少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 霞ちゃん主役回最終話かつ雷回です。


31話 暴走のママ

 滞在から二週間。私はそろそろ元の鎮守府、50鎮守府に戻ろうと思っていたしその手続きを進めていた。名残惜しいし、雷さんの悩みが解決するまでは一緒に居たかったけれど。この二週間であったゴタゴタとその対応の忙しさを見てもなお居座り続けられるほど面の皮も厚くなかった。

 

 「マジか、帰っちまうのか」

 「海風の様子も落ち着いた……うん、落ち着いたみたいだしね」

 「霞ママ行っちゃうの!?」

 「……落ち着いた?これが?」

 「まあ、うん。それに、ほら。ここ最近50のお馬鹿達からの履歴がすごいのよ」

 「えーと、『霞ちゃんごめんなさい帰ってきて』『霞ちゃんがいないと生きていけないんです』『反省するからお願い』『私達には霞ちゃんが必要』……うっわ」

 「内二名は50きってのエースですよコレ」

 「私の方も考え、結構まとまってきたし。後は帰ってちゃんと活かして向き合ってみようって思うのよ」

 「そこまで考えてるなら私から言うことはねーな」

 「寂しいけどうん、いつでも遊びに来てね霞ちゃん!」

 「いっそのことこちらにまとめて移籍してしまうのは?」

 「無理に決まってるでしょ加賀。それに、50の司令官から言われてたの。ここ、127が信用できるかお前の目で確かめて来いって。だから、私が帰ったらしっかり50も協力できる。ツテもいろいろあるから、敵も手が回らなくなるはず。そこまで福山司令官や響さんには相談済みよ」

 「いつ帰るのです?」

 「滞在14日目。2週間ってキリがいいからね。司令官から、午後には迎えを寄越すって言われたから、それまではよろしくね」

 「ンじゃ送別会やっかねェ!」

 「そんな余裕……いや、物資的な余裕はあるんだったわね……」

 「ぶっちゃけ他と足並み揃えないといけないとこあるのでしばらく暇ですしねぇ」

 

 そんな会話をして、帰る準備を進めて。後は迎えに来るであろう礼号組の皆と合流してサヨナラ、で終わるはずだったのだ。……私は甘く見ていた。ここのゴタゴタ具合はそんな素直に終わってくれないことを。

 

 

 滞在14日目 11:00 第127鎮守府情報室

 

 

 『こちら雷、指定のポイントに近づいたわ。反応は想定通り。このまま進んで大丈夫そう?』

 「響だよ。広域レーダーにも他の反応はなし。そのまま敵勢力の撃滅を頼むよ」

 『了解、行くわよ皆!』

 「……さて、君の目から見て雷はどうだったかな、霞?」

 「悩みはまだ解決できていないけど、やれることを精一杯って感じだと思います。海風の容体が落ち着くまではつきっきりになってましたけど、そうやって役に立てることが嬉しそうな、そういう印象を受けました」

 「なるほどね、ありがとう。君自身の気の持ちようは変わったかい?」

 「正直、完全にとは言えないです。けど、雷さんを見て。江風達を見て。改めて自分自身を見つめなおしてみて。少しずつでも、受け入れようと思ってます。私はやっぱり、そう、私のことを見てくれる仲間達を裏切りたくない」

 「そこが君の芯と言ったところみたいだね。君や雷の悩みの一端は私も理解しているつもりだよ。だからこそこうして情報室に陣取っているんだからね」

 「私にとってそれが周りを見ること、導くこと」

 「そう、君自身で改めてそれを結論付けられたならそれで突き進むといいよ。もしまた迷ったり困ったりしたら、いつでも私達を頼るといい。歓迎するよ」

 「ありがとう、ございます」

 「さて……おや、今、反応が」

 「一瞬レーダーがブレました?」

 「これはジャミング、しかも小型……使用者は単騎かな。雷、聞こえるかい?ジャミング持ちの敵増援を確認した。数は1。君達から見て南東の方角。気を付けてくれ」

 『雷了解よ、聞こえたわね!?さっさとやっつけて増援に備えるわよ!』

 「……これがジャミングの反応……ホント一瞬でしたけど、よく気付けましたね」

 「言われてでもちゃんと分かる君も中々だよ。さて、ここで応用問題だ。既に判明している敵部隊はカテゴリDの水雷戦隊が1部隊程度。対する鎮守府戦力は雷を旗艦に江風、電、羽黒、瑞鳳。ちゃんと撃滅ができる程度の戦力と言えるね。……この上で援軍ないし監視するならどんな相手を派遣するかい?」

