少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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 最終決戦、後編です。


56話 これは、私が終わらせる物語

 艤装島 屋内深部

 

 

 「きゅー!きゅきゅきゅきゅ、きゅーっ!」

 「確かに、のさばってた奴ほとんど居なくなったけど、出ていくつもりなんてないのよ!」

 「だからこの島が望んでるんだってばよ!!」

 「まだ届かない、か」

 「暁の姐さん、状況は!こっちは創造者(クリエイター)が逃走しました!」

 「丁度いいわね。最初は私達が本当に勝てるのか分からないからついていきたくないで始まって、優勢なのが見えてきたからそこは納得したけどこの島を離れたくないって渋ってる所ね」

 「なる程。……お前がここの主、離島棲姫だよな。私は立花蒼って言えば分かるか?」

 「ッ!……創造者が固執していた名前!」

 「そうさ。で、その創造者は逃げて行ったけどな。お前さん、この島に拘る理由は何だ?」

 

 分かってはいるがあえて聞く。曝け出させてから、そこを突く。

 

 「アンタに何が分かるっていうの!?」

 「何も分からん。お前さんが喋らない限り」

 「な……」

 「知った風な口ならいくらでも聞けるし、こっちの事情はイ達がもう説明してくれてるだろ?けど、お前さんが何をどう考えているのかはお前さんが言ってくれなきゃ分からねェよ」

 「……」

 

 考え込む離島棲姫。多分、誠意を伝えられはしたけどこういうアプローチはされなかったんだろう。説得の態度でないことは重々自覚している。

 

 「この島は私の艤装なの。家族なの!離れるなんて出来るわけがない!離れたくなんかない!」

 「この島がそう言っていた、としても?」

 「そんなの信じられるわけがない!だって、この3年間、ずっと語りかけてくれなかったのよ……!なんでお前にだけ!」

 「論より証拠。記録映像だ」

 

 『ーーザザッーー近づきし艦娘よ。私の姫を、開放して欲しーー私はかのものに巣食われーーザザッーー檻となってしまったーーザザッーー』

 『そうだ。私はーーザザッーーここに住まう姫の艤装。特異なーーザザッーーだが、かのものが陸よりやってきてーーザザッーーなにか、されてしまっーーザザッーー開放して、欲しいーーザザッーー姫を外に、自由に、世界を、楽しみをーーザザッーー』

 

 「……」

 「これが私が拾ったこの島の声だ。別の誰かじゃないよな?」

 「間違いない、私の、艤装……けど、じゃあなんで私に話しかけてくれないのよ!?」

 「この映像に映ってるデカブツ、コイツのせいだ」

 「!」

 「原理は知らない。けど、この島が言ってた通りならコイツのせいでこの島はお前に語りかけることが出来なくなったって話だ。ちなみに今、島の外で私達の仲間がコイツをぶち殺しにかかってる」

 「コイツがなんとかなれば、また……?」

 「分からん。理由は2つ。1つはこんなヤツに乗っ取られたらどうなるかが未知数だということ。もう1つは島が喋ってた内容だ。自分は助からないからせめてお前さんだけでも助けてくれ、って意味に聞こえた」

 「なんで、なんでよ!?」

 「分からん、マジで分からん。けど……」

 

 家族のような存在の安否がずっと分からないままで、やっと分かったことがこれでは混乱するだろう。感情だって納得しないだろう。

 

 「今、デカブツを叩きのめしていてだいぶ削れてきたンだ。もしかしたら確かめられるかもしれない」

 「でも、今だって何も聞こえないのよ!?」

 「ンじゃ外、出てみるかい?」

 「え?」

 「江風!この子結界だかなにかでずっと外に出れなかったみたいなのよ」

 「デカブツへの反応が新鮮だったしそんな気はしてました。創造者の奴、ホントよォ……ともかく!あのデカブツがボコボコにされて色々弱まってる今なら出れるようになってるかもしれない。確かめる価値はあるだろ?」

 「……そうね」

 「きゅ〜っ!」

 「そうね。私達も同行するわ」

 「了解ッス」

 

