少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 霞ちゃん視点です。


27話 身バレ

 滞在2日目 10:00 第127鎮守府

 

 

 今日は訓練……という話だったのだが、観光で鎮守府を解放する日だったらしく訓練は明日に延期になっていた。私には雷さんがついてやっていく、という方針はそんな今日も明日も変わらないらしいけど。

 

 「もー!私のやる気を返してよー!」

 「スケジュール確認してなかった陽炎の落ち度やろ。何言うとんねん」

 「今日が出の全員で観光やるとは思わなかったんだもの。一部開放して後はいつも通り―って思ってたのに」

 「ウチらも観光初めてやからなぁ」

 「えっ?」

 「えっとね、霞。この人達先日合流したばっかりなの。艦娘としてはベテランなんだけどね」

 「えぇ……」

 

 陽炎さんと黒潮さん、福山司令官とも親しげだったがここに来て日が浅かったらしい。

 

 「なんやかんやあって不知火が司令やっとるここにお世話になることにしたんや」

 「不知火だけ放っておけないからね!」

 「まあ、そういうことなのよ」

 「元々お知り合いだったんですね」

 「だって姉妹だもの!」

 

 誇らしげに胸を張る陽炎さん。詳しい事情は知らないけれど本当に福山司令のことが好きなんだな、というのは分かる。呆れ気味の黒潮さんからも同様の感じがする。

 

 「そろそろいいかしら?今日は私達四人は担当部署はなし。あちこち歩いて回りつつお客さんに質問されたら答えていく遊撃担当よ」

 「この空気に慣れるようにって意図もあるんやろ?助かるわー」

 「四人で固まって移動するの?」

 「2ペアで動くわ。私と霞。陽炎と黒潮。なんかあったら無線飛ばせばすぐに響が教えてくれるから心配しないで」

 『響だよ。感度良好、いつでもどうぞ』

 「……こんな感じね」

 「分かったわ」

 「霞も、何か気になることがあったらどんどん聞いてちょうだい!まだ観光面は手探りだからいろんな視点からの意見が欲しいの」

 「分かりました」

 「……それと、今日もいるんだけど鎮守府の外にいる市民団体は気にしないで。観光の日だけ来るんだから厄介なんだけど」

 「そういや初めて見たわねあの人達。なんなの?」

 「軍事系のものにはとりあえずいちゃもんつけて回るような人達よ。妨害はするけど法には触れない程度に、って感じだからどうしようもないのよね。おかげで来る人達も委縮しちゃって嫌になっちゃうわ」

 「その辺無理矢理しばきあげられへんの?」

 「それこそ連中の思う壺よ。民間人に手をあげた!やっぱり野蛮で危険な連中だ!ってね」

 「そういえば艦娘になる前、駅前とかでそういう政治活動してる人達見たことあります」

 「その手の連中って認識でいいわ。まあ、本気でそう思ってるんじゃなくてどっかからお金が出てヤラセで動いてるんだろうけど」

 「難儀な話ねぇ」

 「そんなん相手に不知火が大人しくしてる気もしないんやけどな」

 「まあ、そういうことだから。気にせずやって頂戴」

 「「了解」」

 

 そうして散っていく私達。正直、解説なんて頼まれても出来ないんだけれど。そう思っていると、雷さんが一つ一つ丁寧に教えてくれた。

 

 「艦娘の子たちもあんまり知らないんだけどね。ここはこれで、あれは……大丈夫?ついてこれてる?」

 「大丈夫です」

 「勉強熱心な子で助かるわね!電達はもうちょっと時間かかってたし、加賀はまるで覚える気がなかったから」

 「加賀は……まあ、興味のないことにはやる気出さないからなぁ……」

 「横須賀の赤城さんに突っ込まれたときに恥かかないか?って言われたらすぐに覚える気になったんだけどね」

 「あはは、加賀らしい」

 

 横須賀の赤城さんが大好きなのは相変わらずらしい。そういえば、何回か会えてすごい嬉しかったとメールされたっけ。本当に加賀の文章か?というテンションで朝霜や清霜も笑っていたっけ。

