12月中旬 日曜日 08:00 第127鎮守府 執務室
私が鎮守府に復帰して数日後。鎮守府組織側への対応が落ち着いて来て、外部との連携を改めて強化していこうという流れになっていた。
「ーーというわけで、本日の来訪予定の亜贄社長と清雅学園の方々ですが、江風さん。貴方に応対をお任せします」
「私?響の姐さんでも秋雲の姐さんでもなくて?」
「えぇ。両者と面識があるのは貴方ですから。その上で両者の間を取り持って頂きたく。……貴方が『組合』から持ち帰った情報も兼ねて」
「あー。分かったよ。ハギトさんはともかく、他はどこまで話していいの?」
「清雅学園の方次第ですが、可能な限り全てお伝えして頂いて構いません」
「大きく出たね」
「協力者として迎え入れたいのが本音。そうでなくとも知る権利はあるでしょうから」
「そうだね。了解」
今日も騒がしくなりそうだ。
11:00 第127鎮守府 正門近辺
「へぇ、ここが鎮守府なんだ」
「赤レンガの建物とかがいかにも、って感じだよな」
「清雅学園の橘イツキ副生徒会長さんに茅野コウタ空手部部長さん、こっちでーす」
「えっと、あの子は?」
「やっほー江風ちゃーん!イツキ、お前が俺を放っといてオラクルにすっとんでいった時にフォローしてくれた子だよ」
「江風です。お二人共お元気そうで何よりです。今日は私が案内しますね」
清雅学園として来たのは生徒会副会長で次期会長ことダークファルス【若人(アプレンティス)】相手に活躍した橘イツキさん、部活連盟代表かつ付き添いという名目で来たその友人でりあの戦いでサポートに回っていた茅野コウタさんだ。
「いやごめんね江風ちゃん。イツキってば目の前に精一杯だったみたいで君のことちゃんと覚えてないみたいでさ」
「どっちも状況が状況でしたし仕方ないかなぁって思うので気にしないですよ」
彼の視点から見ればモブAもいいところだっただろう。
「【若人】とか鈴木アイカさんとか色々聞きたいことはあると思うんですけども。まずは表向きの用事からお願いしますね。終わる頃には引き合わせたい人がいるので、まとめて話してちょうど良くなると思うので」
「分かったよ」
「引き合わせたい人?」
「YMTコーポレーションの亜贄萩斗社長。YMTは知ってますよね?」
「あぁ、ESCAアプリの!」
「それこそここに来るまで案内アプリで使ったもんなYMTソフト」
「ですです。色々あって協力関係にあるんですよね。そこ含めて合流したら話すので、まずは各施設の案内とどこ重視するかとかの相談でお願いしますね」
「分かった」
「よろしくな!」
表向きの目的としては清雅学園の社会見学の下見である。学生、そして団体客という目線で鎮守府を見ていくとどうか。それに伴ってどうアピールしていくか。興行に当たって率直な見学者としての意見は常に欲しいのだ。
敵対人類の壊滅もあって新しく何を展示したい、というのも通りやすくなったのもあるので反映させやすくもなった点も大きい。
「へぇ、試しに武装持てるんだ」
「うおっ、結構重いな!いやでも軽いか?」
「通常武器の同じようなモンよりはだいぶ軽いですね」
家出してきた際に霞が発案していた装備体験をしたり。
「これが修復材って液体かぁ。温泉みたいなヤバい飲み物みたいな……」
「モノメイトみたいに飲めたりするのか?」
「被ったり浸かったりで飲まないですね。浸かる時は沸かして風呂みたいにしますね。非常時はバケツに汲んで水を頭から被るみたいな感じですね」
「江風ちゃん、触ったりしていいか?」
「触るもんでもないですけど……いいですよ。っても、一般人には特に効果はないですけど」
「効果があったら市販の傷薬とかがこれになってそうだもんなぁ……それと、子供も来るんだったら触らせないほうがいいと思うな。飲んじゃうかもしれないし」
「あー、確かにそれはよくないや」
入渠施設を案内したり。
「すごいいかにもってお硬い説明だな」
「活動理念とかは必要だよね」
「……読み込む気になれます?」
「「ならないかな」」
「ですよね」
やっぱりお上の指示があった活動理念とかは不評で。
「でも、そのままじゃなくてなんか大きい出来事とかの写真挟んでいけばまだ見られるかもしれない」
