2027年5月中旬10:00 第127鎮守府演習海域
この数週間、かなりの頻度で出撃したり一般公開を続けたりと大忙しだった。
「ねぇ、霞ちゃんと昨日お話してて気づいたんだけど」
「なんですか?瑞鳳ちゃん」
「私達の出撃頻度、というか回数多すぎるのよ!」
「そんな気はしていました」
「実戦多めに組んでるらしい海風ちゃんの出撃回数をも超えたみたいなのです」
「他の鎮守府何やってンの……?それともマジで海って深海棲艦で溢れかえってンの?」
他所の鎮守府と比べ、出撃回数――というか新人を出撃させる回数や頻度――が高すぎることが分かってきた。
「皆さん、揃っていますね。まずはその疑問から解消しましょう」
「あれ、福山提督」
今日の演習はハードだぞ、と天龍さんに言われていたが誰が来るとは言われていなかった。福山提督が出てくるのは初めてだ。
「鎮守府単位の出撃回数は、深海棲艦の襲撃頻度の増加もありますが、それ以上に嫌がらせですね」
「嫌がらせされてるんですか!?」
「嫌がらせです。響さんが集めた証言は、『敗残兵どもがあの横須賀の庇護なんて状態で変なことやってるから』などといった不信と言いますかなんでしょうね。出る杭は打ちたいのでしょうか。理解に苦しみますが」
「えぇ……」
そもそもの印象が悪いらしく、圧をかけて馬脚を露すのを待って何かアプローチしてやろう、といったところらしい。
「こちらとしては、まあ別に構わないのですが。貴方達が多く経験を積めますから。……ほとんど戦術もとれないカテゴリDの雑魚でなければ、なんですがね」
「そこなのですか……」
「戦艦級も相手したけれど、正直拍子抜けだったものね」
雑魚ばかり相手するので経験にならないのが不満らしい。容赦のない先輩たちのがよっぽど強いしさもありなん。それで今日と、昨日の……あぁ。
「だから『ヤバイパターン』を学習しろ、ってことなンですね。昨日と、今日も?」
「はい、昨日の訓練で必殺級の恐ろしさと大破ストッパーシステムの重要性及び欠点は理解していただけたかと思います」
「やばいやつとは無駄に戦わないのが正解、って天龍さんの言葉が身に染みたのです……」
「ほ、砲撃姿勢などはすごい参考になりました!」
「空母としても護衛が居なくなるって恐怖はすごい参考になったけどさぁ」
「護衛のない空母は無力でしたね……」
話は昨日の訓練に遡る。
「今日の訓練は私、金剛が行いマス。内容は単純。直撃の恐ろしさと、大破ストッパーについてその身で学んでもらうことデス」
「え、それって潰すってことでは」
「そう言っていマス」
淡々と恐ろしいことを言う。確かに本番で体験するには危険すぎるかもしれないが。
「いつもの陣形で展開。私の攻撃を避けて、そうデスネ。攻撃してみてくだサイ」
「反撃ありなのです!?」
「その方が訓練になりマス」
回避に専念する訓練かと思ったら反撃の許可が出た。戦艦の距離に対抗するにはまずは近づくところからとはいえ、回避だけするんじゃないのか。
大きく距離をとり、訓練が開始された。
「遠慮なく狙うのです。右回りで接近しつつ、攻撃隊の発艦をお願いするのです」
「「了解」」
戦艦の砲撃距離よりも航空攻撃の距離の方が長いので、先制攻撃を仕掛けつつ接近する作戦だ。直進は危ないので迂回しつつ。
「瑞鳳航空隊エンゲージ、攻撃開始……あれ?」
「加賀航空隊。こちらも攻撃が全部交わされました」
「なんであれで避けれるの!?」
「回避というよりステップ踏んでるだけで全部交わされました」
「嘘だろオイ」
「きょ、距離は稼げたのです。航空隊の交代と羽黒ちゃんは攻撃準備を」
意味の分からないレベルでの回避――空母二隻分の集中砲火を迎撃なしでいなした――に驚きつつ、砲撃戦の準備を行う。
「羽黒、攻撃準備に……きゃあ!?」
「がっ!?」
「うぇっ!?」
前列の私達と中列の羽黒の丁度真ん中に戦艦の砲撃が刺さる。その衝撃で前列の私達2人は宙を舞った。
「不味いわね。陣形が崩れたわ」
「羽黒ちゃん、撃てる?」
「ごめんなさい、頭がクラついて照準が……」
「ッ、やべ、電――」
「いたた……え」
悪寒が走り、電に声を飛ばすが遅かった。電の頭に砲撃が直撃し、再び宙を舞い、堕ちる。電は意識を失っていた。
