2027年4月末 夜 第127鎮守府本館
今日の出撃の報告書を提出し――今日は私が担当になった――本館の廊下を歩いていた。
「ン、紙が落ちてる……なんだコレ?」
見たことのない字で長々と何かが書かれている。内容は全くわからない。
「すみません、江風さん。それは私のものです。ここに落としていたんですね」
「福山提督?」
福山提督が走ってくる。この謎文章は福山提督のものだったらしい。
「見ました?……いえ、見ても何が何だかわからないと思いますけども」
「なんも読めなかったです」
「一応機密なので、暗号化しているんですよ。読み取られたら少し困ってしまいました」
ハハハ、と笑うようなセリフを吐くが顔も声も笑っていない。怖い。
「……表情、どうにもならないので申し訳ないのですが、怒ってませんからね。本当ですよ?」
「え、はい」
「さて、江風さん。いい時間ですし、寮に戻ってください。私はまだやることが残っていますので」
「福山提督、いつもずっと仕事してない……?」
「丈夫なので大丈夫です。仕事、もう少し早くこなせるようになればいいんですけどね……」
提督は事務が苦手だ、というのは共通認識である。というか本人が事あるごとに苦手だとぼやいている。それはそれとして、いつ休んでいるのか疑問に思うぐらいにずっと働いている気がする。
「無理はしませんから。さあ」
「了解です、戻ります」
気にしていてもしょうがない。寮に戻ってPSO2でもしよう。私は本館を後にした。
「ふう、よりにもよって報告書を落とすとは。オラクル文字で書いていて正解でした」
『先に江風に回収されるのは落ち度です。気を引き締めてください』
「分かっていますよ、不知火」
私の頭に話しかける人格、不知火に応える。それにしても、江風さんは本当に間の悪いというかなんというか。
「出向元へ提出用のこの鎮守府の現状を記した報告書。流石に知られてはいけませんからね」
呟きながら報告書の内容を見返す。
拝啓、シャオ、ウルク、カスラ。現状の地球の状況、出向先の鎮守府という組織の情報、構成員などの情報を送る。強化プランなどあれば提案求む。
・時系列
11年前。この惑星、地球にて情報粒子『エーテル』が発見され、活用が始まる。地球の年号は2016年。『エスカタワー』という巨大なアンテナ装置が世界各地に建設される。
10年前。『深海棲艦』と呼ばれる怪物が出現。海運は荒らされ、当時の地球人の武装では歯が立たないことが発覚。その中で、『艦娘』という存在が出現する。
艦娘という存在は、『素体(ベース)』となる人間の女性が、『鎮守府コア』と呼ばれる謎の物質から形成された『建造ドック』から与えられた力によって変身して誕生する。元の姿に戻ることは可能。
艦娘は、水上または水中いずれかを移動することができ、深海棲艦に有効な攻撃手段を持つ。深海棲艦は同族及び艦娘には抵抗力を持たず、武器を使った人類の格闘攻撃のダメージの一定割合を軽減し、重火器の多くのダメージを軽減し、兵器級のほとんどのダメージを無効化する。素手の攻撃や物損などの事故によるダメージはほぼ通る。
深海棲艦は海のいずこからか発生し、海上を主に移動し、また地球人類サイズであることから大規模な兵器による攻撃では狙いにくく、また地球人類は海上格闘は不可能のため、艦娘が主軸となって戦うことになる。
9年前。深海棲艦の力を利用したまつろわぬ神――惑星ハルコタンのマガツのようなモノと推測される――を撃破する。これに操られていた深海棲艦一党が人への敵対行動という本能から解放され、撃破跡地の海域を縄張りとして独立する。第1鎮守府はこれを支援。以後、該当海域を『終の海』と称する。
終の海海域は日本国付近の太平洋上に存在し、その勢力は人類に合流しないものの、友軍であり続けており、現在も第1鎮守府の部隊を中心に交流が続いている。この海域は、人類から仕掛けない限り安全が保障されている。
―略―
4か月前。シャオの指令で私が地球に降り立ち、翻訳のための情報収集を行う。地球では2027年12月24日という日付であった。
降りて少し、翻訳が完了する前に第127鎮守府及び第130鎮守府が襲撃される。両鎮守府は北方海域の深海勢力『北の姫』勢力との決戦直後であった。私の座標は第127鎮守府直近であった。