 「監視だけなら機動力があればいいですけど、ただの水雷戦隊との戦いを監視する理由なんてない……ならジャミング持ちが単騎でなにかやらかせる程度に強くないと。姫級ですかね?」

 「おそらくはね。それか、最近ご無沙汰だったけどネームドの可能性もある。アウトロー、とかね」

 「ネームドのレ級……江風に執心って噂の」

 「そう。今回江風が出撃していることもある。どこかからそれが漏れているなら、より可能性はある。場合によっては増援を出す必要があるかもしれないね」

 「あのメンバーだときついってことですか?」

 「いや、撃退だけならなんとかなるだろうね。けど、出来ればそろそろ奴は鹵獲したい。南西の連中に忠誠を誓っていなくてなおかつ情報をある程度以上有しているであろう存在。今まで制圧してきた敵勢力はどこも情報の隠滅をしてきていたから、しっかりとした情報が欲しいところだよ」

 「すごいこと、言ってますよね?」

 「ここらで一気に流れを変えたいところだからね」

 

 そう言っている間に雷隊が水雷戦隊と交戦、順調に撃破していく。ジャミング持ちは依然様子を窺ったままだ。

 

 『こちら雷、水雷戦隊は片づけたわ!ジャミングの反応はどう?動いてる?』

 「お疲れ様。まだ動いて……いや、接近を始めた。気を付けて」

 『この感じ、テメーかアウトロー!!』

 「……特定する必要、なかったかな?」

 「この距離、まだ有視界じゃないでしょ江風……」

 『よーう、久しぶりだなアオイィ!!』

 『この二ヶ月どこほっつき歩いてたんだよテメー!』

 『そういうオメーはどこまで変わった!どこまで行きやがった!!』

 『アウトロー……?まあいいさ、戦いで見せてやる!』

 「……」

 「響さん?」

 

 祈るように手を組む響さん。

 

「ああ、いや。いつものことなんだ。私は、情報管制。実際に背中を預けて預けられての戦いは放棄している。けど、駆け付けて一緒に戦いたいな、ともやっぱり思うんだ」

 「……」

 「私自身が選んだ道なんだけれどね。戦場に一緒にいない以上に役に立つ。敵に好き放題にはやらせない。けれど、けれど戦場には直接駆け付けられない。ただ、信じて祈るだけだ。だからこそ」

 

 響さんの目が私をまっすぐ見据える。

 

 「君は戦場で、現場で導く力がある。それは私にはなくて、羨ましいものだよ。そしてそうであることを選んだ君の選択、その意思もね」

 「……はい」

 

 いつも飄々として情報面で敵味方共に手玉に取る凄い人、の印象だったけれど。そんな思いを抱えていたんだな、と思うのとないものねだり、とはこういうことなんだろうな、と思った。

 

 「そして、雷も。多分だけどアウトローも同じなんだろうね」

 「アウトローは……江風に対して、ですか?」

 「2ヵ月前に交戦した卯月にもだろうね。あの焦りようは身近なヒト達が先に行くのを歯がゆく思う動きだよ。私にも覚えがあるし、君にもあるだろう?」

 「……ですね」

 『クソ、動きがまた変わってやが……がっ、痺れッ!?』

 『妖術の小細工、って奴だ!足を止めたなら喰らいやがれ!『シンフォニックブレイク』!』

 『皆!続いて主砲斉射!』

 『ぐ、がっ!まだ……』

 『その手は潰すのです!『クラッカーバレット』!』

 『ぬぐあぁ!!』

 

 状況はこちらがかなり有利のようだ。そしてふと気になる。

 

 「響さん、アウトローって単騎で普通の艦隊を壊滅させる戦力、って話を聞いたことがあったんですけど、なんであそこまで江風達は有利に進められるんですか?」

 「アウトローはレ級。色々出来るとはいえ強力な戦艦だ。逆に言えば接近戦は出来るとはいえ、張り付かれたらその力を十二分には発揮できない。そして、江風がいると江風に執着して、意識も動きもそちらがメインになる」

 「強制的に接近戦になる、ってことですね」

 「そうだね。そして、普通ならその尻尾による強力な殴打で吹き飛ばせば終わり、砲撃戦に移れるけど江風の三次元的な動きはそれを許さない。それに近いモノへの訓練は梓相手にやっているし、張り付いて行動阻害という役割は卯月からしっかりと学んでいるからね」

 

 そう言われて改めて戦闘状況を見ると、ことごとく動きを江風に潰され、捉えようとしても他の面子に潰され、それでも江風を狙おうとして。悪いループに入っている。

 

