少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 しばらく雷と訓練校時代に出てきた霞が主軸になるお話になります。


26話 自信が持てない二人

 9月頭 09:30 第127鎮守府入り口

 

 

 ……来てしまった。司令官の口車に乗せられてあれよあれよという間に家出の準備を整えて。先方である127の許可も得て。書置きには「しばらく出ていきます。探さないでください」とだけ書き残して。

 

 「色々参考にして、ついでに127が怪しいかどうか見て来てくれればいい、期限も好きにしていいって言われたけど……」

 「アレ、霞?」

 「か、江風!?」

 

 後ろから声を掛けられる。どこからか帰ってきたのだろうか。

 

 「おま、どうしてこっちに!?っつか、その荷物なンだよ」

 「えっと、あの、家出……」

 「家出!?」

 「50(ウチ)と127(そっち)の司令官の許可は得てるから!今日からお世話になるわ……って聞いてないの?」

 「余所に演習に行っててさっき帰ってきたばっかで知らンかった」

 「精力的にやってるのね」

 「ま、強くならねェとだからな」

 「ふぅん……」

 「ま、そういうことなら執務室に案内するよ。報告書の提出兼ねて用事もあるし。多分そのまま案内任せられるだろうしなー」

 「よ、よろしく」

 「……何があったかは知らねェけどさ。こっちでは気を抜いていいぜ。そもそも気を張ってるとツッコミ疲れで倒れちまうからな」

 「え、それってどういう」

 「おや、江風か。お帰り。そちらは……ああ、梓の話にあった霞、だったか」

 「タの姐さん」

 「ほ、本当に深海棲艦がいる……というか服装も違う?」

 「そのままじゃ誤射されやすいのと露出が激し過ぎるからこっちの用意した服着てもらってるンだわ」

 「身体性能の向上にも役立つ装備でもあるなら不服はないさ」

 「そ、そうなの……」

 

 フランクに話しかけて来たのは戦艦タ級……らしき人。上下を青いスーツのような衣装で固めているから、露出の激しい元のタ級とは確かに区別がつく。

 

 「ちなみにそれ横須賀製で防弾どころか防砲弾級の艤装服だよ」

 「えっ」

 「装甲値にして10は上がる、と言っていたね」

 「季節衣装な艤装服あるだろ?アレの応用技術らしい。そのうち私らでも使える技術にまで降りてくるってさ」

 「そういうテストを引き受けている、というわけだ。……この程度で驚いていては、ここでやっていくには持たないよ?大丈夫かい?」

 「えぇ……」

 

 開幕ぶっとんだのが来たと思ったらまだまだあるらしい。いや、色々評判は聞いていたけど。そういうのじゃないし。

 

 「ねえ、さっきの試験難しくなかった!?」

 「結構採点厳しいって話だもんね。大湊の奴より点数低いかもしれない」

 「というか東京にも出来たんだねアレ」

 「アレ……?」

 

 通りすがった艦娘達の会話が聞こえる。所属を示すエンブレムは127ではなかった。アレとはなんだろうか。

 

 「あー、アレ、ね。横須賀とか大湊とか、そういうとこに総合技能試験ってのあるだろ?各種適性というか状態を見るヤツ。アレをここでも設置したのさ。で、演習とかで訪れた連中が利用していくって感じだ」

 「あの大規模な試験場の奴……って設置してるの!?」

 「うん。そうすりゃ来る連中増えるだろ?それをカモにして演習していく算段さ。多分さっきの連中もこの後に演習やるんだろうな」

 「設営も大変でしょうに」

 「それでもやる価値はあるからなァ。例えば、評判とか、な?」

 「……そうね」

 

 多分、私も悪い評判を受け取っているということを知っているのだろう。

 

 「百聞は一見に如かず、ってなァ!ま、そんな感じでじっくり見ていくといいよ。ウチがトチ狂ってる鎮守府なのは変わりないから、むしろ正しく知って判断してくれって感じさ」

 「狂ってることの否定はしないのね……」

 「色々あって覚悟決まってる面子多いからなァ……ま、私含めなンだけど」

 「少しは取り繕いなさいよ」

 「今更なンだよな。第二技研潰したし……とか言ってる間に、ここが本館。一階が展示で、その上からが職場だったりになってる。いざって時は地下ブロックに移動するから重要なモンは上には置いてない。まあ執務室とか上の階にあるんだけどな」

