少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 暁視点です。江風着任前の話などをしていきます。


49話 託された願い

 13:00 第127鎮守府

 

 

 「総員帰投したわよ!」

 「おっつかれ〜!もちっと戦力整ってればワンチャンいけたっぽかったね」

 「データ取りとしてはいい作戦だった、と思います」

 

 私、暁の先導の下に鎮守府組とオラクルから付いて来た数名が鎮守府に到着した。

 

 「まあねえ。戦闘要員各員に通達。祝勝会は19:00から!それまで寝たりシャワーを浴びたりして休みなさい!特に梓!」

 「私、ですか?」

 「ダークファルスの体だから睡眠はいらないとかそういうの言わせないわよ。とりあえずそうね……卯月」

 「おん?」

 「梓に添い寝してあげてきっちり休ませて」

 「っぴょぁ!?」

 「え……」

 「何を今更初心な反応してるのよ」

 「暁、癒やすなら私を置いて話を進められちゃあ困るわ!」

 「雷お姉ちゃんと司令官さんと添い寝……ごくり」

 「2人とも一緒に寝て来ればいいわよ。とにかく休む!いいわね!」

 「ねえ江風、ここは私達も姉妹で添い寝するべきだと思うの!」

 「余裕そうだな嫌だよ」

 「かーわーかーぜー!!ご褒美欲しいよぉー!!」

 「あーもーしゃあねェな……」

 「各々好きにしなさい。とりあえず戦闘要員0はまずいから私は起きておくから、何かあったら呼ぶわね」

 

 卯月の反応する通り、卯月と梓が添い寝したことはない。が、してもおかしくないような関係なのは鎮守府内では周知のことである。だから、『それが普通』だと知らしめていく。

 癒やすことに執着している雷と梓に変な懐き方をし始めた電も釣られたが……まあいいだろう。海風と江風に至ってはいつもの光景である。

 

 「わ、わぁっ……ルーファってあの子とそういう感じなの?」

 「そうよ。それとマトイさん、ここでは、というか私達の前では彼女を梓って呼んで欲しいの。この基地の司令官、福山梓。それが今の彼女の肩書なの」

 「う、うん。あず、さ……アズサ。分かったよ」

 「そっちもいいかしら?」

 「俺達はテオドールから聞いてるから異存もねぇよ。ま、この星の人の名前の発音ちいとばかし慣れねぇがそこはおいおいだな」

 「この星って言語が複数あってね。特にここのは外国人から発音難しい、って評判だからね。気にしないわ」

 「テオドールやウルクは呼び慣れてたみたいね」

 「ウルクさんは情報のやり取りを、テオドールさんはうちのあの赤い子にウザ絡みしてる白い子、海風の直接指導してもらったりと懇意にしていたからね」

 「テオドールは例外みてーなスペックだと思うがついていけるあの嬢ちゃんも中々だな」

 

 強制参加で連れてきたマトイさんと任意で付いて来たゼノさんとエコーさん。

 テオドールさんは先程『全』アークスに洗いざらいウルクさんが梓や【仮面(ペルソナ)】のことを開示したことへの応対で忙しいらしくすぐに帰ってしまった。

 

 「世の中ひっくり返りそうな状況みたいだけどゼノさんはこっちに来て良かったの?」

 「情報部のカスラさんに全部投げた!まあ、日を跨いでも考え込んでるやつが居たらそんときゃフォローするさ」

 「ゼノは六芒均衡で教導部次席の自覚あるの?」

 「なーに言ってんだよエコー、適材適所って奴だ」

 「私達鎮守府も貴方達における【若人(アプレンティス)】みたいに備えなきゃいけない相手が居るし、貴方達で言うマザーシップ騒動直後みたいな状況でもあるからサポートできないの、よろしくね。詳しいことはそれこそテオドールさんやカスラさんが知っているはずよ」

 「了解だ」

 「そこまで迷惑かけさせないから安心して」

 

 竹を割ったような快活なゼノさんとストッパー役のエコーさん、バランスが取れたコンビのようだ。

 

