滞在3日目 演習海域
「それじゃ改めて、訓練行くわよ!」
「テンション高いな陽炎」
「当然ッ!」
「お、お手柔らかに……」
バタバタとした昨日を越して改めて訓練を行っていくことになった。陽炎さんのやる気がすごい。
「霞、しんどかったらちゃんと言うのよ?」
「いや、私だって色々訓練してきてますし大丈夫――」
「梓ー?やっちゃってー?」
『了解』
「ッ!!?」
突然体が重くなる、というか戦場の空気のソレになる。というかそれ以上じゃなかろうか。
「ちょっと福山司令官、最初は軽めにって言ったでしょー!?」
「これぐらいなら大丈夫でしょ?」
「余所の鎮守府とこの鎮守府の修羅場密度違うからね……?」
「言うても、なんややれるようやな」
「びっくりしましたけど、ふぅ……大丈夫、です」
「ふふ、やるじゃないの」
以前江風が言っていた。福山司令官の発する圧を使って実際の戦場以上の空気の中で訓練を行っていると。聞いた当時は意味が分からなかったが、実戦を経ていい経験をしたなと思っていたのだけど、ここまでとは。
「それじゃ、砲撃の訓練行くわよー。霞はー、っていうかまあ新人の皆そうなんだけど精度っていうか射撃の姿勢ね?そこの改善」
「姿勢ですか」
「足場の乱れとか回避運動とかに影響されずにちゃんと狙い続けられるようにするんやーってことやな」
「慣れしかないのよね、そこは」
「まあ、とりあえずお手本よ!よく見てなさい!」
言うや否や駆け出しながら次々と的に当てていく陽炎さん。言う通り、激しい動きをしつつ砲撃姿勢がほとんどブレていない。あ、足の動かし方も違う。
「お、足見とるん?足さばきも重要やね。せやないと体勢崩れてしまうからね」
「同時に覚えるのはきついから順々にやっていくといいわ。この辺はベテランでもずっと訓練するような内容だもの」
「はい、というかなんで私が足見てるってわかったんですか?」
「砲撃姿勢見てちょっとしてからまた驚いてたからなぁ。にしても気付くの早いわ」
「私も新人時代に似たような感じで教えてもらったことあるけど、そっちまで気付けなかったわね」
「ほんま強みやねぇ」
「けど、体がついてこれるかは別よ。焦らずやっていきなさい。付きあうから」
「はい!」
そんな調子で2日程訓練をこなしていった。逐一いいところと悪いところを確認して教えてもらえていた。……ベテラン3人が付きっきりになってしまったようだが大丈夫だろうか。
「あら、私達が付きっきりし過ぎで気にしてる?大丈夫よ、他の子たちもなんやかんやでやってるから」
「横須賀の面子がちょいちょい来て他の艦種の連中も鍛えられとるしなぁ」
「例外と言えば江風よね」
「江風が?」
「あの子なー、イレギュラー特性で駆逐の距離だと艤装妖精による命中補正が切れるらしくて精度が駄目駄目なんよ」
「だから完全に接近戦視線で鍛えてるのよね。その辺の先駆者の卯月や梓が実質専任な感じよ。後はそういうのに理解のある他所の超ベテランとか」
「へぇ……」
「気になるなら見て見る?丁度明日は普通に帰ってきて訓練する日やろ江風」
「今日はどこ行ってるんだっけ?」
「横須賀やねぇ。あの吹雪に鍛えられとるって話や」
「……参考になるの?アレ。多少の援護があるって言っても単騎で敵陣に突撃して片っ端からやっつけていく意味わかんない無双じゃない」
「単艦としてはまぁええんちゃう?艦隊としては……どうなんやろ」
「単騎で掻き回す前提の卯月も艦隊未満の面子で動く吹雪さんも隊列を組んでの運用は考えられてないのよね」
「どういう訓練してるの江風……」
私がここに来た日も朝帰りで演習に行っていたと言ってたけれど。どこを目指しているのだろうか。
18:00 執務室
「今日のレポートです、よろしくお願いします」
「はい、本日のレポートを受領しました。お疲れ様です、霞さん」
「お疲れ様なのです!」