 「それっていいの?」

 「執務室って本丸が囮兼ねてるからなァ」

 「なんで本丸が囮やるのよ……」

 

 それができる、とは聞いていたけど。色々とんでもないのを隠さないスタンスはこちらを信頼しているということだろうか。それともメッセンジャーとなって外部の牽制になって欲しいということなのだろうか。と思っている間に執務室に到着した。

 

 「江風、出向の霞を連れて帰投しました。入室しまーす」

 「おかえりなさい、江風さん。霞さんもお久しぶりです」

 「あ、訓練校でいたあの不知火さん……そういえばそうか」

 「基地司令自ら出向いているのは私だけでしたね。……江風さんはこの後は休んでください。午後2時に亜贄社長がいらっしゃいますので、その時は出て頂きます」

 「了解。先に報告書。……っとまァ、私はいったん退散するぜ、また後でな」

 「うん、お疲れ様」

 

 機密印の記された書類を渡して江風は休みに行ってしまった。演習の報告書が機密ってどこに行ってきたのだろうか。それと、亜贄社長ってあのYMTの社長だろうか。スポンサーとしてついたという噂は聞いているけど。

 

 「さて、霞さん」

 「は、はい」

 

 圧がすごい。というか私一人だけになってしまったじゃないか。話が終わるまで江風には同席してほしかった。

 

 「……まだ圧が抜けませんね……すみません、表情が硬く」

 「それ弥生の専売特許です」

 「あっはい」

 「えぇ……」

 

 からかうような明るさで明後日の方向への突っ込みが入る。ただ、他所の鎮守府のお偉いさんたちなんだし突っ込んではいけない。突っ込みどころ多いけど。

 

 「……こほん。えぇ、とりあえずこの後滞在する部屋にご案内します。滞在期間はそちらの好きにしていただいて構いません、そちらの基地司令と協議済みですので」

 「あ、はい。……いいんですか?好きにして」

 「中途半端に終わっても意義は薄いでしょうから。お任せします。それと、貴方の適性を確認するためにその後に総合技能試験を受けて頂きます。その上でここでの訓練などの内容を決めさせて頂きます」

 「……!」

 「第50鎮守府司令から聞いていますが、貴方は自身の力が不足している、と思っているとのこと。具体的にどの程度力があるのか見せて頂いた上で進めていきます」

 

 どこまで話がいっているのだろう。その不安を福山司令は察したようで。

 

 「貴方が心配なさることはありませんよ。貴方にとって実りある時間となるよう、努力させて頂きます」

 

 ここまで言ってもらえているのだから、なるようになるかな、と思うのだった。

 

 

 11:00 127鎮守府訓練海域

 

 

 あれから部屋を紹介され(結構広い部屋を一人で使っていいとのことだった)、案内として合流した電にあれこれ説明を受けて。試験の時間になった。ここから離れた演習海域では朝に通りすがった艦娘達が演習を行っているようだ。

 

 「霞ちゃん、改めてルールを説明しますね。開始の合図と共に前進、向こうで光っているゴール地点まで動いてもらうのです。左右どちらかに的が出現するので、それの撃破も同時に。それぞれの時間、精度、バイタルの変化などを計測するのです。討ち洩らしてそのままゴールしてもいいのです」

 「バイタルまでって他じゃやってなかったわね」

 「最新式、とでも思ってくれていいのです。ゴールに着いたらまた折り返してもらうのです。試験終了の合図が出るまで往復してもらう感じですね。試験内容はその時その時に提示するのでその都度従って欲しいのです」

 「分かったわ」

 「ご武運をなのです。気楽にやってくださいね?この試験を元に伸ばすとこまでがワンセットですから。というか、電達も正直点数低いですからね!江風ちゃんとかもっと酷かったのです。特に精度」

 「うん、ありがと」

 『開始5秒前。3、2、1、始め。標的展開』

 「ッ!」

 

 開始の合図と共に駆け出す。右舷に反応、的がどこからともなく出現した。的は動かないものの手前から奥に行くにつれて遠くに配置されており、近づいていたらゴールまでの時間に大きく影響してしまうだろう。

 

 「でも、外してたらそれでも時間かかるのよね……っと!」

 

 出来る限り針路を維持したまま順々に撃ち抜いていく。外して次もダメそうなら諦めて距離を縮めて。ただ、やっぱり精度に難があるなと思う。朝霜ならもっとうまくやるのだろうけど。

 

 「……とりあえずゴールしたら反転して、だったわね」

 『標的再度展開』

 「どっから出てきたの!?けど、やるしかない!」

 

 今度もまた右舷方向に、ただ気配もなかった的が出現する。今度はゆっくりと動いている。移動方向は……同航戦!

