9:00 第1鎮守府
「福山、以下第127鎮守府隊到着しました」
「うむ」
「久しぶりデスネ、皆さん」
アタシ卯月達黒幕襲撃担当は横須賀に一度集合して横須賀隊と一緒に出撃する予定になっていた。面子はアタシ、梓、天龍、タとルの5名だ。他の陸戦担当は協力者側に回している。127には残りの人員が参謀指揮下で夏奈姉と睦月もサポートしている上に128や129も動く準備が出来ている。防衛は問題ないはずだ。
「金剛さん、128を出て大丈夫ですか?」
「代わりの人員を配備しているので問題ありまセン。今回は私もケリをつけたい案件ですからネ」
128に出向していた金剛さんや桐ヶ谷さんら憲兵隊も参加。今回は完全な陸戦となる為、横須賀からは元帥と横須賀の主力憲兵隊+金剛さんが編成メンバーとなっている。
「作戦までにはまだ時間がありますよね?先に疑問点を解決しておきたく」
「なにかね、福山提督」
「……本作戦を決行するに至った証拠、といいますか。第130鎮守府に残されていたデータから何を見出したのかが一つ。赤騎士(レッドナイト)、あの正体についてが一つ。……何か確信があるのでしょう?」
「……」
「同時進行で私の部下を地上戦に送り込む手筈となっていますし、今までの戦いから我々は知る権利があると思いますが」
「……そうだな、話しておこう。まず、今回攻める敵陣営の総大将は私の旧くからの友人だ」
「……!」
曰く、元帥が艦娘組織に関わる前からの海自組織の友人3人組だったそうで、もう一人は深海棲艦との戦いの初期、『終の海』出来る経緯の戦いの決戦で落命した。その後、段々と今回黒幕と思しき人物も距離を取り、今では何をしているか分からなくなっていたという。ただ、怪しい連中とつるんでいるいるどころか元締めになっている可能性がある、という不確定情報は入ってきていた。
「今回、奴だという確信と決行日への確信を得たのは、130の残ったデータを解析していた時に集会の決行日が送られてきたからだ。我々3人が半ばふざけて作った符丁と共にな」
「……貴方方しか知りえない符丁、ということですか」
「うむ。私は、まだ奴を敵だと信じ切れないのだ。だからこそ奴が敵でない証拠を集めようとしてきた。だが、集まったのは奴が敵である可能性と、敵であるからこそ敵勢力を抑制できている可能性だった」
「抑制?その黒幕の人物が歯止めをかけている、と」
「ああ。想定通りであれば、非人道的な実験や第二技研がやっていたような行動はもっと激しくなっていたはずだった。比叡と霧島、稗田と桐ヶ谷という方が通りがいいか。二人が落命するフリをすることになった事件も、そういった連中の行動を予測できていたからであり、その加速度も予測できていたことだった」
「それが想定以下になっている、と」
「大幅にな。それでも9年だ。抑制されていても表立って行動できた第二技研を始めとした連中が動き始めるには十分だった。そして、君たちの鎮守府が襲われてしまった」
「……ええ、ですから仮に貴方の旧友であったとしても討伐隊に参加した以上、殺しますよ、元帥」
「承知の上だ。無論、先程の情報だけで奴が黒幕であり抑止力であり。今日が決行日であるという確証を得るには至らん。もう一つのキーが赤騎士だ」
「何か分かったのですか?」
「元々赤騎士は、我々3名の妄想の産物だった」
「!?」
曰く。艦娘どころか深海棲艦が出現する前から元帥がデザインし、落命した方がコンセプトを考え、黒幕と思しき人物――通称『閣下』と呼ばれているらしい――が装備などを考える、空想遊びの代物だったという。なんなら刻印されていたエンブレムも元帥がデザインしたそれそのものだったという。
もっとも、実用化できる程ロボット技術は発展していなかったしその後現れた深海棲艦には自律機械どころか直接人の手で攻撃しないミサイル、果ては銃までもがロクに効かないのだ。艦娘の登場も相まって、そういう方向の研究は廃れていった。
「では、我々が第130鎮守府で交戦した自律機械群、アレは一体?」
