少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 霞・海風メインの話後編。
 福山不知火の動きはPSO2のエネミー登場シーンやEP1から登場する方の【仮面】の動きをイメージしてくれれば。耐性・弱点もそれに準じます。


30話 お姉ちゃん、奮闘する

 滞在9日目 14:10 第127鎮守府

 

 

 無線で第128鎮守府のゴタゴタが片付いたことを聞きつつ、私と江風達は海風との会話を続けていた。

 

 「海?頭痛、大丈夫か?」

 「うん、ありがとう江風。だいぶ楽になったよ」

 「この後演習だけど、大丈夫?しんどいなら別の日に回してもらってもいいんじゃない?」

 「それは駄目、駄目だよ霞ちゃん。私は、ちゃんと、やりきらないと……!」

 「アンタホント、負けず嫌いというか、根性据わってるわよね」

 「アレだろ、彼氏との馴れ初めもそんなんだったンだろ」

 「……彼氏!?海風にいるの!?」

 「え、あ、いな、いる……うぅ」

 

 【カァー!カァー!!】

 

 「一段と煩くなりやがったなあのクソ烏」

 「えっと、なんで、忘れてたんだろう私……」

 「詳しく聞かせてもらえる?外部との連中との恋バナなんてほとんど聞いたことないし」

 「はい皆さん、お茶が入りましたよ。リラックス効果のあるハーブティーです。頭痛にも効くでしょう」

 「あ、姐さん」

 「海風もこれ飲んでリラックスしなさいな」

 「わくわく」

 「どきどき」

 「友永、保科お前ら……」

 「気になる年ごろでしょ、私も、アンタも、この子たちも」

 「いくつになっても興味は尽きないものですよ」

 「あぅぅ」

 

 おそらく、洗脳だかをしている存在にとって完全なイレギュラーだったのだろう。カラスが鳴いても制御しきれていないようだ。通常、訓練校に通う時点でそれまでの過去とはある程度切り離すようなもので、なおさら恋愛事情をそのまま持ってくるなんて想定していなかったのだろう。恋人や婚姻関係を続けている上で艦娘になるような人間は大体すぐ辞めてしまうか艤装提供の短期がほとんどで、艦娘になるのを気に関係を清算する話の方がよく聞くものだった。

 

 「えと、えーとね、最初はただのクラスメイトで、彼は……スポーツも出来て、人も良くて、クラスの人気者。私は、そんなに明るくなれなくて馴染めなかった。1年生の頃は何にもなかったんだけど、かっこいいな、とは思ってて」

 「中学からの知り合い、ってワケね」

 「うん。それで、体育でテストやるでしょ、身体測定みたいなやつ」

 「あー、走ったり投げたりするアレ」

 「私真面目にやったことないです」

 「頑張りましたけど中くらいでした!」

 「友永お前一回は真面目にやっとけ?自分の状態知るの結構大事だぞオイ」

 「それで?それがどうしたの?」

 「うん、シャトルランだったんですけど。男女混合でまとめてやって」

 「雑な学校だなオイ!」

 「それでね。やり方は1年生の時に覚えて。2年生の時に、最後まで頑張りたいって思ったの。だから、周りの声が聞こえなくなるまで頑張って、私と彼の二人以外皆脱落して。最後倒れちゃったんだけど」

 「頑張り過ぎでしょ!?」

 「むしろ止めろよ周囲」

 「周囲から浮いてたから。私、倒れた時に周りから邪魔だ、とか見栄張って、とか言われたの」

 「クソか?」

 「クズね」

 「そんな中で、最後まで走ってた彼がね、『藤堂は頑張って走り切ったのに悪く言うんじゃない!』って言ってくれたの」

 「藤堂……あー、海の本名か」

 「うん。それからね、気にかけてくれるようになってね。周囲からも守ってくれるようになって。それで、2年生の終わりに一度決めたら諦めずに頑張る君が好きだ、って言ってくれてね」

