2月某日 太陽テレビ特番
画面にマイクを持った元気な少女が映し出される。背景には鎮守府の赤煉瓦の建物が映っている。
『皆さんこんにちはー!太陽テレビの相馬 灯莉でーす!今日は東京はエスカタワーに一番近い鎮守府、第127鎮守府に来ています!
皆さん知ってますか?この127鎮守府は『鎮守府ってどんなところ?艦娘って、深海棲艦って何?』というのを色々と教えてくれているんです!
そこで今日は、そんな127鎮守府の艦娘さんに色々とインタビューしていこうとと思います!』
そう言ったところで、画面端から赤毛の短髪で軍服を着た高校生ぐらいの少女が歩いて来て、足を止めると同時に綺麗に敬礼をした。
『敬礼!第127鎮守府所属、立花 蒼!これより解説に移らせて頂きます!』
『はーい、よろしくお願いします!立花さんは、どんな艦娘さんなんですか?』
『はい、変身!』
少女は叫びとともに赤髪ロングのフル装備の艦娘へと姿を変えた。
『白露型駆逐艦9番艦、改白露型の江風だ!よろしくな、ともちゃん!』
『江風ちゃん、よろしくお願いします!』
和やかに合流する2人。
『というわけで艦娘江風ちゃんを解説にお迎えして、今回は鎮守府について色々と聞いていきたいと思います!』
『先に言っておくと、質問内容はある程度打ち合わせ済みだよ。一々これは機密で、ここも機密なんだよね、なンて言っても画にならないからね』
『その上で聞ける色んなことを聞いてみたいと思います!それでは散策、スタートです!』
そう言って検問所を兼ねたゲートをくぐり、入口広場に出る。そのまま散策しながら話を進める。
『わあ、すっごい広いですね!どこの鎮守府もこういう感じなんですか?』
『場所によりけりだけど、基礎訓練で持久走出来るようなスペースは大体あるよ。ほら、あそこみたいに』
江風が示した先にはランニングと言うにはかなりの速度を出している小集団が居て、少し振り向いて手を振ってからそのまま走り去っていった。
『基礎体力は大事ですものね!それにしても皆さん速いです!』
『配属直後の新人はともかく、出撃するときはハイペースで動き続けなきゃだからね。要求される身体能力がやっぱり重いンだ』
『そんなになんですか?』
『深海棲艦が出た、って場所に急行しつつ戦えるスタミナは残しておいて、なんなら戦った後に嫌な深海棲艦の援軍が来る前に撤収するまで走り続ける必要があるからね。
艤装、この背中に背負ってる機械のことなンだけど。これがメインで海の上は動いてるとはいってもそれで動き回る体力はやっぱり必要だし、結局のところ体力と持久力が大切なンだ』
『私もステージでたくさん踊るために稽古してましたけど、それでもついていけるとは思えないです!すっごく大変そうですね!』
『そこは艦娘、っていう特殊な身体に変身できているからこそなんとかなっている面は大きいね。でもその艦娘のポテンシャルを引き出すためにはああいう日常的な訓練がモノを言う、ってことには変わりがないンだよね』
そう言いながら鍛えていますと言わんばかりにマッスルポーズを取る江風。
『やっぱり軍人さんはハードってことなんですね!
