梓の告白から数週間後 清雅学園
あれから各自強化をしつつ、アークスに時折協力をしていた。要は電の奴以外のダーカーの巣が発見され次第掃討する任務である。
アークス情報部からの情報では監視対象であるフォトンの適合者、橘イツキに近い人物も先日連れ去られた。その人物は彼の協力もあり奪回に成功したとのことだ。
問題はその前後からの情報部と橘イツキの関わり方だ。【若人(アプレンティス)】のターゲットと思しき彼がフォトンの適合者として目覚め、アークスのように戦えるようになったらしいのだが、それ以降生身でダーカーとの戦いに身を投じているのだそうだ。
それを知ったてーとくは鎮守府からも彼に接触し、協力することを決断。丁度学園祭を彼の所属する清雅学園高校が開催していた為、来客として入りコンタクトを取るように指示が降りたのだった。
……橘イツキが戦闘協力をしていることをクーナさんから伝えられた経緯は以下の通りである。
「この区域も掃討完了ですね。梓も鎮守府の皆さんもお疲れ様でした」
「お疲れ様です、クーナさん」
「皆さんこちらの戦闘にも慣れてきたようですね」
「各自強化も順調です。出来ればこのまま【若人】ごと叩いてしまいたいのですが……」
「難しいでしょうね。狙いを彼に絞らせていますからダーカーの挙動を制御できるとはいえ」
「彼?」
「橘イツキのことですよ」
「フォトン適合者の方でしたよね……それがなんと言いました?」
「……え、まさか知らないんですか!?」
「……えぇ」
「「……あの陰険腹黒クソ眼鏡ッ!!」」
という流れで判明したのが昨日である。ちなみに昨日もアークスシップへの襲撃に対応してもらっていたらしく、そちらにブーストエネミー、電を連れ去った強化個体のお仲間が出現したものの撃退したそうだ。
てーとくの抗議に対し橘イツキを鉄火場に放り込んだ責任者の陰険腹黒クソ眼鏡ことカスラさんは、
「そちらはそちらの強化で手一杯でしたからね。こちらで対処すべきと判断したまでのことです。本人からも了承を得ていますしね」
とのこと。カスラさんは暗部に関わり、責任を持って暗躍していた旧体制時代から変わっていないとはてーとくの談である。
「橘イツキ、私と入れ違いでゴミ捨てに行っちゃったか……えーっとこっちだって言ってたな」
彼の所属するクラスを訪ねてみたが、タイミングが悪かったらしく不在。そこで同じタチバナ姓(字は違うが)であることを利用し、親戚だと言って居場所を聞き出していた。
そしてそのクラスメイトにオラクル人、情報によればアイカというテクニックタイプのアークスが居るのも確認した。あちらは私に気づいていない辺りてーとく周り、ひいては鎮守府のことを知らない様子だった。
そんなことを思い返しつつゴミ捨て場を目指し喧騒を抜けていると声がかけられた。
「あれ?蒼?立花蒼?」
「ン?……八坂火継(やさかひつぎ)に鷲宮氷莉(わしのみやこおり)か?」
声をかけてきたのは同い年のマザー・クラスタ所属で、マザー・クラスタの学生メンバーが集められている天星学院の生徒会役員である二人だった。あの学校ではマザー・クラスタメンバーが生徒会役員をするらしく、ハギトさんも生徒会OBである。
私達同期の具現武装組も艦娘にならなければそこに入学する流れだった。
同い年なこともあり、二人とはマザー・クラスタのSNS上でそれなりに親しい関係だ。
「やっぱり蒼!……どうしてここにいるの?」
「あー、鎮守府のシフトが今日休みでさぁ。親戚が学園祭中っていうから観に来たんだよ。橘イツキって2年で生徒会の副会長してンだけど」
「橘さん……ああ、あの人!なんでもそつなくやれそうな人だったよね、火継ちゃん」
「そうねぇ。……でも本当に鎮守府暇なの?上から下へ大騒ぎだって話流れてきてたんだけど」
「大騒ぎすぎていつもやってる他所との演習に一般招き入れる興行もしばらく停止されちまったから一周回って暇なのさ」
これは嘘ではない。その代わり対ダーカー想定含めた強化を進めていて暇ではないが。
「ンで、せっかくだし親戚のイツキ兄さんの顔でも見てくかーって思って探してるンだわ」
「ふーん、なんなら一緒に行く?氷莉が食べ物買いすぎて処理に困ってるのよ」
「火継ちゃん!?」
「ホントにすげー量だな太るぞ」
片っ端から買ってるんじゃないかコイツら。鷲宮が暴走しがちな性格は知っているが、それを知った上で流されるのを良しとしている節が八坂にはある。電からは私と海の関係と似ているとのことだ。ここまで酷いか私。