 

 「……あら?あの子」

 「迷子ですかね?って雷さん?」

 「どうしたの君?大丈夫?」

 「お母さんが……いないの……」

 「安心して。すぐに見つけちゃうんだから。とりあえず分かりやすいところに移動しながら君とお母さんのお名前教えてもらえるかしら?」

 「うん……」

 

 行動が早い。子供の目線に合わせてしゃがみ、明るく元気づける。分かりやすいところ――入口付近の時計台がある広場――に移動しながら呼び出しを行っていた。その後すぐに母親が合流し、無事に引き渡すことができた。

 

 「娘をありがとうございます!」

 「ありがとう、お姉ちゃん」

 「今度ははぐれないように気を付けるのよ!それじゃ、鎮守府を楽しんでいってね!」

 「……手馴れていますね」

 「そう?あの子に不安な気持ちでいてほしくないなぁ、って思ってただけなんだけど」

 「あの短時間で不安を和らげて懐かせて、すごかったですよ」

 「そう言われると照れるわね。やれることやっただけなんだけど」

 

 本気でそう思っていそうな表情で言う雷さん。この人にとって今の行動は褒める程のことではないらしい。

 

 ――霞ちゃんすごいよ!

 ――だから、褒めるようなことじゃないってば!

 ――謙遜するなっての!

 

 「……あ」

 「どうしたの?」

 「いえ……ちょっと思い出すことがあっただけです。大丈夫です」

 

 ――霞ちゃんは謙虚過ぎるのです。もっと誇っていいのですよ?

 ――私、そんなんじゃ……

 ――同じようなことを雷お姉ちゃんが言ってるのです。なので明日から一緒に動いて、客観的に見るといいのです。雷お姉ちゃんは自慢の姉ですし、霞ちゃんも自慢の友達なのですよ!

 

 (私も、こう見えているのかしら、電)

 

 それからしばらくあちこちを回って。

 

 「ここの展示、色んな艦種の砲が並べてあるけど一般人には区別つかないんじゃない?もっと違う装備並べたほうが華があると思うわ」

 「レプリカというか、同じサイズで同じ重さで試しに艤装とか装備できるのあるといいんじゃない?ほら、消防署とかであるじゃないそういう体験」

 「なんで瑞鳳間宮の一角占拠して卵焼き販売してるの!?あ、美味しい」

 「この辺の歴史の展示、もっと華々しいのあった方がよくない?ほら、横須賀の那珂ちゃんさんのアレとか話題としていいんじゃない?」

 「見間違い?佐世保の長門さんがいる気がするんだけど……え、暇なの、よく来るの、そう……」

 「あ、猫だ可愛い……」

 

 思いついたことを言えと言われたのもあるけれど、ツッコミどころが多くてあれこれ言ってしまっていた。きつい言い方をしてしまうから自己嫌悪になるのだけれど、どの人も嬉しそうにしていた。何故。

 

 「霞、ホントこの短時間でよく気が付くわね。そこに改善案もガンガン出せるのは中々いないわよ!」

 「そうですか?見るからには何か言わなきゃな、って思って……もう出尽くした話かもって思うんですけど」

 「そんなことないわよ。それに、改めて問題提起されるってのも意味は大きいから。率直な意見でみんな助かってるの。段々慣れてきちゃって問題を問題と思わなくなったりもするからね」

 「成程……」

 「後はねぇ、さっき霞が言ってたけど、長門さんとかね。普通突っ込むレベルの相手なんだけど皆慣れちゃって。この鎮守府、刺激が強すぎて感覚が麻痺しちゃうの。だから指摘が助かるのよね」

 「いつもだったら慣れちゃいますよね……」

 「明日からやる訓練も同じ。だから、気になったこととかはどんどん聞いてね!」

 「はい!」

 

 そんな調子で、やっていけると思っていたんだ。

 

 

 11:30 鎮守府入り口付近

 

 

