少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 居残り組と技研下見組編です。


20話 騙し討ち

 同日 9:30 第127鎮守府

 

 

 「さーて、居残り組に確認だ。客が来たら?」

 「今日は皆で払ってるのでお引き取り願いまーす!」

 「きゅー!」

 「『部隊』が来たら?」

 「お・も・て・な・し」

 「きゅっきゅ!」

 「深海棲艦が来たら?」

 「地下に引きこもる!」

 「きゅ~!」

 「よっしそんな調子で行くぜお前ら!」

 

 留守番、という表向きの任務だが実際は襲撃を想定している。深海棲艦の襲撃は想定度合いが低いのと、艦娘戦力が俺と実戦に難がある秋雲、深海棲艦含めてもハ級……イ級は戦力外。坂田を始めとする憲兵隊は対深海棲艦としては耐性面に難ありでかつ火力不足。とても戦えたモノじゃない。地上との接続区画を閉鎖し、地下に引きこもって他の部隊や横須賀の援軍が来るまで地上を好きに荒らさせて耐える算段だ。そして、メインターゲットは『前回』同様の人間の襲撃者になる。これについては、策を講じている。

 

 「けどよ、天龍の姐さん」

 「どうしたよハの字」

 「いいのか、地上くれてやって。棄ててもいい前提って言っても大事に使ってきてたじゃねぇか。プライドってモンはねぇのかよ?」

 「正直クッソ悔しいぜ。けど、プライドはそこにはねぇ。俺達のプライドはもう命を失わないことだ。それに、地上部は鎮守府の一部扱いだ。資材がありゃ妖精で直せる。取り返しはつくんだ。けど、命はそうはいかねぇ」

 「それを聞いて安心したぜ。腰抜けだったら付き合ってられなかったからよ!」

 「ハッ、よく言うぜ」

 

 ハ級は素直なカラっとした性格だった。『北の姫』は思慮深かったから、ある意味どんな状況でも素直に吐き出してくれるコイツの存在は大きかったのだろう。実際、色々抱え込んで表に出しにくい俺達にとっても代弁してくれる気のいい存在だ。

 

 『坂田より各員へ。お客様……なんだが、ちょっと判断に困る』

 『通信横から失礼します!稗田です!』

 「は?」

 

 金剛さんの協力者で色々鎮守府に仕掛けを手伝ってくれた稗田さんが来た。何故このタイミングで?

 

 『お邪魔はしませんので!ただ、戦力が必要かなーって思いましたので手伝いに来ました!』

 「……どうよ、秋雲」

 「うーん……ぶっちゃけ金剛さんがガチで信用してる人だよ?いいんじゃない?多分色々知ってるんでしょ」

 「通してくれ」

 『りょーかい』

 『お邪魔しまーす!』

 

 とりあえず通すことになったが、何をしに来たのか。

 

 「金剛さんの依頼で来ました!こちらの人数が少ないということですし、お手伝いさせていただきます!」

 「金剛さん経由ならまあ……」

 

 ドンパチが予想されるのだが、それ込みで大丈夫なのか。

 

 「あ、私戦えないかな?とか思ってますね?ご安心ください!こう見えても、呪術やら妖怪関連と戦ってて歴戦なんですよ!」

 「何々、妖怪でも出てくる想定なの?」

 「流石に俺達妖怪との想定はしてねぇぞ……」

 「や、多分そんなのはないですけど、安心してくださいってことです!」

 

 結構気楽に言う稗田さんに若干の不安を覚えつつ、他の部隊の連絡を待っていた。

 

 

 10:30 第127鎮守府入り口

 

 

 続々と他の部隊の情報が入ってくる中、連中は現れた。

 

 「我々は大本営所属の憲兵隊の者である!貴様らには反乱の容疑がある、全員投降しろ!」

 「おいおい装甲車二台出てきたぞ」

 「どんだけ中身乗ってるんだろうなぁ」

 「こちら127鎮守府。証拠を見せろ、お前たちの所属と俺達の反乱、どちらもだ」

 

 予想通り、というか『前回』同様の相手が出てきた。相違点としては、『前回』以上にごつい車だ。何を積んできているのか。

 

