2027年7月中旬 17:00 第127鎮守府司令室
「突然ですが、明日は特殊任務が入ります。内容は第二技術研究所の要請に従い、護衛艦隊を派遣、その下見になります。なんでも、新技術研究に伴い、深海棲艦を呼び寄せてしまう可能性があるため護衛が必要、とのことです」
司令室に艦娘全員や多くのメンバーが呼び出され、告げられる。
「同時に、明日に出撃要請が1件入っています。どちらかに集中させてほしいものですが。……というわけで、下見と出撃。その編成となります」
第二技術研究所への下見。それはつまり、襲撃を起こすということ。赤城が127に転属したばかりのタイミングで行うというのか。
「第1鎮守府元帥からの要望で明日下見を行うことになりました。下見の編成は、私、暁さん、響さんを艦娘側からの視点で、それにタ級さんを深海棲艦からの視点として選出します。金剛さん及び第1鎮守府憲兵隊の皆さんも同行する流れになっています」
第二技術研究所絡みの記憶があるメンバー、そして制圧ができるメンバーということだろう。暁さんは、多分襲撃の起点となるヲ級さん絡みの要員ということだろう。
「出撃要請の出ている海域にはジャミングらしき反応を検出しています。出撃の編成は、卯月さんを旗艦に、長月さん、菊月さん、龍田さんのサポート艦隊と、雷さんを旗艦に江風さん、電さん、羽黒さん、瑞鳳さん、加賀さん、赤城さんの主力部隊の編成とします」
ほぼ全員。おそらく、南西の手が入っている案件だろう。
「天龍さん、イ級さん、ハ級さんは憲兵隊と共に鎮守府に待機。秋雲さんに鎮守府の権限を一任します。人数が少ないですし、許可を出している相手もいません。急な来訪者はお引き取り頂くようお願いします」
「了解だ、留守は任せな」
「誰か、希望があれば編成を調整します。……いなければこの編成で行きますのでよろしくお願いします」
第二技術研究所は襲撃をかけるというわけで。対人戦にもなるだろう。鎮守府待機も、『前回』を鑑みれば襲撃が予想されている。出撃も、何が起きるかわかったものじゃないが。
「……江風、技研下見の方に回してもらっていいっスか?」
「……構いませんが、理由は」
「施設防衛なんて滅多にない話なンで、見て見たいかなーって」
言葉では軽く、でも目では覚悟はできていることを伝える。多分、死人が出るだろう。それに立ち会う覚悟はできている。
「……了解しました。江風さんは下見組に回します。他は大丈夫ですね?では、明日よろしくお願いします」
そうしてミーティングは終了した。
「江風ちゃん、どうして編成を変えてもらったのですか?」
「ン、ああ、まあな。確かめたくなってさァ。技研の連中の『顔』って奴を」
「『顔』、ですか」
「ああ。イメージ通りのそれなのかどうかなーって、さ。長い付き合いになるンだろ?」
「それもそうですね。感想、聞かせてくださいね」
「おうよ」
電には言葉に含めたニュアンスが伝わっているようで何よりだ。私が中2の時に遭遇した誘拐犯共の人を人として見ていない顔。それと味方のはずの艦娘で人体実験を行えるという連中の顔。どう違うのか。それに対して私はどう向き合えるのか。見せてもらいたいと思ったのだ。
翌日 10:00 関東近海
「よし、これから反応のある海域に突入する。おそらく、ジャミングで相当数の増援も見込まれる。気合い入れて行けよ」
「反応のあるだけで3艦隊分、結構な数ねぇ」
「龍田さんの言う通り数が多いわね。作戦はあるの?卯月」
「勿論あるぜ雷。基本に忠実に少ないところから狩る。牽制はアタシ中心にやっていくから、やり易いやつからさっさと潰していけ。以上だ!」
「作戦もなんもないじゃない。わかりやすいからいいけど」
「あの、加賀。いつもこんな感じなんですか……?」
「そうね、こんな感じね。それと、警戒は怠らないで。前回はアウトローが阿呆やらかして脅威にならなかったけど、今回はちゃんと脅威になるかもしれない。この面子で束になっても勝てるかわからないから」
「福山提督もいませんものね……分かりました」