 「そして、アウトローにとって江風がどんどんそうやって力をつけていくのに自分が変われていないことがコンプレックスみたいだ。だから余計に執着するんだろうね」

 『ク、ソ、ガァ!!』

 『勝負ありだぜ、アウトロー。降伏しな』

 「響だよ。前回はそこから一度完全回復をしてみせた。まだ油断しないようにね」

 『りょーかい。で、まだやるのかよ』

 『クソ、アオイ、お前は、なんで、そんな、強く変わるんだよ!なんで置いていくんだよ!私だってずっと、ずっと……!』

 『……強くなるのは手段だ。目的じゃねぇ。その目的の為ならいくらでも変わってやる。それが、この今ってワケだ』

 『目、的』

 『お前と初めて会った時もそうだけどさ。後悔したくねーんだ。ああすればよかった、こうすればよかった、もっと出来ることがあれば、なんてな。なまじ勘が働くから悪い予想がガツンと頭を殴ってくるから余計にさ』

 『それで、変わるのか?』

 『変えるンだよ。その為にこのエーテルの力で、更にはダチの提案受けて妖術の小細工もつけて。まだ、変わる。変わってやる。そうでないと、南西の奴にその協力者共、お前で色々実験してる奴ら。そいつらに後悔させられるだろうから』

 『変わるんじゃなくて、変える』

 『アウトロー、お前の強さを求める理由はなんだよ?』

 『私は、強くなる以外に知らない、強いやつは色々できる、でも弱くてなんもないやつは面白くもない、空っぽだ!私はそんなの嫌だ!だから!』

 『なら、それこそ強さは手段だぜ。お前は――」

 「ッ、江風、皆、エーテル反応増大!気を付けて!」

 『強さが手段だってんなら!なんでエーテルは私に応えてくれねぇんだよォ!』

 『おま、またなんか変なモン……!』

 『あ、これ、知らねェ……!』

 『クソ、勝手に発動タイプかよってうわぁ!』

 

 アウトローを中心にエーテルの数値が異常値を発する。エーテルの爆発が起きたらしい。

 

 「総員、無事かい?」

 『江風、エーテル的なのは大丈夫なんですけど、衝撃で足やられ……ッぐ!』

 『電、大丈夫なのです!江風ちゃん大丈夫ですか!?』

 『羽黒、爆風に煽られただけで影響なしです!』

 『瑞鳳も問題なし……衝撃で艦載機隊のコントロールがあわわわ』

 『……』

 「雷?雷!!」

 『クソ、なんでだよ、勝手に仕込みやがってよ……それになんで私には反応しねぇんだよォ!畜生!!』

 『アウ、トロー……!』

 

 ふらふらとアウトローが江風に接近する。何を仕掛ける気か。

 

 「江風、退避を」

 『ッチ、足やられてるってのに!』

 『支えるのです……!』

 『お前の、何もかもを、奪えば、変われるのか?』

 『正気に戻れアウトロー!ンなこたねーよ!』

 『大丈夫よ江風』

 

 ふわりと雷さんが江風を抱きしめる。

 

 『え?あ、ぁ……まっ、違っ……!』

 『江風ちゃん!?雷お姉ちゃん!?』

 『大丈夫、だいじょーぶ』

 『……雷ママ』

 『『!!?』』

 「……え?」

 「いや、まさか……さっきの爆発でエーテルの覚醒、暴走だとでも言うのか!?そしてこれは、なんだい!?」

 『こちら電、雷お姉ちゃんのママオーラがなんかすごいのです!めっちゃ甘えたくなる……じゃない、それに江風ちゃんが墜とされました!』

 「ママオーラ」

 『電も、ぎゅーっ』

 『雷お姉ちゃ……雷ママ~♪』

 『電ちゃーん!?』

 

 そして墜ちたらしい江風と電がゆらりと立ち上がる。江風は足をやられたと言っていたはずだけれど。

 

