8月上旬 10:00 第127鎮守府
大規模作戦からしばらく。第二技研がやられたからか、人類側も南西側も攻撃はしてこない状況で、しばらく穏やかな日々を過ごしていた。その間に各艦の装備のアップデート、それに伴う習熟訓練をこなすことに集中していた。そんなある日。
『響だよ。南西の『境界海域』付近に反応有……これは艦娘が1隻かな?』
南西の勢力圏に通じていると思われる海域を境界海域と呼ぶようになっていた。そこに艦娘の反応があるという。
『情報をこちらに……ッ!?なっ、まっ、あっ!?』
『梓?どうし』
『至急救援に向かいます。先行しますので『母艦』も準備出来次第出撃を』
『……ジャミングしつつ転移して飛び出していったようだね。聞いての通りだよ。今日の出撃担当は『母艦』に乗り込んでフォローに回ってもらうよ』
「りょ、りょーかい」
通信越しのてーとくの様子がおかしい、というか別人のような感覚がした。出撃準備をしつつ、『艦娘母艦』――対深海棲艦防御性能を強化し、艦娘の高速輸送及び補給・修理を担う移動式前線基地となる高速船――に乗り込んで情報を確認した。
「映像はコレっスか。……これは駆逐艦陽炎?結構無理してそうな感じ」
「追われてるのです。……結構な数なのです!?」
「あー、むしろよく生き残ってるなコレ。腕は立つみたいだがこのままじゃ危ねぇ。梓の奴が転移すればってとこか。けど、それにしても焦ってたな?」
「天龍の姐さんは何かわからないっスか?」
「『前回』込みでもこの展開はなかったぞ……っつーか、『前回』のイベントはこなしきっちまったからもう当てにならないって思っておけ」
「「了解」」
そう言いながら境界海域へ向かうのだった。
10:10 境界海域
ここはどこだろう。敵本陣付近の調査をしていて、視界がゆらゆらとおかしくなったと思ったら潮の感じが全く違うところに出てしまった。だけど、敵は追ってくるし増えているしどうしたものか。
「諦めちゃだめ、だけど!弾薬も燃料も不味いわね……」
ここに来るまでの遭遇戦で大分消耗しているし、それを引きずって一人はぐれてのこの状況は不味い。
「くっ、しまっ!?」
機関部に直撃。駄目だ、速度が上がらない。
「ごめんね、不知火――」
「はああああああああっ!!」
「え……?」
見間違えるはずがない。けど、ずいぶん前に戦死したはずの妹、不知火が大剣を振って割り込んできた。……大剣?
「大丈夫ですか姉さん!これ以上はやらせない……!」
「グギャッ!?」
「一つ!二つ!三つ!」
文字通りちぎっては投げ。そこに追撃の砲撃や魚雷を叩き込み。およそ艦娘とは思えない戦い方で制圧していく不知火。これは死に際の夢か何かだろうか。
「周囲制圧!姉さん、大丈夫ですか!?」
「え、えぇ。大丈……夫?」
「よかった……え、なんですか?……あ」
「不知火?」
「……ごほん。私は第127鎮守府基地司令の不知火、福山梓です。救援に参りました。貴方はどちらの所属ですか?」
「……127?どこそれ?」
「とりあえずこちらへ。当鎮守府の艦娘母艦が向かってきています。まずは合流しましょう」
「わ、分かったわ」
突然雰囲気が変わる。私の知らない不知火になったかのよう。というか、127鎮守府?番号のついた鎮守府なんて聞いたことがないけれど。
「安心してください。これ以上、貴方に指一つ敵には触れさせません。私が、守ります」
訳が分からないけど、絶対に味方なんだ、という確信だけは持てて。そのまま不知火の言っていた高速船に保護されたのだった。
12:00 境界海域
母艦で出撃したのは天龍の姐さんを隊長に私、電、ルの姐さんの部隊と他もう1部隊。他のメンバーは別方面から撃って出てもらっている。
「クソ、まだ出てきやがる!無尽蔵かよこいつら!」
「混成部隊っぽいですね!?いつものカテゴリDとなんかCっぽいのの集団とある気がします!」
「まずはDから削っていけ!母艦に近づけるなよ!」
「……ねえ、不知火。私も出たほうがいいんじゃ」
「負傷者はじっとしていてください」
「バケツ使ったから大丈夫だってば」
「それでも。狙いは貴方のようですから、無理に出る必要はありません」
「……」
「補給完了だ!ル、出るぞ!」
「よっし、道開けろォ!」
「まとめてぇー……消し飛べえええええッ!!」
「あのル級ホントなんなの……?」
「頼もしい味方ですよ」
てーとくがちぎっては投げてを繰り返していたが敵の増援が止まらず。私達が艦娘母艦で合流しても襲撃は続いていた。ルの姐さんの新装備は機動力のほとんどを犠牲にして高出力の衝撃砲を放つ、というもう深海棲艦でもない代物。ただ、パーツは深海棲艦製だからかしっかり効いていた。コレの欠点は弾数の少なさにある。その為、一度ルの姐さんは補給していた。