 「とりあえずお昼にしましょうか。祝勝会でもご飯出すけどまだ6時間あるからね」

 「ご飯と聞いて!私の出番ですね!」

 「足元覚束ない奴に任せるわけないでしょ。羽黒、瑞鳳連れて行って」

 「はーい瑞鳳ちゃん早くお風呂入って寝ましょうねって抵抗しないでください!」

 「地球初めての味を私の卵焼きに〜!」

 

 前半は艦載機制御、後半はスターゲイザーと精神力を使い果たした瑞鳳に無理して料理させるわけには行かない。

 着任当初は料理は苦手だ、と言っていたが随分と変わったものだと思う。

 

 「えーと、あの子は?」

 「料理を振る舞うのが好きなのよ。回復したら何か作らせてもいいかもね」

 「しっかし、ル……アズサの部下が料理好きとはなあ。アイツの食生活酷かったから感動モノだぜ」

 「アークス時代ですら朝はフィッシュ、昼はベジタブル、夜はミートのレーションでいいってスタイルだったって話だもんね。あの身体になってからは食事も取らなくなったって話だったけど。そこのとこはどうなの?」

 「食事も睡眠も不要だからって最初は休まず仕事に勉強にと酷かったらしいわよ。

 私が出会うまでに卯月達がなんとか食べる事はやらせるようになったけど、威圧しちゃうといけないって皆の前では食べようとしなかったわね。ごく最近よ?皆と食事を摂るようになったのは」

 

 ダーカー因子の塊であるダークファルスは普通の食事も要らなければ睡眠も不要である。が、それはあくまでも人の精神をしていない、今回討伐した【若人】のような化け物の話である。

 人の精神をしているのであれば食事という娯楽、睡眠という休息を取らなければ精神が保たない。

 しかし事実として地球や艦娘等の必要知識に欠けていて、多くを出来るだけ早く知る必要があったこと、私達が合流した頃はまだ無意識に殺気じみた圧を抑えられず、特に新人や非戦闘要員と食卓を囲むのが厳しかったのも事実である。

 色々と落ち着いてそういったことが可能になったのは130奪還後辺りからだった。今は特に卯月が地球の美味しいものをあれこれ食べさせて餌付けしている光景が度々見られる。

 

 「あの人、そんなに酷かったんだ……」

 「この世界の守護輝士(ガーディアン)はその辺り大丈夫なの?」

 「うん、逆に私が色々と連れて行ってもらって……」

 「マトイの嬢ちゃんは記憶喪失以前から戦闘以外知らない上に人との交流もなかったんだもんな」

 「今が大丈夫ならいいけど。……さて、気を取り直してここが食堂よ。鎮守府職員の食事は全てここで作られているの。料理長、お昼4人分お願いできるかしら?」

 「暁ちゃんお帰り。それにお客さんが3人ね。暁ちゃん基準で作って大丈夫?」

 「あぁ、そうね。私達動いて戦ってだから大盛りで食べるんだけど、食べれるかしら?」

 「こちとら体が資本だ。いけるいける」

 「ちょっとゼノ!私は普通の量で!ちょっと体重が危ないの!」

 「わ、私は大盛りで……」

 「マトイさんはよく食べるって梓も言ってたわね……」

 「も、もう!」

 

 艦娘になる人間は基本的に年頃の女の子であり、最初こそ大量に食べるのは抵抗がある者が多いが、運動量が凄まじいので皆すぐに大盛り注文に慣れてしまう。彼女らの反応は新人を見るようで微笑ましいと思った。

 なお弊鎮守府の新人組こと電達に大盛りを躊躇うような奴はいない。逆に元艦娘であり内勤になったハナさんは現役時代の量を癖で食べようとして自重しようとしている光景が時折みられている。引退して運動量の減った元艦娘が太った、という話をしながら大盛りを平らげるのは艦娘界隈では鉄板である。

 

 

 14:30 執務室

 

 

 食後軽く鎮守府施設を見せて周り、執務室に到着した。秘書艦の弥生、情報整理をしていた参謀、情報室から出てきた響、何故か執務室で寝ていたヲが出迎えてきた。

 

