1月中旬 16:00 第127鎮守府 執務室
テレビ撮影が間近に迫る中、今日も今日とで鎮守府は書類仕事に忙殺されていた。
各種業務をそれぞれが軽くは覚えて非常時に備えるというスタンスのため、今日の私は秘書艦任務の補佐に就いていた。
「私はこの忙しさも楽しめるからいいけど」
そう口火を切ったのは夕立の姉貴。執務においても彼女は優秀だった。
「このままじゃ破綻するっぽい。対策はあるっぽい?」
「各種専門の部隊を編成する計画はあります。ですがその形にするには絶対数が足りていません。数が足りれば各部門毎に仕事を割り振り、総括を我々で行う方針にしたいですね」
「詳細は?」
「それはですねーー」
現在所属している艦では以下の通りだ。
主力部 暁 ヲ ハ 羽黒 赤城 瑞鳳 アウトロー
遠征部 龍田 長月 菊月 陽炎 黒潮
防衛部 天龍 タ ル
興行部 秋雲 イ
遊撃部 卯月 江風 電 加賀 海風 雷 夕立 ココ
鎮守府 不知火 弥生 響 睦月
「主力部は通常水上戦闘を担ってもらいます。遠征部もその名のとおりですね。遠征実績を出し続けなければ外部からの理解や信頼は勝ち取れません」
「防衛部って拠点でも守るっぽい?」
「いえ、救援要員です。護衛戦闘を軸に動いて貰う予定です。我々には艦娘以上の速度で急行できる艦娘母艦白峰がありますので、そういう役割を期待されています」
「なる程ねぇ。興行部は艦娘以外の地上勤スタッフメインってことかしら」
「えぇ。訓練校にそういう業務に興味のある新人を求める旨は伝えましたので、追加人員が居ればそれ次第ですね」
「それまでが私が特番でテレビは担当、ってことだね」
「そうです江風さん。私と弥生さんは地上業務メインで睦月さんは防衛システムであることを活かして鎮守府の拠点防衛任務に就いてもらいます」
「で、この遊撃部は?」
「我々としての127の要。海上の対深海棲艦に限らず地上の怪異やダーカー等の敵を視野に入れた非通常戦闘部隊です。
平時では主力部や遠征部といった部隊の補充要員として動いてもらいます。夕立さんは動機的にもこちらの部隊の方が適していると判断し編成させていただきました」
「場所もシチュエーションも問わない戦闘部隊……血が沸き立つっぽい!」
「てーとく、遠征に陽炎の姐さんと黒潮の姐さん編成するのはどうなの?」
「人手不足が理由ですね。通常部の交代要員として2人は編成したいのですが遠征部3名は話になりません」
「それもそっかぁ」
「遊撃部には兼用していただきますね」
「遊撃と言う名の何でも屋、ってコトね。分かったよてーとく」
普通に複数の艦隊を構成するには十分な人員だが様々な専門部署をやるとなるとまだまだ人が足りない、という実情を改めて突き付けられた印象だった。
「なお、防衛部は2名ほど追加人員が見込めています。それと工廠及び白峰専属スタッフも。」
「神風さん?」
「えぇ。それともう2人。1人は補助艦秋津洲さん。戦闘は苦手だそうですが工廠や艦娘母艦関連の業務に意欲を示しているとのことです。
もう1人は『終の海』から深海棲艦の方が参加してくださるとのことです」
「『終の海』!?」
ヒトと争う気はないが帰属するつもりもない深海棲艦勢力、『終の海』。唯一にして最大の非対人の深海棲艦勢力である。
「随分と面白いところから引っ張ってきたっぽい」
「金剛さんがあちらにも声を掛けてくださった結果、呼応してくれる方が居たということです」
128の立て直しも一区切りがついて横須賀に戻ったらしい金剛さんがやってくれたようだ。
「艦種は軽巡ツ級。異常適正(イレギュラー)ではないですが少し変わった性格故にこちらへ来る気になったそうです」
「ツ級ねぇ……」
「対空にやたら強いタイプだったよね」
「えぇ。本人も対空に拘りがあるそうなので防衛部を担当して頂こうかと」
