少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 第三部の開始です。そしてちょっと寄り道をしていきます。


EPISODE3始 108話 異世界への誘い

 7月末 10:00 第127鎮守府 会議室

 

 

 鎮守府の代表者面子や私の同期、外部からは八坂や濁流さん、守護輝士(ガーディアン)達も呼んで会議室に集まっていた。

 

 「そろそろ、僕達がこちらに来た理由を話したいと思います」

 「江風がまだ本調子ではありませんが……こちらにも時間がありますの」

 

 とうとうライルとコハルが事情を話す気になったらしい。言われた通り、私のメンタル面は回復していないが。

 

 「まずは僕の自己紹介から。……僕はライル。『守護輝士のルーファ』、その弟です」

 「私(わたくし)はコハル。惑星ハルコタンの黒の民、唯一の生き残りですわ」

 「「……」」

 

 ある程度想像はしていたが実際に言われると反応に困る。ルーファと言うのはてーとくの本名であり、守護輝士の名前ではない。そして黒の民というのはダークファルス【双子(ダブル)】に一人残らず滅ぼされたはずの人種である。

 

 「加えると、僕達は『この世界線』のオラクル宇宙の出身ではありません。梓さんが本来の役割を果たしに自分の世界線に帰り、運命を変えた……『次の世界線』の人間です」

 「次の世界線……」

 「つまり?梓がこの世界でオラクルの行く末を見届けてから渡って、そこでアクションを起こした結果お前達が存在している、ってことか?」

 「そうです卯月さん。一つ訂正するならば、梓さんは『全てを見届けたわけではない』という但し書きが付きますけど」

 「おい、それって何かアクシデントが……!」

 「詳細は僕達にも知らされていません。ですが、梓さんが僕達の世界線に介入する時間、場所は惑星シオンの監視が強い11年前のダークファルス【若人(アプレンティス)】によるアークスシップ襲撃のタイミング。マトイさんが姉さんの……守護輝士のアークス研修修了試験時の惑星ナベリウスに飛ばされることになったあの事件の時だったんです」

 「それらの時間で下手に介入すればシオンに妨害される」

 「はい、その通りです守護輝士さん」

 「ちょっと待てよライル」

 

 そうすると齟齬が発生する。

 

 「本来この世界線でもてーとくがダークファルスに堕ちた世界線でも、ライル、お前は家族共々殺されていたはず。そこの違いは何なンだよ?」

 「一言で言ってしまえば、惑星シオンにとってどうでも良かったから介入が出来たんだ」

 「……え?」

 「惑星シオンは『ルーサーを打倒してマトイさんが生き残る』という未来を最善としていた。自分の亡き後にマトイさんが【深遠なる闇】に取り込まれる未来を回避するところまでは演算できなかったけれど」

 「だから福山梓もマトイを救えなかった。それを守護輝士は異なる解を手繰り寄せ、掴んだ。そういう歴史だったなライル。……なれば、そこまでの事象に影響を与えない変化であれば、演算に関わることのない変数であればシオンも手を出さない。そういうことか」

 「そうですマザーさん。あの時点で幼かった姉さんに必要な事象は最終的に10年後のあの日あの場所で修了試験を受けるアークスになることであって、誰を喪うか、どう育つか、そういったモノは全て惑星シオンにとっては関係のないことでした。だから僕達一家は梓さんに、いえ、『127鎮守府』に助けてもらう事ができたんです」

 「アタシ達が……?」

 「福山梓だけでなく大勢で乗り込んだということか」

 「はい。流石にその先までは付いてこられませんでしたが、だからこそ姉さんは『梓さんのようなアークスになるには仲間が必要不可欠だ。仲間を信じて共に進んでこそ目標とするアークスに、梓さんのようになれる』と心に刻み込んだんです」

 「……待ってください、そちらの私が、私に憧れる?そんなことが……!?」

 「信じられない」

 「も、もう!あなたもアズサも、なんでそんなに反発するの?」

 「マトイの言う通りよ!……いや、守護輝士(あなた)と梓さん、水と油みたいに口を開けばやりあってるけど」

 

 てーとくの同族嫌悪は凄まじいものがある。確かにそれを思えば不気味な話ですらある。

 

