3月23日 18:00 アークスシップ艦橋
てーとくと実践訓練を日中続けた後、私達はアークスシップの艦橋に帰ってきた。居た場所が場所なので、軽い身体検査をしてから解放された。一方でルーファさんは検査をパスして先に戻っていき、アフィンさんもアークスシップに帰還してから別行動になっていた。
「てーとくが元気そうでよかった」
「だいぶ雰囲気が柔らかくなっていたのです。今の方が好きなのです」
「私達の世界で大きくキャラを変えるような何か事件が発生することが明らかになったのだけれど」
「あはは、多分乗り越えられるんじゃないかな」
「梓さんの反応、ここ一番の明るさだったよ。やっぱり君達が必要なんだなって強く思うよ」
「梓お姉様には私(わたくし)がいますのにぃ……!」
「コハルちゃんの想いもわかるようになったのです。司令官さんに劇的に助けられたらそうもなるのです。……というわけで負けないのです!」
「望むところですわ!ほぉ~っほ!!」
「張り合うんだ……」
「慣れろよライル……ン?」
わいわいと会話しながら環境に入ると、ルーファさんとシエラが何やら動画を見ていた。
「服……いいなあ、私も時には別の服に着替えてみたりしたいな……はっ!な、なんでもないですよー!こほん!さて、あのアルくんのことですがこちらの世界の人なのか、あちらの世界の人なのか……データが足りなくて、不明ですね。直に会えば何かわかると思うのですが来いと言うわけにもいきませんし……むむむ、歯がゆいです」
「アル君はとりあえずワルイ感じはしないんだよねぇ……あ、おかえりライル君!皆!」
「何見てるンです?」
「あっ、これはっ」
「……八坂?」
動画をよく見ると寮の一室で八坂と鷲宮、そしてアルがやりとりしている様子が映し出されていた。これはおそらく――
「八坂の部屋じゃねェかなンで盗撮してンだよ!」
「と、盗撮ではありません!情報収集です!」
「地球についてはよく分からないからね!私とヒツギちゃんが繋がりを得たことを利用してヒツギちゃんの体験した情報断片を再生して地球の情報を集めてるんだ!」
「あ、ルーファさん――」
「それを盗撮って言うンだろ普通に私達に聞けー!?」
流石に見咎めざるを得ない。というか、これはまさか――
「……私達の世界でも守護輝士達こういうことしてたってコト?」
「やってそうなのです」
「あのヒトなら素知らぬ顔でやってそうよね」
「あはは、ありそうだね」
私達の中で守護輝士とシエラの評価が大きく下がった瞬間だった。元々てーとくに依った好感度だったこともある。
「ねえ、いいの?君達に聞いて」
「あー……ライル」
「地球についての概要程度なら。マザー・クラスタの突っ込んだコトはナシ。……だって」
「なら……」
惑星地球では12年前に情報粒子エーテルが発見されたことによって飛躍的にソフト面での技術発達が発生、情報インフラもそちらに移ったこと。多くの人々は知らないがそれを推し進めていた組織が発足当時のマザー・クラスタであり、それはマザーという人物がスカウトした人材で構成されていること。八坂達才能の卵であったり各業界の重鎮にもマザー・クラスタは存在すること。
ソフト面での情報インフラ・エーテルを活用する媒体としてクラウド型OS・エスカが広く活用されていること。地球の技術レベルにそぐわないレベルで高性能な利便性のエーテルが発見・活用されたことによりハードに比べてソフト面が歪と言えるほどに進化・特化していること。エーテルはそれだけのポテンシャルを秘めているということ。
エスカ標準搭載アプリ・PSO2は裏の管理者がマザーであり、その健全な運営のために八坂のような一般マザー・クラスタ構成員を中心にバグチェックなどを行っていること。このゲームの世界観がオラクルと瓜二つであること。こちらに関するその他情報は情報部局長のカスラさんが握っていること。……というところまで話した。
「これが私達の世界と共通してるはずの情報だね」
「共通ですか?」
「エーテルの発生と同時期に私達の世界では地球中の海から敵性存在、深海棲艦が出現。有効打を与えられずに大きな損害を出す中で異能者艦娘が出現、対抗できるようになった。エーテル通信によって情報インフラこそ無事だけど重要な貿易流通網である海運が壊滅することでより情報インフラに依存する形になった。……って地球人類の状況を大きく変えた出来事がこっちの世界では発生していないようでね。オラクルで言えば、ダーカーが存在する世界としない世界ぐらいの差があるって思ってくれればいいよ」