第127鎮守府の生存者、天龍、響と合流、深海棲艦を交戦する。途中で第130鎮守府の生存者卯月、長月、菊月とも合流、撃破に至る。地球語の翻訳が完了したのはその直後であった。
シャオと第1鎮守府の交渉により、第127鎮守府の再建を決定、鎮守府司令に私を起用する。意識を取り戻した秋雲、そのほか第1鎮守府の金剛、第1憲兵部隊と共に坂田ら憲兵部隊という男性陣も合流する。
1か月前まで、憲兵部隊の拡充と第127鎮守府の改修を進める。重要施設は拡張された地下エリアに移設した。
私を対象に建造ドックで建造を行い、不知火に変身できるようになる。私という負荷により、建造ドックは完全に機能を停止した。
1か月前。旧第127鎮守府の生存者であり第129鎮守府に回収され療養していた暁、雷、龍田の協力を得る。以後、第127鎮守府の所属となる。
横須賀訓練校から『異常適正組(イレギュラー)』判定を受けた江風、海風、電、加賀の受け入れを具申するが海風は通らず、残り3名を確保。同時に成績不良と判断された瑞鳳、羽黒を確保する。その後、訓練校の判断基準に疑問を呈したため、第1鎮守府に矯正を依頼した。
以後、訓練と実戦を重ね、戦力として強化していく。
先日。一般への情報公開を行うため、鎮守府の一部を解放。襲撃の一波が確認された。これは未然に防がれたが、主犯格は危険思想のテロリスト、他は雇われのごろつきであり、彼らを雇った黒幕については情報を持っていなかった。これらの処分は完了している。また、彼らは電の特性と配置を理解しており、侵入できた様子であった。
以上が現状である。
・人物評
新人組
江風 異常適正組で駆逐艦。戦闘補正距離が極端に狭いが、その中であれば非常に高い回避能力を有する。勘に優れているため、奇襲に強い。勘の良さで色々早く知りすぎてしまう傾向がある。
電 異常適正組で駆逐艦。戦闘補正距離と火力はやや低め。敵意や嘘といった害意を見抜けるため、状況解析能力に優れる。敵を識別するセンサーとしての役割が期待される。
加賀 異常適正組で正規空母。通常大容量の艦載機を積める艤装部位――通称スロット――が何故か使用できない。距離を問わず一点への集中力が高く、狙撃能力に優れる。狙撃能力の空母艦種としての活かしどころを検討中。
瑞鳳 成績不良組でその他は通常の軽空母。成績不良の原因はコツを掴むのに遅れ成績が奮わなかったことに起因している。空母のコーチがつけばもっと伸びていくだろう。訓練校の指導者不足を感じる。
羽黒 成績不良組でその他は通常の重巡。やや砲撃能力に優れる傾向。成績不良の原因は度胸不足であり、これは場慣れにより改善の兆しを見せている。巡洋艦としてのコーチもつけばもっと良いだろう。
復帰組
暁 駆逐艦。『北の姫』勢力との決戦の主軸であった他、交渉決裂前は『北の姫』勢力と深く交流していた。そのことで抱えているものがあるようで、第127鎮守府への合流を承諾した。駆逐艦娘として、また現場指揮官として優秀。
雷 駆逐艦。旧第127鎮守府の遠征部隊所属。他の艦娘の心身共にフォローをしていくことに定評があった。他の姉妹艦である暁、響が第127鎮守府に所属するため、彼女も合流を承諾した。
龍田 軽巡洋艦。旧第127鎮守府の遠征部隊副隊長。隊長の天龍と共に安定した成果と護衛対象の面々との交流を請け負っていた。旧第127鎮守府陥落により精神を病んでいたが、天龍が第127鎮守府で再起を図るため、合流を承諾した。彼女の精神面は経過観察要。
第127鎮守府再興組 通称『古株組』
天龍 軽巡洋艦。旧第127鎮守府の遠征部隊隊長。遠征から帰還直後に襲撃にあった。艤装としての刀を持っており、防御に使うことができる。普段は頼れる先輩分を演じているが、復讐心は人一倍である。
響 駆逐艦。旧第127鎮守府の遠征部隊所属。情報収集に強い興味を示しており、旧第127鎮守府が一部から疎まれていることまでは突き止めていたが、襲撃までは予想できていなかった。今後は第1鎮守府諜報部を師として情報管制を主に担当する。