 「案内お疲れ様、暁」

 「機密もあって興行目的じゃなければそんなに回るところないっちゃないのをちょっと忘れてたわ」

 「これ以上ヘンテコな業務が増えたら立ちいかない、です」

 「それはそうなんだけど。参謀、さっきの戦闘データまとまったかしら?」

 「大まかには、な。あのダークファルス級を滅ぼすのに必要なエネルギー及び運用、その他こちら側の改善点をもう一度ブラッシュアップして明日にでも各員に見せるとしよう。

 アークスの幹部級だったな、お前達。そちらの戦果、評価について地球人なりにまとめたが……これらの情報提供は必要か?」

 「ありがてぇ。アークスってのはルーサーの傀儡だったこともあって、強い奴は強い。弱い奴は死ぬ。運がない奴も死ぬ。ってだけを煮詰めてきたようなやり方だったんだ。

 目下俺達教導部はどっから手を付けてどう改善させたものか、ってのが悩みどころなんだよ。あんたら集団戦を見返して研究して煮詰めてやってきてるんだろ?参考にするには助かりそうだ」

 「【若人】のダーカー反応と周囲のダーカー反応の推移データも渡しておくよ。何せ君達はもっと強大な【深遠なる闇】をどうにかしないといけないんだ。私達としても出来てもらわないと困るからね」

 

 私達はダーカーと戦う組織ではないが、最終的にダーカーと決戦をする梓には生還してもらうつもりなのだ。その為にはアークスにしっかりしてもらう必要がある。

 

 「突出したエースと一般戦闘員の差があるのはしょうがないけど、エースにおんぶに抱っこは見ていて不安しかないから頼むわよ」

 「アズサの事情からアークスを見ればより一層、ってとこだよな」

 「ウルクが今まさに一石投じたから今後を見てとしか言えないわね」

 「大分驚いたわよあの宣言」

 

 国民全員が信じ込んでいた建国神話を国家代表が証拠付きで否定するような所業なのだろう。厄介なダークファルスが減ったタイミングだからこそ出来たことかもしれない。

 しばらくそういった話題で話を進めている中、政治事情に疎いマトイさんがおずおずと質問をしてきた。

 

 「あの、アカツキちゃん達かんむす?っていうのは何と戦っているの?」

 「敵性存在、深海棲艦。ある時期からこの星の海という海から出現し始めた地球人類の敵。異形なものも居れば人型も居る。海の上に生まれたのか?それとも深海から?それすらも不明。深海棲艦自身も知らないようなの。

 ただ明らかなのは、彼らには地球人類が持つ攻撃手段がほぼ通用しないこと、彼らが本能的に地球人類を敵と見なしていること。

 そして同時に各地の海岸沿い出現した謎の物体が周囲の適性のある女性を艦娘という異能者に変身させる能力があって、艦娘は深海棲艦に有効な攻撃が出来る。

 これらが出現を始めた10年ほど前からこの辺りの事情は変わっていないわね。だからこそ、『艦娘と深海棲艦の関係はアークスとダーカーのようだ』って理由でお互い多くには公表しない秘密協定を結んで、梓がこの鎮守府司令官として派遣された、って訳」

 「この星でも戦いが……」

 「なあ、さっきの【若人】戦でお前さん、その深海棲艦とやらに指示出してなかったか?深海棲艦部隊は〜ってよ。っつーか、今お前の後ろに居る奴ってそうじゃないのか?」

 「ええ。そしてそれが深海棲艦とダーカーの圧倒的な違い。人にダーカー因子がまとわりついた梓のような存在でもなければ例外なく敵であるダーカーと違って深海棲艦にはごく稀に人の敵、って本能を持って生まれてこない子も居るの。それがこの鎮守府に身を寄せている深海棲艦よ」

 「本来人の敵だった、って思えない懐き方してない?」

 「この子も色々あってなんだかんだで私に一番懐いてるというか……ヲ、貴方寝るなら自分の部屋で寝なさいよ」

 「暁がここに来るだろうなって思ったから待ってた。一緒に寝よう」

 「まだ話が終わってないのよ。私はしばらくここに居るわ。祝勝会までには小休止取るけどね」

 「じゃあこのまま寝る……zzz……」

 「ああもう自由にしなさい」

 

