少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 コミュ回です。


33話 つかぬ間の休息

 2027年9月末 7:00 第127鎮守府食堂

 

 

 てーとく曰く、130攻めは新型の高速輸送艦である艦娘母艦後継艦が就役してからになるそうで、少し時間がかかるとのことだった。逆に言えば、それまでは久々にゆっくりできる時間が取れたともいうし覚悟を決める時間であるとも言えた。

 

 「なー、ハナ!これなってーんだ!?辛い!辛いぜ!」

 「これはカレーって言ってね、ヒトに人気な色々入ってるお料理なんだよ」

 「お前マジでメシ喰ってこなかったのな……」

 「食っても生で魚まるかじりとかそんなんだぜ?」

 「タの姐さんとかもそういやメシで一喜一憂してたっけ……」

 

 その中で一番エンジョイしているのはアウトローだと思う。人間文化に触れるだけでも大分楽しいの連続のようだし。

 

 「そういや、ハナさんの処遇はアレでよかったんです?」

 「……はい、私はもう、艦娘としてやる勇気がなくて。でも、行く当てのない人間なのでここでお世話になっていいというのならそれが一番かなって」

 「ま、ハナさんがそれでいいならいいか。なんせウチは全方位で人員不足なの相変わらずっスからねぇ」

 

 回収保護したハナさん。轟沈判定になってしばらくしてしまったからか再度艦娘になることは出来ず、更に退役したとしても帰るべき場所のないタイプの人だったこと、アウトローと一緒に居られることもあり、127の地上勤スタッフとして転属することになっていた。

 

 「そーいや、艦娘になる連中って皆ハナみたいに戻りたくないワケか?」

 「んなわきゃねーンだわ。雑に分けると、そうだなぁ。まずは深海棲艦に生活や家族を奪われたヒト。所謂復讐で艦娘になったタイプ。士気は高いけど高すぎるしある程度目標達成してからの油断からの死亡率とかちょっと危ういんだよな。被害の大きかった昔からの艦娘に多いよ。で、最近に多いのが軽く艦娘を経験するタイプ。艦娘になって艤装提供だとかで結構な報酬が出るのと、他の仕事やるのに艦娘やってました!ってのがまあ便利に働くんだよな。まあこの辺はやる気がない」

 「こんな奴聞いてないとか言ってた雑魚はそんな感じの方かァ?アオイに会った時の奴らもそんな感じだったけど」

 「多分そうじゃね?どうせ近海サラっと護ってハイ終わりだろうし。まーウチの近所の鎮守府って規模小さかったしそうなのかなァ……いや個々の事情までは知らんけど」

 「そして私みたいに、帰る場所のないヒト、ですね」

 「家族事情が悪い、生活苦、まあなんでもいいけどヒトとしての生活が難しかったり嫌になったり。そういう人が新天地で頑張りたい、逃げ出したいって艦娘になるケースだな。ウチだと赤城とか電がそのケース。ハナさんも詮索はしないけどそのパターン、と」

 「そう、なんですよね」

 「アオイはよ?」

 「特例中の特例だよ深海棲艦に誘われて志したなんて他に居るかってんだ。そういう意味で近いのは艦娘に憧れてなるパターンだな。まあ、憧れる対象が実はトンチキで最初に心折れるヒトも多いわけだけど。大体目立ってかっこいい癖にやってることがおかしい横須賀が悪い。これで突き進んでる馬鹿が加賀な」

 「呼びましたか」

 「オメーぶれねぇよなぁ赤城さん愛って話してた」

 「ふ、当然です」

 「でまあ、これが異常例な」

 「赤城ってあの横須賀のアレだろー、思い出したくねーな」

 「秒でボコられてたって話だったな。まあそうだろうなー。けど、ちょいちょいここに指導しに来るから腹くくっとけよ」

 「うげ」

 「ちなみに今日来ます(ふんす)」

 「うげげ」

 「まあうん、強く生きろ?」

 「私もあの人たちは、すごすぎてちょっと……」

 「で、後はまあ普通に艦娘ってアリかなーって選択肢の一つとして選んでやってきたヒト達。これが多分一番多いんじゃねーかなぁ。羽黒や瑞鳳もそのクチだったろ?」

 「そうですねー、お給料もいいですし昔ほど危険じゃないよって言われてたのもあって」

 「それこそ初期のころの殺伐!って空気の状態で志願するほどの度胸はなかったなぁー」

 「ま、大体こんな動機で艦娘始めるわけよ。ヒトそれぞれってわけだなー」

 「なんつーか、羨ましいなー」

 「羨ましい、ですか?」

 「私ら深海棲艦は気付いたら深海棲艦として存在してて、なんか本能がビャービャー煩いしなんとなく何すればいいか分かるけどそれ以外なんもねーからさー」

 「そういう意味で姫様のような指導者の存在はとても大きかったんだよね」

 「タの姐さん」

 「北の姫組はその辺羨ましかったなー、なんか一つに仲良くまとまってる感じだったし」

 「姫様は来るもの拒まずだったから、別に合流しても良かったんだけどね」

 「んなモン外部からじゃわかんねーし」

 「アウトロー付きとか旧127で落とせたか大分怪しいし歴史変わってそうだなァ」

 「そうだね、そしたら暁ちゃんにも負けなかったと自負するよ」

 「まあ、一部欠けたとはいえその連合が今の127なんだ、どこにも負けない気で行けるっスね」

 「そうだね。ちなみにアウトロー、おすすめはグリーンカレーという奴だよ。試してみるといい」

 「グリーン?へー」

 「辛党……」

 「辛いやつ……」

 「へ?」

 「止めないけど強く生きろアウトロー」

 「私、一緒に食べれないからごめんね?」

 「おん?」

 「美味しいんだけれどなぁ」

 