 「こんにちは艦娘さん!我々太陽テレビです!インタビューよろしいですか?」

 「えっ」

 「あー、生放送のテレビ局さんが入るって話だったわね。私は雷。この子はちょっとここに出張してきたばかりの子だから勘弁してあげて。ね、霞?」

 「あ、はい」

 「他の鎮守府との交流もしっかりやっているようですね!ところで――」

 「艦娘反対!」

 「「艦娘はんたーい!!」」

 「うわ、またやってる」

 「見ちゃだめよ」

 「インタビューするタイミングで音量上げてきたかぁ……」

 「……いよいよ煩くなってきたわね」

 「そうね……」

 

 鎮守府の外に陣取っているデモ隊がうるさくなってきた。テレビ局の人もお客さん達も顔をしかめている。というかあの人達拡声器を持ち出してきている。というか、向こうにもテレビ局のスタッフらしき人がいる。

 

 「子供を戦場に送るふざけた責任者は出てこい!」

 「「出てこい!!」」

 「はぁ。仕方ないですね」

 「ちょ、てーとく、待って!」

 「梓司令官!?」

 「福山司令官!?行くんですか!?」

 「適当に圧でもかけて追い払います。御心配なさらず」

 「てーとく、勘が言ってる。ヤバいって。……だから私も行く」

 「江風さん……分かりました。ただ、私より前には出ないでください。いいですね?」

 「りょーかい。霞、ちょっと行ってくるぜ。雷の姐さんもそんな心配そうな顔しないでって!大事にはさせないから!」

 

 そう言って福山司令官と江風が外に出てしまった。雷さんの様子がおかしい。すごい怖がっている。太陽テレビの人も困っている。

 

 「雷さん、大丈夫ですか?」

 「嫌、失いたくない……」

 「雷さん!?」

 

 ただならぬ様子だったので肩を掴んで揺さぶる。

 

 「ッ!……ごめんなさい、ちょっと不安で」

 「福山司令官って強いんですよね?江風だって色々潜り抜けて来たって話だし、大丈夫ですよ!」

 「そうね、そう、ね……」

 「雷、怖いなら下がっとけ。太陽テレビの人らもデモ隊の方映すならもうちょっと入り口から離れたほうがいい。なんか飛んで来たら危ないっぴょん」

 「卯月さん」

 「各員へ通達!客を入り口から遠ざけろ!連中が何するかわからねぇ!アタシと坂田班は入り口脇で待機、何かあったら梓たちの援護に回る!」

 『『了解!』』

 「雷も離れとけ、あの手合いを相手するのと深海棲艦を相手するのは使う精神力が違う。戦場では平気でもアレはしんどいぞっぴょん」

 「雷さん、私達も移動しま――」

 「艦娘の姿で来たぞ!俺達を撃つ気だ!!」

 「人殺し!」

 「いなくなれ!」

 「ッチ、始まったか」

 「何よあいつら、人殺しって……!」

 「えー、インタビューの予定を変更して127鎮守府提督さんとデモ隊の衝突の状況をお伝えします」

 

 私達は太陽テレビの人達と様子を窺うことにした。撮影用のカメラの望遠機能や収音装置で遠くからでも確認できるから。

 

 「変身解除。これで満足でしょうか」

 「女!?」

 「本当に基地司令なのか!?」

 「本物を出せ!」

 「変身解除。この人がウチの鎮守府の基地司令の福山提督だ事前調査ぐらいしておけよ」

 「生意気な……!」

 「待て、落ち着け。……君のような若い子を無理矢理戦場に送り出す鎮守府から救いに来たんだ!さあ、こちらへ!」

 「は?」

 「ッ!?」

 

 江風から殺気が噴き出る。思わず後ずさりするデモ隊。

 

 「艦娘って徴兵制じゃないんですけど?知らないんですか?私は、私達は!望んで!ここにいる!舐めんな!」

 「戦いを強いた記憶はありませんし、犠牲にならないように手を尽くし人々を守る。それが我々の役割ですが……なにか勘違いなされているのでは?」

 

 江風が切れて反論している。というか、そんな理論で来ていたのかあの人達。

 

