少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 敵対人類との決戦、前編です。


35話 電の禊

 3日後 10:30 東京 装甲車内

 

 

 私、電、海、加賀、赤城は坂田の兄さん主導の敵の協力者捕縛の部隊に編成されて、装甲車で移動していた。そんな中、俯いていた電が口を開く。

 

 「赤城ちゃん、地上部隊編成なんて初ですけど、どうして参加したのです?」

 「以前迷惑をかけた私達の両親がいるかもしれない、と聞いたからですね」

 「響お姉ちゃんがその確率は限りなく低い、とも言ってましたけど」

 

 赤城が127に加わることになったあの演習の日に突っ込んできた赤城、そして加賀の両親。横須賀の監視も行き届いているし、不穏な動きは見せていない――響の姐さん曰く見捨てられたのだろう――とのことだった。

 

 「可能性があるなら潰しておきたいですし、どちらにせよ私達の両親を唆した『親切なヒト』。その人物の捕縛には参加しておきたかったんです」

 「両親がいるなら引導を渡すし、黒幕なりなんなりがいるなら後悔させてやるわ。まあ、赤城は突入班ではないのだけれど」

 「余計な手を出されないための周囲警戒も立派な任務ですし、いざ目の前にしたら冷静ではいられないかもしれないので」

 

 赤城は突入目標の建物周辺に艦載機を展開して、敵の増援やらなんやらを警戒する担当だ。

 

 「ドローンなら撃ち落としていい、とのことでしたね」

 「それに『赤騎士(レッドナイト)』、アレの警戒も必要ね」

 「江風達が手も足も出なかったんだっけ」

 「海それは語弊があるぞオイ」

 

 第二技研制圧時に敵の関係者だけを皆殺しにしていった人型機動兵器、赤騎士。引っ張り出せた死体から得られたデータを基に横須賀があちこち手を出していたらしいが、その先々でも証拠隠滅といわんばかりに敵を殺していっているとの話だった。

 

 「アイツ私達を完全に無視して敵の関係者だけぶち殺すんだよ。普通こっちも狙うだろ。全く、反応に困ったよ。……まァ、今回来たら迎撃してやるけどな」

 

 来ると分かっていれば対応のしようもある。今度こそ、奪わせない。と思っている中で、赤城が逆に電に問いかけた。

 

 「電は顔色が優れないようですが、参加してよかったんですか?」

 「私は、大丈夫です」

 「そうは見えないのだけれど」

 「雷さんについてきてもらった方がよかったんじゃ?」

 「もう喋っちまえよ、電。お前の恐れてるようにはならねぇよ。今更ビビってンじゃねェよ」

 「江風ちゃん……」

 「江風、知ってるの?」

 「知ってるというか知っちまったというか。だから電の補佐に編成されたンだよね。私が喋るか?」

 「いえ。私から。……赤城ちゃんや加賀ちゃんの両親を唆した人物、恐らくですが、いやほぼ確実に、ですかね。……私の両親、なんです」

 「「……!!」」

 

 息をのむ一同。罪悪感に押しつぶされそうな顔をする電。そのままぽつぽつと事情を話し始めた。

 

 「私、人の悪意とかそういうのに対するセンサーみたいな能力持ってるじゃないですか。アレ、きっかけは多分、なんでお父さんやお母さんに怒られるのかな、知れば怒られないで済むのかな、ニコニコ笑ってくれるのかな、って思ったからなんです。

 

 電は一人っ子の3人家族。夫婦ともに金遣いが荒く、金が不足すると不機嫌に。逆に懐が潤えば上機嫌に。そんなタイプだったらしい。では、不機嫌な時のはけ口は何か。娘の電だったわけだ。

 当時幼かった電はそれを理解できず、自分の落ち度で怒られているのだ、と思いどうして怒られているのかを知りたい、笑顔でいて欲しい。そう、願っていた。そんな中で感情の種類、その方向、おおよその原因といったものを感知する能力。覚り妖怪一歩手前のような力に目覚めたのだという。

 ……それは良かったのだが、結果として両親の不機嫌さに自分は関与しておらず、またどうすることもできなかったことにまず絶望。なまじ空気が読めるようになってしまったせいで、両親に限らず他の人々の諍いにも一早く気づけてしまい、運が悪いとそのまま止めようとして巻き込まれてしまう――そういう時に距離を素早くとることが苦手だったのだという――そんな環境になってしまっていたという。