 

 08:00 食堂

 

 

 少し遅く食堂に入った俺の目に飛び込んできたのは、タちゃんだった。江風ちゃんの影響かその他の娘達の影響か、最近は皆揃って級の字をつけなくなってきた。じゃあ別に名前を付けようか、って話も出たが、北の姫ちゃんがそのままで呼んでいたからこのままがいいそうだ。そりゃ大事だろうなぁ。

 

 「おばちゃん俺中辛カレー飯大盛りで。タちゃんは何してんだい?」

 「やあ、坂田君か。何、食事の作り方について師事をしたいと思っていてね」

 「へえ、食事。ぶっちゃけ深海の娘達って基本の食生活が生の食材丸かじりだと思ってたけど」

 「実際そうだったよ。いい調理器具があるわけでもないから、陸での美味しさには心を奪われるばかりさ。アウトローもすぐに虜になるだろうね。グリーンカレーは口に合わなかったようで残念だったけれど」

 「ウチのグリーンカレーイロモノ枠の辛党御用達じゃん仕方ないって。で、美味しさの虜になったから自分でも、ってわけかい?」

 「いや、昔から姫様には美味しいものを食べてほしくて手に入れた食材の捌き方やなんとか火を起こしての調理のようなものを試行錯誤していたんだ。だから、その腕をしっかりと設備のある今だからこそ磨きたいと思ってもいるんだ」

 「忠臣だねぇホント。そっから転じてってわけねぇ。おばちゃん、その辺どうなのさ」

 「いやぁ、そこは福山提督にお伺い立てないとねぇ」

 「まあそうだよなー。タちゃんも訓練とか予定あるわけだし?そこ込みで梓ちゃんにお願いする方向で行こうか」

 「そうだね。とりあえず今日はもうオラクルの方に訓練に出てしまっているから、帰ってからかな」

 「弥生ちゃんにお願いしとけばいいんじゃないかな。実際決定権というか判断下してるの弥生ちゃんじゃん?」

 「ハッキリ言うよね、坂田君は。ハッキリついでに頼み込むのを手伝ってもらってもいいかな?」

 「それほどでも。お任せあれってなー」

 

 それから俺が飯を食って出ていくまで、タちゃんは興味深そうに調理場の方を見学していた。その後弥生ちゃんに話を振ったら130の件含めゴタゴタが落ち着いたら、という条件付きでOKを出してもらえた。まあ今って決戦前夜みたいなモンだからな。

 

 

 11:00 第二ドック

 

 

 今日の俺の任務は巡回。というかまあ各所の問題点要求点があれば拾い上げて報告するのがメインだ。127の憲兵は監視としては機能してないからなぁ。そんな感じで艦娘母艦を見に来たら、操舵担当の中村が神妙な面持ちで艦娘母艦を磨いていた。

 

 「よう中村。何してんだ?」

 「坂田か。見ての通り、この子の整備だよ。少しでも綺麗で万全な状態にして、作戦に送り出してあげたいからね……!」

 「つっても次の作戦でその船廃棄するんだろ?よくやるねぇ」

 「新しい子が来るからってこの子を蔑ろにするなんて、って福山司令官には言いたいけれど!あの作戦内容を聞いたら納得するしか……ないんだよね」

 「不満8割ぐらいじゃん?」

 「当然。どれだけ!この子を!大事に!扱ってきたか!!全く福山司令官はそこが分かってないんだよ!」

 「いやまああのヒト、搭乗機が撃墜されるとか支援機が敵に汚染されて敵になるとか片道切符でしたとかそういう経験多いらしいから仕方ないっしょ。アークスの中でも修羅場しか経験してきてない女、って感じだし」

 「そうなんだよね……だからせめて、僕だけでもしっかりと大事にしなくちゃと思うんだ」

 「ま、船冥利に尽きるだろうなー。次の作戦でその船動かすの問題の梓ちゃんなわけだが」

 「僕には新造艦の操舵を任せるって話だからね。ああ、次に積むのが補給物資じゃなくて爆弾だなんて……!」

 「そういや、この船って名前ないじゃん?改修前はあったのかもしれんが」

 「艦娘運用母艦第16号、という形式上の名前しかないね。次の子も18号としか名前がないらしいけど」

 「17が横須賀配備予定なんだっけな。いっそのこと、お前が名前つけちゃえば?」

 「!!」

 「その手があったかって顔してんな。実質基本的に操舵はお前に任せていくんだろうし、それぐらいの役得あってもいいだろーよ。どうせ梓ちゃんは名前なんて付けない」

 「その通りだね。弥生さんに打診してもらえるかな?」

 「あいあいよー。まあOK貰えるだろ」

 「それと、出来れば運用を僕一人じゃなくてサポートが欲しいね。こう、細かな艤装整備とかにも精通してるような……」

 「明石級か?厳しいぞ?」

 「ある程度知識があれば艦娘でもそうでなくても……いや、外部のチェックできるって意味では艦娘の子が望ましいけど」

 「まあ打診するだけ打診しておいて損はないわな」

 

 その後の中村は名前をどうしようという親みたいな顔と、今目の前にあるこの船に心血を注がねばという顔とを行ったり来たりしていた。弥生ちゃんには二つ返事でOKをもらえた。サポートの子に関しては、今後の実績次第でねだれるかもしれないとのことだった。