 「これが、覚醒して暴走した雷のエーテル能力だとでもいうのか……!」

 『おい、来るな、なんだよ、なんなんだよ!なんでお前が先に……!』

 『雷ママなら大丈夫』

 『安心して委ねるのです』

 『うわ、組みついてくる、な……!』

 「あ、アウトローに江風と電が組み付いた……」

 『ぎゅーっ』

 『あ、うあ、私が私じゃなくなって……雷、ママ……』

 『嘘でしょ』

 『アウトローまで堕ちました……!?』

 「組みついた相手の意識を奪い、操ることが出来る……これが君の求めていた力なのかい、雷……」

 「なわけないじゃないですか!暴走ってことはおかしな方向に向かってるってことで……羽黒、瑞鳳、逃げなさい!」

 『ど、どっちへ!?』

 「鎮守府へ。江風のときみたいに気絶させる方向で行こう。けど、状況を見るに江風に電にアウトローまでもがその傀儡。君達だけだときつい。撤退を――」

 『逃げちゃダメ、なのです』

 『つれないこというなよ』

 『ひっ』

 『きゃあ!?』

 「ッ、二人共!」

 「江風と電が組み付いた!?」

 『いや、だめ……!』

 『離れ、て……!』

 『皆、皆大丈夫だから』

 『いや、頭の中が……ママ……』

 『力強ッ!!こ、の……ママァ♪』

 「支配下にある人員を自由に操れるのか……それに、この動き……」

 「江風にアウトロー、負傷が嘘みたいに動いてません?」

 「そうだね。これも雷の能力なのだとしたら、とんでもないものを目覚めさせてしまったのかもしれない」

 『響、聞こえる?』

 「ッ!……なんだい、雷。入渠でもして頭をサッパリさせてくることをお勧めするよ」

 『響も、皆、皆癒してあげるからね。待っててね』

 「……ああ、待っているからまっすぐ帰っておいで」

 

 通信が切れる。反応は、会話通りまっすぐ鎮守府を目指すようだ。

 

 「鎮守府全域へ緊急警報発令。大雑把に言うと雷のエーテル能力が発現・暴走。随伴部隊全員を巻き込んで鎮守府に戻ってこようとしている。戦闘要員は全員会議室に集まって欲しい。繰り返すよ――」

 

 私の滞在最後の大一番が始まろうとしていた。

 

 

 14:00 第127鎮守府沿岸部

 

 

 「作戦を確認します。ル級さんが砲撃、私が斬撃。一気に制圧します。その上でかかってくる相手はタ級さんが盾で防いで頂く。その方向で」

 「随分とシンプルになったけど、ここはそれが確実かな。後ろは任せて、梓」

 「アウトローも他の連中もまとめて気絶させてやりゃいいんだろ!」

 「……うーん」

 「どうしたの、天龍ちゃん」

 「いや、そううまく行くかなってな。スペック上や損傷状況考えりゃルの奴の砲撃で壊滅するし、梓の攻撃が最大火力で手っ取り早いのはそうなんだが。貯めに貯めて爆発した雷の厄介さがそれで済むのかってな」

 「何かあった時の為に、後詰の準備はする……気を抜いちゃダメってことね」

 「そうだな、龍田。いざって時は動けるようにしねぇと」

 「霞ちゃん、その辺は響さんはなんて?」

 「正直予測がつかないって。何から何まで未知の事象だもの。だから油断はするな、とは言ってたけど」

 「江風を取り戻すためにも、頑張らなきゃ……!」

 「アンタのその言い分が正しく機能する状況になったわね……」

 『響だよ。雷隊、来るよ』

 「「!!」」

 

 普通に航行から帰ってくるような足取りで帰投口に来る雷さんに、その四方を守るようにして洗脳された面々が固める陣形を取っている。

 

 「雷、帰ったわよ。皆、癒してあげ――」

 「おかえりなさい、ル級さん!」

 「まずは一発喰らっときやがりなァ!!」

 

 前を固めていた羽黒、江風が吹き飛ぶ。すぐ後方にいた雷さんや他の面子は無事……この至近距離で無事だった。

 

 「思ったより浅い、が!……ッ、『インペリアルグリーヴ』!」

 

 雷さんと脇を固める電、瑞鳳ごと横薙ぎの斬撃が襲い掛かる。電、瑞鳳は吹き飛ばされて雷さんも片膝をつく。

 

 「大丈夫、雷ママ」

 「ありがとう、アウトロー。捕まえてあげて」

 「なっ、仕留め切れていないだと……!?」

 「つれないじゃないか、ナァ!」

 

 後方にいて無事だったアウトローがレ級のポテンシャルを活かした突撃で大技の硬直の激しい福山司令官に組み付く。

 

 「ぐ、この、尻尾まで絡みつかれて……!」

 「福山司令官も、癒してあげるわね」

 「あ、ぐ……あぁ、雷ママ……」

 「嘘だろオイ」

 「ルちゃん、一回撤退して!私の遠隔盾で道は阻む!」

 『響だよ。解析が終わった。……まずいね、一度後退できる面子は後退してほしい』

 

