少しファンタシーな鎮守府で   作:朝宮 糸瓜

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63話 決意固めの初詣

 2028年 正月 10:00 某神社

 

 

 ゴタゴタとした年末を越して無事新年を迎えた。帰省する鎮守府メンバーは順次帰省して、帰る先のないメンバーもその穴埋めをしつつ休みを貰う形になっていた。

 同期組で言えば私、電、加賀、赤城は居残りで海、瑞鳳、羽黒は帰省組だ。私は実家との仲は悪くないが、親戚が嫌がるので帰省は止めている。

 そんな中で今日が休みの私と加賀で初詣に訪れていた。もちろん艦娘への変身は解いている。呼び名も私の本名、立花 蒼と加賀の本名、本沢 ともみで呼び合っている。

 

 「すごい人ね」

 「まあ東京だモンなァ。この神社もでけぇし」

 「この人混みだと屋台を制覇するのも一苦労ね。蒼、手分けするわよ」

 「本沢、縁日じゃねーンだぞやらねェよ。帰ったらあからさまに作りすぎてるおせち料理食べなきゃなンだからさ」

 「それもそうね。でもこういうところのジャンクなモノもたまにはいいでしょう」

 「まあな。とにかく先に賽銭ぶん投げてからにしようよ。食い物片手に賽銭投げるとか絵面がシュールすぎる」

 「あ、蒼にともみ!」

 「おーい!」

 「んあ?」

 「火継に氷莉?奇遇ね」

 

 八坂 火継に鷲宮 氷莉。マザー・クラスタ仲間の2人が初詣用の振り袖を着てやって来た。私達も友永の姐さん仕込の振り袖を着ている。

 

 「2人はもう参拝済ませたの?私と氷莉はいま来たところ」

 「こっちも着いたばかりだよ。気後れするね、この人混みはさ」

 「屋台からもいい匂いがするし、たくさん楽しまないとね!」

 「気が合うわね。蒼はつれなくて」

 「繰り返すけど縁日とごっちゃになってねェか?」

 「いいから早く行くわよ。氷莉、離れないように手を繋いで」

 「う、うん!」

 「スマートにエスコートするのよね、火継」

 「鷲宮が照れてるのに気付いてねーのか」

 「私達も置いていかれるわけにはいかないわ」

 「体幹も鍛えてるし、手を繋ぐまでもなく……な!」

 

 雑然とした人混みをやり過ごし、拝殿に並ぶ列に落ち着いた辺りで雑談を再開させた。

 

 「去年は鎮守府が大騒ぎだったみたいだけど落ち着いたの?」

 「南西の連中との決戦やって、後は後始末でゴタゴタして年を超えたってとこだね」

 「知名度も上がったからやることがどんどん増えていくのが困りものね。蒼はテレビ出演の予定まであるのよ」

 「へぇ、すごい!何をやるの?」

 「鎮守府や艦娘、深海棲艦の解説ぐらいの予定だよ。後は現場見せたり?」

 「今まで鎮守府組織ってそういうのやらない方針って感じだったけど」

 「だからこそ初の試みをウチでやれ、という有り難いお達しね。まあ運営に関しては上司に投げているわ」

 「本沢はいい性格してるよ全く」

 「て、適材適所だよね!火継ちゃん!」

 「そうねぇ、今年からガンガン仕事ふるから覚悟しなさい氷莉」

 「ひいん」

 「そういえば八坂は次期生徒会副会長なんだっけ?」

 「うん。とはいえ我流で改革してきたから着いてこれる人員が少なくてね……」

 「1人じゃガタ来るぞ。もっと交流して手駒増やしておけよ」

 「引く手数多の蒼が言うと説得力が違うわね」

 「石川みたいにお前ももっと引き受けてくれねェかな」

 「絵梨花のアレは固有能力だもの。私と小桃李は戦力強化が任務よ」

 「ああ言えばこう言うなお前は」

 

