少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 今回登場する怪異はクトゥルフ神話的な存在だと思っていただければ。


51話 怪異と異能のアイデンティティ

 3日後 第127鎮守府 応接室

 

 

 【若人(アプレンティス)】討伐から色々と落ち着いてきた頃、一人の女性が鎮守府を訪問してきた。応対にはてーとく、響の姐さん、弥生の姐さん、その人の要望もあり私が担当することになった。

 

 「やっほー、江風ちゃん。お久〜!」

 「濁流さん!?」

 「コードネーム濁流……第1鎮守府創設時からの協力者で非艦娘による対深海棲艦装備の開発、並びに艦娘非艦娘問わずの海戦の教導を行っている民間協力者。そう聞いています」

 「そういう貴方は地球の外からやってきた宇宙人で、宇宙を滅ぼす厄災と戦ってきて自身もその厄災になっちゃった福山梓提督ね。先日の活躍も沖田のとっつぁんから聞いたよ〜」

 「沖田のとっつぁん……?」

 「あぁ、元帥って言ったほうが分かる?長い付き合いだからフランクに呼んでるんだよね」

 「はぁ……」

 「噂に聞いていたとおりだね」

 「全部知っているのは予想外、ですけど」

 「私は実質とっつぁんのオブザーバーだからねぇ。宇宙人の福山ちゃんに提督を依頼する、って時点で詳細に話を聞いていたぐらいなんだ。沖田のとっつぁんが知ってることは私も知っている、ぐらいの認識で大体あっているよ」

 

 30代手前の長い黒髪、特徴的な黒を基調とした改造和服の女性。この人はコードネーム・濁流。本名不詳の水系主軸の異能者。異能者や人に親しい妖怪といった存在、その理解者らが手を取り合って生きる相互扶助組織『組合』を統括する現当主の娘で、組合側から艦娘にアプローチする窓口担当でもある。私が地上戦技術習熟及び術具の扱いを覚えるために世話になった人でもある。

 10年前に深海棲艦が現れ始めてまだ艦娘が現れていない時期から深海棲艦と戦ってきた人であり、艦娘が現れてからは横須賀に協力して本能で戦えるだけの艦娘に戦いのイロハを教えたり共に戦場に立つなど対深海棲艦黎明期を支えた人だ。

 

 「お茶、入れました」

 「ありがとね弥生ちゃん。うん、良い味。……さて、本題に移ろうか」

 「そうしてもらえると助かるよ」

 「おそらく、という前提はつくけどバミューダ海域に存在する最上級怪異の討伐を手伝って欲しい。そしてこれは君達が追っている南西の連中とやらにも関わると思っているよ」

 「……随分と切り込んだ話ですね」

 「まあね。まず、君達は『怪異』ってなんだと思う?」

 「定義が曖昧だけど大まかにはお化けって認識だと思っているよ」

 「響ちゃんの認識で概ね間違いないね。より詳細に定義するなら人の理屈、科学とかだね。これでは説明のつかない存在全般を指すんだ。妖怪、妖精、幽霊、神といったようにね。深海棲艦も怪異の1つと言える。福山ちゃんのダークファルスって存在だって地球の現代科学じゃ説明もできないから君も怪異と言って差し支えないよ」

 「……」

 「ああ、これは悪い意味じゃないんだ。その中でも心を持った怪異や異能などを持ったせいで人の輪から外れちゃった人達の居場所を自分達で作ろう、ってのが私の実家が運営母体やってる『組合』ってわけでさ」

 「その言い方だと、もし艦娘の立場が悪くなってたら……」

 「いいとこに気付いたね江風ちゃん。その場合は艦娘も怪異って括りにされて、怪異に厳しくてこの世界は人間のものだー、なんて主張する連中にどんな扱いされたもんか分かったもんじゃないね。それを防ぐために艦娘が出てきた黎明期は駆けずり回ったんだよ?沖田のとっつぁんが理解してくれる人で良かったよ」

 

 横須賀の沖田元帥をとっつぁんと呼ぶ辺り本当に親しい関係で、多くのことに精通していると分かる。そして多くのことに関わって来たとも。

 

 「本題に戻ろう。そんな怪異の最上級にヤバい奴は神、と称されることも少なくない。人にとって味方かどうかはそいつ次第だけどね。そんな最上級の怪異で人に仇なす奴がアメリカ西部にいたんだ。長いこと根を張って、そういう悪いことが起きる土地だ、って信仰を得てね」

