少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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5話 一般公開と――

 2027年4月末 10:00 第127鎮守府

 

 

 「さあさあ、皆準備はいいね!それじゃあ、開場~!」

 

 初陣から数日。秋雲さんの元気な声と共にこの鎮守府の新しい役割の試運転が始まる。それは。

 

 「一般の皆様ようこそお越しくださいました!鎮守府一般公開!どんどん!見てってくださいね~!」

 

 今まで全面的に関係者立ち入り禁止で秘匿対象だった鎮守府組織の、大々的な広報業務。この鎮守府のほぼ全て――寮などのパーソナルエリアや司令室等の機密エリアを除いた――を活用した観光としての役割である。

 

 『こちら電、予想の2割増しで入場者来てます、どうぞ』

 『こちら響。タグは全て起動中。何かあったら坂田班、よろしく頼むよ』

 『こちら坂田。出番ないことを祈りまーす』

 『こちらーー班、巡回開始します』

 『こちらーー班』

 『こちらーー』

 

 入り口の案内の電、巡回の憲兵部隊、各所の皆の報告が聞こえてくる。私の管轄は最奥の鎮守府本館1階の、正直つまらない展示だからまだ出番はなさそうだ。2階以上は立ち入り禁止区域にしている。

 

 「しっかしまァ、この監視装置みたいなタグ。こういう用途だったンだなァ」

 

 観光客全員に渡されたタグは、似たようなものをこの鎮守府関係者は全員が身に着けている。持ち主のバイタルを随時管理室に送信し、うっかり落とすと警報が鳴り響くシステムになっている。身に着けていられない風呂や就寝時は、専用ケースに入れないと警報が鳴ってしまう困りものだった。

 このタグを観光客にも持たせることで、どの客がどこにいるか、怪しい動きをしていないかを監視することができるというわけだ。緊急避難時に観光客を避難させきれないことを防ぐこともできる、とは福山提督の談だ。これを落としたり手放した場合、坂田さん達がすっ飛んでいく流れになっている。

 

 「江風さん、お疲れ様です。交代時間が来たら自由に動いて構いませんからね」

 「福山提督。あれ、その眼鏡は?」

 

 書類仕事に一区切りをつけたのか、福山提督が降りてきた。だいぶ雰囲気が抑えられている。眼鏡一つでここまで化けるものだろうか。

 

 「これはアー……いえ、私の出向元の試作品です。私の威圧を一般の方にかけるのは控えたいところですから、印象操作を行える装備品を開発してもらったんです」

 「なんかすごいことしてないです?」

 「出向元も、この手の技術提供は惜しみませんから。どうでしょう、普通の艦娘に見えますか?」

 「結構怖いなぁぐらいだからだいぶマシにはなってるけど」

 「まだ……落ち度が……」

 

 聞いてる分には魔法のような技術だ。あの殺意の塊のような圧と目がめっちゃ怖いぐらいにまで抑えられている。福山提督は穏やかな艦娘ぐらいの印象まで下げたかったようだが。

 

 「いや、ええ、まあ、いいです。いいですとも。不用意に一般の方の前に出るのは差し控えておきましょう。準備時にも言いましたが、何が気が付いたこと、観光の方が言っていて気になったことなどがあればすぐに教えてくださいね」

 「了解です」

 

 少し、いや結構なショックを受けた様子で福山提督は去っていった。

 

 「つってもなァ……あぁ、いらっしゃいませ、展示どうぞ」

 「……うーん、なんか難しいこと書いてるなぁ」

 「先に他のところ回らない?」

 「すいません、この工廠、ってどうやって行くんですか?」

 「あっはい」

 

 展示内容は鎮守府組織の歴史だったり理念だったり、まあお固い内容だ。本気で学びに来た人とかマニアぐらいしか見ないだろうし、実際反応が悪かった。

 

 「突っ込んだコトは機密がどうとかで大本営からの許可が得られなかったー、ってそりゃ面白くならないよなァ」

 

 鎮守府組織を統括する大本営。各鎮守府たちの代表のようなポジションで、横須賀の元帥もその一席を占めている、らしい。とはいえ、元帥一人がもっと情報の公開を、と言ったところで簡単には通らなかったのだろう。その結果がこれである。

 

 『こちら加賀。工廠エリアはまずまず好評よ』

 『同じく瑞鳳。やっぱりもっと色んな装備を見たいって声が上がってまーす!』

 

 艤装や武装、設備の模型などを展示している工廠エリア。やっぱりわかりやすく人気が出る場所の様だ。

 

 『こちら龍田。入渠ドックエリアはまあ、想定通りの人の入りよ』

 

 負傷した艦娘や破損した艤装を修復する魔法のような修復材、それを活用した鎮守府の重要要素である入渠ドック。部外者からしたら興味深く、不気味に映るようだ。私らも慣れるまでは不気味だった。