「……ふむ、成程。陽炎姉さんたちをつけて正解の様で……ここはこう見えますか。成程……」
「そういえば霞ちゃん、慣れました?ここでの訓練、というか生活」
「まあ、ね。最初は圧にびっくりしたし訓練終わってからどっと疲れちゃったけど、気の配分というかそういうのにも慣れて来たわ」
「では、もう一段階圧を上げますか」
「福山司令官、今の段階でも普通の戦場+αですよね?どこまで上げる気なのです?」
「いつも通りに……」
「ネームド跋扈ないし特別海域最奥クラスじゃないですか!そこまでしなくていいのです!!」
「そうですか……」
「霞ちゃんが来て分かりましたけど福山司令官はやりすぎなのです!慣れましたけど!」
「メールで空気で吐いたって伝えられた時は何かと思ったけどそこまでやってたの……」
「霞さんはどうですか?その圧は」
「勘弁してください」
「そう、ですか」
なんで残念そうなんだろう。
「梓司令官はゴリゴリの戦闘民族なので基準がおかしいんです。気にしなくていいです」
「うっ」
「弥生さん容赦ないのです。まあ、実際問題常に特別海域の最奥部にひたすら単騎で殴りこんでたような経歴だから仕方ないんですけど」
「どんな状況……というか、あの、上官相手に言葉遣いというか、良いんですか?来た時も思いましたけど」
「むしろ司令官をクズクズ言わない霞の方が不思議、です」
「霞ちゃんって強く言いそうになってもその辺はしっかり抑えますよね」
「悪いと思ったら悪いって言っちゃうから抑えられてるのか不安なんだけど」
「色んな艦娘見てきた秋雲さんからだとー、かなり抑えてるねぇ。もっとはっちゃけてもいいんじゃない?」
「えぇ……」
「まあ、それは抜きにしてもウチの梓は名義的には最高責任者だけど実際の序列としては私らベテラン組と同格ぐらいの扱いなのよね」
「基地司令という名の戦闘要員、として存在していますからね私は」
「だからこそ参謀を招聘していますしね」
「そういえばあの参謀さんってどういう人なんですか?」
「実質基地司令としての助言を出せる人材、としか言えないんですよね。後は機密に機密が……第1鎮守府というより元帥に許可を得た上で引き下がれない深さに踏み込むのであればまあ開示して構いませんが」
「えっ、ならいいです」
「イレギュラーと機密の塊ですからねぇ、ここ……」
「そういう鎮守府形態じゃないと私とか死んでいましたから、必要ではあるんですけど」
「あ、弥生さんってあの第二技研から救出されたっていう……」
「よく知ってますね」
「そういうニュースとかはちゃんと調べておかないとどこかで苦労するなって思ってるので」
「霞ちゃんって秘書艦か何かだったのです?」
「いや、平艦娘よ。私みたいな新人がなんで秘書艦やれるのよ」
「霞ちゃんはすごいマメですねぇ……」
「そうなの?それでいいの?」
「もうちょっと各員に情報共有させるようにします。いいですよね梓司令官」
「そうですね。正直私達は響さんに任せすぎなところがありますからね」
「ここって特化型の人が多いんですよね。だからって感じですか?」
「そうですね……それに発足当初はやるべきことの量に人手が足りていなかったことに端を発した形ですね。いい機会です、是正をする頃合いですね」
「正直中核部分の誰かが倒れたら詰み、です」
「電達も事務業務覚えたほうがよさそうですね?」
「その方向で詰めますよ、梓司令官」
「そうですね……参謀を呼んできてください。私だけでは判断が厳しいです。電さん、霞さん。お二人は今日は下がって大丈夫です」
「了解なのです」
「わかりました」
「それと霞さん、切欠をありがとうございます。必要性は感じてはいましたがやれてはいたのでずるずると行くところでした。また、気になるところがあればお願いします」
「わ、私でよければ」
「霞ちゃん大活躍なのです」
「電ったら……!」
