやァ?』

 「核が移動している……けどさァ!『オウルケストラー』!」

 

 不定形と化した家令の身体の中をその核が忙しなく動いているのを感じる。ならば、それに沿って斬っていけばいい。

 

 「ひぎゃ、ああっ!?何か、手立て、助けっ……!」

 「世界が揺れてる!?そうか、あのヒトがこの世界の核でもあるから……!」

 「こんな、こんなものが……」

 

 一方的に斬られて悲鳴を上げ、世界ごとよじれる家令。そんなもので私の刃は鈍らない。

 

 「麗華を、私を、この街の人達をこんなに苦しめた奴が……こんなものなのかよ!ふざけるな!!」

 「ぎゃああ!!」

 『芯は冷静に、よ』

 「……!」

 

 怒り、悲しみ、苦しみといった激情が体の中を駆け巡る。そのアウトプットにこの相手は不適格だ。

 

 「ちくしょう、チクショウ、畜生!」

 「ぐあ、あぁ……何故、何故私が、主様の最大の信者である私があああっ」

 「『狂い咲け』」

 「ーー」

 

 トドメで核にツインダガーの両方を突き刺し、全身全霊を込めて斬り拓く。家令の不定形な姿が支えるものを失った液体のように更に崩れていく。そして空間の揺れも大きくなる。

 

 「蒼!早くこっちに!皆で脱出するわよ!」

 「……あぁ」

 「蒼、まだ終わりじゃない。怪異そのものがまだ残ってる!」

 「!」

 「だから、まだ呆けるんじゃないわよ!」

 「あぁ……!」

 

 そうして空間は崩壊し、意識が暗転した。

 

 

 10:00 東条の山 コハル視点

 

 

 「何故、何故こんなにも、人間が力をおおお!!」

 「基準が昔の東条家御一行か?今の俺達はそれよりも強いんだよ!」

 「坂田さんの言う通りです。……大凡力は削ぎました。総員攻撃を本体へ!頃合いです、滅ぼします!」

 「どっかの蛆虫に比べればよ!」

 「そうね、比較対象がアレだとね……」

 「ハハハハハ!くたばっちまえよいい加減によォ!」

 

 私(わたくし)達は母多本体の力を削ぎ続けていた。マザーによる解析と無力化によって腐食などの危険の多くは無力化され、膨大な力も耐久もダークファルスのそれに比べれば十分に対処できるものだった。その力のぶつかり合いの大部分をお姉様が担っていたこともあり、私達は殴るべき場所を指定されては破壊するだけだった。それももう終わる。

 

 「街は……街の力も弱まっている……!?」

 「ようやく気付きましたか。ですが遅い」

 「オフィエル。ファレグにはよくやってくれたと伝えておこう」

 「……頼みましたよマザー」

 「ガチな声してるあたり相当いたぶられてたのね……?」

 

 母多はオフィエルによる空間隔離によって戦況を把握できていないようだった。つまり街への力の供給もそれに準じて滞っているということである。

 

 「死ね」

 「まだだ、ここまで準備してきて死ねるものか!かくなる上は……!ぐふっ」

 「貴様!」

 

 お姉様に深く斬り刻まれるのを無理矢理こらえるように本体から小さい塊が飛び出した。そして街の方へと消えた。

 

 「マザーさん、反応の変化は?」

 「今のが核だったのだろう。ここの力が急激に減っている。だがあの程度の存在がそれだけで何を成せるわけでもあるまい。強いて言えば東条賢三に憑依すればいささか面倒になるか」

 「くっ……追撃しますか?」

 「否。ここの残りを掃討すべきだろう。第二部隊の通信及びバイタルを確認しているが東条賢三に憑依された所で対処できる範囲だと判断する」

 「分かりました。総員、根こそぎ滅ぼします!もう一踏ん張りを!」

 「「了解!」」

 

 

 同時刻 現実世界の東条家 江風視点

 

 

 「うぐ……ここは……戻ってきたのか……」

 「江風ちゃん!火継ちゃん!無事なのですね!?」

 「なんとかね。麗華さんも立てる?」

 「ええ、私は……でもお二人が!」

 『東条麗華よ。鎌倉まひると坂東すみれは気を失っているだけで無事だ。案ずるな』

 「蒼さん……?」

 「今のは私に憑依しているえーと……なんかすごいヒト。このヒトが言うなら大丈夫だよ。……さて、と」

 

 立ち上がりながら家令のいるほうへ目を向ける。崩壊寸前の不定形、といったところだ。

 

 「ごあ、がああ!こんな、ありえない……旦那様、私に、もっと主様の力を……」

 「不要だ」

 「!?」

 

 縋り付く家令を東条賢三が振り払った。

 

 「なっ……」

 「ようやく、漸くだ。この身が俺の意思で喋り動けるのはいつぶりか。……あえて言おう。俺は正気に戻った。お前も、母多神様も拒絶する」

 「!?」

 「お祖父様!」

 「父さん!」

 「ああ、本当の意味でお前を見られるのは何年ぶりか……麗華、よく決断をしたな。……裕也、お前が頑張り続けてくれたおかげで本当の俺を、取り戻せ……がはっ!」

 

 東条賢三が血を吐く。

 

 「父さん!」

 「はあ、はあ……分かっていると思うが、俺は母多神様の依り代になっているから体の負担がな。これだけの騒動の基点になっているのだから当然だ。この身この命、もういくらも保たないだろう。……その前に」

