少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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62話 アイドルと狂犬

 12月某日 小規模コンサート会場

 

 

 「皆ー!最後まで応援ありがとー!これからはそれぞれ新しい道を行くけど、皆のこと絶対忘れないからね〜!」

 「「うおおお!!」」

 

 リーダーがユニットとして最後の挨拶をする。私、相馬 灯莉が地下アイドルユニットとしてデビューして2年間。私達なりに頑張ってきたけど芽は伸びず、今日のライブで解散となった。

 

 

 数時間後 コンサート会場前

 

 

 「……2年間お世話になりました!」

 

 そう言って私はコンサート会場にお辞儀をする。ずっとここが私の活動の場(ステージ)だったから。

 

 「あっともちゃんだ!」

 「進路はどうするの?」

 「あ、あはは、実は決まってなくて……」

 「えっ、他のメンバーはSNSで次何やるって言ってるのに?」

 「やー、不甲斐ないですけどそうなんです」

 

 私を推してくれていたファンの2人組に話しかけられたが、その通りでユニットの中で唯一今後が決まっていなかった。リーダーは別の事務所、それも大手に引き抜かれ別ユニットとしてやっていくそうだ。他にもグラビア、配信者と様々だ。

 

 「田舎に帰っちゃうとか……?」

 「そこも含めてなーんにも。まずは今日の最後のライブに全身全霊でやろう!って思ってたから……」

 「さっすがはともちゃん真っ直ぐだね!」

 

 ポジティブに言ってもらえるならそうだが、メンバー内では『キリギリス』みたいだと言われてしまっていた。童話に出てくる冬が近くなってもなんの蓄えもせず気楽なお馬鹿さん。先を考えない道楽者、と。

 表には出さないようにしているが、私達のユニットは仲が悪かった。このユニットを踏み台にして次の栄光へのステップにする、とお互いにライバル視していたからだ。……ただただ自分の目指すアイドル像へ手を伸ばしていただけの私以外は。

 

 「ともちゃんにも他所からスカウト来ると思ったんだけどなぁ」

 「というか今の事務所って斡旋しないの?」

 「いやあ、合わなくてあはは」

 

 事実、あった。だけど枕営業の前提であるとか、後ろ暗いことをする前提での話だった。ただ若くて好きに使える女の子が欲しいだけ。この業界はそういうものだと言われても首を縦に振りたくはなかった。

 

 「いい話を聞いた。相馬 灯莉さん、ウチの会社が立ち上げる事務所に入ってみないかい?」

 「え?」

 「誰だこのおっさん」

 「突然失礼。僕はこういうものでね」

 

 そう言って突然現れた男性が渡してきた名刺には、『太陽テレビ代表取締役 木暮 御影』と書かれていた。

 

 「太陽テレビ……ってどこだ?」

 「そう思われるのもごもっともな小さなテレビ局さ」

 「あ、思い出した!最近電波ジャックした深海棲艦とドンパチしてた鎮守府を徹底して味方してたとこだ!」

 「!」

 

 南西海域の主、と名乗る深海棲艦がテレビやネットをジャックして宣戦布告した相手、127鎮守府。

 多くのメディアが詳細を問い合わせてもまともに反応が返ってこないために、以前のテロリスト襲撃事件のことも蒸し返して好き放題に批評という名の誹謗中傷をしていた最中。

 1つのテレビ局が「彼らは対策を講じているはずだ。今は騒がず静観すべきだ」と主張していた。結果深海棲艦による生中継中に文字通り殴り込みをかけた127によって深海棲艦は討伐された。そのテレビ局こそが太陽テレビだった。

 

 「小さなテレビ局だと雇えるスタッフも少なければ専属のタレントも全然居なくてね。その上でウチは127さんみたいな組織の味方であり続ける、他所のメディアみたいにウケ狙いで噛み付かないってスタンスだからついてこれる人がいないんだ。

