2027年10月頭 11:00 第130鎮守府近海
「いよいよね……暁隊、配置についたわよ!友軍はどうかしら?」
『128夕雲隊、配置につきました。他部隊もスイッチする準備は出来てるわ』
『129鎮守府初霜隊、深海棲艦の合流予想ポイントへ到着。警戒に回ります』
『129、山城隊。いつでも殴り込めるわよ。……で、私達は『ただ殴り込めばいい』のよね?』
「こちら暁。そう、あの空飛ぶ爆弾叩き落して圧かけて、睦月を引っ張り出す。そしたら倒さないで維持。その間に突入班が強行突撃する手はずよ」
『こちら艦娘母艦【白峰(しらみね)】、中村。負傷者の回収準備は完了しているよ、いつでも活用してくれ』
『あれが127の新しい艦娘母艦?』
「そうよ、18番艦こと白峰。命名者は操舵の中村よ」
無事、純白の艦娘母艦が完成してすぐに攻略作戦が展開された。作戦は複数のフェイズに分けられていて、前衛部隊の睦月釣り上げがフェイズ1になる。
「アンタ達、自信の程は?」
「横須賀の赤城さんにしごかれたんです、やってみせます……!」
「赤城ちゃんに同じく!ボビンでもなんでもこいやぁー!!」
「み、深雪さんとの訓練に比べれば……!!」
「……これ、大丈夫と言えるのかしら?」
「ヲ……」
「深雪って奴の訓練ヤバかったもんなー」
「龍田、ヲ、ハも。フォローお願い。横須賀程じゃないと思うから、まあ頑張りなさい……進軍開始!」
領域に進軍してまもなく。空中に反応多数。めちゃくちゃに空中からパンジャンドラムが降り注ぐ。
「空母隊は直撃コースのを狙って!砲撃隊は跳ねてきたやつを迎撃!じっくり進むわよ!」
そうして10分ほど粘って。130から高速で接近する反応が1つ。来た。
「にゃにゃ~?今度は暁ちゃんに深海棲艦の混成部隊にゃしい?」
「現127鎮守府よ。久しぶりね、睦月」
「あっちに山城ちゃん達もいるけどぉ……なんで大人しく放っておいてくれないかにゃあ?」
「130から深海棲艦が吐き出されてる。それが先日127を襲った。それ以外に理由いるの?新司令官がまとめて叩きのめしたからよかったけど、なんどもやらせる気はないのよ」
「そこそこの雑魚がわらわら行ったなぁ、とは思ったけど一人で倒しきったんだ?すごいね?」
「一人でやらせるのが癪なのよ。なまじ一人でできるからその辺りの機微分からないかしら?」
「倒せるならいいじゃない」
「その辺、あんたレディでもナイトでもないわ。要は水野司令官のパートナーとして不適、ってことよ」
「言うじゃない、暁ちゃん」
水野、とは130鎮守府司令官の水野夏奈司令官のことである。卯月も同じく水野姓で水野遊奈だ。そして案の定、このネタを振ったら睦月が喰いついてきた。目と鼻の先で殺気を飛ばし始める。
「夏奈ちゃんは私が守るの。他は、いらない。これまでも、これからも。それを見せてあげ――」
「暁了解。たりゃああ!!」
「!?」
睦月の胸倉を掴んで背負い投げ。ついでにこの面倒くさいメンヘラめ、という想いを込めて蹴りの一つも追加してやる。そして。
「ッ、別方向から反応!?大きさは船!?これが、目的で……!?」
「悪いけど、付き合ってもらうわよ。アンタさえどうにかなればどうにかできそうだから、ね!」
「こ、の……ッ!!」
体勢を崩した状態のまま浮き上がり、暴れ始める睦月。本当にヒトのやることやめている。まあ、想定内なのだけれど。
「ハ、電磁妨害!ヲ、爆撃ぶつけなさい!」
「感覚麻痺っちまいなー!」
「ヲ……!!」
「な、うぐ、うわあああ!?」
ヒトでない電子生命体のようなモノ、であるならそれ相応の妨害手段が存在するわけで。さらに精度の高い爆撃を叩き込んで艦娘母艦の追撃どころではなくしていく。
「この、こんなっ!」
「隙有りよ!」
「また投げて……ッ!?」