 「雷さん、徴兵制をするほど戦局は悪いんですか?」

 「いえ、そんなことないわ。じゃなかったら気軽に辞められないもの。就職に有利とか経歴に箔をつけるために艦娘になる人だっているんだもの。そういう人はすぐ辞めるわ」

 「そういえば訓練校にもそういう目的で来てる子いたわね……」

 「人手不足ならそんなこと許しませんよね」

 

 艦娘は命を張る仕事だから、かなり給料がいいのだ。それに、再就職で有利になったりするし即解体でも改修用艤装を作成できたということで結構な額がもらえもする。その上で、大破ストッパーシステムや応急修理妖精などでかなり安全性が高まっているから言うほど死者が出ていないのが現在だ。……だからこそ、ここの鎮守府が去年壊滅したときは大騒ぎになったのだ。

 

 「証拠は掴んでいるんだ!本来なら高校生やってる子供に人殺しをさせたって!」

 「はあ」

 「何、アンタら深海棲艦は人だから人殺しって理論なの?さっきまで深海棲艦のことを怪物って呼んでウチに協力してくれてる人らを指して怪物を飼ってるだとか言ってたよな?」

 「タチバナアオイって子に人間の、研究所の職員を惨殺させたという情報が――」

 「誰から?」

 「なっ」

 「誰から、私が、人殺しをやったって聞いたって?」

 「な、君……が」

 「タチバナアオイって名前の奴がこの鎮守府に所属しているのを知っているのはここの仲間と敵対している深海棲艦とそれに協力しているテロリストだ。ああ、殺したよ。研究所の職員という名の艦娘を実験として殺そうとしてきたテロリスト集団をなァ?」

 「ひっ」

 「それに、勘違いしてねェか?アレは私が、立花蒼が志願して参加して私が、私の意思で私達を殺そうとしてきたテロリストを殺したんだ。誰にも強制されちゃいねぇ」

 「それは勘違いで……」

 「で、誰だよ。アンタらに私の名前を、そこでの戦闘情報をリークした奴は。テロリストに容赦する余裕はねェんだ。分かるか?好き勝手に人を殺して弄ろうとしているクソ野郎どもに手を貸しているのはアンタらで、つまりテロリストのお仲間扱いされてもおかしくねェんだって」

 「江風さん、私が言うべきこと全て言わないでください」

 「だっててーとくが黙ってるんだもん」

 「まあ、そうですね。……そういうわけですので、全員拘束させていただきます。我々の役割は守るべきものを守ること。その障害となるものを排除すること。基本的に深海棲艦が該当するので深海棲艦との戦いに終始していますが、同様の行為を行おうとするテロリストが居ればそれも対象になります。つまり役割の範囲内というわけですね」

 

 江風の本名がばらされてしまい、なおかつとんでもない情報が飛び出してきた。第二技研を潰したってそういうことなの!?

 

 「えーと、あの、アレは……」

 「……7月に人類に敵対行為を働いていた第二技術研究所を制圧したって話は知ってるかしら?」

 「あぁ、未然に犯罪を防いだって大本営発表があったいうあの!」

 「その件よ。その作戦の参加者にあの子がいたの。でも、それを知っているのはこの鎮守府の私達と指揮をした横須賀の鎮守府の一部と、後はやっつけられた研究所の関係者ね。そっちは全員死亡した、って聞いてたんだけど」

 「雷さんはそっちには行かなかったんですか?」

 「私は同時に要請があった海域で深海棲艦と戦っていたの。だから聞いた話だったけど生き残りがいたのかしら……?」

 「響だよ。生存者は確かにいなかったよ。ただ、制圧前に来た人員を研究所の連中が外部に伝えていた場合、『江風が作戦に参加していた』ことは分かっただろうね。それでも江風の本名は分からないはずだけど」

 「響!?」

 「そして、現在調査中の情報なんだけどね。その研究所と今、主に敵対している深海棲艦の勢力はね。繋がっているって情報があるんだ。そしてその深海棲艦勢力は江風の本名を知っている。彼らの発言で裏付け、とれたようだね」

 