 他所との交流は電こと石川 絵梨花が、127内での色々な試みは私が引き受けることが多い。本沢や海風こと藤堂 小桃李は特化能力を伸ばす方に集中させているのが現在の127の方針だ。

 

 「そういえば、蒼ちゃんってなんか二つ名?っていうの貰ったんだってね。あれってなんなの?」

 「あー……」

 「二つ名は艦娘全体の中でも有数の実力者ないし功績を上げたヒトにつけられる称号のようなものよ。

 最初は仲間内で広がって、他所からも認められるようになると鎮守府外でも知られるようになるというところね。ちなみに蒼は『迷い猫(ストレイ・キャット)』よ」

 「迷い猫ってまた微妙な名前ね」

 「蒼ちゃん猫派なの?」

 「犬か猫かって言われりゃ猫だけどそうじゃねェンだ。南西とあの戦いをする前に勝手に付けられて、その後鎮守府外で療養してたら勝手に広がってて面識ない奴にまで知られてるザマだよ」

 「睦月さんが積極的に広めていたわね」

 「よーし、今年の抱負決めた。あのヒトを打ち負かす、だ」

 「ともみ、蒼とその人って仲悪いの?」

 「蒼が慕ってる先輩と仲が悪いせいか蒼とも仲が悪いわね」

 「じゃあその迷子の子猫って嫌がらせじゃ!?」

 「子猫じゃねェ!」

 

 『迷子の子猫(ストレイ・キティ)』なんて二つ名だったら恥ずかしすぎる。ただでさえ変な二つ名だな、という目で見られているというのに。

 

 「えーと、逆に格好良い二つ名って何があるの?」

 「卯月の姐さんの『首狩り兎(ヴォーパルバニー)』とかそうだよな。後は横須賀の金剛さんは『一撃淑女(ワンショット・レディ)』とかついてたな。知ったのは最近だけど」

 「前者は頭狙いの執拗さから、後者は普通何発も撃ち合って当てていく前提の攻撃なところを常に一撃で決めて仕留めることから呼ばれているわね」

 「それは格好良い……」

 「活躍に因んだ名前ってことだね!……蒼ちゃんのは?」

 「暇を持て余すとあちこちふらふらして様子を伺っているのと猫みたいな警戒心からね」

 「だからって二つ名にするかよ!……逆に八坂達はなんかないのかよ。辣腕副生徒会長とかそういうの」

 「それこそないわよ」

 「二つ名って言うと映画監督にいたよね、不屈の鬼才って呼ばれてる人。新作ももうすぐ公開なんだって」

 

 そういった娯楽には疎いのでよく分からないが有名らしい。太陽テレビと一緒にやるときも色々事前情報を集めておかなければ。

 

 「ああ、ベトール監督だったっけ?」

 「確かマザー・クラスタ所属らしいって話だったかしら」

 「へぇ……あ」

 「蒼?」

 「私の名前が全国報道かまされた時にマザー・クラスタの人達が庇ってくれたんだよ。その代表格に映画監督がいたって聞いてたから、その人かな。どんな映画やる人なの?」

 「B級って感じ?サメとかみたいなパニックホラーってジャンルね」

 「絵梨花が大ファンよ。帰ったら聞いてみたらどう?」

 「それは嫌だよアイツ語り始めたら長いし」

 「好きなものは語りたくなるよね!」

 

 石川は私に言わせるとレトロな変な趣味を持っていて、一度語り始めるととにかく長いのだ。度々藤堂が犠牲になっている。アイツも学べと思う。最近はそこにてーとく語りまで加わった。

 そんな話をしつつ拝殿へ。宣言通り睦月さんに勝てますように、そしてそれよりも大切なものを失わずに済みますように、と強く願った。怪異を知る今、神頼みも馬鹿に出来ない。

 

 

 14:00 神社周辺

 

 