 ヲは椅子に座っている私を後ろから抱きすくめるようにしてそのまま寝てしまった。まあいつものことなので慣れたのだが。

 

 「えっと、地球の人達って皆こういう風なの?」

 「一部がおかしいだけよ。この子は……元々仕えてた相手と私が仲が良かったから私に懐いてるだけで」

 「そう、逆に言えば梓を含めたこの鎮守府はそういう仲間意識の強い鎮守府ということだよ」

 

 戸惑うマトイさんに変な誤解をさせないように、と思ったら響が何故かわざわざ私のすぐ横に椅子を持ってきて座って何か変なことを言い始めた。

 響は時折何かに張り合うように私の近くに来る。そのまま私と腕を組み始める始末で何をしたいのか分からない。まあ、このような奇行にも慣れたのだが。

 

 「はぁ……」

 「見てやるな、弥生」

 

 弥生がゴミを見るような目で私達……というより響を見る。参謀も呆れ気味である。

 

 「解説を引き継ぐ響だよ。このヲみたいに人類と仲良くやっていこうという深海棲艦はポツポツと生まれてはいたけど他の深海棲艦に敵扱いされてやられてしまうもの、艦娘に敵意なしと認められずやられたものがほとんどでね。

 そんな中で深海棲艦とも人類とも仲良く出来る区域を作ろう、という大きめの勢力が生まれたんだ。ここに所属しているアウトロー以外の深海棲艦はこのヲを含めて皆そこの出身なんだ」

 「その勢力丸ごとここに合流したってのか?」

 「いや、その勢力は私達との戦いで壊滅したよ」

 「「!?」」

 

 そんな勢力を率いて独自の融和路線を取ろうとしていた、北方海域の一部を勢力圏にしていた『北の姫』こと北方棲姫。ヲやタ達はそんな彼女の理想に追従する同志で臣下だった。

 そして私はそんな彼女と邂逅し、交流を深め、お互いに『ほっぽ』『アカ』と呼び合う仲になっていた。

 

 「あの子は新しい時代を、敵対なんかしないでみんな仲良く楽しい海を作って過ごしたい、それだけだったのよ」

 

 深海棲艦の出現から一年間、とある神だの怪異だのと言われる存在が発生したての深海棲艦を制御下に置いて大暴れし、横須賀らが主軸となった決戦にて討伐された。

 その後にその怪異の影響下にあった深海棲艦が人との敵対本能を失ったが人に恭順したくもない。という理由で怪異が死に、その残滓のエネルギーに満ちた海域を勢力下に独立。これを横須賀らが認め、この海域及び勢力を『終の海』と呼ぶようになった。

 厭戦気質な深海棲艦が世を儚んでゆっくりと余生を過ごす為、或いは介錯してもらうために集まるようになり、彼らもそれを受け容れるようになったからである。

 終の海を討伐すべしという声も上がったが、中枢が深海棲艦でも精鋭中の精鋭である彼らに敵うのは彼らを認めた横須賀らの精鋭鎮守府のみである。討伐派では歯が立たない。

 討伐したところであのエネルギーに満ちた海域をそのままにできないが誰がどうやって悪用されないように維持ないし処理するのか?討伐派にその下心はないという証明は出来るのか?

 という大きな2つの課題の前に彼らの声は次第に小さくなり、交戦の意志のない人や艦娘だけが行き来できる海域となって今に至っている。

 結果として終の海は人類に過度に干渉しない独立勢力、と呼ぶべきものになった。交流があるのはそこで漁をする気概のある漁師と横須賀の一部だけである。この一部の代表例が加賀の憧れている赤城や吹雪、深雪で構成されたキワモノこと横須賀第一遊撃部隊である。

 言い換えると終の海を今更襲撃しようものならあの3人をまず相手どらねばならないが、この時点で勝てる者はいない。

 