 離島棲姫を連れて一番安全そうな出入り口である制圧済の正面から出ようと近づいた。

 

 「……駄目、やっぱり変な膜が……でも薄くなって外が透けて……?」

 「へえ」

 

 離島棲姫が近づくと膜が形成されて行方を阻む。そして勘が告げる。これならいけると。

 

 「離れてろ!ぶち破ってやる!」

 「ハ、一緒に砲撃かますわよ!そういうことよね?」

 「合ってますよっと!『シンフォニックブレイク』!」

 「壊れなさい!」

 「おりゃぁ!」

 

 破砕音と共に膜が消滅する。

 

 「離島棲姫!再生するかもしれないから急げ!」

 「わ、分かった!」

 

 かなり素直に話を聞いてくれるようになった。目的を一緒に行こう、から真実を確かめようにすり替えたからといったところだろう。

 

 

 艤装島 港湾部

 

 

 「よし、こっからなら見えるなあのデカブツ野郎」

 「アレが……」

 「響の姐さんの言ってた通り、だいぶ小さくなってるな。……大丈夫か?」

 「アレが、アレのせいで……!」

 「恐怖じゃなくて怒りか。なら大丈夫そうだな。声は聞こえるか?」

 「ッ、そうね、お願い、返事をして!」

 

 合わせて無線の感度も最大にする。声か無線、どちらかに反応してくれればいい。

 

 ーーか、……きこ、るか、姫よーー

 

 「ッ!聞こえた!ねえ、聞こえるわよ!」

 「もうちょっと声張り上げな艤装さんよ!」

 

 ーーあぁ、やっと、声が届いた。姫よ、ありがとう、諦めないでくれて。ありがとう、艦娘よ。届かせてくれて。

 

 「やっと、やっと聞けた……!」

 「感動はもう少し後かなァ。艤装さんよ、あの怪異野郎の支配は抜け出せそうか!?」

 

 ーー無理だ。

 

 「ッ!」

 「理由をちゃんと言えよ!」

 

 ーーコレの体躯は、既に私と融合している。私が死ななければ、コレも滅ぼすことは出来ない。しかし私が死んだだけでは、コレは滅ばないだろう。だが、コレを道連れにすることは、出来るかもしれない。

 

 「そんな!そんなのって!」

 「何をする気だ?」

 

 ーー自爆する。艦娘よ、お前の仲間が最初に撃った大きな光の柱、もっと出力があれば、それに合わせれば、もしかしたら。

 

 「『スターゲイザー』、か……てーとく、聞こえた!?」

 『こちら福山。聞こえています、『イグナイトパリング』!ですが実行するとしてももっと削らなければ……どう転ぶにせよ、リンクしている指揮者(コマンダー)をまず殺さねばどうにもならないでしょう』

 「江風了解。艤装島が生き残れる可能性も模索お願い」

 『了解です』

 「……屋内に戻るよ。兎にも角にも指揮者を殺す。じゃなきゃあのデカブツは何をしても倒せないし可能性も生まれない」

 「……分かったわ。指揮者をやればいいのね……!」

 「いやお前さん戦闘装備ねェだろ」

 

 普通に素手ゴロを仕掛けに行きそうな勢いだ。

 

 

 艤装島 屋内中央部

 

 

 「こりゃあ……何で生きてるンだよアレ」

 「っはぁ、江風か!?他の様子は!?」

 「概ね良好!進めるためには指揮者殺す必要有、ッス!」

 「だそうだ死にやがれ!」

 「お前が死ぬまで、私達は諦めない!」

 

 息切れしながらも攻撃を止めない姐さん達3人を中心に他を掃討し終えたメンバーから集中砲火を受けている指揮者。

 最早ボロ雑巾の体だが死ぬ気配が見えない、という歪な状況だった。これが怪異とのリンクと創造者の補助の為せる技だというのだろうか。

 

 「っぐ、っぁ、死にたくない……コンナモノデ終ワレナイ……全テヲ指揮スル(あやつる)コノワタシガァ!!」

 「化け物に落ちたわね、指揮者」

 