「あー、こんな事件があってこういうスタンスになったんですってやつか」
「大胆に加筆しちゃう感じですか」
「博物館とかで工夫されてる所はやってるよね。……この辺はリナ先輩の方が詳しいかも」
「和泉先輩を今誘うのは流石になぁ」
「高校3年生の12月とか受験シーズン大詰めですもんね」
糸口はそれでも見つけてもらえたり。
「シアタールームとかないのか?」
「それこそ伝説的な活躍!とかずっと流せたり出来るのが休憩所兼ねてるといいかも。これも博物館とかにあるやつだけど」
「いっそその辺凝ってるトコに見学しに行くべきかなコレ」
「おすすめの場所をリストアップして後日渡すよ」
「助かります」
増改築にかなり自由が効く鎮守府施設という関係上、大胆にあれこれ導入するのもアリだろう。
そんなこんなで一通り案内しては意見をもらってをしていたらお昼時になっていた。
12:30 職員用食堂
「ここが食堂かぁ」
「本来一般公開はしてないんですけど、今日は本来非公開日なので一般向け食堂の準備出来てないんですよね」
「流石に俺達のためだけに開けてもらうのも悪いもんな」
「あら、見学の学生さんね。何にします?お品書きは上の看板にありますよ」
「おー、色々あるな……!こういうとこって全員で同じ飯だと思ってたけど」
「好き嫌いにアレルギー、後はやる気に繋げること考えた上でそこまで職員がいないので学食みたいな感じですね」
「お勧めとかはあるのか?やっぱりカレー?」
「うーん、気付いたら卵料理ばっか食ってるけど何がいいかな……」
「ここでは竜田揚げがお勧めだよ。カレーも有名だけど竜田揚げも海軍発祥でね。ここの竜田揚げの美味しさは私が保証しよう」
「あ、ハギトさん」
食堂に既に居たらしいハギトさんが声をかけてきた。言っている通り彼も竜田揚げを注文していた。
「あのYMTの!?それじゃ俺も竜田揚げで!」
「俺もそれで」
「私も。……今日は瑞鳳いないですよね?」
「竜田揚げ3人前ね。瑞鳳ちゃんは羽黒ちゃんと遊びに行ってるはずよ」
「良かった。居たら卵焼き定食確定だっただろうから」
「瑞鳳君の卵焼きもイケると思うけどね?」
「頻度が高すぎるんですよ本当にもう」
そう言いながらハギトさんと同じテーブルに付き、出来上がるのを待つ。
「そういえば江風ちゃん、話し方変わった?」
「あー、そうですねぇ……」
「療養から帰って以来、何かぎこちなさがあるね」
「えっと、その。どういうキャラをすればいいか分からなくなってしまったってとこですね」
「「キャラ?」」
「普通、艦娘になるとその艦娘らしい喋り方とか性格とかがついてくるんですけど、私は異常適性(イレギュラー)でそれがないんですよね。私に限らず異常適性艦娘はこのキャラ付けがまず上手くくっつかない。
その上で、元の私ってコミュ障というか、地元で村八分みたいな扱い受けてたのでかなりぶっきらぼうな感じの喋り方で固定されちゃって。
流石にそれをこっちでも出すのはマズイけどそれじゃあどうしたらいいかなぁって良く分からなくなったんですよね。その江風意識したキャラ付けやってる、ってのも似合わないって突きつけられちゃってどうしたものかなと」
切欠はバミューダ海域決戦前の睦月さんの言葉だった。異常適性は異物である、と自覚はしていたが改めて突き付けられると思うところはある。
元の性格と大して変わらない海や加賀、合わせるのに手慣れている電、元の性格で振り切っている卯月の姐さんやてーとく。それらに則るにはどうもなぁ、というのが正直な所だった。
「難しいな……合わせると作ってる、合わせないと付き合い辛いか」
「口調の印象は大きいからなぁ。アイカもそうだったしコウタのロールプレイも最初はびっくりしたし」
「そういうことができる場だからやれてたからな」
「流石に公共の場にも出るようになる中で言葉の荒さはよろしくないかもね」
ハギトさんの言う通り、今後はメディア露出もやっていくことになる。秋雲の姐さんは担当を決めていきたい様子だが、それでも油断することは出来ない。
「というわけで料理長さん、何か意見はあるかい?」