 

 

 12:30 食堂

 

 

 昼休憩になって。艦娘ちゃんたちがいつも通りに絡んでいた。

 

 「かーわーかーぜー♪」

 「だあ鬱陶しいって言ってんだろこの!!」

 「アオイいつもあんななのか?」

 「あんなですねー」

 「お姉ちゃんはー、江風成分がないと生きていけないのー」

 「今までどうやって生きてたんだって話になるだろボケがァ!!……あれ?」

 「?」

 「海、お前……ブラはどうした」

 「寝苦しくてつけないでそのままかな」

 「付けろボケェ!!」

 「だって艦娘の体って頑丈だからつけなくても大丈夫だって訓練校で言ってたもん!」

 「この鎮守府一般の人来るンだよ!もし発覚して性癖ぶっ壊して噂立てられてみろ大変なことになるわ!!」

 「……そういえば、雷マ……お姉ちゃんもつけてない気がするのです。こう、当たる感じが」

 「姐さんもかよ!!」

 「おうおう君達男性職員もいること忘れないであげてくれなほら、高校生の浅田君顔真っ赤よ」

 「い、言わないでくださいよ……!」

 

 浅田君は天龍ちゃんが5月に拾ってきた妹さんが難病の高校生君で、来られるときに来てもらって色々と手伝ってもらっている。来年卒業出来たら正式に職員として迎え入れる予定なのだ。ああ、ちゃんと妹ちゃんは快復に向かっているので安心してほしい。

 

 「そういや坂田の兄さんはそのへん平気そうっスね」

 「いやー、俺さ。女所帯なのよ実家。だから慣れてんだわ」

 「あー」

 

 異性の前じゃ出来ないトークだって気にするほどじゃない異性しかいなきゃ問題なくできてしまうから必然的に女の子トークに巻き込まれてしまうんだなぁ。慣れたよ。

 

 「ただまあ、江風ちゃんの言う通り何かしらの切欠で知っちゃったら浅田君みたいになっちゃうわけだ。そこらへんしっかり……って風紀粛正を打診しておくかねぇ」

 「えー、きついのに」

 「サイズ調整してオーダーメイドで作ればいいんじゃないの知らんけど」

 「ついでに大破ストッパー時に一緒に破損しないように工廠妖精達に作ってもらうのも手かもしれねぇっスね」

 「おっけおっけ、そんじゃその旨伝えておくわー」

 「よろしくっすー」

 「……浅田君は慣れような、これが女の園だぞ」

 「……はい」

 

 弥生ちゃんにこの件について相談したら、ついでに服の概念が消し飛んでる梓ちゃんとか数人まともに下着付けてない子がいるのが発覚した。クローズド・サークルな他所の鎮守府ならともかくオープンなとこなんだからここじゃ勘弁してくれよ全く。

 

 

 14:00 第127鎮守府港湾部

 

 

 今日は横須賀の赤城さん達が来て127の連中のしごきをしていた。想定は130の無限に降ってくるイロモノ……パンジャンドラムの中で圧をかけたりその中でちょっかいかけてきた深海棲艦をしばいたりすること。まあ次の作戦に合わせたモノだ。当然クソ厳しいのは見てるだけで分かる。

 

 「同じ赤城ですから、ここはこうできるはずです。そして、ここが甘くなりがちですので……」

 「はーっ、はーっ、は、はい!」

 「ひんんんんんん!!」

 「ヲ……!?!?」

 「なんで一人でウチの主力空母三人を圧倒してるんだろうねあのヒト。やっべーわ横須賀」

 「深雪様がお前に対空術指南してあげてもいいんだよ?」

 「それは羽黒ちゃんに頼みますわー。憲兵隊は別に対空迎撃想定してないんでマジで。っつか、憲兵の手持ち火器程度でどうにかなるもんじゃないっしょ?」

 「なるよ?」

 「パネェ」

 「まあ、そのうちまとめて鍛えてあげるから期待してなよ!さあ羽黒に電、こっちも対空訓練行くぞー!基地航空隊の皆よろしく!」

 「は、はいっ!」

 「今回私突入班だから指定外なんですけうわあああああ」

 

 横須賀の深雪さんはなんか電ちゃんが気に入ってるらしく、割と関係ない時でも引っ張っていくのだ。なんでも、訓練校の時から目を付けていたとのことだがなんでベテランが今期冬の子の訓練校時代を知ってんだ?

 

 「さあ、最低限の回避と迎撃の練習していきますよ!」

 「クッソ参考にならないって!!」

 「いやそうはならんやろ!?」

 「諦めなさい陽炎、黒潮、やるしかないのよアレ」

 「暁ちゃんも128や129の子達よりは頑張ってくださいねー!」

 「引き合いに出されたらやるしかないじゃない」

 

 もう一人の指南役は横須賀の吹雪さん。要するに生きた伝説こと第一やべー部隊勢ぞろいである。俺アレに混ざってしごかれたくないからホント同情するわ。

 

 「加賀さんがいないのが残念ですが……別件で忙しいなら仕方ありませんね」

 「作戦の要だそうですけ、どっ!?」

 「はい、油断しないでくださいね」

 「鬼畜……」

 「ヲヲ……」

 

 今回の作戦の要の一人である加賀ちゃんは同じく要の梓ちゃんとオラクルで修行中である。後の要はうーちゃんなのだが、今日はうーちゃんは非番で長月ちゃんや菊月ちゃんと出かけている。休養も立派な任務である。特に大一番前だし。