そういえば艦娘さんや鎮守府の皆さんって何軍って扱いなんですか?それとも自衛隊ですか?』
『日本の艦娘関連は元自衛隊発祥だけど、今は世界全国で艦娘組織は国連組織の一部ってことになってるね。ここは国連直属艦娘組織『大本営』の日本支部、の第127鎮守府ってことになるね』
『大本営って国連だったんですね!』
『元々の意味は違ったけど、艦娘も深海棲艦も第2次世界大戦の艦船を模したような感じだから組織名とかもそれに併せてこうなったのさ。
だから日本政府や警察といった組織とは根本的に別組織なンだよね。色々と協力する体制はしっかり整えてあるけどね』
『協力ですか?』
『残念ながら艦娘や関係者を狙った人間の犯罪が起きることがあるからね。そういう時に連携して対処しなきゃ無駄にゴタゴタしちゃって大変なンだよ』
『それはすごい重要ですね!』
オーバー気味なリアクションでころころと表情を変える灯莉。対する江風も身振り手振りを大きくやっている。
『ちなみにだけどね。私、立花 蒼はそういう事件の影響で本名がバレてるからこうやって変身前の姿、私達は素体(ベース)って呼んでいるのを曝け出しているンだけぢ、これは本来秘匿事項。所謂機密ってヤツなンだよね』
『もしかして、そういう悪い人から皆さんや身内の方を守るために……ですか?』
『そう!だからそこを深堀りしようとすると国連と協力している国家権力の両方から怒られるから詮索は駄目だよ。
艦娘組織の鎮守府としては色んな意味で艦娘を守るために憲兵隊、って人達が対応を担当しているよ。
この鎮守府だと興行スタッフを兼ねつつ悪いことしてないかな?って目を光らせているンだ。例えば、あの人。おーい!』
『男性の軍服を着ている人ですね!こーんにちはー!』
通りがかった憲兵隊の隊員が敬礼をする。
『憲兵隊の人は自分も艦娘になって海を守りたいけどなれなかった男の人が多いね。艦娘の適性がなかった女性の憲兵さんもいるよ』
『なる程!……その艦娘の適性っていうのはどういうものなんですか?』
『鎮守府には建造ドックって施設があるンだけど、それが人と艦船の魂……私で言えば立花 蒼という個人と『駆逐艦江風』だね。両者がマッチングしたら艦娘に変身できるように艦船の魂が人にくっつくんだ。
逆に言えばマッチングする艦船の魂がいない人は適性がなかったと言えるし、同じ人でも色んな艦船とマッチングするケースもあるよ』
『すごいシステムですね!男性はマッチングしないんですか?』
『今のところ女性だけだね。それがなんでかは正直なところ、まったく分かっていないンだ。というのもなんだけど……』
江風はうーん、と悩ましいポーズをしてここだけの話だ、というような言い方で語り始める。
『実は建造ドックはおろか、鎮守府自体人が作ったものじゃないんだ』
『えっ、どういうことですか!?』
『もう10年も前になるね。世界中に深海棲艦が現れて少ししてから、1つ目の鎮守府の核になる物体、私達は『鎮守府コア』って呼んでいるンだけど。これが横須賀、今の第1鎮守府があるところに出現したんだ。
そして鎮守府コアはまず建造ドックを近くに生み出した。そしてたまたまその近くにいた人がマッチングしちゃって艦娘になってしまった、というのがことの起こりなんだ』
『それって勝手にどんどんマッチングされちゃうってことですか!?』
『そうだよ。マッチングする艦船の魂が少なかったからか数こそ少なかったけど、そうやって艦娘に『なってしまった』人達が黎明期の艦娘なんだ。
そして鎮守府コアは更に色んな施設を作ったんだ。その1つがこの工廠。装備を作ったり修理したり改造したりする施設だよ。まあこの鎮守府で興行で見せられるのはガワだけ真似たレプリカなんだけどね』
『すっごいファンタジーなお話になってきましたね!……あれ?そしたら今も建造ドックって施設に近づいちゃったら艦娘にマッチングしちゃう可能性があるんですか?』
恐れるような仕草で聞く灯莉。それに安心させるような笑みを浮かべた江風が答える。
『そこは大丈夫。最初はむき出しでマッチングを続けちゃう鎮守府コアや建造ドックを人の手で施設として囲って、勝手に作動しないように封印しているンだ。この状態が鎮守府ってワケさ。
だから今は私みたいな……私は艦娘になって1年なンだけど、艦娘になりたい!って人は鎮守府の人に確認をした上で限定的に建造ドックを解放して、マッチングするようにしているのさ。
今は日本だけでもたくさんの、ここだって127個目だからね。鎮守府があるのは鎮守府コアがそれだけあちらこちらに出現したってことなンだよね』
『そうだったんですね!ところで、逆に艦娘からマッチングを解除することって出来るんですか?』
『それもこの工廠でバッチリ出来るよ!この工程を『解体』、逆にマッチングを『建造』って言うんだ。
『解体』、なんて言うと体をバラバラにされるんじゃないか?って思われたりするけど、艦船の魂とのマッチングを完全に解除して変身能力がなくなるだけだよ』
『それなら安心ですね!あ、色んな艦船とマッチングする人がいるってお話は……』
『そう、この『解体』をしてまた『建造』し直した人のケースになるね。『解体』の特徴として、この主機……私が背負ってるこの大きいやつだね。それや手に持ってる主砲とかの装備の類は残るんだ。
そしてこれは予備の装備として使えたり、各パーツの強化のための素材になったりするんだ。これを私達は『近代化改修』って呼んでいるよ』
『艦娘を辞めるって人も安心ですね!