 軽い口調だけど目が笑っていない響さんが混じってきた。その情報が本当だとしたら、ここの人達は何と戦っているのか。

 

 「人に害することを主目的とした深海棲艦勢力と手を組むことは明確な人類への裏切り行為だよ。定義するなら、テロリストということになるね。つまり彼らはテロリストに与えられた情報を元にデモを行っていた。ここまでで質問はあるかな?太陽テレビさん?」

 「つ、つまりあの人たちは反社会勢力と繋がっているということですか……!?」

 「端的に言えばそうなるね。だから拘束する必要があるわけだし、これは正当な行為だと主張させてもらうよ。ほら、ウチの憲兵隊が拘束しに行った。ついでに言うとね、艦娘の本名は機密事項なんだ。拡声器で堂々とばらすのは……重罪だよ?」

 「あっ」

 「梓の……福山梓司令官の名前が普通に明示されているから勘違いしたのかもしれないけど、あの子の名前は本来秘匿情報。知りたければしっかりと調べる必要があるね」

 

 声の温度がどんどん下がっていく。本気で怒っている。もしかしたら深海棲艦相手にするよりも殺気立っているかもしれない。それは、他の鎮守府の人達も同様だった。雷さんは不安が取り除けないような表情をしているけど。

 

 「う、うるさい!人殺しに加担させる方が重罪だ!俺達は正義の為に情報を開示したんだ!」

 「誰が頼んだんですかねェ?私の名前を知ったふざけた連中が私の実家や交友関係に手を出さないって確約できます?何のために名前は秘匿情報なのか知ってます?想像ぐらいできますよねェ?」

 「江風さんの実家の周囲には護衛要員を派遣させます。さて、全員膝をついて両手を上げろ。抵抗するならば攻撃も厭わない」

 「逃がさねぇぞっぴょん」

 「包囲完了だよ梓ちゃん」

 「ええ、では拘束を――」

 「お前が素直に俺たちに従っていれば全てうまくいったんだ!このクソガキが!」

 「ッ!」

 「江風さん!」

 

 デモ隊の一人が懐から銃を取り出し、江風に向けて発砲しようとして、福山司令官が身を挺してかばった。発砲音が響く。

 

 「福山司令官!?」

 「あ、ぁ……」

 「雷落ち着いて。梓なら大丈夫だから」

 

 福山司令官はふらついたもののしっかりと立っていた。そしてすごい殺気が広がる。

 

 「私の部下に手を出したな。貴様を殺す。抵抗を続けるものもすべて殺す」

 「ひっ……!」

 「捕まってたまるか!クソッ!」

 

 発砲した男は衝撃と恐怖で動けない人々をすり抜けて逃げ出していく。釣られて逃げようとしたデモ隊が撃たれる。

 

 「抵抗したらって言ったよなァ!」

 「逃げた奴を捕まえろ!銃を持たせたまま逃がすな!」

 「アイツ、私がやる。てーとく、大丈夫?」

 「……えぇ。ですが、油断なさらず」

 「変身。……任せて」

 

 艦娘に戻った江風が追いかけていった。すごい身のこなしで。

 

 「他に敵は!?」

 「響だよ。各種カメラを見ていたけど他にはいなさそうだよ。電、敵意は感じるかな?」

 「……大丈夫なのです。他には感じないのです」

 「では彼らを拘束、連行を。様子を見つつ通常業務に皆さん戻ってください」

 「梓、大丈夫か?」

 「深くは被弾していません。防弾性能をもった司令服のおかげですね。ご心配をおかけしました」

 

 撃たれたけど大丈夫だった、らしい。

 

 「続報が入ったら伝えるから、太陽テレビさんも元のインタビューか撤収かするといいよ」

 「そ、そうですね」

 「よ、かった。よかった……」

 「雷さん、大丈夫ですか!?」

 「ごめんね、去年の襲撃で皆死んじゃった時を思い出しちゃったの。それで、震えて」

 「雷、もうそういう人を出さないための今の127だよ。今回梓がかばったけど、かばわれなくても江風だったら避けて大丈夫だっただろうしね」

 「そう、ね。そうね……」

 「……大丈夫ですか?」

 「去年この鎮守府が襲撃されて壊滅したって事件は知っているかな?さっきまで話に出てきたテロリストっていうのは、そこにも関与している疑いがあるんだ。だからこそ、鎮守府の皆が警戒していたわけだね」