 暁の姐さんが呟いた通り、妄執で無理矢理命を保つ化け物、という表現が正しいだろう。

 

 「さて、追加で殴って落ちるかコレ」

 「指揮者……指揮者ぁ!お前のせいで!お前のせいでぇ!!」

 「おい離島棲姫!」

 「なっ、オマエ、グアァ!」

 

 静止を振り切って離島棲姫が突っ込み、素手で殴り始めた。思った以上に効いている様子でもある。

 

 「離島棲姫の攻撃が思った以上に効いてる?もしかして、怪異が侵食してる艤装島の本体だからその拒絶で攻撃に意味が、って奴か?」

 「お前が!お前が居なくなればぁ!!」

 「おい、どういう状況だ!?」

 「この子の艤装島を乗っ取ってる怪異を倒すための前提として指揮者の討伐が必要、って知ったらこの様よ!」

 

 姐さん達のやり取りを聞きながら、この状況について考える。創造者が逃げ去ってからだいぶ時間が経過していることも加味すればそちらの影響はそろそろ切れてもおかしくないだろう。であれば、より怪異とのリンクをしっかり切断出来れば。

 そう思いながら周囲を見渡してみると、あちこちにひっそりと怪異と同じ色をした肉塊が蠢いていた。

 

 「……試す価値はあるかな」

 「どうした江風」

 「長月の姐さん。あそことかあっちとかにある気持ち悪い肉塊分かります?」

 「とりあえず叩いてみたが叩いたそばからまた別の所に沸いていてな……いや、先程に比べたら数が減っているな?」

 「島の上の怪異と同じ色してるンですよね。もしかしたらアレが指揮者を生き長らえさせてるンじゃねーかなって」

 「減っているのは上で梓たちが怪異を削っているからか?……やる価値はあるな。菊月!その他指揮者殴りに参加しにくい皆!ターゲットをそこら辺にある肉塊をモグラ叩きするぞ!今なら効果があるかもしれん!」

 「む、確かに先程より減っているな……やってみようか」

 「天井部は艦載機に任せてください!」

 「大物は……『ラストネメシス』。私がやるわ」

 「天龍達と離島棲姫は気にせず指揮者殴りなさい!私達もやるわよ!」

 「頼んだぜお前ら!死ぬまで殴るのは止めねぇからなぁ、指揮者ァ!」

 

 流石に多勢でタコ殴りにするには指揮者は小さすぎたため、攻撃を切り替えても問題ないメンバーが多かった。そして次々に破壊されていく肉塊。そのそばから次が沸いてくるがその速度は破壊速度より大きく劣っていた。

 

 「あぐぁ!力が、抜け、ヌケテェ……うグゥ!!」

 「効きがよくなってきたなこのままくたばれやァ!」

 

 でもまだ、足りない。何かまだもっと大きな……そう思ったところでふと思い当たる。

 

 「電!肉塊以外でそれっぽい雰囲気の何か感じられるか!?」

 「え?うーん……そこ!最初に指揮者が陣取っていたところの床なのです!」

 「離島棲姫!お前さん、あの場所に覚えはあるか!」

 「こんのぉ!……何!?そこなら指揮者がいつもふんぞり返っていた所よ!ここからだと全てが見えるとか調子に乗っていた事を、思い出したら更にムカついてきた!こいつ!!」

 「確定、だな」

 「なのです。江風ちゃん、マーカー置きますね!……具現武装、ライフル!『ウィークバレット』!」

 「お前いつンな便利なモン習得してたんだよ。じゃあ期待に応えて、全力でェ……!」

 

 アークスのライフルスキル、『ウィークバレット』。当てた場所にマーカーが出現するとともにその場所を弱点扱いにする支援スキルだ。

 ゲームPSO2においては電が扱うランチャーを扱える職分(クラス)のレンジャークラスが扱えるスキルであり、レンジャークラスが扱えるもう1つの武器種、ライフルの主要スキルである。

 

 「電がそういうことできるなら私もファイタースキル習得目指してみっかなァ……!」

 「御託はいいから決めちゃってください!」

 「おうよ!」

 