 ……そこで相馬 灯莉さん。君はアイドルの卵としてSNSのアカウントを立ち上げた時に言っていた目標、まだ持ち続けているかい?」

 「ともちゃんの最初の目標?」

 「プロフに固定とかなかったよな?」

 「『横須賀の那珂ちゃんみたいに皆に光を届けるアイドルを目指す』これは今も変わっていません!」

 

 横須賀鎮守府の精鋭の艦娘であり同時にアイドルでもある那珂ちゃん。かつて深海棲艦が出現を始めた時期に多くの避難民の身も心も救った伝説のライブを敢行した、私がアイドルに憧れた根本である光。

 だからこそそれから遠ざかるような真似は苦難に見舞われようともしたくなかったのだ。

 

 「僕ら太陽テレビの社員も那珂ちゃんのような光にやられたクチでね。そういう光を拾い上げて発信するためのメディアであるためにやっている頑固な集まりなんだ。

 そんな一員に、マルチタレントとして加わってみないかい?」

 「マルチタレント……?」

 「基本的にウチの番組の1タレントとして活動してもらう。その上でこれから立ち上げるウチのタレント事務所の所属としてアイドル活動もやってもらいたい。まだ何もかも手探りだし立ち上げられてもいないんだけどね。君にはその第一号として参加してもらいたい」

 「アイドルを続けてもいいんですか!?」

 「アイドルだけ、といえるほど一本集中には出来ないけどね」

 「私はーー」

 

 返答なんて、もう決まっていた。

 

 

 12月末 11:00 第127鎮守府

 

 

 「江風ー!今暇っしょ?」

 「秋雲の姐さん?まあ、基礎訓練を今終わらせたトコですけど」

 「13時に来客があるから応接室まで連れてきて、そんで同席もよろしく!」

 「私の役割そういうとこに落ち着いてきてません?」

 

 もっと適任がいると思うのだが。

 

 「というか、誰が来るンですか」

 「太陽テレビって覚えてる?あそこだよ」

 「えーっと……あー、前に127を取材してたとこですか」

 「更にはバミューダの決戦の時も冷静にウチの味方をし続けてくれた稀有なメディアさんだよ。そんな彼らが企画を持ち込みたい、って話なんだ」

 「なる程……いや私関係なくないですか」

 「今この鎮守府で一番顔が売れてるの君だよ?」

 「デジタルタトゥーを顔が売れるって表現するのやめてもらっていいですか」

 

 第ニ技研のあとの実名報道にバミューダでの決戦時の指揮者(コマンダー)の生中継用カメラが私の方に転がってきての私の戦闘中継。

 両者共に艦娘というより艦娘という職業の立花 蒼が艦娘とは別の戦いをしているというべき状態だった。

 

 「その払拭も兼ねて、興行方面でもちゃんと参加してほしいんだよ。いずれ増員されたら興行担当部門立ち上げるつもりなんだけどね」

 「今は色々と兼用ですもんね。けど、宛はあるンですか?」

 「うーちゃんに顔の広さを活用してあちこちに声をかけてもらってるよ。それとは別にとりあえず1人は確保したから向こうの後片付けしたら合流してくれる予定だよ」

 「へぇ。名前は?」

 「駆逐艦神風。【潜水艦狩り(サブマリンハンター)】なんて二つ名持ちの対潜特化の歴戦だね。

 江風が療養中の話なんだけどさ。電が海狼(シーウルブズ)と黒毛和牛パーティーした時に、その中のホークビルって潜水艦の子と仲良くなったんだけど、その子とライバルで親友なんだってさ。それでホークビルから127が面白そうだ、って伝え聞いた神風が転属願い出して来たってワケよ」

 「修羅場求めてって奴ですか」

 「そうみたいだねぇ。うーちゃんもそういう闘争心の強い子を軸に声かけてるみたい。

 神風に話を戻すと、対潜特化の船団護衛専門と言える艦娘だ。主砲も魚雷も外して爆雷とかガン積みにして、上手いこと操って水上艦ですらぶっ飛ばしちゃう曲芸師だって話だよ」