「基本的に私と赤城ちゃんと加賀ちゃんの空母隊で削って、駆逐組で牽制して、撃ち漏らしは羽黒ちゃんが落とす!だから頑張ろうね!」
「おしゃべりはここまでだ。来たぞ!」
アタシの号令と共に散開する各員。何度かやり合って確信しているが、敵の戦い方は包囲殲滅が基本となっている。ジャミングで投入できる数には限りがあるようだが、目撃された艦隊とジャミングの伏兵による一斉攻撃――といっても同時攻撃できるのはせいぜい3部隊だが――が主体となっている。それ以上の数で投入する場合は、撃破され次第その穴を埋め、どこかしら崩れたところから一気に食らいつくす、そんな戦法だった。
「オラオラオラ!散れ散れ散れぇ!」
アタシの役割はその包囲殲滅の圧を弱めること。徹底的に広域攪乱することによって圧に、勢いに呑まれてやられないように戦場の空気を維持することにある。長月と菊月はその連携でアタシの乱した連中を仕留めるか、より圧を小さくできるようなところから潰していく。全体を見れる龍田に今回はその援護を依頼している。
「やっぱカテゴリDばっかか。そんなんいくら集めても無駄なんだよ無駄ぁ!!」
叫びつつ状況を確認する。本能的な動きばかりしかできないカテゴリDが主軸。これは同時に『指揮者(コマンダー)』の奴が隠密かつ精密に指揮できる限界でもあり、捕虜対策でもあるのだろう。下手に喋れるカテゴリCをこちらで捕まえてしまえば、尋問ができるから。そういう意味では、カテゴリDという捨て駒を使わなければいけないのだろう。
「させるか、こっのっ野郎ッ!」
砲撃姿勢の戦艦級の脳天を蹴り抜き、撃ち抜き、たたらを踏ませ次の目標へ。空母級の発艦を阻止して次へ。アタシに要求される内容は撃破ではなく、阻害なのだ。そう思っていると、加賀の具現武装がバランスを崩した戦艦級の頭に吸い込まれ、大破させる。頼もしい力を持ったものだ。
「江風をあっちに回したのはでかかった、か、なぁッ!」
そうして順調に数を削りつつ、こちらの消耗も激しくなりつつあった頃。最大の懸念が形になって現れた。
「ハッハーァ!どこだアオイ!」
「江風は今日はここにゃいねぇよ」
「チッ、けどあの化け物もいねぇならいいかァ?ハハハ!」
「化け物化け物、ってアイツにも梓って名前があるっての」
『南西』の最大戦力と思われる『放浪者(アウトロー)』。その力は単騎で通常艦隊なら制圧が可能であり、面制圧対策だけでは対応できない個体としての最高戦力。今までは梓や江風に撃退されていたり、本人が本調子じゃなかったりとどうにかなっていたのだが。
「江風ちゃんだけだと思わないことです!」
「頭に来ました。その頭に一撃いれてあげます」
「お前ら、雑魚の片づけが終わるまでアタシに任せとけ!片手間にやれる相手じゃねぇぞ!」
「「了解」」
「今回はちゃんと使えるモノ持ってきたからなァ!そうだお前、卯月……いや、ユウナっていったかァ!?アオイだけじゃねェ、お前もターゲットなんだよ!持って帰れば面白くなる、って聞いてるぜェ!」
「……ハッ、そうかよ。やっぱ、そうなのかよ」
心当たりはある。先日のエーテル爆発に対する反応もそうだが、それ以前に『異常適正』を前面に押し出して戦う数少ない艦娘として知られていたアタシ卯月こと遊菜(ユウナ)。130が襲われた原因も、もしかしたら、と思っていたのだ。
「確実に言えることがある。アタシも、蒼の奴も。こっちが面白くは絶対にない」
「なんで分かるんだよォ?」
「実験動物(オモチャ)にされると分かってて面白いわけがあるか。お前も、そんなものを見て面白がるタチか?なぁ?」
「あァ?創造者の奴は面白くなるとしか言ってなかったぜェ?」
「良い様に利用されてるんだよ、お前。前の時でも実験動物扱いだったじゃねぇか。お前はそれでいいのか?アタシは絶対嫌だ。それに、お前に負けてもいい。敗走してもいい。ただ、『仇』に良い様にされるのだけは絶対嫌だね」
「空気が変わった……?」
「ハァ……」