「戦闘用自動機械の研究は日陰になり廃れたとは言ったが、誰も研究していないわけではなかった。それが、敵側だったというわけだ。艦娘に代わる、ないし共闘できる兵器として度々議題に上がっては非効果的で非実用的だと却下されてきたがね。君たちが交戦した機体はそれらの却下された案が実用化、ないし試験運用された場合ああなるだろう。という形そのものだった」
「非公式的に研究、製造されてきたと。まあ、対人用には十二分でしたからね」
「艦娘にも人間にも実弾を搭載すれば通用するからな」
まあ、梓はダークファルスの非フォトンへの耐性を利用して正面から撃破してアタシ達もなんだかんだで撃破したわけだが。
「そして、それらの研究を集約し、量産を考えない一点物として研究を続ければ。……赤騎士も不可能ではないかもしれないと言ったところだ」
「実際、交戦してみて他の機体とは性能がかけ離れていましたね」
「私が奴を未だに完全に敵だとみなせない理由も赤騎士にある。アレは、我々を襲わなかっただろう?」
「第二技研でも私達は一切攻撃を受けませんでしたし、自爆処理も十二分に逃げられる時間設定でしたね」
「その後我々の部隊が各所で遭遇したときも同様だった。……1回もだ。1回も真実を暴きに来た我々を攻撃しなかったのだよ」
「確かに、疑問に残るところではありましたね。攻撃しなければ諦めるというわけでもないのに頑なにこちらを攻撃しないというのは」
「その上で私に送られた暗号文の内容だ。『艦娘の出自の異なる世界で面白い作戦を決行していたようだな。参考にするとしよう』とのことだ」
「我々の行動を把握していた!?」
「あの時に南西勢力の一部がいたなら疑問に思うこともあるまいよ。あからさまに指揮系統の違う深海棲艦、あるいは北の姫の勢力だったル級と分かったかもしれん。それが鎮守府を襲い、そこで要人が軒並み死亡したなどと分かれば我々が手を下したと判断するには十二分だろう。とはいえ、当時判明したとして手出しする余裕などなかっただろうが」
「……成程。そして南西と繋がっている敵勢力も知るところになった、と。索敵範囲にそういった反応はありませんでしたが」
「おおよその状況と事後の情報でそれぐらいは掴めるだろう。もっとも、君の転移能力までは把握できなかった辺り索敵範囲内でしっかりと犯行現場を確認したというわけではないだろうがね」
「……一つ質問いいか?」
「何かね、天龍君」
「ソレを参考に、ってことは……その閣下とやら、死ぬ気か?」
「そうなるな。だからこそ、私が直接確かめねばならんと決意したのだ」
「疎遠になる前は私達とも関りが深い人物デシタ。私も他人事ではいられマセン」
「それでこの布陣になったってわけか」
「これまでの敵勢力の動き、赤騎士の動向、あの世界を把握した上でのその文言、それらが根拠と。とりあえず、信じさせてもらうとしましょう。水野司令もおおよそ間違いはないだろう、とのことでしたから」
「制御下にあった彼女もそう認識しているなら猶更だな。確認はこれでいいかね、福山提督」
「ええ。ですが」
「うむ?」
「一つ。その閣下とやらはお望み通り殺します。そしてもう一つ。先陣は私が切ります。貴方は絶対に死ぬような行動は慎んでください」
「……うむ」
「これは予想ですが、戦闘自律機械群は今回襲撃する敵拠点にも存在するでしょう。であれば相性のいい私が前に出るべきだ。タさん、その後ろを任せます」
「了解だよ、梓」
「そこを私が吹き飛ばせばいいか?」
「今回攻める敵拠点は地下施設です。ルさんの火力では施設崩落の危険があり、その奥に脱出口でもあれば逃げられてしまうかもしれません。指示があるまで、砲は控えて頂くよう。銃火器の方を使ってください」
「ちぇっ、分かったよ」
「さて、改めて敵拠点を確認しようか」
目標拠点は内陸にある元公民館。公民館の周囲は広く敷地がとられていて、隣接する建物などはない。この建物の地下部分を拡張し、そこで敵勢力は度々集まっているとのことだった。閣下とやらの情報通りであれば公民館の出入り口を除いた隠し通路は1つ。丘の下の民家の地下に繋がっているとのことだ。