 

 

 15:00 アークスシップロビーエリア

 

 

 「お疲れさまでした、加賀さん。大分連携が出来るようになってきました。いえ、加賀さんの方は最初から出来てはいますから私の問題ですが」

 「プレッシャー慣れという意味ではこの訓練期間はありがたいですから大丈夫です」

 

 私と福山提督は適当な惑星に降り立って訓練をしていて、その訓練が終わってアークスシップに戻ってきたところだった。流石にあの訓練を地球でやるわけにはいかないし。

 

 「後は新型艦がロールアウト次第というわけですが……元が即断即決だったので、落ち着きませんね」

 「わかります。もどかしいですよね」

 「威力偵察も頻度を上げれば無駄に怪しまれるでしょうしこうして訓練を重ねる以上にできることがないですね」

 「まあ、敵も馬鹿ではないようですからね……あら」

 「どうかしましたか?」

 「あそこにいるアークス。有名ぼっちプレイヤーのSORO……?」

 「有名ぼっちプレイヤー、とは」

 「ゲームとしてのPSO2のユーザーの中でも腕利きで有名なんですが、誰とも組まないのでそう呼ばれているんです」

 「大人数と一緒にいるように見えますが……」

 「あちらも一方的にですが知っているユーザーですね。†コウ†達のグループ……はて、接点があったのでしょうか」

 「一人新人のアークスが混ざっているように見えますね。パーソナルデータは……ヒューマンのイツキ、ですか。それにこの不明データパターン……なるほどユーザーアークス、というわけですか」

 「すごい本名っぽさそうですけどどうでしょうかね」

 「本名だと不味いんですか?」

 「普通は使わないのが常識です。そうですね、そこからリアルがバレるのは好ましくない、という文化と言えばいいですか」

 「成程。あるいはそういうものにも不慣れな方なのかもしれませんね。それとなんですが」

 「はい、なんでしょう」

 「今の加賀さんのパーソナルデータと彼らのソレはだいぶ違いがあり、一度は地球からオラクルにアクセスしているアークスと加賀さん達は別と捉えていたんです。ですが、そうでもないようですね?」

 「ゲーム越しにアクセスしているか、直接アクセスしているかの違いでしょうか。ゲームだとアバターを自由に作ってそれを動かしているわけですから、抜ける情報も変わるのではないかと」

 「成程。となるとその上で整合性が取れれば……ううん」

 「どうされましたか?」

 「いえ、私が地球に来たそもそもの目的が地球からのアクセスの正体を確かめる為だったんです。現状、それはユーザーアークスという形で地球からゲームとして接続しているようですが、その理由と原因は何か、と」

 「実際にこの世界が実在する、と思っているユーザーアークスはいないかと思います。実際私達も連れてこられるまでは半信半疑でしたし。ただ、何故アクセスできているかというと……バグ?」

 「バグですか」

 「マザークラスタのマザーから依頼が前からありまして。PSO2をプレイして、バグがあったら報告してほしい、と。もしかしたらこの世界の接続自体がそういうバグなのかもしれないですね」

 「マザー氏はPSO2の管理者なのですか?」

 「いえ、そうでもないみたいなんですけど。委託でもされてるんじゃないですか?」

 「ちょっとそこも調べて……いえ、カスラに投げましょう。どうせ地球に工作員を送り込んで勝手に調査しているんです。それに私達は忙しいのですから」

 「カスラ、というとあの六芒の?」

 「そうです。以前会ったクーナという方も含め六芒であり現情報部の頭ですね」

 「あのサラという方は」

 「あちらは元アークスの協力者で現在は正式に所属し、総務部副長となっていますね。もっとも、局長である六芒のマリアが訓練回りに顔を出すあまり、総務部をさぼり気味なので実質彼女が長ですが……」

 「人材にすごい難が見えますけど大丈夫なんですか、アークス」

 「元が元だったので回せていると言いますか。色々と脆弱性があるとは思いますが手探りとなんとかなってきたという油断があるんですよね……駄目だな、とは鎮守府運営をして改めて気づかされましたし上奏はしていますが手が回らず、ですね」

 「ユーザーアークスをある意味のさばらせているのもそういう理由ですか」

 「そうですね。単純に優秀なアークスが増えている、として助かっているのもありますが。何せ現在は再編中。安定した戦力は欲しいところですからね……」

 「そのうちガタが来ますよ、多分」

 「そうですね……ああ、せめて鎮守府とオラクルの情報を同時に扱える人材が欲しい……」

 「世知辛いですね」

 

 その後、とりあえずという形でアークスシップの管制を担うハイキャストという人造人間群の一人をそういう役としてつけてくれるように話がついたらしい。最も、今すぐにというわけにはいかないようだけれど。結局のところ、色々謎はあっても鎮守府として130攻略に集中するしかないようだ。

 

 

 20:00 127鎮守府執務室

 

 

 晩飯前に、今日の報告を梓ちゃんに上げに来たらうーちゃんが休暇から帰ってきていた。他にいるのは天龍ちゃんだけで、弥生ちゃんや秋雲ちゃん、その他地上勤スタッフは定時退勤しているのでいなかった。

 

 「今日の報告まとめてきたぞーってうーちゃんもおかえり。酒臭いな?」

 「長月と菊月が日も高いうちから酒場に連れ込んでくれやがったからな」

 「アレ?俺はお前は長菊とは別行動予定って聞いたぞ」

 「そうだよ天龍。けど、ぼんやり歩いてたらシケた面してんじゃねーぞって連れてかれたんだよ」

 「ご愁傷様じゃん?で、その長菊ちゃんはよ」

 「長月が泥酔して甘えモードになって発情した菊月が持ち帰って今頃いちゃついてんだろ」

 「そういやあいつらそういう関係だったな」

 「そういや長菊ちゃんって個人部屋申請してよかったのにわざわざ相部屋にしてたってそういう?」

 「そういう。なあ、天龍」

 「俺はそういうんじゃねぇよ!!龍田をそういう目で見てねぇし見られてもねぇよ!!一緒にすんな!!」

 「そういや梓ちゃん的にはそのへんどうなん?風紀的に」

 「いちゃつく?仲がいいのは別に良いのでは?」

 「「……」」

 

 あ、この子そういう知識ない?