そんなこんなで執務室を離れながら雑談を続ける。
「こういうのもアレなんだけど、私の言葉で簡単に色々変えちゃっていいの?怖いんだけど」
「なんというか、今までやってこれたのでまだ大丈夫かなー、まだいけるなーって段々悪い意味で慣れてきちゃってたんですよね。人数が整ってきたのも最近でしたし」
「そういえば慢性的な人手不足って聞いてたわね」
「なのです。なので段々整ってきた段階で誰かが言わなきゃいけなかったんですけど、切欠っていうのがなかったんですよね。なんだかんだで忙しいですから。そういう意味で、渡りに船だったのです」
「成程……」
「霞ちゃんってあっちでもこういう感じで提案してたりしてます?」
「そう……そう、ね。と言っても改善案も出せないような状態でポンポンいうのもなぁって思ってたからあまり言ってなかったけど、『あっ、そういえば』って顔はされてた……わね、思い返すと」
「ウチもそうですけど、そちらの鎮守府も素直に受け入れてくれる上官でよかったのです。お互いに」
「まあ、普通新人のぱっとした思いつきなんて却下されるわよね」
「それこそなんとかなってるから大丈夫だろうってなっちゃいますしね。霞ちゃん、本格的にウチに所属しません?」
「いや、流石にそれは……」
「冗談なのです。そちらの鎮守府の話を話す時、大切なところなんだなって空気で喋ってるの見て無理に誘おうとは思わないのですよ」
「え、そんな顔してたの!?」
「顔も空気もそういう感じでした。私、そういうのには聡いのですよ」
「電はそういうとこ強いものね……うう、恥ずかしくなってきた」
(ウチに来て欲しいと思ったのは本当なのですけどねぇ。でも、無理に勧誘しようものなら朝霜ちゃんや清霜ちゃんにぶっ飛ばされかねませんね。私だってその立場だったらぶっ飛ばしに行きますもん)
滞在5日目 10:00 演習海域
「なんか久々だなァ、霞!」
「そうね。というかほとんど帰ってこなかったモノねアンタ」
「特殊訓練ばっかだったからなァ」
「江風、霞に貴方の動きを見せて欲しいの」
「雷の姐さん、私参考になります?」
「貴方実質別艦種じゃない。他の艦種と連携する前提の霞にはいい刺激になるわよ」
「ちなみに私もいます」
「加賀じゃない!この2日見なかったけどアンタもどこ行ってたの?」
「佐世保よ」
「また随分と遠いところに行ってたわね……」
「長門姉さんの所属だもの。そこで航空戦艦の戦い方とかを教わってたわ。定期的に行っているの」
「そういえば加賀の能力って航空戦艦寄りって話だったわね」
「瑞雲、扱いたいわね」
「それは染まり過ぎじゃない!?」
「具現武装で行けばワンチャンやれンじゃね?多分」
「私の具現武装は狙撃よ。無茶言わないで」
「具現武装……ってアンタたちのイレギュラー能力だっけ」
「厳密には違うけどまあそんな感じかな。それを組み合わせてまあどうにか普通の艦娘ぐらいに食いついてるっていうかトータルで平均行ってるっていうかなァ」
「けれど合わせにくいのよね、通常艦と」
「まあ、そこは仕方ないのです。……けど、それだけでもいけないので見直していこうって話になってるのですよ。というわけで霞ちゃんチェックなのです」
「それで私の動きを見せろってこと、ね。ンじゃ、江風、いっきまーすっと」
素早く江風が駆け出す。体勢は低く、けれど速力は高く。というか、武器を構えていないようだ。波を蹴り飛ばして跳ぶように移動しつつ波を盾にするようにして的に詰めていく。……もし模擬戦で単騎でやり合う場合、私が江風を止められるかと言えば無理だろうな、と思う。
「シッ、ハッ、そらっ!!」
「砲の狙いを合わせて、ない?」
「近いから、というよりアレは江風ちゃんのセンスですよね。あの近接距離に限り反応力がすごいことになるので構えをすっ飛ばして抜き打ちみたいに撃てる感じなのです」