 「第二技術研究所への襲撃疑いがある、抵抗をするな!」

 「連中特定ポイントに到着」

 「罠、起動!」

 「了解!」

 「なっ、うわっ!?」

 

 車専用の出入り口から律儀に侵入してきたので、そこに仕掛けていた罠を起動する。内容は単純、10m下に一気に車侵入口のその区画を落下させるもの。これで攻撃は出来ないだろう。死んでも知ったことか。

 

 「周囲に他の反応あるか探せ!」

 「一人も逃すな!」

 「罠の第二段階機動しろ」

 「な、液体が……燃料!?」

 「下手に暴れて見ろ、発火して大爆発だぞ」

 「なっ……貴様らッ!!」

 

 落下した区画の壁から燃料を垂れ流させて浸させる。べとべとでパルクールでもなんでもしにくいだろう上に、下手に発砲でもすればその火花でドカンだ。……これができるように、鎮守府の改修を進めていたのだ。

 

 「周囲に他の連中無。こいつらだけだぞ」

 「だ、そうだが誰の差し金だ?素直に喋らなきゃ火種の一つでも叩き込んで丸焼きにしてやる」

 「反逆者共が……!」

 「先に反逆したのはテメェらだろうが。都合のいいこと言いやがって」

 「旧127と130襲撃した癖に被害者ぶってんじゃねぇぞコラァ!」

 「やー、予想以上に殺意の高い罠組んでましたねー。私の出番もなさそうです……と言いたいところですけど」

 「稗田さん?」

 「敵装甲車上部から何か出てきます、全員戦闘準備というか防御態勢を!」

 「「!」」

 

 上部ハッチから飛び出してきたのは深海棲艦――ネ級――らしきもの。それぞれから発射されて2体いる。

 

 「チッ、攻撃開始!」

 「憲兵隊シールド展開!押し込んで底に叩き落せ!」

 「んー、これはこれは。なるほどー。通常弾効かなさそうですね」

 「暢気に言ってる場合かよ!?主砲……避けやがった!?」

 「天龍ちゃんよ、コレアレだ、江風ちゃんに付きまとってた創造者のアレだ!」

 「クソッ、近接ってもよ……!」

 「んー、ちょっと属性付与してみますからやってみます?その剣で」

 「えっ」

 

 言うが早いか、俺の艤装の剣に札を投げつける稗田さん。そして、剣から力がみなぎってくる。

 

 「片方はお任せしますねー、こちらはー、破ァ!」

 「クソ、やってやろうじゃねぇか!このっ!」

 「!?」

 

 稗田さんの掌底、俺の剣でそれぞれダメージが入る深海棲艦らしきもの。だが、江風のケースとは違い消滅はしなかった。反撃は動きが鈍く、そう心配はないが……

 

 「あー、なるほどコーティングってことですか。砲撃しますよ天龍さん」

 「は、クソ、撃てるの俺だけか!」

 「近すぎて銃撃はきついな……」

 「憲兵隊の皆さんは侵入者の皆さんのチェックをよろしくお願いします。『艤装展開』」

 「「えっ」」

 

 マイペースに言い放ち、艤装を展開する稗田さん。展開された艤装は金剛型のソレで。

 

 「結界も張ってますし、久々に行きますかー!金剛型戦艦比叡!全力で!行きます!」

 「……惚けてる場合じゃねぇな、食らいやがれ!」

 

 俺と稗田さんのそれぞれの砲撃が刺さる。至近弾の直撃で、大破は免れないはずだが、様子がおかしい。

 

 「ア、ア、クルシイ……」

 「モウウゴケナ……アア……」

 「うーわー、呪術で縛ってますかー。まあそうじゃないと言うこと聞かないでしょうしねぇ。では、パチリ、と」

 

 懐から取り出した新しい札を投げつける。その瞬間、何かが弾ける音がしてネ級2隻は崩れ落ちた。

 

 「んー、成程口封じ。もう死んでますねこの子達」

 「助かったけど、どうなってたんですか今の」

 「推測込みですけど、普通の深海棲艦を呪術で縛り、無理やり動かす。その上で創造者のエーテル能力を付与して厄介に、という合わせ技ってところですかね!詳しい話はそこにいる侵入者の皆さんに聞いた方が早いでしょうか」

