2027年7月頭 10:00 第127鎮守府
金剛さんと横須賀憲兵隊が用事で鎮守府を離れている日。それは急に――私たちにとっては――訪れた。
『緊急警報発令。大規模深海棲艦部隊が鎮守府に接近中。繰り返す。大規模深海棲艦部隊が鎮守府に接近中』
広域エーテルレーダーは本来各地の鎮守府のを含めれば東京湾内に侵入する深海棲艦はすぐに察知できるような探知範囲を持つ。が、ジャミング持ちだとこれをすり抜けられるらしいことが分かっている。
『敵の識別完了。……『北の姫』のとこのタ級、ヲ級、ハ級。それと雑魚が大量、一部異常なエーテル反応持ちもいるね』
『こちら福山。総員戦闘準備。おそらく総大将はタ級。これは私が相手をします。他は……』
『こちら暁!ヲ級は私が!話したいことが、あるから……!』
『響だよ。暁のサポートに回るよ。皆は他を頼むよ。後は卯月が攪乱、各自殲滅を』
『『了解』』
戦闘準備が整えられていく。イ級の件でこういう襲撃の可能性については予測済みだった。
「私は『北の姫』勢力のタ級。奪われた同胞の仇討に来た!イちゃんの仇、取らせてもらう!」
「こちら第127鎮守府基地司令、福山梓。これ以上の侵攻を許す気はない。ここで止める」
お互い総大将が名乗りを上げる。……戦国時代じゃあるまいし、こんな始め方を見たことがない。それにイ級は生きているはずだが。
(……)
(あ、隠したほうがいいんだ、コレ?)
一度後方に構える私達に目で訴えるてーとく。これが終わったら、色々聞かせてもらえるのだろうか。
『……呑気に話している場合か。仕掛けるぞ』
「好きにしろ。だが、福山梓は私が叩く。いいな」
『……構わない。私の狙いはタチバナアオイだ』
「私狙いかよ!?」
タ級に近づいていた妙な重巡ネ級が私狙いであることを宣言する。このネ級、違和感がすごい。エーテルの塊のような感じで、通信機越しにしゃべっているような感覚で。
「江風さん、貴女狙いの敵に集中。他の方はサポートをしつつ他の敵の掃討を。『北の姫』勢力のヲ級とハ級は暁さんと響さんに一任します。手を出さないように……戦闘開始!」
「「了解!」」
てーとくの号令と共に散る。私狙いな敵は妙なネ級と随伴のこれまた妙なリ級が2。エーテルの感覚がすごい。
「なんですかあの重巡!意思が、感じられないのです!」
「動きがこう、生気がないわね。いいわ、とにかく仕掛けるわよ」
電と加賀も違和感を覚えているようだ。加賀の航空隊の攻撃が先手を打って降り注ぐ。
「は?」
「今の動きおかしくないですか!?」
「バグか何かなの?」
直撃コースだったのに、突然無理な動きで回避する。無理のある体勢での動きなのに体勢が崩れていない。おかしいが過ぎる。
「今度は電が仕掛けます!このっ!」
「また避けたわね」
「いや今の動きおかしいだろ」
存在がブレるように、無理やり回避する感じで避ける。このままでは埒があかない。
「敵の攻撃、避けやすいのです」
「なんというか、一手遅いわよね」
逆に反撃は、まるで、攻撃指示をしてからそれに従って狙いをつけて撃つような、ワンテンポ遅い攻撃。
「やっぱアレ、『偽物』だな」
「江風ちゃんもそう思います?」
「ゲームの敵キャラ、とか言われた方が納得できるわね」
本物の深海棲艦ではないような何か。おそらく、操っているのはネ級だろう。……ネ級も本物であるか怪しい。
「攻撃が通らない、となるとどうしたものですかね」
「とりあえず、狙いをネ級に絞るわ。面制圧なら当たるかもしれないわ」
「ちょっと、試してもいいか?」
「いいですけど、何を?」
「『射撃』は駄目でも『打撃』ならどうかなってさァ……!『具現武装』!」
ツインダガーを展開、一気に距離を詰める。あの射撃精度や射撃速度に当たるほど温い訓練はしていない。
「っしゃあオラァ!」
『……!?』
ブレずに切り裂くことに成功する。というか、刃の通りが良すぎる。
「江風ちゃん!打ち上げられたりします!?」
「了解!やってみらァ!」
切り裂いた方から距離を取り、もう片方へ向かう。ヒット&アウェイ。的を絞らせてはいけない。
「てーとく直伝のォ、蹴りィ!」
「今なのです!」
『……!?』
打ちあがったリ級に電の砲撃が刺さる。吹き飛ばされた状態だとあのインチキ回避は出来ないらしい。