 青ざめた口調で響さんから通信が入る。私はともかく、ル級さんと福山司令官の必殺技の連撃が届かなかったことに鎮守府の面々は少なからずショックを受けているようで、素直に退いていた。

 

 『現在、雷はゆっくりと近場をうろついているね。こちらから攻撃しなければゆっくりと態勢を整えるつもりだろうね』

 「それで、分かったって何がだよ」

 『天龍、端的に言えば雷だけを狙っても撃破は厳しいということだよ。雷の発するエーテル、というか力だね。それが洗脳されている全員に行き渡っているのを確認した。吹き飛ばされて戦闘不能になった時はそれが薄れていたけれど、先程はアウトローがまだ無事だったから立て直せてしまったというわけだ』

 「オイオイ、ってこた梓含めた全員を撃破しろってことか!?」

 『そうなるね。それも雷が触れるとまた撃破した面々も回復していくみたいだ。厳密には違うんだろうけど、まあこの表現で差支えはないだろうね』

 「こちらタ、追加で情報を。雷と距離が近づくほどに戦意が削がれるのを感じたよ。だからこそ梓の一撃も浅くなっていたと考えられる。そういう意味でも、他の面子を引きはがしたほうがいいだろうね」

 「出力切れは狙えないのか?」

 『通常時であれば狙えるだろうけど、今回はエーテル爆発を機に暴走している。ガス欠で倒れるまでは相当時間がかかるだろうし、鎮守府全体が雷の手に落ちることは想定できるね』

 「ココだけで済めばいいけど鎮守府外まで手を出す気になられたらマジでヤベーな」

 『そうだよ天龍。だからこそ、ここで撃墜しなければならない。……そこで、洗脳された面々の各個撃破と雷の撃墜を同時並行で行う必要があるわけだけど』

 「今暁の隊が遠征中で人員減ってるぞ。卯月も陽炎もいねぇ。残ってる戦闘要員は俺含めて……」

 『天龍、龍田、ル級、タ級、赤城、加賀、海風、霞。これは私も管制ではなく現場に出たほうがいいかな』

 「空対空で瑞鳳は赤城に、として後どうすっかだな」

 『加賀には海風の時同様狙撃をお願いしたい。エーテル反応が軒並み低下したときに影響を受けにくい遠距離からの狙撃をね』

 「加賀、了解です」

 「……あの」

 『霞?』

 「15分、作戦決行を待ってもらえますか?増援、呼べそうです。四名ほど」

 「あ、50の人達!?」

 「うん、もうすぐ着くって言うから戦力に加えようと思って。……いいですか?」

 『歓迎だよ。貸しが出来てしまうけど必要経費だね……そしたら、羽黒は50の足柄、そのサポートに龍田で担当してもらおうか』

 「アウトローは私とルちゃんで対応するよ」

 「そしたら私は制空に専念しますね。皆さん、余裕が出来たら瑞鳳さん自体の制圧をお願いします」

 『うん、基本ツーマンセルで行こう。電と江風は……』

 「私が指揮を執って朝霜と清霜、大淀とぶつかります」

 「じゃあ俺と海風は梓だな!」

 「え、私ですか!?」

 「演技とは言えお前一回梓墜としてるじゃねーか。自信持てよ」

 『……私はこのまま情報支援に専念するとしようかな。加賀、狙撃タイミングは追って知らせるよ』

 「憲兵隊の俺達は何をすればいい」

 『坂田班、というか火力組は梓狙いで。他の人員は撃破時にそれぞれを取り押さえに行ってほしい。流石に重火器のダメージは危険だろうからね』

 「艦娘に重火器耐性はねぇしアウトローには逆に重火器は効かねーもんな。了解だ」

 

 

 14:15 第127鎮守府

 

 

 大淀達も合流して。加賀も狙撃ポイントに移動して、作戦決行となった。雷さんの方から心が溶けるような甘い空気がする。その中でまずは海風が啖呵を切る。

 

 「雷さーん、聞こえますかー!!海風でーす!!」

 「聞こえているわよ、海風。癒されてくれる気になったの?」

 「雷さんのぬくもりは覚えています!けど、私の、私達のママは雷さんじゃないんです!そう、霞ママです!!」

 「は?」

 「そう……」

 「そう、これはつまり母性対決!どちらの方が慈愛があるのか、勝負です!!」

 「なら、受けて立つわ。皆癒してあげるから安心してね」

 「戦闘、開始ですー!!」

 

 勝手に私を総大将にしないでもらえるだろうか。いや、まあ、作戦には支障はないんだけれど。

 