 「……成程?あー、坂田、どうよ」

 「駄目だ、こいつらも捨て駒だ。何も知らなさそうというか自分たちの秘密兵器が深海棲艦だってことすら知らなかったらしい」

 「では引き上げて上司の方の情報を引き出して……アレ、なんか近づいてきますね?」

 『こちら秋雲、第二技術研究所の方からなんか近づいてきてる!江風からもこっちになんか自律メカらしきものが飛んでいったって……早い!』

 「見えたぞ、なんだアレ……人型マシン!?」

 『目標確認、排除』

 「やば、全員伏せろ!」

 「障壁展開しますねー!皆さん耐えてー!?」

 「な、ひ、うわああああああっ!?」

 

 突如飛来した人型マシン。ソイツは躊躇わずに燃料の充満した侵入者のいる区画に銃撃をかました。侵入者の悲鳴、そして銃撃による火花による引火による爆発。燃料の量を調整していなかったら俺達も危なかった。

 

 『対象の生存者の存在を確認できず。任務完了。帰投する』

 「な、オイ、待ちやがれ!」

 「はっや、アレは追えませんねー……秋雲さんどうです?」

 『ダメ、ジャミング持ちみたいで追跡できない!なんなのアレ!』

 「サクッときて口封じかよ……これは梓ちゃんの方も大変なことになってそうだな」

 「……何がどうなってんだ……?」

 

 梓の帰投と、卯月から敵部隊撃退の連絡が届いたのはその後だった。

 

 

 同日 10:00 千葉県沿岸第二技術研究所

 

 

 「……では、以上の人員で下見の方をさせていただきます。内部と外部、我々はどちらから見て回りましょうか?」

 「……外部の方から頼む」

 「了解しました。タ級さん、暁さん、響さんは私と共に施設外部から見た場合、どう守るべきか。どう攻めるかの確認を行いましょう。江風さんは元帥や金剛さんについていてください。では行きますよ」

 「……本当に深海棲艦を連れてくるとは……」

 「所長さんだっけ、何か言いました?」

 「何も」

 

 私達技研下見組は予定通りに千葉沿岸の第二技術研究所に到着した。横須賀から元帥も来ている為、技研の連中もないがしろには出来ない状態だ。それにタの姐さんの存在が結構衝撃だったらしい。まあ危険性が云々言われてる中で連れてきたんだからそりゃそうかって話なのだが。

 

 「さて、こちらはいつから行うかについて詳細を詰めさせて頂こうか」

 「う、うむ……君たちは下がっていなさい」

 「金剛、以下江風及び憲兵隊、下がりマス」

 「わ、我々も失礼いたします」

 

 元帥と所長以外もとりあえず会議室を退出する。他の研究員やら職員は……とりあえず元帥にはビビっている様子ではある。

 

 「研究員さん」

 「何かね、艦娘江風」

 「当初、というか話次第じゃこっちの要員住み込みで護衛にあたるんでしょ、その滞在先どういうとこなのか見て見たいなぁって」

 「……構わないが、艦娘金剛、どうか」

 「どうぞ、行って来てくだサイ」

 「……だ、そうだ」

 

 随分と壁を感じるな、とは思うが了承を得る。さて、ここからは『異物』として見られるわけだ。これが私の目的でもある。

 

 「……」

 「……艦娘、珍しいんですか?艦娘に関する施設なのに」

 「元鎮守府を改造した施設だが、艦娘は所属していない。故に本計画では護衛が必要となる」

 「ってことは鎮守府コアでも使ってるんですねェ……ふぅん」

 

 徐々に集まってくる視線。好奇というには冷たい目。無関心というには熱を持った目。なんというか、『かかった』と言いたげな目。変な顔色にさらされ続けていた私ならわかる。誰も好意的に見てはいない。使える、とは思っているようだ。

 

 「この区画が寝泊まり用の職員の部屋になる。使うならここになるだろう」

 「ありがとうございます。へー、清潔感のある部屋」

 