そんなこんなで時間を稼いでいると、艦娘母艦が130鎮守府の港に突入する。これがフェイズ2で……爆発した。
「え?」
『こちら瑞鶴、ちょっと!?突入班無事なのアレ!?』
『こちら夕雲、これって失敗じゃ……』
「響曰く、多分これが一番早いと思うよ、とのことよ」
「な、あ、夏奈ちゃん……!!」
しばらく呆気に取られていた睦月が急激に反転、爆発地点に向けて突撃していく。フェイズ2は完了である。
「理由は後で説明する……のかしらね?すると思うんだけど。130がジャミング酷くて通信できてないけど、多分大丈夫。私達はパンジャンドラムの撃退続けるわよ」
『ほんっとに、後で説明しなさいよ……!』
『まだ続けるのには理由が?』
「無限に出てくるように見えるあの爆弾、要は展開にもエネルギー的なリソースも防衛機構の思考リソースも割いてるみたいなの。要は暴れ続ければ突入班の支援になるわ」
『成程、ね……!』
後は頼んだわよ、卯月、皆。
11:30 第130鎮守府港前
アタシ達突入部隊の前には、爆発炎上している艦娘母艦の姿があった。アタシ達自身はまとめて爆発前に梓が転移したので無事である。そしてこの爆発には強力な電磁波異常、要するにジャミングを発生させるようにしてある。つまり外部からの状況把握は妨害できる。その為の自爆突撃だったのだ。
「各種妨害波は想定通り発動中。フェイズ3へ移行します。遊撃隊は分散して機動兵器群があれば破壊、待機している深海棲艦もいれば撃滅を。私と加賀さんは移動。……卯月さん、長月さん、菊月さん、弥生さん、後はお願いします」
「よっし、遊撃隊改め天龍隊、散開!」
「坂田隊支援に入る!一緒に行くぜぇ!」
各部隊が散開した後、アタシに近づく気配が1つ。ああ、やっと会えた。
「久々だな、夏奈姉」
「遊奈ちゃん……どうして、いや、終わらせに来てくれたんだ?」
「なわけねーだろバ夏奈姉」
「そう、です。なんでここまで来て諦めなくちゃいけないんですか夏奈ちゃん司令官」
「攻略しに来たんだぞ夏奈ちゃん司令官」
「フ、私達が来たからには安心して攻略されるといいぞ夏奈ちゃん司令官」
「み、皆いつも通りだね……」
130の面子、特に睦月型は夏奈ちゃん司令官と呼んでいたのをそのまま出すことで毒気を抜く。
「まったくさあ、なんであの時戻ってきて助けて!の一言が言えなかったんだよお前は」
「敵は多くて、皆人を撃つことなんて出来ないでしょう?全滅だったよ、あの先にあったのは」
「それでも、ってアタシ言ったよなー!?」
「それでも!それでも、生きて欲しかったから……」
「堂々巡り、ですね」
「察してやれ夏奈ちゃん司令官。うーちゃんは睦月と心中されたのが悔しかったのさ」
「長月お前」
「いざって時無理やりにでもかばって逃げるのはアタシの役目だーが口癖だったからなうーちゃん」
「菊月テメーもおい……っと、やってる間に来たか」
「夏奈ちゃんから離れろぉぉぉおおお!!」
「っとぉ!」
「散開してたとはいえ、見事にうーちゃん狙い一択です、ね」
遠慮のない単装砲とは思えない連射、魚雷の機構を無視したようなミサイルのような挙動の空を飛ぶ雷撃。そんなものを駆使した睦月が明確な殺意を持ってアタシに攻撃してくる。まあ、山城達に聞いていた情報通りだからやられるつもりはないが。
「随分と武装頼りだなァ、馬鹿睦月ィ!改造ついでにポンコツになったかっぴょ~ん!?」
「煩い、私に勝ったこと、ない癖に……!」
「今なら勝てそうだぜハハハ!」
挑発を重ねつつ捌いていく。梓や横須賀の連中相手に地上戦の特訓をがっつりやってなければあっさりやられていたかもしれない、が。まだやられていない。
「隙を見せたな馬鹿睦月!」
「ッ!?発射管が!?」
「連射がお前だけの武器だと思うなよ!」
