少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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52話 バミューダ決戦に向けて

 2日後 第127鎮守府 会議室

 

 

 「響だよ。現状を確認するよ」

 

 会議室に集められた私達は南西海域等を示したマップを展開する響の姐さんの話を聞いていた。

 

 「現在、南西海域の鏡面海域エリア周辺に大量の深海棲艦が集結しているよ。特別作戦(イベント)海域と遜色ないぐらいにね」

 

 定期的に膨大な数と質の深海棲艦、及びその中枢部に総大将格の非常に強力な深海棲艦の姫ないし鬼級が出現することがある。これの討伐に貢献するのが有力艦娘、鎮守府として頭角を現し名を馳せるメジャーな方法だ。そんな経緯から、イベント海域等と呼ばれたりするが当然激戦区になる。

 今回は南西海域中の深海棲艦が集結しているようで、質はともかく特別作戦海域に量では負けない規模になっていた。当然、1つや2つの鎮守府程度では戦力の絶対数が足りない。

 

 「創造者(クリエイター)の話では、指揮するのは指揮者(コマンダー)と思われるね。そして連中が動き出すのは明日の12:00だ。創造者が嘘を言うか指揮者が話を聞かなければね。まあ、指揮者は自信過剰なところがあるからそういうのを破る程プライドを捨てていないだろう。そうだね?タ」

 「あぁ。奴の性格上こういう時は面子に拘るだろう。時間に正確に……バミューダ海域の12:00に合わせて動くだろうね。どこまでも自分本位だから」

 「分かったよ、ありがとう。そういう訳で、この大部隊を迎え撃ちつつ敵中枢、バミューダ海域の艤装島も叩かないといけないけど人手が足りない。だからかき集められるだけ私達に友好な味方を集めて大部隊の迎撃にあてるよ。中村、白峰はその支援に回して欲しい。横須賀からも艦娘母艦を出撃させるそうだよ」

 「了解。支えきってみせるさ」

 「俺はそちらの指揮に回ろう」

 「お願いします、参謀」

 「向こうの世界の私達の仲間もタイミング併せて駆けつける予定よ!」

 「ちゃんと覚えててくれてホッとしたとか言うとったな」

 「その上で私達は敵本拠地、艤装島に奇襲をかけるよ。12:00、その直前にね」

 「こちら福山、引き継ぎます。アークスの揚陸艇を先日撃ち込んだビーコンの反応に合わせて大気圏から降下、奇襲をかけます。これにより指揮者の能力を乱し、南西での戦いを優位に進めさせます。指揮者の統率がなければ数だけの烏合の衆ですからね」

 

 南西の一般深海棲艦は多くがカテゴリD、よくてCであり練度は低い。指揮者の横暴、深海棲艦同士での治安の悪化に伴いそういう奴しか残っていないというのが理由だ。それを最低限使えるように、厄介に襲い続けられるようにしていたのが指揮者だ。ハナさんが撃破されたのもその波状攻撃のせいだった。

 これに対して今まで交流などをやってきた128や129、霞達の50や呉や佐世保のベテラン、陽炎さん達の出身の世界の艦隊等の出来る限りの友軍をぶつける予定だ。

 アークス揚陸艇は宇宙から海中まで幅広い活動範囲を持つアークスの移動手段であり足場でもある。だからこそ目標地点が判明していればはるか上空から一気に降下して強襲、という戦術が可能なのだ。耐久力は搭乗しているアークスの力に依存する。

 

 「アークス揚陸艇はアークスでないと動かせませんが、テオドール達が本作戦に協力してくれますから問題はありません。この揚陸艇で島の入り江部に揚陸し、部隊を3つに分けます。

 1つ目は陸戦部隊として島の内部へ突入。指揮者と創造者及び残存勢力を掃討していただきます。特に指揮者への攻撃を集中してください。南西の迎撃部隊に被害を出すわけには行きませんから。それと江風さんが聞いた情報を鑑みるに、離島棲姫は敵意はない様子です。向こうから仕掛けてきた分には迎撃しても問題ありませんが、積極的に狙う必要は薄いかと思われます。