 「異常適性(イレギュラー)か何かで?」

 「通常適性だからビックリなんだよね。まあ、来れて来月かな。他には新人の子を訓練校からウチにも回せってせっついてる。流石にこんだけ騒動になって注目度が増してるのに増員なんてしません、なんて言えないだろうからね」

 「そのあたり加味すると来年度辺りから本格始動、ってコトっスね」

 「だねぇ。その間の繋ぎとしては君にいくらか頑張って貰おうって話だよ」

 「まあ、いいですけど。……そういえば、私のこと見てビビりませんかね今日来る人たち」

 「ウチとやっていくのにあんな風評程度でビビられちゃやってけないよ。だから江風で試すんだよ」

 「試金石ってヤツですか」

 「そういうこと」

 

 内部にも外部にも人は足りないが人はしっかり選んでいく。ということだろう。

 

 

 13:00 第127鎮守府応接室

 

 

 今回来訪したのは太陽テレビの代表取締役の木暮という30代の男性と所属タレントの相馬という10代の女性だった。

 

 「どうも初めまして。第127鎮守府興行部局長秋雲です。っとまあ、社長さん自らとは思わなかったねぇ!江風、お茶とか持ってきて」

 「はい」

 

 何故社長自ら?と思ったが、曰く弱小テレビ局であること、まだタレント部門を立ち上げたばかりでマネージャーを兼任しているとのことだった。

 相馬というタレントは先日解散した地下アイドルユニットのメンバーだったらしい。

 

 「お茶お持ちしましたっと」

 「あんがと。江風も座って」

 「はい。……私を見ても動揺しないンですね。『悪名』ぐらいは聞いてそうなモンですけど」

 「あ、悪名ってそんな!」

 「『そういう子』を拾ってきたんですよ。あれだけヒトへの脅威に頑張ってきたような人を印象だけで悪し様に言う子はウチの方針とは合わないんでね」

 

 危険集団第二技研の討伐メンバー、デモ隊を装ったテロリスト鎮圧の実行員、巨大深海棲艦勢力のネームドに名指しされながら戦い抜いた戦士。更に有名な艦娘のみが持つ二つ名を持つ。『迷い猫(ストレイ・キャット)』なんて締まらない名前だが。

 これらが民衆に与えた印象は新進気鋭の英雄ではなく、血生臭い狂人という方が強かった。演習でやってきた他所の艦娘ですら『あの物騒な』という認識である。これが悪名でなければなんだというのか。

 

 「秋雲の姐さん、やっぱり私は……」

 「「君に乗ってもらってこそだ」」

 「!」

 

 秋雲の姐さんと木暮社長の声が重なる。

 

 「江風さんも聞いて欲しい。我が局は127の一般への興行と連携して毎週放送の番組を組んでいく予定なんだ。

 そのレポーターをこの相馬 灯莉ちゃんにやってもらうつもりでいる。我が局も鎮守府も手探りだけど、だからこその人選だと思っている。

 ともちゃんは、かの横須賀のアイドルで英雄の那珂ちゃんが魅せた光に憧れてアイドルを志し、それは今も色褪せていない。鎮守府や艦娘に真摯に向き合えっていける子だと確信している」

 

 横須賀の那珂。金剛さん達と同じく黎明期から第一線を張っているベテランであり、黎明期当時に離島から本州への避難民を載せた船団を護衛した時の活躍が非常に有名な、生ける伝説だ。

 現在も艦娘を本業としつつもアイドルとしても活躍していて、助けられた避難民らが発足させたNFC(那珂ちゃんファンクラブ)は大々的に鎮守府組織を応援及びサポートしてくれる集団でもある。

 