「まあ、あの距離まで行って初めて体制整えて構えて撃ってなんてのんきなことしてたら蜂の巣だものね」
「さらに両手にそれぞれ砲を装備だから最大2人には牽制対応できる、といったところね」
「……それ以上は?」
「的を絞らせないように砲撃で足を止めずに動くしかないわね」
「そこが弱点というか難点といいますか。江風ちゃんの演習での生還率低めなんですよねぇ。集中砲火に耐えきれないのです。逆に集中砲火にさえならなければ全然やられないんですけどね」
「江風は格上とのタイマン重視で鍛えてるから、対応可能な人数相手には強いのよね」
「成程……」
そこを補うためなのだろう。三次元で動いて的を絞りにくくさせるように水面を強く蹴り空中へ跳び駆けまわる。跳びながら振り向きざまに当てるのはとんでもないと思う、けど確かに艦と艦の間隔を空けてその上で連携を取れば倒せないこともなさそうだ。……まあ、その間に他の艦からの攻撃にさらされるというリスクが生じるのだけど。
「艦隊で戦うなら江風は倒せなくはないけど江風だけ見てたら戦闘結果として負けるわね」
「なのです。実際、そういう感じで江風ちゃんは撃沈判定だけど艦隊としての勝ち、は多いのです。まあ、加えて味方が江風ちゃんを巻き込まないように撃つのが練度が必要なんですけど」
「同じような戦法っていう卯月さんとかはどう対応してるの?」
「あの人は自分ごと撃たせて避けきりますね。魚雷も斉射ならタイミングを言われれば飛び越えて自分だけ回避とか平然とやりますし。逆に言えば、その域までいってもらう必要が江風ちゃんにあるというかなんというか」
「福山提督の場合は……参考にできないわね。あの人、姫級戦艦の深海棲艦より硬いからって自分ごと撃たせて一人だけ平然とするタイプだから」
「どういうことなの……」
「艦娘の、というより提督の異能ね。先日撃たれたでしょう?テロリストに。でも平気だった。そういう感じで狙っても無駄だって示すことで『鎮守府は頭である提督の首を取ればいい』なんて輩の心を折りつつ牽制する、ってスタンスなの」
「今日も出てるけどこんな……いやもっとできるのよね?そんな圧垂れ流しつつ何されても平気ってもう悪夢とか災害の域ね。それはまあ頼りになるけど参考にならないわね……というかアレ防弾装備だから平気だったとかじゃなかったの……!?」
「格闘術の方は参考になる、ってことで江風はいろいろ教わっているのだけれど。私達は参考にできないわ」
「殴って斬りかかって蹴り飛ばして距離を取って射撃武器を叩き込む、って要求される格闘戦能力とパワーが大きすぎるのです」
「やれて戦艦ね。長門姉さんはなんだかんだで近しいことを出来るように頑張っているわ」
「他に参考にできるのが佐世保の長門さんぐらいって実質使えないわね……」
『タイプ4を出すよ』
「江風、了解!」
「タイプ4?」
「的の種類ね。耐久性もあって反撃もしてくる仮想敵の的。総合技能試験でやりあったでしょ?」
「あぁ、アレ……って一気に!?」
タイプ4、と呼ばれた的が5つ出現する。突然の1VS5になってしまった……のだが。
「遅ェ!」
回避しつつ1つの的に集中して砲撃を叩き込む江風。動きもその的が他の的の射線に入るようにして集中砲火を避ける形にしていた。その一方で、背後に回ってきた的の攻撃も平然と避けてしまっていた。
「後ろに目でもついてるの?」
「攻撃してくると言ってもパターンなのです。カテゴリD相当の」
「正直精度も練度も低い感じね。これ以上のものを作るのは技術が足りないって話よ」
「水音も出ているし落ち着いて冷静に対処すれば割と何とかなるのよ、アレ」
「あー、まあ確かに……って江風飛び掛かった!?」
「『シンフォニックブレイク』!」
「跳び蹴りして魚雷放って直撃させた……」
「シンフォニックドライブって技に魚雷の追加攻撃を合わせた江風ちゃんの必殺技なのです。最近正式に名前を付けたのです」
