削ってもやっぱりお話が長くなってしまいますね。本作の設定としてテオドールは守護輝士や【仮面】の時間遡行の事情などを1から全て知っています。
テオドールさんも合流して、アークスになってからのてーとくの話を聞く流れになった。てーとくの経験はほぼイコールで守護輝士(ガーディアン)の経験談でもある。
「あの、話すのはいいんですけど……大丈夫ですか?梓さん」
「結構思い出すのも辛い話も多いので、このままで……」
「いくらでも甘えていいからな梓。……これが雷の感覚かぁ」
「ただの依存カップルだろ」
相変わらずてーとくは卯月の姐さんに抱きついたままで、まあ天龍の姐さんの指摘する通りなのだろうが……まあ、依存先ができただけマシなのかもしれない。それはそれとして、この場に電が居たら煩そうだな、とも思った。
「まあ、まずはアークス修了試験からですね」
「僕たちの世代、最初から酷い目に遭いましたよね……」
アークス研修生達が最後に実戦経験を経て正式にアークスになるための修了試験。会場は惑星ナベリウス、ダーカーは存在せず気性が荒く好戦的で適度に強い原生種が跋扈する森林エリアだった。
キャンプシップで複数班纏めて送られ、各自ペアを組んで試験に臨み。順調に進行していた中で突如ダーカーの大量出現が発生。
アフィンさんとペアを組んでいたてーとくはダーカーの群れを突破し、同じキャンプシップにいた他のアークスと合流しようとして……そのアークスが背後からダーカーに殺されるのを目撃してしまった。
その後、ベテランアークスのゼノさんが救援に駆けつけてくれたお陰で無事撤退に成功。この襲撃で教導役を含めた大勢が死亡。生き残ったのは運が良かった者、アフィンさんのように危機察知能力の高い者、テオドールさんのように純粋な戦闘能力の素養の高い者といったところだった。
「いきなりダーカーが現れて、無我夢中で生き残って……怖かったですよ」
「えぇ、本当に。そのおかげであの生き残りという時点で一目置かれるようになりましたね」
その後アークスシップに帰還した後、てーとく……そしてこの世界では守護輝士は出会った。惑星シオン、そのアバターに。
「惑星シオンのアバター?」
「惑星そのものが喋ることはできないので、意思疎通のためのアバターを用意するわけです。私が直接指令を受けているシャオも同様です」
惑星シオンは待っていたという言葉とともに難解な言葉遣いと唐突な謝罪の上でてーとくに運命を、歴史を変えるためのアイテムであるマターボードを与えた。これを使って成すべきことを成してくれ、と。
意味がわからない中でマターボードの示すままに修了試験時の情報を集め、一つの事象が確認された。あの現場で助けを求める女性がいた、ということに。
「新人アークスの叫びとかじゃなくて?」
「私もそう思ったんですけどね。そして惑星シオンが改めて姿を現し、事象を改変……つまりその女性の運命を変えてくれと依頼してきた訳です」
「僕も何度か話を聞いて思いましたけど……大分訳がわからないですよね」
「えぇ。そして、彼女の言葉と共に視界が暗転。気付いたら修了試験のダーカー襲撃直前でした」
「マターボードのやり直し能力、ってヤツ」
「時間遡行がマターボードに因るものか、シオンに因るものか、はたまた私自身の素養なのかは不明でしたがそこで初めて時間遡行を行ったことだけが事実です」
そして、確かに助けてという女性の声が聞こえて。アフィンさんを巻き込みながら本来逃げてゼノさんと合流した地点をAとして。これから別方向のBに向かったのだった。
そして、そこで倒れている少女を発見。……そして、彼女はてーとくの名前を知っていた。そのタイミングでダーカーの襲撃が止み、彼女を連れてアークスシップに帰還。そして、彼女がてーとくの名前と、自身の名がマトイということ以外は全て忘れていることが判明した。
そして、マターボードの力によってこの改変が確実なものとなったそうだ。
「梓、127を二度目の壊滅の運命から今に変えたのもそれだったな」
「えぇ。マターボードはそういう能力があるもの、と認識して頂ければ」
結果、『ゼノさんと縁ができ』なおかつ『マトイさんを救った』2つの事象が事実として確定された。
その後も、重大な事件が発生し惑星シオンの依頼の元に未然に防ぐ、解決の未来に変えるということをしていったのだそうだ。