 敵が動かないし反撃もしないので、先程までは出せなかった隙の大きい全出力で攻撃態勢に移る。床狙いだからいつもの動きでやれるのもいい。

 

 「機関最大出力!行くぜぇ『江風』、全力でやるぞ!『シンフォニックブレイク』!!」

 

 空高く跳び上がり、重力とバーニアの推力をもって全力で蹴り抜く。金属製の床である艤装島の中で対象は弾力を持った質感ーー怪異と同じーーだった。

 

 「ッらああああっ!!」

 

 沈み込む身体を無理矢理方向転換したバーニアで体を離脱させ、去り際に魚雷を投下する。

 

 『ーーーーーーー!!!!』

 「へっ、効果アリ、だな!」

 

 魚雷の爆発と共に島の内部にも怪異の絶叫が響き渡る。文字通りのウィーク・ポイントだったようだ。

 

 「肉塊の復活が止まったぞ!」

 「残りを掃討しちまえ!」

 「うおおおお!!」

 

 127組の士気は更に上がり、一気に残った肉塊を蹴散らす。

 

 「残存する肉塊なし!」

 「気配もないのです!」

 「やっちゃえ!」

 「っしゃぁ!」

 「終わりにしてやるぜ指揮者ァ!」

 「これが私達の、想いと力だ!」

 「死ねぇ指揮者!!」

 「が、アァ、アァァアア!!!」

 

 4人の攻撃が刺さり、致命傷を受けたような悲鳴を上げる指揮者。体のあちこちが爆発を始めている。

 

 「おのれ、オノレオノレオノレェ!!この私が、指揮者ガ!こんな奴らニ、コンナ、コンナァ!!」

 「往生際の悪い奴」

 

 口から血反吐を吐き散らしながら指揮者は叫ぶ。

 

 「お前達に、オマエタチニ、呪いあれ!!絶望の未来を!!」

 

 そう叫んだ直後、身体が爆発。白い霧のようなモノを撒き散らして消滅した。……深海棲艦が死ぬ時はそのようにはならないはずだが。

 

 「やった……のか?」

 「でも、なんだ今の?」

 「響だよ、反応消失。最期の現象は分からないけど、やったはずだよ」

 「やった……」

 「本当に……」

 

 本当に倒せた、ということが信じられない様子でいる127組の面々。そしてそれに応えるように地面が揺れ始めた。

 

 「うおっ、なんだ!?」

 『こちら福山。総員、揚陸艇への移動を急いでください!島が……艤装島が自爆します!』

 「「えっ」」

 『詳細は揚陸艇で!急い……怪異、貴様を逃がしはしない!うおおおお!!』

 『こちら坂田!艤装島が自爆するって言ってるからとりあえず退避だ退避ー!!』

 

 その連絡と共にバタバタと撤収するのだった。嫌がる離島棲姫を連れて。

 

 

 アークス揚陸艇 甲板

 

 

 「皆さん、揃っていますね。それと、貴方がこの島の主、離島棲姫さんですね」

 「そうよ!でもなんで自爆なの!?」

 「艤装島!お前の主が聞いているぞ!」

 

 ーーああ、我が姫。生きてくれていて、良かった。

 

 「そんなこと!指揮者はやったのよ!?だから大丈夫じゃないの!?」

 

 ーーおかげで、この怪物が不安定になった。今なら滅ぼすことが出来る。だが、私は侵食されすぎている。怪物の生き死に関わらず崩壊するだろう。ならば、我が姫の為にこれは、ここで縫い留めなければならない。

 

 「そんな……!」

 「響だよ。ここで奴を仕留められない場合ーー」

 「私が引き継ぎます。……逃した場合、また別の地域に根差すことでしょう。何かを、誰かを依り代にするかもしれないでしょう。それを許すわけにも行きません」

 「でも、あの子が犠牲になる理由なんて!」

 「恨んで頂いて構いません。私の、判断でーー」

 「てーとくさあ。そして艤装島さんもよぉ。一番可能性のあることに言及しないで持っていくつもり?しない方がいいと思うけどなァ」

 「ッ、江風さん!?」

 