「魚雷の再装填に時間がかかるから連続して撃てないのが欠点なのよね」
「まあ魚雷って連射するモノじゃない……し?」
「……ッチ!掠った!」
「アレの問題は着地なのよね。そこに隙が出来るから相手が対応しきれない雑魚かそもそも相手が少ない状態じゃないと着地狩りされてアウトよ」
「やることが分かればどうにかなるものね……」
マントをうまく活用して最低限のダメージに抑えているが被弾そのものを回避するには至らないようだった。そしてその被弾で体勢の復帰に時間を食って更に狙われてしまうが、そこは転がるように飛び出して回避していた。
「現状はあの隙をどれだけ潰せるか、かしらね」
「連携としては蹴り込んだ瞬間に他の艦の攻撃を組み合わせて意識を逸らしたいところなのですけど、そもそもアレを撃ついいタイミングって他の味方の攻撃直後の敵が対応した瞬間なのですよね」
「それだと追撃が厳しいわね……同時に突っ込める前衛がもう1人か、連続して撃てるか……艦載機隊の攻撃タイミングをその前後で分割するとかかしら?」
「それも拡散して攻撃するのは難易度が高いわ。分散攻撃は空母艦娘が意識して各機をばらけさせないといけないから負担が大きすぎるの。しかも精度にも影響するから牽制にならないまであるわね」
「そもそも牽制担当が攻撃に転じるためにアタッカーが牽制未満になるのは……駄目ね、ちょうどいいタイミングがあったとしてもレアなケースね」
「連射できる武装、って意味だと電の具現武装のランチャーを連射すればまあって感じなのですけど、精度上げるには近づかないといけないので今度は私が危険になりすぎて駄目なのです」
「具現武装って連射できるの?」
「何と言いますか。具現武装ってこれ!って決まった武装じゃなくて、強くイメージしたモノがエーテルで生成されるような感じなのです。なので、そういう連射ができる武器ー!ってイメージすれば行ける感じですね。元々が連射が効くゲームのランチャーでしたので融通が利いてる感じなのです」
「イメージできるなら、本当に何でもアリよ。出来るならの話だけれど。私には射貫く以外のことを強くイメージできないから他のことが難しいの」
「ちなみに私も加賀ちゃんもあの江風ちゃんがやってることも、PSO2の技のイメージを反映させたものなのです。元ネタがあるとイメージしやすいですね」
「あー、あのゲームね。……ってことは、江風のはツインダガーの奴?」
「なのです。今は出してないですけど武器としての具現武装はツインダガーですし」
「武器を使った斬撃そのものは深海棲艦へのダメージ率が低くて運用に困ってるのよね。タイマンなら目潰しとか吹き飛ばしとかやりようはあるんだけれど」
「それ以外ならガンガン使えるのですけど、これ深海棲艦対策の訓練ですからねぇ……」
「成程……うーん」
「霞ちゃん?」
「ちょっと、なんかこう浮かびそうで浮かばないのよね。なんか惜しいなって感じがするの」
「浮かびそう、ですか」
「まあ、浮かんだらその時言うわ。それはそれとして、ああいう戦い方をするならもっと江風の動きに無駄がないようにしなきゃいけないのは分かったわ。タメが多いのよね」
「そうなんですよねぇ。そこは練習して何とかするしか」
「そうよねぇ。でも、私としてもそういう隙が危険、っての言うのは自身で見直していかないとね。一人であんなに囲まれる動きを前提にしたくないけどないとは言えないんだろうし」
「普通はなんとか囲みを抜けて味方に合流するとこですもんね」
「ただいまーっと。なんかあった?」
「江風が色々と惜しいってことぐらいね」
「ぶっちゃけすぎだろ加賀。まァ、そうだけどさァ」
『次は電、君だよ』
「はーい、なのです」