買い込んだ食事を二人でなんとかして食べきるのだろうが……軍人でもないのにその量は良くない気がする。学生らしい失敗といえばそれまでだが。
そんなことを思っていると悪寒が走る。これは……ダーカー反応か。
「蒼?」
「ン、あぁ、なんでもないなんでもない」
「すごい顔してたよ?」
「気のせいだって!それと、イツキ兄さんはクラスでも忙しくて生徒会でも更に忙しいみたいだし、軽く顔だけ合わせてすぐ戻ってくるよ。早く行かないとゴミ捨て終えてまたすれ違っちまう」
「そう?分かった。また後で」
そう誤魔化して悪寒のした方、橘イツキの居るらしい方向へ走る。同時に鎮守府への通信を繋げる。なんの事情も知らない二人を巻き込むわけにもいかない。
そうして駆けつけた現場では、橘イツキと先程クラスにいたアイカがダーカーの群れと戦闘していて、アークスのような格好をした女性が中型ダーカー、ゴルドラーダのブーストエネミーらしきものに捕まっている光景が広がっていた。
「こりゃぁ……変身!具現武装!まずはその人離しやがれ!ってこいつら!?」
「和泉先輩!」
「リナ!」
私に気づいていないのか余裕がないのか、捕われた人に意識を向ける二人。更に元から戦闘をしている二人だけでなく、私にも取り巻きのダーカーが雪崩込んできた。どれだけいるんだこいつらは。
「イツキー!ってなんだよこれ……」
「さっきの人!……ッチィ!」
先程橘イツキの情報をくれた男性がやってきてしまった。一般人を巻き込んでしまうのは不味い、そう思った矢先。ゴルドラーダが和泉リナと呼ばれた人を連れ去り転移してしまった。畜生、やられた。残りの敵も消えていった。
「おいイツキ……」
「コウタ!?」
先程の人はコウタというらしい。先程の状況についていけず、コスプレか?などと聞いていた。オフラインイベントなどでアークスのコスプレする人は多いから、逃避がてらそちらだと思うのも無理はない。
そうして混乱しているコウタさんに橘イツキはオラクルは実在するんだという余計に混乱する情報をぶん投げ、アイカと共に転移してしまった。おそらくオラクルへ。
「……って、完全に私のことを眼中になかったなあの人ら!?」
「えっと君は……艦娘のコスプレ?」
「えー、あー……解除。先程はどうもっス」
「イツキの親戚の子!」
「すんません、アレ嘘です。私自身タチバナ姓だったンで適当言いました。もっかい変身と人払いの術具起動、っと……」
これから話すことを他に聞かれたくはないので対策しつつ江風になる。
「127鎮守府……こっから海に向かってすぐのトコの所属の江風です。これ識別表」
「本物の艦娘をリアルで……初めて見た……!」
「でしょうね」
普通そんな機会は127に見学に来るか護衛対象になる海洋事業関係者でもなければないだろう。
「えっとどっから言えばいいんだろうなァ……コウタさん、でしたっけ。橘イツキ、ついでにアイカ……鈴木アイカって名乗ってるんでしたっけ?とはどういう関係で?そっから話せること変わるンで」
私が1つ下だからタメ口でいい、とかの自己紹介を済ませた上で彼の情報を聞いた。彼は橘イツキのクラスメイトで友人の茅野コウタ、高校2年生。
以前から橘イツキをPSO2に誘っていて、夏休み明けから生徒会に入った彼がPSO2を始めるに当たって指南をしたり、一緒にクエストやフレンド交流をしているそうだ。
PSO2での彼のアバターネームは†コア†。キャラ付けしたロールプレイを楽しむスタンスの集団の一人で、結構有名な実力のあるユーザー集団でもある。
この集団には別で有名だった実力者のぼっちプレイヤー、SOROが合流したり荒らし行為が問題視されていたユーザーを更生させたりと話題が多いようで、それらには橘イツキが関わっていたそうだ。
「いやでも、ゲームのPSO2がマジに存在するなんて信じられなくてさ……さっきの光景見たら信じざるを得ないんだろうけど」
「そこは仕方ないと思いますよ」
アイカこと鈴木アイカは夏休み明けにクラスに転校してきた帰国子女で、すごい可愛いが不思議な言動や行動をする人だという。彼女が真面目なのはそれでも分かり、受け入れられているとも。
彼女はPSO2をやりこんでいるらしく、橘イツキと生徒会関連込みで一緒に行動しているという認識だそうだ。
「なんでPSO2と生徒会が繋がるンすかね?」
「なんかPSO2やりすぎて学業に悪影響!みたいなこと言われないように上の人にアピールするらしくて、和泉先輩からイツキがその担当ってことで空いた副会長のポストと一緒に任されたらしいんだ」