 

 『こちら羽黒、建造ドックエリアは遠巻きに見られてます……!』

 

 艦娘に適合した人間、通称『素体(ベース)』。それに反応して資材を消費し、今ある中で最も適した艦の艤装を作り、素体が艦娘に変身できるようにする。魔法少女育成所というかそんな調子の建造ドック。近づいたら艦娘になってしまうのでは、と思われているようだ。無理もないだろう。

 

 「卯月さん言ってったっけ。実際、駆け込んできた素体の素質持った人に勝手に反応して建造が始まったケースもあるって」

 

 鎮守府のコアパーツが『出現』すると最初に形成されるのが建造ドックらしく、付近の素体の素質を持った人が艦娘になるのを防ぐことができないらしい。それ以降の建造ドックの暴走を防ぐため、鎮守府という『箱』という形で整えて建造ドックを簡易封印し、運用しているらしい。それでも暴走することが稀にあるとか。鎮守府は実は未だに謎が多い。

 

 『この鎮守府の建造ドック、完全に機能を停止してるから大丈夫ですって言っても反応薄いです~!』

 

 観光業をやるのを見越してか、どうやったのか建造ドックの機能に『トドメ』を刺したと聞いている。結果、鎮守府改修とか艤装改修、入渠といったリソースに不思議な力をより回せているのだとか。地下に実用施設を移せたのもその影響らしい。

 

 「最初は物珍しさで人来るだろうけど、どこまでやれるかねぇ。なんかもうちょっと欲しいよねぇ。……あ?」

 

 展示スペースに来た複数人から嫌な感じがする。入り口担当の悪意センサー持ちの電からは特に何も聞いていないが、展示品に隠れつつ様子をうかがってみる。

 

 「肝の入り口の艦娘は人混みに紛れてうまく撒けた。後は大丈夫のはずだ。仕掛けるぞ」

 

 混雑を利用して電のすり抜けたらしいその人達は2階、進入禁止区画に入ろうとしていた。悪寒が走る。

 

 「こちら江風、なんかやばいのが3人。本館奥に行こうとしてる。止めてきま」

 「お客さん、なにをこそこそしてるんです?そちらは立ち入り禁止なんですよハハハ」

 

 坂田班が割り込んできた。いつからいたんだろう。

 

 「いや、気付かなかった済まない済まない。すぐに戻るよ」

 「やー、それには及びませんよ。その服の中にあるプラスチックのソレ。そんなものを持ってるんだ。じっくりお話聞こうじゃないですか、ねえ?」

 

 フランクな空気だった坂田さんから突然殺気があふれる。あの人こんな空気出せたのか。それに対し、不審者達は狼狽しつつ抵抗しようと……悪寒が強くなる。

 

 「坂田さん、右の奴、ヤバイ!すぐ止めて!」

 「あいよ!この野郎ッ!」

 

 私の声に反応した坂田さんが躊躇わずに暴徒鎮圧用に調整された銃を放つ。ワンテンポ遅れて、他の班のメンバーが残り二人を抑えにかかる。

 

 「江風ちゃん、お手柄。コイツプラスチック爆弾仕込んでやがった。入り口の手荷物検査パスできる程度の小さい奴。自爆する気だったのかねぇ」

 「班長、ソイツが主犯らしいです。残り2人、自爆しようとしたことに狼狽してます」

 「全員憲兵所に連行します」

 

 テキパキと無力化した主犯格を含めた3人を拘束、連れていく。坂田さんだけ残った。

 

 「やー、江風ちゃんありがとな!『やっぱり』君の勘は頼りになるねぇ!」

 「え、あ、ありがとうございます?」

 「あ、ハハ、江風ちゃんの勘の良さは訓練校からのデータで知ってたんだよ?ハハハ」

 

 苦し紛れに笑う坂田さん。この人もナニカを『知っている』のだろうか。

 

 「まー、うん、ごめんね。怪しいよね。でも、まだ言えないんだ。鎮守府辞めるー、とかならない限り絶対言うからさ、今は俺たちの怪しさに気付かなかったことにしておいて欲しい。これからしばらくもね」

 

 坂田さんは誠実な空気を出して言う。悪いことじゃなさそうだ、と勘が告げる。どの道、私は行くところなどないのだ。

 

 「いいっすよ。けど、いつか。本当に話してくださいね。蚊帳の外のまま中途半端に関係者扱いされンの、私一番嫌いなんで」

 「肝に銘じておくよ」

 

 そんなことの繰り返しで私は地元を出たのだ。こちらでもそうではたまったものじゃない。だからこそ、信頼して言ってもらえるぐらい頑張らなきゃな、と思うのだった。

 その後は特に目立ったアクシデントは――客を捌ききれなくて工廠とレストランが混乱したが――発生せず、一般公開初日は幕を閉じるのだった。

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