12:00 第127鎮守府
「さて、残存敵性存在は無。作戦完了です。皆さん、お疲れさまでした」
「終わったんだから、教えてくれるんでしょうね?」
「ええ。まずは今作戦の目的から。目的は2つ。タ級さん達『北の姫』勢力との合流、そして鎮守府各所に仕掛けられた監視装置の破壊です。後者が為されたからこそ、話すことができます」
「ヲ級、あなたこのこと知ってたの?あなたが壊して回ったってこと?」
「私、知らない。ただ、タに鎮守府のあちこちを壊せって言われただけ」
「アレはブラフだ。ヲちゃんが壊したような雰囲気の中で、工作員に破壊して回ってもらったんだ。いるんだろう、工作員」
「……ここにいますよ。工作員改め、クーナです」
てーとくの横に突然人が現れる。青い髪に露出がないけど露出がすごい感じの服にツインダガー装備、と異様な姿の人だった。
「今作戦以前から監視装置の確認は行っていましたから、全部破壊できています」
「クーナさんは私の出向元の仲間です。高いステルス能力と戦闘能力を持ちます。以前から、監視装置の確認と破壊の算段を立ててもらっていました」
「響だよ。今回監視装置の破壊をしてもらったけど、『敵』はまた何かしら仕掛けようとしてくるかもしれないし、『私達がいろいろ知っている』というアドバンテージを失うわけにはいかないよ。だから、次の目標が達成されるまでは、今のうちに聞きたいことは聞いておくんだよ」
「次の目的?」
「第二技術研究所。彼らが旧第127鎮守府及び第130鎮守府襲撃者の勢力であることが分かっています。おそらく今後干渉してくるのも彼らでしょう。ですので、彼らを叩く。それが次の目的です」
第二技術研究所。各鎮守府が活用している広域エーテルレーダーとかの技術はここで開発され、管理されている。立場的には鎮守府と同等のはずが、高圧的な態度と艦娘を資源のように見る姿勢から嫌われている、らしい。
「第二技研……アレ、なんか思い出せそうなのです」
「電さんと暁さん、響さん、雷さんが本来出向するはずだった施設です。記憶、あるようですね」
「!?」
「他の皆さん……羽黒さん、瑞鳳さん、憲兵隊やスタッフの多くの方以外の方はこの鎮守府で襲撃された記憶もあるかと思います。夢、という形で」
「「!」」
私達が頻繁に見ていた悪夢を他の人も見ていたというのか。というか、どういうことなのだろうか。
「そうですね、これから荒唐無稽な話をします。信じられなくても致し方ありませんが、事実だとは言っておきますね。……皆さんが見た悪夢、アレは実際に起こったことでした。この世界は、それを対策した上での2回目ということになります」
悪夢が現実だった、ということは私達は一回殺されたということになる。それで今が2回目……意味が分からないのが正直なところだが、心のどこかで納得していた。
「前回、と言っておきましょうか。前回は、羽黒さんや瑞鳳さんの招聘は叶わず、新人として迎え入れられたのは江風さん、電さん、加賀さんの3名でした。憲兵隊もここまで大きく編成はしていませんでした」
てーとくは続ける。
今回同様、カモフラージュ兼戦力強化の時間稼ぎのために観光業の運営にも着手しようとしましたが、それよりも先に第2技術研究所からの圧力がかかる方が先でした。それにより、訓練もままならない中で暁さん以下4名を第2技術研究所の護衛として派遣することになりました。
密に連絡は取るようにしていたものの、段々と暁さん達の応答が遅くなり、事件は6月14日――今回ではアウトローの襲撃があった日――に起こりました。
暁さんから連絡、第2技術研究所では非人道的な実験を行っており、そのガードマン兼実験対象として招聘されていたということ。実験対象への実験が済んだため、矛先が自分たちに向いたこと。間もなく殺されてしまうことを伝えられました。
私、卯月さん、金剛さん、横須賀憲兵隊で第2技術研究所に急行しましたが、そこでは既に皆さんが殺されていました。そして、同時に我々が出撃した直後にタ級さんらの深海棲艦部隊と人間の部隊がこの鎮守府に同時に侵入、攻撃を開始したことを知ることになりました。
