少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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江風VS八尺様VS怪異絶対殺すマン前編です。


59話 江風、八尺様と対峙ス

 2週間前 22:00 『組合』宗家本棟

 

 

 「さてご飯も済んだことだし、授業といこうか江風ちゃん」

 

 療養として組合で過ごしていた私に濁流さんが話しかけて来た。

 

 「授業ですか?次は何を……」

 「これまで通り、君の異能を扱ったり周囲の反応を感じる基礎訓練は続けていくけどね。それはそれとして1つ実戦経験を積もう」

 「実戦……何か事件でも?」

 「うん。『組合』の支部から連絡でね。付近の集落でヤバい怪異が復活、応援求むってね。外着に着替えて着いてきて?」

 「了解です」

 

 体のリハビリ自体は終わっているので動くのにはさして支障はない。戦闘挙動はまだ怪しいが。

 そうして着いてきた先にあったのは1つの魔法陣のようなものだった。

 

 「これね、転移陣。ワープゲートとかテレポーターとか言った方がイメージしやすいかな?これで支部まで転移するよ」

 「あー、馬鹿正直に移動しても間に合わないってことですか」

 「そ。支部の人に車を用意させてるから、そこからは車で移動だ。奥地の山村ってやつが目的地でね。到着は明日の早朝かな。車の中で寝ておいてね」

 「了解です。……鎮守府にもあれば便利そうだなぁ」

 「そうねぇ。この術式って結構難しいから下準備が必要でねぇ。ささっとやろうとすると明後日のとこに跳ぶなら可愛い方で、地面の中とか有り得ちゃうから難しいんだよね」

 「それは……」

 「やるなら超スーパー演算装置でもついてなきゃ任意のとこにパパっと跳んで、とはいかないの。それじゃ、行くよ」

 

 そうして転移し、支部の人に案内されて車に乗り込んだ。

 

 

 翌日 05:00 車内

 

 

 「江風ちゃん起きな?」

 「うん……おはようございます。着いたんですか?」

 「現場には後30分ぐらい。けど結界を超える、つまり怪異のいる領域に入るよ。こういう感覚をちゃんと覚えておきな?」

 「はい。……!」

 「はっ、想定以上だねぇ!江風ちゃん調子は……変わらなさそうだね?」

 「『組合』宗家のがすごいじゃないですか」

 「それもそうか!」

 「それに……」

 「地元に似ているかい?」

 「!」

 「海に面した地方都市東条。あそこにも怪異のでかいのがいるんだよね」

 「……なんか納得したような」

 「その話は後だ。ここの怪異について説明するよ」

 

 今回の怪異は「八尺様」というものだ。白いワンピースに赤い帽子を着用した女性だがその名の通り八尺、つまり2m半近くの体躯を持った存在だ。

 ぽぽぽ、と機械的で男性のような声で笑う他、声真似も得意のようで誰かの真似をして対象を拐おうとするそうだ。

 ターゲットにされるのは成人前の若者、特に子供で対策をしなければ数日以内にとり殺されてしまうそうだ。本来は地蔵に封印されていたが、いつの間にか壊れていて封印が解かれたらしい。

 今回のターゲットはこの山村出身で都会に引っ越していた大学生、19歳。幼い頃に八尺様と遭遇し、即座に都会に転居させられていたがこの度帰省し、再び遭遇してしまったという。

 対策としては結界を張った部屋に閉じこもって神仏を唱え続けること。要するにやり過ごす他ないということだ。

 この際に関係者の声で開けてくれ、と言われても自分から開けてはならない。何故なら八尺様の声真似だから。八尺様が諦めた後に扉が開けられるまでは耐える必要がある。現在はこの段階らしい。

 

 「ちなみに結界は私が開発した最新式だから壊されてゲームオーバー、とはならないと思うよ」

 「なんでもやってますね……それと」

 「うん?」

 「なんで八尺様は人をとり殺すんですか?」

 「さてねぇ。妖怪、怪異のがいいか。まあ色々いてね。人の血肉なり命なりが必須栄養素な子もいれば本能として人の天敵である子もいる。あるいは昔、人にやりこめられたことの仕返しだったり、人への叛意が形になって生まれたからって子もいる。