もしかして、あえて『建造』と『解体』を繰り返してパーツを増やすぞー!って人もいるんですか?』
『良い着眼点だね、ともちゃん。実際にそういう専門の人はたくさんいるよ。もっとも、魂をくっつけて離すってことをしているから負担を考えて3ヶ月は間を置こうね、って決まりがあるンだ。献血みたいなものだね』
『連続は心がぐちゃぐちゃになっちゃいそう……!』
『ちなみにそういう人は通称『バイト艦娘』って呼ばれていて、通っている鎮守府の人もいつものね、ありがとねって感じさ。
私のこの主砲、正式名称は長ったらしいからパスするけど、これもそういう人達が用意してくれたパーツを努力と研究の末に大改造して出来た逸品だよ』
『へぇ〜、そんな努力の結晶なんですね……あれ?小人さん?みたいなのが見えるんですけど……カメラさんにも見えてますか?』
江風の主砲をしげしげと見つめていた灯莉がふと気が付く。カメラも近寄ると、主砲の上にカメラにピースサインをする掌サイズの軍服のようなものを着た小人が写っている。
『この子は……いや、皆〜出て来ていいよ!』
(江風の艤装や工廠のあちこちからたくさんの小人が出てくる)
『わわっ!?江風ちゃん、この子たちはいったい!?』
『私達は『妖精さん』と呼んでいるよ。鎮守府施設や艦娘の艤装、こういった装備にもついて生まれる不思議なヒト達だ。
どういう理由で生まれて、どういう原理で……ってのはまあ分かっていないね。ほんっとうに艦娘関連は謎だらけなのさ。
その上で分かっているのはこの子達は喋ることができて、私達人類に協力してくれることとこの子達の補助があるからこそ艦娘がすごい動きができる大事なパートナーってことだね』
『『よろしくお願いします!!』』
『わぁ、よろしくお願いします!』
『ちょっとぉ江風さぁん?この私の装備を長ったらしいはないんじゃないの?スネて次から手伝ってあげないよ〜?』
『悪いけど正式名称言っても一般の人には通じないからな!?』
『そんなことはないよ!私の担当している装備は12.7cm連装砲B型改四と言うんだ!分かりやすいでしょう?』
早口でまくし立てる妖精さん。案の定、灯莉はポカンとしていた。
『B……えっと?』
『そんなー!?』
『だから言ったろ。私みたいな駆逐艦タイプの基本装備の1つが12.7cm連装砲って言うんだけど、まあバリエーションが多くてね。その中のスーパースペックな改造品の1種類、ってとこだよ。なんか豪華な装備、って認識でいいよ』
『へぇ……そんなに多いと間違えたりしませんか?』
『私は専用の塗装もして分かりやすくしているけど、緊急事態だ出撃〜!って時に取り違えていた!って話はちょこちょこ聞くね。そうなった時は妖精さんにもプライドがあるから、なだめるのが大変なんだ』
『浅田くんのクッキー3つで許すよ!』
『はいはい』
『クッキー?この子達もご飯を食べるんですか?』
『必須じゃない嗜好品って感じかな。127には妖精さんウケのいいお菓子を作れる人がいるから、色々とお願いしても受け入れてもらえているんだよね』
『こら改四!ずるいぞお前ー!今日はオレ達の日だぞー!』
『そうだそうだー!お前は昨日好みの作ってもらったばっかりだろー!』
やんややんやと妖精さん達が言い争っている。
『お前ら全員落ち着けー!客人の前だぞ!浅田の兄さんの言ったこと忘れてないか?復唱!』
『『皆を困らせる子にはクッキーお預け!ごめんなさい!』』
『よろしい。……こんな自由なヒト達だよ』