「その人、PSO2への熱意凄いな……」
和泉リナ。容姿端麗成績優秀で生徒会役員としても有能優秀な生徒会長。先程攫われた人らしい。橘イツキをPSO2に引き込んだ張本人であり、有名プレイヤーSOROの正体でもある。
彼女を筆頭に生徒会でも学園単位でもPSO2は人気タイトルらしい。
「PSO2の実力者……ターゲットになる理由としては十分だけど橘イツキに狙いを絞ったって話だったよな……」
「それってどういうことだ?」
「あー、えっと」
鎮守府から詳細に話す許可を得ていたので出来る限り話すことにした。
ゲームであるPSO2と同じような異世界オラクルが何故か繋がってしまっていること、それでアークスが調査で地球にやってきたこと、127のてーとくや鈴木アイカはそれで派遣された人物であること。
敵であるダーカーが地球人をダークファルス復活の依り代として狙っており、実力者のPSO2プレイヤーを連れ去る事件が多々発生していて、奪回にアークスや私達が動いていたこと。
その中でもフォトンの適正が生まれながらにして高い特異体質である橘イツキはダーカーにとってより優秀な依り代として狙われるとアークスが判断し、鈴木アイカを護衛としてこの学園に派遣したこと。
その中で橘イツキはフォトンの扱いに目覚め、アバターではなく本人がオラクルへ乗り込んでダーカーと戦っていたこと。
そして橘イツキ自身が戦いに身を投じていることを昨日知った私達がサポートのために接触しようとしたのが今日の今だということを話した。
てーとくがダークファルスとかそういうのはややこしくなるから省略した。
「……受け止めきれないとこはあるけどまあ分かった。でも、そしたらなんで和泉先輩が攫われたんだ?」
「そこは私も分かんないンですけど……さっきのアークスみたいな衣装、和泉さんがコスプレしてるとかそういう話はなかったンですよね?」
「生徒会で密かにそういう企画してたんじゃなきゃ知らないな。和泉先輩は皆の注目の的だからそういうことするならすぐ噂になるはずだし」
「ってこた和泉リナさんもフォトンに目覚めた適合者……?そしたら不味いな」
「不味いってどういう」
「ダーカーが片っ端から地球人を攫った話はしましたよね。その上でダーカー目線でいい人材が居なかったから捕まえたまま放置してたンです。だから奪い返せたンですけど。
けど、フォトン適合者はそうはいかない。依り代としてうってつけすぎるンです」
「ってことは和泉先輩がダークファルスの依り代に……?」
「最悪、その可能性が……ン、てーとく?」
『こちら福山、【若人】及び依り代にされていると思しき和泉リナさんを確認!現在ゼノ先輩が交戦中!映像、回します!』
そうしててーとくの横あたりの目線での映像が流れてきた。おそらくはアークスの補助装備の「マグ」だろう。
てーとくが駆け付ける中、ゼノさんは苦戦してあちこち負傷していた。
『ゼノ先輩……ゼノ!前衛を代わる!』
『っぐ、ルーファか……悪いな、頼む』
『こちらにアイカともう1名のアークスが交戦していたという情報がありましたが……『ウォークライ』!』
『またあなたなのね』
『今度も依り代を奪い返させてもらうぞ、『蛆虫』め!』
『ッ!!』
てーとくの蛆虫、というワードに過敏に反応する【若人】。てーとくもそれを狙って発言しているようだ。
『ゼノ!これまでの状況は!』
『先にアイカともう一人が交戦してたがどっちも負傷してたから撤退させた!死んじゃあいねぇ!』
『了解、ゼノ、あなたも撤退を。後は私とテオドールが引き継ぎます』
『流石にお前達だけでも……って言いたいがこれじゃ俺が足手まといか。頼んだぜ!』
『えぇ』
「なあ、そのもう一人って」
「橘イツキさんですね。負傷しただけみたいですから大丈夫なはず。問題はこのダークファルス……潰しきれるかな……」
「いや待ってくれ和泉先輩ごとやる気か!?」
「助けるためにもまずは体力とか力削らないといけねーンすよ。私の仲間が今の和泉リナさんみたいになった時も殴って奪い返した感じでしたし」
そう言いながら見守っている中、てーとくの大剣と【若人】の双小剣が激しくぶつかり合う。お互い普通なら戦闘に支障が出るようなダメージを与えているが、ダークファルスの耐久だと問題になっていないらしい。
『邪魔をしないで、裏切り者』
『蛆虫の残り滓が何を偉そうに。その身体を手放して地下に逃げ帰るようなら手心を加えてやってもいい』
『鬱陶しい……!』
『お互い様だ死ね!!』
