2027年3月 16:00 第127鎮守府
あれから車に揺られ、小休止に昼食を挟んだりしつつ目的地に到着した。
「ようこそ皆さん。第127鎮守府へ。我々は皆さんを歓迎します。この後各所の説明を行いますので、16:30にここに戻ってきてください。まずは荷物を部屋に。案内します」
福山提督が率先して案内してくれるらしい。秘書艦とやらの仕事じゃないんだろうかそういうの。
「俺達憲兵隊の紹介もよろしくな!後、『復帰組』も1時間前に到着したってよ」
「一緒に案内しましょう。建物配置も少し変わっていますからね。坂田さんも皆さんの招集よろしくお願いします」
「おうよ」
他にも合流する人たちがいるらしい。復帰組、というからには私達のような新人ではないようだが。
16:10 江風、電、加賀の部屋
私たちが案内されたのは4人部屋だった。本気で海風も編成する気だったらしい。瑞鳳と羽黒は隣室だ。
「わ、パソコンもあるのです」
「スペックはそこそこね。あら」
「ン、メモか。『機種などの指定があれば新たに購入しますし、備品の要望があれば気兼ねなく』だってさ」
「至れり尽くせりなのです」
「オンラインゲームその他SNS等のネット利用も可能って書いてるわね。履歴は確認されるみたいだけど」
「その辺厳しいと思ってたのですけど」
「つか、コレ。私達が『PSO2』するとか『MC(マザークラスタ)』のSNS利用するってことまで読まれてそうじゃねぇ?」
「やめてくださいよ怖い」
「電、江風。その辺はどうなの?あなた達の感覚的に」
「『悪意』は感じなかったのです。だからこそ不気味というか」
「『不味い』って感じもねぇな。やって大丈夫そう。や、MCの方はチャット先の皆がむしろOKしてくれるかかなァ」
異常適正の私達には素体の時点でちょっと特殊な能力がある。電は人の悪意や敵意の有無、嘘をついてるかの有無を感じ取ることができる。結果、八方美人に立ち回れるというモノだ。私は特に命にかかわると自他問わず直感が働く。おかげで事件に首を突っ込むことが多く、艦娘になった切欠もそういうモノだった。
「二人がそういうなら大丈夫そうね。私はそういうのないから助かるわ」
「加賀ちゃんの狙撃能力も大概だと思うんですけどね。空母艦種で使うかっていうとアレですけど」
「ンなこと言ったら全員アレだから異常適正とか言われてんだろ」
異常適正と言われる艦娘は一部能力に突出しているが、他の通常求められる能力が著しく低かったりする。後は色々と。結果、歴代の異常適正の艦娘たちはほとんど続けていられずに辞めていったらしい。
「そんな私たちをまとめて囲おうとするわ、成績不良扱いの2人も求めるわと。ここってそんなに人手不足なのかしら」
「いい人材回してもらえないって意味でも取られますよね。まああの事件があった後ですししょうがないのかもですけど」
「あー、びっくりしたよな、アレ」
この127鎮守府ともう1か所は3カ月前、12月。私達が訓練校に入った直後に一度「壊滅」したのだ。鎮守府そのものが壊滅するなんてここ数年聞かなかったのに一気に壊滅したから関係者間で話題になって、事情を知らない私たちでさえも知ることとなっていた。
「復帰組、というのもそれ関連なのですかね」
「いよいよきな臭くなってきたわね」
「まァ、でも。やるしかないだろ。私達、帰るつもりがないんだから」
「それもそうなのです」
「そうね。絶対に帰るつもりはないわ」
海風もだが、私達は家庭や地元に事情がある。ぶっちゃけ家出同然に艦娘になったようなモノなのだ。異常適正の烙印程度で実家に帰りたくない。
「それでも家に返されたらどうします?」
「マザーに、まだ学院への転入可能か聞くのもアリかもしれないわね」
「天星学院かァ。タッチの差で先に艦娘の門叩いちまったからなァ。私ら」
MCの代表、マザー。会ったことはないが、その人にSNSであるMCの勧誘と共に天星学院という小中高一貫校に入学しないかとの誘いを受けたのだ。間の悪いことに、私達は艦娘になることに決定した直後だったから話は流れて、SNSだけ所属することになったのだ。
「マザーもびっくりしてましたよねぇ」
「『土』の人、もう豪快に笑ってたわね」
SNS、MC。その中でも代表のマザー、その下に中核として『土』とかの5人がいる。結構権力のある人達らしいが、親しみのある人という印象だ。『金』の人とか社長らしいけど本当だろうか。
16:30 鎮守府入口
「さて、皆さん揃いましたね。私、鎮守府司令の福山が案内させていただきます。復帰組の皆さんには以前との違いもあるので、一応見て回っていただきます」