 「そこは……なんでしょうね……」

 「ルーファさんが変なヒトだからでは?」

 「弟の前でよく言えるね!」

 「とりあえずお前の姉が想像できないようなヒトなのは分かったよ。ンで、コハルは?」

 「梓お姉様がシオンが滅んだ後に本来より素早くハルコタンに介入してくださったからですわ。……それでも生存者は私だけでしたが」

 「コハルさん……」

 「梓お姉様が気に病むことではありません!私は一人生き残ったからこそ、白の民より遥かに梓お姉様やスクナヒメ様のお役に立って黒の民の誇りを全宇宙に示すのですわ!」

 「……強いな」

 「もっと褒めてくださっていいのですよ卯月様。ほぉ~っほ!」

 「……アレ、そしたらお前の元の姿ってマジでイタギザクリ?」

 「正体を明かす前に気付かれるとは思っていませんでしたの」

 

 そう言ってコハルが人型から下半身が蛇、上半身が女で両手が鎌という異形に変化する。黒の民系キャラクター、イタギザクリそのものだ。ちなみにスクナヒメというのは惑星ハルコタンの守護神でありアークスの協力者である。

 皆が目に焼き付けたと判断したのか、コハルは程なくして人型に戻った。

 

 「アークスと歩調を合わせるためにオラクル人に化けていますの」

 「道理で戦術がアークスじゃないワケだ」

 「……僕達のパーソナルデータはこの辺りです。次に僕達がこの世界線に来た理由について話します」

 

 ここまではある程度予想がついていたことだ。ここからが本題と言っていい。

 

 「まず、僕達の世界線の地球には艦娘も深海棲艦もいません。つまり、貴方達もこのような戦力として存在していません」

 「「えっ」」

 「……するってーと、君達がいる世界線の地球はエーテルが地球を覆ったあの時期。艦娘や深海棲艦を生み出した存在が存在しなかったか生み出さなかったかしたIFの世界。そういうことだね?」

 「濁流さん、理解が早くて助かります」

 「あはは。ただの平行世界の話ならそれなりになんだけど……ここからはそうもいかないわけだ。梓ちゃんを生還させるために。そのためのストーリーボードとかいう未来演算確定装置なんだろう?」

 「はい。僕達の最終目標も127鎮守府と同じく、【深遠なる闇】を倒した上で梓さんを生還させるというものです。その為に参考例を見ることと実際に体験して力をつけることを目的に僕達は派遣されました」

 「艦娘がいないということは127の皆様が戦闘要員にならなかったということ。ハッキリ言って戦力不足ですの」

 

 正直想像がつかない話だ。そんな世界で私はどうなっているのだろう。

 

 「僕達の世界線の情報部に確認してもらったところ、江風、電、加賀、海風の4名は天星学院高等部に入学しています。当然、艦娘ではなく純粋にマザー・クラスタとして」

 「あたし達と同じでマザーに拾われたんだもんね。生徒会にいるの?」

 「風紀委員だったよ。だけどそれ以外は火継、君と同じだと推測されているよ」

 「そしたらそっちのあたしはオラクルに行った時に蒼達からも隠れなきゃいけないのかぁ。そっちのあたしご愁傷さま……」

 「このタイミングで話を切り出した辺り、少なくともその江風達を向こうの世界線に連れて行って戦力増強に繋げたい……か?」

 「はい。僕達に同行して2つの世界を行き来して欲しいんです」

 「はーい!だったら瑞鳳達も行きまーす!」

 「羽黒、いつでも行けます!」

 「赤城、置いていかれるつもりはありません」

 「えっと、それなんですけど……」

 

 瑞鳳達に対して困ったようにストーリーボードを見るライル。

 

 「シャオに念押しされたことであり、ストーリーボードに記載されていることなんですけど……今回、連れていけるのは江風達4人だけです」

 「そんなー!?」

 「瑞鳳ちゃん、補給どうすんの?」

 「……あ、その通りです濁流さん……うぐぐ」

 

 向こうの世界線に艦娘がいない以上、弾薬の補給は絶望的だ。

 