罵倒と連撃の応酬。まだ私の戦闘技術ではこれに追いつけそうもないな、と思っていると状況に変化が訪れた。
『もらったわ……!』
「てーとく!」
『くっ……狙い通りだ』
『なっ、がっ!?』
【若人】の刃がてーとくを貫いた。それに対しててーとくはダメージを無視して片腕で【若人】を掴み、そのままもう片方の手に握った大剣で深々と【若人】を貫いた。
『テオドール、今!!』
『死なないでくださいよ本当に!』
「アレは地下に行く防衛戦に出てくるフォトン粒子砲?」
「あ、てーとくまさかまた……」
『離せぇ!』
『私ごとフォトンの奔流に飲まれろ蛆虫!!』
少し離れたところで待機していたテオドールさんが手持ち武器にするにはあまりにも大きすぎる、PSO2での防衛戦クエストの最後のイベント用の巨大砲をてーとくごと【若人】に対して放った。
『ア”ァ”ァ!!その忌々しい玩具は……!!』
「もう一撃を喰らえ。『インペリアルグリーヴ』!!」
『っぐ、うぅ……覚えてなさい……!!』
直後にてーとくが追撃を入れたところで【若人】は転移していったのだった。
「……」
「……いや和泉先輩は!?」
「えーっと……てーとく?」
『想定、ハァ、通りです……あそこまで適合した蛆虫……【若人】を素直に撃破して和泉リナさんの救出は難しいと判断していたので、大きく損耗させるための戦いで……ふぅ』
『やっといてなんですけどよく無事でしたねあなたも【若人】も……』
「想定通りですのやられ具合じゃないでしょそれ!?ああもうまた卯月の姐さん達に怒られるよ覚悟しといてよもう……!」
『そこは、はい。そしてこの後の【若人】ですが、明日には封印地点から完全体として復活を遂げるでしょう。そこを改めて叩き、和泉リナさんを救出するならその機を除いて他はありません』
「明日……!」
『鎮守府の戦闘要員総員、明日の【若人】討伐に参加していただきます。そのための訓練でしたからね』
『明日のどのタイミングで復活するかは情報部が計算中です。僕も同行しますからよろしくお願いします!』
「江風了解、通信解除。……だいぶ破茶滅茶でしたけど、今のが向こうでリアルに起こっていたこと……ですね」
「なんであんなの振り回してんのとかなんで無事なのとか色々聞きたいことはあるんだけどな……和泉先輩、助けられるのか?」
「……助けます。多分、橘イツキさんも鈴木アイカさんもその為に動くはず」
だいぶ物分りのいい人で助かる、と思った。
あのフォトン粒子砲は人が取り回せるものではないだろうが、てーとくが足止めをしてアークスでも指折りの出力を誇るテオドールさんが最大威力を出せる手段、として無理矢理使ったのだろう。
「イツキも……俺に何か出来ねぇかな」
「……ダークファルスの復活地点は分かってるみたいで、なおかつアークスの主力部隊というか戦力が殴りかかるのは基地側からってのも想像がつきます。ダーカーもアークスが押し寄せてくる方向に防衛線を敷くはず。
だから、それを避けたルートでイツキさんは突っ切っていくルートを情報部、カスラさんに指定されると思います。そのルートが分かったら『PSO2プレイヤーの†コア†』としてそこで合流して援護とか、どうでしょう?」
「出来るのか!?」
「元々隙のありそうなとこから襲撃かける予定は127鎮守府で予定しててシミュレートもしてたンです。これまでを考えたらカスラさんはイツキさんにそれをやらせると思いますし……分かり次第追加連絡入れるので、お願いできますか?」
「分かった。……イツキはその前に帰ってくるのかな」
「……了解。イツキさんは先程意識を取り戻したみたいで、回復し次第地球に一度戻ってくるみたいです」
「ならイツキと話をしなきゃな……詳しいことわかったら頼むよ」
そうしてコウタさんの協力を取り付けて帰還することにした。ああ、八坂達に詫びの連絡入れないといけない。
「てーとくもカスラさんもアイカって人に感化されたのかイツキさんも……自分で背負い込んでやろうとしすぎだねアークスってのは。イツキさんはコウタさんいて良かったね?ホントにさァ」
だからこそ積極的に首を突っ込まないと後悔することになるだろう、というのと徹底的にやってハッピーエンドを迎えてやると思ったのだった。
ヒツギ「やーっと連絡が来た!えーと、急な招集が来てとんぼ返りした上に橘先輩にも会えなかった?何やってんのよ……」
コオリ「ヒツギちゃん、これ、食べれない?うっぷ」
ヒツギ「体重計に乗るのが怖くなってきたわ……蒼にいくらか押し付けるんだった」