秋雲 駆逐艦。旧第127鎮守府秘書艦。旧第127鎮守府基地司令とは恋人同士であり、『北の姫』勢力とのいざこざが終わった後に籍を入れる予定であった。襲撃により、基地司令は戦死。彼女も致命的な重傷を負い、艦娘状態でも水上戦闘は厳しく、素体では下半身不随になっている。現在は事務を担当してもらっている。
卯月 駆逐艦。旧第130鎮守府所属。異常適正組で魚雷が使えないが、普通の艦娘がもたない高い跳躍力と速度を活かした攪乱戦及び敵の弱点への超近距離射撃を得意とする。『北の姫』勢力との決戦時は鎮守府海域付近の遊撃に動いていたため、襲撃を免れた。旧第130鎮守府奪還を主目標にしている。
長月 駆逐艦。旧第130鎮守府所属。外部からの印象がよく、菊月との連携で敵部隊を翻弄しつつ、敵進路上に配置した魚雷による制圧を得意とする。襲撃時は卯月と共にいたため、無事。旧第130鎮守府奪還を目指す。
菊月 駆逐艦。旧第130鎮守府所属。ムードメーカーであり、長月との連携での制圧を得意とし、牽制射撃が特に優秀。襲撃時は卯月と共にいたため、無事。旧第130鎮守府奪還を目指す。
坂田 憲兵部隊として最初に合流した一人。元々各地で艦娘を守る陸上戦闘員、憲兵として活動しており、第127鎮守府再興に対して参加を表明した。
その他所属している憲兵や職員について書かれている。
第1鎮守府組
金剛 地球上に初めて艦娘が現れた当初から艦娘をしている最古参であり、世界単位でのトップエースの一人。多くの修羅場を乗り越えており、弾着観測射撃を伴わないにもかかわらずそれ以上の命中精度、回避率を誇るエースオブエース。通常の金剛と違い、表情や口調は常に硬い。第127鎮守府の監督艦を務めており、その存在が外部への牽制も兼ねている。
元帥 第一鎮守府の司令官であり、元は海上自衛隊の教官だった。深海棲艦は多くが話の通じない敵であるが、稀に話の通る存在がいる為、そういう存在との折衝は重要であると唱えて実践している。対話は不可能と反発する者も多いが、最古参で最も実績のある第1鎮守府に反意を通しきれるものはいない。第127鎮守府は彼の直属となるため、実質の第127鎮守府の総司令である。
その他外部関係者について書かれている。
・用語
エーテル 情報粒子。フォトンと似た性質を持っているが、伝えるという面に特化している様子である。現在の地球の通信技術はこのエーテル利用が主流である。
鎮守府 『鎮守府コア』と呼ばれる特殊物質が出現した区域を人工物で囲い、施設としたもの。主に海岸で見つかるほか、島を形成することもある。鎮守府コアは野ざらしにしておくと建造ドックにより艦娘を次々に生成してしまう他、発生条件、正体など謎に包まれているため、慎重な管理が求められている。
MC(マザークラスタ) SNSと呼ばれる地球人類の通信媒体によるコミュニケーショングループの1つ、であると江風、電、加賀は認識し、所属している。その他で散見される同名の敵性と思われる組織との関連は不明。要調査対象。
『北の姫』の勢力 北方海域を縄張りとした、北方棲姫と呼ばれる上位個体を中心とした深海棲艦勢力。人類に対し友好的であったが、事件が多々発生し決裂、第127及び第130鎮守府によって打倒された。
カテゴリA~D 深海棲艦の個体ごとの理性などの区分。
Aは知性があり、人の言葉を喋ることができ、コミュニケーションが可能である。『北の姫』はこのカテゴリであった。
Bは知性はあるが、人の言葉を喋らない。コミュニケーションは不可能ではないが、多くが敵対反応を示す。
Cは人の言葉を喋ることができるが、敵対反応以外になく、完全に対話は不可能である。
Dは人の言葉を喋ることもできず、敵対する。下位は本能で動くケダモノのそれであり、上位は多少の戦術を展開することができる程度である。
『南西』の勢力 正確な縄張りは不明だが、日本の南西方面からやってくる勢力。基本的に粗野で話の通じない個体が多い。艦種的に穏和傾向にある一部姫級でさえ理性や品性に欠けると評価される。近年勢力を伸ばしつつある。ほとんどがカテゴリCかDである。
その他重要事項が記載されている。
――現状は以上である。追記事項が発生次第、情報を送る。他方面からの地球へのアプローチは情報部へ一任する。 第127鎮守府司令ルーファ、地球名福山梓より