 あとで知るのは、間違いだと思うから。

 

 「離島棲姫さんよ、艤装島さんを依り代にしていたやつが次に乗っ取るのに相性がいいやつって誰だと思うよ?」

 「え?」

 「お前さんだよ。だって艤装島の主なんだから。馴染みやすいだろうね」

 「じゃあ……まさか」

 「お前さんに累が及ぶ位なら、その上で艤装島さんが死なない手がないのであれば。道連れにするのが一番未練のない命の使い方でしょ」

 「そんな!嫌よ!」

 「だから言わないでおこうとしていた。理解と感情は別物だから。そんな犠牲を受け入れる選択なんて辛いから別のやつが勝手にやったんだ、って思えば少しは楽になるから。さっきの茶番だったって訳さ」

 「江風さん、分かっているのなら何故……!」

 「後で知ったらもっと後悔するよ。『自分で選択しなかった』ってことに。……だから離島棲姫さんよ」

 「……」

 「選択肢はないけど、お前さんが選択するんだ。他の誰でもない、お前さん自身と艤装島さんの為に」

 「っぐ……!」

 「こんな選択しなきゃいけない羽目になった元凶が許せないよな?そんな状況を許してしまった自分が許せないよな?

 少なくとも今、その怒りをぶつける相手は誰だ?」

 「あの、怪物……!」

 「ここで殺そう、完膚なきまでに。その為に力を貸して欲しい。想いを、怒りを、貸して欲しい」

 

 その責任は、その後の苦しみは私が一緒に背負うから。

 

 「どうやるの?」

 「てーとく!『スターゲイザー』は!」

 「はぁ。全て持っていって。色々と度外視の一撃を放ちます。全員、私に想いを載せてください!」

 

 そう言って攻撃態勢に入るてーとく。

 

 「全員梓ちゃんに手を伸ばして想いを光に載せろ!これで最後だ!」

 「「うおおおお!!!」」

 

 全員の様々な想いが刀身に集まっていく。間違いなく、今までの最高の出力だ。

 

 「「未来を切り拓け!『スターゲイザー』!!」」

 

 ーー今だ。姫、幸せな未来を……!

 

 「ーーー!!!!!」

 

 莫大な光の束となった光の剣が怪異を全て飲み込み両断する。同時に艤装島が大爆発を起こし、怪異をその悲鳴ごと余すことなく消し去った。……かのように見えた。

 

 「はぁ、これで、……!」

 「響だよ。反応確認できない、というか怪異が消し飛んだ反動で霧がより一層濃くなって物理的にも全レーダー、センサー的にも確認ができないよ。アレでまだ生き残ってるとは思いたくないけどね」

 「それじゃこれ、アイツの血飛沫ってこと?」

 「そういうことだね」

 「終わったの、全部、私の、全部」

 「……こんな選択をさせた手前だ。責任は取るよ。艤装島さんの願ったお前さんの幸せを、世界を広げることを、約束する。胸を張ってお前が元気だよって言えるようにフォローする。……その前に」

 

 レーダーは本当に役に立たない。視界も酷いものだ。だけど、両断される前に怪異が一部が抜け出ていたことを目にしたし、勘もまだだと告げている。そして、何処に居るかも。

 

 「てーとくは動けなさそうだね。江風、怪異にトドメ刺してきます」

 「生きているというのかい!?」

 「目と勘で確信してます。霧が落ち着いてきたら追いかけてきてください、先行して殴るだけでもしてきますので!バーニア起動!江風、出ます!」

 「江風!」

 

 静止を振り切って甲板を飛び出し、着水。島1つが爆発したのだから波も大荒れで状況は最悪と言って差し支えない。ないが。

 

 「『駆逐艦江風』がビビるような環境じゃあないのさ!」

 

 やろう。これは、私が終わらせる物語なのだ。

 

 

 少し離れた区画 洋上

 

 

 「チッ、思ったほどは進めちゃいないが……もうすぐだな」

 