 「その上で江風さん、君だ。多くの人々にとって戦場は遠く、非日常的で忌避するものでもある。

 そこに悪意ある人々が戦場としての君をフォーカスした結果、君自体を忌避するものの象徴として位置づけられてしまった」

 「私はそれで構わないですよ。艦娘やる前からそうでしたから。だけど、それに親しい人達が巻き添えを食らっていくのは許容できません」

 「秋雲さんはさあ、江風1人におっ被せる方が許容できないんだよねぇ」

 「僕達もそうだ。そういうことを恥じることなく繰り返してきた他のメディアと違うメディアを目指す、というのが我が局のポリシーでもあるからね。

 そしてそんな目標を掲げているのに1人の人間に向けられた悪意に臆するようじゃ話にならないだろう?」

 「ってわけで、私等127と太陽テレビさんの共通目標は君の醜聞ごと鎮守府組織へのぼんやりした悪印象をぶっ飛ばしてやる、ってワケよ!」

 「……出来るンですか?秋雲の姐さんは私の『役割』と『代償』を知っているでしょ?」

 「そんなものにビビるようなら127を引退してるって。知ってるからこそ超える甲斐があるってもんよ!」

 「僕達もその『役割』等は聞いてる上だ。実に超え甲斐のあるハードルだ」

 「……」

 

 半分自棄になりながら「他の連中が私を出汁に好きにしているんだから、私自身が好きなように動く権利だってあるだろう」と今までやってきていたこともあり、一緒に背負うと言われても逡巡してしまう。

 自分が不幸な目に合うのは慣れた、もういい。だけど親しい人を不幸にするのは耐えられると思えない。それが率直な感想だった。

 

 「……私もです!」

 「ッ、相馬さん?」

 「私は那珂ちゃんに憧れて、『皆を照らす光みたいなアイドル』になるためにアイドルを目指したんです!それなのに眼の前で悪い影に包まれている人を放っておくなんて出来ません!」

 「皆を照らす光、か」

 

 てーとくの先輩の故人エドガーさん、彼の持論を思い出す。『アイドルは我々という星を照らす太陽だ』、相馬さんのスタンスはこれと同じだなと思う。

 そして、売れない地下アイドル時代を経てそんな理想は困難であることを知っているはずだ、とも思った。その上で先行き困難なこのプランをそれでも、と言う。そしてその目は本気だった。

 勝てないなぁ、と思う。

 

 「皆してそこまで言うのなら、私だけ逃げるのも嫌です。……受けますよ。けど、腹括っておいてくださいよ……!」

 「もっちろん!」

 「当然だとも!」

 「はい!」

 「ってわけでおおまかな今後の予定だ。そのレギュラー番組は鎮守府の頭数を揃えた上で行いたい。だから来年度からってことになる。

 江風の特異性的にそのレギュラーってわけにも行かない。新人を加味してこちらからのレギュラーを決めていくよ。江風にはそれまでの中継ぎとして出演して欲しいんだよ。その後も出撃中じゃなきゃ出てもらいたいけどね」

 「こちらとしても前番組として、来年度になる前に特番を予定しているんだ。そこで江風さんにはともちゃんと組んで案内と解説をお願いしたい」

 「特番ならレギュラーも何もない、か」

 「先に収録して日を置いてからの放送予定だから緊急事態で収録延期になってもいいようにしているよ」

 「分かりました」

 「江風には変にかしこまったりせずに、『今の江風としての自然体』でやってもらうからね」

 「公共電波ですよ?」

 「いーのいーの。それと、灯莉ちゃんを『ともちゃん』って呼ぶようにね」

 「えっ」

 「ファンの人達にもともちゃん呼びが浸透しているからね」

 「私、正直言うと人のことあだ名以前に名前で呼ぶのにも抵抗があるンですけどね……」

 「海風には海ってフランクに呼んでるじゃない。後は友永さん家の理恵ちゃんとか」

 「海は同期で異常適性(イレギュラー)同士だから姉妹感情はなくて、でも海風呼びは江風の部分が納得しなくて……。

 友永はあの一家が変なノリで友永って呼ぶと全員返事始めるから仕方なく……」

 「つまり理由つけないと呼べないわけだ。それじゃあ興行部局長としての命令だ!灯莉ちゃんをともちゃん呼びしろ!オッケー!?」

 「〜! ああもう、分かりましたよ!……よろしくお願いします、ともちゃん」

 「よろしくお願いします、江風さん!」

 