そこで鎮守府のほとんどの方が殺され、生き残って脱出できたのは天龍さんと坂田さんだけでした。違和感を覚えた襲撃側の生き残りのタ級さんを味方に入れたうえで、我々は復讐と調査に乗り出しました。
第二技術研究所で実験対象になっていたのは第130鎮守府の生き残り、弥生さんと『北の姫』勢力の生き残り、ル級さんでした。彼女らは暁さん達が護衛に着いた後から安定して実験を行われ、その中で死亡したとのことでした。
それ以前の事件としては、イ級さんが爆弾として送り込まれ、保科朱里さんが第一発見者となり、そのまま爆発に巻き込まれ犠牲になりました。そのように、敗北に敗北を重ねている状況でした。
状況を調べ上げ、事象を収集し、敵と判定した者は皆殺しに。そのような復讐をする中で、私は一つの提案をしました。これらの情報を元にもう一度『やり直す』ということを。
生存者の皆さんに同意を頂き、更に卯月さんの提案でこの記憶を私以外の者も引き継げるようにする、というプランを試すことになりました。それが、皆さんのみた悪夢であり、響さんや秋雲さんに『今回』スムーズにその上での協力を仰ぐ切欠となりました。
「経緯としてはこのようなところです。第二技術研究所の干渉を避けるように第1鎮守府には強く干渉してもらい、羽黒さん達のような追加戦力を集め、鎮守府の改造も徹底的に行い。イ級さんと保科さんの犠牲を避け。その上でタ級さんとは示し合わせた上で今回の襲撃となりました」
「……経緯は分かったわ。それで、そんな『やり直し』なんてできるあなたは何者なの?」
暁さんが問う。それは私達皆が思っていることであり。
「私の正体は……『変身解除』。そして――」
てーとくが駆逐艦不知火から変身を解除する。紫色のツインテール、右目が隠れる長い前髪。不知火の時以上の圧。そして、更に姿を変えた。黒衣でフルフェイスのバイザーマスクを装備した短髪の姿に。圧が更に強くなる。
「本来アークスとは敵対するダークファルス。そのダークファルス【仮面(ペルソナ)】。それが私の正体です。故あってアークスの味方をしています。異能としてはこのパラメータ偽装を可能とする変身能力、ダークファルス特有の空間跳躍。アウトローの件で早急に駆けつけられたのもジャミングで偽装した上でのこの能力によるものでした。そして、【仮面】の異能としての時間遡行能力。『やり直し』はこれによるものです」
アークス、とはPSO2の自陣営のことで、ダークファルスは敵であるダーカー、その上位種の強敵、のはずだった。
「PSO2を知っている方は、ゲームの中の存在が現実の存在だった、と思っていただければ構いません。こちらのクーナさんはそのアークスの最大戦力の1人です」
「六芒均衡の零。そして情報部副長。それが私です」
最強のNPCアークス6人を指す六芒均衡。実は7人いるだとかの噂があった存在。それが、彼女だという。
「ルーサーによる騒動の後、私はアークスに協力するようになりました。この地球に来たのも、その一環でした」
ダークファルス【敗者(ルーサー)】、アークスに置ける事件の全ての元凶のような人物で、強力なボスキャラでもある。
「そこで旧第127鎮守府が陥落する状況に遭遇し、その後からこちらに協力するようになった。これが経緯ですね」
「待って、協力してくれてた経緯は分かったわ。『やり直し』が出来ることも。でも、その割には慎重すぎない?」
「暁さんの指摘も最もです。この時間遡行には欠点があります。それは『ただやり直しただけでは歴史は、運命は変えることができない』ということです」
「でも、今回は思いっきり変えてる、ってことよね」
「ええ。その補助を行ったアイテム、これこそが『やり直し』のキーでした。それがこの、『マターボード』という物です。オリジナルほどの能力はありませんが」
てーとくが取り出したエーテルのようなもので出来た情報板。不思議な力を感じる。
「これを本来精製できる惑星シオンはルーサーの件で喪失しました。これは後継のシャオが作り出した模造品で、本来歴史改変を行えるほどの力を持たせることは困難でした。ただ、今後『アークスの英雄』が戦っていく中でのサポートとしては模造マターボードでは荷が勝ちすぎる。というわけで、発展機の制作に取り組んでいました。その為に時間をかけて制作した試製マターボードがこれになります」