そこでフェーズ1として隠し通路含めた全出入り口の憲兵隊による封鎖。公民館側の出入り口は正門と裏門、通用門と車用門の4か所で横須賀憲兵隊の多くはここで分散させることになる。フェーズ2として127組と元帥、金剛さん、桐ケ谷さんら金剛憲兵隊+αの人員で正門から突入。念のため地上階を制圧したのち地下通路へ。フェーズ3で集会会場となっている地下空間に突入、制圧。確保よりも逃がさないことを優先するため余裕がなければまとめて殺していいとのことだ。
推定される敵は敵集会に参加している人員の護衛となる兵士や艦娘。そして130で散々相手をした自律機械群。どちらにせよ相性のいい梓を前衛として取りこぼしを残りのメンバーで狩って制圧していく流れだ。後は赤騎士だが、これもできれば今回でケリをつけておきたい。元帥の話が本当であれば、ここで出てこないわけがないのだ。
11:10 旧公民館前
『元帥、封鎖部隊各員配置につきました!現在敵の反応はありません!』
「了解した。本隊、動くぞ!」
「「了解!!」」
アタシ達が動くのと同時に赤城から連絡が入る。あちら側に赤騎士が現れて撃退、こちらへ向かっているとのことだった。
「赤騎士に邪魔される前に進めるだけ進みます、突入……『ギルティブレイク』!」
「内部に敵反応あり……上にもいるぞ!自律兵器!」
「『ノヴァストライク』!1階は私に任せて、上のは卯月!天龍さん!」
「よっしゃあ!」
「任せな!」
入ってすぐが吹き抜けのホール状になっていて、2階の廊下から自動兵器が最初に突入した梓を狙撃している。その程度なら跳躍でどうとでもなる距離だ。
「各員、続け!予定通りに各部屋の制圧を!」
「ル、行きますヨ」
「主砲が使えない代わりにこの銃火器でやってやればいいんだろう!やってやる!」
「福山提督、地下通路の確保を!」
「福山了解」
11:30 旧公民館地下通路
地上部を制圧――といってもほとんど兵力はなかったが――したアタシ達は地下通路の攻略に取り掛かっていた。狭い通路を自律兵器が塞ぐように弾幕を張ってくるが、狭いからこそタが全て防いでの梓の強行突破で進めていた。
「この先広間!……レーダーに反応、艦娘が居ます!」
「防衛にあたっていた自律機械(オートマータ)が……!?侵入者を通すな!」
「我々は横須賀鎮守府だ。貴官らにはテロ容疑がかかっている。投降すれば命は取らん。しなければ……福山提督」
「『イグナイトパリング』」
「そこの自律機械(ガラクタ)のようになる」
「随伴機が……!総員、主砲斉射!通すな!」
「ここで投降したところで!!」
「お前たちが死ねば!」
「やれやれ、だな。制圧」
「『ノヴァストライク』」
「効いていない!?うわあああっ!!?」
「艦種が何であれ。剣戟に対する耐性はありませんからね。……制圧完了。大破ストッパーで死んではいませんが意識は失っていますね」
「武装を解除させて縛り上げておけ。奥に続く経路以外の道を制圧せよ!」
通常火器を使った兵士がどうあがいても深海棲艦に歯が立たなかったように。ダークファルスとしての性能を発揮している梓には自律機械も艦娘も手が出せなかった。海風や天龍が勝てたりしたのはあくまでもエーテルという特殊属性によるものが大きく、後はわざと負けを宣言したり不知火の側が抑えたりした結果だったのだ。本気で止まらず殺戮する気になれば127総出でも梓を倒すことは困難だろうし、倒せたところで完全に滅ぼすことは出来ないだろう。出来るならそもそもアークスがダークファルス相手に長年苦戦はしていない。そんな格の差を利用した一方的な戦いだった。……そんな梓が勝てないという守護輝士(ガーディアン)とは一体何なのだろうか。
11:50 旧公民館地下奥
脇道を全て潰して集会場らしき広間に辿り着いた。下部に席がいくつか設けてあって、せり出した2階部に進行役などがいる形の様だ。そんな下部には武装した兵士と艦娘、2階部には白髭を蓄えた元帥と同年代らしき初老の男性が一人。閣下と呼ばれる人物だ。
「それなりに戦力を配置していたはずだが、誰一人として欠けず辿り着いたか。なあ、沖田」
「……東雲」
沖田は元帥の、東雲は閣下とやらの苗字だ。本人であっているようだ。
「総員、下がりなさい。戦うだけ無駄だよ、ここまでの戦力は諸君らにも覚えがあるだろう」
「一人として逃すつもりはありませんが」