 私は人との距離感を掴むのが苦手だ。だからこそあえて揃えて一定の距離を置くようにして付き合いたかったのだが。

 そう思っていると応接室をノックする音が聞こえた。

 

 「あれ?どちら様?」

 「本日付けで転属した駆逐艦夕立、ご挨拶に参りましたっぽい!」

 「えっ」

 「え、あー、来るの今日だったっけ?もちっと後じゃなかった?まあ……江風、どう?」

 「悪い感じはしないですけど」

 「それじゃいいよ、入って」

 「それじゃあお邪魔しますっぽい!」

 

 そう言うと共に大きく扉が開け放たれる。入ってきたのは名乗った通り、私と同じ白露型の四番艦である駆逐艦夕立。それと後ろを卯月の姐さんが追いかけてきていた。

 『駆逐艦夕立』は『江風としての意識』として元気いっぱいな大型犬のようでいて勇敢、かつ何事にも「ぽい?」と首を傾げているような、マスコットのような頼れるようなどちらでもある存在だという認識がある。

 それに対し、その夕立は口調に「ぽい」こそつけてはいるが絶対の自信に満ち溢れた力強い目をしている人だった。堂々と立っているだけでどこか気品を感じさせる不思議な雰囲気もある。血統書付きの猛犬とでも言うべきか。

 

 「事情は聞いたわ。単刀直入に聞くけど、太陽テレビさんはメディア業界の権力闘争と戦う力と知識はあるっぽい?」

 「……正直、厳しいね」

 「なら、私にその闘争預けてみるのはどう?」

 「ぶっちゃけすぎだこの狂戦士(バーサーカー)がよっぴょん!」

 「卯月の姐さん?」

 「こいつはとある一族経営企業の跡取り娘でな、そういう権力闘争やら闇の部分に詳しいし強いんだ。

 そして、大体の鎮守府にも言えるが127はそういう暗闘には弱い。今までは情報有利で敵もハッキリしてたが今後はそうもいかない。ってことで政争要員も兼ねて呼んだんだ」

 

 訂正。猛犬ではなく狂犬だ。

 

 「で、127ついでに協力関係になる組織もそういうのに対抗できないとそこから狙われるから助力はどうか、って話だ」

 「それは……だけどいいのかい?」

 「私は127(ココ)に闘いの為に来たの。私は闘えればその種類は何でもいいから、豊富な戦場を求めてきたの!」

 「いきなり任せるのもどうかと思うからそこを含めて相談からなら……」

 「うふふ、後悔はさせないっぽい!」

 

 獰猛な目をして嗤う夕立さんに木暮さんも圧され気味だ。そうして、提携に関わる詳細を詰めていき、解散した。

 撮影は1月、放送は2月の予定だ。反響等を考慮してレギュラー番組発足までに再び撮影することもあるかもしれない、という話でまとまった。

 あんなインパクト重視の登場をかました夕立さんだったが自信を持った発言に嘘はなかったようで、その後の番組を含めた詳細を積める際にも的確な発言を続けてーー私には分からなかったが秋雲の姐さんや木暮社長が深く頷いているあたりそうなのだろうーースムーズに話を取り仕切っていた。

 その後、私は休憩区画でゆっくりしていた。

 