 「いい話じゃない。それに、そういうド根性みせるとこ、『海風』よねぇ」

 「史実艦の方も軽巡神通と24時間鬼訓練に付き合いきったんだっけ?心折れるって普通。まァ、だからこそ『海風』が藤堂を選んだ、ンだろうなァ」

 「イレギュラー艦娘も、いやだからこそそういう『なにかの共通項』が強烈になりがち、なんだっけね」

 「で、現在も付き合いが続いて……って待て、海、お前最近連絡したか……!?」

 「する余裕が……それに、なんで思いつかなかったんだ、ろ……」

 

 【カァー!!!】

 

 「うっせぇ!!」

 「そう、私は、江風を取り戻すために全力でいなくちゃいけなく……うぅ……」

 「これ終わったら、ちゃんと連絡取りなさいよ?全部話すわけには……いかないかもしれないけど友人が友人の為に頑張って彼氏に振られたとか目覚めが悪いったら!」

 「うん、頑張る……!」

 「それじゃ、時間も近づいてきたし、改めてあの不知火司令官の攻略方法を見直すわよ!」

 「霞ちゃん?」

 「霞?」

 「江風も協力しなさい。ここしばらく、私はあの人の実力を見る機会が色々あったの。その戦闘スタイルとかとアンタのその根性ならね……」

 

 無線越しに響さんから海風を勝たせるつもりで奮起させてくれ、と言われていたのだ。本気で勝ちに行けるように助言してもいいだろう。

 

 

 15:00 第127鎮守府

 

 

 『さぁーいよいよやってまいりましたぁ、大事な妹を取り戻すために駆け付けたお姉ちゃん海風VSゥ、悪の司令官不知火の一騎打ちだ~!!』

 

 演習の時間がとうとうやってきた。海風は既に演習海域の所定の場所に陣取っている。

 

 『解説はこの卯月!』

 『実況は秋雲さんで行くからよろしくぅ!!そしてこちらが景品の江風!』

 『ご丁寧に檻に入れられた―ッ!!?』

 

 大音量で中継がなされる。表向きに合わせてお祭りイベントとしてやっていくつもりのようだ。演出なのだろうが、ご丁寧に江風が檻に入れられ首輪に手錠まで付けられ『囚われの身』感を出している。

 

 「海風、聞こえる?」

 『うん、聞こえるよ霞ちゃん』

 「落ち着いて頑張りなさい、アンタにだって勝ち目はあるはずなんだから」

 『うん、頑張る……!』

 

 今回の演習にあたって、私が通信でサポートすることが許可されていた。ハンデ半分、暴走対策半分なのだろう。どちらにせよ、私がやることは海風を勝利に導くことだけだ。

 

 『こちら加賀、配置につきました』

 『こちら情報部妖精、エラー猫各員配置についてカラスの位置も固定してるよー!……響さん早く帰ってきてぇー!!』

 『艦娘母艦から響だよ。帰還中だけど間に合わないから任せるよ』

 『情報部妖精さんとしては情報部要員の増員を要望するぅー!!』

 『工廠妖精としても工廠要員もっと欲しいでーす!明石級と言わず夕張でも秋津洲でもいいから着任はよ!』

 『秘書艦弥生です。現状無理なので諦めてください。それと、煩いです』

 『『すみませんでした』』

 「自由ねホント……というか、福山司令官は?」

 『さぁ、演習開始でーす!』

 

 秋雲さんの宣言と共に何かが演習海域に跳んでくる。派手な水しぶきを立てて着水したそれは、ゆらりと大剣を構えて――

 

 『ーーーーーーッ!!!』

 

 咆哮を上げる艦娘不知火こと福山司令官だった。いや、これは悪役ムーブというより怪物ムーブではないだろうか。

 

 『ッ、砲撃、開始します!』

 「う、海風!勢いに呑まれちゃだめよ!あっちは多分そういう作戦なんだから!」

 『う、うん!』

 『!』

 