 幾度目か分からないてーとく、ひいては金剛さんのスパルタ教練の効果に感謝しつつ歩みを進めていた。

 

 「霧が少し晴れて……ッ!?」

 

 そこに居たのは怪異ではなく、私が半壊させた赤騎士(レッドナイト)に創造者、そして吹雪さん深雪さん赤城さんの横須賀第1遊撃隊だった。

 

 「……どういう取り合わせで?」

 

 主砲を構えながら問いかける。

 

 「あはは!いいね、信じられない光景でもまずは警戒を出来る。大事なことだよ江風ちゃん!」

 「……」

 「質問に答えようかな。あまり時間もないみたいだし。……私達は東雲さんの意志を継いだ赤騎士が創造者ちゃんを保護しようとしているから付き合っている。簡単に言うとそれだけだね」

 「何をしにここに来たか、分かって言ってるんですよね」

 「陰謀で艦娘組織を苦しめてきた相手との決戦。貴方達はちゃんとその総大将である指揮者を倒したし、私達も周囲に展開していた雑魚は全滅させて、やることはやったよ?」

 「創造者も敵の首の1つってことはどう認識しているんですか?」

 「気取った口調もすっかり身を潜めているんだね」

 「どいてもらえます?私は、怪異を殺さなきゃいけないしそいつもここで仕留めていきたいんだ」

 「出来ない相談だね!怪異の方は自由にしていいし、すぐそこにいるのは分かっているよ。だからこそ君みたいな子が来るのも想定していたよ」

 

 目が据わっている。思い返せば元々こういう表情を出会った当時からずっとしていた。そしてその目はてーとくを見てきたからわかる。摩耗しきった者の目だ。

 

 「赤騎士が可能性を認めたから?さっきの戦いで、現状コイツにはそんなモノはないと思いましたけどね。赤騎士がそこまで信頼できるんですか?」

 「出来るよ」

 

 すっぱりと言い切る。

 

 「私はね、江風ちゃん。ずーっと頑張ってきた人達が報われないで倒れていくのは、苦しんでいくのは、もう嫌なの。深海棲艦との戦いが落ち着くまでに散っていった仲間達。本庄さん。そして最近は東雲さんとたくさん失ってきた。

 それに、沖田司令官に金剛さんにお兄ちゃんに。ずっと苦しみを背負ってまだ最前線を歩き続けなければいけない人達を見てきているの。もう、見ていられない。私達みたいに割り切って振り切るわけにもいかないで、ずっと頑張って、これからも頑張り続けてね」

 

 お兄ちゃんとは、と思うが重要なのはそこではないだろう。

 

 「だからこそ革新を起こして、代替わりをさせていく為に。赤騎士が見出した可能性を、創造者を保護して活用していくってことですか?」

 「そう!それに、貴方達にも期待しているんだよ?今までを破壊して、新しいを作って積み上げて行こうとする貴方達をね」

 「勝手な理屈。けど、それ以外にないと思うぐらい摩耗しているってことですね。その目は限界を超えた人の目だ」

 「話が早くて助かるなぁ。だから見逃してね?」

 「赤騎士に創造者、そいつ等を抱えるってことは今後敵対するつもりで?」

 「あはは、そんなつもりはないよ!そもそも艦娘組織の明確な味方でいるつもりもないけどね」

 

 第3勢力、という立ち位置か、あるいは。

 

 「終の海の味方、ってとこですか?」

 「そういう帰属意識は薄いけど……まあ横須賀との二足草鞋、ってところかなぁ」

 

 沖田元帥が自分が深く関わる作戦に金剛さんは呼んでも第1遊撃隊をあまり呼ばない理由を理解した。最早手綱は存在しないのだ。吹雪さんの脇を固めている深雪さんや赤城さんも一切咎める様子がない辺り、同意見なのだろう。

 

 「長話してていいのかな?」

 「あの怪異まで見逃せ、はないですよね?」

 「うん。アレは敵だから」

 「それじゃあ、私も好きにやらせてもらいますからね。否定はさせないですよ」

 「そうだね」

 「創造者。お前の力を貸せ」

 「……何?」

 「正直、お前の実績はしょぼいよ。ゴミクズだよ。だけどそれはお前がオーダー通りにしか力を振るうことを考えられない知識不足と経験不足、それにオーダー側の雑さにあった。だからさ、詳細にオーダーしてやる。お前の力、最大限に見せてみろ」