 「灯莉さん……ともちゃん、か。相手が何であろうと真っ直ぐに向き合うような人だったなァ。……太陽、か」

 「太陽がどうしたのかしら?」

 「ああいえ、アイドルのことを自分達という星を照らす太陽だと言っていた人がいまして。ああいう人のことを言うのかなって」

 「へぇ、ロマンチストな人がいるのね。まあ、本当の太陽なら星が何であってもどうなっても知ったことじゃないと照らすだろうけど、あの子は人なんだからそんな姿勢だとどこかで破綻する。ちゃんと支えてあげなさい?」

 「はい、夕立さん」

 「それと、呼び方」

 「え?」

 「艦娘歴も貴方は1年、私は4年半と上。その上で白露型姉妹としても姉。江風としての呼び方があるでしょ?」

 「……むしろ気味悪くならないンですか?」

 「そんな違和感はどうでもいいわね。でも、普段から徹底しておかないと外部に見せる時によろしくないわよ?つまりどうすべきか分かるわね?」

 「……夕立の姉貴。これでいいですか?」

 「敬語も無しで。『江風』ってそんなに畏まった子じゃないのよ。そこは分かっているっぽい?」

 

 その通りで、私の中の『江風』が私の心境などお構いなしにそうじゃないだろう、と騒いでいた。

 

 「……わーったよ、夕立の姉貴。これからよろしく。海にはそういう話をしたの?」

 「先に済ませたっぽい。退屈しなさそうでいいわね、貴方達」

 「いいシュミしてるなァ。……それで、卯月の姐さん経由でここに転属したって話だったけど何をしにここへ?」

 「何でもいいからとにかく闘争したくて来たの」

 「闘争?」

 

 先程も何度か出ていた単語だが、何を指すのかイマイチ分からない。

 

 「私ね、艦娘になる前から闘争心の塊として生まれたの。勉学でも技術でもスポーツでも政争でもジャンルは闘争心を満たせるのならなんでもいい、ただ心ゆくまで闘いたい。そういう人間なの」

 「艦娘にも闘うために、と」

 「もっとも、今まで配属されていたところは腑抜けでねぇ。物足りなかったっぽい。

 だから話題の最前線を行っていた先輩の130に転属でも、って機を見計らっていたら去年の壊滅事件よ。それもあってどうすうるか、って思ってたらあの南西海域決戦よ!」

 「……参加できなかったの?」

 「あの提督さんが及び腰なおかげでね!その上でこの127が単身本丸に突撃、激しい戦いの上で巨大な怪異まで撃破ですって!?……私は後悔したわ。なんでそこに居なかったのかって」

 

 あの戦いが127の総力戦だったことは確かだ。

 

 「でも夕立の姉貴は陸戦出来るの?最低限出来なきゃ滑り込みで転属したとしても別に回されてたよ?」

 「130陥落の報を受けた時点で訓練を開始したわ。敵は人類にもいるんだ、って分かったから腑抜けな提督さんにも止めさせなかったもの」

 「おぉぅ」

 「それでも、そろそろ転属しないと不味かったからね。私の使い所をアピールして転がり込んだっぽい」

 「不味い?」

 「うおおおおい夕立いいい!!」

 

 そう話していると血相を変えた卯月の姐さんが飛び込んできた。

 

 「お・ま・え・なぁ〜!身辺整理してから転属してこいよ何であの厄介事抱えたままなんだよあっちの鎮守府から鬼電来てるぞ!」

 「私一人では解決できないから仕方なかったっぽい」

 「えーと?」

 「単純に言うとなぁ、夕立は素体(ベース)の方で婚約者が居てな。それが嫌で実家飛び出して艦娘に無理矢理なったんだよ。夕立の方は拒否してたが所属先の鎮守府と実家で契約がされてな。5年の任期が終わったら実家に帰す、ってな」