「早くその2体を落として。艦載機の弾薬が尽きる前に!」
「だったら首だァ!」
加賀がネ級に集中砲火を浴びせ、その対応にネ級の意識が向く。その間に倒す必要がある。
「切り裂かれた首からなにか出てきました!」
「ッ、このッ!!」
首が飛ぶ。その首から何かコアのようなものが露出する。私はそれに刃を突き立てた。
「み、緑の光になって消えていったのです……」
「よくわからねェが、やったってことだ!次も行くぜ!」
その勢いでもう1体のリ級もどきを撃破する。ネ級の意識が逸れているからか、まったくと言っていいほどリ級の反撃がなかった。
『……想定外だ。ならば、やり方を変える』
「加賀航空隊、弾薬切れよ。一旦補給するわ」
「助かりました加賀ちゃん!」
「で、奴の様子がなんかやばくなってきたな」
霧散したリ級から零れた緑の粒子がネ級に集まっていく。そして、その姿を変えた。
「で、でかくなったのです!?5mはありますよ!?」
「体のあちこちが装甲で覆われているわね。こんな特徴あったかしら」
『こちら本部の秋雲!そんな化け物観測されたことがないよ!もう、なんだっての!?』
「ベテランの秋雲さんでも知らねェか……どうすっかなコレ」
『……タチバナアオイ。貴様を捕獲する』
「!?」
異形と化した元ネ級の装甲の一部が開き、腕が生えて伸びてくる。私を鷲掴みできるような巨大な手だ。
「狙いは江風を捕まえることの様ね。心当たりは?」
「名前連呼してる辺り、アウトローに話を聞いて捕まえる気になったとかだろ……つまりあのエーテル爆弾の奴辺りじゃねェか!?」
「電達のこと、眼中にないですもんね」
『こちら坂田。10秒後に援護射撃を当てる!巻き込まれるなよ!』
「「!?」」
鎮守府からミサイルが飛んでくる。深海棲艦に通常兵器の攻撃が薄いとはいえ、それでも通るように色々研究を積み重ねてきた。その研究成果だと聞いたことがある対深海棲艦兵装。このような迎撃戦でないと射程が届かないから試作レベルではあるが。それが直撃し――この化け物には射撃回避能力はないらしい――大きくのけぞる。
『……この属性、エーテルか!?』
「大きくのけぞりました!」
「今だ!そこだオラァ!」
体勢を崩した化け物の柔らかそうな関節部分に斬りかかる。体勢を整えそうになったらまた距離を取る。
「斉射します!」
「加賀航空隊、江風の退避の支援を行います」
電達が牽制をしてくれるおかげで捕まらずに距離を取ることに成功した。あまり牽制攻撃は効いていないようだが、私が切り裂いた関節は明らかに異常をきたしていた。
『こちら坂田!20秒後に再攻撃する!繰り返して撃破するぞ!』
「了解、やりかたさえわかりゃァ!」
「合わせて牽制続けるのです!」
「完全にゲームのボスのそれね……!」
『……何故、対応できる!?』
「パターンなんだよ、お前はよォ!」
順番に両足、両手を切り裂く。四つ足状態でも立てなくなった化け物が倒れる。頭が狙いやすい位置まで下がる。
「これで、トドメだァ!」
『……機能不全だと!?』
頭を切り裂き、露出したコアを破壊する。化け物の体が維持できずに崩れていく。
『……タチバナアオイ及び随伴艦の脅威を更新。……仕方あるまい。自爆する』
「やば、全員退避ーッ!!」
盛大にエーテルをまき散らし爆発する。私はマントでいくらか軽減できたが。
「また、体が熱いのです……!」
「アウトローの時と同じね……!」
「大丈夫かお前ら!?」
「一応は!」
「他の皆の援護に向かうわ」
「よっし、行くぜェ!」
私達は他の皆の援護に向かうのだった。
福山提督とタ級は接近戦を繰り広げていた。剣を振り、受け止め、砲を撃ち、回避したり叩き落したり。誤射を恐れて他のものが介入できない至近距離で戦い続けていた。
「……『創造者』、敗れたか」
「異能頼りに負けるほど柔な訓練は施していません」
「『眼は一つ』消えた。だが、まだだ」
「でしょうね。だからこそ、まだ終わるわけにはいかない」
ぶつかり合うたびに小声でやりとりをする2人。それに気付けるものはいなかった。
「ヲ級、もうやめなさい!こんなことしても、誰も帰ってこない!『タノシイウミ』だって、もっと遠くなっちゃう!」