 「ですので具現武装メインで戦ってもらうことになります。その上でこちらの世界線の人達を連れて行くのは今回が初めてですから、あまり大規模に行うのが危険だということ、戻る際は僕達の世界線のアルが発見される前の時間軸に戻ること。再度こちらの世界線に来るのは僕達の世界線が今ぐらいの時期になってから……それらを踏まえて呼べるのは4人が限度、だそうです」

 「目標は最低限こちらの世界線と同じ成果を得ることになりますわね」

 「……マザーの生存」

 「ええ」

 「濁流さんから補足だ。ただ未来を変えるだけなら出来る限り足掻くだけでいいけど、君達の最終的な目的はその上で梓ちゃんの生還だ。

 その為に何とかしなくちゃいけない【深遠なる闇】に関して、全知(アカシックレコード)に至った惑星シオンとかいう存在でも解決には到達できない難易度だったことを加味すると……この世界線とそっちの世界線、余計な変数は極力減らしたほうがいいだろうね。一番分かり易い変数といえば死亡者。今回はマザーちゃんの生死だね」

 「シャオだけではシオンに遠く及びませんものね」

 「シャオはあくまでも臨時バックアップだからね」

 「……今回は4人として、江風を外すことは出来ないっぽい?やる事わかってるし具現武装の類で戦うだけなら夕立で代用できるっぽい」

 「ストーリーボードの指定に江風達が列挙されていました」

 「ッチ、融通の利かない板切れっぽい」

 

 どうしても私達が必要らしい。

 

 「となると……向こうの私達に発破かけて参戦させるとかなのですかね」

 「まとめて風紀委員だったわね」

 「それでも江風がいなくてもなんとかなりそうだけど……」

 「……東条のことかな」

 「あー……」

 「深海棲艦が発生していない、ってなるとこっちの世界線ほど状況は悪くないだろう、というか賢三氏も依り代にすらされていない可能性もあるよ」

 「そこまでなのか?濁流さん」

 「そこまでだよ炎雅君。エーテルの有無もあるけどそれ以上に深海棲艦の大攻勢は世界に大きく影響したのさ」

 「そしたら!そしたら、向こうの私は……」

 「虐められることもなく健やかに成長しているかもしれない。最低限の汚染でそこは変わっていないかもしれない。ことクソ家令や狂人鎖鎌辺りは精神汚染以前のクズだったみたいだからね」

 「……」

 

 倒したのに、まだ怖いのか私は。

 

 「正直変数として江風ちゃんは向こうの世界線に行くべきだけどまだ尚早じゃないかな?」

 「それについては僕達も懸念しています。それにストーリーボードにも今話せとは書いていますが、今連れて行けとは書いていないんですよね」

 「じゃあなんで今日ーー」

 「響だよ。緊急事態だ。端的に言うと創造者(クリエイター)を見つけた。今現地で発見した50の霞と繋げるよ」

 「「!!」」

 『こちら霞!127、聞こえてる!?』

 「こちら福山、聞こえています。状況はどうですか?」

 『創造者のやつ、エーテルで深海棲艦の兵隊をたくさん造ったみたいで防衛ラインが分厚いわ!一隻一隻なら対処できるけど心がないから被弾しても味方が沈んでも無関心みたい!』

 「アイツはまた……!」

 

 ーー助けて。

 

 「えっ」

 「江風?」

 「今、助けてって声が聞こえなかった?」

 「え?」

 「何も聞こえてないですし思念の類も流れてきていないのです」

 「江風、出撃見合わせたらどう?」

 「いやーー」

 

 ーー助けて!

 

 「ーーやっぱり聞こえる。行かなきゃ」

 

 みんなの声が遠くなる。私は、『助けに行かなくちゃいけない!』

 

 「主力部隊と遊撃部隊は白峰へ……江風さん!?」

 「江風ちゃん受け取りな!」

 「!」

 

 濁流さんが何かを投げて寄越してきたものを反射的に受け取る。そして私は白峰に向かって走り出した。

 

 

 江風が走り去った後 会議室 濁流視点

 

 

 江風ちゃんの他に主力部隊と遊撃隊、補助の陽炎ちゃんと黒潮ちゃん、そして梓ちゃんさえも出撃の為走り去り、会議に呼ばれた面々が取り残されていた。

 