「総合的な防御力のタの姐さんに陣形ぶっ潰せる一撃を固定砲台チックに撃てるルの姐さん、対潜の神風さんに対空のツ級さん、と。天龍の姐さんはどうして?」
「攻めるより防衛のほうが好きだ、というのと尖った能力の面々を取り纏めるなら、ということで自薦ですね」
「へぇ……」
一歩後ろから取りまとめるのが得意な人なので、納得でもある。
「それに討つべき仇を大方始末した現状、サポートに回る方が気持ち的にもいいとのことでした」
「燃え尽き症候群一歩手前って感じかァ」
「それで相変わらず血気盛んなのが遊撃部ってことっぽい?」
「そういうことです」
「それを踏まえてなら……その3人はいつ来るのかしら?」
「数日後には。テレビ撮影の前ですね」
「どっちにしても来たばかりの奴をテレビの前に出すなっぽい」
「だよね。それと工廠兼艦娘母艦担当できそうな艦娘とかすっごい渡りに船ッスね」
「引き抜いてくれた卯月には感謝です」
数日後 10:00 第127鎮守府
「神風型駆逐艦一番艦、神風よ!潜水艦相手なら任せて頂戴!で、対潜任務はいつなの?あ、貴方がホークの言っていた電ね?霞ママって子は……ここの所属じゃないんだったかしら?」
「えっ、霞ママは50鎮守府なのです」
「ヒャッホウ!ツ級、いやオレの名前はツングースカと呼んでくれ!マイソウルネームイィズ、ツングースカァ!敵機体は全部、ずぇーんぶ落としてやるっぜぇ!」
「……私が言えたことじゃないけど随分と濃いのが来たっぽい」
「うーちゃんの人脈さあ」
「アタシが誘ったのは神風と秋津洲だけだ!」
「えーと、その秋津洲、かも。戦場に出るのは苦手だけどサポートとして出番があると聞いて来たかも」
言葉遣いこそ落ち着いているがすごいグイグイと来る神風さんにやたらと弾けた言動をするツ級ことツングースカさん。事前資料でもこれが個体名だと記載されていた。秋津洲さんが圧されているが無理もない。
「落ち着きなさいよツングースカ。私は駆逐古鬼。『終の海』からこのお馬鹿を連れてきただけだから。まあ、鎮守府と共生する深海棲艦ってのにも興味があるから引率してきたんだけど」
「ありがとうございます駆逐古鬼さん。ごゆっくりどうぞ」
和風な駆逐鬼級深海棲艦の駆逐古鬼さん。『終の海』でも外交面を担当しているらしく、忙しくあちこちへ飛び回っているそうだ。黎明期からのベテランであり、当然凄まじい練度である。
「このお馬鹿と交流を深めてほしいんだけど、その前に『終の海』から依頼を受けてはくれないかしら?福山司令官」
「依頼、ですか」
「内容ははぐれ艦娘と深海棲艦のコンビを捕まえること。ついでにそいつらの身柄を引き取ってもらえれば追加で『終の海』からの援助も約束するわ」
「響だよ。はぐれ艦娘で深海棲艦とコンビ……『運び屋摩耶とワ級』のことかな?」
「ふうん、嗅覚はちゃんとあるようね。その通りよ。妙なモノを最近運んでいるようでね。変な連中がまた力をつける前に差し押さえたいの」
「取引相手は判明しているのかい?」
「何も分かっていないわ。運び屋コンビも中継ぎみたいでね。だからこそ次の相手に引き渡す所を急襲して拿捕したいの。やれるかしら?」
「場所と時間は?」
「『終の海』から少し南の……ここから見たら南南東の方角かしらね。詳しい座標データもあるわ。週に一度決まった場所で受け渡ししているようよ。
ちなみに次回は今日の17:00よ。高速輸送手段があるって聞いているから受けてくれれば間に合うわね」
「どうする?梓」
「受けましょう。取引相手が創造者(クリエイター)である可能性も考えられますし、『終の海』との縁が出来るならメリットは大きいです。
運び屋が渡す相手、付近の深海棲艦の規模などを教えていただけますか?それと運び屋のパーソナルデータも」
