しばし休息の後
てーとくは余程失った先輩達を慕っていたのだろう。信頼していたのだろう。喪って辛かったのだろう。消耗がより激しくなっているようだった。その為、しばらく休憩を取った。てーとくはまだこの喪失、トラウマから抜け出せていないのだ。
「これは弥生さんが入れてくれるハーブティー……落ち着きます」
「弥生が来てくれて助かった」
「鎮守府にも聞こえてくる声がどんどん死んできてるのに放って置ける訳ない、です」
弥生の姐さんが鎮守府から普段心を落ち着かせるためのハーブティーセットを持って駆け付けてきたからこそてーとくも少し復活できたようだ。
「てーとく、マジで無理ならここまででもいいんだよ?」
「いえ、こういう機会でもないと話せませんし、何より吐ききって楽になりたい、共有してほしい……そんな浅はかな願い(欲望)がありますから」
「終わったら卯月さんと雷お姉ちゃんにダダ甘やかされるのです」
今日の浄化工程を終えた電も合流している。正直聞いている私達としては無理するな、の方が比重は大きいのだが。
「まあ、抱え込んだままが辛いのはわかるけどね」
私だって色々あったのを鎮守府の仲間達に打ち明けられて心が軽くなったのは事実なのだ。
諸事件の後、友好を深めた惑星アムドゥスキアの龍族によって、彼らの最高指導者のような存在であるロ・カミツ氏との謁見を認められたてーとくは龍族にとって神聖な場に案内された。そこで出会ったのがロ・カミツ氏とシャオさん、そしてその縁者で度々目撃していたサラさんだったそうだ。
「カミツさんはシャオとの対話のセッティングをしてくれたんです。そして、シャオは自身をシオンの弟のようなもの、と自己紹介し積極的に過去に介入することを提案してきました」
「惑星シオンは許可出してくれたの?」
「与えられたマターボードが反応していたあたり、織り込み済みだったようです。そして、2つの過去に介入しました」
1つはアークスシップ・テミスの襲撃。内容はウルクさんの救出だった。だけど救出が公になればルーサーが軌道修正をするだろうから、シャオさんの元へひっそりと護送されたのだそうだ。つまり、テオドールさんはウルクさんが死んだと思ったままである。
「聞いたときはその時に教えてくれれば、と思ったんですけど……その後のことを考えると僕は絶望している必要があったんですよね」
「テオドールには申し訳ないと思っています」
「感謝こそすれ、ですよ」
もう1つはダークファルス【巨躯(エルダー)】復活直後への介入。同じくシャオさんの指示を受けていた六芒均衡の二のマリアさん、その付き人として参戦したサラさんと共に、殿を務めてーとく達を逃したゼノさんに合流、【巨躯】の迎撃を行った。
これによってゼノさんは生還したが、これも表は戦死扱いでマリアさんに預ける形に。
「エドガー先輩も、助けたかった……助けたかったのに、介入できることは最低限で、先輩はその中にはいませんでした……ハドレッドもそうです」
「だよなぁ、そうやって助けられるなら、全員助けたいよなぁ」
泣きじゃくるてーとくを卯月の姐さんが強く抱きしめる。シャオさんが提案した介入プランはてーとくが助けたかった人達を救えたが、ほんの一部であり表向きの悲劇はそのままだったのだ。
「まあ、泣けるようになっただけ、マシなのかもな」
「そうかも、しれません……ひぐっ」
その後、11年前とは別の依代を得たダークファルス【若人(アプレンティス)】と交戦。その依代の正体は11年前の【若人】襲撃時に失踪したアフィンさんの姉だった。
その【若人】は他のダークファルスとは違ってアフィンさんを前に戦意を喪失、撤退。もしかしたら取り戻せるかもしれない、そう思った矢先にそれは起きた。
「惑星シオンにマトイ共々呼び出されたんです。ルーサーが王手をかけた、時間がない、マザーシップに来てほしい、と。その時マトイは記憶こそないものの力を取り戻し、専用武器であるクラリッサを手にしていました。正直、私は彼女に同行してほしくはありませんでした。また、失ってしまいそうで……」
そうしてマザーシップに到着した直後。表向きのアークスの代表、六芒均衡の一、レギアスさんからてーとく達を含めた全アークスに連絡が入った。「ルーファはアークスの裏切り者であり、証拠もある。そしてマザーシップに侵入したため、これを抹殺せよ」と。