『あはは、そんなにその浅田さんって方のクッキーが好きなんですね?』
『そうだね。嗜好品ってやっぱり個人で好みが出るでしょ?その上で妖精さん達皆の好みを把握して調整できるすごい人だから妖精さん達も骨抜きになってるンだ』
『私も行きつけのケーキ屋さんがあるので気持ちは分かります!他のケーキ屋さんも美味しいですけど、やっぱり格別なんですよね!』
『艦娘や憲兵さんのような人間スタッフも同じことが言えるからね。食堂を切り盛りしてくれる人が美味しい料理を作ってくれるかどうかでかなりやる気に差が出るね。さて、次に行こうか』
『妖精さん達ありがとうございました!』
そうして工廠施設を後にし、別の施設の前に場面が切り替わる。看板には『入渠ドック』と書かれている。
『ってわけでお次はここ、入渠ドック!簡単に言えば艦娘の負傷はここで治療するよ』
『つまり艦娘さんの病院ってことですか?』
『見たほうが早いかな。中に入ってみて。工廠と同じくレプリカだけど内装は同じなンだ』
『はーい!……あれ、銭湯の脱衣室みたいなお部屋に出ましたよ?』
『ここが着替えのための部屋。そしてこの先が入渠ドックの中身だよ』
『……お風呂!?』
『そ。湯治って温泉に長期滞在して治療する方法があるでしょ?それみたいなモノと思ってもらえば伝わりやすいかな』
『湯治ですか』
『正確には人の湯治と艦船の修理場である入渠ドックって施設を合わせたようなもの、と考えられているよ。例に洩れずにそう設計した人誰だよ、って話だけどね』
そう言いながら江風は浴槽に張られた緑がかった液体を手に掬う。
『この液体は『修復材』っていってね。どういうわけかこれに浸かってると艦娘としての傷が治っていくんだ。骨折とか欠損も含めてね。
冷たいままで浴びるのは嫌だから、それこそ温泉みたいに沸かして浸かるよ。軽いダメージならすぐ治るんだけど、重傷の場合は長湯しなくちゃいけないンだよね。
日々のメンテナンスを兼ねて艦娘用の浴場として機能させているから、シャワーとかシャンプーとかも実際は取り付けているよ』
『艦娘用、ってことは他の人には効かないんですか?』
『残念ながら効かないね。効いたらしっかり医療に反映させて医療界がひっくり返ったンだろうけどね』
『それもそうですね……にしてもとろ〜りとしてますけど、成分どうなっているんですか?』
『たくさんの学者が研究したけど結論としてはよく分からない、としか言えないね。だから艦娘も最初は得体の知れない液体に浸かりたくないって思うけど、まあヒトって慣れるよね。もう抵抗はなくなったよ』
『へぇ……普通の人には害もない感じですか?触ってもよかったり?』
『いいよ。艦娘同様に浸かっても特に健康被害は聞いていないね。だから艦娘と共有で他のスタッフも入渠ドックを共有浴場にしている鎮守府もあるよ。
まあ飲まないほうがいいとは思うけどね。艦娘も飲んで治療はしないし、入浴剤の入ったお湯を人も飲まないでしょ?』
『確かに、飲まないですね。ほんのりとろりとした独特な温泉の水みたいですね……』
感触を確かめている灯莉の前に江風はバケツを1つ用意した。中には修復材を煮詰めたような色をした液体が入っている。
『それでこの成分を濃縮して、一気に治療を完了させる乱暴な手段がこれ。名称を『高速修復材』って言うんだ。
こんなバケツに入れて運んで頭からぶっかけて使うから、私達は『バケツ』って呼んでいるね。バケツを使え、と言ったらコレでさっさと傷を治せって意味になるよ』