 『響だよ。号令は任せるよ』

 「ああ、もう!やってやりますよ!霞隊、前進よ!江風、電!話があるから出てきなさい!」

 「話?」

 「聞いてもいいですけど雷ママと一緒になりましょう?」

 「ママは……」

 『こちら岩本隊、各戦線の分断を開始する!』

 

 加賀から発艦した岩本隊を始めとする艦載機隊が各部隊の合流阻害の為に攻撃を開始する。

 

 「!!」

 「アウトローは私達が相手だよ」

 「戦艦同士やりあおうじゃないか、なァ!!」

 「出来れば殺したくはないけれど、その時はその時。さあ、精々足搔いて見せて欲しい」

 「ハッ、タにしちゃ辛辣だな!」

 「私は身内以外に優しくなった覚えはないよ、ルちゃん」

 「……わからない、わからない、わからない!!」

 「ならば身をもって知るといい!」

 「信頼できる仲間を得た深海棲艦の力って奴をな!」

 

 タ級さんとル級さんがアウトローと交戦を開始して。

 

 「羽黒はこっちよ!妹艦の強さに霞ちゃんにいいとこ見せるのにといいことづくめね!」

 「逸りすぎないでね~?強敵相手にはとことん強いしここ一番の度胸は保証しちゃうから~」

 「足柄姉さん、龍田さん……羽黒、全力で行きます!雷ママの癒しを伝えるためにも!」

 「ああもう盲目的ね!」

 「本来は落ち着いたストッパー役なのよ?だからこそ適応速度が高いから油断しないでね?」

 

 足柄と龍田さんが羽黒を油断なく囲んで。

 

 「瑞鳳航空隊、皆の援護を――」

 「赤城航空隊、発艦。負けませんよ」

 「赤城ちゃん、邪魔するんだ?」

 「負けたほうが間宮さんの奢りというのはどうでしょう?」

 「私が勝ったら私の卵焼きと雷ママの手料理を存分に食べてもらうんだから!」

 

 赤城と瑞鳳が航空戦を開始して。

 

 「雷ママの邪魔はさせません」

 「死んでください!『グランツ』!!」

 「直情的だな!俺の斬撃も喰らいやがれ!」

 「ッ!!」

 「反応が遅いです!もう一度『グランツ』!」

 「海風、お前には近づかせないから安心しろ!梓、お前とは一辺ガッツリ組み合ってみたかったんだよ!」

 「ッ……!」

 

 海風と天龍さんが苛烈に福山司令官を攻撃し始める。

 

 『響だよ。各員その調子で挑発を続けながら頼むよ。特に琴線に触れるようなワードを使うのが効果的の様だ。それに、自意識で動いていないからか反応に鈍さがみられる。活用してほしい』

 「「了解!!」」

 「霞、どうするんだ!?」

 「霞ちゃん、指示よろしく!」

 「サポートは私がやりますよ」

 「ありがとう、朝霜、清霜、大淀。三人は電を散開して狙って。艦隊行動よろしくまとまってると範囲攻撃の餌食になるわ!包囲戦で!江風は私が引き付けるわ!」

 「そううまくやれるとでも思ってるのかよ?」

 「そう、江風、貴方『後悔』したいの?」

 「ッ!!」

 「この護符で痺れなさい!」

 「おまっ!?」

 「アンタが私にくれたでしょう、お前も使ってみたらどうだって!アンタで試させてもらうわよ!」

 「江風ちゃんの支援に、うわっ!」

 「させねーぞ電ァ!」

 「察しがいい電ちゃんでも連携に耐えきれるかな!」

 「ふむ、ここは……これが確実です、ね!」

 「WG42!?」

 「大淀、鎮守府の被害は気にしないでいいから盛大にやっちゃいなさいな!朝霜、清霜はその先を狙って!」

 「忘れンな、よ!」

 「アンタのパターン、覚えればなんとかなるのよ!」

 

 私達の部隊の作戦は単純。私が江風を引き付けている間に電を集中攻撃で撃破。ついで江風も個別撃破する。江風は連携や連携阻害でこそ真価を発揮するのだから、私抜きでも連携できる三人で江風以外を相手にしてしまうのが有効だという判断だ。

 

 『加賀、雷は見えるかい?』

 「見えています。どこから支援したらいいのか迷っていますね」

 『本来の雷であればもっとその判断は素早く的確にするんだけどね。江風や海風の暴走時のデータを参考にして思考力の低下を導き出したけど、正解のようだね』

 「岩本隊を含めた私の艦載機隊は分断以上のことをしないように指示して伝達を切っています。長期戦は持ちません」

 『そう長くはやらせないさ。機を逃さず待機していて欲しい』

 「了解しました」

 