 その上で、金や報酬に汚い両親の悪評は自然と周囲に広まってしまい。そんな両親の娘だということで差別的な目を向けられるようにもなってしまったという。なんなら両親のやらかしのせいで遠ざかってしまった友人すらいたという。結果、電は孤立した。

 そんな両親によって、度々金に繋がる活動やらなんやらに参加させられることは珍しくもなく、明日の休日の予定が唐突に潰される、なんてこともあったそうだ。

 

 「私が艦娘になったのも、金に目がくらんだ両親が勝手に申請して艦娘の適性検査をしたからなんです。本当は……ううん、それで電になって。両親の評判の届かない訓練校で同期の皆と仲良くなれて。それで、この生活もいいかなって思った矢先、お二人の両親の突撃だったのです」

 

 加賀達の両親が『親切なヒト』に唆された。それを聞いた電は、真っ先に両親を疑った。また両親のせいで信頼を、友人を失うのではという恐怖に駆られながらも勇気をもっててーとく達に相談したのだそうだ。結果は、限りなくクロに近いグレー。加賀の両親の襲来の直後、電の両親の羽振りがよくなったそうだ。つまり、報酬が支払われたということだ。

 基本的に鎮守府の情報や所属する艦娘の素性なんかは本人が開示でもしなければ秘匿されるが、年頃の娘が軍に参加するのだ。流石に身内にはある程度の情報が開示される。恐らくそれを利用したのだろう。響の姐さん曰く、加賀達の両親以外で怪しいのは電の両親だけだったそうだからまだ監視対象が少なくて楽だ、とのことだったが。

 完全にクロではないこと、これまで両親のせいで築き上げてきた関係を失ってきた電の経歴から、この情報はてーとくや鎮守府の中核メンバー以外には秘匿され響の姐さんが密かに追っていたのだそうだ。私が知ったのは、最近何かないのか、という電の両親からのメールを蒼白になって見つめてから響の姐さんの元へ走ろうとする電とその画面をガッツリと偶然見てしまったからだった。

 

 「そのおかげで、江風ちゃんには色々と相談はしていたのですけど」

 「過去のトラウマのおかげで、お前たちに嫌われたくない、ってのが電がこんな顔してた原因ってわけだ。……で、『電に』思うとこはある?お前ら」

 「話は衝撃的でしたが……電は悪くなくないですか?」

 「ただの被害者じゃない。むしろ私が先に手を下さない方がいいって分かってやることが見えたって感じね」

 「電ちゃんを嫌う要素、今の中でありました?」

 「え……」

 「言ったろ?そんなんで見放すような連中じゃねェって。ま、気持ちは分かるがよ」

 「……」

 

 胸をかき抱くようにして目を瞑る電。やっぱりついてきて正解だったな、と思いつつ電のメンタル的な補助として編成を決めたてーとく達に感謝する。

 

 「お前は今回の作戦ではっきりさせてやるンだろ?『クソ親共の娘』じゃなくて『127の電』だってさ」

 「……はい。私は、私も。ケリを、つけます……!」

 「ハ、改めて覚悟決まったみたいだな」

 「あの、電ちゃん。さっきの適性検査なければ本当は……っていうのは?」

 「あぁ、マザーに、『貴方には力がある』って言われて。マザークラスタに誘われてて艦娘の適性検査がなければマザークラスタ関係者が通う東京の高校に進学予定だったのです。その前に艦娘に適性が出て、それどころじゃなくなりましたけど」

 「それこそすぐに艤装解体をしてそちらに行く、という選択肢はなかったんですか?」

 「あったんですけど、マザーに言われまして。『君のように声をかけたが艦娘になることにした人が何人かいる。彼女らをサポートしてあげて欲しい』と」

 「それってもしかして!」

 「私達のことですか」

 「私ら3人のことだね。マザーからすりゃびっくりだろうよ、声かけた奴が揃いも揃ってマザークラスタの管轄外な艦娘になる!ってンだから。だったらちゃんと意識配れるようにしておきたいってとこだったンだろうね」