 「な、成程……」

 「それと、向こうにいて拘束されたテレビ局、どこの局か分かるかい?」

 「大手の××テレビ局ですね」

 「ありがとう。鎮守府組織としてどうしてテロリストと情報を共有していたのか問いたださなければいけなかったからね」

 「皆さんの戦いは、終わっていないんですね」

 「そういうことだよ。大規模な戦いは少なくなってきたけど、こういう戦いもまだ存在するんだ。その為に私達はいる。そんな奴らにこれ以上平和を脅かされないために戦う。まあ、他の鎮守府の人達はそういう戦いとは無縁だからこんな戦いに巻き込まれるかも、と心配する必要はないよ」

 「皆さんの決意、見させていただきました……!」

 

 それ以降は太陽テレビの人も予定通りのインタビューに戻っていった。

 

 「霞もお疲れ様。こういうことは滅多になかったんだけどね。本格的に広報を開始したからかな?起こってしまったようだけど次はないからね」

 「は、はい」

 「雷も休むといい。霞、悪いけど雷についててもらえるかな?」

 「……」

 「わ、分かりました!」

 

 それからは雷さんのフォローに回っていた。トラウマを刺激される形であんなことが起きてしまったのだから仕方ないだろう。もし自分が同じ立場になったら、と思ったときに気丈にふるまえるかというと自信がなかった。

 

 

 18:00 食堂

 

 

 夕食を取っていると江風が帰ってきた。

 

 「ただいまー、あー、クッソ疲れた」

 「あ、江風、大丈夫だった!?」

 「雷の姐さん大丈夫大丈夫。ホラ、完全に無傷っス」

 

 手をひらひらさせて余裕をアピールするが表情に疲れがにじんでいた。

 

 「どうなったの?」

 「あー、なんつーか。丁度いい時間だしテレビでやってるかな」

 

 そう言って食堂のテレビを弄る江風。昼に来ていた太陽テレビのニュース番組が始まるところだった。

 

 『本日のニュースです。本日11時、東京の第127鎮守府に対してデモ隊を装った集団によるテロが発生しました。民間人への被害はなく、鎮守府司令官が撃たれましたが軽傷。テロ集団は捕えられ、発砲し逃走した男は第127鎮守府と第1鎮守府の艦娘に800m先の廃倉庫に追い詰められ第1鎮守府の艦娘に殺害された模様です』

 

 「殺害!?」

 「そーゆーこと。追っかけてたら横須賀の深雪さんが合流してさ。そんで追い詰めたら深雪さんに撃ち殺されたンだわ」

 

 『発砲した犯人は指名手配中の指定暴力団組員の○○容疑者であることが明らかになりました。また、テロ集団の集会施設から銃器が発見され協力者の逮捕に鎮守府組織と公安が連携して動いているとのことです』

 

 「真っ黒じゃない……!」

 「デモ隊の参加者のほとんどは知らなかったみたいだけどな。まあ、物的証拠がゴロゴロ出て来てるからそっち方面が忙しくなるってさ」

 「そもそも指名手配犯が紛れ込んでるのに気づかなかった時点でもう駄目じゃない」

 「それなー」

 「そういえば坂田さんや桐ヶ谷さん達がバタバタと出かけて行ってましたけどこれだったのですね」

 「よお電。まあ、そういうことだなー」

 「……江風、何か隠してない?」

 「口外したらやべぇことになるけど喋らないでいられる?霞以外の鎮守府の面々にはちゃんと話すつもりではあるんだけどさ。お前に関しては任せるっててーとくに言われた」

 「……分かったわ」

 「ん。まず、デモ隊はマジでデモ隊としてしか動いてなかった。色々スポンサーがいたのも事実だし、マジで目の上のたんこぶだったのも事実だ。で、あの指名手配犯、結構前に横須賀に捕まってったンだわ」