 

 「卯月、手を出すなよ?」

 「あのなあ……天龍覚えてろよ」

 「っと、話が続く前に上がった要望読んでくれや梓ちゃんよ」

 「ええ。……大体は弥生さんが決済済みの案件ですね。……これは……」

 「何か気になることでも?」

 「いえ、個人的な感傷というかトラウマというか……中村さんには嫌な顔されているのは分かっているんですが」

 「船大事にしろってのと船に名前つけてぇのどっち?」

 「中村ブレねーな」

 「どちらも、ですね」

 「言いたくなきゃいいけど、何があったんだ?」

 「私がダークファルスになる前。一人のアークスだった時の話なんですが……」

 

 梓ちゃんがアークスとして、ルーファとして存在していた時期。アークスはキャンプシップという輸送機で各地に降り立ち調査・戦闘を行う。その上で、支援機としてパイロットのいるアークス戦闘機やら支援機やらが存在しているとのことだった。その上で、ベテラン戦闘機パイロットからは次のように言われていたという。

 

 「戦闘機に限らずキャンプシップもなんもかんもそうだが、フォトンの通りを良くして性能を上げたり火力を上げる調整がどれもされてんだよ。で、逆に強いダーカー因子、つまり反(ネガ)フォトンをぶち込まれると汚染されやすいわけだ。防御クソ雑魚ってわけだな。まあ修理は現地でもパパっとできるぐらいしぶとくもあるんだが」

 「汚染されたらどうするんですか」

 「躊躇わずに脱出だ。浸食された機体はもうダーカーの物。ぶち壊すしかねえ。搭乗者のフォトンが強けりゃ浸食もされにくいんだろうが、パイロットやるような奴は前線張るお前らよりフォトン適性が低いのがほとんどだ。だからサポートに回ってるわけでな。要するに浸食に対しては無力ってわけだ」

 

 そんな説明を受けた後日。先輩アークスの男女2名とダーカー討伐任務を受けていたという。そんな中で。

 

 「こちら戦闘機!支援を行います!」

 「あ、新人君!よろしく頼むよ!」

 「任せてください!」

 (気楽だな、この人達は)

 「あの大変だったって言う修了試験を生き残ったっていう実力、見せてもらうぞルーファちゃん?」

 「ああ、はい」

 「辛気臭い子ねー」

 「……」

 

 あまり思い出したくない凄惨な記憶だったこと、元々コミュニケーションが苦手だったこともあってこういう人との付き合いは苦手だったそうな。それでも積極的に任務や依頼を受けるから評判はとっつきづらいがよく働く新人、と言ったところだったらしい。

 

 「……先輩、ダーカー反応が強くなってきてます」

 「え、本当?」

 「よし、構えろ、来るぞ!新人君、上空はどうか!」

 「き、北に大型……う、うわあ!?」

 

 大型ダーカーから発せられたと思しき砲弾を受け、墜落する戦闘機。そして異変が発生する。

 

 「き、機体のダーカー反応!?浸食されて……この、言うことを、聞け!」

 「いけない!早く脱出してください!」

 「この、この……うわあああっ!!」

 

 戦闘機パイロットの悲鳴を最後に様子の変わる戦闘機。浸食核というダーカー汚染が激しく進んだ対象に発生するコブを出しながら突然浮上しだして梓ちゃん達を向いたそうだ。梓ちゃんの中では、もうパイロットは助からないという確信と絶望と次にどうすべきかで頭を回転させていたが、先輩2名はそうでなかったという。

 

 「新人君、どうしたんだ!」

 「返事をして!」

 「先輩たち、隠れて!」

 「ルーファ、何を言って……ぐあっ!?」

 

 男性アークスに機銃を掃射する戦闘機。棒立ちだった彼はそのまま足を討たれて倒れ込んでしまったという。

 

 「な、どうして……!」

 「はあああああっ!!」

 

 狙いが自分を向いていない今を好機と見て、躊躇わずに浸食核ごと飛び上がり剣戟を浴びせる梓ちゃん。浸食核はそれ自体に攻撃能力を持ち浸食が進んだ証ともいえるが、逆にフォトンの通りがとてもよく、弱点としても機能しているそうだ。だからこそ、それごと叩き切ればフォトンへの通りがいい戦闘機はひとたまりもなく爆散する。

 

 「ルーファ、まだあの子が乗ってたのよ!?」

 「もう、助かりませんしあのままだと殺されていたのは私達で……ッ!避けてください!」

 「え?」

 「ああっ!?」

 

 倒れ込んだ男性アークスを轢いて大型ダーカーが突っ込んできた。それで男性アークスは潰されてしまったという。

 

 「な、あ、嫌、嫌……!」

 「ゼッシュレイダ……!!貴様ッ!!」

 