 響さんから思考力低下の連絡を受け、戦闘を続行する。他はともかく、一番きついのは私達かもしれない。

 

 「霞ちゃん、段々動きの切れが……!」

 「ばーっとやっちゃわないのか!?」

 「もう少し、待って!」

 「陸戦訓練を受けている電さんと受けていない私達では数の差を活かしきれませんか……!」

 「諦めろ、霞!」

 「押し返すのです!」

 「その吠え面、どこまで見られるかしらね……!」

 

 なるべく撃破は同時に行いたい。その為、一番撃破が難しい相手を撃破してから芋づる式に行いたいのだ。つまるところ――

 

 「いい加減落ちてください!」

 「クソ、剣戟が一々重いぜ……!」

 「刀でいなしながら、よく言う……!」

 「おい不知火!お前は無事なのか!」

 (――無事に決まっているでしょう……!!)

 「……ッ!?」

 「よし不知火、そのまま抑えておけ!海風、一気に決めるぞ!そらっ!」

 「体勢がッ!不知火邪魔をしな……!」

 

 天龍さんの切り払いに大きく体勢を崩す福山司令官。そこに。

 

 「『イル・グランツ』最大出力!!」

 「全弾斉射だ喰らいやがれェ!!」

 「があああっ!!?」

 「こちら天龍、梓は止めた!」

 『響了解。各員、トドメを!』

 

 福山司令官が崩れると同時に一斉に攻めを苛烈にする各隊。私達も続く。

 

 「今よ、ロケラン全弾ぶちかましなさい大淀!」

 「待ってましたよ!」

 「あっつ!?」

 「その瞬間を!」

 「待ってたよ!」

 「あ、足が、きゃあああっ!!?」

 「電ッ!?」

 「術具の拘束術式で!」

 「しまっ!?」

 「自分だけじゃなくて他の人にも勘が平等に働くのがアンタの利点で欠点よね。特に、こういう時はね!」

 「江風さんにも斉射を!」

 「く、なろ、うわあああっ!!」

 「こちら霞、江風、電制圧!」

 『こちら龍田よ、羽黒ちゃんも制圧したわ』

 『今だね、この盾で突き刺す!ルちゃん、私ごと!』

 『吹っ飛ぶなよタ!うらああああっ!!』

 『ああああ!!?』

 『こちらタ、アウトローも対処完了だよ』

 『了解、後は瑞鳳――』

 『艦載機は落としましたが残弾が……!』

 『――『ラストネメシス』』

 『……瑞鳳も撃破だね。続いていけるかい、加賀?』

 『当然です。雷さん、おやすみなさい。……『ラストネメシス』』

 『だめ、皆、私が――』

 

 雷さんの方へ光が奔って。雷さんから発せられていた甘い空気が霧散した。戦闘終了だ。

 

 

 16:00 第127鎮守府医務室

 

 

 「う、ううん」

 「あ、雷さん!目を覚ましましたか!?」

 「霞……?」

 「気分はどうですか?」

 「まだ頭はくらくらするけど……ごめんね、すごい迷惑かけちゃった」

 「いいんですよ。たまには迷惑かけたって。それに、おめでとうございます」

 「え?」

 「念願の力、目覚めたじゃないですか」

 「でも、あれは……」

 「これから制御できるようにすればいいんじゃないですか。江風だって最初福山司令官に斬りかかったりしてたんですよね?加賀だってそのテンションで赤城に宣戦布告したって話でしたし」

 「まあ、それはそうなんだけど。ありがとね」

 「きっと、あの力は恐怖に負けちゃったヒトや心がしんどいヒトを温かく支えられる力だと思うんです」

 「霞……」

 「だから、胸を張ってください。戦い一辺倒の皆じゃ出来ない、雷さんにしかできない。雷さんだからこそ出来ることなんですよ」

 「……うん」

 「……それと、いいですか?ちょっと抱き着かせてもらって……」

 「え?」

 「正直、江風達見てて羨ましかったんです、よ。恥ずかしいけど……」

 「うふふ、おいで」

 「……はい」

 

 雷さんの抱擁は暖かくていい匂いがして安心して。堕ちるのも無理はないなぁ、と思うのだった。

 

 「雷お姉ちゃん!!」

 「起きたんですッて!!?」

 「間宮パフェのお届けです」

 「い”か”つ”ち”さ”ぁ”ぁ”ん!!」

 「……」

 「わかります、わかりますよ霞ちゃん」

 「癖になるもんなー、そうだよなー」

 「次は私でお願いします」

 「霞ちゃんも可愛いですね!」

 「ああ、ああああ、あああああああああ!!!!!」

 