 牽制として海風が主砲をいくつか発射する。うち1発が福山司令官の方へ迫る。けれど福山司令官はそれを剣で弾いてしまう。

 

 『オォォ!』

 『ひっ……!』

 『カウンターが海風に迫るが海風これを回避!』

 『お互い牽制と言ったところっぴょん』

 

 どこの艦娘が牽制で衝撃波をお返しにぶちかますのか。深海棲艦でもそんな奴はいないとは思うのだが。

 

 「ああもうどこから突っ込めばいいのかしら……!」

 『主砲だと防がれる……なら!』

 「海風!距離は詰めすぎちゃだめよ!一気に踏み込まれるわ!」

 『分かった、なら、ここで!!』

 

 少し距離を詰める海風。それに反応して大剣を構えて突撃する福山司令官。その手前に海風は主砲を一発放つ。

 

 『この程度ッ!』

 『今です、『ゾンディール』!』

 『!!?』

 

 海風の異能は、魔法。PSO2でいうところのテクニックだ。その上でPSO2の多種多様なテクニックという再現の参考資料が大量にあるわけで。海風は今回主砲の弾丸をタリスに見立て、それを基軸に敵を吸引・足止めするゾンディールというテクニックを発動して見せたのだ。

 

 『しまっ、動けなっ』

 『この距離なら外しません!魚雷全砲門開け!いっけぇ!!』

 『!!』

 『おぉーっと不知火の足が止まって魚雷が直撃したぁ!』

 『姿勢制御も難しそうで防御なんてもってのほか、みたいだなっぴょん』

 

 派手にぶちあがる水柱。普通の艦娘ならこれで戦闘不能だろう。深海棲艦だって姫級でなければこれで決着だろう。……普通、ならば。

 

 『成程。そういう手で来ましたか』

 『っ、効いて、ない……!?』

 『効きましたよ。逆に言えば、効いただけ。とも言えますが』

 

 悪夢か何かか。福山司令官のコンセプトがそういうモノ(どうあがいても倒せない総大将)であるのは知っているが。

 

 「海風、落ち着くまで回避に専念!来るわよ!」

 『!!』

 『今度はこちらからです』

 

 踏み込み、海面ごと大剣で叩き割り、その回避方向に主砲を冷徹に叩き込む。反応が遅れていれば剣戟に反応できたとしても主砲の手痛い直撃を喰らう形になる。

 

 『回避に専念すれば――』

 『ならば、ギアを上げますか』

 『なっ!?』

 

 それぞれの速度、そして威圧を一段階引き上げる福山司令官。こんなものと常時訓練していればそれは何が相手でも恐怖で畏縮しない度胸もつくだろう。が、海風はそういう想定で訓練をしてきていない。早めに状況を変える必要がある。

 

 『これはまたギアを引き上げても良さそうですね』

 『ッ、まだ!?』

 「何か……うん、でもやってることは同じで……海風!何か迎撃用の手段持ってないかしら!?」

 『迎撃?……なら!ここで!『ナ・グランツ』!!』

 『がっ!!?』

 

 海風が退避した地点に光のフィールドが発生する。誘い込まれる形で踏み込んだ福山司令官がダメージを受ける。そして何か様子が変わった。

 

 『ぐっ、視界が……そこかっ!!』

 『おっとぉー!不知火が明後日の方向に攻撃を始めたぞこれはー!?』

 『あの光で目というか意識をやられたかっぴょん!?』

 『これ、パニック……!?』

 「パニック?」

 『PSO2の状態異常で、私の撃った光属性攻撃の状態異常で混乱みたいになるんだけど……』

 「なら、一気に畳みかけなさい!復調する前に!!」

 『う、うん!光が効くなら……『グランツ』!そして……エーテル魚雷展開!』

 

 光属性のテクニックを叩き込んで足を止めつつ海風の回りに青緑のオーラを纏った魚雷が出現する。これも海風の異能だという。

 

