過去編はこれで終わりになります。長かった……。
強い悔恨と涙を流しつつも、てーとくは話をやめようとはしなかった。それで悟る。これ以上の「最悪」がてーとくをダークファルスに堕とすまでに至ったのだと。
「ここまででなにか質問は、ありますか?」
「大丈夫かよ梓……!」
「……もう少しで、もう少しで終わりますから……」
過去を見てきた直後、正式なアークスとして戦いに参加できると無邪気にはしゃぐマトイさんを見て。絶対に彼女を死なせたくない、と切に願ったそうだ。今までに失いすぎてきた。もう、せめて大切な彼女だけは失いたくない。心が限界を迎えつつあるてーとくの唯一の願いだった。
その後はダークファルス【双子(ダブル)】との抗争が主軸になった。その中でゲッテムハルトさんの意思が映ったのか【双子】に対し敵対、一時的にてーとくの味方をした【巨躯(エルダー)】が戦死。その時庇われた【若人(アプレンティス)】は自身が本物のダークファルスではないことに気づいた。
「本物のダークファルスじゃない、って?」
「ダークファルス自身の意志が存在していない、【双子】に面白がてら認識を狂わされていたダークファルスの力を注ぎ込まれたオラクル人、アフィンさんの姉、ユクリータ。そうであることに気づいたわけです」
「ダークファルスの力を持たされてダークファルスだと思いこんでた一般人、って訳かぁ……」
その後ユクリータさんはダークファルスの力を浄化され保護。【双子】との決戦に挑む流れになっていった。
【双子】との戦いの中で、戦いの場であった惑星の守護者を庇っててーとくとマトイさんが【双子】に捕食され、腹の中というか一つの異世界と化した空間に飛ばされた。そしてそこで出会ったのは【敗者(ルーサー)】成分の抜けたルーサーだった。
「なんでいんのさ死人が」
「【双子】に喰われたものは全てあの空間に飛ばされますからね。惑星シオン亡き現実世界に興味を失ったルーサーは脱出するでもなく滞在していたんです」
そしてルーサーは敵意のないことを伝えつつ、てーとくはルーサーが創り出した実験生物であり、てーとくの両親の記憶を操作して親子と認識させていたことを明かした。
「私の全てが裏返ったような心境でした。ですが、私自身の異常な戦闘能力や初陣となったグワナーダへ対処出来たことが事実の裏付けとして、納得してしまいました」
「なんでそんな追い打ちを……!」
「ただ全て明かしてやる、ぐらいの認識だったようです」
その後ルーサーの導きで【双子】の異空間をマトイさんと共に脱出。ルーサーはそのまま残った。
そして【双子】と決戦、討伐に成功したのだが……
「【深淵なる闇】は大量のダーカー因子で出来る。11年前のように。そして、その場には他のダークファルスのダーカー因子を喰らってきた私、マトイ、【双子】が揃っていて。【双子】が滅べば残滓と言うには多すぎるダーカー因子が全て私達に来ます。【深淵なる闇】足り得る濃度のダーカー因子が一つになったわけです」
「そんな……じゃあ勝っても負けてもってこと!?」
「ええ、事実【双子】としては勝敗はどうでもよく、【深淵なる闇】の生成が出来ればよかったんです」
そしててーとくを軸にダーカー因子が集中。てーとくをコアにして【深淵なる闇】が復活しそうになったところで、マトイさんが記憶を取り戻したのか、動いた。
クラリッサを使いてーとくのダーカー因子を全て引き受けたのだ。てーとくの制止を振り切って。
「次に私が目覚めたときはアークスシップの病室で。マトイがすべてを引き受けた上で行方不明になり、このままではマトイをコアに【深淵なる闇】が生成されることを知りました」
「梓にとって最悪の事態だな……」
「……はい」
シャオさんがマトイさんを捜索する中、てーとくに【仮面(ペルソナ)】が接触した。マトイさんが【深淵なる闇】に墜ちて全てを滅ぼす、その前に彼女を殺そうという提案だった。
「そして私は応じました。マターボードの力もなく、誰も信じられなかった私はマトイが望まぬ世界の破壊をする前に終わらせること、それ以外の解決策が見つからなかったから」