 「えっ」

 「秘密裏に、ってなァ。で、横須賀の工作員が指名手配犯になりすましてデモ隊に潜入。色々と仕込みを行っていたンだわ」

 「発見された拳銃ってそういう」

 「そ。後はデモ隊の連中に過激になるように徐々に焚きつけていたンだってさ。自分が最初にやる勇気はなくても焚きつけられたらまあ大丈夫かみたいになるからさ」

 「成程……?」

 「で、工作員込みで今日のデモだ。繋がってたテレビ局の奴を生放送ってことで横につけて盛り上げて。で、てーとくに工作員が発砲して逃走。追い詰められたフリをした先に本物の指名手配犯を叩き込んで深雪さんが殺した。って寸法さ。で、横須賀の息のかかった面子で処理をしてそれを報道者に説明した。って流れだ」

 「自作自演じゃない……!アレ、でも狙われたのは江風だったはずよね?」

 「アドリブだってさ。てーとくなら反応できるだろうからって。まァ、かばわれなくても避けれたけどさ」

 「そういえばちゃんと回避行動とってたわねアンタ」

 「それによってちゃんと部下をかばえる基地司令ってスタンスを見せ、デモ隊をテロリストとして認識させて。後は根こそぎ潰していくって言ってたわ」

 「それじゃあ、今回の襲撃は予定されてたの?」

 「いつやるかは伝えられてなかったらしい。てーとくには過激派が実際に手を出す可能性があるからてーとく自身が対処するように、とだけ伝えられてたんだってさ」

 「だから江風の同行を止めなかったのね……」

 「卯月の姐さん達が警戒してたのも『過激派が実際に手を出す可能性があると判明した』って情報だけ渡されてたからだね。何かしら手を出されたら反撃する大義名分になるから」

 「成程ね……江風の個人情報の開示も計画のうちだったの?」

 「いや、工作員の人もそこは予定してなかったって。完全にデモ隊の暴走」

 「そうえいば発砲した人と本名叫んでた人は別だったものね」

 「私の実家回りに被害が出ないように関係各所にはもう動いてもらってる、というか敵に名前がバレてることが発覚した時点で手を回してもらってるから大丈夫だとは思うけどなー」

 「響だよ。ちょっと番組を回すよ」

 「んえ」

 『テロリスト殺害の尖兵として動いていた立花蒼さんはどんな人だったか生放送でインタビューを……』

 「うっへ」

 「ちゃんと江風の個人情報を開示しなかったのは太陽テレビとその他一部ぐらいだったね。他はスキャンダル扱いで嬉々として放送しているよ。デモ隊についていたテレビ局も何食わぬ顔で実名報道だよ」

 「大変じゃない!?」

 「勿論抗議というか公安に動いてもらう流れになっているけどね」

 『立花さん、いつかはやると思っていました』

 「アイツ好き放題言いやがって。厄介ごと起こして私に擦り付けてた癖によく言うぜ……!」

 『立花さんはいつも怖いところがあってぇー、余計なことばかりするんですよぉー』

 「やらかした挙句煽ってたのお前だろ……」

 「どんだけ地元で孤立してたのアンタ」

 『立花はー『先輩は悪い人じゃないです!!』えっ』

 「おい、あの馬鹿ッ」

 

 インタビューしているところに少女が割り込んで叫ぶ。

 

 『先輩は昔から悪いことなんてしてないじゃないですか!元々いろんな人を助ける為に泥を被ってそれで貴方達に好き放題に言われてたのに我慢して守って!今回だって悪いのはテロリストの人達じゃないですか!なんでそれをやっつけたのに悪い人みたいに言うんですか!おかしいじゃ――』