 「終の海って人類に対してネガティブな思考の集まりだから、ポジティブな勢力……勢力なんてものじゃない、お友達でよかった。それを作ろうとしていたの」

 「そんなお前さん達がなんでやり合うことになったんだ?」

 「君たちで言うところの虚空機関(ヴォイド)のような存在のせい、って言えば分かりやすいかな?」

 「あー……」

 「梓が来る前のここ、旧127鎮守府は暁を軸として北の姫との交流を重ねていたんだ。だけど『交流する影で襲撃した』かのような事件が双方に起き始めてね。犠牲者も出たんだ。

 最終的に人類側のお偉いさんは経緯を見守っていたけど北の姫討伐の命令を下し、深海棲艦側もやはり彼らは敵だと囁くものが多くなった。そうして、私達が戦って決着をつけることになったんだ」

 「けしかけた奴等の目的は?」

 「黒幕の人類側は公に艦娘を実験道具に出来ないし、深海棲艦を生け捕りにすることもないし投降者を実験台にすることも出来ない。そんな彼らにとって自分達で仕組んだ戦いでMIAでも出せば実験台としてのそれらを確保できる。

 深海棲艦側は台頭してきた異端者の排除、その戦力の吸収やそんな人類側と手を組むことで更なる戦力の拡大。

 これらの事実を知ったのは全てが終わった後、梓が地球に来てからだったんだ」

 「なる程な……」

 

 決戦の時、お互い分かっていた。これは誰かの陰謀であり武器を向けている相手は悪くないのだと。それでも、私達が命を懸けないと犠牲者が増えてしまう。現にこの戦いでお互いに死傷者が出ている。

 だから、約束をした。勝った方が私達の理想を、楽しく優しい海を目指して引き継ぐと。

 その上でほっぽは私に託すつもりだったと思う。本気の彼女はもっと強かったはずだから。そして彼女が勝ってもその未来を目指すには厳しい情勢だと理解していたようだったから。

 だから私が彼女の命を奪って引き受けよう、そう行動した矢先だった。

 

 「暁と北の姫の決着がついた直後だったんだ。ここ127鎮守府と、連携していて孤島という立地上守りが薄かった130鎮守府が襲われ、壊滅したのは。そして決戦の場にも所属不明の深海棲艦が大挙して押し寄せてきたんだ」

 「悪夢かよ」

 「対人能力のない130には人類側の手先が、出撃で艦娘戦力が皆無になっていた127には深海棲艦の手先が襲撃してきてね。どちらも壊滅したんだ。……梓が来なければ残りもまた、ね」

 「アズサが?」

 「丁度地球に降り立ったのがこの近辺で正にそのタイミングでね。訳も分からずに乱入してくれたおかげで私とかはこうして生きているわけだよ」

 

 出撃していた127と130の艦娘の生き残りは同期の129鎮守府になんとか逃げ込んだ。多くはそのまま129に転属した。

 私はほっぽとの約束を果たしたかったけれど、全て敵の掌の上だと思い知らされて、後の見通しが立たず129で心が折れていた。

 そこに響から信用のおける司令官を迎えたから再出発しないか、と声がかかったのだ。その新しい司令官も敵の手先では?と疑心暗鬼だった私を響は粘り強く説得して、最終的に承諾して今に至る。

 

 「言葉が通じるようになってすぐ、悔恨の復讐、その為なら協力しよう。って梓は言ってくれて有言実行してくれてね。人類側の黒幕までは討伐するに至ったのが今の情勢だ。

 もっとも、連中の影響力は根深くて艦娘組織全体が麻痺気味でね。一周回って手が空いたからこそ今回の【若人】討伐にも参加できたわけだよ」

 「その辺りはこっちのルーサー周りと似てるんだな……大体状況は理解したぜ」

 「理解が早くて助かるよ。そういう訳で梓は私達の要でもあるんだ」

 「で、影響力のある俺達に見せつけてアークスにアズサは自分達のモンだ、ってアピールしたいって話だな」

 「その通りだよ。だから梓に冷たく当たるアークスには冷ややかなスタンスで行くし、掌返しして必要な人材だとか言っても返すつもりはないんだ。梓自身がこちらを選ぶように頑張ってもいるからね。特に恋仲の卯月が」