 『全弾、いけーっ!!』

 『な、が、ぐああああっ!!』

 

 挙動は誘導ミサイルどころではなく。足元をふらつかせながら回避を試みた福山司令官に追いすがって全て直撃して見せていた。

 

 『とんでもない異能バトル染みてきましたァ!これには不知火もこらえきれないかー!?』

 『いや、本番はこれからっぴょん』

 『――ッ、オオオオオッ!!』

 

 ゆらりと無言で体勢を整える福山司令官。そして大剣を掲げる。そして咆哮。ドローンの映像越しでもわかるぐらいに圧が強くなる。いや、演習海域からこの鎮守府まで圧が届いているのかもしれない。

 

 『『ツイスターフォール』』

 『きゃああっ!?』

 

 福山司令官が跳躍、海風のいる方へ大雑把に向かいそのまま縦回転をしながら大剣を海面に叩きつける。直撃とは程遠い位置であったのにも関わらずその衝撃で海風が吹き飛ばされてしまう。

 

 「海風、大丈夫!?海風!?」

 『うぅ……あぅ……』

 『これで終わりですか?』

 

 衝撃で呻く海風にゆらりゆらりと近づく福山司令官。

 

 『動けないようですね。致し方ありません。トドメを――』

 『海ーーーーッ!!』

 『ッ!!』

 『負けンなーーーッ!!海ィーーーッ!!!』

 

 福山司令官がトドメを刺そうと近づいた瞬間、江風の叫びが空間を切り裂いた。海風の意思に炎が宿った、気がした。

 

 『負け、ない……!かわ、かぜ……!江風ぇ!!』

 『そうでなくては。では、抗ってみせてください!』

 『何度も同じ手は食らいません!そこっ!』

 

 威圧の中に期待が込められた福山司令官の声が聞こえるのと同時に、再び衝撃波が飛ぶ。それに飛び込むようにして前方に飛び出し回避する海風は、そのまま主砲を近距離で叩きこんだ。

 

 『これで……はっ!?』

 『『ナ・グランツ』!』

 『叩き込まれた主砲の弾を基軸にまた光のフィールドが出たぁー!』

 『威力も江風の叫びを聞いてから上がってるっぴょん』

 『『グランツ』!『グランツ』!普通の魚雷も斉射!』

 『ッ、が、あ……ッ!!』

 『これは形勢逆転かー!?』

 『しっかりダメージは蓄積してるみたいだからなぁっぴょん』

 

 一気に叩き込んでいく海風。このまま削り切れるか、という空気になったその時。福山司令官が動いた。

 

 『受け止めて見せるか。それともどう対処するか。これを最後の一撃とします』

 『不知火が剣を天に掲げて剣がすごい光を放ち始めたぞぉー!』

 『全力全開の大技やる気だあいつー!?』

 『解説からぴょんが抜ける程の本気だァー!!』

 『はぁぁぁ……!オーバー……!!』

 『海ー!アレ喰らったら不味い!なんとか、海ーッ!!』

 『あ、あ……』

 「叩き込めるもの全部、叩き込んじゃないなさい!やられるまえにやるのよ!」

 『!』

 

 あんなもの、傍から見ても耐えきれるものでもないし避けきれるものでもなさそうなのは推測がつく。ならば、撃たれる前に倒すしかない。

 

 『エーテルよ、私に応えて……!エーテル魚雷展開!『イル・グランツ』!主砲も魚雷も全弾発射!いっけぇーー!!』

 

 まさに全身全霊の全弾斉射。回避も防御も考えない全力の攻撃。そのすべてが刺さった時、福山司令官を中心に爆発が発生した。そしてその瞬間。

 

 ばずん。

 

 どこかで重い一撃がした音が聞こえた気がした。そして爆発でふさがれた視界が晴れていく。

 

 『……』

 『はぁ、うぅ、あぁ……!』

 

 無言で剣を構えたまま立ち尽くす福山司令官と立つのもやっとな力を使い果たした海風。

 