「勿論。適当な情報投げて失敗されて横須賀から嫌な目で見られるのはこちらとしても不本意だもの」
一言で言えば、神風さんと秋津洲さんの活躍の場が早くも訪れたと言ったところだ。
作戦海域は潜水艦が跋扈する海域であり、その上で運び屋コンビは警戒心が強い。素早い対潜戦闘をくぐり抜けての拿捕が必要となる。
そこで対潜として強く潜水艦に圧をかけられる神風さん、艦娘母艦の専属として動いてくれる秋津洲さんが頼りになるのだ。ぶっつけ本番なのでどこまでやれるかは試しではあるが。
17:00 作戦海域
「こちら中村!これより艦娘母艦白峰は作戦海域へ突入!追い込み班出撃を!」
「卯月出るぞ!江風も準備はいいな!」
「江風調整完了、いつも以上に行けます!」
「「出撃!」」
艤装の基本的な整備は鎮守府で行うが、作戦直前に微調整を行えると更にいい。
現場で即席修理などを行える秋津洲さんのおかげで簡単な整備や修理、補給のみ可能な艦娘母艦の利便性が更に増した形になる。というよりも秋津洲さんの整備センスがかなり高い。
「調子はどうだ江風!」
「びっくりするぐらい体が自由ッスね……!」
「秋津洲のヤツを引き抜いて来た甲斐があったってもんだ!……それと作戦は分かってるな?」
「はい!足元とられにくい私達が運び屋コンビを追い立てて、母艦の主力で迎撃、拿捕!」
「艦娘母艦の方にたかってくる潜水艦は神風が軸になって制圧するから心配はいらねぇ!ついでに引渡し相手も狙って行くぞ!」
「了解!」
敵陣を強行突破しつつ速攻で攻略しなければ用心深い運び屋コンビは逃げてしまう。かと言って素直に突破するには潜水艦が跋扈していて危険な海域である。
これを跳躍による魚雷回避能力の高い私と卯月の姐さんが突っ走り逃げる暇を与えずに、白峰に殺到する大量の潜水艦はタの姐さんの防御と神風さんの制圧能力を軸に迎え撃つ。
それぞれの能力を過不足なく理解している卯月の姐さんの発案だった。戦力不足の場合はてーとくが転移して拉致する強硬策になるところだった。今回は足りていたためてーとくは鎮守府で待機である。
「早速魚雷飛んできたぞ!バーニア起動しろ江風!」
「了解!足つかなきゃ魚雷なんかさァ!」
跳躍からのバーニアによる加速で「滞空」する。魚雷オンリーの潜水艦はこれで無視が出来る。滞空時間には限度があるが、着水から再び滞空するまでに大して時間がかからないので問題はない。
そうして何度か跳躍していると、水上に2つの影が見えてきた。はぐれ艦娘摩耶と補給艦ワ級だ。ワ級が大きな積荷を積載している。おそらくはアレが輸送対象だろう。
そのまま彼女らの背後、艦娘母艦の進んでいる方向と反対側に着水する。
「な、なんだお前ら!艦娘……か?」
「艦娘じゃなきゃなんだってんだっぴょん」
「あんな跳ね方する艦娘がいるか!」
ごもっともである。
「見たものが真実だ、大人しく捕まって積荷を寄越しな!」
「チッ、駆逐艦2隻にビビるかよ!」
そう言って摩耶が牽制弾を撃ってくるが、精度が悪い。それに艤装も悲鳴を上げるように軋んでいる。そんな状態での攻撃に当たるほど遅くはない。
「整備してないのか?大変そうだな」
「クソっ、ちょこまかと逃げやがってよ……!」
「……」
「ハヤク、逃げないト……!」
卯月の姐さんがやり合う間にワ級の様子を伺う。わたわたと準備をして逃げようとしている彼女が取り出したものに、私は見覚えがあった。
「創造者(クリエイター)のクソバーニア!?」
「んだとぉ!?アイツ流通させてやがったのか!?」
「マヤ、行けるヨ!」
「よっし、振り切るぜ!」
バーニアを起動させたワ級に摩耶は捕まり、逃げていってしまった。……予想外のことはあったが予定通りではある。
「こちら追い込み班!ターゲットは予定通りの方向に逃走、創造者のバーニアを使用中、うまく捉えろ!こっちも追うぞ、江風!」