「この辺りから守護輝士(あの人)、そちらの世界では梓さんがアークス内でも有名になってきたんです。様々な依頼を受け精確にこなす新人だ、と」
「その縁でまた他の出来事に遭遇、また惑星シオンの命によりよりよい未来を勝ち得るために繰り返す……これを繰り返していきました。そして一つの噂とそれの調査命令が惑星シオンから出ました。……修了試験時に謎の人物が何かを探していた、と」
「大パニックになってる真っ最中に探し物?」
「えぇ。改めて情報を集め、再度ダーカーの出現直前に跳び。『どこにいる』という言葉を聞き、そちらに向かうことにしました。A、BですからこれはCですね。……そして、そこで謎の仮面の人物……ダークファルス【仮面(ペルソナ)】に出会ったんです」
「あれ、【仮面】っててーとくのことじゃないの?」
「合っています。正しくは私のような惑星シオンの縁者としてマトイと関わり彼女を救えず悔恨と絶望に墜ちた者。その成れの果てですね」
「それがその時間軸に来て……目的はマトイさん?」
「はい。もっとも、彼女が倒れていた覚えているはずの場所と見当違いのところを彷徨っていましたが……今思えば、惑星シオンの妨害によって迷子になってしまった、ということでしょうね」
「なんでまた……」
「この時点での【仮面】の目的はマトイの殺害。それをさせない為に認識能力に阻害でもかけたのでしょう。結果、B地点とは明後日の場所であるC地点を彷徨っていました」
「大事な場所でさえ分からなくなってしまう……恐ろしい能力ですよね」
「我々アークスはそういう認識改変の被害を少なからず受けていますからね。そして、私を認識した【仮面】は私を殺そうと斬りかかりました」
「え、自分でしょ?なんで?」
「自分自身というイレギュラー。それさえなければ……そう思ったんですよ。ですが、そこで横槍が入りました。ナックルのアークス、ゲッテムハルト先輩です」
「幼いてーとく助けてくれた人!」
「えぇ。最も彼は私のことなど覚えていませんでしたし、私も記憶の中の彼と一致できたのはもっと後でしたが。この時期のゲッテムハルト先輩は好戦的であの状況下でも闘う相手をただただ求めていました。……そうして、【仮面と遭遇する】、【ゲッテムハルト先輩と遭遇する】という2つの事象も確定させたことになりました」
「え、ダーカーに襲われてゼノさんに助けられてマトイさん助けて【仮面】に絡まれてゲッテムハルトさんに助けられる全部載せ?」
「はい、全部載せです。滅茶苦茶ですよね」
「惑星シオンすっげぇ……」
「忌々しい程に能力は凄まじいものでした」
そうしてその後も惑星シオンの望む通りに事象を改変していって。惑星シオンの意志が多くのアークスを救うだとかそういうことではないと思い知らされる事件に遭遇したのだという。
……現アークスの総司令でテオドールさんが補佐をしているウルクさん。彼女はフォトンを扱う能力が低く、アークスはおろか後方オペレーターとしても採用されない人材だったそうだ。
それがある日突然後方オペレーターとして採用された。その直後に一隻のアークスシップ・テミス、職人の多い町であったここにダーカーの襲撃が発生。多くの犠牲者が出る戦いになり、てーとく達アークスも出撃し、後方オペレーターとしてウルクさんも出撃した。
てーとくが主力ダーカーの掃討に指示通り活躍する裏で、2つの事件が発生した。1つはウルクさんの戦死。乗っていた支援機が撃墜され、そのまま助けもなくダーカーに殺されたという。もう1つはテミスに工房を構えていた刀匠ジグさんへのどさくさ紛れの襲撃。てーとくが集めて修理を依頼していた謎の武器……実は創世器白錫(はくしゃく)クラリッサというダークファルスを封印したりできるトンデモ武器だったが、それを奪われた。てーとくや出撃していたテオドールさんがそれらを知ったのは襲撃後だった。
「僕はアークスになりたくはなかったんですが、アークスの素質が高いからと強制的にアークスにされたんです。でも、幼馴染のウルクは逆にアークスになりたくても素質がなかった……そういう関係だったんですが、その結果彼女を失うことになって後悔しました。僕がもっと戦っていれば。ダーカーを殲滅していれば。ウルクを失わずに済んだのに、って」
「近しい理由で復讐の為にアークスになった私は声をかけられずにいました。こちらの守護輝士(アレ)はともかく。そして、その上での重要品クラリッサの喪失。この上でシオンは改変を要求しませんでした。変えたいという私の意向を却下して」