「あら私?そうねぇ……どうせ違和感持つ子には持たれちゃうんだから、あまり気にしないでいいと思うのよね。
それに外向きのキャラじゃない素の江風ちゃん、ってべたべたする海風ちゃんに対する反応よね?あれぐらいなら目くじら立てられることもないと思うわねぇ」
「アレもだいぶ作ってる方なんですよねぇ」
「……ちなみに素だとどんな感じ?」
「えー、あー……まぁ」
「「……後は?」」
「それだけですね」
「流石にリアクション皆無過ぎる!」
「これは、うん……」
「あぁ、高校時代を思い出してしまったよ」
完全に素の私は素っ気ないどころか必要最低限未満の返事しかしないレベルだった。高校時代を、ということはハギトさんも学生時代ぼっちか何かだったのだろうか。
「キャラ作る必要性は理解してもらえたかと」
「確かに交流するには……」
「江風ちゃん、むしろ1年近くやってきた性格作り、無理してたのかしら?」
「いや、皆ぐいぐい来るからそこまでは。自分から行く時は少し気合い入れてましたけどね」
「俺は会ってまだ数回だけど、江風ちゃんのキャラ付けは親しみやすかったし無理がないならあれでいいと思うぜ。むしろ肩の力を少し抜くぐらいでも良さそうだ。イツキはどう思う?」
「継続は力なり、っていうし、1年近くやって来たんだよね?続けていればそのまま振る舞えるようになると思うよ。オフの時に気を抜けるようにしたほうがいいとも思うけどね」
「そこはそうやってきた私としても同意だね。だけどイツキ君、やけに確信を持って言うね?何か心当たりでもあるのかい?」
「リナ先輩がそうでしたからね」
「え、和泉先輩?」
性格も周囲への接し方も完璧な生徒会長、和泉リナ。彼女も昔は影が薄く誰にも見つけてもらえず、コミュニケーションが苦手だったらしく、現在も素が出るとボロが出るらしい。
「へぇ、なんか想像つかないけど……ああいや、SOROの時は確かにボロ出てたな……」
「あまり深堀りするのは止めてあげたまえ」
「だから、君も大丈夫じゃないかな。今までのキャラ付けがしんどかったんじゃなければだけど」
「そうですね。……なら、またこのスタンスで行くかなァ」
「やっぱり江風ちゃんはこの方が落ち着くわね」
正解はよくわからない。だけど、肯定してくれる人がいるのだからそれでいいのかもしれない。
「あぁそうだ。それで思い出したんだけどさ、コウタ」
「なんだ、イツキ」
「一発殴らせろって言ったよな」
「今更じゃってうごぁ!?」
「えーと?」
「リナ先輩を助けにダークファルスの所に向かう時に、コウタがPSO2の仲間達を集めてくれたんだけど……その口実がこのクエスト終わったら俺がリナ先輩に告白するって話だったんだよ」
「あー、言ってましたねそういえば」
通信でそんな話を聞いた記憶がある。
「あの後ゆーちゃんがリナ先輩に話を振っちゃって、ぐだぐだな空気の中で告白することになったんだ」
「それは災難だったね……」
ゆーちゃんとは生徒会仲間であの時に駆け付けた仲間の1人だったそうだ。
「竜田揚げ3人前お待ちどおさま。それで、告白は上手く行ったのかしら?」
「ありがとうございます。告白の方は……まあ、なんとか」
「卒業前にくっつけたんだから良かったじゃないか、な!頂きまーす!」
(コウタさんもう一回後で殴られそうだな)
「眩しいねぇ。私もそんな青春送ってみたかったなぁ」
「亜贄社長もまだまだ若いんだからこれからよ!」
そんなこんなで顔合わせと食事が済んだので本題に移ることにした。
「さて、と。皆さんにこうやって集まってもらったのには理由があります。皆さんはダークファルスという怪異や、エーテルないしフォトンという力に関わった経験がある。これが厄介事を運んでくるかもしれないという警鐘の為に」
「警鐘?」
「でも、ダークファルスはもう倒したよね?それにアイカはどうなったんだ?」
「【若人】は滅びました。鈴木アイカも無事で、今はその時に発生した騒動の火消しに駆り出されているらしいです。
あの人情報部って部署の所属なので、そういう任務で忙しいらしいですね」
「そっかぁ……」
「また会いたいな、鈴木さん」
「地球絡みの任務でも発生したら優先的に回されると思いますよ」
「それで?警鐘の中身はなんなんだい?」