「【絶対令(アビス)】というアークスの本能レベルに刻まれた操るための機構。これを受けたアークスはそれが真実として疑わず、どういう感情を持ったとしても遂行しようとします。つまり、この瞬間全てのアークスが私の敵になった、ということです」
「待って、証拠って……?」
「アークス外部の人物との接触、つまりサラさんとの交流、マトイの受け入れ。対峙したものの戦意喪失で戦闘に繋がらなかった【若人】との一件。これらを情報操作と共に開示すればダークファルス等の敵対存在と手を組む裏切り者の完成です」
「ンな無茶苦茶な……」
「出来てしまうのが【絶対令】なんです。そしてこれをかける権限があり、また影響を受けないのは六芒均衡かそれ以上の存在のみです」
この時は判明してなかったが元六芒均衡なので効力がなかったマトイさん以外の見知った人々を含めた大勢のアークスがてーとくを殺しに殺到してくる。それを必死に捌きながら最奥を目指す。
道中【絶対令】の影響を受けない六芒均衡の二のマリアさん、六のヒューイさん二人の加勢を受けて進み、レギアスさん、私達との情報連携をしてくれているカスラさん、当代クラリスクレイスさんという六芒均衡の一、三、五が敵として襲いかかってきて乱戦にもつれ込んだ。
「アークスが殺到してくる中で更にルーサーがダーカーを呼び寄せたせいで、アークス、ダーカーの両方を相手取ることになっていました」
「地獄過ぎない?」
「その上で最強格が束になって襲ってくるとか考えたくもないのです」
「味方にも同格がいるってもなぁ……」
その最中、欠番だった六芒均衡の四を引き継ぎ、専用武器の調整を終えたゼノさんが味方として参戦。そこに全アークスへの強制割り込み通信が入った。通信者はクーナさん。彼女も隠れ六芒均衡こと零だから影響を受けず、【絶対令】を解除するための準備をしていたのだ。
そして、表向きのアイドルとしてのクーナとして通信に割り込み、てーとくの無罪どころかルーサー達の悪行を全て晒す大暴露をし、【絶対令】に対して「何が正しいか自分で考えろ!」と命令を上書きしてアークスを正気に戻したのだった。
「これで私に攻撃するアークスはいなくなりましたが……それ以降もどこかで裏切られるのかもしれない、という恐怖と不信を覚えることになりました」
「梓がアークスって組織をイマイチ信頼してないのもそっからかぁ」
「そうですね……それもあり、艦娘にもそういうシステムがないかを確認していました」
「そういうのあったら127も他所の艦娘の襲撃食らってた可能性……怖ぇ」
その展開を受けたルーサーは当代のクラリスクレイスさんのクローン――当代のクラリスクレイスさん自身も含めた全員がクラリッサの影響を受けたサラさんを実験に使ったデータからのクローンだったのだが――を全投入。自我のない彼女らの攻撃で足止めを敢行。
レギアスさんらはルーサーの言いなりになっていた理由である、全アークスシップの管制権をルーサーが握り導いていたことをルーサーが放棄したため離反、味方してくれたのだそうだ。しかしルーサーの手で全アークスシップの生命維持システムが機能停止、危険に晒された。
「大半は六芒均衡が引き受けましたが道中にもクローンが複数いましたから、それをマトイと突破していきました」
「……連戦で?」
「ここまで全て連戦ですよ」
「てーとくが持久力めっちゃ鍛えさせてきた理由がよく分かったよ」
それらを突破した最奥の一歩手前、そこにはテオドールさんが待ち受けていた。
「え、何で?」
「僕は自分の意志でルーサーさんに付いていましたから。ウルクを生き返らせてくれる、その言葉に縋って」
「あ、そっかテオドールさんこのタイミングでもウルクさん生きてること知らないのか!」
「だからこそルーサーさんは僕を最後の壁として用意したわけです」
てーとくとマトイさんはテオドールさんと激突。ただでさえ強いテオドールさんがより強化されて消耗した所に襲いかかって来たのだ。苦戦するに決まっている。そしてしばらく交戦したところで、サラさんとウルクさんが追いついた。
「正直、ウルクが死んだっていうことは分かっていたんですよね。ただ、それを受け入れると心が壊れてしまうから認められなくて、ウルクが来たときも偽物かと思いました」