「やる、けどねぇ!!」
「げ」
「うわ、再生したぞ」
「夏奈ちゃん司令官、睦月姉さんに再生機能でもあるの?」
「えっと、あくまでも武装はエーテルで出力形成されてるものだから造り直すの簡単なんだよ」
「だそうだぞうーちゃん、頑張れー」
「テキトーな応援ありがとうよ!!」
武装を破壊しても即座に再形成して弾は無限のようで。まともに相手するには本当に悪夢だけれども。……まともに相手するなら、だが。
「……っが!?」
「んぐ、体が……これは……」
「夏奈ちゃん司令官!?」
「……夏奈、ちゃ……アレ?」
「……私達、消滅……してない……?」
「は、ははは、ハハハハハ!!」
「何が、おかしいの、卯月!」
「フェイズ4、完了だって話さ。夏奈姉、外部との情報共有カット!出来るよな!?」
「え、あ、出来る……邪魔もされない……!」
「完了だな、うーちゃん」
「夏奈ちゃん司令官、司令官を支配していた連中はどこまで情報を持ち帰れたか?」
「え?」
「ここが重要、なんです」
「えーと、基本的に私の視界、私の獲得した情報を通してだから……今の戦いを見てたらいきなりシャットアウトされた、ぐらいかな……?」
「っしゃあ!」
「目標達成だな」
「え?え?」
「アタシ達の目標は130の奪還、だが正しくは制御機構にされた夏奈姉とついでに防衛装置になった馬鹿睦月を『消滅させずに確保する』ことだったのさ」
「そんなことが……」
「ちょこちょこ130に侵入してた仮面の不審者いたろ?」
「あ、あのデータ不明の……!」
「アレ、特殊な変装した梓……今の127の司令官でさ。持ちえた情報を使って今回の作戦だったってわけさ」
「でも、あの人だったとしても……私達を消滅させない方法なんて……!」
「出来たんだなぁ、これが」
「卯月さん、そちらは!」
「噂をすれば、だな。梓!完璧だ!加賀もよくやったな!」
「良かった……!」
「やりました。これは盛大に褒められてしかるべきです。ふんす」
「その仮面……本当に……」
「あの時の侵入者……でも、どうやったにゃしい?」
「ええ、それはですね……」
散開直後 工廠
「福山提督。監視などは大丈夫なんですか?」
「複数回の侵入で、そういった『目』は水野司令官、及び睦月さんに頼っていることが判明しています。もしかしたら天龍さん達が破壊しに回っている無人兵器群も可能性はありますが」
「無人兵器、大体壊したと聞いていたけれど」
「壊すたびに補充されていたようですからね。まあ、ペースが追い付いていないようでしたから天龍さん達が今回で破壊しきってくれるでしょう。ついでに深海棲艦部隊の潜伏先も」
「そういった分かりやすい『攻略作戦』の裏で私達が本命を……だったわね」
「ええ。そしてアレが、その本命です」
「随分と大きな装置ですね」
私と福山提督がまっすぐ侵入した工廠の2Fフロア。その壁面に大きな装置がごうんごうんという音を立てて作動していた。
「そして目標がその左上の小型装置です」
「ああ、あれですか。あの大きな装置を弄ろうとしたらデータ消去及び管制人格である水野提督を消しにかかるという」
その装置の端に吸血している蚊のようにへばりついている小さい装置が不気味な赤い光を発していた。これが、『今回の作戦における本命』のようだ。
「ええ。ですから、アレを作動せずに破壊します。……作戦を改めて確認します。私がダークファルスの力を使ってあの小型の制御装置のみを浸食、制御を奪い指示を変更。管制システムの装置への干渉をオフにし、更に浸食。浸食核を形成させます。それのみを加賀さん、貴方に射貫いてもらいます」
「下手に衝撃が広がれば水野提督達に何が起きるか分からない。奪取できる情報も失われるかもしれない。だからこそ、点を射貫く私の具現武装で、でしたね」