 『見事、です』

 

 そう呟いた直後、海に倒れ伏す福山司令官。これは。

 

 『不知火戦闘不能!海風の!お姉ちゃんの勝利だぁーー!!』

 『海ィー!!』

 

 秋雲さんの結果宣言と共にいつの間にか拘束を外した江風と共に私は海風の元へ駆けよっていく。海風は先に近寄っていた(近くで待機していたらしい)雷さんに抱えられていた。

 

 『さあ勝利者の海風にぃ、皆さん盛大な拍手をー!!』

 

 わぁぁ、っと鎮守府の観客に鎮守府関係者たちも湧き上がる。その中で鎮守府に帰還した海風に私も駆け寄った。

 

 「やったよ、江風、霞ちゃんも、ありがとう……でも、あれ、わた、私、私……!?」

 「海、正気に戻ったのか!?」

 「大丈夫、大丈夫よ海風。安心して。雷さん、思いっきり抱きしめてあげてください!」

 「大丈夫よー、ぎゅーっ!」

 「あ、うぁ、うぅ……」

 「海!?海!!?」

 「落ち着きなさい。気を失っただけ……よね?」

 『こちら加賀。決着のタイミングでカラスの狙撃を完了。もう悪影響を与えるものはないはずだけど……どうかしら』

 『こちら情報部妖精、そういう反応はもう存在してないよー!』

 『まだ帰還中の響だよ。洗脳装置の破壊で衝撃が入っていると思われるよ。そのまま救護室に連れて行って人目から隔離して欲しいな』

 「雷了解……行きましょう。二人共一緒に運んでくれる?」

 「トーゼン。海、おつかれさん」

 「私もです。本当に、本当によく頑張ったんだから」

 

 力を使い果たしたことを秋雲さんが公表して。そのまま救護室に海風を運んでいって江風と雷さんがつきっきりで診ていた。

 

 

 滞在10日目 08:00 救護室

 

 

 朝になって。朝食の時間になっても江風も雷さんも救護室から出てくる気配がなかったので私が二人分の朝食を持っていくことになった。

 

 「おはようございます、大丈夫ですか?」

 「あ、霞。朝食ありがとう。江風は寝ちゃってるから、起こさないであげて?」

 「海風のベッドに突っ伏しちゃって。ちゃんと寝なさいったら」

 「日が昇るまでずっと診てたみたいなの。私が起きてから入れ替わるように寝ちゃったわ」

 「まあ、気持ちは分からなくもないけれど。江風の分はここに置いておくので、雷さんだけでも食べちゃってくださ――」

 「う、うぅん……」

 「海風!?」

 「目が覚めたの!?」

 「ッ、海!?」

 

 海風が目を覚ます。それに反応して寝入っていた江風も飛び起きた。

 

 「江風……あれ、私どうして……うっ」

 「海、深く考えなくていい。昨日の演習の後ぶっ倒れてずっと寝てたんだ」

 「でも、私、とんでもないことを……」

 「ああ、ちゃんと正気に戻ったのね」

 「そこまで演習の演技、ってことにしてあるから大丈夫よ、ぎゅーっ」

 「はわ、落ち着く……うぅ、頭が痛いぃ……」

 「それはそう、よ。落ち着いたら話すからゆっくり休んでなさい。アンタの分のごはん、持ってくるから。江風もそこに朝ごはん置いてあるから食べなさいな。というか徹夜してたんでしょ、もっかい寝なさいな」

 「霞ママ……」

 「だぁれがママだって久々にやったわねこのやりとり」

 「ママなら私だって負けないんだからね!よーしよーし」

 「はわぁ……」

 

 結局、いろいろ落ち着いて検査などができたのは昼を回ってからになってしまっていた。

 

 

 14:00 救護室

 

 

 検査の終わった海風の元に私を含めた訓練校同期組を中心としていくらか集まっていた。

 

 