「これが夾叉と直撃デス。大破ストッパーがあるから一撃で轟沈はしまセンが、頭を直撃すれば意識を失うことは珍しくもありまセン。次」
「やっばっ!?」
次の標的は私だと直感が告げる。金剛さんはほとんど姿勢を変えることなく、というか砲門1つしか向けていない――さっきからの2射もそういうことのようだ――辺り、もうわけがわからない。
「やば、さっきの衝撃から脱げ出せねぇ、足が波にとられっ」
そこで頭への強い痛みと共に私の意識は途切れた。ふらつきながら移動した先に吸い込まれるように砲弾が刺さっていた、と後ろから見ていた羽黒は言っていた。
「ぐ、あ、あァ?いったたたた……」
意識が回復し、痛みをこらえつつ周囲を見渡す。全員大破――服がダメージを請け負い傷は負いにくいように艤装服は出来ているのでぼろぼろの衣服で――して気絶していた。
「おい、起きろお前ら」
「んう?」
「重巡の距離まで近づけませんでした……いっだぁ……」
「頭撃たれたと思うんだけど格納庫がボロボロになってりゅ……」
「はあ、護衛なしの空母っていい的だったわ。皆、体には傷はないようね。これが大破ストッパー、かしら」
「その通りデス。ちなみに5分は皆さん寝てマシタ」
皆を起こして回っていると金剛さんが声をかけてきた。そんなに寝ていたのか。
「これが実戦であれば、艤装服による大破ストッパーの効果も切れて、トドメを刺されて今頃皆さん海の藻屑デス」
「「……」」
「アレ、金剛さん、大破って模擬弾でも起こるンですか!?」
実戦だと思うと背筋が凍るが、それはそれとして演習弾は実ダメージはほとんど入らず、かつ被弾状況はわかる特殊弾を使っていたはずだが。こちらの装備はそういう弾だ。
「私は実弾デシタ」
「「……」」
実弾だった。そのまま轟沈したら……そう思った私達が震える。いや、その時はすぐに救助できるんだろうけど、この人なら。
「今回の恐怖、知識を元に改めてどう動くべきか、よく考えることが今日の残りの課題デス。参考資料になる先達の残した戦闘詳報があるので、よく読み込むようにしてクダサイ」
そんな調子で瞬殺されて昨日の演習は終わったのだった。戦闘詳報からは、どこで加速・減速すべきかや波を遮蔽物として利用した機動戦闘のコツなど、為になる情報の多いものだった。
「昨日の金剛さんの演習で身が引き締まったようで何よりです。雑魚相手に変に増長したらそれこそ次に訪れるのは死ですからね。さて、それを踏まえ今日の訓練ですが」
昨日のを踏まえるといったか。
「姫級、あるいは『特別海域』と呼ばれるような場所に特に見られるような、強敵との立ち回りについて考えて頂きます。端的に言えば、私をソレだと思ってみてください」
そう言って身長よりやや大きな剣を取り出す。いやアレ本当に剣か?紫色のエネルギー刃で剣と言えばそうだけど。
「あれ、コートエッジじゃないです?」
「電にもそう見えるのね?色は違うけど」
「いやソレってPSO2じゃん。ゲームの武器じゃん」
「この圧の中でゲームの話してる余裕あるの3人とも!?」
「うぅ、なんかもうよくわからなくなってきました……」
エーテル情報社会で必須のエスカ端末標準搭載のオンラインゲーム、PSO2。その作中で見る身長よりも大きな大剣カテゴリ、――現実の大剣は身長より大きくないのだが――その中の一つの色違いのような剣だった。本来は水色のはず。
「まず、私は飛び出してきたら威嚇します。大体姫級は名乗りや煽り、威嚇を最初にしますので……その隙に殴り掛かるなど自由にやってみてください。……1分は生き残って頂けるといいのですけれど」
言うなり大きく距離をとる福山提督。そして、意味が分からないレベルの跳躍で駆逐の戦闘距離まで飛んできた。えっとこれは――
「PSO2でよく見るヤツです!出た瞬間が総攻撃のチャンス!斉射なのです!」
「非現実的とか言ってられないわね!もう自棄よ!瑞鳳航空隊、発艦!」
「ちゃ、ちゃんと腰を入れて……羽黒、撃ちます!」
「加賀航空隊、発艦。皆足を止めては駄目よ」
「クソッ、斉射ァ!」
人が――艦娘でも多分深海棲艦でもやれない――意味不明の挙動に混乱しつつも攻撃をかける、が。