おもむろに煙草を取り出して、吸う。ニコチンゼロのただのクソ不味い煙草もどきだが。ただ、強烈な不味さで嫌でも現実だと教えてくれる。この感情も、敗戦の記憶も、仇も、嘘じゃないと突き付けてくれる。アタシをいつも正気(狂気)に押し付けるためのモノ。
「不味そうな顔してっけどなんだァ、そりゃァ」
「煙草もどき。アタシがどこにいるか、なんでここにいるか。それを思い出すためのモノ。てめーの背後やそのお仲間の『仇』のことを忘れないための、な」
「お仲間ァ?」
「130が陥落するとき、アタシは近海にいて警戒中だった。そんな中アイツの、司令の悲鳴が聞こえてきた。敵は人間だ、守れなくてごめん、ってな」
「なんの、話だ」
「……それと合わせて127を落として『北』の残党を拉致した指揮者に創造者の『南西』の連中、無関係だとは言わせねぇ」
「ハ、なんだよ、その空気。私を無視して燃え上がるソレはァ!」
「復讐心さ。お前じゃないものに向けているアタシたちの復讐心。だから、止まるわけにはいかない。実験動物にされるわけにもいかない。全部、奪い返して、殺す。アタシは、アタシ達はそう『あって』、梓はそれを受け入れて基地司令をしてくれた」
「戦っているのは私だぞ!?私を向けよ!?」
「お前が回収してやる実験動物扱いってのは、そういう目でアタシ達を見るってことだ。それに加担したいか?」
「ッ、そんなの、そんなの知らねェ!わけがわからねェ!」
「なら、ちゃんと肌で感じるがいい。これがそういうモノだ!!」
波を蹴り飛ばし、肉薄。頭狙いの砲撃を尻尾で防がせ、がら空きの胴体に回し蹴り。その衝撃を利用して後退、反撃の砲撃を避ける。
「すばしっこいんだよ、お前はァ!」
「伊達に『首狩り兎(ヴォーパルバニー)』なんて呼ばれちゃいねぇんだよ!」
こんなスタイルで戦う、特に頭を執拗に撃ち抜こうとするアタシに着いた渾名。元130の同僚の山城――現在は129に身を寄せている――が付けてくれた凶暴な名前。
「これが噂の首狩り……!」
「それに復讐心もだ、心に刻み込んでやる!」
「駆逐砲がどこまでやれるんだよォ!」
面制圧をするような砲撃。アタシは跳躍をして回避する。
「知ってるぜ、それはァ!だから追撃だァ!」
「!」
空中は無防備だ。せいぜい防御姿勢を取るぐらい。そこを撃ち抜かれては終わりだ。……だったが。
「フッ、よっ、らああああっ!!」
「な、ぐあああッ!?」
空中を蹴り、更に回避、そのまま頭上を取りしこたま砲弾を叩き込む。いい的だ。
「ありえねェ、なんだ今の……お前もエーテルに目覚めたってのかァ!?」
「そうだよ。新人(ニュービー)だけのモンだとでも思ってたのか?なんでアタシをわざわざ拉致に指定したのか分かってなかったのか?」
エーテルに目覚めたものが使える特殊技能、具現武装。要するに特殊な戦い方が出来るようになるということ。強いイメージがあれば適性のある者ができるらしいということ。それならば、この身に染みついてきた戦い方の延長を、と強く意識してやってみれば。出来ないことはなかった。現状知っているのは梓と響ぐらいだが。
「クソ、お前らばかり先に、よくわからねェとこに行きやがって!なんなんだよ!わけわかんねェよ!!」
「ただただ適当に言われるがままに襲ってりゃ全部手に入るってのが甘いんだよ。お前、楽しいか?」
「楽しくねェよ!楽しめるからって付いたってのに!」
「それが答えだ。そこにいる限り、お前は『楽しめない』。そのまま死ぬか、別の道を探すのか。好きに選びな」
「ホント、わかんねェが、それでも、わかるのは、お前じゃ私を倒しきれねぇってことだァ!」
「だろうな。火力が足りてねぇ。が、どうかな」
「あァ?」
「艦載機隊、全機発艦!」
「羽黒、撃ちます!」
「魚雷ももっていくと良い!」
「な、なああああっ!?」
「アタシがいつテメェを倒すって言ったよ」
周囲の撃滅を終えた味方の一斉攻撃がアウトローを襲う。いくら手練れと言えども、混乱した状態での不意打ちで避けられるかと言えば否で。
「がっ、はっ!クソ、やりやがって……」
「ちょ、まだ動けるのですか!?」
