3月27日 12:00 東京 エスカタワー近辺 カフェテラス
「さて、上手くいくかな」
私は単独でこちらの世界のハギトさんにコンタクトを取り、会う約束まで漕ぎつけた。こちらの世界の八坂一行とハギトさんが出会う前で良かった。
「立花蒼さん、だね」
「来ましたか、亜贄萩斗社長」
「色々と聞きたいことはあるけれど……まずはこのエーテル通信環境下での隠蔽措置を見せてもらいたいな」
「騒ぎになったら面倒ですからね。術具起動、ステルスに」
ハギトさんの技術がエーテル通信に働きかけて通信を遮断するのに対して、私は術具で対象の範囲内ヒトやモノに対して範囲外のヒト達から意識を極端に向けられにくくするものである。術具に込められた霊力を使うものであり、エーテルには一切影響しないしエスカ端末も同様である。
「これで良し。このテーブルに居る限り、叫ぼうが裸になろうが周囲は誰も気にしないですよ」
「これが非エーテルの術か、興味深いね。予め飲み物を確保しておいて正解だったね、コーヒーで良かったね?」
「ありがとうございます。コンタクトを取る際に私の正体については説明しましたけど、どこから証明していけばいいですか?」
「具現武装のようにWW2の艦船の力を受け継いだ姿に変身できるという話だったけれど、やってみせてもらえるかい?」
「はい。……変身、江風!」
『きひひっ!』
「ほう……」
マザークラスタの亜贄萩斗ではなく、YMT社長のハギトさんはこちらの世界でも接しやすく話の通じるヒトだなと思いつつ、江風になり各部を軽く動かして見せる。先程かけた術のおかげでそこそこ混んでいるカフェのど真ん中でやっても誰も気にしていない。
「これが駆逐艦江風としての私の姿です。……白露型駆逐艦九番艦、改白露型の江風だよ、よろしくな。あ、呼び方、間違えンなよ?」
「素晴らしい!聞いていた通り具現武装とは違ってエーテルを感じない力による変身、背負うは白露型駆逐艦の機関で主砲も駆逐艦江風のソレだ。成程人型で海上を行くのに脚部が船底のパーツを担当しているというわけか、そして……」
「駆逐艦江風になれるってのと、この見てくれだけでよくそんな分かりますね?」
「私の最推しは大和型であることは知っているだろうが、当然同時代に活躍した日本艦艇への興味関心も尽きないとも!それを見越してこちらでは接点のない私とコンタクトを取ったのだろう?」
「そうですけど想定以上です。私達の世界で艦娘の基本情報はそれとなく知ってても、この姿を見て駆逐艦江風をしっかり再現している装いだー、なんて思うヒト皆無ですからね」
「興味関心の程度の問題だろうね。なんにせよ、君が『私達の世界の立花蒼君とは似て非なる別人である』『非エーテルの力で駆逐艦江風を模したモノになれる存在である』ことはしっかりと認識できたよ」
「それは良かった」
「それで、そんな私に依頼という話だったね。先日PSO2の中からアルというヒトを連れ帰ってきた八坂火継君に接触する予定の私と協力体制を結びたいと」
これが本題である。私達の世界ではマザー・クラスタである以前に127とは強い結びつきがあったため腰を据えた交渉はいらなかったが、この世界では違うのだ。その上でこの騒動を経てからの地球での活動や事後処理にハギトさんの協力は不可欠だ。欲を言えばグリーン・タブレットのようなものまで作ってもらえれば戦力増強という意味でも期待が大きい。
「私がこの世界に似た世界の少し未来から来たという話はしましたよね。まず結論から言えば、ハギトさんの任務は2つの要因により失敗します。1つは八坂火継の心変わり。マザーに教えられてきた常識が壊れたこと、自らに降りかかった危険をアルや守護輝士(ガーディアン)に守られたこと、その吊り橋効果も含めて非常に揺れている状態です。元々マザーに靡いた根本の願い、本人もまだ自覚できていない願いである自分を置いていかないで欲しい、自分を見て欲しい。自分の居場所が欲しい。八坂の庇護を求めるアルはそんな八坂の心を強く刺激したから。