「了解……ッチ、もう雷跡複数……!」
「バーニア起動!ここの潜水艦共手慣れてやがる!」
「そうですね、本隊は大丈夫かな」
「神風なら余裕だ」
「信じますからね!」
そうして潜水艦の攻撃から逃れるように追撃を始めたのだった。
直後 艦娘母艦白峰サイド 天龍視点
『こちら中村!ターゲットはこちらに接近中、ただし創造者のバーニア装備!予定より早い交戦になりそうだ!秋津洲さん、艦載機展開行けますか!?』
『各艦の整備完了、艦載機も出せるかも!方向は!?』
「ターゲットと真逆。それとこちらから複数指定させてもらうよ」
「駆逐古鬼さんよ、なにか確証が?」
「今までの運び屋の行動データからね。姫級潜水艦がいないかを特に気をつけなさい!」
「動きが起きる前に手前は片付けちゃうわよ!」
迎撃予定ポイントに到着したがターゲットの急加速によって迎撃は慌ただしいものとなる。その前に周囲の敵艦隊の掃討と次の受け渡し相手らしき存在を掴んでおきたかった。
こちらの編成は説得要員として暁、タを軸に対潜可能な面子で固めている。正規空母や戦艦といった面々は迎撃対象が潜水艦のみである今回は出番がないので連れてきていない。
説得要員として意外だったのがココだ。立場上説得力が高いのは事実だが、出撃に意欲的なのは今回が初めてだった。
「こちら菊月、左舷に潜水艦反応追加で6!」
「こちら陽炎、右舷にも追加で6よ!」
「多いな……」
「ひしめいているって次元じゃないわねぇ……」
「駆逐古鬼はん!ここどんだけおるんよ!?」
「正直分からないわ。潜水艦をまとめる頭目がいるらしいとは聞いているけど規模もよくわかっていないの。
おかげで度々こういう密輸現場として選ばれるぐらいよ」
「こちら神風!ここの子たち、引き際を弁えているわ!被弾したら撤退を徹底してる!練度もあるし統率している相手がいるはずよ!それと正面は片付いたわ!」
「了解だ、一旦補給に戻ってくれ!」
「こちら長月、神風が退いたことで前面に敵が集まってきたぞ!」
「どれだけだよクソ……!」
「『ディバインランチャー』のフルパワーなのですううう!!」
「「!?」」
電の具現武装が隙のなかった敵陣を無理矢理盛大に吹き飛ばす。
「まだまだ行けるのです!魚雷を撃つために海面近くに上がってるなら射程範囲なのですよっ!」
「助かるぜ電!」
「アレが噂の具現武装。衝撃が凄すぎて潜水艦連中の連携に乱れが出たわね」
「よし、こじ開けてーー」
『こちら中村!ターゲット接近、まもなく接敵!』
『こちら秋津洲、逆方向から強そうな姫級潜水艦が……7隻ぃ!?』
「嘘だろ……到着までは!?」
『ゆったりと動いているから5分ほどかも!』
ちょっとどころではなく厄介な状況だった。恐らくはこの海域の統率者だろう。神風でも苦戦するだろうし、そうでなくても正面における神風の制圧能力が期待できない状況に陥ってしまう。
「聞いたな、5分以内に取っ捕まえるなり説得なりして撤退準備に移るぞ!」
「了解よ!……見えた!」
「クソ、こっちにも……いや、本隊か!?」
「もう少し、ナノニ……」
「その様子だとウチの足の早い奴らにはもう会っただろう?俺は天龍、127鎮守府の所属艦娘だ」
「捕まってたまるかよ!」
「まあ話を聞けよ。なあ、『艦娘として生まれた摩耶に対人本能のないワ級』のお二人さんよ?」
「「!」」
この辺りは駆逐古鬼さんに一通り聞いていた。海上に生まれた人間を素体(ベース)にしていない艦娘で、帰属する鎮守府のない摩耶に人や艦娘への敵対心のないワ級。
2人の馴れ初めこそ不明だが、彼女らをまとめて公平で友好的に引き受けられる場所はないに等しかった。
その上で離れたくなかったから、こうして運び屋などでなんとかやりくりしてきたといったところだろう。