 八尺様はちょっとどのタイプかは情報が足りないし、個体よりけりなのはいろんな深海棲艦と接してきた貴方になら分かるよね?」

 「そういうことですか。なら、実際に見て確かめるしかないか」

 「一応、君も未成年の子供。八尺様のターゲット候補足り得る。迂闊に接触はしないようにね」

 「はい」

 「さて、見えてきた。あの建物だね?」

 「そうです濁流様!ああ、庭に!庭に!」

 「様は止めてほしいんだけどなぁ。それと落ち着きなよ、それこそ私がいるんだから。江風ちゃん、まだ暗いけど見える?」

 「あぁ、あれかぁ」

 

 その体躯を活かして庭から建物の二階部の窓をガンガンと叩く白い服の女性が居た。暗いのと深く被った赤い帽子で目元は良く見えない。

 

 「アケテ!アケテ!アケテ!!」

 「あれで壊れないんだ?それに……」

 「あの手の怪異はルールに縛られるからね。こういう時にこじ開けることは出来ないんだよね。だから窓を割ることも出来ないのさ。ちょっと話をつけてくるよ」

 

 そう言って八尺様の方に歩いていく濁流さんを見送りながら1つの疑問が浮かんだ。

 

 「……えっと、支部の人でしたよね」

 「え、えぇ」

 「この村ってあそこに閉じ籠もっている人以外に子供はいないんですか?」

 「いえ、そこまでの寒村じゃないからいますよ」

 「閉じ籠もっている人に特別怪異が引き寄せられるとかの特異体質があるんですか?」

 「そういうのもないみたいです」

 「地蔵に封印されてたって話ですが、壊したのはその人ですか?」

 「いえ、違うそうです。彼はただ幼い頃に八尺様と遭遇しただけですね」

 「……だとしたら何故あそこまで固執しているんだろう?」

 

 半狂乱になって窓を必死に叩いている彼女からは、殺気のようなものは感じられなかった。私の勘が違和感を訴える。

 

 「やあ八尺様。私の考案した結界はどうだい?痛いだろう?なにせ攻撃されたらそれなりに反動が来る上に力を吸収する仕組みだからね。そんなのを一晩中叩いていたんだからねぇ?」

 「オマ、エガ……!」

 

 八尺様の手は真っ赤に腫れ上がっていて、相当痛手を受けていることが伺える。息も絶え絶えで、相当消耗しているようだ。

 

 「あぁ、私は考案しただけで設置も維持も別の人がやってるから私を殺しても意味ないからね?」

 「コノ、ッグ……!」

 

 悔しそうに呻く八尺様。そこに一筋の光が刺さる。朝だ。

 

 「アグ、ウウ……!」

 「君のような手合いは朝まで粘られたら撤退するしかないからね。残念だったね?」

 「イヤ……嫌!私は!」

 「……お前さんさ」

 「ッ!?」

 「ちょっと江風ちゃん!?」

 

 朝日に照らされた彼女の瞳に溜まった涙は痛みでも朝日の眩しさでもない。その正体に思い当たって、変身を解いた上で私は話しかけた。

 

 「やっぱり『子供だから』ターゲットにしたわけじゃないみたいだね。ここに居る人をさ」

 「ナン……」

 「お前さん、ここに居る人を殺したいからここにいるのか?」

 「チガウ!チガウチガウチガウ!!」

 「だろうね。ただ、欲しいだけだろう?惚れた相手をさ」

 「!」

 「へぇ。突っ込むねぇ」

 

 驚いた表情を浮かべる八尺様と面白そうな顔を浮かべる濁流さん。

 

 「私も未成年だよ?でも私になんか興味を示さない。こうやって話しかけているのにも関わらず。それだけあの人に夢中なんだろう?でも、分かってもいるんだろう。このままだとここからいなくなってしまう。もう会えないって」

 「……」

 

 ギリ、と怒りの表情を見せる。自分と彼を引き裂くこの現実への怒りを。

 

 「何にしてもアプローチが悪いね。そんな脅かすような接し方で誰が靡くかよ。人を襲うやり方と一緒のことしてんじゃねぇよアホかよ」

 「ナ……」

 「さっさと今は引きなよ。やれることもないんだろう?それともここで暴れて私達に討伐されるかよ?」

 