 「両親から逃げ出した私が言えたことではないですが、皆さんよくもまあ……」

 「えへへ」

 「褒めてないですよ海風」

 「えー」

 

 そのまま緩い空気になる中でふと疑問に思う。

 

 「なァ、電」

 「どうしたのです?」

 「お前は、『マザークラスタの電』か?それとも『127の電』か?どっちの意識でいるンだ?」

 「それは……どっちになるんで、しょうか」

 「ハギトさん達とも仲良くやってるからごっちゃになるけど、どっちなのか……お前自身が決めておいた方がいい、って思うよ。まァ、どっちでもある、でもいいンだろうけど、さ」

 「そう、ですね……私は、どちらでいたいんだろう……?」

 

 これまで振り回されることしかなかった電。だからこそ、自分の立ち位置はどこだって自分から言い出せた方がいいんじゃないか、と思ったのだ。逆に私は私だ、って突っ張って孤立していた――それこそ友人と認識しているのは後輩の友永ら一部ぐらいだ――私が言えたことではないのだが。

 

 「おっと、お喋りはここまでだ。α地点に到達。赤城ちゃん、準備よろしく!」

 「了解です、赤城、出撃します!」

 

 目標の建物付近に到達した。付近の確保してあるビルの屋上に赤城と護衛の憲兵隊の一部が展開する流れだ。

 

 「まずは目の前のこと。……電、やります!」

 「背中は任せて」

 「頑張りましょう!」

 「お前は前向いてな。脇は固めるから、さ!」

 

 さあ、私達も出撃だ。

 

 

 11:00 東京 目標地点のビル

 

 

 「1階は喫茶店、シロ。その上のフロアは皆テナント募集中の空き家で6階の最上階がホール状になってて目標ポイントだ。……で、5階まで何か仕掛けられた様子もなし。ってわけで6階の制圧するぞ。第二小隊は屋上を調査してくれ」

 「了解、坂田隊長」

 「っし、準備はいいかおめーら」

 「いつでも構わないわ」

 「ふんす!」

 「……はい!」

 『こちら赤城、周辺区域にドローンなど怪しいものはなし。赤騎士への警戒を強めます』

 「赤城、あの速度じゃ艦載機じゃ止めきれねぇ。察知と突っ込んできてからの迎撃のサポートで割り切って頼むぜ」

 『了解です』

 「よし、んじゃー……坂田班、突撃!」

 「127鎮守府だ!てめぇらそこを動くな!」

 「下手に抵抗しようもんなら殺すぜ!」

 「「!!?」」

 

 私達の殴り込みに驚く集まっていた一同。司会のような男がどこかに連絡を取ろうとして、坂田の兄さんに撃たれる。

 

 「がぁ!」

 「有言は実行するタイプなんだ。撃たれたくなきゃ今度は膝をついて手を後ろに組みな!」

 「ひっ……」

 「お、お、お前は絵梨花!絵梨花なんだろう!俺たちを助け……」

 「そうよ、私達を助けなさい絵梨花!」

 「……」

 

 電の本名は絵梨花っていうらしい。そして、深呼吸をする電。

 

 「抵抗するな。テロリストの協力者共め」

 「なっ――」

 

 ズドン。電が父親らしき人物の真横に拳銃を発砲する。手は震えている。

 

 「いい、加減に、その親面を止めろぉ!!」

 

 更に発砲する電。これ、止めたほうがいいか――「電ちゃん、2、3人程度ならやっても問題ないよ」――と思ったら坂田の兄さんが逆にゴーサインを出した。そのまま、抵抗を止めた連中から一人ずつ連行していく。

 

 「お前たちのせいで、どれだけ、どれだけ!!そしてまた!私の信頼を奪おうとして!!大切な友達に危害を加えて!!のうのうと!どの口がぁ!!」

 

 電が怒りに任せて弾を撃ちきる。あれは何発撃ったか意識してないだろう。連装砲の弾数はもっと多いし、エーテル弾に関しちゃほぼ無尽蔵なのだ。

 

 「このっ……あれ、あっ」

 「スイッチ。リロードしろ電。アンタらには色々問いただしたいことがある。逃げられると思うなよ?必要とあればその腕でも足でも斬り落としてやるからな」

 「ひっ……!」

 