「無理もないと思いますよ。だからこそどう説得すればと思いましたが……ウルクが体当たりで落ち着かせたのは驚きましたね」
そうしてテオドールさんを落ち着かせ、てーとくとマトイさんは最奥に侵入。そこでルーサーが惑星シオンを丁度取り込む場面に遭遇した。
間に合わなかったかと思いきや、取り込まれた直後の惑星シオンが抵抗、ルーサーが放棄して危険域になっていた各アークスシップの管制が復旧。そこにシャオさんが自前のマザーシップを引っ提げ登場、管理権をシャオさんに書き換えて全アークスシップの死は免れた。
「ここまでが惑星シオンの思惑通り。そして、最後の命令を下しました。自分とルーサーが同化している今が好機。自分ごと討てと」
「今までてーとくを振り回してきた全部が、この伏線だったってことか……」
「マトイは惑星シオンに懐いていた、恐らく創造主である惑星シオンに親愛を覚えていたのでしょう。私はそんなことは出来ないという彼女の前でルーサーごと攻撃、惑星シオンの中枢は散りました。ルーサーのシオンの理解及び吸収もご破産です」
「最後まで振り回して梓に汚れ役押し付けやがってよ……」
そうして手中に収めかけた惑星シオン、ひいては全知(アカシックレコード)を取りこぼし、絶望と怒りでダークファルス部分が表に出たルーサー、いやダークファルス【敗者(ルーサー)】が襲い掛かってくる。
このタイミングで六芒均衡のゼノさんとクーナさんが追いつき、四人で撃退するも、ルーサーはマザーシップそのものをダーカー汚染し取り込み始めた。
「急遽脱出の必要がある中、時間稼ぎをしたのが惑星シオンの残留思念と惑星シオン内で情報生命体として存在していたフォトナーでした。お前たちも私と同じ存在の癖に、というルーサーの怨嗟を聞きつつ私達は離脱しました。
そして、マザーシップが完全に【敗者】に取り込まれる様を目撃しました。……であればやることは一つ。再編成をした精鋭アークス陣で突入、ダークファルス【敗者】の討伐です」
「待って、まさか」
「マトイを休ませ、私は参戦しました」
「連戦による連戦で身も心もボロボロなのに!?」
「参戦しないわけには行きませんでした。多くのアークスが信頼できない上、これを逃したあとの惨事を考えれば」
「そりゃあ、まあ、そうだけどさ」
そしてなんとか【敗者】を撃退、死に体で人型の状態で逃げ延びようとする【敗者】をレギアスさんが専用武器の権能を開放、その一撃で葬った。
……ここまではよかったが、最悪の乱入者が割って入った。ダークファルス【双子(ダブル)】。迷わず【敗者】の残骸を捕食し、自身の異能でそのコピーを量産し、襲いかかってきたのだ。
幸い力を使い果たした上での残骸のコピー。通常のアークスを上回る程度の性能でしかなかったが無尽蔵に増やされ、てーとく達は撤退せざるを得なかった。
そうして、長い一日が終了したのだった。
「実際何時間戦ったのさ」
「少なくとも6時間はぶっ通しですかね」
「そんな長時間の中でアークスに裏切られていろんな実力者に襲われて、振り回してきた惑星シオンも殺してルーサーとの決着もつけて……心は、大丈夫だったの?」
「正直、限界でした。失ったはずのゼノさんたちの合流は嬉しかったですがまた失うかもしれないという恐怖は依然ありましたし、正式に戦えるようになったマトイも無理して戦死しないかと、不安になっていました」
「心がボロボロじゃンかさ」
その後シャオさんの主導でアークスの再編成を開始。シャオさんは全てシャオさんの管理下にあるのは危険と判断、アークス側の総司令を設定した。それがシャオさんにも臆せず物を言い、後ろ暗いアークスのこれまでを受け止めて前を向ける人材……ウルクさんだった。
「とんでもない出世でしたけど、今度こそウルクを守りたい。だからその補佐に僕はなったんです」
「六芒均衡にも劣らない最強戦力がウルクの補佐をするんです。そこは安心できました」
この時はアークスの救世主と呼ばれるようになったてーとくは少しの休息のあと、シャオさんに提案を受けた。惑星シオンが意図的に情報隠蔽、認識阻害をしていた11年前――当時としては10年前――の【若人(アプレンティス)】襲撃事件。その前後に何があったのかを調べようと。