 「アメリカですか……」

 「怪異は日本に限った話じゃないからね。まあ、そいつを信仰から切り離して、土地からもしっかり切り離して完全に討伐しようって話が出て、現地の有力霊能力者……シャーマンって言えば分かるかな?その人達が主軸になって討伐戦を仕掛けたんだ。そしてそれに友軍として私や仲間も参戦した。これが3年前だ」

 「随分と前の話だけど、今になって復活したとかかい?」

 「そう急かさんなって。結果としては土地からは切り離せたものの討伐は失敗。お前達怪しい奴に任せられるか俺たちがやる!って空気を読めない上に余計な干渉する馬鹿共のせいでね。シメの滅ぼす段階で逃げられちまったんだ。この馬鹿共はアースガイドっていうんだけど聞いたことはあるよね?」

 「アースガイドとは距離を置け、と元帥からの指示がありましたがそういう経緯でしたか」

 「因縁に関しちゃもっと前からだけどね。まあ今回は関係ないや。で、逃げた怪異だけど海の方、バミューダ海域にどうやら逃げ込んだようでね。追撃を試みたんだけどまあこれが上手く行かなかったんだ。

 まずその怪異の権能は意識や機器を混乱させる濃霧。バミューダ海域の濃霧エリアで機器が正常に機能しなくてまともに帰ってこれたやつが少ない、ってのはこのせいだと思われる。艦載機やドローンを飛ばそうものなら即座にバーディゴする、つまりどこ向いているか分かんなくなって墜落しちまって話にならない。

 その上で、さっき言ったアメリカのシャーマンも海上戦闘の心得なんてなくてね。調査できる人員も正直私と私の信頼の置ける横須賀組ぐらいかなぁー、ってとこだったのよね」

 「厄介な……」

 「でしょー?その上でまず目星をつけた。あの海域にも小島はあるからどっかに上陸して拠点にしてるんじゃないかって。結構頑張って小島は全部調べたけど全部シロ。居た形跡もなかったんだ。

 つまり奴は海上を移動し続けていることになるんだけど、深海棲艦もいる中でのんきに探していられないのと3年前は特に霧がすごすぎてね。数メートル先も見えない規模だったのよ。見つけるのも無理、見つけたとしても捉え続けて本隊を送るのももっと無理。って状況だったわけだ」

 「ということは今は可能になってきた、ということだね」

 「そ。元々奴は土地に根ざしていたからね。海上じゃその力は失っていく一方だ。つっても長年土地に根ざしていた神とも呼べるような規模の存在だから発生させる霧がマシになるまで3年を要したわけだがね。

 で、最近調査を再開したのはいいんだけどねぇ。威勢のいい現地の艦娘ちゃんが勇んで先走って見つけはしたんだけど……発狂してしまったんだ。私が選定した面子以外で行くなって言ったのにさぁ全く」

 「えっ」

 「力が減衰したって言っても存在の格が違うんだ。慣れも覚悟もなしに向き合ったら精神がぶっ壊れちまうのさ。君達だと復活した【若人】をイメージしてくれれば分かりやすいんじゃないかなぁ?」 

 

 そう言われて【若人】と対峙した時を思い出す。絶望が形を成したような存在、その圧迫感。恐怖感。

 

 「イメージ出来たかな?そんなのと不意打ち気味に遭遇したらまあ普通の子は精神が保たないわけだ。その子は発狂した内容がガン逃げかます感じだったから無事に回収できた。そこは幸いだね」

 「そんな神に近い存在と心を壊すことなく対峙し戦い抜いた我々に改めて調査して欲しい、そういうことでよろしいですか?」

 「そういうこと。海上戦力、ってなると必然的に艦娘ちゃんになっちゃうから、その上で対怪異で上位をやれる子が少なくてねぇ。そこでそんな上位とやりあった実績を引っ提げた君達だ、ってわけだ。

 今回の作戦では撃破は狙わないでビーコンを設置すること。弾薬として改造したのを配るからそれを島に撃ち込んでほしい」

 「島、ですか」

 「そ。さっき言った艦娘ちゃん曰く、怪異は赤錆のすごい鉄の島のようなものの上に鎮座していたって話なんだ。しかもその島は艦娘ぐらいの速度で動いてるっていうね。そんな島って何よ?って話だけど、この鎮守府に合流した深海棲艦ちゃんの話と合わせれば……」