「はい。これは私が療養時に聞かされた話なンですけどーー」
ーー改めて、江風ちゃん。君達127は、特に君は岐路に立っているんだ。怪異のような厄介事により関わるかしっかり身を引くかのどちらかにね。
ーー『物語』は2種類の『役者』を求めるものさ。主人公と関係者。そしてそれに相応しい人材であればより求められる。主人公とは、物語を動かす者。決定的な何かを選択する者だ。そして関係者は主人公に影響して主人公に影響される者だ。
ーーじゃあ相応しいとは何か?怪異絡みなら怪異を感じられる素養、立ち向かえる素養、そしてそういう物語の出演経験者さ。宇宙はダークファルスに地球はバミューダといった大きな超常存在に関わってきた君達は物語の出演経験者として扱うに十分だ。エーテルを扱う異能というのもそういう要素と言える。
ーー勿論、ささやかながら関係した人達も該当するよ。ダークファルス討伐に関わった高校生君やその仲間達、エーテルの扱い方を教えてくれた社長さん。君達よりマシとはいえ、彼らも舞台に再び上がるには十分な人材だよ。
ーーそれならどうすべきか?道は2つに1つだ。また舞台に上がってもいいように準備をしておくか、一切舞台に上がらないように徹底的にそういうモノから遠ざかっておくかだ。中途半端に対策も準備もしないと半端に巻き込まれて犠牲者なんて役が回されてしまうかもしれない。警戒しておくようにね。
「ーーってのが、『組合』の濁流さんに言われた警鐘。この話が与太じゃなければ新しい何かのトンデモ事件に皆さんが巻き込まれる可能性は大いにあるってことです」
「ダーカーとは違うまた別のなにか……」
「つってもよ、アバターで参加した俺やフォトンが使えなくなったとかいうイツキはどうしたらいいんだ?」
「まずイツキさんですけど……ちょっと失礼しますよ」
「えっ」
立花イツキという個体に流れるフォトンーー分析の結果、正しくはエーテルらしいがーーそれを感じるために手を触れる。
「……」
「えーっと?」
「うん、ある」
「あるって?」
「イツキさん、貴方は完全に力を失ったわけじゃない。行使に大きく支障をきたすレベルで消耗しているだけ。……例えるなら大怪我してるけど治らなくはない、そして今は体が傷を治している最中のような状態です」
「それじゃあ、またオラクルに行けるってこと?」
「それはちょっと分からないです。本来、その気になればアークスがゲートを繋げばフォトン能力なんてなくても向こうに行けるはずなんです。おそらく、その状態で関わり続けると何があるか分からないから意図的にイツキさんを出禁にしているンだと思います」
「そんな……」
「濁流さんとやらの話を信じるなら妥当な判断だね」
「そういうことですね。それも含めて、考えてもらいたいンです。力を研ぎ澄ませてまた関われるようにするのか、もう関わらないように降りるか」
「……俺はアイカを友だちだと思ってる。もしアイカがまた大変な戦いに行くなら支えたい。これは多分、リナ先輩も」
「俺もあの時みたいに手助けできるなら喜んでだ」
「私もダークファルスと戦ったりはしてないけど、降りるつもりはないよ。自衛も出来るからね」
「まあ予想はしてました」
これで引くならば呼び出す必要もないのだ。
「関わるのなら、いや関わらなくてもアンテナを広く張ってほしいんです。なにか起きた時にすぐに対応するか助けを呼ぶか逃げるか、咄嗟に判断して動けるかだけでかなり違うから」
「まるで災害に備えるそれだね」
「理屈としては同じですからね。言ってしまえば災害の発生しやすい地域に住んでいるようなもの。関わらないようにするなら別の地域に引っ越すようなもの。単純でしょう?」
「確かにな」
「その上で他の怪異って何か、巻き込まれるかもしれない事態って何か、って話なンですけど。最近頻発しているのは無人車暴走やら人気のない空間に紛れ込んでしまうとか。そして……」
「そして?」
「昔に退場したり封印されたりした怪異が何かと復活傾向にある。それに、それらに近しいものを含めた新しい怪異も存在します。これはその1つの事例」
そうして私は濁流さんに連れ回されて目撃した1つの怪異の話を始めた。