 宿直室、と言ったところか。あまり使われていなさそうだった。まあ、住み込みで通う職員がいないならそうなのだろう。奥まった場所にある部屋なので、逃げられないともいえる。その中で、ちらりと職員を見る。

 

 「……」

 「……何か?」

 「……いえ、見るとこ見たんで他に見せるとこあったら、ってぐらいで。なんかあります?」

 「特にはないな。元の場所に戻るぞ」

 「了解です」

 

 いざという時、私はコイツらを殺せるのだろうか。だいぶ、2年前に見た連中が猫かぶってたらこういう表情するんだろうなって顔はしていたけれど。

 

 

 同時刻 外部

 

 

 「……さて、海上から見れば鎮守府に比べれば随分とこじんまりした施設ですが、中々の大きさで海にせり出している、と」

 「と言っても、近くに他の鎮守府もあるし直接の護衛が必要、って感じはしないわね」

 「特定の電波が発生すると深海棲艦が引き寄せられる、とのことだけど。タ級、どうかな」

 「今は特には引き寄せられるものはないな。ただ、やはりいいモノには見えないな。これが本能か主観かはわからないが」

 「昔、鎮守府コアが発生したこの場所でそれを回収、研究施設として運用しているのが第二技術研究所。とのことでしたが、まだコアは稼働中の様ですね」

 「むしろそれありきだろうね。鎮守府コアの出力を別に回せればいろいろできるというのは127で証明済みだから」

 「深海棲艦としては、もう少し遠くからでも鎮守府なら認識できるが、どうする?梓」

 「認識限界ギリギリまで移動をお願いします。私は外部に何か特徴的なものがないか見ていますから、暁さん、響さん。お二人はタ級さんに同行を」

 「「了解」」

 

 三名が大きく距離を取ったところで、私よりの中間地点に反応が出た。

 

 『敵反応!?突然!?どういうことだ、福山提督報告しろ!』

 「……はあ。技研がジャミングを抜けないというのですか情けない。相手はヲ級1隻の様ですが……」

 「……ここにルがいる。返せ……!」

 「敵、艦載機の出撃を確認。防空体制は?」

 『そのための貴様らだ!』

 「はあ。では、私が直接叩き落しましょう。……三名とも、そのヲ級の対処を頼みます」

 『了解ってアンタ『北の姫』のヲ級じゃない!なにしてるのよこんなとこで!』

 『ヲちゃん!やめるんだ!』

 『煩い!ルを取り返すんだ!』

 『どういうことかな。……何か知っているかい、技研』

 『し、知らない!早く撃墜しないか!』

 (予定通り、それも一番いいタイミングで送り込んでくれましたね、クーナさん)

 

 予想外の襲撃に混乱する技研。私が技研の外周部に取り付く頃にはヲ級さんの爆撃が始まっていた。

 

 「それ以上はさせない、フッ!」

 

 ソニックアロウで艦載機1機を撃墜。大きく剣を振ったことで隙ができる。そこに指定ポイントにむけて爆撃を試みる爆撃機が複数来て。

 

 「やらせん……!」

 

 身を挺してそれらの爆撃から施設を守るようにして。私は爆風の中に消える。そして。

 

 「任務開始……『インペリアルグリーヴ』」

 

 必殺の一撃を爆風の中で放ち、外壁及びその先の壁を破壊する。爆風が晴れる前に、その先へ突入する。

 

 『梓!梓!?……応答がないね。これはまずいか』

 『ヲ級!どういうことよ!もうやめなさいったら!』

 『ルが、ここにいるんだ!』

 『ルちゃんが!?どういうことだ!?』

 『こちら金剛、避難を兼ねて職員をロビーに集めていマス。元帥も合流しまシタ』

 『こちら憲兵隊桐ケ谷。逃げ遅れがいないかのチェックに入ります!』

 『こちら江風、金剛さんについてる……てーとく!?無事!?てーとく!?』

 

 味方の混乱を装った通信を聞きながら隠し扉だった壁を抜けて、階下に転がり落ちる。その先の扉を蹴破る。

 