もう1つは守護輝士という常識を超えた強さの戦力が馬鹿のフットワークで立ちふさがってくること。ハギトさんに分かりやすい例えで言えば、ドイツ空軍のハンス・ウルリッヒ・ルーデルのようなモノ。他のアークスなら束になったところでもハギトさんの力で十分対処出来るでしょう。だけど宇宙を滅ぼす脅威に主戦力として真正面からぶち破れる彼女は別です。そしてあのヒトはアルが八坂の元に来ることになった一件で八坂とリンクのようなものをしているから八坂の危機にはご都合主義よろしく駆け付ける。その前に回収はまあ諦めたほうがいい」
「私のプライドを加味しなければ色々と納得できる話だ。マザー・クラスタへの参加動機は、マザーに誘われた以外は人それぞれだ。私のように力を持ち事情に詳しい使徒でもない上に多感な学生で一気に色々あればそうもなるだろうね。ただ、妨害戦力としての守護輝士。本当にそこまで強いのかい?他の援護があるとかではなく。そして君の世界の守護輝士でもないわけだけれど」
「この世界の守護輝士と私の模擬戦の動画があります。まずはこれを見てもらえれば」
そして先日やりあった模擬戦の動画を見せる。一緒に他の127メンバーとの模擬戦の様子も見せ、守護輝士の柔軟で強力な対応力を示す。
「……私や他の使徒もPSO2にログインし、アークスとして動いてみたことはあるんだ。その知識と経験を持って言うけれど意味わからない動きをしているねぇ!その上で武器を取り落とさせてもその武器が自立して連携して攻撃してくるとかなんなんだい!?」
「その上で聞いた限りですけどおびただしいダーカーの群れ相手でも三国志の呂布か?ってぐらい無双しつつ誰かと連携することで更に大暴れできるみたいですね。私はこの世界に来てからまだその光景を見てないンですけど……特殊能力による強化とかなしに大群相手に適切に立ち回り続ける反応力、継続戦闘能力、集中力。どれも一級品の最強の素質を持った存在、と言っていいですね」
「分かってはいたが、マザー……話と違うじゃあないか」
「マザーがPSO2でオラクルに干渉を始められた時期から程なくしてこのヒト活動休止してますからね。ンで復帰した直後がさっきの模擬戦ですよ。八坂とのリンクを含めて情報不足からマザーの分析が外れてもおかしくはないですね」
「まさに伝説のNPC、というわけだね……そして実態は伝説以上か」
頭を抱えるハギトさん。気持ちはよく分かる。
「その上で敗戦後に君達に合流してほしいというのが君の要求だったね」
「はい。貴方の安全も兼ねてですね」
「マザー・クラスタ内部に都合の悪い存在を消そうとするヒトがいるだったか。大方オフィエルだろう?」
「分かるんですか?」
「まずそういう行動を起こせるほど自身の力も影響力もあるのは使徒クラスであることで絞れる。
その上で私やベトールはマザーに恩義を感じた上でマザーやマザー・クラスタを自身が活躍するための支持母体、支援者、ビジネスパートナーといったものだと認識している。オークゥとフルは自らを掬い上げたマザーへの忠誠が核にある。アラトロンはマザーの同志である一方でマザーのやっていくことを最後まで見届けようという保護者の傾向がある。この中のいずれも『マザーから排除の指令が下った』のであれば排斥に移ってもおかしくはないが、同様に自発的にやるとは思えない。
それに比べてオフィエルはマザー・クラスタというよりマザーを自身の理想の体現として見ているところがある。言い換えればマザーの使徒に相応しくないと思えば排斥に出る可能性が一番高いと言える。マザーのためではなく『自分の理想とするマザーのため』にね。私の推理はどうかな?」
「大正解、ですね。よく見てますね」
「私やベトールはマザーを主なビジネスパートナーや支援者として認識しているけど、他のマザー・クラスタメンバーも他所の人間よりビジネスパートナー足り得る相手として認識しているからね。アラトロン程ではないがそれぞれに興味を持ち評価はしているさ」
「成程。実際、私達の世界ではマザー・クラスタ繋がりの私達を経由して鎮守府と提携していたからよく分かりました。
その上で私達をそういったビジネスパートナーの土台に上げてもらうために、この映像データを見てほしいンです」
「これは?」