「まあ、そう言ってくれるな。後は私と彼がやる。下がりなさい」
「「了解」」
「元帥」
「構わん。どうせ袋の鼠だ」
「……了解」
「して、東雲。彼というのは……赤騎士(レッドナイト)か?」
「その通りだ。出て来なさい」
「……」
天井部から出現する赤騎士。頭部と胴体がべコベコになっているのは別動隊の奮戦のおかげのはずだ。
「こうしてじっくり見れば、『俺達の赤騎士』だとよくわかるな、東雲よ」
「自律機動し自身で物事を考えられ、私達の発想通りの性能を持たせる。ここまで作り上げるのに長年かかってしまったよ」
「どうせ作るなら声をかけてくれればよいものを。寂しいぞ」
「すまんな、こうして裏で作らないと費用も出ないもんでな」
「それは今まで壊してきた自律機械(ガラクタ)のことか?」
「ああ。アレの開発ついでに技術をやりとりして作ったワンオフこそがこいつよ」
「表の議会じゃ馬鹿正直に機動兵器を作りたいと言ったところで却下されるからなぁ」
「技術の発展そのものは重要だと思うのだがなぁ。さて、その力を見せてやりなさい、赤騎士よ」
「はい、マスター」
「福山提督」
「思い出の機体であるようですが……破壊します。ルさん、金剛さん、援護射撃を!」
「任せろ梓!」
「東雲閣下……!」
「卯月、天龍さん、他に戦力が出てこないか警戒を!」
「任せな!」
「流石に江風達の総攻撃に耐えるアレには火力が追い付かねぇもんな」
エーテル組の大技を全弾叩き込んだうえであの稼働状態であれば、アタシや天龍の攻撃だと火力が足りないだろう。アタシ達の警戒の中、梓が前衛として赤騎士に突撃する。この空間自体が結構広く、それを利用した3次元の高速機動戦闘を展開する赤騎士。その攻撃を受けつつ梓が追い立て、そこにルや金剛さんの砲撃を差し込んでいくが……当たらない。
「流石に早い!」
「大人しくしやがれ!」
「反応速度が速すぎマスネ……!」
「エーテル弾に切替。戦闘続行」
「ッチ、流石に対策しているか!だが!」
「転移反応……!」
有効打になるであろうエーテル弾を空間転移を活用して被弾を防ぎつつ奇襲を行うことで対処する梓。こちらの攻撃が何発か攻撃が赤騎士に刺さるが、浅い。
「こと陸上戦に関しては金剛君にも負けないように、と詰めたものだが……宇宙人だったかな、よくその者を味方につけたものだ、沖田」
「知っていたのか?」
「噂程度にはな。ただ、理屈づけて理解の及ばないモノ、すなわち『宇宙人ではない』ことに人はしたがるものだ。それに、それらしき異常行動は表立ってやらない方針もあったようだから本当に宇宙人だと信じる者は皆無だったがね」
「それでもお前は信じた、と」
「ただの強いだけの異能者をお前が後生大事に抱え込むとは思えんからな」
「よくわかっているな」
「当然だ、友よ」
「友と思ってくれているのなら。ありきたりなセリフだが……なぜ、このようなことをしているんだ東雲」
「私は私なりのやり方で本庄の願いを叶えようと思っただけだ。その為には、表を沖田がやる以上私は裏に回るべきだ、と判断したまでだ」
「……本庄が?」
本庄、というのは『終の海』が出来る前の戦いで戦死した元帥たちの同期で、親友3人組の一人であったはずだ。
「……お前のサポートを頼む、とな」
「であれば、俺と一緒に……!!」
「一緒であれば何が防げた?お前たちを阻むその障害を。比叡君と霧島君を狙ったような勢力を」
「……まさか、その為に?」
「それに限らず。裏の者というのは空白があればどこからともなく流れ込むものだ。ならばいっそのことその首魁として操作してやる方が表面も穏やかであっただろう」
「オイ、テメー」
「元130の卯月君だったかな」
「操作して、なんでアタシらを、皆を襲いやがった!制御できたなら、何故!」
「制御していなければもう3年は早かっただろう」
「ア……?」
「南西方面からの深海棲艦勢力。連中と結びつかなければ。そして第二技研の暴走を後押しする存在が居なければ。もう少し抑え込めたのだがね。私が居なければそれらがなくとも3年前には少なくとも130の睦月君には手を出していただろう。当然、その所属鎮守府である130共々」
「まだマシだって、そう言いてぇのか!?」