旧127と『北の姫』の関係が良好のままいけば、受け入れ口になれたかもしれなかったがそうはならなかったのだ。
それらを話しつつ本題を振る。
「今の俺達は艦娘とヒトに友好的な深海棲艦の受け入れも行ってる。要するにお前達みたいな奴をだ。ヒトですらないのもいるしな」
「は……?」
「マヤ、バーニアが動かない!艤装が、イタイ……!」
「くっ……!」
「そしてもう1つ。そのバーニアだのを提供している奴と俺達は敵対しててな。阻害装置の1つや2つ、作成済みさ。そしてその積み荷が何かは知らないがお前達にその装備を供与している奴との関係が疑われる以上、輸送を成功させるわけにはいかねぇんだ。だからよ」
一息置いて、告げる。
「俺達の仲間にならないか?ヒトと深海棲艦の共存する気のある奴らで明るくつるむ組織、127鎮守府にお前達を迎えたい。輸送阻止もしたいがどっちかというと本命はこっちなんだよ」
「アタシ達を迎える、だぁ?」
「そうだ。俺達にとっちゃヒトも深海棲艦も関係ねぇ。仲間か敵か、それだけだ」
多少盛ってはいるがこれが俺達のスタンスだ。
「これは推察なんだが、お前達がどの勢力にも帰属しないで流れの運び屋やってる理由は『どちらも尊重してもらえる勢力』がないことだろ?俺達はそういう勢力であるつもりだ」
「言葉ばかりで信用出来るかよ、アタシ達は今までに何度も裏切られてきたんだぞ!」
「それも聞いているさ。どう証明したもんかな」
「追いついた!」
「魚雷群は抜けた!」
「ッチ、さっきの変な駆逐艦共……!」
「なら私がその証拠よ!そのしょぼくれた目を開いてよく見なさいよ!!」
卯月と江風が合流した直後、白峰から声が飛んできた。そして声の主が飛び出して来た。
「やっと馴染んだわ!どう、江風?」
「サマになってンな、ココ」
「ふふん、実際の殴り合いも期待しなさい!そこの運び屋、私は深海棲艦、離島棲姫のココ!バミューダでクソバカ深海棲艦勢力に閉じ込められていたけど自分の意志で127に合流した女よ!」
「南西海域のが通じると思うぞ」
「うっさいわよ江風!で、私には艤装がないし新しいのも付ける気はなかったんだけどね、だからって特注で用意されたのがこの両手両足と背中の追加装備よ!
これを見て対等じゃないだのなんだの言えるか見ものね!」
そう言って装備を見せびらかすココ。
本来の艤装はあの島であり、代替物は付けたくないが無力であることも嫌だ、という彼女専用に用意されたのはゴテゴテとしたグローブにブーツ、そして背中にメインバーニア、両手両足の装備にも小型のバーニアが付いているという完全な格闘用装備だった。
戦法は分かりやすくそのまま突っ込んで殴って蹴るだけだ。姫級深海棲艦のスペックに各バーニアの推力を上乗せした格闘を砲雷撃の代わりにしている。
欠点は何一つ射撃武器がないことと装備以外の防護手段がない為に攻撃を受けないように立ち回る必要があることだが、深海棲艦でも艦娘でも機械でもダーカーでも何にでも通せる威力と属性を付与出来ているのがメリットだ。
さらに言えば艤装に比べ重量がかなり軽いため、バーニアで滞空できるし普通に空を突っ切って暴れることができる。江風がメインで使っている増設バーニア技術の発展型である。
「なんだよ、それ……?」
「私の、私のための武器よ!これで、気に入らない奴はぶちのめすのよ!」
「正気か?」
「伊達や酔狂であんなの作らねぇし採用もしねぇから正気だな」
「……」
異質であるココのインパクトが効いたのか、明確に迷い始めた。
「私はねぇ、私のことを都合良く使おうとする連中なら飛び出すつもりだったのよ!
なのにこいつらと来たらいくらでものんびり日常を謳歌してくれとか言ってくるし、その中で見た創作物みたいな装備が欲しいとか言ってみたら本当に作り上げるのよ!?