「私達の世界の貴方が、私達がこの世界で活動するにあたって用意したモノです。貴方との交渉に使えって渡されましたが中身は私も知りません」
「成程、貰うよ。……」
しばらく動画を見ていたハギトさんがわなわなと震えだした。そして見終わって叫ぶ。
「流石私だねぇ!!何が私の気を引くかよく、よくよく分かっているねぇ!!!」
変に怒らせて交渉が難航しては困るのだが何を吹き込んだのだろうか。
「終始大和と武蔵の艦娘を両手の花にしながら煽ってくるとはねぇ!そうだ羨ましいとも。実に羨ましいとも!!」
「何やってンだ大和と武蔵!?」
「君達の世界とこの世界の違いを加味した上でこの世界でも起こり得るこれからの騒動の後の話をして、どう立ち回るのがYMTの為になるのか論理的に話してくれたよ。両手に花の状態でね」
「大和と武蔵にとっても自分達の艦を好いてくれるあっちの貴方に好意的なンですよね……」
「……ふぅ。君達が私に求めているのは八坂火継君とのやり取りの後だというのは改めて確認したよ。私としてもマザー・クラスタが凋落するのは看過しがたいからね。その上で君はあちらの世界のように君の地元への介入を望むかい?」
「そこまで話してたのか……」
私の世界における地元東条は深海棲艦の影響もあって精神汚染が深刻で取り返しのつかない状態だった。こちらの世界に来てから軽く調べた――現地に赴いて調査したわけではない――上では転勤者などが被害に遭っている様子も見受けられず、判断を保留にしていた。私の世界においては軽く調べればネットに東条の地への怨嗟や警告がいくらでも転がっている状態だったのだ。
「地元については踏み込んだ調査をしないとなんとも言えないンですよね。踏み込まなくてもいくらでもヤバいという話が転がっていた私の世界と違う辺りかなりマシなのでは、とは思っていますけど……」
「母多だったかな?強大な怪異がこの世界には居ないという証明にはならないわけだね」
「はい」
「あちらの私に提案されたことなんだがね、あちら同様東条の経済活動に我がYMTを組み込んではどうかという話がある。怪異による大災害がない以上食い込むのは容易ではないだろうが成果としてはあちらの世界以上のものが見込まれる。マザー・クラスタにおける私の役割が一区切りついたら調査と接触を請け負おう」
「いいンですか?」
「こちらにとっても悪い話ではないからね。マザー・クラスタのより強固な支えになってマザーから更なる技術投資を受ける口実として悪い選択ではないし、何よりあちらの私が何もかも手に入れているのにこの私は何も手に入れることはなかった、そんな差が生じるのは私のプライドが許さない」
「焚きつけられましたね……」
「だからこそ、私の身をしっかり守ってくれよ?」
「はい!」
「それでは八坂火継君を相手どる流れを確認しようか」
そうして私達の世界でハギトさんがやった流れを踏襲しつつ応用していく流れを決めていった。具体的には私達127組は基本的にハギトさんと戦闘をしないように立ち回り、幻創戦艦大和との戦いには顔を出してアークスに私達の立ち位置を見せた上でハギトさんを回収する。その後アークス、というよりルーファさんと八坂がベトールさんと対峙していく中でハギトさんが東条についてアクセスしていく、という方針だ。
翌日 18:00 アークスシップ艦橋
「あ、やっと帰ってきた!」
「どうしました?」
日課のてーとくとの訓練を終えて艦橋に帰ってくると、ルーファさんが話しかけて来た。
「この世界の地球は君達の世界の地球とは違うけど似てるんだよね。なら、このヒト知らない?」
そう言って先程まで見ていたであろう情報断片を再展開する。そこに映っていたのは案の定ハギトさんだった。
「見た目だけじゃなんとも、なのです」
「むむ、時代の寵児!名前はあにゅえーはぎと!なんかこう、変態!」
「伝える気有ります?」
多分フォトンによる勘かなにかで私達が知ってるということは理解しているのだろう。それにしても表現が残念なのだが。
「ライル」
「姉さんはああいうヒトだよ」