 2つ目は海上部隊として揚陸艇を外部から狙う深海棲艦への周囲警戒を行っていただきます。ですが、先日の強行偵察の状況を鑑みるに、少数でいいでしょう。第1鎮守府の第一遊撃隊にお任せします。必要であれば適宜その援護を。

 3つ目は艤装島を覆う怪異に攻撃を仕掛けます。アレの影響を軽視することはできません。私とテオドールらアークス協力者でまずは対処します。

 あくまでも我々にとっての主目的は第一に指揮者、第二に創造者であることを忘れないようにしてください」

 「つまり、ほぼ全員で内部に突入してケリをつけて、余力で怪異も叩いていくというプランだよ」

 「睦月ちゃんも怪異の方を担当して。創造者のエーテル操作の特性を考えたら別フィールドの屋外のほうが活かせるから」

 「任せるにゃしい」

 「憲兵隊は俺達坂田班は攻撃装備重視で梓ちゃんの援護やるぞ。他の班は防御装備主体で屋内の援護を頼む」

 「「了解」」

 

 おおよその枠は決まった。後は誰が主軸になって何をやるかだ。

 

 「指揮者は俺と卯月とタが主体でやる。俺達の手で、殺さねぇと気が済まねぇ」

 「天龍、『前回』の因縁ってことかしら」

 「あぁ。いいな暁」

 「構わないわ。他は取り巻きだのから片付けて進路を確保する方向で行くわよ。他に何かある子はいるかしら?」

 「あの島にあのクソボケがいるなら私がギッタギタにしてやる。散々偉そうに言ってきやがったから後悔させてやるぜェ!」

 「アウトローの因縁ってことはハナさん救出時に現場指揮取っていた姫級ね。任せるけど、時間取らないでよ?」

 「ハハハ任せろ!」

 

 ただでさえ強いアウトローはハナさん案のもとで方向性を見つけて更に強化を進めている。大多数から心配をする必要はないと思われている。

 

 「ちゃんと無事に帰ってきてね、約束!」

 「あぁ、ハナ!期待してろよなァ!」

 

 残り少数であるハナさんが居るからこそ無理をしないと安心できるとも言える。

 

 「後は創造者と離島棲姫ね……」

 「きゅ、きゅーっ!!」

 「え?イ、貴方離島棲姫と話がしたいですって?」

 「きゅー!きゅきゅっきゅー!」

 「あっちで交流があったの?だから話をしたいって……分かったわ。ハに電に江風、援護頼める?」

 「任せろ!」

 「やったるのです!」

 「私はやめたほうが良いかもです。創造者に目を付けられてるから、アイツに集中します」

 「分かったわ。イ、貴方は非戦闘要員よ。バルジや大破ストッパー積んだと言っても耐久は駆逐艦。決して油断しないようにね」

 「きゅーっ!」

 「それじゃあ代わりに雷お願いできる?」

 「任されたわ!その子も1人で辛かったでしょうし放っておけないもの!」

 

 離島棲姫はイが説得するようだ。頑なな心を正攻法で解きほぐすのは鎮守府でもイが一番優秀だ。言葉が通じればの前提がつくが、交流していたのであれば問題ないだろう。

 

 「暁さん、空母隊はどうしましょうか。あの霧の中では……」

 「心配には及ばないよ赤城ちゃん」

 「タさん?」

 「艤装島の中は霧がないんだ。あの圧迫感で気が狂いそうにはなるけどね。それに艦載機が飛び交うには十分な空間だから、バーディゴも気にせず動かせると思う」

 「それなら安心ですね」

 「ここで空母NGだから南西の方でって言われたらフラストレーションすごかったもんね。バミューダの正午って言ったら南西は真夜中だもん!」

 「憲兵隊が盾役はこなすから反撃は気にしないでくれ」

 「頼りにしてるね!終わったら卵焼き、焼いてあげるね!」

 「よっし瑞鳳ちゃんの卵焼きだぞやるぞお前ら!」

 「「おう!!」」

 

 それだけ広大な空間ということは、逆に敵にも空母が居るかもしれないということになる。あの巨大な怪異が根ざす足場としては妥当な規模なのかもしれない。それはそれとして瑞鳳の卵焼きの憲兵隊人気は凄まじいとこういう機会がある度に思わされる。

 