正気でまともな連中がこんな事するとでも思うの!?トチ狂った馬鹿共じゃないと有り得ないわ!だから変な奴等だってことは私が証明よ!」
「何一つ間違ってねェけど言い方ァ!」
「うるさいわよ責任取るって引っ張ってきた奴が!」
江風とココがやいのやいのと言い合っている。そしてこれは演技でもなんでもない、彼女らの日常のやり取りであり事実の列挙なのだ。江風に至っては今後どれだけの深海棲艦を絆すのだろうかと話の種にされている。
「お前ら、本当に……」
『私の調べた辺りだと嘘はついていないようだよ、商売相手(パートナー)』
「ッ!?」
もう一歩、というところで全域通信で謎の声が響いてきた。
「本当なのか、アンタークティック!」
「おい白峰、音声の発生源は!」
『潜水棲姫部隊の方だ!』
『軽いジャミングじゃ分かっちまうかい。お初にお目にかかるねぇ、ご来客(ビジター)?』
『潜水姫部隊の後ろに別の姫級深海棲艦反応……大きいかも!』
潜水棲姫7隻で編成された部隊の後ろから、迷彩を解除しながらゴツい艤装を伴い衣服を分厚く着込んだ見たことのない姫級深海棲艦がやって来た。この海域の主なのだろうか。
「日本からこんな辺境までようこそ、ご来客。私はこの海域、いや、ここから南極までの海域を根城にしている深海棲艦一派の頭目さ。
名無しじゃ格好がつかないから南極女帝(アンタークティックエンプレス)と名乗らせてもらっているよ」
「……鮭?」
「なんか違うンじゃね?」
「ココだけじゃなくて江風までボケに回るなそっちは大西洋って意味のアトランティックだ!」
「おいおい、いくら中卒の若い世代を採ったとはいってもそれはないだろう?」
「悪いな。……しかし、よく知ってやがるな?」
「情報収集は基礎基本だろう、首狩り兎(ヴォーパルバニー)」
こちらの構成員の名前や二つ名だけでなく来歴まで把握しているようで油断ならない。だがその分敵対的な空気を出していないことが不思議だった。
「モノには限度があるぜ。何が目的だ?」
「お前さん達は簡潔に言うほうが好みのようだからね。端的に言おうか。
アメリカに巣食いバミューダに叩き出された、かの海域を霧と狂気で覆い尽くしたあの大怪異の件だ。
それを討伐したお前さん達、特にあの支配下から脱してみせたココ、そしてそのココを引っ張り出して大怪異を殺してみせた迷い猫(ストレイ・キャット)。その顔と手を合わせてみたかったのさ」
「私達に用ですって?」
「あのクソ怪異の仇討ち、ってワケでもないみたいだな?」
「あっはははは!!」
当の迷い猫こと江風の言葉に大きく笑う南極女帝。
「仇討ち?その逆さ。いつかぶっ倒してやろうと思ってたんだよ。そうして様子見をしていたら爽快にお前さん達が討ち取って見せただろう?興味も湧くってもんさ」
「なら、なんでもっと早く動かなかったのよ!」
「活動領域が地球の裏のようなものだ。そう簡単に動けるものじゃあないし、攻略方法も調べている最中だったのさ。けど、お前さん達は成し遂げた。尊敬の念すら覚えるよ」
実際問題、素直にあの怪異を討伐するのであれば指揮者(コマンダー)一派と膨大な南西海域の有象無象を相手取りつつ行わなければならない。俺達はそれを他の鎮守府を別働隊として配置したからどうにかなったのだ。
「そんな無茶を押し通したお前さん達には気をかけていたわけだ。商売相手の2人がここを使ってるとはいえ、こうも早くお目にかかれるとは思っていなかったけどね」
「なあ、アンタークティック」
「麻耶、ワ級。お前さん達の好きにするといいさ。元々私達は他人で、お前さん達は食い扶持の為にただ私の通行許可を得てここで運び屋をしていただけ。私に引き止める権利もなにもないさ。
まあ、そいつらが信用に値する相手ということは保証しよう。2人でいられる安息の地を求めていたんだろう?現状そこ以上はないだろう」
「……友好的なセリフと展開している部隊が一致してねぇぞ」
このやり取りの中でも、白峰を中心に円を描くように潜水棲姫達が止まらずに旋回し続けている。
「言っただろう?迷い猫とココに顔と手を合わせに来た、と。その怪異殺しの力と精神、見せておくれよ。
何、殺しはしないから安心して良い。どれだけ魅せてくれるかで今後の対応を変えるつもりではあるけどねぇ」
白峰、いや俺達全体がその手合わせから逃さないための人質というつもりのようだ。
「江風、舐められたままでいいの!?」
「血の気が多いぞココ。まァ、応じてやる、かなァ!」
好戦的に江風の目が光った。
離島棲姫ことココの武装は劇場版機動戦艦ナデ○コのブラックサ○ナとアルストロメ○ア辺りを参考にしている設定です。射撃前提の艦これで純格闘構成をやるという狂気。