「ええ。覚悟はいいですか?」
「大丈夫よ。ここ一番で決めてみせる。その為のオラクルでの訓練だったもの」
「そうですね。……『変身解除』。……ダーカー因子よ、アレを『喰らえ』ッ!」
福山提督がダークファルス【仮面(ペルソナ)】の本性を現して制御装置を浸食していく。元々イレギュラーな形でダークファルスになった福山提督はこの力を使ってこなかったし、そもそもこの力自体大雑把に周囲や目標を強力に浸食していくためのものだ。細かい制御をするものではない。だからこそ、今日までオラクル宇宙で制御した浸食を行えるように特訓していたのだ。
「……制御奪取、指示変更……機能停止ッ!」
制御装置が禍々しいオーラに包まれながら、赤い光を消灯させた。
「さらに浸食、浸食は広げずに深く、深く、深く……!」
ボゴッ、という音と共に制御装置から禍々しい吹き出物のようなものが出現した。アレが、浸食核だ。
「浸食中断、維持、維持……加賀さん!」
「ええ。……射貫く!『ラストネメシス』!!」
小型とはいえ近距離。外すような真似はしない。そして、一点のみを射貫くという意思を最大限に込めて一矢を放つ。放たれた矢は浸食核のみを貫いて、浸食核はその一撃で破裂した。
「これ、で……!」
浸食核が破裂するのと共に制御装置が色あせ、さらさらと粉の様に空気に溶けていく。最大限まで浸食された存在がダーカー因子を一気に浄化された場合に発生する現象だそうだ。そして。
「管制システムの装置の方は……変わらず起動している……!加賀さん、お疲れさまでした。おそらくは、成功です」
「確かめる方法は?」
「管制プログラムである水野司令官が無事であればそれが証明となります。卯月さん達の元に戻りましょう」
「了解です」
こうして、卯月さん達の元に戻って作戦の成功を確認したのだった。
同時刻 130鎮守府
「江風ちゃん、タゲ任せました!」
「っらァ!!」
天龍の姐さんを隊長に私達は130鎮守府に展開している無人機――大体人型サイズで二脚だったり四脚だったり人型だったり形状は様々だ――の掃討を行っていた。幸い、数は少なく囲まれてピンチ、ということはなかった。てーとくがちょこちょこ侵入しては手当たり次第潰していたかららしい。
「なんでこんなのがたくさん配備されてるんですか!というかなんなんですかこれ!!」
「よっぽどこの拠点を取られたくなかったか、在庫処分か起動実験か、好きな奴に賭けてみるかい海風ちゃんよぉ!勝てたら今日の夕飯のおかず一品奢るぜ!」
「それじゃ在庫処分で……きゃっ!?」
「盾役は俺たちに任せな!……いーや、タちゃん達の装備改修からいいモノできたもんだ!」
「坂田!大丈夫か!」
「刀でばっさばっさ斬り倒す天龍ちゃんよりはよっぽど安全だよ!」
天龍の姐さんは横須賀が貯めてきた技術、私達の具現武装やそれを補助する技術を活かしてシンプルに機動力やパワーを強化した上で、艤装の刀で立ち回るようになっていた。多少の被弾は127で共通化した小規模のバリアシールドで無視、それ以外は避けたり斬り落としたりとダークファルスとしてのてーとくの戦い方を艦娘として再現した、という感じになっていた。坂田さん達は深海棲艦のパーツから作った盾を更に使って、銃弾相手には特に有効な盾役兼銃やロケランでの制圧役をしていた。その援護の上で私達が動く形だ。
「……!機械共の動きが、鈍った……?」
「梓から通信だ!制圧完了したってよ!」
「じゃあこの機械たちも停止し……ないんですけど!?」
「バフは受けてても基本は自律ってことっぽいのです!」
「んじゃ変わらず俺達は制圧だな!梓ちゃん達も合流するってよ!」
「ありがたいっスね!……ジャミングが消えて、敵反応!アレは……出撃口か!?」