『うわぁ、もっとすごい色になってますね……ちょっと臭いもキツイですし』
『だから出来る限り使いたくないなぁ、って艦娘もいれば嫌なのはすぐ終わるから、って躊躇わない艦娘もいるね』
『江風ちゃんは?』
『……被り慣れちゃったよ』
『あはは……』
慣れたくなかったという表情を浮かべる江風。
『例えば武器だけ壊れちゃった!って時は工廠で治すんですか?装備したまま一緒に浸かって直しちゃったりするんですか?』
『ケース・バイ・ケースかなぁ。武器じゃない艤装、つまり私の一部と言っていい部位なんかは入渠してるとなんか直るンだよね。武器は一体になってるとそれでもいいし、工廠で直してもいい。
まあ、メンテナンスや微調整も含めたら最終的には工廠に壊れなくても持っていくけどね』
『命を預ける大事な物ですもんね!』
『そういうこと。この辺がどうなってるかの原理もよく分かっていないし、妖精さん達もなんで直せるとかもよく分かっていないんだ』
『妖精さん達も分からないんですか?』
『うん。なんとなく装備や施設をやりくりするために自分が生まれたこと、どうすれば出来るかは分かるけど、どういう原理で自分達が生まれたのかも妖精さん達自身よく分かっていないんだ』
『すごいフィーリングでやってる感じなんですね……』
『深海棲艦に対する代替手段で有効なものがない現状、味方として使えるらしい鎮守府や妖精さんの力を借りて上手く回すほうがいい。これが大本営以下艦娘組織の現状認識だよ』
『他に手段がないならしょうがないですもんね』
その後もあちこちの主要施設の解説を足を運びながら行い、番組はエンディングを迎えた。
画面下部には感想や意見を送るための太陽テレビのサイトが表示されている。
『お〜っと、もうこんな時間です!今回は鎮守府について江風ちゃんにざっくり深ぁく教えてもらいました!江風ちゃん、ありがとうございました!』
『こちらこそたくさん聞いてくれてありがとな!視聴者の皆も鎮守府について興味を持ってくれたら嬉しい限りだよ!』
『途中からしか見れなかったよ〜!って人も、エスカの太陽テレビサイトからアーカイブ配信をしているから、ぜひぜひ!見てくださいね〜!それではぁ!』
『『ばいばーい!』』
1月末 16:00 第127鎮守府
「はいカット〜!撮影は以上です!」
「太陽テレビさんもともちゃんも江風もお疲れ様!江風、中々サマになってたじゃない?」
「後は編集して、それも放送前に見せるから安心してね」
撮影が終わり、秋雲の姐さんと太陽テレビ局長の木暮さんが話しかけてきた。どうやら及第点だったようだ。
「江風ちゃんお疲れ様!」
「ともちゃんもお疲れ様。一般公開とはまた違った神経使うから疲れるね」
「うんうん!私もアイドル活動とは違う感じだから疲れちゃった」
『響だよ。食堂に用意させているから、休憩するといいよ』
「響の姐さん手際がいいよねホント」
「えっと、いいんですか木暮局長」
「今後の展望についても話し合いたいから席を設けてもらったんだよ」
「今回だけでもだいぶぶっちゃけたからねぇ?」
そう言われつつ食堂へ移動する。鎮守府の正体が謎物質でした、などの情報は一般の人々に不信感を与えるということで機密も機密だったのだ。
それでもなおテレビ放送を許す判断を大本営に通したのは横須賀の沖田元帥だった。怪異事情が大きくなりつつある今、先に公開しておいたほうが後々安全との判断だそうだ。
第127鎮守府 食堂
「あーっ!」
「耳元で騒がないでくれない!?」