 

 「その程度でビビったりしないんだから!」

 

 その後も反航戦、T字有利不利な形で動いてくる的を撃破していった。次いで魚雷での指定も入る。段々当たらなくなる。清霜ならもっと少ない本数の魚雷で仕留められただろうに。

 

 『標的再度展開。反撃に注意せよ』

 「反撃!?」

 

 本当に次の標的は模擬弾を発射してきた。どこから形成されているかはもう突っ込まないが、翻弄されて被弾するのも癪なので必死に回避と攻撃を行う。ただ、焦ってきてしまう。大淀なら冷静に対処しきる場面だ。

 

 『標的再度展開。反撃に注意しつつ撃破判定が出るまで攻撃を加えて標的を撃破せよ』

 「今度は倒すの!?」

 

 体力ゲージなんてわかりやすいものはなくて。結構な速度で動いて反撃してくる的に対して必死に砲撃も魚雷も叩き込んでいく。反撃の激しさにビビってしまう。足柄なら勇敢に立ち向かうところなのに。

 

 「はーっ、はーっ、次は……!?」

 『砲撃及び航空機隊の攻撃を避けつつ目標地点に到達せよ』

 「!?」

 

 標的から艦載機が出現して一緒に狙ってくる。細かい動きで避ける余裕はなくなってしまっている。ここは速度を上げて蛇行して……!

 

 『試験終了。お疲れさまでした』

 「お、終わった……?」

 「お疲れ様なのです!とりあえず休憩にしましょう」

 

 なんとか終了まで漕ぎつけた。つ、疲れた。

 

 「後は福山司令官さんや参謀さん達が判定して、評点を付ける感じになるのです。しばらくかかるので、ゆっくり休みましょう」

 「え、ええ。分かったわ……」

 「ハードですよねアレ。電的には反撃してくる的相手は楽だったんですけど抵抗してこない的はやりにくかったのですけど、どうでした?」

 「いや、どれも大変だったけど……むしろ反撃された方が楽なの?」

 「電は、ですね。敵意に合わせて動けばいいので感覚で動けて楽なんですよね」

 「そういえば訓練校でもそんな感じだったわね」

 「覚えてたのですか!?」

 「半年程度前の話じゃない。忘れるには早いわよ」

 「他の子、しかも別の所属になったこの評価をちゃんと覚えている人は少ないと思うのですけど」

 「そうかしら?」

 「そういうとこですよ、霞ちゃん」

 「?」

 「まあ、その辺もしっかり評点で出てくるのでその時で。とりあえず、間宮さん行くのです!観光客の相手もするのでラインナップは余所に負けないのです!」

 「そ、そうなの?何頼もうかしら……」

 

 お昼がてら間宮というか食堂に案内してもらって――本当にラインナップがすごかった――休み、その後成績表を受け取って。その辺りで用事があるらしく電はどこかに行ってしまった。代わりに瑞鳳と羽黒と見たことのない赤城が来た。別の訓練校出身の同期らしい。

 