「……つまり、そこまでシオンの想定通りだったってこと?」
「えぇ。これにより首謀者であったルーサーには素質の優れた失意のアークスが出現したこと、ダークファルスの封印に関与できる超常武器、クラリッサの獲得と益が出たというわけです。これによりルーサーの計画は進んでいくことになります」
「待って、ルーサーって敵だよね?なんで好きにやらせたの?」
「平時のルーサーは隙がなく、じわじわと解析されいずれ攻め落とされるだけ。シオンには勝機がありせんでした。ですので彼の有利に事を大きく進ませることで増長させ、油断した隙を突く。それがシオンの狙いだったようです。当時はただただ理不尽としか思えませんでしたし、今も納得していませんが」
その後もルーサーを増長させるための後押しのような出来事が続く。
禁足地であった惑星ナベリウス、遺跡エリア。そこにはかつての大戦で甚大な被害を出したダークファルス【巨躰(エルダー)】が封印されていた場所。そこでてーとくやゼノさん達はゲッテムハルトさん達と遭遇した。
本来は遭遇して終わりだったこの件をシオンは改変させるためにてーとくを動かした。その結果が、ゲッテムハルトさんが【巨躯】の依り代として乗っ取られ、打倒しきれず撤退するてーとく達の殿を努めたゼノさんのMIA判定だった。ちなみに、この戦いの際にてーとくはゲッテムハルトさんが幼少期の恩人だと気づいたそうだ。地獄すぎる。
「最悪の展開じゃンかさ」
「【巨躯】の撃退のために数多のアークスシップが沈みました。ここでアークスが滅ばなかっただけマシ、といったところでしょうね」
「アークスシップって人口どんなもんだ?」
「一隻につき一万人程度ですね。多くの居住ブロックは切り離されて被害は少なく抑えられたとはいえ……」
「大損害にも程がある」
「これは何の狙いがあったの?」
「【巨躯】撃退のために惑星シオンを核にしているマザーシップ、その力の多くを使いました。回復が追いつかない程に」
「余計に惑星シオンの隙が大きくなった、ってことかぁ」
「そういうことです」
その後も惑星シオンが望み、てーとくが望まない選択を強いられた。
1つは、【巨躯】復活直後。てーとくが懐いていた先輩アークスの戦死だった。
「エドガー先輩というハンターアークスだったんです。アークスは市民のための矛であり盾であり、光なんだと熱弁していて、ナベリウスでの修了試験直後から私にもとても世話を焼いてくれる男性でした。ゼノ先輩達とも交流のあるベテランアークスで、何よりもアークス内で人気のアイドル、クーナの大ファンでした」
「エドガーさん、強くて世話焼きで、ゼノさん同様に有名で頼れるアークスだったんです」
「そんでクーナってあの定期的にライブやってて……アレ?」
「えぇ。同時に六芒均衡の零の始末担当のクーナさんでもあります。タさん達の合流の際に協力頂いたあのアークスで、今回も力を貸していただきました。表向きはトップアイドルをしています」
アイドルに疎かったてーとくにアイドルの魅力を語りつつ、アークスが民衆の光ならそんなアークスを光らせてくれる星、太陽なのだと。そう熱く語っていたそうだ。
ダークファルス【巨躯】復活後、恐怖と絶望の中にいた民衆や多くのアークスを励ましながらてーとくと前線で戦っていたその人は、惑星ナベリウスの遺跡エリアの調査で【巨躯】の低燃費な人型体――【若人】に乗っ取られた電の時みたいな感じの奴――に遭遇した。
「くそっ、ゲッテムハルト先輩を返せ、ダークファルス!」
「烏合!貴様の力はその程度ではないだろう!」
「何を言って……ぐっ!」
「ルーファちゃん、援軍は呼んだ!撤退しながらやるぞ!」
「逃げるだと?脆弱!ぬぅん!」
「ぐっ、あっ……!!」
及び腰なことに激昂した【巨躯】に吹き飛ばされるてーとく。その衝撃から立ち直れない状態で、【巨躯】の追撃が来た。
「危ない、ルーファちゃん!ぐあっ!」
「あっ……」
その瞬間、エドガーさんがてーとくを突き飛ばした。そして、【巨躯】の攻撃がエドガーさんを直撃するのを目にして。
「ふん、脆弱……気が乗らん」
「消えた……エドガー先輩!」
興が削がれたのか【巨躯】は撤退し、てーとくがエドガーさんの元へ駆け寄る。腹部に穴が空いている。どう見てもそれは致命傷だった。