海に面した出撃口らしき施設――大体の鎮守府だとこういうとこで装備を付けて出撃する形式になる――に深海棲艦の反応が複数あった。先日の127の深海棲艦襲撃が130からだ、としたらどっかに深海棲艦の待機場というか溜まり場があると思ったが、あそこか。
『こちら管理者水野!出撃口のシャッター、閉じます!及び排水開始!繰り返します――』
「シャッターってことは……へっ、敵の閉じ込めってこったな!」
「なら袋の鼠なのです!」
「艦娘組で一気に制圧するぞお前ら!」
「「了解!!」」
「残った機械は俺達に任せときな!」
「頼むぜ坂田!」
閉所に閉じ込められて水も抜かれて地上戦をせざるを得ないただの深海棲艦など、いくらいても地上戦慣れしている私達の敵ではなかった。……そんなこんなで130に残っていた敵勢力の掃討は完了した。領域外で戦ってた暁の姐さんから130に向かう深海棲艦部隊がいたがこれも殲滅したとのことだった。敗走しようとした奴も味方になった睦月さんが文字通り飛んで行って沈めてしまったのだという。味方にすると本当に心強いなあのヒト。
15:00 第130鎮守府
戦闘後の処理を終えて、128や129の面子も含め130にて合流。事情や経過の説明、共有をやっていた……のだが、128の夕雲さんや129の初霜さんに頭を抱えられていた。
「……福山提督はゲーム世界から飛び出してきた宇宙人で、転移能力を使って今回の作戦を、と……。実際に目の当たりした上でも信じ難いですね」
「初霜さん、そちらもだけれど。いくら地上戦を想定して訓練してきたからって言っても艦娘歴半年の子たちが倍以上の深海棲艦相手に閉鎖空間でって滅茶苦茶よ!天龍さん、なんで貴方ももっと慎重にやらせないのよ、もう……!」
「最近感覚が麻痺してたけど夕雲のこの反応が普通だからね?私や龍田がおかしいんじゃないんだからね?」
「いやだってこいつらやれるぜ?やれるのに何を心配する必要があるんだ?」
「暁お姉ちゃんは心配性なんだなって思ってたんですけどそっちが正常だったのですね」
「海風さん、大丈夫?127で辛くない?」
「え?大丈夫ですけど……」
「外部から来た海が適応できてるからって思ってたけど海が忍耐強すぎるだけだったわ」
「一航戦の誇りが、と思って耐えてましたけどやっぱりおかしかったんですねここ」
「そもそも世界最強クラスの横須賀のエース層がビシバシしごいてくる状況がどうかしてると思うの」
「瑞鳳ちゃんの言う通りだけど考えたら負けだなって思ってました」
滅茶苦茶ハードに難題をこなしていたらしい。瑞鳳や羽黒、赤城も色々言ってはいるがなんだかんだでやりぬいていたわけだが。
「ま、そんなこんなのおかげでこうやって犠牲なしでこの激戦を戦い抜いて奪還できたわけだし?結果オーライだろ」
「江風ちゃんの言う通りなのです。そんなしごきを受けてなければここまでついてこれませんでしたし、それは正直嫌なのです」
「ここで譲るようであればそもそも訓練校の時点でドロップアウトしていたわ」
「そうなんだよねぇ」
「劣等生だのなんだの訓練校で言われてたのが根っこにありますよね、私達」
「私達横須賀訓練校の同期組6人はそういう感じだよね」
「それに張り合いたい、で頑張らないとついていけませんでした」
「今年の冬期の子たちは粒ぞろいだったのね……」
しみじみと夕雲さんが言うけど多分私達がどうかしてるだけだと思う。というか、思い返せば演習を繰り返す中で同期の新人が相手になった時は基本的にこっちの勝ちだったのだ。私が最後まで残るのは厳しかったけど、最近は同期ぐらいが相手なら新人組だけでの編成でも誰も脱落せずに行けるようにはなっていた。
『響だよ。君たちの交流の裏で確認作業をしていたけれども。もう一働きしてもらう必要が出て来たよ。梓』