『アークスの英雄』。研修の修了試験で惑星ナベリウスのダーカー大発生に巻き込まれてから凄まじい勢いでダークファルスの撃退だとかルーサーの討伐だとかやっていったというPSO2における最強のNPC。と言っても、今は体を休めるために冷凍睡眠状態にあるらしく、遭遇することはない『公式設定上最強のNPC』という扱いだった。
「アレは実在します。私がアークスに協力するようになったのもアレのせいで……はぁ。まあ、アレが本来使うマターボードの発展機を創るために私が協力していた、というわけです。そして、それによって今回という『やり直し』が叶ったわけです。ただ、『やり直し』として使えるのは1回のみ。次はありません」
「私達が慎重にバレないようにあれこれ進めていたのはそういうことだよ」
「まあ、なんとなく、わかったような」
『アークスの英雄』について話すときのてーとくは心底嫌な顔――仮面越しだから雰囲気だけど――をしていた。どんな因縁があるのだろうか。
「『変身』。その試製マターボードの力と製作者シャオの力を用い、皆さんに悪夢という形でそれまでの記憶を思い出してもらい、しっかり記憶を保持していた方々と連携を取りつつ、現在に至るというわけです」
てーとくが艦娘不知火の姿に戻る。
「今回を失敗にしないためにも、第二技術研究所を襲撃します。その為の作戦としては、連中の護衛任務を受ける形でまずは視察、としてある程度の戦力を連れて公的に研究所を訪れ、急な襲撃を演出してもらった上で実験対象として捕まっている両名を救出、それを口実に制圧するという流れです」
「襲撃を装うって誰がやるのよ」
「ヲ級さん、貴女にお願いしたい。カバーストーリーとしては、タ級さんとハ級さんは投降に応じてくれましたがヲ級さんは応じず撤退。行方不明に。……それが、視察のタイミングで『ここに仲間が捕まっているはずだ』という因縁をつけつつ襲撃。指定のポイントを爆撃してもらい、私がそれに巻き込まれる形で施設内部に侵入、そのまま両名を救出するというものです」
「それまでの身柄の保護と作戦の説明はアークスシップで行います。そして暁さんと響さんは海に逃げたヲ級さんを追う振りをお願いします」
「タ。信じていいの?」
「ああ。そして、ルちゃんを助けるんだ。130の弥生も一緒にね。頼めるかい、ヲちゃん」
「……それは姫様の願いに繋がるの?」
「繋げるさ。姫様の願いを踏みにじった連中を倒し、願いの、夢の続きを追うための地盤を作るのが今回の作戦だから」
「……分かった」
「私とヲ級さんは先に撤退します。御武運を」
「クーナさん、後はよろしくお願いします」
ゲームでよく使うテレポーターを本当に出したクーナさんがヲ級を連れて去っていった。
「……さて、我々ですが先の作戦の想定で動きます。ついていけないという方は今のうちに申し出てください。多少の記憶処理をさせていただきますが、安全にこの戦局からの離脱は約束します」
「「……」」
「つまり、羽黒ちゃんと私は追加で巻き込まれてたってわけなんですね?」
「そうです、瑞鳳さん。お手数をおかけしました」
「ここまで付き合わせておいて、はいサヨナラなんて嫌だからね!羽黒ちゃんはどう?」
「わ、私も!悪い人たちのことは許せませんし、私達をここまで強くしてくれたのはここなんです!だから、お付き合いします!」
「……ありがとうございます。本当に」
「響だよ。連中の手先かな、近づいてきているよ。極力干渉は避けさせるけど、この話は一旦ここまで。カバーストーリーの展開を始めるよ」
「わかったわ、行くわよ響!」
海に飛び出していく暁さんと響さん。そして、鎮守府からの信号が途絶えたので駆けつけたという大本営からだという連中と、同時に帰ってきた横須賀の人たちでの悶着を経て今回の件は一応の収束を迎えたのだった。
今回出てきた試製マターボードはPSO2のEP4以降で使われるストーリーボードの前身機という扱いです。