「そう聞くとすっごい差だね!あ、だから君達がこの世界に来たんだ」
「そういうこと。この世界には鎮守府が存在しない。だからこちらの世界の私達が味方することは現状ないと言っていい。だって武装組織が存在しないんだモン。私達4人を除いてはね」
「あなたたち4人ですか?」
「この辺りの調査をカスラさんがしているか確認してほしいのもあるンだけど……私達4人はマザー・クラスタ所属メンバーでもある。もし艦娘にならなければ八坂火継と同じあの学校に通っているはずだ。そして八坂火継同様にPSO2のバグチェックを行ったりして過ごしている……はず。私達と違う人生を歩んでいるから詳細は分からない。どうせ情報収集をするならこの世界の私達、名前はそれぞれ立花蒼、石川絵里香、本沢みなも、藤堂小桃李。これが艦娘ではない私達の本名。この名前で学生生活をしているはずだから、調べてほしい」
「もしかしたら力になってくれるかもってコト?」
「一般的なマザー・クラスタ構成員だからバグとみなしてくると思うけどね。なンにしても動向だけは把握しておきたい。頼めるかな」
「お任せください!……にしてもカスラかあ、私苦手なんですよね……」
「真っ向からぶつかるからいいようにあしらわれるだけだと思うけど。まあ任務のうちだと思って頑張って」
「簡単に言ってくれますね!?」
実際問題、私達はカスラさんとのやりとりに慣れてしまっている――悪意を持っている他所の鎮守府なり大本営のアレな連中とのやりとりに比べ悪意がなくただ性格が悪いだけなので圧倒的にやり易い――のだからそうとしか言えない。
「この世界での君達について調べて、アプローチするの?」
「状況次第、ですかね。八坂みたいにユーザーアークスとしてちゃんと力があるなら戦力として加えたいですし。足りないんでしょう?戦力」
「そうなんだよねえ……」
この世界の目下の課題は戦闘要員、それもルーファさんに同行して一緒に暴れられる戦力の不足。異世界人である私達が1から10までやるには限度がある。だからこそ戦力として換算出来るマザー・クラスタの使徒は出来る限り味方につけたいところだった。具現武装が使えなくても、ユーザーアークスとして使えるならこの世界における私達4人も戦力に加えたいのはそういう理由もあった。
「今までは梓さんが頼れる先輩をやってくれてたからどうにかなってたけど、そうもいかなくなってるもんなあ」
「こちらの世界と私達の世界との差異……てーとくは何か言ってたンです?」
「アフィン君が積極的に関わってくれているのが大きいって。後は他のアークスの皆をまとめて牽引してくれるエドガーさんの存在も大きいって言ってたなぁ」
「ッ!……そのエドガーさんは、今も健在で?」
「うん?バリバリ活躍してる……よね?シエラ。起きてからまだ会ってないや」
「はい、それはもう!そのエドガーさんがどうかしたんですか?」
「私達の世界としても、てーとくの過去としてもそのヒト戦死してたからね」
「司令官さんの心の大きな傷の一因なのです」
「……あ、だから入れ込んでたんだ!?」
「今更!?」
「だってだって!私とはあんまり縁がなくてよく分からなかったんだもん!」
「だいぶ未来変えたなァてーとく……」
どうせならと恩人の生死を変えるだけに留まらず関係性も大きく変えてしまうのは予想外だった。
「エドガーさんが福山提督にやった指導とかを福山提督が代わりにルーファさんにやったっていうことかな?」
「それをべったり……その結果がアレね」
「?……ぶい!」
「姉さんポーズ求めてないから」
「えー?まあいいや。君達、今は暇?」
「え、はい」
「じゃあさあ模擬戦、しよ?」
そう言ってルーファさんが私を指差す。
「ご指名は私か。……こっちも貴方の力を測りたいところだったンだ。丁度いい」
私達の世界の守護輝士との差をこの身で知っておきたい。
「というわけでシエラ、仮想空間に行ってくるね!オペレートよろしく!」
「待ってくださいって言っても止まりませんよね。ならこちらで仮想空間の使用許可を取っちゃいます!」
19:00 アークスシップ 仮想空間
「ここなら全力で暴れても怒られないからいいよね!」
「まあ、貴方レベルならそうでしょうね」