 具現武装で出した双小剣(ツインダガー)を構えて威圧する。

 

 「……!」

 「あら、撤退していった」

 「っふぅ。なんつー健脚だよアレ……」

 

 アスリートも真っ青な速度で走り去って行く。海上で機関最大にした艦娘よりも速いのではないか。

 

 「あれねぇ、車に並走して窓ガラスガンガン出来るのよね」

 「……うわぁ」

 「ま、私達も一旦小休止よ。ターゲットのお兄さんがこの地域から離脱する際の護衛をしないといけないから」

 

 そうして付近の家屋ーーターゲットの青年の祖父の家だそうだーーに関係者一同で集まり、朝食を摂った。

 

 「この度はありがとうございます。おかげで孫は無事でした」

 「まだ着いただけですよ。君も災難だったね?一晩中良く耐えたよ」

 「あ、ありがとう、ございます……」

 

 ターゲットの青年は憔悴し、食も進んでいない様子だった。訓練を受けているわけでもないし、無理もないだろう。

 

 「ゼリー飲料持ってきたのでこっちでもどうです?」

 「あぁ、ありがとう。君も爺ちゃんが呼んだ退魔師の?」

 「関係者ですかね。見習いの。本業は艦娘です。……あの怪異、八尺様について質問していいですか?」

 「う、うん」

 「幼い頃でしたっけ、初遭遇。何か交流とかしました?」

 「してないよ!塀の向こうから女の人が見てる、って気付いて爺ちゃんに話した以外何も!」

 「……こちらにまた来てからは?」

 「それも向こうがまた気付いてこっちに向かってきた以外は……」

 「マジかアイツ。はぁ……」

 

 思わず頭を抱えてしまう。青年が嘘をついている様子もない。つまり、八尺様の一目惚れからの暴走である。

 

 「えーとですね、朝方追っ払うついでに何で貴方を狙ってるか問い質したんですよ。そしたらなんか惚れていたそうで」

 「……え?」

 「しばき倒して更生させる前提で、ああいう奴ってアリです?」

 「ない!ないよ!そもそも俺彼女いるから!」

 「了解です。キッチリ身も心も折って追わせないので安心してください。……いや一応この村の領域出るまでは油断しないで欲しいですけど」

 「分かったよ……」

 「ああ、しかし心強い。凄腕の退魔師様に艦娘様も2人も来てくれるとは」

 「2人?」

 

 艦娘は私しか居ないはずだが。これには濁流さんも困惑している。

 

 「いやいやお爺さん私が呼んだ艦娘ちゃんはこの子だけよ?」

 「うむ?しかしあの方も艦娘だと……名前はなんと言ったか」

 「お爺さん、特徴は?髪の色とかそういうの」

 「黒い長い髪を後ろでポニーテールにしておって、凛とした方でこう、使命感に燃えていらした。それと刀を持っていてこれで斬り捨ててくれると言ってくださった……」

 「その子の名前、「矢矧」だったりしない?」

 「そうだ、そういう名前だった。やはりお仲間では?」

 「同業他社って奴ね。はぁー、なんでこんな遠くまで足伸ばすのよ101からどれだけ離れてると思ってんのよ」

 「濁流さん、思い当たる節が?」

 「江風ちゃんにはこう言えば判るよね。「アースガイド所属艦娘」だって」

 「!」

 

 アースガイド。具現武装を扱う人達が主軸の組織で人間至上主義の傾向があるという組織。横須賀から関わるなと釘を打たれた相手である。

 

 「単騎で八尺様討伐とはよくやるよね」

 「……出来るぐらいに強いんですか?」

 「うん。実力に関しては折り紙付きだよ。目的が一致すればこの上ない味方になるし衝突するなら腹くくった方がいいよ」

 

 ここまで言われるとは、本当に強いのだろう。

 