「その通りだよ。抑え込んでいたからこそ127、128、130だけで済んだ。そうでなければ欲望の手は更に広く、深く伸びていただろう」
「そんなの、納得出来るわけが……!」
「であれば。この場でそれを明かしてどうする、東雲」
「今後の参考にしてもらえればと思ったんだよ。数年後以降は保証は出来ないが、これでしばらくは表のお前達で制御しきれることだろうよ沖田」
そう言って何かのボタンを押す東雲。
『自爆装置作動。10分後に作動します。繰り返します。自爆装置作動――』
「東雲!?」
「予想はしていただろう?そういう文言を送ったはずだ」
「何がしたい!」
「先ほど下がらせた者、そして共にここに集った欲望を満たさんとする裏の者共。彼らは全てこの先のシェルターにいる。そこは自爆装置でも無事なようにできているから、ほとぼりが冷めたら脱出する手筈になっている」
「梓!突破して先に――」
「そう慌てるでないよ卯月君。……そう作ってはいるが、私がこの手でシェルターを解放する。爆破直前にね」
「お前……自分ごと裏勢力を一掃するつもりか!」
「いかにも。今、奥に居るのは生きている限り影響の大きい者ばかりだ。生還すれば工作して手が出せないようにもなるだろうな。ならばどうすればいいか?今、この場で殺せばいい」
「お前は……制御できなくなったら最初からそうするつもりで!?」
「そうだ。その上で重要な証拠は私の家に保管してある。これが終わったら妻に会いに行ってくれ。内容こそ知らせていないが、お前が来たら鍵を開けるように伝えてある」
「馬鹿野郎、お前も生きて今後も……」
「私が生き残れば、か。なあ、沖田。こんな悪の親玉のようなこと、やるもんじゃあないよ」
「東雲?」
「私は疲れた。裏の者も大きくなってしまったが、表の者もだいぶ育ってきただろう。お前ももう少し頑張れば、世代交代も狙っていけるだろう」
「……」
「だから、私もここまでにしようと思うんだ。もう私は表では生きられない。だが、裏としてもやっていくつもりはない。だから、ここが私のゴールだよ。……赤騎士。私の最後の指令をこなせ。覚えているな?」
「……嫌で……了解、マスター」
「ッ、元帥!赤騎士が!タさん!」
「早い、バリアを回り込まれ――」
「ぐっ!?東雲!お前だけ死ぬのか!?お前も本庄みたいに俺を置いて、東雲!!」
「そうやって一人生き残ることを嫌がるだろうと思ったからなぁ。さよならだ、わが友よ」
「東雲ッ!!」
「元帥!?元帥!」
高速で回り込んだ赤騎士が元帥を抱えて天井の出入り口へ突入してしまった。
「テコでも動かなかっただろう沖田は脱出させた。後は君たちも脱出したまえ」
「……東雲閣下」
「金剛君、後のこと、そしてなによりもあの沖田のことを。頼んだよ」
「はい……皆さん、時間がありまセン、脱出を!」
「テメーが死んで責任を取ろうってのか!ふざけんな!」
「卯月」
「梓……」
「先に脱出してください。この男の真意がどうであれ、貴方達に死なれる理由にはなりません。ですが、この男を信用したわけでもない」
「では、どうするのかね?」
「私には転移能力がある。自爆間際までここにいます。そしてしっかりとシェルターを解放するのを見届けてから脱出するとします。皆さんは、先に出ていてください。金剛さん、桐ケ谷さん、東雲の自宅の確保、お任せします」
「……ええ」
「金剛お姉様、俯いてる時間はありません!急がないと間に合わない時間配分です!総員!道中で転がしてきた敵艦娘も放置で脱出優先!急ぎますよ!!」
「「了解!!」」
「クソ、梓、後は頼んだ……!」
アタシ達はバタバタと撤退せざるを得なかった。
卯月達の足音が小さくなるのを聞きながら目の前の男に向き直る。
「勇ましいことをよく言ったものだな、貴様。体が震えているぞ」
「悪の首魁をやるのに疲れたのは本当だが、完全に死を受け入れられたわけではないしそう潔く本能から受け入れられる作りを地球の人間はしていないんだよ、福山君」
「まあ、そうだろう。かといって、貴様をシェルターの解放を見届けてから助けるつもりはないが」
「厳しいものだ」