「オイ、なんか出てきたぞ」
「いつまで苦戦をして……どういうこと?」
「姫級だ!ルの姐さん、知ってる!?本部、照合は!?」
「知らん!どこの連中だ!?」
『こちら本部のタ。南西の奴でもないよ』
『響だよ。こちらのデータベースにもないね』
「不知火!アレ!」
「皆さん、警戒を。アレは大将格です!」
「知ってるのか梓!?」
「アレはこちらが……あっ、待っ……私が倒します」
「てーとくの感じがまた変わった……?」
「不知火に戻った……?」
「動きは『識っている』……!」
「な、こいつ、いつかの!?」
「今の私は、こういうことが!出来る!!」
「な、ああああ!?」
てーとく?が肉薄し剣を突き立てる。そのまま動きを封じてゼロ距離で魚雷を発射。自爆した。
「てーとく!?」
「流石に無茶じゃないのですか!?」
「まだ、まだまだ!」
「ああああっ!?」
「耐性悪用してるなオイ」
「衝撃砲2発目いけるぞ!どこに撃つ!?」
「私ごとこちらへ!」
「死ぬなよ梓ァ!消し飛べええええッ!!」
しこたまゼロ距離で砲撃や魚雷を叩き込まれてズタズタなところに、戦艦級の艤装の武装部分の容量のほとんどをタの姐さんの大盾のようにぶちこんだ必殺の衝撃砲が刺さる。
「……死んだようですね。指揮官が討たれたことで周囲の残存敵勢力、一部撤退していきますか」
「なんで平気なのさ。いや、わかってるけど」
「まだかかってくるのはカテゴリDなのです……!」
「こんな最後っ屁にやられんじゃねぇぞ!掃討だ!」
「「了解!」」
カテゴリDがいなくなるまでしばらく。その後は敵反応はなくなった。……母艦がいて良かった。残弾とか気にせず撃てたから。
14:00 第127鎮守府司令室
保護した陽炎さんを入渠施設に放り込み、ついでに各種検査を行う一方で。先程のてーとくの変化について問いただしに皆集まっていた。
「……で、どこから話してもらおうかな?」
「まずは福山司令官……の変化について、です」
「……そうですね、そういえば話していませんでしたっけ」
「アレに立ち会った面子しか知らねぇだろっぴょん」
「そうでしたね。……ええ、まずは私はイレギュラー艦娘のカテゴリに入るのはお分かりになると思います」
「てーとくのような通常艦娘がいてたまるか」
「その最大のイレギュラー要素はダークファルスの戦闘能力、耐性のある程度の引継ぎ以上に。『艦娘不知火』という人格が同居していることにあります」
「同居……?」
「脳内に別人格がいて、常に話しかけられるような形ですね。いざという時は主導権を変えられるのは……先程感情的になって初めて発覚したところではありますが」
「響だよ。つまり、『梓』と『不知火』の二重人格のようなモノ。と認識してもらって構わないよ。梓が苦手ながら基地司令の仕事をある程度こなせるのも不知火の補助があってこそだよ」
「いなければ回せませんでしたね……」
「で、そんなイレギュラー艦娘不知火の誕生にはこの鎮守府の建造システムを使ったわけだが。元々襲撃でボロボロになってたところにそんな特大イレギュラーって負荷がかかって完全に壊れちまったってわけだ」
「天龍ちゃん、この鎮守府の建造システムは完全に機能停止しているから観光に使えるっていうのはそういうことなのね?」
「そうだぜ龍田」
「……私、というかダークファルスというのは本来ダーカー因子そのものの存在。ただ、それ単体では存在の維持が難しいため適性のある人間を依り代にして成り立つ。そういうものです。まあ、私は素体となった『私』が大量のダーカー因子を浴びて変質した特殊例ではありますが」
「そんな人ならざるモノが本来人が使う建造システムを使ったんだ。壊れて然るべきというところだね。まあ、建造成功したのは驚きだったけどね」
「そして、私に宿った不知火ですが。……この世界とは異なる世界の不知火が戦死した魂。ということになります」
「え?」
「素体が異常なら憑く艦娘の魂も異常だった、って話だっぴょん。他にイレギュラー込みでそんな事例は聞いたことないぜ」
「本能が訴えかける、とかそういうのはありますけど確かに別の意思がってのは感じたことないっスね」
「そんな不知火の魂がどこから来たか。それは異世界の……艦娘が建造で生まれるIFの世界、といったところです。艦娘は人ではない、そんな世界。……後は不知火。貴方が説明を」
「あ、雰囲気が変わった」
「改めまして不知火です。私がいたのはこことは異なる世界、艦娘は建造で生成される存在。こちらに比べて艦娘の人権というのはかなり低いと言えるでしょうね。……そこのとある鎮守府で秘書艦をしていました」