 巨大な亀のような形をした大型ダーカー、ゼッシュレイダ。錯乱する女性アークスを尻目にその顔に剣を突き刺す梓ちゃん。

 

 「!!!」

 「これ以上は!やらせるものか!!」

 「あ、あ……」

 

 その一撃でひっくり返ったゼッシュレイダのコア部分、つまり弱点。そこに別の武器を取り出し深々と突き刺してトドメを刺す梓ちゃん。2名の犠牲を出しながらも迅速に戦闘を収束させたのだった。

 

 「はぁ、はぁ、仇は……!」

 「嫌、嫌ぁ……!」

 

 下敷きになっていた男性アークスの死体にすがりつく女性アークス。詳しくは知らないけど仲が良かったんだろうって感じだったらしい。

 

 「……先輩、ダーカー因子がまだ濃いです、警戒を……!」

 「なんで、あなたはそんなに冷静でいられるの!?皆殺されちゃったのよ!?」

 「そ、れは」

 

 自分だって激昂していたけれどもそれを敵の殲滅にぶつけていたからこその反応であり、死ぬつもりも死なせるつもりもないから嫌でも切り替えなければいけないと思っての行動だったがそれに対しての糾弾。どう対応していいかわからず返答に詰まってしまったという。

 

 「……先輩は撤退してください。皆さんの遺体と共に。私は、残りのダーカーを殲滅してきます」

 「……」

 

 その先輩とはそれっきりになってしまったという。この手のエピソードは他にもいくらかあって、すっかり輸送機や支援機そのものに苦手意識とトラウマを覚えてしまい、とても大事には思えなくなってしまったのだという。それで、現在のある種支援機を信頼していない対応に繋がっていたという。というか身内判定していない相手への人間不信気味なのもこういう積み重ねなんだろう。

 

 「そういうことの連続で、もう自分自身の手で戦うのが最善と思うようになってしまいまして。どうしても支援機というのが信頼できない……いえ、怖いと言った方がいいのでしょうね」

 「成程なー、そりゃ命預ける気にもなれねぇや」

 「逆に大事にする中村が理解できないってとこか?」

 「そう、そうかもしれませんね。鎮守府司令としていけないのは分かってはいるんですが」

 

 そう言って不安そうに視線を落とす梓ちゃん。その尋常じゃない強さから基地司令なんぞをやっているが、トラウマ的な経験に身を置き続ける羽目になって心をすり減らした年頃の女の子なわけで。まあ割り切るのは難しいだろう。

 

 「そういや、俺が新型艦娘母艦の仕様書見た時、かなーりセーフティ面に重きを置いてるなって思ったけどアレ梓の要望か?」

 「そうですね。操舵を担う中村さんや他の乗員の皆さんを死なせないために。思いつく限りのことは要求させていただきました」

 「その上で中村はどう映るよ、梓」

 「天龍さん?……あの時の彼のように、判断を誤るような方とは思えませんし最善を尽くしてくれると思っています」

 「なら、さ。機体を信じなくてもいいから中村を信じてやれよ。この要望にも期待を信じるんじゃなくて中村を信じるからこその応え、って感じでよ」

 「それがいいなっぴょん。そんなトラウマは払しょくしろなんて無理難題。だったら、別の信頼できるとこを信頼して結果的になんとかなりゃいいだろ」

 「そうだぜ梓ちゃん。それに、『前回』を生き残った俺達はもう仲間を失わせない。だろ?」

 「……ええ」

 

 横須賀組を除けば『前回』の六月を超えられた鎮守府組は俺達4人だけだ。後はタちゃんが合流したぐらいだった。その後『今回』に引き継ぐために奔走をして心を通じ合わせた関係だと思っている。だからこそ、俺達から信頼してほしい。梓ちゃん一人で背負おうとしないで欲しい。それが俺達の総意だった。

 

 その後もポツポツと梓ちゃんが話してくれた内容は、まあどれも悲惨なものだった。そのうち、自分と一緒に戦う奴は死ぬ。だから、その分まで一人で戦わなければならない、と心をかたくなにしてしまったそうだ。その中でおそらく一番信頼できたであろう自分を相棒と呼んでくれた同期に対しても、どこかで見限られたりしないかと不安で自分から距離を取ってしまっていたという。

 そんな中で梓ちゃんが唯一心を許せたのが、非戦闘要員で自分が救助した謎の少女、マトイだった。段々凍り付いていく自分の感情の代わりをするように一喜一憂してくれ、受け止めてくれる。その上で、失うかもしれない戦場には立たない。依存するにはこれ以上にない存在だっただろう。

 それも虚空機関と呼ばれる裏でアークスを牛耳っていた連中の最終作戦で話が変わる。それに狙われ、無理やり梓ちゃんを導いていたオラクル船団の中核を成す惑星の意思、シオン。そのSOSにマトイまでもが武器を取り一緒に戦ったのだという。それも、天賦の才を見せて。そして、同時にアークス全員に無意識にかけられた洗脳――海風ちゃんの時に疑っていた暗示機構はコレだ――によって他のほとんど全て、交流のあったアークスまでが刃を向けてくる事態に陥ったという。

 マトイを心配させないために気丈にふるまい、その中でも影響を受けずに協力してくれる実力者と力を合わせて突破していったものの、内心ズタボロ。人間不信が加速してしまっていたようだった。そして、当然のようにちらつく唯一のよりどころと言えるマトイの喪失。それを極端に恐れるようになったという。当の本人は一緒に戦うことに乗り気で止められなかったという。