 電、江風、加賀、海風。同期(馬鹿ども)に見られてしまった。穴があったら入りたいとはこのことか。

 

 

 同時刻 第127執務室

 

 

 「雷さんの目が覚めたようです。暴走の気配もなく、落ち着いているとのことです。第50鎮守府の皆さん、お手数をおかけ致しました」

 「霞ちゃんからの要請受けて何事かと思ったらまあびっくりしたけど。上手くいって良かったわ。可愛い妹分の成長も確認できたしね!」

 「わわっ、足柄姉さん苦しいです!」

 「エーテル能力の有用性、及び暴走の危険性、その制御の必要性や専門性。そして南西勢力の暴走の手立てが存在すること、その対処の必要性。しっかりと持ち帰らせていただきますね」

 「足柄さん、大淀さん、お願いしますね」

 「で、霞は返してもらえるんだよな!?」

 「そうだよそれが一番大事なんだよ!」

 「当然、ですが今日は皆さん疲弊していますので明日の朝お送りさせていただきます。そちらの司令とは連絡済です」

 「……弥生さん、いつの間に」

 「非戦闘要員として暇だったので50の司令官さんと連絡とってました。それと今日は送別会ということで夕食は豪華にするように手配済です」

 「ホント自由ですね……」

 「それは当然、私達も混ぜてもらえるのよね?」

 「むしろ混ざってもらわないと食材が余るので、参加してもらわないと困ります」

 「……私、裁可してないんですが」

 「これ、関連書類なので後付けですけどお願いしますね」

 「あっはい」

 「良くも悪くも噂通りね……」

 

 私の知らないところで宴会の準備が進められていた。……とても美味しかったしよかったんだけど。

 

 

 滞在15日目 09:00 第127鎮守府正門

 

 

 「それじゃ、お世話になりました!」

 「また来いよな、霞!」

 「いつでも歓迎なのです!」

 「今度はあたいたちも一緒するからな!」

 「霞ちゃんと一緒に行くからね!」

 「いつでもかかってくるといいわ」

 「なんで喧嘩腰なの加賀ちゃん」

 「まったくアンタたちはもう……。約束通り、50として協力するから、アンタたちも頑張りなさいよ!」

 「おう!」

 「なのです!」

 「当然」

 「はい!」

 「霞」

 「雷さん!」

 「一緒にいてくれてありがとね。向こうに戻っても、頑張って」

 「はい、雷さんも御武運を!」

 

 こうして、私の127滞在は幕を閉じるのだった。

 

 

 14:00 南西方面海域 海上

 

 

 「皆、先に逃げて!」

 「でも、あなたも大破して……!」

 「私、もう助からない。だから、皆だけでも……!」

 「……撤退するわ」

 「待って!?」

 「この子の決意を無駄にする気!?私達だけじゃ、全滅するだけなの……!」

 「うぅ、ごめんね、ごめんね……!」

 

 仲間を撤退させる。大破した身でいくら時間が稼げるか分からないけれど。それが最期の私の役目だから。

 

 「それに、疲れちゃったなぁ。ごめんね、私。もう……きゃっ!?」

 

 容赦なく飛んでくる敵部隊の砲撃。それで意識が混濁する。体が沈んでいくのを感じる。もうちょっと、足止めしたかったかな。でも、もう疲れちゃったなぁ……

 

 「――わからねぇ、そのやり方も分からねぇ。だからさ……」

 

 迷いに満ちた声。意識の外で響く砲撃音。ふわふわとした意識の中、誰かに抱きかかえられるのを感じた。

 

 「私は、行動する。力が手段でしかねぇなら、他の手段を探してみるんだ。なあ、そうだろう、アオイ」




 梓「アウトローはどうなりましたか?」
 タ「戦闘終了時に起き上がって、フラフラと消えていったよ」
 ル「戦い続けるならここで仕留めるぞ、って言ったら疲れたようにもうしねぇよ、とだけ言っててな。こっちも消耗して追っかける余裕なかったからなぁ」
 梓「せめて発信機だけでもあれば……」
 タ「ああ、それはつけたよ」
 梓「流石」


 不知火「今回梓は即墜ちしましたが、私は洗脳から耐え抜きましたよ(ふんす)」
 陽炎「えらいえらい(なでなで)」
 不知火(ドヤァ……)
 黒潮「うっわ」
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