 

 優先順位は間違えない。今は怪異だ。

 

 「オーダー内容は私の具現武装にあの怪異を滅ぼす力を。けど、私はそれで死ぬ気はないし力を使い果たして艦娘をやれないとかエーテルを使えないだとかの結末は御免だ。1年未満で引退なんかする気はねェ」

 「……だが、それでは足りないぞ」

 「だろうね。だから更に追加だ。喪失は御免だが全治1か月とかそういう消耗なら構わない。限界ギリギリまでを引き出してくれ。足りない出力は……今もそこら中に漂ってるだろ?力の塊が」

 「……怪異の残滓」

 「怪異をぶん殴る為に怪異の力を奪ってそれを活用してぶん殴る。そういうことが有用なのは経験済みでさァ。その上でならどうよ」

 「……」

 「出来ねェならお前は所詮その程度。赤騎士も第1遊撃隊も節穴だった。『役割』なんて大袈裟なことほざけるようなモンじゃなかった。ってこったなァ?」

 

 挑発する。侮辱する。エーテルは意志に応える。全力でやる気にならなければその効果だって期待はできない。それに、ここで殺せない相手がその程度の雑魚であれば、殺せないことが情けなさすぎる。

 

 「……分かった。示そう、私の力を。私の出せる、全てを」

 「さあ、やれよ創造者ァ!!」

 

 周囲の霧が私に向かってきて消えていく。それに合わせて両手に持った双小剣(ツインダガー)に、そこから身体中に力がみなぎる。溢れんばかりの力が身体の中で暴れ始める。『駆逐艦江風』が、やる気に満ちて武者震いをしている。『私』が、闘志を抑えられなくなっていく。

 

 「いいぜェ、もっとだ!確実にアイツを殺せるように!最大を!!」

 「はぁぁ……!!」

 

 周囲の霧が晴れていく過程で遠くに怪異が見える。もう身体は5m程度のコンパクトになっていて、嘴の中の目玉が必死に霧を吸ったり吐いたりしている。コア部分は、あそこだ。

 

 「やったぞ、タチバナアオイ!」

 「その結果をよーく見ておけよ!」

 

 そう言って怪異の下へ駆け出す。背後に彼らの視線を感じながら。

 

 「よう、このまま逃げようだなんて随分と虫のいい話じゃねェか、なァ!クソ怪異さんよォ!!」

 「ーーー!」

 

 私の呼びかけに怪異が気付く。こちらをその目玉で見るが、そこに恐怖と焦りが見える。コアである目玉を守ろうとしてか、嘴が閉じられる。

 

 「そんな殻はぶっ壊せばいいよなァ!『シンフォニックブレイク』!!」

 

 怪異より高く跳躍し、嘴の根元に叩き込む。ばぎゃり、という音と砕いた感触を感じながら更に上に跳躍する。

 

 「終わりだよ。離島棲姫を苦しめて、皆を苦しめてきたお前の所業もここまでだ。くたばれ!『フォールノクターン』!!」

 

 急降下し、その勢いで深々と双小剣を突き刺すPAを放つ。確かな手応えと、命を砕いた感触。一気に力を放ったことでとびかける意識を気合で繋ぎ止める。

 

 「ーーーー……」

 

 悲鳴が小さくなっていき、怪異の身体がボロボロと崩れていき、消滅した。霧もまた少し晴れていく。怪異は完全に死んだ、と確信を得た。

 

 「どうだ、ざまあみやがれクソ怪異がよ……」

 

 海上に立ち、大きく息を吸う。無線も使えるかどうかは分からないがオンにして。

 

 「127の江風!今ここに霧の怪異を討ち滅ぼした!!私の、私達の、勝ちだァ!!!」

 

 そう叫んだところ意識が限界を迎え、暗転した。

 

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