 そしてダークファルスとの戦いの中での終盤。最後の強敵を打ち破った際、梓ちゃんとマトイ――実は11年前の超実力者で尋常じゃないレベルでダーカーを狩っていたがなんやかんやで記憶喪失になって未来に跳ばされたらしい――、そのダークファルスの抱えていたダーカー因子が集まってダークファルス以上の化け物へと変貌。誰かがその中核になって抑えなければ宇宙の終わり。そんな危機的状況に陥ったという。

 梓ちゃんは当然の様に自分がそれを引き受けようとしたが、マトイがその分をすべて引き受け、世界を滅ぼす存在――深淵なる闇――のコアになってしまった。そして、その中でマトイをコアから救い出す方法は誰も導き出せなかったという。

 とすればどうするか?深淵なる闇として覚醒する前にマトイを殺害する。それによっていくらかダーカー因子は薄れ、当面深淵なる闇級の塊は出現しなくなる。一応は世界は守られる。それが唯一解であり、梓ちゃんは彼女自身の手でマトイを手にかけたという。それがマトイの願いでもあったから。

 大切なものを全て失った絶望。もっとうまくやれなかったのか、何かなかったのかという悔恨。そして残った大量のダーカー因子。それらのせいで梓ちゃんの体は変質する。つまり時を超える『だけ』の異能と類い稀な戦闘センスを持ったダークファルス【仮面】(ペルソナ)の誕生であった。

 そこから、過去に跳びまくってどうにかしてマトイを救えないかと奔走。ただ、どうあがいてもそれは出来なくて。過去を変えるだけでも大変なのに、世界の命運を左右する一大イベント。ただ時間を遡行するだけはどうにもならないものだという。それに孤独に挑み続け、精神が摩耗し、心がダーカー因子に段々汚染されて行く。その結果、トンデモな解法を導き出してしまった。

 それはマトイが深淵なる闇になる前、更に幸せな時期。そこで殺すこと。苦しみと絶望の中で死ぬ運命に抗う次善策。助けたいのであれば支離滅裂にも程があるが、そんな思考しか出来なくなるぐらい摩耗と汚染が進んでしまっていたという。そして決行するが、ここで出てくるのが過去の梓ちゃん自身だった。要は邪魔されて殺せないのだ。

 そんな中、11年前の時間に跳んで、マトイが一度大量のダーカー因子を抱え込んで深淵なる闇になりかけ、いくばくかの浄化と共に救える可能性があるアークス、つまり梓ちゃんがアークスになる未来へ飛ばされる戦い。そこに出撃したのだという。そこでも過去にアクセスした梓ちゃん自身に阻まれ、失敗。マトイは未来へ跳ばされる。

 本来ならば、それに巻き込まれる形で【仮面】も未来へ行き、マトイを殺そうとするが一つ問題が発生する。おそらく惑星シオンの妨害だろうが、マトイがどこにいるかわからず、アークスになりたて――巻き込まれて跳ばされてきた大量のダーカー相手に大惨事真っただ中――の新人梓ちゃんに先を越されてしまうのが本来の流れだった。

 そこで梓ちゃんは一計を案じる。巻き込まれたらシオンの妨害にあうんだから、巻き込まれないようにいったん退避。そして自分の力でその時間軸、場所に跳ぶことで妨害を交わそうとしたのだ。マトイのいる場所は思い出の場所であり、妨害さえなければ必ず見つけられる場所だったから。

 そうしてその時間軸に跳んだ梓ちゃんは予定通りの場所、マトイが跳ばされてくる直前の時間に転移することに成功する。……成功したかに思えたが、後ろから話し声が聞こえた。自分とバディを組んで修了試験に挑んでいるはずの少年の声だ。それに対して、聞き覚えのない声が軽快に応える。

 そしてそこの様子を見て驚愕する。本来自分がいるべき場所に別人がいるのだ。パニックになった梓ちゃんはオラクルのデータベースにアクセスしていろいろと調べた。そして分かったことは、『この世界の梓ちゃん、もといルーファという少女はアークスになる前に死亡している』ということ。つまり、過去でも未来でもなく平行世界だったのだ。

 パニックの中で予定通り色々転移してくるわ、『この世界の【仮面】』がいることも確認するわで大混乱。思わず目の前にいた同期――しかも本来は合流前に目の前で戦死する――を保護。なんとバラバラに逃げまどおうとしていたらしい。そら死ぬわ。そんなグダグダな中で、ふと一つの考えが梓ちゃんに浮かんだ。

 どうせ、本来の世界に戻ってやり直すことに変わりはない。だから、今回はじっくりと自分の代わりらしきその新人の活動を見て、どこでマトイを殺せばいいか改めて考えなおそうと。汚染された心のどこかで、まだマトイを殺したくないという想いがあったのかもしれないとのこと。多分そっちが大きかったんだろうと思う。

 そんな中でその代わりの奴――今は守護輝士(ガーディアン)と呼称される予定らしい――は梓ちゃんと違い、積極的に人々と交流を重ねた。巻き込んだ。一人で行動しなかった。過去に跳んであれこれする必要がある事態に陥っても、その先で誰かをうまく巻き込んでいった。そしてそれは監視をしていた梓ちゃんですら例外でなかったそうだ。

 

 「チラチラ見てるだけで偶然通りかかりましたーって顔してないでちゃんと付き合え、と面と向かって言われそのまま手を引かれてなし崩し的に関わることになりました。訳が分かりませんでしたし、理解できないとも思いました。だからこそ、心のどこかで何かが変わるかもしれない、という期待もあったように思えます」