準備運動をしながら向き合う。てーとくも全力を出せる戦場が少ないーー演習で出そうものなら尚更被害甚大になるーーことをボヤいたり、強敵相手に楽しそうにしていたのを思い出す。
「ルーファさん、これが終わったら私もお願いします!」
「おっけー海風ちゃん!」
「血気盛んなことですわね」
「海風ちゃんのいいところなのです」
そんな周囲の声を聞きながら相手を観察する。武器はアサルトライフルのようだ。武器の名前はチュロスタ。異質なファンシーさを持つお菓子モチーフの武器であり、今の第一線を張る武器ではなかったはずだ。
「ん?チュロスタちゃんが気になる?私のお気に入りなんだ〜!」
「成程、そういう」
装備のグラフィックが反映されるゲームでは、一部のユーザーに型落ちの装備を最大限改修して使い倒す愛好家がいる。PSO2は武器の見た目が多彩であること、性能の方を準一線級まで調整できるクラフト機能なるものがあるので尚更だ。アークスが実際にそういうことをしたら彼女のようになるのだろう。
「武器はソードじゃないンですね」
「ソードもイケるけど、私はどの武器種も使えるよ?」
「器用万能なことで」
大抵のヒトはそれでも得意な武器、となると偏っていくものだと思うのだが。
「江風ちゃんはその艤装、だっけ?その装備も使っていいからね!そう、全・力で!」
「言質は取りましたからね……!艤装展開、具現武装展開!」
『それでは始めますね……開始!』
「ッ!」
シエラの合図と共に主砲を撃ちながら飛びかかろうとするが、ルーファさんはくるりとターンをして回避と攻撃態勢に移行を同時に行ってきたため偏向バーニアで回避行動に無理矢理移る。
「そ・こ・か・な!」
「動く先が読まれてる!?」
回避し陣取ろうとした位置に単発系のPA(フォトンアーツ)、『ピアッシングシェル』を次々に『置いて』来る。
「アサルトライフルなのに足を止めない!?」
「いいこと教えてあげる!チュロスタちゃんはねぇ、動きながら撃ってナンボなのだよ!」
「江風ちゃん、その武器ムービングスナイプ潜在なのです!」
「そういう潜在なンてあるの!?」
PSO2において、アークスのレンジャークラスは基本的に足を動かさない。同じ場所に留まりつつ撃つほうが威力が上がるクラススキルを持っているからだ。ライルに確認したがクラススキル概念はオラクルアークスも持っているという話で内容も大凡一致していた。
だが何事にも例外はある。アークスの武器にはそれぞれ固有の潜在能力という個性があり、アサルトライフル・チュロスタは移動時の射撃能力を強化するモノだったようだ。つまり動きながらの射撃戦法が前提になる。
「けど、それだけなら!主砲一番二番、発射!」
「複数の気配?そうだったね、その装備には小さい妖精さんっていうのがたくさん居て協力して戦うんだったね!いいね!!」
「余裕で躱してくれて!」
「あっはぁ!突っ込んできたね!」
(やっぱり、動きが読まれている)
私の攻撃に余裕を持って対処した上で接近の挙動もそこから繋げたツインダガーでの攻撃も想定通りと言わんばかりの余裕でいなされた。
「これが、最高クラスのフォトン適性……!」
「うん!フォトンが教えてくれるよ、君の動きを!ばーん!」
「『ディフューズシェル』か!」
ショットガンのような至近距離用フォトン弾を避けて距離を取る。一方的に消耗している。よろしくない。
「チッ、てーとくがいかに合わせて訓練つけてくれていたかがよく分かるよ!」
全部先読みして行動を封じては訓練にならないから、てーとくは私との訓練時にはこういうことをしなかったのだろうと察せられた。
「読まれる前に動く……いや、読まれた先を行く!『ゾーン』突入!」
「おん?」
感覚を鋭敏にする。体感時間が引き伸ばされる。
「私の出せる全力がどこまで通じるかな……!」
「感覚が変わったね?とりあえず一発行ってみようかぁ!」
「見えたッ!後は、追いつけェッ!!」
銃を構える挙動が、その後の挙動が見える。回避すべき点と向かうべき点が繋がり、曲がった線になる。それをなぞるように動きーー
「らあッ!」
「早っ、ぐぅっ!?」
「取り落とせッ」
狙うは手に持った武器の根元。武器を弾く。
「しまっーー」
「これでーー」
「させないよ!」
「!」
徒手空拳になったルーファさんに斬りかかろうとした瞬間、「弾き飛ばした武器の方から」鋭い声がして反射的に飛び退く。私とルーファさんの間の空間を銃弾が飛ぶ。