 「代打としてきたよー!」

 「霞ちゃん、お久しぶりです」

 「初めまして、赤城と申します。よろしくお願いしますね」

 「久しぶりね、二人共。赤城さんもよろしく」

 「同期ですし呼び捨てで構いませんよ」

 「わ、分かったわ、赤城」

 「ええ。……そちらが試験の成績表ですか?」

 「相変わらず迅速に書き上げるねあの人たち」

 「ど、どうでした?」

 「……総合評価が5,6。横須賀で受けたことのある奴より低いわね」

 「正直こっちのが難しいって話だからおかしくないんじゃない?」

 「私も横須賀のを受けさせてもらいましたけど、こちらのほうが難しいんですよね……」

 「確かここの評点は着任2年未満、駆逐艦での平均は4,8。2年以上は6,5。そう考えると悪くないのでは?」

 「え、でも結構うまくいかなかったような……?」

 「横須賀の反撃してこないでしょ?こっちのがおかしいんだよ」

 「どこが高かったのかとりあえず見てみません?」

 「そうですね。霞さんの精度の評価は……2年未満の平均やや上程度。むしろ良い方ですね」

 「バイタルの評価がちょっと低めだね?結構脈とかばっくばくじゃなかった?」

 「そ、そうね……びっくりしっぱなしだったわ」

 「適応速度が結構高いです!それに俯瞰能力の項目も高いですね!」

 「これ、どういうこと?」

 「なんだっけ?」

 「瑞鳳、適応速度は状況を理解してから対処に移るまでの速さ、俯瞰能力は自分の状況を正確に判断できるか、ですよ」

 「つまり、びっくりしても自分の状態を正しく判断してすぐに動ける、ってことですね!」

 「駆逐艦の人ってこの項目点数高かったっけ?」

 「総じて低いというか、そもそも着任2年未満は皆低いはず?私達も低かったし」

 「空母や隊長を務める艦は俯瞰能力高めですが……駆逐艦でここまでとは」

 「……すごいの?」

 「指揮艦としてすごいってことだね!」

 「そういえば霞ちゃん、訓練校時代も訓練になれるの早かったし、周りのフォローも早かったですよね」

 「私達も何度も助けられたもんねー」

 「あちらの鎮守府でも同様のことを?」

 「うまく当てられないし自信満々に反撃もできないしびっくりもしちゃう私が偉そうに言えたことじゃないのに気になるところはあれこれ言っちゃってたと思うけど……」

 「あー、だからかー」

 「ですねー」

 「瑞鳳?羽黒?」

 「朝霜ちゃんと清霜ちゃんともメール交換してたの。で、めっちゃ霞ちゃんのこと褒めてたの。すごい皆をよく見てて助けられてるんだー、霞ちゃんすごいんだー、って」

 「アレは、皆私のこともち上げすぎて……ホント……ホントに、ホントに……!」

 「お、落ち着いてください」

 「成程、自身の成績とそういう周囲を見る能力が見合っていないと思っていたから受け入れられなかった、というところなんですね」

 「うぅ……」

 「霞ちゃん、一応断っておくとね?この評価、すごい容赦がないというか厳しめに採点されるの。だから他所より低い点数になるのが普通なの。で、平均より明らかに高いところは霞ちゃんの評価高かったの。つまり、本当にそこがすごいってことなんだよ」

 「自信が、持てなくて」

 「中々重症ですね……」

 「そこは苦手なところをちゃーんと理解して、克服して自信に変えるのよ」

 「あ、陽炎さん」

 「不知火達が社長さんとにらめっこしてるから暇でこっち来ちゃった」

 「そういえば今は亜贄社長が来ているんでしたっけ」

 「加賀もそっちに行っていたはずですね」

 

 やってきたのは駆逐艦陽炎さん。多分艦歴は上なんだろう。

 

 「その成績表、私も一口噛んでたんだけどね。随分と得意不得意がはっきりしてるじゃない!」

 「え、えっと」

 「だから克服するところと伸ばすところが分かりやすくていいわ!訓練メニューも組みやすくてよかったわ!明日からの訓練、楽しみにしてなさい!」

 「あの」

 「それじゃーねー!私は不知火達にちょっかいかけてくるわ!」

 「えぇ……」

 「台風みたいな人だよね」

 「あの、今、福山司令達のところに行ったら怒られるんじゃ……?」

 「あ、黒潮さんが飛び蹴り入れましたね」

 「ねえ、アレ止めなくていいの?」

 「「いつも通りだから大丈夫」」

 「えぇ……」

 「えーと、あのどつき漫才が日常風景だし、あれでもうまいこと衝撃逃してるからピンピンしてるんです」

 「本当だ、もう立ち上がってる……」

 「あの人、すごい強いんだよ。今日だって演習相手で来た人たちをコテンパンにしてたし」

 「霞ちゃんが試験を受けている間、演習で私達の随伴駆逐艦として陽炎さんと黒潮さんが来てくれたんですけど、一発も被弾しなかったんです」

 「それが終わったらすぐ評点に参加して。活発ですよね」

 

 色々とすごい人らしい。

 

 「とりあえず訓練は明日からって話だし、どうしよっか?」

 「えーと」

 「ここの施設の説明って受けました?」

 「そういえばまだね。滞在する部屋と試験についてとここの間宮についてぐらいしか知らないわ」

 「では色々と案内しますね!」

 「ええ、お願いするわ」

 「おーい、なのです!」

 「あ、電ちゃん達が帰ってきたね」

 