「ヲ級の攻撃、鎮守府の各所に被弾しているね。攻撃を行いながら本人の回避能力は高い。ネームド扱いでもいいぐらいだ」
「姫様も、イもいない。なら壊すしかない」
「響!駄目なの!?」
「まだだよ。もうすぐでもあるよ」
「くっ、だったら力づくで大人しくさせるんだから!」
「ヲの姐さんだけねらってんじゃねぇぞ暁ィ!」
「ハ級!あなたもすばしっこいったら!」
(想定通りの状況だね。後は……)
暁と響。ヲ級とハ級。その戦いも膠着状態に陥りつつ、ヲ級の攻撃は鎮守府の各所を破壊していた。
(ヲ級という者の攻撃が各所に当たり始めましたね。では、合わせて動きましょう)
姿を見せない何者かが鎮守府各所に仕掛けられた監視装置を破壊していく。まるでヲ級の攻撃の被害を装うかのように。
(全て把握しています。残らず、『始末』します)
「オラオラオラオラァ!!トロいんだよカテゴリD共が!」
「その隙、もらったぞ!」
「うーちゃんへの邪魔はさせんぞ」
「ハッ、睦月型の調子は相変わらずじゃねぇか!」
「私達も負けてられないわね、天龍ちゃん!」
「羽黒、瑞鳳!崩れたところから落としていくわよ!」
「了解です雷さん!」
「数が増えただけなら、瑞鳳達は負けないんだから……!」
《こちら基地航空隊。支援攻撃を開始する》
卯月が崩し、他のものがその隙をついて討ち取っていく。この流れで主力部隊は順調に敵部隊を削っていく。基地航空隊の支援もあり、数的不利を感じさせない状況だった。
「っても後どんだけいるんだ!?」
「弾切れの方が早そうだぞ」
「弾切れは気にすんな!『大丈夫』だ!」
「天龍ちゃん、信じるわよ……!」
鎮守府近海
「こちら観測部隊。『創造者』の『作品』の壊滅を確認」
「こちらに気づいている様子は無」
「主力攻撃部隊、60%まで減少」
「撃沈艦娘、無」
「『北の姫』膠!?」
ジャミングを展開しつつ遠巻きに様子を窺っていた観測部隊の1隻が撃沈される。
「敵性反応、確認できず」
「指示を求ッ!!」
「Aポイントの部隊が襲撃を受けている。ソナー起動し」
「Bポイントも攻撃を受けている!駆逐艦は何をしている!?」
観測部隊が次々と削れられていく。
「こちらアルファ。『喰いつくした』わ!」
「こちらブラボー。後1隻……こちらも『喰いつくした』」
「こちらチャーリー。逃走始めた連中も『喰いつくした』」
「こちらハチ。他に敵はいないみたい。『お粗末様でした』、『海狼(シーウルブズ)』の皆」
「このジャミングすっごい便利なんだけど!同じの使って油断してる雑魚食べちゃうだけでこんなの貰えるなんて良いクライアントね、横須賀は!」
「それだけこの作戦が重要ということ。周囲警戒を続けて、鎮守府に変化があったら撤退します。信号、出します」
「「了解」」
人知れず援軍として駆けつけていた潜水艦隊が観測部隊を全て撃沈していた。
「鎮守府及び遠洋からの信号を確認。これで『眼』は全てですか?」
「ああ。茶番はここまでだ。……ヲちゃん!ハちゃん!戦闘中止!私達3人は127鎮守府に降伏するよ!」
「姐さん!?」
「仇、じゃないの?」
「イ級さんは生きています。今は怪我なく待機してもらっています。秋雲さん。通信、繋いでください」
『きゅ~~~~!!』
「イの奴無事だったか!!でもなんでこの襲撃をしたんだ姐さん!?」
「まずは邪魔を排除してから。落ちろ!」
「!?」
躊躇わずにタ級が友軍だったカテゴリDを撃沈し始める。福山提督も合わせて残存勢力の掃討を始める。
「こちら暁!どういうこと!?」
「これから説明するよ。その前に、こちら響。結界は起動したね?」
「こちら秋雲!結界は安定!もう、外部には漏れないよ!そのカテゴリDを口封じしたらね!」
「こちら福山。『北の姫』勢力は味方です。残りを皆殺しにします」
「やっとだぜ!行くぞオラァ!」
「うーちゃん知ってたんだな!?続くぞ、菊月!」
「弾切れになったらアンカーで殴ってやるさ、長月!」
「天龍ちゃん、ここまで計画してたのね?」
「そういうこった。今まで言えなくて悪かったな。殲滅したら全部話せるからまずはそっからだ!やるぞお前ら!」
「「了解!」」
その後残存敵戦力は全て撃破されていった。