 「南西の連中の本拠地。艤装を持たない離島棲姫の居城であり指揮者(コマンダー)と創造者(クリエイター)及び郎党が占拠している島になるというわけだね」

 「話がスムーズに進むの好きだよ響ちゃん。そういうわけで、連中の討伐を目指す君達にとっても悪い話じゃないと思うんだけど、どうかな?」

 「1つ質問、です」

 「何かな弥生ちゃん」

 「私達は迂闊に敵拠点を突き止めたら本命に逃げられてしまう可能性を危惧しています。それについての保証ないし対策が欲しい、です」

 

 今まで本人が出張ってくることのなかった敵中枢メンバー。もしかしたらあっさり拠点を捨てて逃げてしまうかもしれない。それでは意味がない。というのが私達の懸念事項だった。

 

 「マシになったとはいえ霧が濃いままなんだ。その霧の影響で全域がジャミングが掛かっているような状態でね。霧に紛れるような迷彩装備をしていれば見つかりはしないと思うよ。エーテルもレーダーも検知できない術具式の通信機も渡すからこれで連絡を取り合えばバレないと思う。エーテルを使えるってことはエーテルに頼りすぎる傾向がどうしても出るからね。対策はしやすいのさ」

 「なる程……」

 「詳細は詰めるとしてどうかな?逃げられちゃいけない、と言っても手をこまねいていたらいずれまた何かやられるだけってことも考えてね。あぁ、勿論沖田のとっつぁんには了承とってあるからね!」

 「……それは拒否権はないのと同義では?」

 「無駄足踏む趣味はないからねぇ」

 

 というわけでトントン拍子に調査作戦が決行になってしまった。この鎮守府組織が混乱時に大丈夫か、とも思ったがここで完全に麻痺しているやつは後ろ暗い奴で動きたくないのは日和見主義だから気にするだけ無駄、とバッサリだった。

 

 

 翌週 11:00 バミューダ海域

 

 

 『さて、各艦展開は大丈夫みたいだから改めて作戦の確認だ。標的は怪異の鎮座する移動島。コイツに君達の砲に装填したビーコンを撃ち込んでくることだ。誰かが成功したら作戦終了。

 この霧にやられて深海棲艦もほとんどいないかイカれてるかのどっちかだけど、いないわけじゃない。これとの交戦は出来る限りやり過ごして避けること。

 非常時は連絡してくれたら福山ちゃんが転移で回収出来るから無理はしないように。いいね?』

 『『了解』』

 

 基本的に精神汚染の対策としてペアを組み、片方が戦闘不能になっても非常時ということで合図を出し、撤退する。これを127と濁流さんが呼びかけた横須賀第一遊撃隊等でローラー作戦で行う。

 今回達成できなくても今後何度か挑むことで成功を目指す、とのことだ。だから無理は禁物だと何度も念を押された。それ程に怪異の格による精神汚染の危険が高いということだ。

 

 「頑張ろうね、江風!」

 「だな、海。さくっと見つけてケリつけてぇな」

 

 私は海とのペアだ。なんだかんだで私に一番相性が良いのも海である。性格の凸凹としても戦術としても。

 

 「にしても周囲見えないし反応も明確なのないと暇だねェ……そういやさ、海」

 「油断しすぎちゃ駄目だよ?なあに?」

 「海が未だにてーとくに対抗心剥き出しなのなんでよ?」

 「え?だって福山提督って私にとって超えたい壁だもん」

 「いやさ、最初に127に来た時は洗脳でてーとくを倒さなきゃって思い込ンでたけどさ。もうその洗脳も解けてるじゃンか。固執する理由なくね?」

 「うーん……あの時絶対にこの人に勝たなきゃ!って思ってて、それが解けたのはそうなんだけど。あの時福山提督って手加減してたじゃない」

 「まあ、確かに。ガチで本気出してたら演習滅茶苦茶になるもんね」

 「だよね。それをあの戦いの後に倒れてから意識を取り戻して、『私手加減されてた!』って言葉じゃなくて本能で気付いちゃったんだよね。それでこう、海風の本能なのかな。私自身のものなのかな。そこはわからないんだけどすっごく悔しい!本気出させて勝ちたい!って思ったんだよね。そこからかなぁ」

