少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

4 / 120
4話 新人組の初陣

 2027年4月末 10:00 東京湾近海

 

 

 遠慮なくハードになっていく訓練をこなして数週間。吐いたり気絶した回数はもう覚えていない。だが、もう一段階圧のギアを上げた中で訓練を行えるようになっていた。

 今日はその上で、初実戦となる。このエリアに深海棲艦が侵入したとの報告があり、127鎮守府に出番が回ってきたのだ。

 

 「作戦内容を確認する。エーテルレーダーで確認された軽巡2、駆逐4。これらの深海棲艦1部隊の撃滅だ。レーダー追跡は続いていて、後5分でぶつかる計算だ。覚悟はいいな?」

 

 隊長は卯月さん。正しくは電を旗艦に新人5名で構成された第1部隊、それをフォローする卯月さん、長月さん、菊月さんの第2部隊になっている。総隊長が卯月さんだ。

 

 「もしヘマしてもうーちゃんがぜんぶやっつけてくれるから、心配は不要だぞ」

 「なんで菊月が得意そうに言うんだ。まあうーちゃんならやるけど」

 「オイお前らも動け」

 「「新人のフォローに回るから」」

 「お前らなぁ」

 

 頼もしいんだけど緩い。緊張をほぐしてくれているのだろうが、ただの日常風景な気もする。

 

 「フォローはいいが、癖で魚雷撃って壊滅させんじゃねぇぞ。取り分はニュービー共に残しておけよ」

 「やだなぁうーちゃん。私達がそんなヘマをするとでも?」

 「3年前とかはたしかにやったけどな!」

 

 素だコレ。そして、軽いノリで殲滅できると確信できる程度には強いのだ、この人達は。

 

 「そういえば、卯月さんたち旧130鎮守府の人ってエース揃いって噂あったね」

 「睦月型の本当の力!ってニュースになってるの見たことある気がする。1年位前だけど……」

 

 瑞鳳と羽黒の緊張もほぐれているようだ。というか、外部にも有名だったのか。知らなかった。

 

 「それでもやられるときはやられるんだ。ちゃんと気は入れていけ」

 「「!」」

 

 冷めた目で忠告を入れてくる卯月さん。この人達、旧127鎮守府と旧130鎮守府はエース揃いな上で一気に壊滅させられたのだ。主力が出払っていたタイミングを襲われたとはいえ。

 

 「まあ、『次』は来させねぇ。その為のアタシで、梓で、響達だ。どんと構えていけ」

 

 この人もナニカを『見て』きているようだ。それを語るときの人達は、深い悔恨と決意に満ちている目をしている。何かはわからないが。

 

 「瑞鳳、加賀。偵察機飛ばせ。そろそろだぞ」

 「了解、瑞鳳航空隊、出撃!」

 「了解、加賀航空隊出撃。索敵開始」

 「各員第3戦闘速度!陣形は複縦陣なのです!」

 「「了解!!」

 

 偵察機に意識を回す瑞鳳、加賀を後列に。電と私が左右を見つつ前列。羽黒が主力攻撃の中列。これが私達新人組の基本陣形だ。

 

 「瑞鳳航空隊、敵影見ず。南南東はいないよ!」

 「加賀航空隊、敵影確認。南西、8時方向。距離6000」

 「私と江風ちゃんで牽制、羽黒ちゃんが本命弾!足並み崩れた敵から仕留めていきます!加賀ちゃん瑞鳳ちゃんははぐれ優先で攻撃隊の発艦を!」

 「「了解!」」

 

 空気が重い。雑に敵意をまき散らされている感覚。だけど、この程度でビビるような訓練はしていない。

 

 「ッチ、この空気だとDの小物か。知性もなさそうだな」

 「ということは害獣駆除レベルか。せめてちょっと知性のあるカテゴリDがいれば経験としてよかったんだがな」

 「うーちゃん、長月、おいおいやっていけばいいさ。実戦は実戦だ」

 

 カテゴリD。深海棲艦には艦種などの種類の他に、理性などのありなしでカテゴリが分けられている。カテゴリDは喋れないし、対話の余地のないケダモノのような本能と攻撃性しか持たない個体を指す。倒すしかない相手だ。

 

 「前列速度上げ!圧をかけます!」

 「応!」

 「羽黒、攻撃準備に移ります!」

 「羽黒ォ!おたつくな!もっと引き付けな!」

 「は、はい!」

 

 私と電が速度を上げ、敵を抑える。羽黒は攻撃準備。ただ、卯月さんの言う通り、確かにまだ撃つのは早いか。攻撃してくる相手を引き付けるのは、怖いけれど。駄目じゃない。

 