 「江風、創造者の方手伝う?」

 「うーん、アイツそもそもこの戦いやる気なさそうなんだ。その上で私を見届けるって。だから私の戦いを見せつける感じにするよ。その方が余計なこともしないだろうし」

 「そんなこと言ってたね……。それじゃあその大暴れに付き合うね」

 「頼むよ。まあ、開戦前に他の連中にバフの類を盛るだけ盛ってはいるだろうから有象無象でも油断なく、だな」

 

 先日の創造者の態度は、どこか指揮者を見限っているかのようだった。まあ、やっと見つけた自分を攻撃しない特殊なやつが兎に角粗暴な奴ではそうもなるのかもしれない。

 

 「ネームドの相手は決まったわね。他のメンバーは他の連中が居たらそっちから徹底的に潰してもらうわよ。統率する対象のいない統率担当なんてただの置物になるからね」

 「「了解!」」

 

 ざっくりとではあるが、これ以上は敵の内情が不明な以上は詰められない。

 話がそうまとまったところで秋雲の姐さんが口を開く。

 

 「決まったところでさあ。今までなあなあになってた『前回』について詳しく教えてくれない?」

 「なんとなくは話してきたつもりだったけどな」

 「うーちゃんさあ、私達も覚えてるよ?自分達が死ぬとこは。けど、それ以降生き残りがどう足掻いてきたのかはちゃんと聞けてなかったからさ。今後もなあなあになりそうだし?今しっかり聞いておきたいのよ」

 

 口々に同意する私を含めた『前回』を乗り越えられなかった者、『前回』は居なかった者。

 

 「……そうですね。そこまで話しておきましょう。『前回』のことは大半は乗り越えられたと思っています。ですが、どこかで揺り戻しが、皆さんを失うことがあるのかもしれないという恐怖は健在です。おそらく安心できるのは明日の決戦を無事に終えてから。……皆さん、聞く覚悟はいいですね?」

 「「勿論!」」

 「ではーー」

 

 そうして悪夢の追体験が始まった。それは私達が殺されていき、僅かな生存者が足掻いていく絶望の物語。

 

 「鎮守府司令官を任された私は何も知りませんでした。地球のことも、艦娘のことも、深海棲艦のことも、そして何より敵の悪意の深さを。

 卯月達生存者の艦娘や坂田さん達憲兵隊は真の意味では知りませんでした。敵の正体を、悍ましさを。

 沖田元帥や金剛さんら第1鎮守府は見積もりが甘かった。第1鎮守府が後ろ盾に付くという行為で敵がたたらを踏むと。

 全てが甘かったのです。そして遅く、足りなかった。だから、待っている結末は滅びのみでした」

 

 『前回』ではまず治療と鎮守府の修復、ガワの再建に全力を注いでいた。他に何をやればいいか分からなかったから。

 鎮守府を改造したが今の鎮守府とは違って、地下に主要施設を移したもののブービートラップの類までは設置していなかった。あくまでも非常時は表が焼かれてもいい、敵は総大将のてーとくを狙うだろう、という見積もりだったからだ。

 人員も今回に比べぐっと少なかった。憲兵隊も半分程度しかいないし料理長のような非戦闘要員スタッフも皆無だった。そこまで手が回らないと思っていたし、緊急性を感じていなかったから。

 そうして私達の訓練校卒業からの配属と暁の姐さん達の合流を迎えた。この時に瑞鳳と羽黒は127に回されることはなかった。沖田元帥の根回しが強くなく、新人は私と電、加賀の3名に留まった。そして大本営から数名の人員が補充された。

 今回ほどではない訓練ーー他所の鎮守府よりやや厳しい程度ーーをして1か月が経過。カバーとしての一般開放を始めた直後、大本営命令で第二技研への長期出向が命じられた。余裕がないという主張を押し切られ、暁の姐さん以下暁型4名が出向することになった。

 その後の一般開放日、爆弾を装備させられたイが鎮守府に漂着した。最初に気付いたのは鎮守府に通っていた保科朱里で、爆発音を聞いたてーとくが駆けつけた時には2人の遺体の一部しか残っていなかった。

 そのショックから立ち直る間もなく襲撃が発生。この時はタグもなく避難誘導に手間取る中での襲撃となり、長月の姐さんが戦死した。一般公開も無期限停止となった。

 