 

 そして問題のマトイの深淵なる闇のコア化。梓ちゃんはここで諦めて殺す選択をしたけれど、守護輝士は違った。梓ちゃんだけでなく、今まで関わってきた多くのアークスを巻き込んで。総動員で救うと決意、行動を始めた。そして、成し遂げてしまった。代わりに守護輝士の【仮面】がコアになったが、その意識は消失せずいつか助けられるかもしれない、そんな希望を残す結果としての大勝利だった。現在は抑えきれなくなったら深淵なる闇が小規模――とはいえ惑星一つ飲み込む規模だが――復活、削ることで【仮面】の意識が復活して復活前に状況を戻させる。その繰り返しだという。後でPSO2ユーザーの子たちに聞けば、確かにそういう高難易度クエストが稀に発生するとのことだった。

 そんな解決策と希望を見せられてまで絶望に沈んでられなくなった梓ちゃん――そのゴタゴタの前に自分の正体も明かしていた――は正式にアークスに協力を開始。見届けるだけ見届けて、自分のいるべき世界もそうして救うために。そこまでの無理を重ねて来て浄化を兼ねたコールドスリープをしている守護輝士とマトイの代わりにあちこちを転戦する主力戦力として活躍してきたのだという。

 その中で外宇宙の惑星、つまり地球からの謎のアクセスを検知。調査に降り立ったところで旧127鎮が壊滅するのに遭遇して、勢いで助けて今に至る……ということだった。なんだよこの絶望の盛り合わせとお前は間違っていたんだぞ、協力しろという答えの突きつけは。

 

 「……ですので、私は一人で戦おうとせず、皆さんを信じて一緒に戦わねばならない。けれど、やはり今までが今までで不安で怖く仕方がないんです」

 「失うことがか?見限られることがか?」

 「どちらも。この怪物のような力がなければ何も為せない。けれど、そのせいで、その在り方のせいで見限られるのが怖い。怖いんです」

 

 表情は変わらず。マトイを殺してしまったときから完全に笑うことも泣くことも、表情を変えることもできなくなってしまったという梓ちゃんはそれでも不安を抑えきれないというように俯いて肩を抱いていた。そして、そこに。

 

 「あーずーさっ!よく見て見てろよ、アタシ達を!そんな事情聴いたうえで見限ってるように見えるか?えぇ?っぴょん?」

 「卯月さん……」

 

 首筋に抱き着いて自信満々に言い放つうーちゃん。そして、それは俺も天龍ちゃんも同じで。

 

 「そうだぜ梓。そもそも俺は何も知らねぇうちから重巡級の首を圧し折ってるのを最初に目撃してんだぞ。何を今更だ」

 「それに助けられてきたのも事実。それに、アークスみたいなふざけた暗示もないし今更その程度で見限るような奴が古参なんてしないっての」

 「それに、だ」

 「卯月さん?」

 「もし、130奪還が失敗……いや、夏奈姉達が失われたとしても。アタシはお前を恨まない。お前が頑張っているのは知ってるし、お前ひとりに押し付ける気もない。これは、アタシだけでもないし梓だけでもない。アタシ達全員の戦いなんだ」

 「卯月、さん」

 「だから背中を預けてくれよ、梓。まだ背中を預けるのが怖いんだろうけど、それでもさ。アタシ達は示すよ。その守護輝士の奴以上にお前の背中を預けるにふさわしいってな!」

 「その為に俺達だって色々やってんだ。任せてくれよ」

 「憲兵隊だってそのつもりさ。もう梓ちゃんから失わせない。それこそ、取り戻しに行くんだろ?全部さ」

 「そう、ですね」

 「それに!これが終わったら遊びに行くぞ梓!お前娯楽にとんと疎いからな!娯楽の愉しさに墜としてやる!負の塊みてーなダーカー因子よりもずっと強力にな!」

 「まずはメシだな?」

 「食べる必要がないだけで食べれないわけじゃないよな?」

 「え、えぇ。ただ、食材の無駄に……」

 「いいか?飯は体の栄養でもあると同時に心の栄養でもあるんだ。美味いモンをうめぇうめぇと喰う、そのことに意味があるんだ。おめーの体質なんてそこには関係ないっぴょん」

 「っしゃ、じゃあまずは食堂に行くぜオラァ!」

 「まかないとかなんとかあるだろうしな!それに俺達はなんだかんだで飯がまだだ!一緒に喰うぜー!それと!」

 「坂田さん?」

 「円陣、組もうぜ?」

 「いいなそれ」

 「乗った」

 「円陣?」

 「こう、集まるじゃん?手をこうやってお互い真ん中に伸ばしてー、いいなー?そして動きはこんな感じで一緒にえい、えい、おー、だ。いいな?」

 「えっと、はい」

 「んじゃー、せーのっ!」

 「「えいっえいっ、おー!!」」

 

 これ以降、俺達は大きな作戦前は円陣を組むようになった。梓ちゃんは一人じゃない。それに俺達も一人じゃない。仲間がいる。一緒に、戦える仲間がいるんだ、って。ちゃんと思い出せるように。

 ――そして、130奪還の決行日を迎える。




 アークスの死にやすさ、梓の絶望感はエピソードオラクルベースのモブ厳状況ベースです。さらにアッシュポジなので生みの親がアレってことも発覚しています。アレでアフィンを信頼できなかったアッシュの末路、と思っていただければ。
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