「だいぶ雰囲気が変わってるのは見て取れてるから、案内よろしく頼むわ。福山司令官」
「ルーキーの子たちもよろしくね!」
復帰組の駆逐艦暁さんが応える。具合悪そうななのは軽巡龍田さんだったか。気さくに、だけど無理している感のある雰囲気で話しかけてきたのは駆逐艦雷さん。復帰組というのは、この3人らしい。
「まず簡潔に。地上施設はほとんどダミーです」
「は?」
暁さんの呆気にとられた声が響く。私達も意味が分からなかった。
「防衛上の問題ですね。以前の襲撃を踏まえ、主要施設は全て地下に移設しました。都合上司令室は以前同様地上にありますが、他は観光用のハリボテだと思っていただいて構いません。司令機能もすぐに地下に移せます」
「道理でなんの音も聞こえてこなかったわけだわ……」
「龍田ー!倒れちゃだめよ!まだ早いわ!」
龍田さんが倒れそうだ。というか、襲撃される前提なのかここは。
「襲撃される前提か、と思われているでしょうが、その通りです。その前提で迎え撃つ。無駄な戦果にぬか喜びさせたりさせなかったりしてそのまますべて殺す。その為に各所改修を行っています」
言い方が不穏になってきた。3か月前の襲撃は、まだ終わっていないらしい。というか、観光?その疑問を解決できないまま、憲兵詰所を含めた各所を見て回った。
17:00 鎮守府司令室
「最後に司令室ですね。今は人が少ないので、事務作業を皆さんにやってもらっています。皆さん、合流組です。挨拶を」
「軽巡、天龍だ。やっと来たか龍田!」
「天龍ちゃん!?天龍ちゃんなのね!?」
「ハハハ、落ち着けよ。本物だって」
龍田さんが軽巡天龍さんに飛びつく。久々の再会、らしい。福山司令も止めなかった。
「響だよ。ヴェールヌイという正式名称もあるよ。久しぶり、そして初めましてだね」
「秋雲さんだよー。事務作業はお任せ!というか、私前線に出れないから事務が主戦場ね」
「卯月だ。先に言っておくと、私は異常適正だから、必要なきゃぴょんつけないからな」
「うーちゃんは余所行きの顔じゃちゃんとぴょんぴょん言うけどな。私は長月だ」
「菊月だ。よろしく頼む。気楽に行こうじゃないか」
「響、アンタも元気そうね」
「うーちゃんたちも合流したのね」
「現在第127鎮守府に所属している艦娘は、これで全てになります」
これで全員らしい。少なくないだろうか。と思っていると、後ろから声がした。
「横須賀からの搬入物資、積み込み完了しまシタ。監督艦を務める、第1鎮守府、通称横須賀所属の金剛デス。横須賀憲兵隊の面々共々、よろしくお願いしマス」
横須賀の戦艦金剛。艦娘じゃなくても知ってる有名エース艦娘の一人だ。すんごい人が出てきた。
「第127鎮守府は、第1鎮守府の直属という特殊な形をとるため、常駐の金剛さん、第1鎮守府第1憲兵部隊の他にも第1鎮守府の方々が入れ替わり顔を出すことになります。しっかりと鍛えてもらうように」
なんとまあ。本当にすごいことになってきた。
「え、あの、すいません」
「加賀さんどうぞ」
「あの、『あの』赤城さんも……?」
「彼女は第1特殊遊撃隊ですからここへのローテーションにはいまセンが、来ることはあると思いマス。参考にはならないと思いマスガ」
「!!」
「やったのです加賀ちゃん!」
「目標が近づいてきたじゃンか」
「そういえば加賀ちゃんのアレってまだ本気で有効なんだ?」
「『目標は横須賀の赤城さんです!』って夢、まだ覚めてなかったんだ」
「絶対に覚めません」
横須賀の赤城。一般にも有名で強力な艦娘の1人で、空母の誰もが憧れ、速攻で真似出来るモノじゃないと諦める存在。そんな赤城さんに並び立てるようになりたい、というのが加賀の志望動機の一つだった。
「分かっていたことでしょう、金剛さん」
「そうデスネ。福山提督、『ソレ』はあまり」
「そうでした」
また怪しい会話をしている。なんというか、『知っている』と言いたげな。『見てきた』と言うような。なんだろう。
「さて、一旦切り上げて。休息兼歓迎会と行きましょう。今日鎮守府に来た皆さんはその後は自由時間。明日から職務に移っていただきます」
「え?いいの?切り上げてよさそうな書類の量じゃないけど」
「私の仕事ですから気にしないでかまいません」
「ちゃんと休息は挟むんだよ梓ァ」
秋雲さんに茶化されつつ書類の山を一瞥しながら福山提督は気にするなと言う。気にしないことにしよう。
その後、歓迎会でも天龍さんにべったりな龍田さんの状態を不安に思ったり、悪戯を積極的に仕掛ける菊月さん、仕掛けられる卯月さんという逆な気がする光景を目にしつつ、1日を終えたのだった。