その認識阻害の効果はすさまじく、ルーサーも騙せていたし事件の当事者ですら記憶が曖昧になる程だったそうだ。だから、直接出向いて見聞きする必要があるということになる。
「マトイの正体、及び彼女の本能的なアークスへの献身。その原因には興味がありましたし、何かをしなければ落ち着かなかった私は承諾し、変えられない過去の調査に向かいました」
「絶対安静にしてカウンセリング受けるべきだよね、それ」
「そんな余裕はどこにもなかったんですよ」
そして2代目クラリスクレイスとして活動していたマトイさんと接触。ファーストコンタクトは立ち入り禁止区域にいる怪しいアークス、つまりダークファルスでは?と攻撃を受けてしまったそうだが。
クラリッサの意識である惑星シオンの指示を受け他のアークスとの交流ができなかったマトイさんにとって、初めての友人となったのだった。惑星シオンなんでもありだなぁ、と思う。
その後惑星リリーパでマトイさんが【若人】と交戦し、力の大部分を地下に封印、あわよくば本体の討伐……までは叶わなかったことを目撃。
そして、マトイさんにとって大事な場所である惑星ナベリウスの大樹の元を紹介された。
「ここがマトイとの約束の地。【若人】を討伐したらまた会おう、と。私達がアークスの修了試験を受けた時にマトイを保護したB地点がそこでした。
そしてその直後、あるアークスシップの大規模襲撃が発生しました。11年前の【若人】の襲撃事件です」
その件にも介入したてーとくは単身突撃したマトイさんを追う。同時刻にてーとくの家族が殺されていることから必死に目を背けながら。
そして、出会ったのはクラリッサを持った避難民の少女、幼少期のサラさんだった。マトイさんに保護されて護身にとクラリッサを渡されていたのだそうだ。
マトイさんを助けて欲しい、彼女のその願いを受けクラリッサを持っててーとくはマトイさんの元へ急行。この直後、サラさんはクラリッサの影響を受けた上で惑星シオンの庇護下にない人物、としてルーサーに連れ去られ凄惨な実験を受けるに至ったのだった。
「サラさんを助ければマトイに間に合わない。そもそもこの歴史に介入できることは皆無。見捨てざるを得ませんでした」
「梓……」
そしてマトイさんの元へ到着したてーとくの目の前に映るのは、【若人】を撃退し終えたマトイさんを貫くてーとくの姿をした人物だった。
「それってつまり」
「ダークファルス【仮面(ペルソナ)】。その世界で彼女を救えず闇に落ちた私自身でした」
てーとくと同じパラメータを示す【仮面】に驚くシャオさんを余所にソレは告げる。マトイさんはここで死ぬべきだと。当然拒否するてーとく。
そして、クラリッサにマトイさんの治療を任せたてーとくと【仮面】との戦いが始まった。
戦いが膠着する中、マトイさんの容態が急変。今まで喰らってきた浄化しきれていない大量のダーカー因子が暴走、ダーカー最上位種である【深淵なる闇】に変貌しかけたのだ。【仮面】の言うマトイさんはここで死ぬべき、はこうなる前に引導を渡してやるべきということだったのだ。
その中でマトイさんは自決を決意。クラリッサに全力で貫かれることでダーカー因子を自分の命ごと浄化し、被害を食い止めようとした。
止めようとしたてーとくにシャオさんから通信が入る。これ以上この世界にいられないと。その光景を目にしながらてーとくは元の時代に帰還する他なかった。
……そして惑星シオンはそれを利用した。その帰還にマトイさんを巻き込ませ、クラリッサは分解、各所にパーツ単位で封印。マトイさんはてーとくのいる時代、未来に記憶と能力を封印した状態で送り込み、ルーサーの手を逃れる。
この結果が、てーとくが1年前のアークス修了試験でマトイさんと出会った事件、同様に飛ばされた【仮面】がマトイさんを見つけられない事態、そして共に飛ばされたダーカー群が修了試験のてーとく達を襲い多くを殺したダーカー達になったのだった。
「つまり、私のせいなんです。あの時多くの同期が、教導役の先輩が命を落としたのは……」
「梓……」
ここまででの戦いや明かされた真実で、てーとくは多くの心の傷を癒やすことのできないまま次々と抱えていくことになった。そして、それは最悪の形で結実する。
改めて文字として書き起こしてまとめると、ホント徹頭徹尾ロクなことになっていないのでPSO2主人公が病むのも致し方ないな、と思います。