 「そこから、犠牲が明確に出始めたんです。予兆はその前からあったことに気付かないままで」

 

 その後日、タの姐さんが指揮者の指示で鎮守府を奇襲。この戦いで憲兵隊にも多くの死傷者が出た上で菊月の姐さんが戦死。北の姫組もタの姐さん以外に生存者は居なかった。当然、ここで合流など発生しなかった。

 

 「当時の私は鎮守府がイちゃんの仇だと信じる他なかったけど引っ掛かりは覚えていた。けど、全て失って失意の中で撤退することしか出来なかったよ」

 

 そして6月14日。第二技研に出向していた暁の姐さんからてーとくに緊急通信が入った。響の姐さんと雷の姐さんが殺された。自分も電ももうじき殺される。そして、第二技研は何かで人体実験をしていたようだ、と。

 それを聞いたてーとくは卯月の姐さん、金剛さん、横須賀憲兵隊を連れて第二技研へ転移。そこで見たのは電がとどめを刺されるところだった。

 同時に鎮守府にも襲撃が発生。所属不明の装甲車が乗り込んで来て兵士がわらわらと出現。そして第二技研襲撃容疑と一方的に告げた兵士が発砲。応対に当たった龍田の姐さんが撃ち殺された。

 応戦するも相次ぐ襲撃で憲兵隊戦力すらロクに残っていない上で大本営から送り込まれた人員が離反。地下の脱出路まで到達出来たのは天龍の姐さん、坂田の兄さん、中村の兄さんだけだった。

 

 「その上で敵が追いついてきてな。深海棲艦の侵入があったときに備えていた防護シャッターを起動して中村が残って、脱出できたのは俺と坂田だけだった」

 

 そして生存者であるてーとく、卯月の姐さん、天龍の姐さん、坂田の兄さん、横須賀出張組である金剛隊はなんとか横須賀鎮守府に落ち延びたのだった。この撤退ついでに第二技研の人員は怒り狂ったてーとくの刃にかかって全て死んだそうだ。

 

 「私達が何度か見た悪夢はその日のやられるシーンだったな」

 「ある意味過去の映像なんだから変えようもなかった、ということね」

 「見た夢のシーンがバラバラだったのも各個撃破って思えば納得なのです」

 「正直新体制の鎮守府に合流直後で私のメンタルが安定しなかったの、あの夢のせいだったんだけど?」

 「合流時点で監視カメラつけられてたからよ、フォローしきれなかったんだよ。悪かったな龍田」

 「天龍さん達がスカウトに必死になってるのは見てきたけど、真相は下手に送られてくる人が敵かもしれないからだったんだね。おかげで料理長の美味しいご飯を食べられるようになったけど」

 「私や瑞鳳ちゃんも127に拾われなかったらどうなってたんですかね……」

 「あの、もしかして浅田兄妹って『前回』は拾われずじまいだったりするンすか?」

 「そうだぜ。というより俺がスカウトしたやつ全員今回初だって言ってもいい」

 「おおう……」

 「さて、続けますよ」

 

 生き残ったてーとく達は意気消沈していた。そしてぽつぽつと「どこから間違えていたんだろう」「どうすればよかったんだろう」「やり直したい」と悔恨の言葉が漏れていった。それにてーとくがシャオさんから持たされていた試製マターボードが反応した。運命を変える、唯一の鍵が。

 

 「私はマターボードの存在と、それがもたらす可能性について話しました。そして一つの疑問点と問題点が浮上しました」

 「梓だけが記憶と情報引き継いでどこまでやれるんだ、が疑問でその場合俺達をどう説得するかが問題点だったわけだ」

 「いきなり未来を見てきた!変えるために信じてくれ!で全員が納得できるかって話だからな。そこでうーちゃんの提案が活きたわけだ」

 「アタシは言ったのさ。アタシ達も一緒に行けないか、記憶だけでも引き継げないかってな」

 「試したこともありませんでしたからどう答えたものか、と思いましたね。それをシャオに持ちかけて『時間はかかるがやってみよう』とゴーサインを貰いまして。それから事象(マター)集めに奔走することになりました」

 