 「羽黒、撃ちます!」

 「合わせて斉射します!」

 「いっけぇ!」

 

 羽黒に合わせて前列の私達も砲撃。ついでに魚雷もばら撒く。

 

 「羽黒初弾夾叉!いいぞ!補正しつつ円の動きで追い込んでいけ!」

 

 長月さんの声に従い有利な位置取り――所謂T字有利――で追い込んでいく。電の攻撃はともかく、私の弾は全く届かなかったが脅すのが目的だから問題はない。

 

 「駆逐1が進路変更!逸れたのです!」

 「まずは私がやるよ!瑞鳳攻撃隊、発艦!」

 

 駆逐級がはぐれた。そこに瑞鳳の攻撃隊が押し寄せ、撃沈する。

 

 「駆逐2が近づいてきたのです!江風ちゃん、応戦しますよ!」

 「右のは請け負うぜ!羽黒!塊の方頼むぜ!」

 「今度は……当てます!」

 

 突出してくる右の駆逐は私が、やや前進してくる左のは電が相手をしつつ、羽黒の次弾が敵団体に刺さる。

 

 「護衛駆逐1の撃沈を確認!羽黒ちゃん、軽巡の意識がそっちに完全に向きました!」

 「私ら無視しやがるつもりだぞアレ!」

 「加賀航空隊。発艦。片方は潰します」

 

 軽巡の護衛をしていた駆逐は撃沈。軽巡が羽黒を脅威として狙いを合わせてくる。それに合わせて加賀が航空隊を回り込ませて奇襲をかける。

 

 「こちら電!敵艦撃沈!江風ちゃんは!」

 「まだだ!もうちょい引き付けてえ……ッ!」

 

 電が『駆逐艦の距離』で仕留める。けれど私にはまだ遠い距離。それでも敵駆逐は撃ってきた。が。

 

 「見え見えなンだよ!隙ありだ!」

 

 敵の向き、及び直感を元に少ない動作で回避。砲撃後の硬直につけこんで更に接近。至近弾を叩き込み、撃沈した。

 

 「こちら加賀、敵軽巡1撃沈。もう1隻は小破。来るわよ」

 「羽黒ちゃんは回避行動!瑞鳳ちゃん!」

 「第2波、発艦!」

 「羽黒、回避完了、反撃します!」

 

 残る1隻も瑞鳳の第2波と羽黒の反撃で撃破。全滅だ。

 

 「お疲れ様。次は何をするんだったか覚えてるか?」

 

 菊月さんの軽い労いと質問。答えは。

 

 「レーダー確認!敵バイタルチェック!」

 「各種武装の再装填!」

 「偵察機を広域で飛ばします」

 「羽黒ちゃん、息整えて」

 「ふーっ、ふーっ」

 

 実は生きていたりする敵が反撃してこないか。増援はないかのチェックと次の戦闘準備。それらをこなしつつ陣形と息を整えていく。

 

 「敵性バイタル、反応なし」

 「各艦ダメージ、なし。武装の状況、ヨシ」

 「こちら加賀、増援は見られないわ」

 「こちら瑞鳳、同じく増援見えません!」

 「本部、追加情報は!」

 『本部、響だよ。エーテルレーダーにも反応なし。帰投してくれ』

 

 確認完了、撤退命令も出た。ようやく、少し気を抜ける。

 

 「全くビビらなかったな、よくやったぞ」

 「フ、当然だな。日々のアレの方がよっぽど怖い」

 「意識が前のめり過ぎて、動きが単調だった。そこの改善だな。記録はしてあるから帰ったら確認するように」

 「うわ、うーちゃん辛口」

 「おめーらが飴でアタシが鞭でちょうどいいだろが」

 

 課題も見つかっているようだ。ある意味その処理も終えて、初陣は終わりなのかもしれない。そして、もう一つの初陣も迫ってきていた。

 

 

 初陣は無事に終わった。想定通りで、『今まで』になかった動きの一発目でもある。ニュービー共も今回のことで多少は自信もついただろう。

 ただ、時間はあまりない。出撃数は多くしていく必要があるだろう。無茶ではあるが、やってもらうしかない。

 『今まで』との差異はまだ少ない。『連中』の動きも想定通り動いていない様子とのことだ。つまりはまだ無事。待たせてしまうのが忍びないが……。

 

 「今度は助けるし、誰もやらせない。待ってろよ、弥生。それにル級のヤツもな」

 

 ぽつりとこぼれた卯月の声が、虚空に響いて、消えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。