 「ねえ皆!あそこにスイーツ屋さんがあるよ!」

 「氷莉まだ食べるの!?」

 「火継、食後のデザートは別腹よ」

 「本沢、八坂達は私らみたいに運動量多くないの忘れるなよ?」

 

 艦娘のノリで食べ過ぎたハナさんの悲劇を繰り返してはいけない。

 

 「まあ、これで最後だからね。そして、体重増えたら一緒に運動するからね」

 「ひん」

 「艦娘の高給取りはこういう時に活きるのよね」

 「奢ってくれて助かるわ」

 

 一般学生と艦娘どちらの財布が分厚いかと言えば当然艦娘であり、今回は色々と本沢が奢っていた。他に使い道がないからとのことである。

 

 「使わないと貯まる一方だからなァ」

 「蒼は何か買っているんだったかしら」

 「まあ色々とね」

 

 私の出費の多くは、主に人間文化に興味を持ったアウトローやココにプレゼントするモノが多くを占めている。怪異対策に関しては鎮守府や濁流さんが必要経費として受け持ってくれているので私の財布自体は傷んでいない。

 

 「あんみつ来たよ皆!」

 「あ、食べる前から美味しいのが分かる」

 「写真撮って姉さんを煽ろうかしら」

 「また2倍返しされるぞ」

 「そうしたらその倍を返すわ」

 

 本沢は実姉である赤城こと本沢 美穂と外出してあれを食べた、これが良かったどうだ羨ましいだろうと煽り合いを度々やっている。

 元々が実家の関係で姉妹喧嘩も出来ない収まりの悪い姉妹だったこともあり、当人達はこのじゃれ合いを楽しんでいるようだ。

 

 「あ、返事が来たわ」

 「はえーな」

 「写真見た料理長が本気を出しそうだって」

 「何で巻き込んでんだよ!」

 「料理長って鎮守府の料理長さん?」

 「えぇ。和洋折衷菓子作りも一級の鎮守府の台所の大黒柱よ」

 「プロって感じだね?そんな人の料理食べてみたいなぁ」

 「鎮守府の見学に来ればいいわ。下見という名目で」

 「清雅と同じ様にってか。来たけりゃ話通しておくけど、団体様で来るのは来年度にしてくれよ」

 「ん?どうして?」

 「色々と情報解禁させてリニューアル中だし体制整ってないしだから、今見せられるの中途半端なんだよ。さっきのテレビの話だってそれ込みで日程組んでるからな」

 

 127の面々にとっての意地がある。やるなら興行面も徹底的にやりたい、というのが共通認識だ。

 

 「分かった。それでこっちも生徒会に提案してみる」

 「私達の学校も生徒会の権限強いからね」

 「それとなんだけど、蒼達は最近ちゃんとPSO2やってる?」

 「「……」」

 「私達マザー・クラスタで、マザーからバグチェック依頼されてるの分かってる?」

 「やること多くてなァ……」

 「そうね、1日が終わってまでやる気がなかったわね」

 

 PSO2は八坂達にとっては『ゲーム』だが、私達にとっては『現実と地続きの世界』である。その認識の差異の影響で1日やることを終えたあとにまで仕事をしたくない、となりログインが減っていた。訓練や任務の一環で直接オラクル宇宙に行くという理由もある。

 

 「今日帰ったらちゃんとやるよ」

 「相変わらずバグチェックで良かったかしら。私達は艦娘が忙しいなそちらに集中すればいい、って言われてマザーから指令を受けていないのよね」

 「そんなに忙しいんだ?」

 「今までは特にな」

 「マザーがいいって言うならいいんだけど。今のは『フォトナーについて調査せよ』って任務がついてるわね」

 「「……」」

 「どうしたの?先になにか情報掴んでるの?」

 「いや、フレーバーテキストにあったなって」

 「そうね。どこかでNPCが言及していた記憶があるわ。マザーってPSO2の管理者でしょう?何かあったのかしら」

 