 「あー、あー、梓ちゃん聞こえる?」

 『こちら福山。江風さんについて何か分かったのですか?』

 「とりあえず江風ちゃんは人の声が届いていない感じでしょ?」

 『ええ……』

 「『物語に飲み込まれた』状態だよ」

 『!』

 「ついでに言えばライル君達が『今日、このタイミングで』って指定で告白した理由にも察しがついたよ」

 『それは?』

 「今回の『物語』で江風ちゃんの心は大きく動くか固まるかする。だから連れていける。ストーリーボードサマもそう判断したってことだろうね」

 『つまり、それ程の大事になるということですか』

 「敵としての脅威以外にも警戒したほうがいいだろうね、創造者はさ……」

 「そういえば濁流さん」

 「何かな火継ちゃん」

 「さっき濁流さんが蒼に投げ渡したものって……?」

 「あの子の頓服薬の補充品だよ。ちょうどこの会議の後に渡そうと思ってたんだよね。あの子が今服用してるお薬は『組合』で調合してるんだけど……向こうの世界線の『組合』でも提供できるように話つけとかないとだね?」

 「運がいいんだか……」

 「これも『物語』の一環かもしれない」

 「えっ」

 

 ふぅ、と溜め息をつきながら推測を騙る。

 

 「運命は江風ちゃんを酷使したい。だけど壊れてもらっちゃ困る。だからこういうギリギリを……なんてヒネた考え方もできるよ」

 「……」

 「だから、さ。江風ちゃんにだけ頑張らせないように協力しておくれよ?私も頑張るからさ」

 「はい!」

 (まだ見逃しておいてくれよ、吹雪ちゃん)

 

 旧い仲間に想いを馳せながら江風ちゃんの無事を祈った。

 

 

 11:00 太平洋沖 電視点

 

 

 「助けなきゃ……助けてって言われたんだ……」

 

 急いで白峰に乗り込み、その中で装備を整えつつ霞ちゃんのいる海域付近に転移してなお。江風ちゃんはうわ言を繰り返していた。雷お姉ちゃんの抱擁ですら効き目がないのだから驚きだ。

 

 「江風さんの様子は?」

 「司令官さん、変わらずなのです」

 「そうですか……。濁流さん曰く、『物語』に飲み込まれている状況だそうですが……矢矧さん、何か正気に戻す方法を知りませんか?」

 「私も『物語』に飲み込まれて江風や八重と戦ったけど……ごめんなさい。そういう方法は分からないわ。どこかの節目で正気に戻るとは思うんだけど」

 「でも、何故江風だけなのかしら?」

 「そうですよ!これが創造者の起こすことに関わるなら私達も『物語』に飲み込まれないにしても影響はあってもおかしくないはず」

 「依り代としての適性がうんたら、ってのも違うよね?」

 「流石にこれを肩代わり、なんて言えませんけど……」

 「不快なところはありますね」

 

 同期組も色々と思うところはあった。それを察してか、司令官さんが手を叩く。

 

 「作戦について詰めます。現在、創造者は海上の特定のポイントに留まっています。今回の目的はこれの排除です。最早話し合いの余地はありません。

 第50鎮守府からの情報によると、創造者を重巡12隻を前衛、後衛に対空防衛用のツ級と思しき後衛が6隻。これが4部隊の合計72隻で取り囲んで護衛している状態だそうです。

 全敵艦は創造者の創作物であると推定され、個体の能力は低いですが統率が取れているという次元ではありません。これがぐるぐると旋回し続けている形になるので、1部隊と交戦を続けるのも難しい形です。