 その日は各所の案内と、用事が終わって合流した電達との雑談などで終わった。確かに色々特殊な施設があるしやたら被攻撃対象という前提で構成された鎮守府だなぁ、と思うのだった。

 

 

 14:00 工廠

 

 

 「電、到着したのです」

 「揃いましたね。では、亜贄社長。よろしくお願いします」

 

 亜贄社長を呼んだ工廠には私こと江風、てーとく、卯月の姐さん、電、加賀、そして雷の姐さん。要するにエーテルの素養のある面子で集まっていた。

 

 「あまり新しい情報はないんだけどねぇ。とりあえず、電君も具現武装は使えるようになった、とのことだったね」

 「なのです!ランチャーで吹っ飛ばす感じになったのです!」

 「アタシも身体強化が多分それなんだって感じになったけど。合ってるか?」

 「具現武装、と呼ぶけど要はエーテルを使って何かしらの形に出力するということ。武装を出すのも身体能力の強化もその範疇と言えるから、間違っていないだろうね」

 「あの、私だけ……私だけまだ発現できないのはなにかあるんですか?」

 「雷お姉ちゃん……」

 「切欠次第だろう、としか僕は言えないね。エーテルを扱う素養が伸びてきた時、かつエーテルを出力して何かを為したいと明確にイメージ出来た時。そういう時に発現するものだから」

 「そう……なんですね……」

 「逆にもう発現している皆にも言えることだよ。一度発現したらそれ以外の効果が出ないとは限らない。人の心も必要なものも状況も都度都度変化するものだからね。私が提供したエーテル具現装置もそういう応用だよ」

 「総合技能試験で活用させていただいています。先程は……第50鎮守府から出向された霞さんに利用してもらいましたね」

 「あれのように、想像、妄想は無限大さ。だからここ一番でこんな力が欲しい!と願うことがあればきっと力が応えてくれるはずだよ。今まで発現しないということは逆に言えば発現する必要のある状況になかったとも言えるからね」

 「はい……」

 「雷、そこまで欲しいのか?エーテルの力が」

 「そうよ卯月。暁は北の姫と語り合った『タノシイウミ』の模索の為にヲ級を含めた艦娘深海棲艦合同の指揮や調整やら頑張ってる。前に進んでる。響だって情報の力で戦うために日々頑張ってる。余裕そうな顔を浮かべてるけどすごい努力家なのはよく知ってるわ。それに電も」

 「私もですか!?」

 「適性とかなんとか言われてきたけどずっと頑張ってきて、三人の中で具現武装の発現が一番遅かったのを気にしてたけどそれでも頑張って結実させたのはよく知ってるんだから」

 「そう言われると恥ずかしいのです」

 「けど、私にはそういうのがない。私にしかできない、私だからできること、そういうのがないの。私だけ……」

 「雷お姉ちゃん……」

 「つってもよ、お前のアフターケア能力は他所の鎮守府込みで誰にも劣らないんだぞ。知ってんのかっぴょん」

 「日々皆さんに厳しい訓練を課していると思いますが、それでも皆さんが食らいついてこれるのは雷さんのフォローあってだと思っています。違いますか?」

 「違わないっスね。あんまり人に甘えたことなんてなかったのに雷の姐さんには甘えてもいいかな、って思えるしそれで大分リフレッシュできてたし」

 「家庭環境が家庭環境だから癒しなんてないに等しかったのだけれど。甘えるって感情は悪くないって思えるようになったわ」

 「私もなのです!異常適正だから同じ暁型って感覚はないのですけど、それでもお姉ちゃんとして受け入れてくれて。私がこんなに甘えられる人、始めてなのですよ?」

 「皆……」

 「具現武装は、その名の通り戦闘時に発現しやすい。必要性と感情の昂りとが重なってくるからね。でも君は違うようだ。もしかしたら無意識にエーテルの能力が発現してアフターケアに活かせているのかもしれないね」