 「別の闘争心に火が付いた感じかァ。海は負けず嫌いだもンな。『海風』としてもそういう根性からの頑張り屋具合はあるし……相乗効果かな」

 「なまじあの時の戦いと雷さんが暴走した時の戦いで手応え感じちゃったから、行けそうって思っちゃったのもあるんだよね。ねえ、江風。これからも応援してね!」

 「これまで知らないから応援してなかったンだよなァ。まあ頑張れよ?目標があるのは良いことだしさ」

 「うん!江風にはそういうのはあるの?」

 「んー……私は昔っから理不尽には私自身の力でねじ伏せてぇ!振り回されっぱなしなのは嫌だ!ってのがあったンだよね」

 「中学生の時のあれこれってやつ、と祝勝会で言ってたやつ?」

 「代表的なのはね。細かいのまで出したらキリがねーンだけど。曖昧だけどそういう過去にも今後降りかかるものにも仲間に降りかかるものだって全部ぶちのめしてェ!って感じ?」

 「江風は強敵に対する意欲がすごいよね。私達異常適正(イレギュラー)艦娘ってどこかの部分が尖って艦娘の精神とマッチしてる、っていうけど江風はどこなのかな。私は……私もどこだろう?」

 「色々と『WW2で活躍した駆逐艦江風』を調べた上での主観だと……私のはガ島の夜戦かなぁ。バディ組んで敵輸送部隊に夜襲仕掛けて来いってオーダーに相方が間に合わなくてさ。相方は夕凪だったかな。

 それを受けて江風が単騎で突っ込んで暴れまくって小破で帰ってきたんだよね。相手は駆逐2だか3で江風に気が付いてる状態だったンだけど、まあそれでも強行していって1隻撃破した狂犬っぷりだったンだって。不利な状況にやってやるぜーってのは私らしいなって思って親近感覚えたから多分この件かな」

 

 他にもあるかもしれないが、とても感じるものがあったのはこれだった。

 

 「海のは『軽巡神通と24時間地獄の訓練やりきった!』ってド根性エピソードだと思うよ。海の根性強さすごいって次元じゃないからさ」

 「なる程なる程……確かにハードな訓練や状況にはこんなもんでくじけてたまるかー!って思うんだよね。言われてみると『海風』の本能?もそうだそうだーって言ってる気がするなぁ」

 「他の奴らの共通点探すのも楽しそう……っと!」

 「ぞくりとするレベルじゃないね。これかな?」

 「あぁ。……ッ!!」

 「なに、あれ……」

 

 霧の中から浮かび上がる巨大な悍しい異形。それ以外に『ソレ』を端的に形容する言葉がなかった。【若人】にも負けない大きさで全体的に病的な青白さをしていて、錆びた鉄のような島に冬虫夏草のように付着している下部。イネ科の草のようにひょろりとした体躯に無数の腕。頭部があるはずの場所には大きく歪な嘴があるだけ。そしてその嘴の中にぎょろりとした大きな目玉が1つ。【若人】が絶望を叩きつけてくるなら『ソレ』は狂気の押し付けと言ったところだろうか。

 先程身の上話をしたくなったのは、本能的にコレを恐れて現実逃避したくなったからなのかもしれない。そう思わされる程に精神に来るタイプの敵だ。

 

 「江風……!」

 「……接近してビーコン撃ち込んで逃げるぞ」

 「う、うん」

 

 砲撃が届く距離まで接近を開始する。恐怖の中、私は懐かしさと激情を感じていた。

 

 「なんだろうなぁ、見たことあるような、ムカつくような……」

 「江風?とりあえず福山提督に連絡入れておくね」

 「頼む」

 

 接近する中、『ソレ』は身動ぎする。嘴の中の目玉が私達を捉えた。

 

 「ーーッ!!」

 「……あー、これ地元だ」

 「かわ、かぜ?」

 

 恐怖と戦っている海が正しい反応なのだろう。だけど私はむしろ落ち着いていて。

 

 「海、ビーコン射出よろしく」

 「江風!?」

 「認識されちまったんだし?ちょっと挨拶してくるさ……!」

 

 バーニアを噴かせて空中へ跳ぶ。そしてそのまま攻撃体勢に。

 

 「挨拶代わりだ!『シンフォニックブレイク』!!」

 「ーー」

 

 その胴体に叩き込む。それに対してゆらりとその多腕をこちらに向けるが既に離脱済みだ。誰があんな巨体と鍔迫り合いなどするものか。

 

 「か、江風!撃ち込んだよ!」

 「っし、後はてーとくが来ればーー」

 

 そう言いながら着地体勢をとっていると、島の部分に立つ深海棲艦と目があった。

 

 「……タチバナアオイ?」

 「創造者……!」

 

 タの姐さんやアウトローからの情報と一致する。南西の中核である姫級重巡、創造者だ。

 