 

 東条賢三の腕が触手になり、鋭い槍のように変化し、家令を貫いた。

 

 「がっーー」

 「お前の始末だけはこの手でつける。これで贖罪になるとは思わんがな……!」

 

 そう言い終わると槍のような触手がいくつにも裂け、家令を四散させた。再生する気配はない。

 

 「反応消失、なのです」

 「他の眷属化した人達も溶けてる!」

 「終わった……?」

 「ああ、終わりだ。母多神様は俺を中継にしてこいつを街への力の展開の軸にしていたからな。母多神様を俺が拒絶してこいつが死ねば他への供給も途絶える」

 「ーーギャアアア!」

 「うわっ」

 「睦月の大勝利にゃしい!」

 

 巨大な化け物ーー電曰くさんざん暴れ回っていたこの戦場最強の怪異竜ーーが落下して、続いて睦月さんが降りてきた。

 

 「ソレは母多神様から供給された力の多くを使っていた。討伐による効果は大きい」

 

 落ち着いて戦いが終息したことを告げる東条賢三。本当に正気に戻ったようだ。

 

 「フカシじゃないみたいだね、正気に戻ったっていうのは」

 「立花蒼。……言うべきことは色々あるが……感謝する。麗華を、麗華の周囲を救ってくれて、ありがとう」

 「……」

 

 ここで東条を、ではなく麗華を名指しする辺り私の状況も正しく理解しているようだ。

 

 「……友達の為なら当然」

 「そうか。麗華も得難い友を得た……」

 

 そう言われて、正気であるこの人ともっと交流してみたかったな、と思ってしまう。ハナから不可能な話ではあるけれど。

 そうして、東条賢三が裕也氏や麗華に言い残すことをあらかた伝えた辺りで怖気が爆発するように増した。

 

 「ッ!」

 『気を付けなさい、母多が来るわよ!』

 『ーーか、聞こえますか、こちら福山!』

 「てーとく!」

 『ようやく繋がりましたか。母多の核が肉体の大部分を棄ててそちらに向かいました。依り代に憑依するつもりでしょう。警戒を』

 「ちょっと遅かったかな、けど……」

 

 東条賢三の真横にぼちゃり、と飛翔してきた肉塊が落下した。力はほとんど感じないが怖気だけは凄まじい。

 

 「が、あ……依り代よ、我と……」

 「断る」

 「!?」

 「麗華!」

 「はい、お父様!」

 「「力よ!」」

 「が、ぎゃ、あ”あ”!?」

 

 東条賢三が拒絶し、二人が退魔の力を直にぶち当てる。身を守る肉体のほとんどを失っているせいかそれは直撃したようだ。

 

 「改めて見ればなんと情けなく悍ましいことか。俺はコレの意のままだったのだな……ごほっ、ごほっ!」

 「お祖父様!」

 「お前は、この残り滓の命、かけてでも拒む!」

 「負担はかけさせない。トドメをーー」

 「お前があーーっ!!!」

 「「!?」」

 

 私がトドメを刺そうとした時、予想外の人物が走り込んで来て、手に持った番傘で母多を殴り付けた。私と東条家どちらとも縁がある友永芳佳その人だ。

 

 「お前が!お前が堅ちゃんを!堅ちゃんをおかしくして、全て台無しにした!!私の一番の友達を!!」

 「芳佳!?」

 「芳佳の姐さん!?どうやってここに!?」

 「ファレグってお嬢さんが連れて来てくれたのよ。貴方自身の手で決着をつけたいでしょうって!その通りよ!私はずっと賢ちゃんの戦いを見て来た!夢を追う姿を応援してきた!お互いに恥じない未来を得られるように頑張ってきた!なのにこいつが!こいつのせいで!賢ちゃんも街も……蒼さん、貴方のことも!皆酷いことになった!許しておけないわ!!」

 「姐さん……」

 「ファレグさん何やってるのですか」

 

 戦闘要員を含めその場にいる全員が気圧される程の怒り。それは東条賢三が狂う前を知っていて、狂う過程を見て来て、狂った後を悲しんだからこその怒りだ。

 

 「……姐さん、ソイツは普通に殴っただけじゃ殺せない。だから」

 「蒼さん?」

 「……あそーとのオッサン、剣を使うよ。狂咲!全力を注げ!『幻創の剣』よ!」

 

 持てる力の全てを以てあそーとのオッサンの剣を創造する。

 

 「麗華!裕也さん!この剣に力を注いで!海はバフ、電はウィークバレットを上部に頼む!」

 「は、はい!」

 「うん、シフタ!」

 「そういうことですね、『ウィークバレット』!」

 「はあああ……!!」

 

 剣がごうんごうん、と音を立てて震え始める。

 

 「芳佳の姐さん!一緒に渾身の想いでコレで貫こう!それで終わらせる!」

 「ええ!」

 「があ、ああぁ……」

 「逃がさないわよ。『グラヴィティポイント』。……私の弓も攻撃一辺倒ではないのよ』

 「!!」

 「さあ、死ね、私の悪夢よ!」

 「滅びなさい私の親友を蝕んだ汚物!」

 「「いっけぇー!!!」」

 「――!?!?!?」

 

 加賀が地面に縫い付けた母多の電がマーキングした部位に向かって、海風に強化された体で剣をまっすぐに突き刺す。長い長い悲鳴を上げて、母多が苦しみ抜いて、消滅した。

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