2027年4月上旬 13:00 第127鎮守府 屋外
鎮守府配属からいくらか経って。復帰組は各業務に組み込まれ、私達新人組はトレーニングの日々を行っていた。実戦はまだである。
「さーて、昼休憩は済んだかルーキー共!」
「「はい!」」
「一つ言っておく。昼飯前にも言ったが、吐く覚悟はしておけ」
昼休憩前から教官担当の天龍さんに不穏なことを言われていた。訓練のギアを上げる。早々にへばっても吐いても仕方ないが、最終的に慣れるように、と。
「訓練校時代から一通りの訓練してきたし、かるい演習もやってきたよね?」
「天龍さんや卯月さん相手にだけど、色々やってきましたよね。金剛さんとか出てくるんでしょうか」
「赤城さんが出てくるかもしれません」
「ないと思いますよ?」
「……」
瑞鳳達が言う通り、訓練校時代から基礎練習は色々とこなしてきたし、その延長の演習含め色々やってきた。余所でやってる海風とか霞に聞くと、訓練重視で内容は余所に比べ重めの様だった。ちなみに、海風はもう実戦をやったらしい。
……なのだが、すごく嫌な予感というか、本能が叫ぶ。ヤバイ、と。
「江風ちゃんなんか冷や汗ヤバくないですか」
「本当に警戒した方がよさそうね」
「江風の直感、そこまでやばいんだ……?」
「でも、確かに尋常じゃないような……」
答える余裕がない。
「ハハハ、その直感、合ってるぜ。じゃあ、午前と同じ基礎練やっていくぞ。『戦場以上の空気』の中でな」
天龍さんがそういった直後。体が重くなる。恐怖で喉がカラカラになる。この感覚は、いつ以来か。艦娘になる前から鉄火場をいくらか潜り抜けてきた私でも余裕がなくなるのだ。他は。
「ひっ!?」
「ぐっ!?」
「あぇっ」
「うぅ……」
一気に崩壊する新人組。何が起きているというのだろうか。
「いいか、これが戦場、特にヤベェ奴がいる時の空気だ。いくら練習積もうが、この殺気に当てられて動けなくなって初手やられちまうやつだって少なくねぇんだ」
この空気の中を平然と歩く天龍さんが続ける。
「逆に言えば、だ。これに慣れちまえば本物の戦場だって動ける。やばいやつの空気を知っておけば無謀に立ち向かおうという選択肢を外すことができる。だから、慣れろ」
天龍さんの声は笑っているが目が笑っていない。
「これでも抑えめにしてる。これを乗り切れないなら、艦娘をやるのは諦めな。それでも、と思うなら、進め。一歩でも、少しでも。できれば、合格だ。どうだ?まあ、今回でクリアできなくてもいいけどな」
思い出す。艦娘になる切欠の日を。砲身を向けられる恐ろしさを。それを消し飛ばした『奴』のことを。その後のことを。
「ま、け、る、かァ……!!」
やることは鎮守府前の敷地をランニングすること。体力作りの基礎だ。確かにこの中で動けなきゃスタミナも意味がないだろう。この中で発揮できるスタミナこそが実戦で役に立つのだろう。
「頭に来ました。江風に負けていられません」
「私だってやってやる……!もうなのですとか言ってられない……!」
「私だって、落ちこぼれ扱いなんてもう嫌なんだもん……!」
「怖い、けど、やるんです……!」
皆も少しずつ動き出す。異常適正だの成績不良だのと散々擦られてきたのだ。畜生、見返してやる。という精神は皆持っているのだ。
それから気付いたら気を失っていた。他の面子も吐いたり気絶したりしていたらしい。
「正直、ここまで動けるなんて思っていなかったぜ。これは期待できそうだ」
楽しそうに介抱しながら天龍さんは笑う。30分ぐらいは頑張っていた、とのことだった。
「ぶっちゃけ、動けた今だから言うけどな。そこらの実戦よりよぉーっぽどヤベェ圧だったからな、さっきの。これが大丈夫なら鬼級が出る実戦も余裕だ余裕」
「「は……?」」
一気にハードル上げすぎでは?と思うのと体から力が抜け、しばらくぼそぼそと恨み節をぼやくことしかできない私達新人組だった。
15:00 鎮守府司令室
「憲兵隊の子たちもちょこちょこ脱落してたよ、梓ァ。範囲もっと狭めてね、次」
「響だよ。期待以上の反応をしてくれた新人達の新しい訓練メニューの提案だよ。その書類群より先に処理してほしいな」
「了解です。憲兵隊の皆さんも、この程度では軽口を叩く程度でいて欲しいのですが」
「初手から無茶いいなさんな。復帰組の皆は大丈夫だったよ。まあ、『北の姫』の連中相手にしてきたんだ。これぐらいはね」
「暁から今の鎮守府全体に広がった殺気の説明を求む、ってクレーム上がってきたよ。というかこっち来るよ」
「どういえば納得してもらえるのでしょうか」
「訓練メニューだって素直に言って、対象選別できる練習兼ねてやっていくんだね。梓」
「異常適正の3人はその特性、成績不良の2人は習熟速度や度胸不足がその成績の原因だったようデスが、これなら大丈夫そうデスネ」
「それでも戦力不足なのがアレだけどねぇ」
「基地航空隊の編成も完了しましたから、当座はこれらで凌いでいきます。皆さんには負担をかけますが、辛抱を」
「覚悟の上だよ」
「響に同じ」
「サポートは最大限横須賀から行いマス」
「暁、入るわよ!なんなのよ今の殺気は!卯月はこの程度でダメになるのか?とか柄にもなく煽ってくるし!」
私達への『圧』をかけていた福山提督と執務を行う人達がもっとハードな方向に訓練メニューを調整しているのを知るのは、その後だった。少しは加減してほしい。