「ッ、ォォオオオオオ!!」
「ひっ」
「圧に慣れてなきゃ気絶してたぞ……」
攻撃をものともせずに圧を振りまき吠える福山提督。今回こっちは実弾持ってくるように言われたし、実弾を叩き込んでいるのだが……
「フンッ、ハッ」
「電ちゃんたちの攻撃が効いてない上に私の砲撃が斬り落とされましたよ!?」
「瑞鳳の攻撃隊が衝撃波で撃墜されたんですけど!?」
「いやもう、意味わかんねェ……」
「ソ、ソニックアロウなのです……」
攻撃が効かないどころかなんか剣で羽黒の砲撃を叩き落され、衝撃波――PSO2で見たことのあるような動き――で瑞鳳の艦載機隊がまとめて叩き落されてしまった。
「密集しすぎると墜とし易い。攻撃は迎撃のチャンスでもあることを頭に入れることです。では」
「せめて対空砲火で墜としてから言って欲しいのだけれど……!?」
生き残った航空隊を指揮する加賀に海面を蹴り飛ばした福山提督が接近する。加賀も回避行動を取るが……
「遅く、近い。反撃については常々用心することです」
「ぐっ、あがっ!?」
剣で海面を叩き、その衝撃で加賀の体勢を崩し、蹴りを入れて吹き飛ばす。それを追いかけるように魚雷が発射される。
「加賀ちゃん!?」
「暢気に見ている余裕はないですよ」
「ひえ!?」
ステップ一つで電の真横に到達、至近距離から砲撃を放つ。駆逐艦の主砲でも頭に直撃すればどうなるかと言えば。
「電ちゃんがやられた!加賀ちゃんも!」
「あ、当たってください!」
「ばか、お前ら落ち着け!」
一気に意識を削り取られる電、蹴り飛ばされた先で魚雷の追撃にあたりそのまま大破判定になった加賀。そちらに気を取られる瑞鳳にパニックになりながら砲撃を始める羽黒。完全に流れが駄目だ。
「お前ら一回距離を取れ!私が引き付ける!」
「体勢を整えつつ前衛で抑え後衛で狙う。判断は良いですね」
羽黒の攻撃を叩き落しつつ、私の攻撃を全く意に介さず言う。攻撃が効かないのだ、とにかく意識を引き付けることしか出来ない。
「ですが、江風さん。貴方も混乱していることを自覚すべきでしょう。いい的です」
「うわっ」
「避けますか。では、速度を上げて」
「は!?」
剣を捌く速度が上がる。直感で避けるのも限界があり、体勢を崩す。
「よく頑張りました。終わりです」
無慈悲な声と共に、福山提督の主砲が私を撃ちぬいた。撃ち抜かれる寸前、羽黒と瑞鳳の攻撃が殺到するのが見えたから役割は果たせたのかもしれない。そう思いつつ、意識を手放した。
12:00 鎮守府食堂
「皆さん、食事が冷めますよ」
「や、福山提督?アレからずっと全滅しては気が付いてからまた全滅しての繰り返ししてて、食ってるメンタルの余裕ないンですけど……?」
あの後の攻撃はちゃんと当てられたらしく、褒められた。気絶はさせられたが福山提督の装備は模擬弾だったらしく、意識を取り戻し次第繰り返し訓練を行っていた。全身が痛い気がするし凄まじく疲労がたまっている気がする。
「コンディションが悪い、それでも食べる時には食べなければ回復が望めません。これも訓練の一つと思ってください」
「あの、福山司令官さんは食べないのですか?」
「私はまだ必要ないので」
「?」
そういえば、福山提督が食事をしている姿を見たことがない。アレだけ暴れられる上で小食か何かなのだろうか。
「午後は天龍さんの訓練になりますので、英気を養っておいてください。私は執務に戻りますので」
「結局食べずに戻って行っちゃった」
「……とりあえず、頑張って食べましょうなのです」
「卵焼きが食べたいなぁ」
「瑞鳳が現実逃避始めたわ」
「瑞鳳ちゃん、作る方じゃないんですか?」
「素体の私が料理壊滅的だから無理じゃないかなぁ……」
「案外いけるようになるンじゃね?知らんけど」
「もっと余裕があるときにやってみようかなぁ」
その余裕ができたのは結局数日後になってしまったが、瑞鳳は見事卵焼きを完成させていた。スクランブルエッグとかではなくしっかり卵焼きだった。作った本人が一番驚いていた。艦娘の変身の影響はすごい。
大破ストッパーはゲーム通り、大破にならない限りワンパン即死は回避できるというモノです。意識がもっていかれないとは言っていないので保険でしかないです。