 「響だよ。検査の結果が出たよ。身体上や艤装の異常はなし。だけど、精神的な負荷は128の面々同様、いやそれ以上の様だ。その影響として……」

 「か~わ~か~ぜ~!!」

 「胸押し付けんな頬ずりすんな甘ったるい声出すな鬱陶しいわはーなーれーろー!!」

 「……この性格が治らないみたいだね」

 「コレクッソ重症じゃねーのです!?」

 「正直、引きます」

 「『艦娘海風』としてもこれは……ないですよね?」

 「昨日みたいに警戒しないで卵焼きとかは食べてくれるようになったけどねー」

 「瑞鳳、その卵焼きどれだけ常備してんのよアンタ!?」

 「福山、入室します」

 「ッ!」

 

 福山司令官の入室により緊張する海風。昨日は愛する妹を奪った大悪党、という認識だったが大丈夫だろうか。

 

 「お加減はどうでしょうか」

 「え、あの、えっと、ごめんなさい!昨日は、私、私……!」

 「思考誘導されていたのですから、お気になさらず。現在は特にそういう思考ではないようですね」

 「はひ、えっと、昨日までずっと江風を助けなきゃ、って思いでいっぱいだったんですけど、今はそういうのはなくて……むしろ何やらかしてたんだろうって」

 「128の面々も同じような感じだったよ。本来の意思とは異なる思考・行動をやらされていたんだ。後遺症は1日2日で解決できるようなものではないだろうね」

 「その上で海風さん。今後の通告をさせていただきます」

 「ふえっ」

 「まず、第128鎮守府は実質的な機能停止に伴い、金剛さん達第1鎮守府組がサポートに回りリハビリ及び復旧に努めることになりました。戦力的な不足は第129鎮守府がフォローアップを行います」

 「アレ、ってことは金剛さんこっち帰ってこないの?」

 「そういうことになります。その代わり第1鎮守府の人員の援護を多くするとのことでしたが、これにより第1鎮守府、第127鎮守府、第128鎮守府、第129鎮守府の戦力が軒並み低下する、その上でそれらをしっかり防護していく必要があるという状況になったと言えるでしょうね」

 「ヤバくないですか?」

 「推測としては、第128鎮守府に深く入り込んでいた敵勢力の情報、その根切の為敵方もすぐには行動に移さないことが挙げられます。どちかが先に体勢を整えられるか、と言ったところですね」

 「っとなると、やっぱ130の攻略……」

 「ええ。その前提で動くことになりますが、本格的な攻略は各鎮守府が動けるようになってから、になります。それまでは調査を続行します。そして海風さんの処遇ですが」

 「はひっ」

 「ビビらなくて大丈夫よー、ぎゅーっ」

 「はうぅ」

 「いいなー海風ちゃん」

 「電もぎゅーっ」

 「はわ~!」

 「……ええ、海風さんは本日付で第127鎮守府に転属して頂きます」

 「えっ」

 「マジかてーとく!?」

 「元々第128鎮守府そのものでは海風さんの異能を持て余していたこと、能力開発は敵勢力が行っていたこと。その異能、イレギュラー能力に対しては第127鎮守府が慣れていること。金剛さん達の第128鎮守府出向に伴う第127鎮守府の戦力低下を受けたこと。この総合というわけですね」

 「金剛さん達の影響力を考えたらとてもイーブンとは言えないけれど、まあそういう方向でよろしく頼むよ」

 「それに」

 「ぴっ!?」

 

 福山司令官の圧が高まる。いや、慣れてきたからわかる。これは期待しているときの圧だ。圧で感情表現してほしくはないのだけれど。

 

 「昨日の海風さんとの演習は心躍るものでした。その力、どこまで成長させられるか。楽しみにしていますよ」

 「ひっ……やっぱ怒ってませんか!?」

 「こういう時、どういう表情をすればいいのか分からず申し訳ないのですが……怒ってはいませんよ」

 「てーとく感情表現クッソ下手だからなァ。うん、素直にワクワクしてるだけだよアレ」

 「えー……」

 