 その上で交戦状態にいない部隊は喪失艦を含め再生していくとのこと。第50鎮守府が苦戦するのも仕方のない話です。

 そこで、第50鎮守府の部隊を白峰に収容し補給を済ませた後に大和さんと武蔵さんの主砲を皮切りに敵部隊の殲滅を行います」

 「また妙ちくりんな部隊運用してるわね……」

 「アレはそういう奴」

 「戦艦でなく重巡、というのは維持と修理コストの問題でしょうか」

 「重巡を甘く見られている気がします……!」

 「羽黒ちゃんキレ芸が板に付いてきたよね。空母ナシなのは創造者自体が重巡で艦載機運用まで分かんないとかかな?」

 「おそらくは赤城さん、瑞鳳さんの推測どおりだと思います、というよりマザーさんもそう推測しています。

 我々は大和さん、武蔵さんを軸に崩した後、航空機、遊撃隊と続いて切り崩しにかかります。陽炎姉さんと黒潮はこぼれたところを拾う形でお願いします」

 「梓、突撃するつもり?最近じゃ珍しいわね」

 「ええ。皆さんの突撃に合わせて創造者の首を直接折って迅速に事態の収束を図ります。今作戦においては不測の事態を少しでも減らしたいですからね」

 「流石に皆の練度上げに使える状況やないもんなぁ」

 「電さんは攻撃よりも感応の方を優先してください。何かあった時はすぐに報告を」

 「任せてくださいなのです!」

 

 もうストーリーボードから「何かが起こる」と申し出ているような状況なのだ。油断は出来ない。

 

 「こちら秋津島!50鎮守府の部隊、まもなく合流かも!」

 「では、行動開始です」

 「「了解!」」

 

 

 11:30 太平洋沖

 

 

 霞ちゃんと合流した私達は攻撃の構えをとっていた。大和ちゃんと武蔵ちゃんが安定して当てられる距離まで詰めた上で旋回してくる敵部隊を迎撃する流れだ。この時点での反撃は司令官さんが防ぐ手筈になっている。

 

 「皆、来るわよ!」

 「敵艦隊有視界に!」

 「砲撃構え!10、9、8……」

 「航空隊発艦準備!」

 「2、1、てぇーッ!!」

 「「発射!!」」

 「「艦載機発艦!」」

 

 最大級の戦艦艦娘2隻による直撃で敵艦隊に文字通り穴が開いた。そこに畳み掛けるように空母から艦攻と艦爆が殺到する。砲撃担当のメインを羽黒ちゃんとアウトローちゃんにしたら普段の主力部隊のお約束パターンである。

 

 「こちら福山、吶喊します!」

 「こっちは任せなさい!」

 

 そうやってこちらの部隊が深く食いついた所で異変が生じた。

 

 「呼んでるのはこっちじゃ……ない!?」

 「は?……ッ、電より各員へ!標的の創造者に意思を感じません!もしかしたらこの大部隊全部ダミー……!」

 『くっ、形が崩れて纏わりついてきた!?』

 「声は……こっちだ!偏向バーニア起動!」

 「嘘、逆方向!?」

 「電お願い!他全員離脱できそうにない!」

 「了解です暁お姉ちゃん!偏向バーニア起動!待ちやがれなのです!!」

 

 なにもない方向に江風ちゃんが反転して駆け出したので慌てて追う。バーニアの速度こそ同じだが滅茶苦茶に使い潰している彼女と私ではやはり速度に差が出てしまう。

 

 「そこ、かぁ!」

 「エーテルレーダーに揺らぎ……なんて贅沢なデコイを使うんですか!?」

 

 揺らぎを抜けると小さい島が現れた。島といっても少しの陸地があるだけの浅瀬のようなものだが。そして、そこに本物の創造者が大きな姿見の横に立っていた。

 つまりあの大部隊は全て囮だったということだ。

 

 「聞こえる……そこから!」

 「あの鏡を壊せば……!?」

 「……やらせない」

 「間に合え!」

 

 姿見を破壊しようとした私を創造者が牽制している間に江風ちゃんが『姿見に飛び込んで消えた』。

 

 「な……ポータルか何かになっているのですか!?創造者!なんのつもりなのですか!」

 「……可能性の創造、混沌、役割……」

 「単語の羅列を説明と言わないのです!……そういえばお前も『役割』に囚われていたクチでしたね」

 「……私の居る意味。この力を持った『役割』。それは可能性を創り、混沌を広げること」

 「広げるなそんなもの!マザー!」

 『鏡は破壊するな。接近もしないほうがいい。だが、その者の排除は問題ないようだ』

 「その言葉を待ってました!私は他の『電』程優しくはないので……沈めぇ!」

 「!?」

 

 鏡を巻き込まないように主砲を叩き込んでいく。攻撃されるとは思っていなかったようで直撃した様子だが一応姫級重巡である。即殺とはいかない。

 