「ええ。……130に残ったログによると3日後、人間側の敵陣営の集会が行われます。同時に別の場所でその協力者も。そこを横須賀と共同して叩きます。それをもって後顧の憂いを断ち、南西勢力への決戦の準備を進めていきます」
「「!!」」
「その敵陣営というのは、今回の130奪還で計画変更などはしないの?」
「横須賀の元帥曰く、それはないそうです。何が彼に確証を持たせたのかは分かりませんが……断言されました」
「そう……私達にできることは?」
「私を含めた地上戦部隊を2つに分け、敵陣営及び協力者を同時襲撃します。その間、当鎮守府だけでは捌ききれない深海棲艦の襲撃が起こることが予想されます。そのカバーリングを今回のようにお願いしたく」
「分かったわ。夕雲もいいわね?」
「ええ。海上は任せて頂戴」
「心強いです。暁さん、その際は参謀の指揮下で暁さんを隊長として動いてください。龍田さんには元々の予定通りの船団護衛遠征を。内外に我々はその上でも通常任務の余力があると示します」
「了解よ」
「任せて」
「地上戦部隊の編成ですが、私が横須賀と共同して敵陣営側の襲撃に参加します。それ以外はこれから志願制を軸に決めていきます」
「……」
「電?」
「……ちょっと、考え事なのです」
地上戦となれば私達具現武装組や憲兵隊が担当になるのだろうが、どちらに行こうか。……と思ったら電の様子がおかしくなっていた。
「……ともあれ、今日は今回の勝利を噛みしめていきましょう。作戦は完了です。皆さんお疲れさまでした」
そのてーとくの言葉と共に、一先ず空気は緩むのだった。
19:00 第130鎮守府沿岸
130に食材を持ち込んで今晩の夕食は軽い打ち上げみたいになっていた。128や129の作戦参加メンバーも一緒だ。
「食うだけ食ったし、夜風の中で散歩でもすっかな……と、アレ卯月の姐さんか?一人で煙草吸って。あ、てーとくが来た」
なんとなく話しかけにくい雰囲気の卯月の姐さんにてーとくが近づいていく。私は混ざるのも気が引けて、聞き耳を立てることにした。
「卯月さん、姿が見えないと思ったらこちらにいたんですね。……隣、よろしいでしょうか」
「梓か。煙くないか?いいなら座ればいいさ」
「では遠慮なく。……水野司令達の元に行かなくていいのですか?長月さん達は集まっているようですが」
「正直夢心地でさ。あの中にいると不安になってな。こうしてこいつを吸って、ああ、現実なんだなって認識してたとこさ」
「その煙草は今自分が立っているのが現実であると認識するためのモノ、でしたね。……卯月さん、私達は、やれたんですよ。確かに、取り返したんです」
「そうだな、そう、なんだな」
卯月の姐さんの声に嗚咽が混じる。
「アタシさ、艦娘になったの、夏奈姉を守る為でさ。ほら、鎮守府司令官っていざって時は自分より民間の被害を抑えるための決断をしなきゃだろ?当然、そこに配属されてる艦娘だってなんだってその為に動かす。じゃああのお人好しでアタシの大好きな従姉を誰が守るんだ、って思ってさ。一人ぐらい、そういう独断で司令官を守る奴がいたっていいだろって」
「それが卯月さんの艦娘になった理由」
「ああ。いくら本人が大丈夫だのなんだの言ったって、アタシが守りたいって思ったんだ。その為に、艦娘になって。まあイレギュラー艦娘になるわ130に転属になるまでかなりかかるわ、130に転属したらなんかもうくっついてる相手がいるわだったんだけどさ」
「気持ちは分かりますよ。私も、マトイが戦えると言っても、誰かを守ると言っても、そのマトイを守りたいのだ、と思っていましたから。睦月さんは……確かに入る余地はありませんね。私が知る睦月さんは感情が強化増幅されていたとはいえ」