 そんなこんなで、海風の処遇も決まって今後の方針も決まっていったのだった。

 

 

 0:00 第130鎮守府跡 工廠

 

 

 「……」

 「やっと工廠に来てくれたんだ。ここにあるって前から言ってたんだけどなー」

 「……」

 「解析対策かな?何も喋ってくれないのは。会話のキャッチボールできないの嫌なんだけどなー」

 「……」

 「そう、それが。その機械こそが私達の『本体』だよ。それを破壊すれば私達は終われるの」

 

 工廠に取り付けられた巨大な機械。ごうんごうんと音を立てているソレ。この施設のエーテル制御装置であり、管理人格である私や防衛システムである睦月ちゃんの本体とでもいうべき代物だ。

 

 「……」

 

 仮面の人の視線が制御装置に外付けされた小型機械に興味が移った……ような気がする。

 

 「ああ、それ?それは監視装置。私がイレギュラーなこと……まあ自殺だよね。こうやって喋るのは平気なんだけれど。そういうのを感知したら思考の強制停止、非常時にはデータの消去を行うための外付け監視装置だよ」

 「……」

 「それだけを破壊しようっても無理だと思うよー。なにせそっちにアクセスしたら防衛機構として私達の『本体』を強制停止、データの抹消を行うようにプログラムされているの」

 「……」

 「どうするのかな?」

 「……」

 「え、帰っちゃうの!?何しに来たの!?ってもういない!?」

 「夏奈ちゃん!!」

 「あ、睦月ちゃん」

 「今、またアイツがこっちに……!何もなかったの?」

 「見るだけ見て帰っちゃった。何がしたいんだろう」

 「何がしたいんだろう、じゃなくて通しちゃダメだってば!もう!それに……」

 「それに?」

 「各所に配備されてた警備用の機体。軒並み破壊されてるよ。今日だけじゃない、何日かに分けて破壊されてる。正直、補充が追い付いていないよ」

 「あの子の仕業?」

 「それ以外に考えられないよ。元々警戒網の穴を埋めるために配備されてたモノだったから、どうやって壊されたかの映像とかがないの。痕跡を見るにマグナム銃でコア部分を一撃、って感じみたいだったけど」

 「それじゃああの子の正体、ますますもって不明だねぇ。これで剣でバッサリ、だったら127の新米さんじゃない?って憶測もたつけど」

 「どうやって侵入して離脱するのか。どうやって生体情報を隠しているのか。全部無視すれば『やれるやつ』はそうなるよね。けど、その確証もない」

 「だからお偉方さん、やっきになって解析しろーって指示出してきてるよ。なにも出ませんでしたーって返したら激おこ。笑っちゃうよね」

 「段々自分の喉元に手が伸びてきている、って思えばそうなんじゃないかにゃぁ」

 「まあ、そうだよねぇ。それにしても。どうなるのかなぁ……」

 

 結構な頻度で現れては何かを調査している辺り、あの仮面の人は今後何かをするつもりなんだろう。だけれど、どうするつもりなんだろうか。




 梓「……ううん」
 卯月「どしたー?」
 梓「鎮守府間の連携と戦力の低下はお話した通りなんですが」
 卯月「海風の彼氏とか江風に親しい友永家とかか?」
 梓「ええ。そちらへ敵の手が伸びないとも限りません。ある程度事情を説明して防衛体制を……手が、手が回らない……!」
 卯月「早めにケリつけなきゃ駄目だろうなコレ」
 梓「ええ……」
 卯月「にしても、ずいぶんと海風の攻撃刺さってたな?」
 梓「DF(ダークファルス)の身としては光テクニックは鬼門ですからね。パニック耐性も私は皆無ですし。エーテルの魚雷もエーテルだからこそよく通りましたし」
 卯月「めっちゃ特攻乗ってたんだなアレ」
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