「先輩、先輩!くそ、スターアドマイザー!ムーンアドマイザー!なんで!どうして!効いて、効け!先輩が……!」
「致命傷には無理だよルーファちゃん。……君が無事で、良かった」
「よくなんて!よくなんて……!」
「アークスなんてこんなもんさ。……でも、クーナのライブ、もう一度行きたかったな……」
「行きましょうよ、クーナの魅力、教えてくれるんでしたよね!?死なないで、死なないで……」
「あぁ、聴こえる……」
「え……?」
「クーナの歌だ、クーナの歌声が聴こえる……これなら、悪く、な――」
「歌なんて……先輩?エドガー先輩!?あぁ、あぁぁ……!!」
最期にアイドルクーナの歌声の幻聴を聴いて満足そうな表情でエドガーさんは戦死したのだった。
「今でも悔いています。私が強ければ、先輩を死なせずに済んだのに、と。そして、この事象の改変を、惑星シオンは許可しませんでした。……残ったのはエドガー先輩の形見であるこのコートエッジだけです」
「てーとくがぶん回してる剣ってそういうモンだったンだ……」
そしてその直後に惑星シオンの命で関わることになったのが件のアイドル、クーナさんだった。
アイドルクーナの裏の顔はルーサー率いる虚空機関(ヴォイド)の尖兵かつ、生まれからの実験対象で命令通りに始末すべき相手を始末する始末屋。そして、同様に実験対象として生み出された龍族のようなモノ、造龍ハドレッドがいた。
クーナさんとハドレッドは姉弟同然に育っていたが、ある日実験の後ハドレッドは暴走。施設職員をほぼ皆殺しにして脱走したのだという。
クーナさんはその真相を伏せられた上で「裏切り者のハドレッドを始末しろ」という命令だけ受けていて、裏の顔のクーナさんやハドレッドに何度か遭遇していたてーとくがクーナさん個人に協力する流れになったという。
「真相は、ダーカー因子の過度な付与実験、当然耐えられず狂う。そんなものをクーナさんに行おうとしていた研究者に気付いたハドレッドがクーナさんには内緒で代わりに引き受け、暴走。以降、各地に出没しダーカーを喰らい、喰らい尽くす怪物と化した。ということでした」
「ダーカーぶっ殺すだけならいいンじゃないの?」
「ダーカー浸食の影響を強く受け、フォトンの浄化が追いつかなくなり暴走してしまったアークスもハドレッドは手にかけました。おそらく、もう区別がつかなかったのでしょうね」
「そういうアークスはすぐに処置をすれば助かりますが……孤立している状態だったら助からずにダーカーに浸食された生物同様の存在になる、と見ていいでしょうね……」
「エネミー状態、かぁ」
そんなハドレッドを追う中で真相に辿り着き、てーとく達はハドレッド自身の限界が近いことを悟った。
そして、ハドレッドがクーナさんの歌に惹かれていることを利用して誘い込み、撃破した。
「狂気に駆られていた彼が死ぬ直前に意識を取り戻し、姉であるクーナさんに歌をせがんだんです。昔から聴いていた大好きな姉の歌を」
「……」
「そうして事切れるまでクーナさんの歌に包まれていたハドレッドを見て、エドガー先輩が言っていたアイドル、星。それらの言葉の意味を理解しました。……そして、なんとかハドレッドを死から救えないかと思いましたが、これも惑星シオンには聞き入れられませんでした」
「なんか都合が悪かった……ってコトか」
「おそらくは私とクーナさんの繋がりをもたせ、なおかついざというときはクーナさんが虚空機関、いえ、ルーサーから離反する切欠が欲しかったのでしょうね。……エドガー先輩が死ぬ必要はないと思っていますが」
「納得行かないよね、そりゃ」
そしてもう1つはテオドールさんが失意に堕ちる中、力が欲しくはないかと誘いかけるルーサーを止められず、目の前で連れられてしまったこと。
「力があれば、力がもっとあれば……そう思っていた僕にルーサーさんの誘いは抗えないものだったんです。心の何処かでは、今更力を得ても何も変わらない、と分かりつつも」
「私もゼノ先輩達を失っていた失意の中にありましたから、止めるための言葉が出ず……でした」
「そうしてルーサーの陣営強化と足元崩しの準備も……が惑星シオンの望みだったのかな」
「そう、でしょうね。そしてそんな中で転機が訪れました。……シャオとの出会いです」
本作、というより梓及びその影響を受けた人達における「アイドル」はこれ以降とても重い意味を持つことになります。