 そうした中で電の両親も抵抗する気力を失ったようで、呆然として蒼白な顔でこちらの指示に従い始めた。その直後。

 

 『こちら赤城!急速に接近する反応1!赤騎士です!!方角は……そちらの窓側!』

 「全員伏せろぉ!!」

 「「!!」」

 

 大きな窓を銃撃で割って乱入してくる赤騎士。このフロアから数人連れ出しているから最低限の目標は果たしている、が。

 

 「目標確認、排除開――」

 「具現武装!!折角の情報源が、司令官からの信頼がぁ!台無しになるでしょうがぁ!!」

 

 激昂した電が容赦なく撃ち込み始める。今だ。

 

 「連携していくぜ!そらよォ!」

 「!」

 「ハ、異能者相手は慣れてるってか?そら、捌き切って見せろよ、『オウルケストラー』!海!」

 「主砲発射からの、『ゾンディール』!」

 「!!」

 「『シンフォニックブレイク』!加賀!」

 「その頭、抜かせて頂きます。『ラストネメシス』」

 「グッ……」

 

 作戦はいたってシンプル。やられる前に畳みかけろ、だ。

 

 「ジャミング装置、起動!ほうらセンサー妨害だ耐えられるかよマシン野郎が!」

 「沈め!『プロミネンスアサイル』!!」

 

 坂田さんがジャミングを起動しての、〆に電がてーとくがアークスで開発中という大技――正式採用されれば解式PA(フォトンアーツ)と呼ばれるらしい、てーとくの大剣PA『インペリアルグリーブ』と同系列技だ――を放つ。ランチャーから強力な連撃が強力な追尾と共に飛んでいく殺意の高い攻撃だ。

 

 「ガ、戦闘に支障……」

 「これで!」

 「排除、続行……ッ!?」

 「ッチ、まだ……あん?」

 「目標変更。……やらせない」

 

 突然何かに気づいたかの様子の赤騎士が反転、凄まじい速度で離脱していく。どうやらしのいだらしい。

 

 『こちら赤城。赤騎士の離脱を確認。方角は……福山提督達の作戦領域の方角ですね』

 「アレだけ叩き込んでまだ仕留められないんですね……」

 「ですが、やりました」

 「アレの気が変わらないうちに全員連行だ!急げ!」

 

 赤騎士の撃退と同時に、通信が入る。てーとく達の方も突入したらしい。だからそっちに向かったようだ。アレのマスターでもあちらにいる、ってことなんだろうか。

 

 「なんですかあの装甲。凹みはしましたけど、私頭を吹き飛ばすつもりで射貫いたんですが」

 「胴体の装甲も表面はべこべこになってたけど機動には支障がない程度だったな。ホントこっちを狙うんじゃなくてよかったぜ……」

 「……さあ、立て」

 「やめ、絵梨花、撃たないで……」

 「私は、もう、お前たちの娘じゃない。私は、私を信頼してくれる人の為に戦う。それだけです」

 

 両親が連行されて行くまで銃口を逸らさなかった電が、ようやく銃を降ろす。

 

 「っはぁああああ!!私、やれました?うまく、やれましたか?」

 「お疲れ、電。完璧だったよ」

 「これで、司令官にも褒めてもらえますよね?」

 「ン?ああ、そうだな?」

 「勝ち得た信頼、大事にしていかないと。えへへ……」

 

 これは、変なスイッチが入ったかもしれない。まあ、その時はその時かと思考を放棄する。

 

 「よし、それじゃ俺達も撤収!梓ちゃん達の方は遠すぎて間に合わないから、鎮守府に戻るぞ!そのまま尋問タイムだ!尋問に参加しない子たちは帰りついたらお疲れさん、帰るまでが作戦だぞー」

 「「了解!!」」

 

 後はてーとくたちがどうなるかだ。大人しく報告を待つとしよう。




 海風「さっき、電ちゃん福山提督のこと『司令官』って」
 電「思ったのです。私にとっての司令官さんは、他の誰でもない、福山司令官だけなのです。だから、司令官さんでいいのです」
 江風(吹っ切れたらでっけぇ感情が顔覗かせ始めたぞオイ。ま、頑張っててーとく)

 梓「!?」
 卯月「どうした!?」
 梓「……気のせい、のようです」
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