 「今度は誰と手を組んだか知りませんけど、それを加味した上でお前を殺す理由はこちらにはたくさんあるのです!それに……私の友達をこれ以上妙な事に巻き込むなぁ!!」

 「……『役割』を持つものは、果たすべき……」

 「私たちのスタンスを教えてやるのです。……そんなモノ知るか死ねぇ!!」

 「……理解出来ない」

 「私たちの関係は理解するしないなんて上等なモノじゃなくて、狩る側と狩られる側でしかないのです!具現武装!『スフィアイレーー』」

 『退避行動を取れ石川絵梨花!!』

 「ッ!?」

 

 マザーの指示に従って無理矢理回避行動を取りその場から転がり去る。直後、その地点に機銃掃射がされた。

 

 「何……って!お前は赤騎士(レッドナイト)!?」

 「撤退しろ創造者。貴様の今回の『役割』は果たしたはずだ」

 「……了解した」

 「逃がすとーー」

 「やらせん」

 

 激しい攻撃で創造者への追撃を許さない赤騎士。想定外ではあるが、思い返してみればバミューダで協力関係にあったのだ。不思議ではない。

 

 「貴方を造った東雲は、平和を祈っていたと思うのですけどなんでアイツの味方をするんですか!」

 「この世界は閉塞している。だから打破しようと研究者たちは活動した」

 「そいつらがクソだったから東雲は自分ごと爆破して抹殺したんでしょう!」

 「ならば的確に芽を出させる必要がある」

 「は?……それが東雲の願いだと?」

 「沖田元帥やこの世界を頼むと支持された。私の判断した結果、これが望ましいと判断した」

 「この、イカレポンコツガラクタがぁ!」

 

 東雲の遺言を勝手に解釈した結果、『役割』に踊らされてどんどん何かをしでかす創造者をサポートすることにしたらしい。

 

 「くっ、創造者は転移したのですか!?やってくれて……!」

 「捜索もさせない」

 「ジャミング弾!?」

 

 創造者が消えたポイントに撹乱目的であろうジャミング弾を撃ち込んで、赤騎士も撤退した。レーダーの類を使うまでもなく、もう追撃不可能だと心が理解した。

 

 『響だよ。電はその場で現状維持。解析に濁流を転移させるから、その護衛を頼むよ。

 他の各員は戦闘続行。創造者が消えてもそのデコイ達は健在みたいだから掃討してもらうよ。恐らく再生機能は消失しているはず』

 「……くそぅ」

 

 江風ちゃんに絶対に何かが起きると分かっていたのに。そうさせないために一緒に行動していたのに。まんまと出し抜かれてしまった。

 

 『石川絵梨花。君だけの失態ではない。今を悔やむのであれば先のことを思考しろ』

 「……」

 『創造者が起点となり混沌が広がることを識る事が出来た。ならば次はそれに備える、次はやらせない』

 「そうですね。これっきりにしてやるのです。あのガラクタもスクラップにしてやるのです……!」

 

 だから、今回は無事でいて欲しい。

 

 

 ???

 

 

 「う……ん……ここは……ここはどこだ?」

 

 助けを求める声を聞き、熱に浮かされるように走り回った気がするが記憶がおぼろげだ。

 

 「あ、気がついた?」

 「うん?なんとか……頭が痛いけど意識はハッキリしたよ」

 「そっかそっか良かった。……それで、君はどこの誰なのかな?」

 「127の江風……アンタも艦娘……なんか違う?」

 「127?なんの数字?それにそのナリで江風?それで艦娘って表現するヒト初めて見たけど……アナタもKAN-SENじゃないの?」

 「え?」

 「え?」

 

 そんなやりとりをしながら目の前の人物を観察する。水上に浮いているし艦娘の類だと思うのだが、金髪のツインテールで黒い水着の上にジャケットと大胆に露出した衣装。日本艦娘以外の艦娘もそれなりに見てきたのだがその誰とも合致しない。

 

 『立花蒼。この地、我等の居る地球ではない』

 「……え?」

 「今の声どこから?」

 「……きゅう」

 「ちょ、ちょっとーっ!?」

 

 再び意識が遠のく。今度は一体何に巻き込まれてしまったのか。

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