 「……そうか、ここまで来たか」

 「ッチ、バレたか……!」

 「……タチバナアオイ。私は気になっている。お前達の、いやお前の創り出すものを。見せて欲しい」

 「……?」

 「……体勢を整えて来ると良い。指揮者は出来る限りの上で迎え撃つだろう。今お前が仕掛けた『ソレ』は……どうせ動くこともできないだろう」

 「言ったな、ならお望みどおりそれ以上で叩き潰してやる」

 「……今、『ソレ』が予想外の攻撃を受けて揺らいでいる。声も聞こえるだろう。エーテルに耳を傾けるといい」

 「……あァ?」

 

 言われるがままにエーテル無線を回す。すると、苦しみの中に居るような声が聞こえてきた。

 

 『ーーザザッーー近づきし艦娘よ。私の姫を、開放して欲しーー私はかのものに巣食われーーザザッーー檻となってしまったーーザザッーー』

 「お前は……島か?」

 

 直感がそういうのだ。『あの怪異』に侵食された鉄の島だと。

 

 『そうだ。私はーーザザッーーここに住まう姫の艤装。特異なーーザザッーーだが、かのものが陸よりやってきてーーザザッーーなにか、されてしまっーーザザッーー開放して、欲しいーーザザッーー姫を外に、自由に、世界を、楽しみをーーザザッーー』

 

 怪異が体勢を整えると共に通信が切れる。異形がコントロールを一時的に失ったからこそ出来た、ということだろうか。

 

 「……推察していると思う。今のはこの島、いや、ここを拠点にしている離島棲姫の艤装の意思だ」

 「あの島が艤装だって!?」

 「……彼女もまた、異常適正(イレギュラー)。私や、お前のように」

 「それが動く島の正体……理解より納得が先に来た」

 「……この艤装は、そして主である離島棲姫は足掻いている。異常適正として。艦娘を、人を襲うという本能から離れて別のことを目指している。私のように」

 「……?」

 「……だが指揮者は違う。その異常適正を艦娘を、敵対するものを、気にいらないものを滅ぼすために全力を注いでいる。なんでも、する」

 「人類のクソ野郎共と手を組んだことか」

 「……それもある。異界の深海棲艦と手を組むことを決めたのも指揮者だ。私は、見守っている」

 「陽炎の姐さん達の!……で、お前は何を目指している?」

 「……分からない。私の生きる目的が。理由が。だが、あるはずだ。他の深海棲艦とは違って自我を持ち、この異能を持ち、深海棲艦の本能からも外れて生まれたからには、意味があるはずだ。私はそれを知りたい。その為に渡り歩き、追い回され、最後に指揮者の下に、この艤装の下に辿り着いた」

 「お前……」

 

 言っている意味が分からないわけではない。地元に異端として生まれ、余りにも異常な直感を持っていた私もそういうことを考えていた。海には直感で感知した理不尽を全てぶちのめしたい、とは言ったが『この異能を持って生まれた意味』があるなら知りたい。それも事実だ。だけど。

 

 「本来意味を持って生まれても、その意味がどうしようもねぇほど受け入れられないふざけた理由ってこともある」

 「……何?」

 「てーとくの話さ。てーとくは理由と才能を持って生み出された。クソみたいな目的のためにな。けど、知った上でそんなモン関係あるかって自分の願った未来のためにその才能を使っている。これまでも、今も、これからも」

 「……そんな……ことが……あるのか……?」

 「私には分かるよ、お前の気持ちは。けど、結局は自分で定めたものの為に使うモンだ。力も、知識も、技能も、紡ぎあげてきたものも」

 「……そんな考えがあるのか……」

 「見せてやる。突き付けてやる。だから、首を洗って待ってやがれ創造者」

 「……」

 「江風!福山提督が来たよ!」

 「江風さん!……あれは、創造者!?」

 「……3日後だ」

 「何?」

 「……3日後の12:00に行動を起こす。起こさせる。指揮者の持てるすべてを使わせて。乗り越えてみせろ。喰らいついてみせろ。私は、見ている。タチバナアオイ、お前の言う、自分で定めたものというものを」

 

 そう言い残して創造者は艤装島の中に消えていった。

 

 「江風さん、今のは……」

 「決戦が3日後、ってことッスね。今は引くんでしょ?あのクソ怪異野郎の討伐も考えなきゃいけないし」

 「ええ。転移しますよ」

 

 そうして、邂逅を終えたのだった。




 濁流「やー、思った以上に話が進んだね。つまりそういうこと、かなぁ。それはそれとして余計な攻撃ぶちかましに行った江風ちゃんには説教だね」
 江風「ひっ」
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