 「当然ながら、矢矧ちゃんの目的は八尺様の討伐。その上で護衛対象を犠牲にするような醜態は晒さない子だから、お兄さん達は安心していいわよ」

 「そこで私と方針が違えば……」

 「リハビリ中の江風ちゃんが撃破するのは無理と言っていいだろうね」

 「……」

 「それを踏まえて、どうするつもりだい?」

 「情報がもっと欲しいです。八尺様が封印された経緯とか、伝説とか持ってる情報ありったけ貰えますか?それでやれることが変わるはず」

 「ふんふん、良い目だぁ」

 

 濁流さんは嬉しそうだ。その中でお爺さんや同席していた支部の人たちから不確かなものを含めてポツポツと情報が出る。

 

 「纏めると、封印箇所は昔の村外れに位置する地蔵で、その裏はずっと昔に朽ち果てた座敷牢だった。その座敷牢を最後に使ったのは村娘がやんごとなき身分の少年を手籠めにしようと攫おうとした所を捕えたから。そしてその女はそのまま獄死。その怨霊を封じるために地蔵を設置した、と。

 村娘とやらがクソでかい体躯だったって話はないんですね?」

 「それもあれば語り継がれているはずですな」

 「ただ、醜女だったって話がある。当時は身長が低いほうが美人という扱いだったから、八尺なんて大きさでなくても男性と同等かそれ以上の背丈があった可能性はあるね」

 「濁流さん、そういうのが変化して怪異になるケースってあります?」

 「幽霊系の怪異は大体そのパターンだね。妖怪だと有名どころは京都の清姫とか橋姫の伝説なんてのもそういったものだ。

 それを踏まえれば、その女の怨霊が色々時を経て混ざって八尺様に変化した、なんて話もあり得なくはないね」

 「ありがとうございます。それも確かめて……だなぁ」

 「どうするんだい?」

 「アレは八尺様の本能として人をとり殺すことに執着はしていないようでした。まるで人を襲う本能が薄い深海棲艦みたいに。

 だから、まず第一にターゲットのお兄さんを領域から離脱させる。その上で話に応じるようなら説得して矯正でも出来るかなって。無理そうならちゃんと殺しますけど」

 「殺さないのは殺すより難しい。それは分かっているね?」

 「はい。駄目そうなら切り替えます」

 「ならよし」

 

 流れがまとまった所に、ターゲットの青年が話しかけて来た。

 

 「あの、本当に……アレをなんとかするんですか?」

 「可能性があるのにぶっ殺して終わる、ってのは目覚めが悪いんですよね。なんだかんだで味方になったから仲良くしてる深海棲艦もウチの鎮守府に居ますから、その否定みたいになるのも嫌なんです」

 「深海棲艦とも……!?」

 「広告足りてないんだなぁ。気が向いたら127鎮守府って検索してみてくださいよ」

 「あ、あぁ……」

 

 そうして、青年の領域脱出に向けて動き始めた。

 

 

 同時刻 村外れ

 

 

 八尺様に1人の艦娘が対峙していた。そして手にした刀を一閃。

 

 「ッァアアア!!」

 「やっぱり、片腕を切り落とした程度じゃ止まらないか。けど、これで終わりと思わないことね!」

 「ナンデ、何で、私は……!」

 「怪異に容赦なんてする気はないのよ」

 「ウゥ……」

 「さあ、これでーー」

 「ッ!?ダメ、イカナイデ!!」

 「え?どこに……まさかターゲットの子を狙いに!?やらせないわよ!」

 

 道端に停めていたバイクに軽やかに跨った艦娘は八尺様を追いかけていった。

 

 

十分後 村外れの車道

 

 

 「今のところ異常なしね。……車にも札の類をベタベタしておいたし、それへの異常もないからこのままいけば無事脱出ね」

 「そうですね……」

 

 護符を走行の邪魔にならない程度にビッシリと貼り付けた車で青年を護送し、並走する形で乗ってきた車に私達は乗っている。スライドドア形式でいざという時には飛び出せるようにしている。

 

 「それで丸く収まらないのがお約束ってわけでね。……来たわよ」

 「……ぽ、ぽ、ぽ、ぽぽぽぽぽぽぼぼぼぼぼ!!」

 

 後方から猛スピードで追い上げてくる八尺様。そのままこちらには脇目を振らずに青年の乗る車に並走し、窓ガラスを叩き始めた。

 

 「ぼぼぼ、アケテ!開けて、このままなんて嫌!アケテェ!!一緒に!一緒にイキマショウ!!」

 「絶対に窓開けるんじゃないわよ!村の境界を抜けたらクリアだから!くれぐれも安全運転でね!