 本沢の言う通り、『地球のPSO2というゲーム』の管理者はマザーである。それが何故『よく似た異世界のオラクル宇宙』と繋がってしまったのかは不明だが。

 

 「なんでもフォトナーの名義だか権限だかでチートしている奴がいるらしくて、割り出す協力をしてほしいんだって」

 「もしかしたらNPCにデータを入れ込んだかもしれないって」

 「いるのかそんなヤツ」

 「マザーは『絶対に居る』って言ってたわよ」

 「少し興味が出てきたわね」

 「あぁ」

 

 フォトナーは既に滅んだ存在、というのがてーとくやアークスの共通認識だ。その生き残りないし存在を騙った奴がいるならまずてーとくが黙っていないだろう。もしかしたら地球とオラクルを繋げた原因なのかもしれない。

 

 「藤堂や石川にも伝えておくよ」

 「よろしくね」

 「いい時間だし、帰ってまたPSO2で会いましょう」

 「うん、ごちそうさま!」

 

 

 16:00 鎮守府への帰路

 

 

 八坂達と別れて鎮守府に帰る道すがら、本沢が話しかけてきた。

 

 「蒼、貴方はどう思う?」

 「何がさ」

 「マザーの言うフォトナーよ」

 「チート野郎じゃなきゃなんなんだよ。本物のフォトナーが存在してたらてーとくが真っ先に血祭りに上げてるだろ」

 「私達の認識としてはそうよね」

 「本沢?」

 「思うのよ。地球からオラクルにアクセスしたのはPSO2を悪用した誰かではなくて、そもそもマザーがオラクルにアクセスするためにPSO2を作ったんじゃないかって。そうした目的がフォトナー探しなんじゃないか、って」

 「そもそも逆……いや待てよ、それは」

 「『マザーを疑う』。マザー・クラスタにはない発想よね。けれど私達は他のメンバーに比べてマザー・クラスタに浅く入っている上にオラクルが実在するという非日常をこの身で体験してきた。

 蒼は以前絵梨花に聞いたわね、お前は127とマザー・クラスタどちらの人間か、と。あの後のゴタゴタの結果彼女は127を選んだ。私達も立ち位置をハッキリさせるべきではないかしら?」

 

 ……私は。

 

 「……石川にだけ聞いて私がハッキリさせないのはナシだな。けど、その疑いはどうハッキリさせるつもりだ?」

 「さあ?全く思いついていないわ」

 「ねぇのかよ!?」

 「そこまで練るのは私の担当ではないわ。だけど私は127に軸を置くと決めた。だからこのまま上奏するわ」

 「清々しい性格しやがって。……私はハッキリとマザー・クラスタを、マザーを切り捨てることはできない。

 自己評価が死んでいた私に希望を感じさせてくれたのも、お前達と結びつけてくれたのもマザーだったから。アウトローに誘われただけだったら艦娘になるもう一歩が踏み出せなかったかもしれない」

 「その気持ちは分かるわ。あの時、マザーは私達4人の背中を大きく押してくれたから今がある。加賀になれると思わせてくれた。この事実は疑いようがないし誰にも否定させる気もないもの」

 「だから、私は……」

 

 覚悟を決めて本沢を見据える。

 

 「127であることを辞める気はない。だけどマザーの真意や真実も知りたい。だからお前の行動は静観する。その上でいざっていう時にマザーが教えてくれればいい。その時にその内容に合わせて何をするか決めるさ」

 「教えてくれなかった時は?」

 「聞き出すさ。言葉じゃ駄目なら別の方法でだって。私がてーとくにやったように」

 「マザーが戦えるとは限らないわよ。具現武装が使えないとは思わないけど、非戦闘能力のケースもあるんだから」

 「ケースバイケースでやるさ。ただ、ぶつかることだけは宣言するさ」

 「そう。それじゃあこれからもよろしくね?蒼」

 「こっちこそ」

 

 拳をコツンとぶつけ合い、気持ちをハッキリさせたのだった。

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