食堂に入った途端に私の主砲の妖精さんが叫ぶ。その視線の先では工廠レプリカにいた鎮守府の妖精さん達がクッキーと彼女らサイズの小型の紅茶カップを堪能していた。
「改四じゃないか。今日はオレ達の日だからな!」
「やっぱ一仕事の後の浅田クッキーは最高だぁ〜」
「ぐぬぬぬぬ」
「まったくもう……」
「そこまでベタ褒めされていると気になっちゃいますね」
「あぁ、江風さんに……本物の相馬さんだ……!」
「おや、ともちゃんのファンなのかい?」
「あ、はい。あはは……」
話の当人こと浅田の兄さんとタの姐さんが食堂奥から出てきた。彼が手に持っているのは追加のクッキーだろうか。
「撮影お疲れ様でした。皆さん用に焼くようにと響さんから依頼されていたんです」
「私は隣で見て勉強していたんだけれど……手際の良さに見惚れてしまったよ」
(ガタガタと立ち上がる音)
「待って欲しい、そういう意味ではないから」
(スンと座る音)
「相変わらずのカルト級の入れ込まれ具合だなァ」
浅田の兄さんに彼女でもできたら大騒動になるのではないだろうか。雷の姐さんの母性攻めで鎮圧できるだろうか。そんな益体もないことを考えてしまう。
「紅茶はアールグレイ、クッキーはそれに合わせた物を用意しましたが、好みは大丈夫ですか?」
「大丈夫です!頂きます!」
「私ももらうね。ン、やっぱり美味いね」
「っ!これは……美味しいです!わあ、紅茶もすごいマッチしてて……幸せ……」
目を光らせるようなリアクションをしたと思ったらくたっと脱力するように美味しさを噛みしめるともちゃん。食レポもやれるのではないだろうか?
「ともちゃんに食レポ振るのを前向きに考えておこう」
「あそこまでリアクション取る子もそうそういないよねぇ」
秋雲の姐さん達も同じ印象のようだ。
「さて、ちゃちゃっと今後について話しておこうか。話題になってないだけで127に深海棲艦がいる、ってことは知られてはいるんだよね」
「そういえばタさんって深海棲艦でしたっけ。すごい自然で忘れてました……」
「格好も深海棲艦特有の意味わかんない際どいのから替えてるからねェ」
「服飾の与える印象は大きいからなぁ」
「で、よ。今回の機密しれっと暴露放送であそこには深海棲艦がいただろう、って反応が太陽テレビさんに飛ぶのは想定通りなワケよ」
「次回は深海棲艦の概要と友好的な存在がいること、それらに対するスタンスで一本撮る予定だ。あれこれ言われたら『多くの反響を頂きました。次回放送をお楽しみにしていてください』で通すよ」
「随分と無法なことしますね!?」
「太陽テレビさんにはいくとこまで付き合ってもらうからね!」
「ハハハ、先に一足抜けたはナシですからね?」
後に引けないようなことになるため、2人の表情の圧がすごい。
「次回もしっかり伝えられるように頑張ります!江風ちゃんもよろしくお願いします!」
「ともちゃんだけに頑張らせるわけにもいかないからね。トコトン付き合うさ」
幾度目か分からない、太陽のような笑みだなという印象と支えきろうという決意が湧いてくる。
「その上で。太陽テレビさんにはあえて関わらないで、他所のマスコミが首を突っ込んでもこちらが許可を出すまで無視して欲しい案件があるのよ。比喩表現なしに、死人が出るからね」
「それは穏やかじゃないな」
「江風、『終の海』で共有した話をしてあげな」
「了解。……気分悪くなったら言ってくださいね、中断しますから」
(ごくりとつばを飲む)
これは、純粋にヒトという存在にとっての天敵とでも言うべき話である。