 本来の惑星シオン作のマターボードの時点で、変えたい出来事に対して当時の状況、周辺データ、それにまつわる噂などの情報をかき集め、集めきった上で初めて歴史の改変に挑めるというものだった。同性能のマターボードを作れないシャオさんの作った試製マターボードであれば尚更そういう事象の収集が必要になった。

 

 「陥落し、血の跡が残るこの鎮守府をくまなく調べて周り遺品を集め、大本営から派遣されていた裏切り者を拉致して拷問して吐かせる情報を全て吐かせ。敵の手で封鎖されていた第二技研跡地を襲撃して拾えるものを全て拾いました」

 「そこで弥生とルが捕まってたことも判明したんだよな」

 「ま、その辺りで大本営の名を騙った連中の命令ぶっちぎって暴れてたから127組は指名手配されたんだよな」

 「そのおかげで情報収集の難易度上がったっぴょん」

 「沖田元帥や金剛さんには手が出せないというパワーバランスも重要な情報となりました」

 

 そして第二技研跡地を捜索するために封鎖していた面々を襲撃するところにルの姐さんが捕まっていたらしい、という情報だけ与えられて鉄砲玉として指揮者に送り込まれていたタの姐さんが遭遇し、様子があからさまにおかしいてーとく達に接触。事情を明かされたタの姐さんが合流した。

 

 「私も取り返せるなら皆を取り返したかったからね」

 「ジャミングとか指揮者といった情報はそのおかげで判明したんだよな」

 

 捜索の手を130にも伸ばしていった。転移で強行突入し、そこで防衛システムである睦月の姐さんと交戦。制圧間近で自動消去システムが作動、夏菜さんと睦月の姐さんがデータもろとも消滅するのを目にしたのだった。

 

 「この件で第130鎮守府へのアクセスは慎重にすべき、という以上の情報は失われました。その上でマターボードが示した最後の必要な情報は人類側の黒幕の勢力についてでした」

 「それでてーとくが130に単独でじっくり潜入続けてたわけか」

 「えぇ。あんな結末など認められませんでしたからね」

 「『前回』のアタシがそれでふさぎ込んでたの気にしてくれてさぁ」

 「全部裏返って130に持ち込まれてた技術がまるっと使えるようになったんだからお釣りも十分だよな。稗田さんの呪符なしに俺の艤装剣も深海棲艦にも機械、ダーカーと広く通るようになったからな」

 「なんだかんだで江風やアウトローの追加バーニアだけじゃなくて艦娘非艦娘全員の装備強化に繋がったものねぇ。私も艤装の槍が使い物になり始めたもの」

 「トンデモな大惨事をしっかり防いで逆に攻略しまくってれば恩恵もどでかかった、って訳かァ」

 

 惑星シオンがマターボードで変えてさせてきた歴史もこういう最大効果を出せるものに絞っていたのかもしれない。やらされたてーとくの気持ちを散々に踏みにじったのだから許容は出来ないが。

 

 「そして、データが抹消された第130鎮守府に不自然に指示を出していたと思われる発信元の位置データが残されていました」

 「罠?」

 「えぇ。それでも、私達は乗り込むしかなかったんです」

 

 位置データが示したのは今回だと東雲率いる裏の連中が集まっていたあの施設だった。てーとく達や金剛隊に沖田元帥も交えて強行突破で最深部まで乗り込んでいった。

 そして最深部の、今回では東雲が居て赤騎士(レッドナイト)と交戦した場所に到達すると自動音声が流れ始めた。

 

 ーー貴官等は遅かったな。全てにおいて。ここには貴官等が吐かせたい人物も居なければ物的証拠もない。ただ、冥土の土産だ。我々の存在について語ってはあげよう。

 

 その言葉とともにてーとく達が入ってきた入り口から武装した兵士や艦娘、自律機械がなだれ込んできた。指名手配時に射殺許可すら出ていたのだ。彼らがどういう立ち位置かは不明だが殺す気なのは間違いなかった。数もとてもではないが犠牲なしにくぐり抜けられるとは思えない数だった。

 

 「ッチ、転移して逃げるしかねぇか?梓」

 「えぇ……」

 「でもなんか喋ってくれるらしいぞ」

 