 「な、な……!?何故ここに!?」

 「……え、艦娘……?」

 「どういう……上の騒ぎは……」

 「……おかしいですね。この施設には艦娘も深海棲艦もいないはず。貴方達、所属は」

 「待て、貴様勝手にぐあっ!?」

 「私は127鎮守府基地司令、福山。そして艦娘不知火。貴方達の味方だと言えます」

 

 そこにいた職員を殴り飛ばして気絶させ、牢に閉じ込められていた2名に問いかける。

 

 「ひゃ、130所属の弥生……です。ずっと、ここに閉じ込められていました」

 「……『北の姫様』の所属のル級だ。同じく閉じ込められていた。……どういうことだ?」

 「端的に言えば、助けに来ました。さらに言えば、弥生さんとしては卯月さん、菊月さん、長月さん。ル級さんとしてはタ級さん、ヲ級さん、ハ級さん、イ級さんは無事ですよ。彼女らの支援もあって助けに来ることができたんです」

 「「!!」」

 「……さて。こちら福山。無事だが記載にない部屋を発見した。ここには130の弥生、『北の姫』のル級がいるがどういうことか。応答を」

 『……』

 『……艦娘、いないんじゃなかったンすか?どーいうことっスかねェ?』

 『返答によっては……』

 『全員拘束しろ!殺しても構わん!』

 『元帥より各員へ。反撃を開始せよ。一人か二人生かしておけば後は構わん』

 『『了解』』

 「……とのことですので、お二人とも上に上がりましょうか。道中、御守りします」

 

 牢を破壊して二人を連れだす。後は上の制圧状況次第だろう。出来る限り逃がさずに制圧したい。

 

 

 第二技術研究所ロビーエリア

 

 

 「さて、全員そこを動かないでくだサイネ?抵抗したらそちらの彼のようになりますノデ」

 「ひっ」

 

 ロビーエリアに避難という名目で集めていた職員達をそのまま拘束する。その際、抵抗した職員一名が金剛さんの砲撃によって即死していた。後から駆け付けたメンツも同様に拘束していく。

 

 「江風さんはそこで様子を。無理に動く必要はありまセン」

 「……いや、動きます。『具現武装』」

 「江風さん!?」

 

 通路裏からよくないモノがあると勘が告げる。おそらく、不意打ち狙い。そこに踏み込み躊躇わずに切る。

 

 「ぐあっ!?この、実験体(モルモット)が……!」

 「さっきのオッサンか……!」

 

 通路裏で銃を構えていたのは先程案内していた男。その目は2年前に見た誘拐犯と同じ私達を人として見ていないからこその怒りに燃えていて。

 

 「許さんぞ、許さんぞ艦娘ごときが……!」

 「さよなら」

 

 だからこそ、躊躇わずにその胸に刃を突き立てることができた。肉を引き裂く感覚。ソレから力が抜けていく感覚。

 

 「……なんだ、深海棲艦と変わらないんだな」

 

 それは深海棲艦をこの手で殺めた時と同じ感覚で。とても冷めている私がそこにはいた。

 

 「こちら江風。抵抗意思のある者を1名殺害。残りのそういうの、狩っていきます」

 「……気を付けてくだサイネ」

 「了解」

 『こちら元帥。技研所長が行方不明だ。捜索を頼む』

 「江風、了解」

 

 事前に渡されていた施設の内部構造を思い出しながら駆ける。その中で数人切り殺して、深部のエリアに到着した。

 

 「鎮守府コアの気配がする……いるならここか」

 『……!』

 「中で騒いでる?他に反応はないし……江風、鎮守府コア付近で1名確認、制圧します」

 「間に合いましたか」

 「てーとく!」

 「お二人は既に横須賀の皆さんに預けてあります。私も突入します」

 「じゃあ、せーので……」

 「フッ!」

 

 てーとくと一緒に扉を蹴破る。そこには鎮守府コアと周囲に怪しい機械が詰め込まれた部屋。そして技研の所長がいた。

 