「てーとく……」
「そして、これが私とこの世界の守護輝士(ガーディアン)との差でした」
てーとくは【仮面】とマトイさんを見つけ、【深淵なる闇】になりかけていた彼女と交戦。最後は【仮面】ごと貫き、討伐。討伐、してしまったのだ。
「マトイは最期に言いました。泣かないで、笑って、と」
「……」
「でも私は、もう笑えなかった!でもマトイの願いを叶えたくて泣くのを堪えて。……そう思っていた時、手元のコートエッジがダーカー汚染されていることに気づきました」
「それがてーとくのコートエッジが紫の理由……」
「【深淵なる闇】の生成は阻止され、多くのダーカー因子は消滅しましたが悔恨と絶望の中にいた個人をダークファルスにするのには十分で。……新たなダークファルス【仮面】が生まれた、という訳です」
「それが今のてーとく……」
「梓が泣くことも笑うこともできなくなってた理由もそこで結実したってワケか」
「ええ。そして身に付いたダークファルスの身体と鍛え抜いてきた戦闘技術、そして時間を行き来する力。私は、今度こそ時間を巻き戻してマトイを救うと決意し、その場を去りました」
「でもそれっててーとくの前の【仮面】そのものじゃ……!」
「アレも同じことを思ったことでしょう。今度こそは、私こそは、彼女を救うと。そしてあらゆる時間、機会に介入しマトイを救える解はないかと挑み続けました。……どれだけ挑んだのかは覚えていません。時間の感覚さえ失う程でしたから」
「てーとくが本来の年齢が分からないってのはそういう……」
「あの時間をカウントするなら私は何歳相当なのでしょうね。それすらも分からなくなるほど挑み、全ては失敗に終わりました」
コアとなるダークファルスの意志がないとはいえ、てーとくはダークファルスになった。当然、思考汚染が発生した。数え切れない失敗の中で、重なる失意の中で思考が歪んでいった。マトイさんを生かして救う。幸せになって欲しい。その願いが歪んでいったのだ。
「最終的にこう思うようになりました。マトイが【深淵なる闇】に堕ちる前に死ねば、苦しみと絶望の中で死ぬことはない。それが救いだと」
「そんなのただの逃げ……だけどそんなことも分からなくなっちゃったンだ」
「……そうですね」
そして、てーとくが戦ってきた【仮面】と同じようにマトイさんを殺そうとし、アークス時代のてーとくに撃退されて。最終的に選んだ殺すべき機会が11年前の【若人】襲撃事件だった。
「クラリスクレイス時代の彼女にとってルーファは唯一の友人。それを利用し、ルーファとして【若人】に苦戦するマトイに加勢し、撃破しました」
「リリーパで力の大部分を封印したって話だったし、マトイさんって当時の【若人】を一方的にやっつけられたんじゃなかったの?」
「彼女が一人で戦っていたことと、アークスを傷付けられないことを利用した【若人】が周囲のアークスを強制的に操り、肉盾としたんです」
「外道……」
「そんな操られたアークスを私が割って入り、無力化。遮るものがなくなったマトイはクラリッサがなかったので周囲の武器を使って【若人】を撃破。討伐には至りませんでしたが瀕死に。……その後【若人】は依代を替えようとユクリータさんに力を移す途中で【双子】に喰われましたがマトイは知る由もないことでした」
「マトイさん視点だとてーとく、というかルーファの加勢で勝った、ってことだけ分かってるンだね」
「ええ。そこで私は彼女を貫いた」
「……!」
直後駆け付ける本物のルーファ。そこでてーとくが【仮面】の姿になることで、マトイさんに裏切られたのではなく、ダークファルスに騙されたと認識させた。
そしてトドメを刺そうとしたてーとくとルーファが交戦。その中で歴史通り、マトイさんが自決しようとしてルーファが元の時代に戻されて、周囲が巻き込まれて。
「その時思ったんです。このまま行けば惑星シオンの妨害で彼女を先に見つけ出せなくなる。ならば、ここでは一旦引いて自身の力であの時代、現場に戻れば妨害を避けられるのでは、と」
「言われてみればそうかな……そうかも」