 それはそれとして腕をすぱんと斬られてるわね。この切り口と残ってる呪力……矢矧ちゃんね。おっと、噂をすれば」

 

 更に後方からバイクが追ってくる。

 

 「痛々しい表情(カオ)しやがって。変身、江風。……もうちょっと前出せます!?飛び蹴りします!」

 「りょ、了解!」

 「私も続くわ。境界越えた後も最後まで護衛してあげて!江風ちゃん、貴方の選択を見せてもらうわよ!」

 「っし、いい加減止まれ!『シンフォニックドライブ』!」

 「ぼぁっ!?」

 

 前面から蹴りを入れ、転倒させる。私自身は偏向バーニアで問題はない。そのまま脇の林に転がっていった八尺様を追って車道から離れる。

 

 「変身解除。よう、さっきぶりだな八尺様よぉ?」

 「オマエ、ハ……ッ」

 「大丈夫か?腕をやられちまってるけど」

 「いいから、邪魔を、シナイデ……!」

 「いいか?お前が追っかけてた兄さんの言葉を伝える。お前を恋愛対象として見れないし見たことは一度もない、だ。一方的なお前の一目惚れが叶わなかった、それだけだ」

 「そんな、私は、私には……!」

 「お前さん、元はこの辺りの住民で惚れたガキを連れ去ろうとして檻にぶち込まれて死んだって話を聞いたよ。その時と同じーー」

 「あの子とは!想い合っていた!!籠の中の鳥だったあの子を私が救い出そうとしてッ」

 「その子の証言が残ってないからあちらがどう思っていたかは知らないし興味もない。

 だけど、今回はそうじゃない。あの兄さんと言葉を交わしたこともなかったんだろう?」

 「それでも、私は、やっと、外に出られて……あの子がそっくりだった、だから……」

 「そういうことか。かつての想い人に似てたんだねぇ。けど、あの兄さんは昔のお前さんの想い人じゃない。それは分かるな?」

 「……」

 「お前の選択肢は2つだ。1つは素直に死ぬ。その情念、私が散らしてやる」

 「ッ!嫌!やっと出られたのに、また暗い底は嫌ァ!」

 「もう1つ。お前の思い込みがちな性格修正してやるから私と一緒にこの村を出て新しい恋を探してまともにぶつかってまともな人生目指せ。付き合ってやるから」

 「え……」

 「まずそのボッサボサの野暮ったい髪!おどろおどろしいんだよ整えろ!そして顔!ひっでぇ目の隈にボロッボロの肌!ちゃんと食って寝て化粧しろ!現代技術舐めるなよ、お前ぐらい背が高いだけの美人に仕立て上げられるんだからな!」

 「でも、私、身体が大きくて、外に出られたらまた大きく……」

 「時代が変わったんだよ背がデカいぐらいで逃げるような男なんざ放っておけ!それ以外でもいくらでも好いてくれる奴はいるっての!」

 「わた、しは」

 「だけどな!お前さんの自分が惚れたから相手も惚れてくれてるはずだって舐め腐った根性だけは通用しねぇ!それを絶対変えられないって言うならここまでだ!どうする!!」

 「い、生きたい、変わりたい、幸せになりたい……」

 「ならーー」

 「なんで怪異と話をしているの?貴方」

 「ひ、ァ……」

 「ま、追いつくか」

 

 説得もあと少しのところで横槍が入る。聞いていた特徴にライダージャケットを格好良く着こなした女性。

 