「チッ」
アレだけ受ければ姫級だろうが死ぬ勢いで撃ち込ませたのだが。
「外装、パージ。ハハハハハ!」
「それか、今回の装備ってのは……!」
ボロボロになったコート――二重に着ていた――を投げ捨てる。瞬間、アウトローの体力が回復していく。
「ダメージを請け負わせたってことか。ちゃんとしたモノ支給されてたじゃねぇか」
「第二ラウンドだ、ハハハハハ!」
「弾薬、危ないんだけど!?」
本隊は連戦で弾薬の消費が激しい。この状況で流石に全快のアウトロー相手は厳しい……が。
「支援艦隊到着です!『第一遊撃部隊』吹雪!行きます!」
「深雪さまも行くぜー!」
「ハ?」
「えっ」
「待ってレーダーに反応なんて」
「あっあっ赤城さっ」
「先日ぶりですね、お二人共」
「え、なんでこのタイミングで……!?」
突入してきたのは横須賀第一遊撃部隊――通称第一頭おかしい部隊――の吹雪、深雪、赤城の3名だけで編成された強襲部隊。横須賀が何かしらの対策をしてくるとは思っていたが、これを投入してきたか。
「クソ、やべぇの知ってるから手を出さなかったってのに!この、当たらねぇ!」
「ずっと会いたかったんですよ?でもずーっと逃げてばかりで悲しかったんですから!」
「その苦し紛れの艦載機、遅いぜー?ぜーんぶ、叩き落しちまった!」
「な、なァ……ッ!?」
「は、早い……」
「展開した傍から全機叩き落されてる……」
「というか吹雪さんなんであの機動で当たらないんですか?」
「赤城航空隊、発艦」
「ぐああああっ!?
「すごい正確な攻撃……」
「赤城さん、素敵……」
「吹雪の攻撃も、いっけぇー!」
「わああああっ!!?」
アウトローの艦載機は全て速攻で横須賀深雪が撃墜、横須賀吹雪は最短経路で全攻撃を回避、肉薄して魚雷を叩き込み、横須賀赤城はその乱戦に当たり前のようにアウトローだけを巻き込む精密な爆撃を仕掛けていた。これが、突然やってきて突然食らいつくしていく。それが、第一頭おかしい部隊と言われ敵味方共に恐れられるが所以である。
「ぐ、くそ、畜生……なんもできねぇのにボロボロに……」
一瞬でズタボロにされるアウトロー。世界最狂とも言われる部隊の、これが本気。
「対策もなしでノコノコと出てきたと思ったか?アウトロー。テメェらの手は徹底的に予測して叩く。それが127のやり方だ」
「ありえ、ねぇ……」
「トドメどうします?」
「とりあえず鹵獲で――」
「捕まってたまるか!オイ、『起動』しろ!」
「逃げそうですね」
「平然と言ってる場合ですか赤城さんって、えぇ!?」
アウトローが緑の光の粒子になって消えた。これが、何かしらの装置が起動した結果の様だ。……緊急脱出装置付きとは。その全容を把握しておく必要があるだろう。ただ、今回の戦いはこれで終わったと思っていいだろう。
「戦闘終了。周囲警戒!様子は!」
「敵影無!大丈夫です!」
「よし、帰投すんぞ!」
「では、私達はこれで!」
「吹雪さん!?」
「あ、赤城さんももう行ってしまうのですか!?」
「ちょっと他所にも寄りますので」
「またなー、色々期待させてもらうからな、電?」
「あの、横須賀の深雪さんに期待してもらうようなことは……」
「舞鶴の連中が気にしてるんだから深雪様にも期待させてくれよー」
「ひえっ……」
好き放題に言って撤退していく横須賀隊。彼女らが撤退するということは、大丈夫なのだろう。
「後は、技研に鎮守府防衛。頼むぜ、お前達……」
そう呟く頃には、それらでも騒動が起きていた。
卯月の具現武装は、PSO2のガンナーの動きが出来る、といった感じのものです。空中で更にジャンプしてロールして回避&攻撃。
アウトローの復活に関しては、ボスの第二形態って全快してますよねって感じのモノ。
横須賀第一遊撃部隊の吹雪は某天パよろしく最短を避けて当ててのとんでもエース。深雪は飛んでるものを片っ端から撃ち落とす防空艦びっくりの迎撃魔。赤城は17話でも出たとおりの特殊矢に加えて乱戦の中に混ざりこんで精密射撃を叩き込む。これが唐突に出てくるトンチキ部隊です。