「そして自力で転移した私は、マトイやダーカーが転移してくる直前の時間軸に転移することに成功しました。……したと思ったんです」
「どういうこと?」
「アフィンさんの声が聞こえ、ルーファもそこに居ると思って確認したら、そこには別人、守護輝士がいました」
いるはずの人間がいなくて別人がいる。慌てたてーとくは身を隠しながらデータベースにアクセスした。
そこで判明したのはルーファという個人はその半年前、孤児院のある区画がダーカーに襲撃を受けた際、死亡していたということだった。
「単純な話です。この世界の私はグワナーダを討伐できずに死亡した、ということです。そして、惑星シオンが急遽用意した代役が守護輝士だった」
その事実に動揺する中でマトイさんとダーカーが転移。そのタイミングでてーとくがいたのはてーとくの目の前で戦死する予定の同期とその相方の近くだった。
「驚きました。彼らはパニックになり、バラバラに逃げようとしていたんです。もう一人が居なかった訳です。そして、つい咄嗟に手と声が出てしまいました」
「それって……」
「バラバラに逃げるな!と叫びながらダーカーを倒したんです。助けてしまいました」
「話が繋がってきたな」
「そしてなし崩し的に彼らを引率し、守護輝士とアフィンさんと合流。ついでに奇襲を仕掛けてきたダーカーを斬り伏せて」
「てーとくがさらっと未来変えたってそういう流れだったんだ」
「えぇ。そこでゼノ先輩が合流し、適当な言い訳をして彼らを押し付け、その場を離れました」
そうする中でてーとくは今後の身の振り方を考えた。そして出た結論が、すぐに自分のいるべき世界に戻らず自分の代役らしき人物を監視し、マトイさんを殺す適切なタイミングを改めて見定めるというものだった。
「マトイを殺したくない、という想いが残っていたのかもしれません」
「……」
そうして監視する中で、守護輝士はてーとくと同じような道程を辿りつつ決定的に違うことをした。
人を信用できず孤独に戦いがちだったてーとくと対象的に、多くのアークスを巻き込んで共闘していったのだ。それこそ監視していたてーとくすら巻き込んで。
そして運命の分かれ道。マトイさんが【深淵なる闇】のコアになりかけたところで、てーとく同様【仮面】の提案を受けた守護輝士はそれを蹴った。
「一人で抱え込むから失敗するのだ、皆で彼女を救う。だからお前も協力しろと逆に【仮面】に食って掛かったんです」
「それって……!」
「今の梓の基本方針、一人では限界があるから皆でやる、か」
「えぇ。そして守護輝士はやり遂げました。アークスの総力を挙げてマトイを抑え込み、止めた」
「でもダーカー因子はどうしたの?」
「この世界の【仮面】が引き受けました。そして【深淵なる闇】が生成された後、守護輝士にそれを撃破してもらい、【深淵なる闇】が再構成される前にコントロールを奪取、生成前の待機状態に戻すという繰り返しを行うことで小康状態を保っています。その繰り返し撃破任務がPSO2でいう徒花、というクエストですね」
「あー、あれ!」
「そして現在も【深淵なる闇】を完全に浄化し、コアになっている【仮面】の救助方法を模索している……これが現在までの経緯となります」
「それでてーとくもこの世界のアークスに協力するようになったンだね」
「そういうことです。……ふぅ」
「お疲れ様、梓。じゃあ、ちゃんとこの世界の【仮面】を助けてハッピーエンド迎えなきゃな?」
「そうしてその後に私がいるべき世界でも同じことをして、ここに帰って来たい。それが、私の今の願い(欲望)です」
「絶対叶えような、梓」
ぎゅっとてーとくを抱きしめる卯月の姐さん。そしてその想いは私達だって同じだ。
「改めて、地球もオラクルも全部解決するために皆でやっぞお前ら!」
「「おー!!」」
とんでもない話だったけど、だからこそやり遂げるんだ、私達皆で。
梓の過去というアークス側の情報整理話はこれにて終了です。
「いくら強い個人でも限界はあるので一人でなんとかしようと失敗する」「だから多様なみんなの力を合わせる必要がある」が今作の根幹となります。PSO2EP4までの話に脳が焼かれた結果ですね。