「でさ、その『いざ』が起きちまったわけじゃん?あの日」
「私が卯月さん達に出会った、あの冬の日」
「127の暁達が北の姫との決戦してる間のフォローってことで鎮守府を離れてて。北の姫との決着がついた、って報告があったと思ったら130も127も襲撃喰らったって聞いて。すぐに取って返そうと思ったさ。けど、そこで夏奈姉に通信で止められた。敵は人間で私達はもう助からない、127の救援に行けって。実際、130に残ってたりすぐに戻った連中は皆死んで。暁達のフォローの為に出撃していた山城やアタシ達だけが生き残ってさ。それも、途中で追手が来て弥生が引き受けてくれなかったら127に辿り着くことなく睦月型は全滅していた」
「それで弥生さんが第二技研に捕まって、卯月さん達3名が第127鎮守府のあの場に到達した、と」
「そう。だからあの時絶望でぐちゃぐちゃで。辿り着いた127も火の海でもうなにもかもおしまいか、って思った。でも、そこで負傷した天龍達を背に守りながら戦う梓がいた」
「あの時すぐに援護してくれましたから、あれ以上失わずに済んだんです」
「あの時なんてお前、言語解析も出来てなかったから誰が味方か以前に誰が何言ってるのかもわかんなかったのにな。でも、だから助けられて、ここまで一緒に戦ってきてくれて。一度、失敗だってしたのにさ。貴重なやり直しの機会を使ってまでさ」
「あの判断に間違いはなかったと、はっきり言えますよ」
「ああ。だからさ、ありがとう、梓。助けてくれて。一緒に戦ってくれて。一緒に取り返してくれて」
「そして、これからは反撃の時間です」
「そうだな。それが終わってさ、もうお前が地球に用事がなくなってもさ」
「……そうなる日も、あるんでしょうね」
「今度はアタシが、お前を助けるから。支えるから。絶対に」
「卯月、さん」
「ダーカーだろうが宇宙を滅ぼす存在だろうが運命だろうが、ついていって一緒に撃ち砕いてやるからな!」
「……ありがとう、ございます。そう言ってもらえると、すごく、嬉しいです。心強いです。『前回』を含め、貴方を喪っていないからでしょうかね。すごく、頼もしく思えますし、横にいて欲しいと、思うんです。……だから、よろしくお願いします」
「ああ!……あ、梓」
「はい」
「笑って、るぞ……!お前の笑顔、初めて見た!」
「え、私が、笑えて、いる……!?」
「今度は涙が出て、ちゃんと表情出せるじゃないか!」
「マトイを喪って、仮面を付けてもうそんなことは出来ないと思っていました……また、私は、私は……!」
「ああ、ああ!」
思わず、といった感じでてーとくに抱き着く卯月の姐さん。煙草はとうの昔に燃え尽きて回収されていて。もうそんな必要はないと言わんばかりの状況だった。
「卯月、さん、ありがとう、ございます……私、また……!」
「呼び捨てにしてよ」
「えっ」
「こっちの皆をさ、全員さん付けしてるだろ、梓。これから一緒ってことで、さ」
「……ええ、う、卯月」
「……ああ!」
これ以上は野暮だろう。いや、今の時点で大分野暮だったけど。そう思って、私は立ち去るのだった。
「そのうち、『前回』とか『旧127陥落時』とかの詳細も聞きたいなぁ。ま、それは人間側キレイにして落ち着いてから、かねぇ」
その為にも、まずは目前に迫った目標をしっかりと処理していこう。
夕雲「今の127は滅茶苦茶よ……!私が、私達がちゃんと見ていなきゃ……!」
初霜「旧127や130にも同じこと言ってたわよね」
夕雲「だって私達がストッパーやフォローしなきゃ誰がするのよ!!」
初霜「それはそう」
暁「うちの連中が悪いわね……」
夕雲・初霜「お前もだよ」
暁「えっ」
山城「無自覚なの?ぶっ飛ばすわよ??」
瑞鶴(旧127所属)「127を出て、おかしさに気づけたわ……」