「生暖かい目で見てンな……まあいいや。知ってますよ。現在エーテル情報社会である地球、特に日本においてエーテルインフラを活用する優秀なソフトを多く手掛けている新鋭企業、その代表。故に時代の寵児。それがその亜贄萩斗さんです。
その上で彼はエーテルが発見される前の前時代に起きた世界大戦で活躍した日本の艦船が好きで社名のYMTもそこから拝借したほど。その日本の艦船とは私達艦娘が受け継いでいるソレのこと。だから私達としてはかなり親しみを感じているし製品も大いに活用している企業のヒト、といったところです」
「そんなヒトがなんでヒツギちゃん達にアプローチを仕掛けたのかな。情報規制をしてまでなんて地球ではよくあることじゃないよね?」
「八坂達がマザー・クラスタだから。そして八坂達は知らないけど亜贄社長はマザー・クラスタの幹部で、八坂が本来従順なはずのマザー・クラスタの使命に背き始めたから様子を見に来た、ってとこですね」
「!」
ルーファさんやシエラの警戒度が一気に上がる。
「どれだけ貴方達が情報断片から八坂について調べていたかは知りませんけど、八坂は何か迷っている様子はありませンでした?」
「マザーってヒトをすごく信頼していました。盲目的な程に。ですがヒツギさんはアルさんのことを報告することに迷っています」
「多分本能的に分かっているんだ。マザーってヒトの下にアルくんを送ることがアルくんにとっていいことにはならないって」
「そこまで分かってるンですね。なら、幹部級が軽く情報規制を出来る様な組織の頭が構成員個人の不審な動きに気付かないわけもないって分かりますよね」
「あの変態がヒツギちゃんに対してキミが普通の女の子?って言ってたのはそこまで把握していたからなんだ……」
「ハギトさんホントこういう時の変態ムーブ何とかならないのですかね」
「道化を演じているということでしょう」
「インパクトも大事だもんね」
「なんで皆さんあのヒトに好意的なんですか!?」
「私たちの世界において、いろんな面でお世話になってきている親しみの持てる頼もしい味方、というか実質身内だからですねェ」
思えば私たちの世界でも八坂達にそれを認識してもらうまでだいぶ時間がかかったものである。
「味方にすると心強いですし、具現武装の使い方や制御の方法を教えてくれたのもハギトさんだった。貴方達には恩恵はないだろうから実感することはないでしょうけど、デキるヒトなンですよね」
「……具現武装って何?」
「端的に言えば貴方達がフォトンを扱うように私達地球人がエーテルを扱う力。その中で情報粒子ではなく戦闘能力を始めとする力でそれを扱ったモノ。私で言えば身体能力の強化やこのツインダガーがそれ」
「ヒツギちゃんも扱えるの?」
「少なくとも今の八坂には無理だ。適性はあるけどその上で訓練ないし余程の切欠がないとそこまで目覚めないから。……情報断片を盗み見れるぐらいにリンクが強いなら、いざって時にちゃんと八坂を守ってやってくださいね」
「うん!」
本当にやってくれるんだろうな、という気持ちがある。だが、そうやってルーファさん(このヒト)を特別視や神聖視していかないように意識を強く持たなければこちらの世界に来た意味がない。
3月29日 12:30 アークスシップ艦橋
八坂とルーファさんのリンクによって現在八坂に起きている事がリアルタイムで中継されていた。八坂は突如発生した幻創種から逃げ、鷲宮と合流してハギトさんの前に出た流れだ。
『これは、エメラルド・タブレット。幻創種を精密指揮し、能力の底上げや改造量産もお手の物とする、私の具現武装さ』
「具現武装……!」
「江風さん達、これは……!」
「マザー・クラスタの幹部である使徒。彼らは具現武装が使える、というより使徒やマザーぐらいしか具現武装は使えないか使わない。そうでないのに使える私達がイレギュラーってコトです」
「シャオさんの指示で黙っていたのです」
「ヒツギちゃんはマザー・クラスタの仲間じゃないの?」
「マザーの指示を拒んでいるのは火継の方よ。だから現実を見せて元鞘に戻れと強めに警告しているの。彼らにとってバグである、アルを大人しく引き渡せば収まる話よ」