不知火さんは語る。状況は艦娘がある程度犠牲になる必要がある程度には劣勢であり、艦娘を使い捨ての道具のように扱う鎮守府も多かったとのこと。不知火さんが所属していた鎮守府はトップエースの鎮守府ではあったが、やはり犠牲は出てしまうこと。基地司令、及び秘書艦である不知火さんは最低限でもそうした戦死しなければならない命令を下す立場にあったということ。
そんな中、ある程度情勢は変わってきていて。段々頭角を現してきているとある鎮守府。そこは犠牲を出さないように、そして艦娘の権利を大事にする異端の鎮守府。それは不知火さんや基地司令にとっても希望であり、取って代わってくれればもう犠牲を容認するスタンスを取らなくてもいいと思ったとのこと。
だけど要害が一つ。鎮守府近海まで勢力を伸ばしてきている強力な深海棲艦勢力。先程討った姫級はその所属の大将格の一人で、陽炎さんを追いまわしていたカテゴリCの連中もそれであったとのこと。……その討伐を成しえなければ犠牲を出し続けざるを得ないということ。
そこで、不知火さんとおそらく基地司令はそれぞれ考えた。その勢力を討つと同時に、犠牲容認派閥のトップエースである自分たちが戦死すれば情勢は犠牲否定派閥に取って代わる。だから、いいところでその代表格である自分たちが死ぬ必要がある、と。
……流石に相手が受け入れるとは思えなかったので、どこかで謀殺して自分もいいところで戦死するべきだと思っていたら、先手を打たれてかの勢力との交戦時に一人戦死することになったということ。その直後、魂が引かれて気付いたらてーとくに宿っていたということ。
あの陽炎さんはその時の姉妹艦で、個人的な感情として絶対に失いたくない相手だったこと。だからこそ、体が先に動いてしまったのだった、そうだ。
「司令なら後はうまくやるだろうと思っていましたから、恨んではいません。が、姉さんが追い回されていた今日の状況を見るに、まだ解決はしていないようです。もう関わりようがない別世界の話だから、と内心諦めていましたが……」
「そうもいかなくなったというところだね。おそらく、南西の連中とその勢力はどうにかして世界を超えて手を組んでいる。だからこそ同時に襲ってきたと考えるべきだと思うよ。……どうかな?陽炎」
「えっ」
『……不知火!アンタ!馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!!ほんっとうに馬鹿!!全部聞いたわよ!!』
「えっ、いつの間に通信を」
「最初からだよ?死人だから生者の姉を混乱させたくないーって言ってたけど死人より生者優先するからね」
「響……!」
『言いたいことは山ほどあるけど!そうね、現状よね。不知火、貴方が二ヶ月前に命と引き換えに本陣の情報を抜いてくれた後だけど。アンタたちのいう、カテゴリD?あの雑魚の山が増えたの。それに、攻撃の効きにくい変な奴も出るようになったわ』
「創造者(クリエイター)のアレか……!」
「待ってください姉さん、二ヶ月?」
『二ヶ月でしょ?』
「世界を超えるなんて超常的なことをしたんだ。時間軸がずれてもおかしくはない……というところだろうね」
「それに二ヶ月前以降っていや、『前回』を超えたターニングポイント……6月14日前後じゃねぇか」
『敵が増えたの、その後ぐらいね』
「現時間帯は同一、ということだね」
『……それで、増えた敵……最近特に激しくなってきたし。その出所を探るために私を含めた部隊で探索していたの。そこに敵の襲撃で私だけはぐれて、周囲がゆらゆらしてる変な海域に入ったと思ったら潮の臭いが変わって。その後よ、不知火、アンタに助け出されたのは』
「そうだったんですか……」
「つまり、境界海域で向こうの世界と繋がっている、と考えるべきだね。こちらへの攻撃が大人しくなったと思ったら、別世界に攻め込んでいたとはね。狙いは……おそらく向こうの勢力の吸収。あちらの情勢を有利に進めれば、こちらに協力するようにとでも取り付けたんだろうね」
「なら、やることは決まったな!」
「え、皆さん……」
「ハッ、仇討の合間に異世界遠征か!燃えてきたじゃねぇかっぴょん!」
『……いいの?』
「そちらの世界が負ければこちらも不利になる。損はないと言えるね」
「……皆さん、ありがとうございます」
「とはいえ、こちらが勝手に倒しては不都合が起きるだろうから。陽炎の鎮守府とコンタクトを取るところから始めようか。いいね?不知火」
「……ええ」
そうして、異世界攻略作戦が幕を開けるのだった。
響「ちなみに陽炎にだけじゃなくて全館放送だよ」
梓「!?」
不知火「!?!?」
ル級の新装備は深海棲艦及び艦娘艤装の魔改造品なので、ダークファルス属性の梓/不知火には耐性が入りダメージが大きく減少します。結果が自分ごと撃てになりました。