 「アタシの身体能力強化みたいなモノかっぴょん?」

 「そういうことだね。まあ、改めて自分のことを客観的に見直すのもいいかもしれないね。日々の思い込みは自由な発想の敵でもあるからね」

 「ってもなぁ。本格的に休暇でも取ってリフレッシュか?」

 「……あ」

 「どうしました?江風さん」

 「や、そういう客観的に評価してくれる第三者がいればいいンだよなって思って。そういうのすごい霞が得意だったよなって」

 「霞ちゃん、訓練校時代の私達のこともちゃーんと覚えてくれてました」

 「あの子本当に周囲に気を配れるわね。私には無理だわ」

 「加賀ちゃんはもう少し周りみる努力しましょう?」

 「それに霞の奴、そういう観察眼の強さと自分の力量の差に悩んでるらしくて。今回の出向もそういうこと?」

 「その通りです。他を見て欠点を改善させ、長所を伸ばす能力を高く評価されていましたが、本人はそれを受け入れられずに耐えきれなくなってしまったと。それで当鎮守府に出向し頭を冷やしつつ新たなものに触れることでその素養を強化したい。これが第50鎮守府司令からの依頼です」

 「試験見てましたけど、霞ちゃんって別にピンで動いても悪くないんですよね。突出していいかって言われるとそうでもないんですけど」

 「50で組んでる奴ってあの足柄と大淀だろ?あのコンビめっちゃつえーんだぞ、その冷静さと勇猛さの噛み合ったコンビの力は有名だぞ」

 「朝霜ちゃんと清霜ちゃんも、一芸に秀でてる感じなんですよね」

 「……そんな面子に混じっていたら自信もなくすわね」

 「その人たちの情報は知らないんだけど、同情するよ。私だって素質を見出されなければ……と思ったことがあるけど、そういう状況の様だ」

 「ってことは雷と似たような悩みってことだな」

 「……そうなのかしらね」

 「おめーも霞も自己評価しにくいところに秀でてるから自信が持てねぇだけで十分やれるってことだろ?ってことはアレだな。雷、明日から霞について行動しろ」

 「えっ!?」

 「メンタルケアが得意なお前がメンタル不安定な奴につくのは理に適ってるし、他人から見たお前がどういう感じなのかもそれで分かるだろ。一石二鳥だっぴょん」

 「いいですね。では、そのように明日以降のスケジュールを組むとしましょう」

 「梓司令まで!?」

 「具現武装回りの相談はもう大丈夫かな?」

 「大丈夫っスね」

 「では、亜贄社長。総合技能試験で使ってる標的装置のことでもう少し詰めたいのでご同行お願いしてもよろしいでしょうか」

 「勿論、喜んで」

 「アタシもそっちについていくぞっぴょん」

 「待って、私は」

 「雷は今日は休め?明日からがっつり霞についてもらうからな」

 「そうですね。明日からよろしくお願いします。貴方だから任せられる。それは理解して頂きます」

 「そ、う……」

 「ンじゃ、間宮行こうぜ間宮。腹減った」

 「江風ちゃんもしかしてお昼まだです?」

 「そ。帰ってきて報告書渡してさっきまで寝てたし」

 「霞もまだ間宮にいるみたいよ。赤城たちが一緒にいるみたい。合流しましょう」

 「雷お姉ちゃんも顔合わせってことでおやつの時間にしましょうです!」

 「そうね……」

 

 電が雷の姐さんの腕に抱き着いて引っ張っていく。電の奴が本気で懐いた人間なんて皆無だったのだ。悪意とかに反応できてしまうからそつなく付き合うことは出来るけど心から信頼することは出来ない。そういう意味では私達は初めての友達と言える存在だったし、そんな電に同じ事情もないのに懐かれるのは中々すごいことなのだけどやっぱり本人は自覚してないようだ。

 

 「ああいうの、天然のタラシって言うのかしらね」

 「なンか違くね?なんつーの、母性?」

 「雷さんが母親だったら……とか思ったことはあるわね」

 「加賀はその辺深刻だもんな……」

 「電には負けるけどね」

 「一番雷の姐さんのことで気をもんでるのアイツだもんなァ」

 「江風ちゃん、加賀ちゃん!置いていくのですよ?」

 「あーはいはい今行くから」

 

 そんなことを話しながら電達を追いかけ、霞達に合流するのだった。




 礼号組→れい・ごー→05→50+鎮守府=第50鎮守府です。
 霞、朝霜、清霜が訓練校を卒業するまでは足柄・大淀のコンビで優秀でしたが、そこに三人が加わりチームとして発足した状態です。
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