「仲間じゃなかったら問答無用だよね。それに、マザーは、その指示を受けてきているハギトさんは火継ちゃんの状況を火継ちゃん以上にもう把握しているんです」
『……お姉ちゃん……怖い』
『アル……』
こちらの世界でも八坂火継はマザー・クラスタよりアルを選んだ。
『火継……ちゃん……どうして…………』
『ほんと、この状況でどうしてこんな選択をしたのか、あたしも聞きたい。合理主義者のつもりだったんだけどね……。……でもね、何もわからない状況でもアルはあたしを助けてくれたの。あたしだって、見捨てることはできない!』
「ヒツギちゃん……!」
「八坂は無力でも選んだ。そうしたらハギトさんはどう出るか……判りますよね?貴方はどうするの?ルーファさん……いや、守護輝士(ガーディアン)」
「シエラちゃん、出撃するよ!キャンプシップ出して!」
「こんな時のために!キャンプシップ、座標もオーケーです!通信も繋げておきます!」
「サイコーだよシエラちゃん!」
それを聞くやいなやルーファさんが艦橋を飛び出していく。ルーファさんが到着する前に八坂は具現武装に目覚め、ハギトさんをたじろがせる。それならばと数を増した幻創種が八坂とアル目掛けて殺到する。次の瞬間、キャンプシップから着地した瞬間にルーファさんが幻創種を蹴散らし殲滅した。
『ルーファ!』
『よく頑張ったね!さあ、一緒に切り抜けよう!』
『……マザー、話が違うじゃあないか。イレギュラー対応が得意な私にだって想定限界はあるんだぞ』
私達の世界の守護輝士はあまり喋らず背中で語るタイプだったが、ルーファさんは本当によく喋っている。対してハギトさんは私の記憶の中の数割増しで大袈裟な感じで喋っていた。このトンチキ展開も私が既に伝えていたので、演技なのである。
その後は私の世界と似たようなーーダブルセイバーを使っていた守護輝士と違ってルーファさんはチュロスタで跳ね回りながら銃撃をしていたーー展開でルーファさんの圧勝に終わった。
『次に会うときは……マザーもビジネスも関係なしに、潰してあげよう。遠慮も考慮も一切なしだ』
『逃げられた……!』
『深追いはダメだよヒツギちゃん。それにキミには優先することがあるよ、ほら』
『……氷莉』
私の世界で守護輝士を見たときはどこまで見透かしているのだろう、と思ったが今こうして見れば納得である。見透かすも何も全て見ていただけなのだ。
『嘘だよね……火継ちゃん……』
『氷莉……ごめん』
『ヒツギちゃんはいいの?コオリちゃんまで突き放して。今ヒツギちゃんが受け入れられないのはマザーさんの判断だけでしょ?』
『……っ!そうだ、私は……!氷莉、一緒に来て!私は氷莉とまたいつもの日常を過ごしたい、だけどアルを失うのも嫌なの!』
『分かってないよ火継ちゃん……私達の日常は、平和は、マザーがいるからこそなんだよ!?』
『……そう……だよね……』
マザーに盲目的だったことに加え、いい子でいなければ、優等生でいなければという強迫観念に囚われている今の八坂には鷲宮の言葉に言い返せるだけのものが無い。
『誰だって間違えることはあるよ。無理矢理やろう、なんて時は特にそうだよ』
『貴方に何が分かるんですか!?それに貴方はなんなんですか!返して!火継ちゃんを……返して!』
『氷莉……』
『全部は分からないけど……少なくともヒツギちゃんのことを信じられない今のコオリちゃんにはヒツギちゃんは渡せないな。……行こう、ヒツギちゃん。真実を確かめるために。キミの望む未来を勝ち取るために』
『ルーファ……』
『……お姉ちゃん』
『アル……。……ごめん氷莉。あたし、やっぱりこの人と一緒に行く。本当に、ごめん……』
『火継ちゃん!待って、火継ちゃあん!!』
流れこそ違ったが、私の世界と同じ『八坂火継は鷲宮氷莉よりアルと守護輝士を取ってアークスに合流する』という結果になった。
「これが、『物語』ってコトなのかな」
「江風……」
「『物語』を変えるためのアプローチをしていないもの。『物語』でなくても同じよ」
「加賀ちゃんの言う通りなのです。だから私達は……この後にすべきことをやるのです」
「……ああ」
目下は八坂のケアと幻創戦艦大和とのプロレスである。