「貴様が止められなかった連中の被害者が私の仲間だ。ならば彼らの復讐は私の復讐でもある」
「いい仲間を持ったものだ」
「……そして先程話題には出かかったが……第二技研を唆した連中。それらに覚えはあるか」
「確証がないんだ。だから家にもその情報はないね。君達が自分の手で掴むか忘れるかしないとだ」
「教えろ」
「彼らは『マザー・クラスタ』と名乗っていたそうだ。功績を上げれば我々マザー・クラスタに入れてやる、とね」
「マザー・クラスタだと?」
「私なりに調べてみたが、マザー・クラスタは君の知る通りの組織だ。『功績を上げたものを受け入れる組織』ではなく、『才能がある者を予め受け入れ開花させ支援する』組織だ。矛盾しているね」
「では、真相はなんだと?」
「一つは唆した者はマザー・クラスタであるのは本当だが受け入れるつもりはなく、扇動するためについた嘘であること。もう一つは、敵対ないし非友好的な勢力であるマザー・クラスタに罪を擦り付けるつもりの別勢力の仕業である、といったところだね」
「……」
「私はどちらであるか掴めなかった。第二技研が南西と手を組んで強行手段に出た12月、そのずっと前にその『自称マザー・クラスタ』とやらは手を切っていたからね。切られたことを信じたくなくて、功績を上げれば改めて受け入れらると信じての犯行だったようだ。自称マザー・クラスタに関する証拠なども、残っていなかったよ」
「忘れるという選択肢を提示したのはその為か」
「そうだとも」
「それ以外に何か分かっていることは」
「第二技研、ひいては自称マザー・クラスタの最終目的。それは人体改造を用いて理想的な新人類を作り上げることにあったようだ。だからこそエーテル系の機器に高い適性のあった睦月君を狙っていたし、君たちが迎え入れた新人君達をも狙ったわけだね」
「130が狙われたのもそういうことか。睦月さんが防衛システムに組み込まれたのもその実験の一環か」
「そのようだね。そして、どうやら連絡相手は北米の……ラスベガス方面から連絡をしていたようだ」
「ラスベガス……アメリカ合衆国の地方か」
「その通り。そして彼らは……どうやら人類に絶望しているようでね。だからこそそういう研究をして、そんな愚かな人類の化身のような第二技研の面々を援助も切ったのだろうと推測しているよ」
「随分と傲慢な話だ」
「本当にね。その上で、新人類でもなければ純粋な人間でもない艦娘を快く思っていなかったようだ。人外である深海棲艦にはそれこそなにをしてもいいとすら思っていたようだ」
「だからこそ第二技研のあの横暴にも繋がった、と」
「私が掴めたのはここまでだ。この辺りも確証はない、私の推察の域を出ない。参考になったかね?」
「その原因となった『自称マザー・クラスタ』も排除対象だ。本当にマザー・クラスタであるなら落とし前をつける必要があるし、偽称しているのであればマザー・クラスタの一部と提携している身。棄ておくわけにはいかない。いずれにしろケリをつける」
「勇ましく頼りになることだ。……さて、そろそろいいだろう」
「残り1分か」
「ここから全速力で走ったところで2分は脱出にかかる。……シェルター、解放」
『シェルター、解放します。シェルター、解放します』
その行動はフェイクではないようだ……少なくともフォトンからはそうであるとは感じられなかった。
「他に言い残すことはないか」
「金剛君にも言ったが、君にも沖田達、この星の今後を任せていいかね」
「私はこの星の人間ではない。が、卯月達の仲間だ」
「そうかい。良かったよ」
『起動まであと10、9……』
「閣下!何故シェルターが、閣下!?」
「騒がしいねぇ。後は頼んだよ」
「……任されました」
『自爆装置、起動』
シェルターに逃げ込んでいた連中が走り寄ってくる中、室内の熱量が増す。それを見届けて私は転移した。
「勝手に託し勝手に逝くか。だが、受け入れよう。卯月達私の大切な仲間たちの為に」
大爆発の中、地下施設は滅んだ。地上施設である旧公民館や隠し通路先の民家も火の手が上がり、ここにあるものは全て焼け落ちていくのだった。
この世界には「悪い艦娘」もまあいるにはいるのです。そこまで「善性」に引っ張られないこの世界の人々。