その後もそれぞれの戦い方と問題点を見ていくことになった。どの具現武装も強くイメージをする必要があるのか、攻撃前後の隙が大きいなと思ったし指摘をした。……それにしても、具現武装の話になると雷さんが一切口を挟まなかったけれどどうしたのだろうか。通常戦闘のできる艦娘としての意見も大事だと思うのだけれど。
19:00 食堂
あれからいろんな人の訓練を見つつ私も訓練を続け、夕食の時間になった。別艦種の人や深海棲艦の人達もいるここは参考になるものが多い。
「霞ちゃーん、霞ちゃん?」
「え、あ、何?」
「思い返すのもいいですけどご飯冷めちゃいますよ?」
「そうね。見たことのないモノが多すぎてそれで頭が一杯だったわ」
「一般的な戦術前提の動きだけだとどうしようもなくなりますからねぇ……」
「そこに合わせるために元々普通の戦術で戦ってきた人たちもいろいろ調整してるじゃない、そこが参考になったのよね」
「すげぇ細かいとこ見てんなァ」
「それで、昼間考えていた悩み事は解決したの?」
「まだなのよねぇ。こう、喉まで出かかってる感じはあるのよ。駆逐艦、牽制、足止め、妨害、こう、なんかそうじゃないこう、なんていうの?」
「霞にわからないなら私にもわからないわね」
「私も色々考えてきたつもりではあったけど、段々専用装備とか戦術とか出て来てからそれ伸ばす特化で考えてたからなァ。別のアプローチ、というか考え方かー」
「なんか面白そうな話してんじゃねぇかっぴょん」
「卯月の姐さん」
「聞こえた感じだと、江風の戦い方の改善か?」
「ええと、それもなんですけど電や加賀も含めた特殊な戦い方をする皆の力をもっと活かせないかな……ううん、違う。もっと自由に……?」
「こんな感じで悩み込んでいるのです」
「成程なぁ」
「そういえば、卯月さんって今の凄い回避力で戦う前ってどう工夫してたとかありますか?」
「今の戦術の確立前?」
「はい。そういうところも気になって。ほら、教導用の映像資料って基本に忠実でそれ以外ってないじゃないですか。だから他の戦術を確立するまでのアプローチってイメージしにくいなって」
「そういやあの手の映像、更新されてもやってること同じなんだよなー……あー、そうだそうだ。今は敵だけ狙ってヒット&アウェイしてんだけど昔は周囲の水面撃ってたっぴょん」
「水面?」
「目くらまし目的の水柱立てるためになー。まあ、12cm砲じゃ大してでかい水柱は出来ないからそんなに姿を隠せなかったし、音で牽制する程度にしかならなかったんだよなっぴょん。それぐらいなら周囲の連中の頭にでも一発くれてやる方が気を逸らしたりできるからそっちにシフトしていったけど」
「目くらましから足止めというか行動阻害……」
「スタンさせちゃえばそもそも狙われないですもんね。問題は砲だと連射に限りがあることですけど」
「それもあって機銃でやるようにしてたなぁ。要は当てて驚かせて結果止まればいいんだから」
「……あ」
「江風ちゃん?」
「いや、どうなんだろ。アレ、んー、射程とか発動タイムとか……」
「何かあるの?」
「霞ならいいかー。陰陽師とかの呪術使いってのが現代にもいてさ、横須賀をガッチリサポートしてたの知ってる?」
「水上を動ける異能者が艦娘をサポートしてたってアレ?」
「そうそう。あの人たちの本拠地でちょっと訓練してたんだわ。で、帰ってきたのが霞が来た時。東京にあってさ、ラス日は夜通しやっての朝帰りだったンだわ」
「あー、あの時の……というか実在したのね。アンタたちの具現武装見てきたんだから今更だけど」
「で、色んな術を使って訓練してくれたわけでさ。目的としては空戦込みの3次元近接格闘能力の強化だったンだけど」
「うん」
「あっちの人達、炎とか電気とか突然バーッて展開して壁作ったり防御したり誘導してきたりしてたンだよね」
「火遁の術!って感じなのです?」
「それ忍術じゃないの?」
「あの人達忍術も使ってたなァ……」
「稗田さんの参加してる団体か。まああそこなら何でもアリだわな。一回顔出したことがあるっぴょん」