 「矢矧さんだね。アースガイド艦娘って言う」

 「そういう貴方は……じゃない、そいつから離れなさい!危険なのよ!」

 「知ってますよっと。変身。こちら第127鎮守府所属の江風。この怪異の案件は私と『組合』が引き受けた案件です。引いちゃあくれませんかね」

 「127……あのバミューダをやった『迷い猫(ストレイ・キャット)』!?どうしてここに……」

 「なんでその名前広がってんだ……。そのバミューダの件で療養ついでに修行してての遠征ですよ。そちらこそ、遠路はるばるよくこんなとこまで来ましたね?」

 「危険な怪異が出たって聞いたからね。遠いからなんて理由で見捨てる理由にはならないもの。だからここでソレは倒さなくちゃいけないの」

 「血気盛んなことで。対話したら話が通じそうだったから討伐しないでいいってのがこちらの判断です。問答無用に殺し尽くすのは趣味じゃない」

 「危険性が判らないの!?」

 「このヒトの危険性はその体躯と呪力によるフィジカル、そして惚れたら一直線の思い込みに起因したことが判明しました。

 他の八尺様と違ってヒトをとり殺すために存在しているんじゃない。ただ存在が八尺様に寄っただけの元人間です。だから手を引いてくれませんかね」

 「聞けないわね。そんな形に変異した時点で人間への脅威なの。慣れ合えるなんて幻想、抱くだけ無駄なのよ」

 「それ、人への敵意を持たない深海棲艦と共存している鎮守府のヒトに通じるとでも?」

 「今すぐあの深海棲艦も排除すべきよ。深海棲艦も敵なのだから」

 

 ああ、平行線だ。価値観が根本的に違う。どういった経緯でそういった思考になったかは知らないが、『コイツは私の仲間を敵と言い切った』のだ。

 

 「貴方はちゃんと知っているの?深海棲艦や怪異がどれだけの人を泣かせてきたか、苦しめてきたか。存在するだけでどれほど脅威なのかを!」

 「奇遇だねぇ、アンタは知らないだろう。それでもイレギュラーな存在はいて、どれだけ苦しんで悩んでヒトとの共存を選んできたか。そしてそれを許されずに心交わしあった同士で殺し合うことになったヒト達の辛さを!暁の姐さん達の想いを!」

 「それは」

 「思い違いだなんて絶対に言わせない。それでも言うなら、ここで殺す。アンタは明確な敵だ」

 「……!」

 「濁流さんはどういうスタンスで?」

 「口を挟む暇もないったらこのことね!」

 「『組合』の濁流……!怪異に身を売った人間!」

 「ひっどい偏った言い分だなぁ!敵味方の判定が君達と違うだけだよ〜!さっすが苛烈な正義こと101の『紫電一閃』、矢矧ちゃんだ。

 それと、言ったでしょ江風ちゃん、君を支持するってね。良くも悪くも君達の価値観は私や横須賀の持つソレと近しいものだから」

 「黎明期の英雄でも引く気はないわ!」

 「江風ちゃん、矢矧ちゃんの相手よろしく!前提としてあのお兄さんの境界離脱までは現状維持がある。離脱の後ウチの陣地にこの子含めて皆で転移するからその準備ができるまで時間を稼いで!」

 「ハッ、りょーかい。具現武装!」

 

 双小剣を構える。リハビリ中だとか言い訳はしない。言葉で平行線なら武で語るだけだ。

 

 「同じ艦娘でも容赦はしないわよ。具現武装!」

 

 矢矧はシンプルな刀を出した。密の高さと佇まいからそれがいかに強力かが察せられる。

 

 「江風ちゃん気をつけて!二つ名の『紫電一閃』の通りーー」

 「一撃で決めるわ。『紫電一閃』!」

 「ッ!」

 

 勘が、本能が叫ぶ。避けられない、かつ防ぐことは出来ないと。感覚が鋭敏になる。時間が遅く感じる。そしてどうするべきなのかが分かった。

 

 「ッ、ァァアア!!」

 「いなした……!?」

 「ふふふ、あっははは!!」

 

 正直に打ち合っては押し負ける。回避は間に合わない。ならば相手の刀に刃を沿わせていなすしかない。

 成功はしたが、受けた左手が痺れて使い物にならなくなった。武器も取り落としてしまった。これはおそらく威力ではなくーー

 

 「ッチ、紫電って電気属性付与ってことか!」

 「それでも動けるなんて!?」

 「左が死んでも右があるんだよ!」

 「ッ!」

 

 右手と両足でラッシュをかけていく。相手が大技のために動きが鈍くなっている今、制圧するように動くべきだ。

 

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