 ーー勇敢な諸君も斉射は少し待ってくれたまえ。構えたままでね。ちなみにこれは自動音声だ。反論は何も意味がないことは通達しておこう。

 さて、127鎮守府の君達が追っていたのは我々だ。我々は国連艦娘運用組織『大本営』日本支部に大きく根を張る存在だ。だからこそ分かりやすい君達の一挙一動はよくよく見えていたとも。だからこうして招くことができたわけだ。

 さて、君達にとっての因縁は君達の思う以上に前から存在していたことを伝えておこう。その特異性には第二技研は目を付けていたんだ。その恩恵を預かる他の鎮守府もね。君達を囲んでいる者の中にもいるかもしれない。

 更に特異性を持って現れた福山提督。君ももう少し特異性を隠して動いておけばよかったと思わざるを得ないね。この空間も君の転移対策をしている。あるいは君だけなら離脱は叶うかもしれないが、共に居るであろう仲間達は諦めたほうが良いだろうね。隠し玉というのは隠しておくから有効だということを覚えておくと良い。

 それと、全てを疑っているのに上の命令だからと受け入れざるを得なかった、という君達の選択は敗北を宣言しているようなものだったよ。だからこそここまで一方的になったわけだ。

 来世ではこれを参考に上手くやるといい。待たせたね勇敢なる諸君。30秒後に斉射。最期のやり取りはその間に済ませたまえ。

 

 「クソ、全部掌の上ってか……!」

 「梓、お前だけでも……!」

 「いえ。今、最後の事象が集まりました。マターボードの完成です」

 「「!」」

 

 てーとくが強い光を放つマターボードを皆の方へ差し出す。

 

 「皆さんも手を伸ばしてください。シャオの調整が上手く行っていればやれるはずです」

 「あぁ……!」

 「一緒に行くぜ!」

 「マターボードよ!私達が紡ぐ未来のために!その力を示せ!!」

 

 ーーゼロ。斉射。

 

 てーとくを取り囲んだ兵士達が掃射するのとマターボードの光が爆発するのは同時だった。

 

 「そして次の瞬間、私は執務室の椅子に座っていました。日時は1月の不知火になって数日、午前6時。その時間帯に転移したというわけです。『今回』の世界線に転移が成功した、と思うのと同時に不安も覚えました。もし卯月達が記憶を引き継げなかったらどうしようかと」

 「そんなこと悶々と考えさせる前にアタシ達は執務室に駆け込んだんだけどな」

 「記憶の引き継ぎどころか今の今まであの追い詰められた空間にいた感覚そのままだったからな」

 「表情筋が死んだまま分かりやすくホッとしてたよな梓ちゃん」

 「お恥ずかしい限りです。……そして同時に『前回』亡くなった皆さんにも悪夢という形で記憶の引き継ぎが出来ていることを響さん達から確認しました。

 その後『前回』の時点で計画していた新規改修プランにそって鎮守府改造を開始、他所から怪しく見える動きは沖田元帥からの指示のもとに行っているという体と実際の指示書で動く、を徹底しました」

 「響とかずっとなにか企んでるわね、って感じだったけどそこから動いてたのね」

 「えぇ。すぐに監視装置が取り付けられるのは知っていましたからその対策を兼ねて。スパイだった人員は沖田元帥の意向という形で受け入れを拒否して。そうして『今回』へと至ったわけです」

 「言えないのがもどかしい!って感じだったモンね」

 

 私が具現武装に目覚める前後まで色々と隠されていてすごいモヤモヤしていたことを思い出した。その勢いでてーとくに斬りかかってしまったのは私にとって黒歴史もいいところだ。

 

 「そして未だにこのマターボードは役目を終えていません。つまり、歴史改変が完了していないということ。何かあれば今まで手にしてきたものを全て失う可能性があるということ。その上でマターボードの示す次の目標は、『艤装島の攻略』です」

 「明日の決戦が多分最後の攻略イベント、ってことかァ」

 「えぇ。だからこそ、皆さん油断せずにいてください。必ず、皆で勝って帰りますよ」

 「「了解!!」」

 

 そうして『前回』をふまえて皆の心が一つになったところで。

 

 「響だよ。回線がジャックされるーー」

 『やあ、愚かな人類共よ。我が名は指揮者ーー』

 

 事態は決戦に向かう。

 

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