「で、私が隙作るタイミングでスタンさせたり足止めできる即発動な術具とかねーかなって」
「足止め狙いなら艤装装備に頼る必要も薄いですもんね」
「……それ、具現武装ってやつで出来ない?」
「え?」
「具現武装ってなんでもアリなんでしょ?元ネタがあれば強くイメージしやすいってだけで」
「あー、まあ、そうだな」
パチ、パチと頭の中でパズルが完成していく音が聞こえる気がした。。
「出来れば実際に足止めというか思わず硬直しちゃう電撃とか出して、駄目でも見た目だけでも再現できれば虚を突けるし、そうよ。そもそも江風を『駆逐艦』として考える必要がないのよ。超近距離戦闘が得意で機敏に飛び跳ねて掻き回せる奴、でいいのよ」
「『駆逐艦』、が余計な要素だったのです……!?」
「そもそも駆逐艦の役割だって『砲雷撃戦』じゃないもの。大型艦の護衛、牽制、油断したところに直撃弾。それができる前衛。ここまで要素をばらせば良かったんだわ」
「そういや、変化球で水上艦相手に爆雷うまく使って攪乱する奴もいたっぴょん。アレの爆発はでかいから魚雷の直撃と一瞬勘違いするからな」
「そうですよね、爆雷もアリ……!この上で味方艦から見たら『敵の足を止めた』に違いはないからその後することも変わらない!連携が取れる!」
「そうね、やりにくいのは江風が粘着してそれに気を取られた相手から射貫いて爆撃していけばいいだけだものね。粘着した相手にはそのまま江風がシンフォニック決めればいいだけだもの」
「後は、そう、卯月さん!」
「お、おう?」
「あの空中をジャンプって江風にもできますか!?」
「出来ると思うっぴょん。安定しない水面を蹴るみたいに空気の塊蹴り飛ばして跳べばいいとか思ってやっただけだしイメージ出来ればやれるだろっぴょん」
「ってことで江風!」
「ちょっと整理させてくれよ、呪術を参考にした牽制に空中ジャンプで隙を減らす。どっちも実現できてるモノを参考にした具現武装……だよな?」
「具現武装に限らずすぐに発動できるなら実際にその術具ももらってくればいいのよ!使えるものはなんでも使えばいいと思うのよ!『普通はそんな選択肢がない』ってだけでアンタにはあるんだから!」
「目的のためには手段を問わないで結果をぶんどってやればいい……面白そうじゃン?」
「それに電!加賀!アンタたちもその要領でやれること増やせたりしない?」
「私の具現武装も『あの辺吹っ飛ばしてやりたい!』からでしたし、単純に考えた上ででそういう目的とイメージ元があれば出来なくもなさそうですね……?」
「これ、瑞鳳が前に言ってた『可愛い艦載機よ出ろ』、を実際にやってみろってことよね。そうね。この機に色々考えてみるのもよさそうね。一点全力狙撃の一芸だけだと限界はあるもの。というか、私だけ出来ないのはそれはそれで頭に来ますからやります」
「なんならアタシももうちょい活かせるかもしれねぇなっぴょん。ってなると相談先は梓だな」
「福山司令官ですか?」
「艦娘の戦い方に寄らない戦法戦術武器発想の引き出しはここじゃアイツが一番だっぴょん。そもそも艦娘になる前からそれで戦ってきたわけだし」
「あー、確かに。てーとくって普段剣ばっかだけど他のも一通り使えるンだっけ」
「第三世代、ってやつでしたよね」
「それなら――」
どんどん盛り上がっていく皆。福山司令官の前歴は知らないからどんな案が飛び出してくるかは分からないけどそれで今まで以上にやれることが増えれば戦いやすくなるかもしれない。
「ありがとな霞!なんか見えてきた!」
「私こそ、通常艦隊の皆でも活かせる戦術がまだまだあるかも、って見えてきたわ!」
「霞ちゃんの強み、ですね!」
「そうね、これが、そうなのね」
「ふっきれた顔をしているわね、霞」
その後、私の発案を元に具現武装の訓練をしたり。