 「ひ、なんでもうここに!救援はまだなのか!」

 「救援もなんも。他の面子は大体制圧したぜ、オッサン」

 「聞きたいことが山ほどある。苦しみの中で死ぬか投降し素直に情報を吐くか、選べ」

 「冗談じゃない!貴様ら実験体ごときが……!」

 「私達、こんな連中の技術使わされてたんっスね」

 「ええ。だからこそ信頼していなかった。……まずは指の一つ」

 「やめっ」

 「!」

 「うわっ!?」

 

 そこで、地面が砕ける。何かが飛び出してくる。同時に、地下にいたはずの桐ヶ谷さんから連絡が飛ぶ。

 

 『こちら地下非常口の桐ヶ谷!逃亡を図った連中が謎の機動兵器?人型マシンに皆殺しにされて、そいつが地上部に穴をあけて飛んでいきました!』

 『なんだと!?』

 「こちら福山。深部コア区画にソレを確認」

 『……第二技術研究所所長を確認』

 「お、お前は……!た、助けてくれ!」

 『排除する』

 「な……!?」

 

 その機械は躊躇わずに銃口を所長に向けて発砲。ハチの巣にしてしまった。

 

 「貴様、何を……!」

 「口封じってか!?オイ、何か言えよ!」

 『残存人員を検知。掃討する。並びに自爆シークエンス起動』

 「「は?」」

 

 言うや否やロビーエリアに向けて飛んでいく――この通路を精密に飛べるとかどういう技術をしているのか――私らより一回り大きい程度の人型マシン。そして、宣言通りに響く自動音声。

 

 『自爆シークエンス起動。これより5分後に自爆処理をします。繰り返します。自爆シークエンス起動』

 「てーとく!」

 「チッ、想定外です!江風さん、先に撤退を。私は接収できるものはしてから撤退します!」

 「転移で!?」

 「ええ。できれば、先程の機動兵器の追撃をお願いします」

 「了解!」

 

 てーとくを残してロビーエリアに向けて走る。その道中には死体が増えていた。おそらく、さっきの奴が増やしたのだろう。

 

 「金剛さん!元帥!ってうわっ!?」

 「やられマシタ。人型マシンが職員を皆殺しにしていきマシタ」

 「……アレは……」

 「元帥、離脱しマスよ!」

 「そうだ、さっきのオッサン……このっ!」

 「江風さん!?」

 「死体の一つでも持ち帰らなきゃ全部水の泡じゃンかさ!多分このオッサン一人ぐらいはマシな情報を……!」

 「了解です、その死体を持ち帰りつつ撤退を!桐ヶ谷さん、そちらも撤退を!」

 『すでに撤退しています!後は金剛さん達が!』

 「金剛さん、あのマシンどこ行ったの!?」

 「殺すだけ殺してどこかに……いえ、方角は……127鎮守府の方デスネ。凄まじい速度デシタ」

 「チッ、秋雲さん!?秋雲さん!そっちに人型マシンがすごい勢いで飛んでいった!気を付けて!」

 『ちょっとわけがわかんないけど了解!』

 『自爆シークエンス、残り10秒』

 「撤退ー!!」

 「うおおおお!!」

 『……3、2、1、0』

 

 第二技術研究所のあちこちから爆発が起こり、全て火の海に消えていった。手元に残ったのはこちらの人員全員と救助した弥生さんとル級さん、そして私が引っ張り出した男の死体。そして。

 

 「……福山、帰投しました。鎮守府コアと関連データのいくつか。拾えたのはそれだけでした。……状況は?」

 「総員無事デスネ。こちらで確保できたのは人質とこの死体が1人のみ。他は火の海の中デス」

 「福山君、君達127組は鎮守府に先に帰還しなさい。横須賀隊はここの後始末を。これ以上は敵の目もあるまいが……車で戻りたまえ」

 「……了解です、元帥」

 「……皆大丈夫!?暁、響、タ級帰還!、後はヲ級もこっちに合流したわ!」

 「ヲ級さんもお疲れさまでした。作戦は成功……ですね、成功です。127組と弥生さん、ル級さんはこちらへ。撤退します」

 

 

 私達は鎮守府に帰還し、侵入者がまとめて殺害されているのをこの目で見ることになりつつ、卯月の姐さん達の帰投を待つことになるのだった。




 人型マシンは滞空出来るアーマー○・コア系の機体でイメージしています。

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