 「やっぱりそういう関係だったんだあの2人」

 「……あれ?なんで私はウヅキに負けないって言われたの?」

 「IF世界とはいえ梓の根本を狂わせたのは君なんだよ?そこは自覚しておいて欲しいな」

 「う、うん……」

 「響?そこまで直球に話すって聞いてないんだけど?」

 「ゼノさんが察しがいい様子だから作戦変更だよ」

 

 あっけらかんと言い放つがどこまでが本当か分からない。矢面に普段立たないからこそそういう動きも含めサポートに回るつもりだ、と宣言されていたから問い詰める気も起きないが。

 

 「そこまで話した上で物は相談なんだけどね。私達は深海棲艦側の黒幕の所在を特定できなくて難儀しているんだ。アークスの技術を貸してもらえないかな?今回の協力の返礼、という形で」

 「そりゃ俺じゃなくてウルクにでも言ってくれ。まあ口添えはしてやるがよ。で、どういった事情で難儀してるんだ?」

 「大海を超えて更に大陸を超えた向こうの海域におそらく黒幕は居る。けれど、その海域は通信も調査も出来ない異常空間になっていてね。カチコミかけようにも辿り着けるかすら怪しいんだ。それで討伐対象に逃げられては目も当てられないからね」

 「そいつは厄介だな……」

 「下手にうろつけば通信途絶の中で敵勢力に襲われ続けることになる。まあ攻略はできないだろうね。

 辿り着いても事前に察知された黒幕に逃げられたら意味がない。だから、どうにか特定して強襲をかけたいんだ」

 「事情は分かった。やれることは協力するさ」

 「助かるよ」

 

 こういう時の交渉を相変わらずサクサク進めるものだ、と半ば感心して響を見ていた。……と思っていると。

 

 「さて、午前中は君達も戦い続けたわけだし、疲れているだろう?祝勝会まで小休止と行こうか」

 「まだ結構時間あるもんな。小部屋でも借りれるか?」

 「客室がいくつかあるから案内しよう。暁も寝ていいよ?」

 「誰か起きてきたの?」

 「私よ!陽炎ふっかーつ!」

 「うるさくてウチも起きてしもうたわ」

 「陽炎に黒潮……後は任せていいわね」

 「不知火と梓、私の妹達の休息中に仕掛ける輩なんて鼠一匹通さないから安心しなさい!」

 「てなわけで暁もちゃんと寝ーや?」

 「そうするわ」

 「ん……暁、一緒に寝よう」

 「はいはい」

 

 陽炎達と交代して寝ることにする。ゼノさん達を案内し終えて、ヲと仮眠しようと自室に向かおうとすると響がもじもじし始めた。

 

 「ねえ暁。私も頑張ったと思うんだ」

 「そうね、すごい助かったわ。お疲れ様」

 「だから私もご褒美に一緒に添い寝してもらいたいなって……」

 

 照れているのか声が小さくなっていく響。仕方のない妹艦だなぁ、と思いつつ。

 

 「そんなのいつでもしてあげるわよ。姉妹艦の本能なのかしらねぇ。響も甘えたがりよね」

 「……えへへ」

 (鈍いなぁ、暁)

 

 そうして私達も一緒に寝て小休止を取るのだった。

 




 響:127陥落の件で情報管制の重要さが身にしみた影響で情報及び策謀のために奔走することを決意、今に至る。暁には昔から姉妹艦特有の親愛感情だけでなく本気で惚れているのだが、ヘタれてアタックしきれない。弥生ら付き合いの長い面子にはバレバレであり、呆れられている。

 ヲ:元は北の姫にべったりくっついているおっとりした深海棲艦だった。その為暁が北の姫と心を通わせ親友になっていく過程も決戦で夢を託す光景も全て見届けており、暁に全幅の信頼を寄せ懐いている。暁に恋愛感情はないが響の恋心は知っている。

 暁:旧127時代の主人公のような人物。親友である北の姫に託された願いのためにも、犠牲になった皆の為にも、まずは敵を一掃して土台を整えたいと思っている。響には親愛感情と相棒としての信頼感情はあるが恋愛感情は一切なく、響の恋心にも気付いていない。
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