「そうですね、武器で切り払う場合はフォトンやエーテルに『今から触れるモノを切り払う』という想いを武器に伝えた上でこう、切り払います。これがジャストガードという技術ですね」
「てーとく、衝撃波出すのもそういう感じ?」
「そうですね、同じです。その中でも扱いやすく効果的であるとみなされた戦闘技術の再現、それをフォトンアーツと呼称していますので同じ要領であれらの動きも理論上は再現が可能です。エーテルは想いを現実に、対象に伝えてやるという感覚の方が適切かもしませんね」
「実際の技術でも架空の技術でも思い付きでもそれが出来ればって話なのね」
「瑞鳳ちゃんのアレが頭の柔軟体操としてホント丁度よさそうなのです」
「えっ、ホントにやれるの!?とびっきり可愛いのお願いね!」
(瑞鳳ちゃんと他の皆の『可愛い艦載機』の基準、ずれたりしてそうだなぁ。それはそれで面白そうだから黙ってよう)
私も負けじと基礎訓練をしたりして。
「霞、いい?あなたの動きをドローンで記録してたんだけど、ここ、崩れてるでしょ?ここ意識して今回やっていくわよ!」
「了解です!それと質問なんですけど――」
「なんか皆やる気出しとるけどなんかあったん?」
「霞の頑張りに皆と霞自身が応えた、ってところね。……私も頑張らないと」
「気ィ張りすぎるんやないで、雷」
まだ自信を持って戦うことは出来ないかもしれないけれど。仲間をより活かすことをもっとできるかもしれない。それでもっと皆の力を引き出すことが出来れば。もっと、可能性を知りたい。選択肢を広げたい。そして、その中に私も加わりたい。明日も、訓練も何もかも頑張ろう。そう思うのだった。
「私らがこういう感じでやっていけるなら、海の奴も何かできてもおかしくなさそうだなァ」
「今度呼び寄せて一緒に特訓したいですね」
「……その海風だけど、最近連絡しても反応が悪いのよね。きつい作戦でも続いているのかしら」
「そういえば、海風の配属された128って127と同期で近いのよね?演習とかしたんでしょ?どんなとこだったの?」
「それが演習受けてくれたことがないンだよなァ。ウチがガッツリ人間の悪党とぶつかってるから余波を避けるために極力接触しない方向かもしれない、って響の姐さんが言ってたけど」
「旧127は色々挑戦するタイプ、128は堅実に行くタイプでスタンスは違えど良いライバル関係だった、って話も聞いたのです」
「第二技研は潰したんだからそろそろ連携の再開をしてくれてもいいと思うのだけれど。アレ以降、同じく同期の129は旧130攻略に力を貸してくれているし。防衛戦力に撃退されているけれど」
「ここらでもう一回演習申し込んでもらってみるかねェ。というかあの騒がしい声が懐かしくなってきた。鬱陶しく思ってたンだけどなァ」
「江風ちゃんってなんだかんだ言って海風ちゃんのこと大好きですよね」
「ダチとしてな?イレギュラー同士で姉妹って感情なんてねェし」
「そのおかげでよく喧嘩して私達を振り回してくれたけどね」
「そういえば私も仲裁に入って海風に霞ママー、なんて何度も言われたわね」
「海がお前をママ呼びするのは私関係なかった気がするンだけど!?後何度も巻き込んで正直済まんかった!」
……そうしてやっていけると思ったけれど。127を狙う悪意というのはそれを許してくれなかったのだ。
「かわ、かぜ、かわかぜ、江風、江風、江風……。私が、お姉ちゃんが、助けに、助けに行くからね……」
加賀「ところで、第三世代ってなんだったかしら」
電「適性クラスが決まっていない、融通が利くようになったアークスの世代なのです。設定的には私達がプレイするキャラとしてのアークスも第三世代なのです。実際に向いているかは別として」
江風「それ以前の世代の人が無理に他クラスの真似事やっても全然うまくいかないんだっけ」
梓(第二世代のエコー先輩がハンターをする際は苦労していましたね……)