 「……艦娘歴が4年半って言ってたよね姉貴」

 「それもあって、『契約を結んでない鎮守府』に転属したかったっぽい」

 「おかげで契約結んでいた元所属の鎮守府から取り消してくれって懇願されてんだよ。なんなら転属の件、お前隠し通して上手いことやりやがったな?」

 「まあね。それに、どちらにしても実家がスポンサーだからって私を前線に出さないようにヘタれている鎮守府には居る気はなかったもの」

 

 ハギトさんが言っていたことを思い出す。スポンサーになることで艦娘になった親族などを安全な業務に回してくれ、と要望を出すところがあると。

 

 「私は闘争がしたくて勉学にも勤しんだし経営だって斜陽の実家経営を立て直すために学んでいたの。従業員に落ち度はないのに路頭に迷わせるわけにもいかないからね」

 「婚約者が問題、と?」

 「えぇ。コネ目当てのボンクラなら私が裏から支配してやれば良かったっぽい。乗っ取り目当てなら逆に呑み込み返す政治戦をすればいいっぽい。

 ただ彼は、そういう気が一切ない上に経営手腕に長けていた。『私の出る幕が一切ない』程にね」

 「大人しく社長夫人をする気はないってことだったな。そういや、そいつはなんでわざわざ斜陽のお前の家と婚約を?」

 「私に一目惚れ、だそうよ。そしてお見合いの席で第一声、何だと思う?『もう貴方が無理して頑張る必要はない。私に任せて欲しい』よ。そして、彼にはそう言えるだけの実力があることは事前調査で判明していたの」

 「姉貴にとっては闘争を二度と出来なくする相手で、従業員のことを考えたら無下にはしにくいってことか」

 「えぇ。その時に飛び出して本能の赴くままに艦娘になって鎮守府に転がり込んだんだけど、それでも『君の気の済むまで待つ』だなんて言って婚約は継続中なのよ」

 「それで期限が5年か」

 「モラトリアムとして十分だろう、ってね。私の闘争本能は若気の至りじゃない、って言っても1人を除いて聞き入れてもらえなかったわ」

 「1人?」

 「通ってた学校の唯一対等に向き合ってくれた友人。彼女のアシストもあって鎮守府に辿り着けたっぽい」

 「そのまま工廠に駆け込んで封印してあったはずの建造ドックが勝手に起動して夕立を建造したと思ったらそのまま海に飛び出すんだから驚いたぜ全く」

 「130だったンですか?」

 「いや、演習先だったんだ。他の連中は演習装備なのもあって初動が遅れてな。予備の主砲に実弾込めてたアタシが真っ先に追いかけてってのが出会いさ」

 

 建造ドックが勝手に起動した、という話も聞いた覚えがあるが夕立の姉貴のことだったようだ。

 

 「そこから何かと便宜を図ってもらっての付き合いっぽい」

 「そういうわけだ。で、どうすんだよ婚約者。放置ってわけにもいかねぇぞ」

 「役に立つからその見返りとして何とかならないっぽい?」

 「そういう政治戦をお前がやるって触れ込みだろうが」

 「……あの」

 「「?」」

 「最終的にその婚約者さんと話し合う必要はあると思いますが、お遊びは終わっただろうと思わせない案ならあります」

 「それは何!?」

 「さっきの太陽テレビさんと打ち合わせていた特番。出撃の映像も撮る、って話が出てましたけど夕立の姉貴にも同行してもらう。その上で重要な戦力だとアピールしてもらう。

 実家も婚約者さんも夕立の姉貴が安全圏の中で艦娘の真似事をしていると思ってるから舐めたこと考えてるンでしょ?なら、その幻想をブッ壊してからのほうがイニシアチブが取れる、そう思わない?」

 「なる程、ね」

 「幸いまだペーパープラン段階だから調整はできるからな。ただよ夕立。それでもどうにもならなかった場合は分かってるな?」

 「えぇ。やってやるっぽい」

 「そンじゃ秋雲の姐さんと話詰めなきゃね」

 

 随分と責任重大な撮影になるな、と思うのだった。

 

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