 『す、スタジオに返します!』

 『ちょっとー!?』

 「……あの子は?」

 「中学の後輩。あいつの祖母の姐さんを暴走車からかばってからあの一家にお世話になってたんだわ」

 「あー、中2の時に助けたお婆さんってやつですか」

 「そうそう。……いや、それどころじゃねぇ、アイツこれで孤立しねぇか?大丈夫か……!?」

 「先に心配するとこがそれなのね」

 「江風ちゃん苦労性ですからね……」

 「変身解除!クソ、電話を……おい、今のインタビュー見てたぞ!?私よりお前の身の心配をしろ!変な奴に絡まれるかもしれないんだぞ!?」

 『先輩!?大丈夫なんですか!?』

 「五体満足で無事だよ!それよりお前だよ!ただでさえ私と関わりあるからって白い目で見られてたのにこれ以上……!」

 『そもそも先輩を悪く言う人とはこっちが願い下げです!おばあちゃんを助けてくれた先輩を悪くいう人達なんて許せません!』

 「冷静になれ、私は慣れてんだよ」

 『私の問題です!おばあちゃんを助けてくれたこと、去年深海棲艦から町を守ってくれたこと、皆余計なことみたいな言い草じゃないですか!!』

 「まあ、そうだけど。とりあえず、なんかヤバそうな空気があったらすぐ110番して逃げろ、いいな!?お前に何かある方が私は嫌なんだからな!?約束しろよ!?」

 『はい!分かってます!そもそも私の家というかおばあちゃんがすごい人だからその辺は大丈夫です!防犯ブザーだって携帯式録音機だってあります!』

 「本当に大丈夫かよ……じゃねぇ、そもそも襲われないように注意しろって言ってんだ!」

 

 やいのやいのと先程の少女と言い合っている江風。本当に心配しているのが見て取れる。

 

 『先輩こそ、本当に大丈夫ですか?悪い人たちに命を狙われたりとか……』

 「もう狙われてる。けど、大丈夫だ。全部返り討ちにしてやるから。私も鎮守府の仲間達もつえーんだぞ?テロリストなんて一方的にやっつけられるんだから」

 『本当に大丈夫か、次の一般公開日に見させてもらいますからね!』

 「え、おい」

 『それじゃ!』

 「おい!おーい……あの馬鹿切りやがった」

 「慕われてるのね」

 「てーとく達にマジで護衛しっかりしてもらえるように頼んでくるわ」

 「私が伝えておくから君は食事をとりなよ。追跡からの事後処理のゴタゴタで疲れているんだろう?君の言うつえー仲間達に任せてほしいな」

 「……りょーかいっス。響の姐さん」

 「江風、貴方自身の心配もしなきゃ駄目よ?段々敵の皆が貴方に注目してきてる。それに対して突破し続けてるから、もっと注目されてる。今この鎮守府で一番危険なのは、貴方なのよ……!」

 「雷の姐さん」

 「お願い、死なないで。もう、死なないで……!」

 「確約するほど無責任じゃないンで確約なんてしませんけど。死ぬ気はないっスから。片っ端から、ンなモンぶち抜いて切り裂いてやるだけっスから。それに」

 「それに?」

 「頼りにしてるンですからね、この鎮守府の皆を。雷の姐さんだって当然含めて。皆でやりゃあ、大丈夫だって思ってますンで」

 「江風……」

 「霞も無理のない範囲で協力してくれよな!さしあたっては、明日からの訓練とかで色々指摘頼むぜ?お前の目には期待してっから」

 「わ、私も!?」

 「トーゼン。私らにはない視点持ってるなーってのは昨日今日のやりとりだけでも伝わったからさ。ま、思ったこと遠慮なくいってくれや」

 「分かった、わ」

 「ンじゃ飯飯!何喰うかねぇ」

 「卵焼き定食おまちどおさま!」

 「なんで勝手に作って持ってきてるんだ瑞鳳ォ!」

 「自信作なの!」

 「お前なァ……まあいいか。頂きまーす」

 

 騒がしく食事を始める江風。どこまでついていけるか分からないけども。頑張ろう。




 電「ところで江風ちゃん」
 江風「ンあ?」
 電「さっきの電話の子、こっちに来る口実に確かめに行くとか言ってた気がするのです」
 江風「やっぱり?」
 電「……関係者さん、たくさん来そうですね」
 江風「授業参観かよ……」
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