「遠隔攻撃!?……え?」
「『インパクトスライダー』!」
「誰!?」
白の調理服にピンクを基調としたお菓子のようなデコレーション。チュロスのような茶の髪色のツインテールに碧い目。そんな女性がいつの間にか現れ、先程私が弾き飛ばした武器、チュロスタを撃っていた。
「チュロスタちゃん!」
「え?」
「マスターはやらせないよ!」
「チュロスタちゃんは私の相棒武器なのだ!」
「武器?……考えてる余裕はないか!」
いつの間にかダブルセイバーのコートダブリスーーフォトンカラーが青緑色だがてーとくが使っているソードの武器シリーズのダブルセイバーモデルだーーを手にしたルーファさんが挟み撃ちの形で攻めてきている。
「妖精さんみたいなモンか……なら狙うは本体!機銃は銃持ちに牽制射撃!」
「第二ラウンドだよ~っ!」
「余裕を見せて!」
「結構ヒヤッとしたんだけどねっ!」
「だから私が出てきたんだよ!」
「くっ、連携が取れてる……!」
というよりはチュロスタちゃん、と呼ばれた銃使いがルーファさんに合わせるのが上手いと言うべきかもしれない。
「だったら私がとる立ち回りは……!」
「わっ、私をチュロスタちゃんの射線に置くつもりだねぇ!?でもねぇ!」
「『ラ・ザン』!」
「ぐあっ!?」
風属性の狙った座標に生じさせるタイプの攻撃テクニック、『ラ・ザン』が私を強かに打ち付けた。座標テクニックの強みは狙いようによっては遮蔽物を無視してその先を狙える点がある。
「チュロスタちゃんは射撃法撃どちらもいけるのだ~!」
「マスターを遮蔽にするなんて小細工、通じないよ!」
「くそっ……っと、うわあっ!?」
視界がブレる――風属性の状態異常・ミラージュだ――にかかってバランスを崩したところに連携攻撃が畳みかけられた。こうなってはゾーンもさして意味はなく、そのまま削り切られてしまった。
『そこまで!ルーファさんの勝ちです!』
「チュロスタちゃん、いぇーい!」
「いぇーい!」
「最後一方的だった……ちくしょう」
ハイタッチする彼女らを見ながら悔しさを覚える。
「2対1ってずるくない!?」
「海、こっちも妖精さん込みの戦いだったからお互い様だよ。ここぞって手段に対応できなかった私の落ち度。実戦で奥の手に対応できませんなんて言い訳通用しないだろ」
「むむむ。……江風、カタキはとるからね!」
「おう、頑張ってな」
そうして大して休息を取らず次の模擬戦が始まるのを観ていると私に憑依しているメンバーが話しかけてきた。
(全力、というには足りないんじゃないかしら?)
(我の力を使っていなかったようだが)
(シャオさんにその力はまだ明かさないでって言われてるじゃンかさ。それにツインダガーと幻創の剣の併用は出来ないし……課題は明確だったし)
今回の戦いで見えた私の課題は。
「妖精さん、もっと無茶ってかコキ使うけど大丈夫?」
「お任せ―!」
「むしろ具現武装にも負けないぜー!!」
「頼もしいね。……あのヒトが守護輝士だって、てーとくのIFだって、負け続けるのは癪だから、さ!」
私は、私達『江風』は明確な目標に躓き続けるわけにはいかない、いきたくないのだ。
翌日 アークスシップ艦橋
「コオリちゃんに嫉妬してるけどヒツギちゃんも結構あるよね。……ふむ、弾力も……」
「私のベースになったウルクも大きいのに、なんで私は小さいんですかね……!」
「シャオの趣味?」
「やはり全アークスシップのシエラを総動員して抗議を――」
「なにやってンの?……ン?」
私が艦橋に入室した時、ルーファさんとシエラが妙な会話をしていた。話の元はなんだろうなと映し出されている画面を見ると、そこには風呂に入っている一糸纏わぬ八坂と鷲宮とアルがいて――
「あ”っ」
「こ、この断片情報については私たちだけの秘密です!秘密ですから!!」
「…………なァにが情報収集だ馬鹿共がァ!!覗きじゃねーか!!!」
速攻で風呂の覗きなどというプライバシー無視の極致ともいえる情報断片は破棄させた。
「こンなヒトに負けたくねェ……!!」
改めてそう思わされたのだった。私達の世界の守護輝士とシエラも同じことをしていたこと、その後も続けていてファレグの姐さんにバレてようやく止まったことを知るのはまた後の話である。当然守護輝士らへの評価がまた一段と下がった。